ヒナが完全に固まってしまっているので私が収拾をつけにいく事にした。
「あー……先生。初めて会った時に言った通り、君がどんな性癖を持っていようと私は君の友人でいるつもりだ。しかし、ここはゲヘナの校門であり公共の場だ。そういった事はしかるべき場所で行ってもらえないだろうか?」
娼婦じゃあるまいし。と心の中で付け加える。
「――?…………!
足指を咥えながら喋らないでほしい。
**********
どうやら小鳥遊ホシノが黒服の元へ向かったらしい。
ホシノは以前から黒服から取引を持ち掛けられており黒服にホシノの人権を全て移譲する代わりにアビドスの借金を肩代わりするという内容で度々コンタクトを取られていたらしい。黒服を知っていたのはそういう理由だったわけか。そりゃ名前を聞くだけで強張りもする。
そして先生は黒服の元へ赴き彼と話をしたそうだ。そこで黒服に一杯食わせ、ホシノのいる場所を吐かせたのはいいがゲマトリアはともかくカイザーという組織とも敵対しているようで、彼らと戦う戦力が欲しいとの事でこちらに協力を願いに来たのだそう。
「君にもモモトークを送っていたんだけど時間があまり無くてね。返事を待たないままこちらへ来たんだ」
なるほどと思い確認してみると確かに連絡が来ていた。その頃私はノースティリスに居たので気付けなかった。
「本当だ……すまなかったな先生。つい先ほどまで私はノースティリスに戻っていてね。気付けなかった」
そして何故このような所で足を舐めるかに至ったのかも聴取したところ、どうやらイオリにヒナに取り次いで欲しくば足でも舐めろと言われ、一も二もなく言われた通りにしたらしい。イオリさぁ……。
「イオリ……。そういう趣味を否定はしないが先生にも言った通り時と場所を選べ。君は風紀委員だというのに風紀を乱してどうするんだ」
「ち、ちがっ!まさか本当にやるとは思わなかったんだよ!」
それはそう。イオリの誤算は先生のプライドの無さだろうしな。少なくとも私にはできない。
「私個人としては手伝ってやりたいし、そのつもりでもあるが、風紀委員会に関してはちと分からんな。――ヒナ!そろそろ戻っておいで」
私がヒナに呼びかけるとようやく正気を取り戻しこちらにおずおずと近付いてきた。顔はまだ少し赤いが問題はなさそうだ。そしてヒナにも同じ説明をして判断を待つ。
「彼が手伝う気みたいだしこちらも構わないわ。それに先生とアビドスには先の一件で借りもあるしね。早めに返せるなら願ったりよ」
「それに、生徒の為に迷わず頭を下げて……その、屈辱的な事であっても迷わずやれる大人の人は見た事なかったから、協力してあげたい」
最後の一言にイオリと先生は気まずそうに顔を背ける。先生にとってあれが屈辱的な事かどうかは議論の余地があるがとりあえずこちらの意向は固まった。
「ありがとうヒナ。ホシノはカイザーPMCの第51地区の中央にいるみたいでね。私とアビドスの生徒がそこへ突入するからヒナ達は北方からカイザーへ圧力を掛けて敵を引き付けて欲しいんだ」
「分かったわ。イオリ、チナツとアコを呼んで。貴女達が書いてる反省文は今回の手伝いで終了とするわ」
「わ、分かった!」
そうしてイオリはチナツとアコを呼びにゲヘナ学園に戻っていった。
「――ふむ、ヒナ。私とヒナが同じところに居ては恐らく戦力が過剰だと思う。私は念の為先生の護衛という形で付いて行って構わないだろうか。黒服は私との敵対をとにかく避けたがっていたから私が行けばとりあえずホシノが何かされることは無いと思う」
「……分かったわ。無用な心配だとは思うけれど、気を付けてね?」
「無論だ。ヒナの方も気を付けてな。――という訳で先生。勝手に決めてしまったが私が君について行ってもいいか?」
これは打算でもある。ホシノは私を警戒していたから、今回の救出に直接関わっていた事を知らしめて少しでも警戒心を下げておきたいという下心だ。
「うん、構わないよ。ホシノがいなくなる前日に黒服との事情を聴いていたんだけど、その時に君の事を疑っている事も吐露していてね。手伝ってくれたら少しは晴れるかもしれない」
なるほど。しかしこうなるとなぜ先生は私の事をここまで信じてくれているのか不思議になるな。先生の立場からしても私はかなり怪しい存在だと思うが。
「君はゲヘナの生徒に慕われているみたいだからね。アル達から聞いたよ?魔法を教えてもらったんだーってね」
その話を知っているなら恐らく私が戦闘顧問になった事も知っているだろう。それをここで言わないのはアルに口止めした事も聞いているからだろう。ヒナが側にいるし。
「――でも、あまり危険な事はさせないでね?」
そりゃ戦闘顧問になった事を知っているなら経緯も知ってるか……。細心の注意を払うとしよう。
先生はすぐにアビドスに戻るとの事なので私も付いていく。ヒナ達も準備が出来次第現地へ向かうそうだ。
「せんせーい!こっちは準備完了しましたよー!」
アビドス高校までたどり着くと既にアビドスの生徒達が準備を終えて待機していた。
「あれ、貴方はこの前に会った人……ですよね?もしかしてゲヘナからの助っ人ですか?」
亜麻色の髪の生徒が私に反応を示す。そういえばアビドスの生徒とまた関わるとは思ってなかったので名前すら聞いていなかったな。
「そうだ。前回は出会い方が特殊すぎて自己紹介をし忘れていたな。私はゲヘナで風紀委員会の外部協力者として世話になっている。これからよろしく頼む」
「十六夜ノノミです☆よろしくお願いしますね!」
「砂狼シロコ」
「黒見セリカよ。今日はありがと」
「奥空アヤネです。よろしくお願いします」
「みんな自己紹介は済んだようだね。それじゃあ早速行こうか。ホシノを助けに!」
先生の号令に元気よく返事をしてカイザーとやらの拠点へ向かう。しばらくすると全面砂に埋もれた地域へと入る。
「これが砂漠か……。見るのは初めてだな」
少なくともノースティリスには砂漠は存在していないので新しい風景に心が揺さぶられる。
「そうなの?君の世界は砂漠自体はあるの?」
「あぁ、存在はしているらしい。かくいう私の種族であるエウダーナの集まる国が砂漠にあるという話だったはずだ。まぁ私はとある命の恩人に拾われる以前の記憶は失われてしまっているから情報でしか分からないんだがな」
だから私がエウダーナであっても自分の国の事などは一切知らない。興味はあるから一度行ってみたいとは思っている。
「記憶喪失って事?なんというか大変だね」
「ん、私も同じ」
「え、シロコ先輩記憶喪失だったの!?」
シロコも私と同じ記憶喪失のようだ。セリカは知らなかったようで驚いている。なんだか彼女とはシンパシーを感じるな。ノースティリスで見慣れた耳もしているし。
「でも、今が楽しいから気にしてない」
「ふっ、そうだな。確かにその通りだ。私も気にしたことがない」
そういう意味では私達は恵まれていると言える。記憶を失った不安を抱える事無く生きる事が出来ているのだから。そうして軽く雑談を交わしているとカイザーの拠点と思しき建築物が見えてきた。
「あれがカイザーの軍事基地か?隊列を組んで待ち構えているな。どれも機械の兵器ばかりだが、人はいないのか?」
「うん。基本はいないはずだよ」
へー、そうなのか。……へー。
じゃあ別に何してもいいって事にならないか?なるよな?
「そうか。安心した。数もそこそこいるようだし、暇つぶしになると良いが」
「そうだね。――――暇つぶし?」
**********
ホシノの救出に来たアビドス生と先生は呆気に取られていた。
彼らが前回カイザーと戦った時には厄介と感じていた兵器が今ゴミの様に山になっているのだから。
一人が向かえば氷で出来た矢を打たれ彫像に早変わりし、複数で来たら光線魔法で敵を貫き、囲まれたかと思えば範囲魔法で一掃される。ようやく接近出来たかと思えば彼の魔力の剣によって鉄の塊である兵器をなんの冗談かと思うくらいに容易く一刀両断される。
もはやカイザーもアビドスに構う余裕はなく、完全に彼らを無視して一人暴れ回る男の元へ戦力が集う。
先生の助力を乞われた勢力は風紀委員会だけではない。トリニティから助けに来た阿慈谷ヒフミはナギサから受け取った牽引式榴弾砲を手にカイザーの元へ向かっていたのだがどう考えても自分の出る幕がない。
「えーっと、これどうしましょう……」
あまりに自分の常識から外れた光景を見させられ、考えるのをやめたヒフミはとりあえず今の自分と同じ気持ちであろうアビドスの友達に挨拶に向かう事にした。
そして便利屋68もまたアビドスの助力に来ていた。が――
「いや、すごいねあの人。強いんだろうなとは漠然と思ってたけど……」
「くふふっ。アルちゃんも凄い釘付けだね?」
最初もアルは折角助けに来たのに出番が無さそうな事にしょんぼりしていたが、次第に一人でばったばったと敵をなぎ倒す姿を見てアウトローの血が騒いだのか目をキラキラさせて見ている。
「どうする?どう見ても私達いらないよ?」
「そ、そうね。一応アビドスと戦闘顧問たるあの人に挨拶だけいきましょうか」
「はーい!」
「か、かしこまりました」
そして基地で暴れている男を擁する組織、風紀委員会は想像したよりこちらに向かってくる敵の少なさに首を傾げていた。
「これ、私達必要だったか?」
「こちらに来たのは一個小隊程度。先生が助力を乞う程とは思えませんね……」
イオリとチナツは敵戦力の少なさに肩透かしをくらうが、ヒナは基地から聞こえる戦闘音を聞き取っていた。
「もしかしたらこっちの事を無視してアビドスに集中してるのかも。まだ向こうでは戦いが続いてるみたい」
そういってヒナ達はカイザーの基地へと入り込むが、そこで見えたのはもはや瓦礫と化した兵器の山と一人で暴れている彼の姿だった。
「……え?これあの人が一人でやったのか?」
「信じられませんが、今も平然と戦っているところを見るにそうなのでしょうね……」
「――」
強いとは思っていた。しかしここまで魔法を使用して戦う姿を見るのはこれが初めてだった。ヒナは改めて自分があの時彼をこちらに招いた判断をして正解だったと、珍しく自分を肯定出来た。
**********
思った以上に数だけだな。攻撃も幾らか貰っているがなんの痛痒も感じない。
そろそろ飽きてきたし終わらせたいと思っていた所に、初めて喋る人型の機械が現れた。
「な、なんだこれは……。なんだこの状況は!?私の……私の計画が滅茶苦茶じゃないか!くそっ!――お前か!お前のせいで私の――」
「うるさい。屑鉄風情が話しかけるな」
機械とはいえ喋るし二足歩行だから殺したらまずいかもしれないと思い木刀を装備して無造作に横から叩き付ける。そのまま吹き飛んで壁に激突したあと、ピクリとも動かなくなった。死んではいないはずだから、良し!
しかし気になるのはあの喋る機械が来た方向から見える一際大きな二足歩行の機械だ。動いてるようには見えないし、これを倒した記憶も無いのだが、動かないのだろうか。ビッグダディ程度の大きさはあるからもしかしたら少しは相手になるかと思ったんだが、いつまで経っても動きだす様子が全く見られない。仕方ないから破壊しておこう。ちょっと残念だ。
そうしている間にこちらに向かってくる敵がいなくなった。おおよそ排除したと思っていいだろう。
「えっと、お疲れ、様?」
「あぁ、先生か。そっちはどうだ?ホシノの救出は終わったか?」
「え?あぁいや、ちょっと驚きすぎて固まってたというか、これから、かな?」
妙に歯切れが悪いが、そういえば私がまともに戦う姿を見るのは初めてだったか。久しぶりに魔法を遠慮なく使えたおかげで私は大変満足しているのだが、彼らには刺激が強かったかもしれない。
「ん、とんでもない肩透かし感」
「ですねー。まぁ楽が出来たと思いましょう☆」
「いや楽が出来たなんてもんじゃないわよ!なによあれ!先生が言ってた魔法って本物だったの!?」
「あはは……ゲヘナにはとんでもない人がいるんですねぇ……」
なんだか知らない子がいる。紙袋を被ってるが、変わった頭装備だな。
よく見ると便利屋もこちらに来ている。
「便利屋のみんなも来ていたんだな。先生への助力か?感謝する」
「まぁ、感謝されても私達なにもしてないけどね」
「えぇ!貴方が全部片づけてたわ!さすが私達の顧問ね!」
「す、すごかったです……私もあれくらい戦えればアル様のお役に……」
なるほど、特に何も考えず戦っていたが、文字通り全員と相手していたのか。
「さて、ここで話し込むわけにはいくまい。ホシノが待っている。みんなは行ってあげるといい。私はここでもう少し周辺の警戒をしておく」
「ありがとう。それじゃあここは任せるね」
先生はここに居る生徒を引き連れホシノの居るであろう場所へ向かっていった。入れ替わりにヒナ達がこちらへ向かってきている。
「お疲れ様。初めて貴方が戦うところを見たけど、その、かっこよかったわ」
「委員長趣味悪くない……?あれはどちらかというと化け物とかだよ?」
「まぁまぁ……」
イオリがとんでもなく失礼な事を言ってくれる。特訓の時間を増やしてやろう。
「ヒナか。ありがとう、そっちもお疲れ様。いやー久しぶりに楽しんだよ」
これでもう少し強ければ言う事無しだったが、キヴォトスでそこまでの高望みをしても仕方ないだろう。すくつにでも行けば強敵とはいつでも戦える。
「私達は先に戻ってるね。先生によろしく伝えてちょうだい」
「分かった」
一人になって暫く周辺の警戒にあたっていたのだが、見覚えのある黒ずくめの男がこちらに顔を出してきた。
「お久しぶりです。いやはや、派手にやりましたね」
「久しいな黒服。早速敵対してしまったがそっちは大丈夫か?」
「えぇ、問題ありません。貴方がこちらに来る前に先生に上手くしてやられましてね。どのみち今回は失敗していましたから」
そういえば先生を勧誘するとかどうとか言っていたがそれはどうなったんだろうか。正直結果は分かり切っているが。
「にべもなく断られてしまいました。どうやら大人に対する認識が我々とはどうも違ったようでして。聞いた今でも理解は及んでいません」
大人に対する認識?
まぁそこまで興味のあるものでも無いから別にいいか。
「そういえば私の前に現れて大丈夫だったのか?もし私が先生に黒服を倒してくれ、なんて言われてたらどうするつもりだったんだ」
「――ククッ。背筋が冷えましたよ。少々迂闊すぎましたね……。貴方の力を見て少し舞い上がってしまっていました」
不安だなこいつ……どこかでぽっくりとやられたりしそうだ。
「まぁ今回はカイザーが標的だから大丈夫だ。あぁ、これは警告だが風紀委員会には手を出すなよ。さすがに彼女達がやられたら依頼関係なく手が出そうだ」
「承知しておりますよ。……マダムも気の毒ですね。――と、そうでした。理事を回収してもよろしいですか?今後利用価値があるかは分かりませんが、まだ生きているようなので」
理事?さっき吹き飛ばした喋る機械の事だろうか。
「喋る機械の事なら別に構わない。好きにしてくれ」
「ありがとうございます。では先生が戻るまでに撤収するとします。今会うと貴方に依頼を出されるでしょうから……クックック」
さっき自分で背筋が冷えただの言っておいてすぐにそんな冗談が言えるのは肝が据わってるどころではないな。面白いからすきだけど。
黒服がこの場を離れてすぐに先生達が戻って来た。ホシノも一緒に来ているし目立った外傷もなさそうだ。
「おかえり先生。早速で悪いがここを離れていてくれ。折角だしこの基地を再利用出来ないように派手に吹き飛ばしておく」
「え?あぁ、うん。じゃあ任せるね……」
そうして先生が離れたのを確認してから基地の中心でメテオを放つ。せっかくの機会だ。派手に十発ほど撃っておこう。
メテオを唱えてから辺りを見渡せばほぼほぼ更地と言える状況になった。残った残骸などはあるが今も炎上中なのでいずれ燃え尽きるだろう。は~、さっぱりした!
「ただいま。巻き込まないように気を付けはしたが、平気か?」
「……うん、平気だよ。なんというか……絶対に生徒に向けて撃たないでね?」
なんか先生の目に疑念が混じり始めた気がする。大丈夫かなこれ。まぁ本当に何かするつもりはないから安心してほしい。するにしても同意を得る。便利屋のように。
「う、うへ~……その、正直貴方の事疑ってたんだけど、こんな訳の分からない事が出来るなら裏でこそこそなんてしないよね……。疑ってごめんなさい」
ホシノがそう言って声を掛けてくる。なんだか疑いの晴れ方にいささか異議を唱えたいところだが、ひとまず置いておこう。
「あぁ、気にしていない。君が黒服を知っていたのなら私に対して疑いをかけるのは当然のことだ。全てあいつが悪いという事にしておこう」
「うへ、そうだね。あいつが悪い、うん」
「ねえねえおにーさん。あの隕石をいーっぱい降らせてたやつも魔法なの?」
「そうだ。メテオという魔法でな。威力は高いんだが見てわかると思うがかなり火の手があがるから、あまり使い勝手の良いものではないな」
「その火の手の中から当然のように出てきたのは何だったのよ!なんでこの人燃えてすらないの!?」
セリカが元気いっぱいに聞いてくる。
「それは私が熱に対する耐性があるからだな。私に炎は通じないんだ」
「意味が分からない……!!!」
「ん、ヘイローの無い人でもこんな強い人がいる。勉強になった」
「いや、彼は例外と言うか私もここまでとは思わなかったというか」
確かに私は例外だ。あまり参考にしない方が良い。
「さて、目的は済ませたし私は戻る。ではな先生」
アルにも声をかけようかと思ったが白目を向いちゃってるからそっとしておこう。
帰って拠点の制作をしなければ……!
おかげさまで評価ポイントが100まで行くことが出来ました。お礼申し上げます。
引き続き評価や感想お待ちしております。
今回は原作軸で好き勝手動かしました。ティリス民だし殺さなければもう何しちゃってもいいかなって……。