透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

11 / 63
突撃!隣の万魔殿

「これが今回アビドス砂漠で起きたカイザーとの抗争の全容ですね」

 

ゲヘナ学園の生徒会組織である万魔殿に所属する棗イロハはいつものごとく万魔殿の議長である羽沼マコトがどこからともなく得てきた情報をまとめマコトに提出していた。今回マコトの得てきた情報は何か変だ。というより現実感がない。あほらしすぎて「冗談でしょ」くらいは思ってしまう。マコトの持つ謎の情報網の広さとその確度を知らなければ、確実にイロハはそう思っていただろう。

マコトは無言で報告を確認するが普段の不敵な笑みは消えない。しかしイロハはそれなりに長い付き合いで察する事が出来た。これ固まってるだけだ。

 

「イロハ」

 

しばらくしてようやくマコトが言葉を発した。それなりの時間固まっていたのでこの情報を疑うようなことは恐らくしていないだろう。信じていなければ瞬時に一蹴していたはずだ。

 

「なんです?この情報が本当ならゲヘナは安泰ですね。私も楽が出来そうで良かったです」

 

そんな軽口を叩いてみるがマコトは乗ってこない。おかしい。情報の中心人物である彼はヒナの傍についている。なのでこんな事を言えば確実にヒナ関連で癇癪を起こすと思っていたがそんな様子も見せない。イロハが不審がっているとマコトが突然真顔になる。

 

「私はアリウスと手を組んでヒナとトリニティを始末しようとしていた」

 

急に何の話?そう思うイロハだがとりあえず話の続きを聞こうと促してみる。

 

「元よりエデン条約などどうでも良かった。エデン条約を利用し調印式の日にアリウスが襲撃をかける。そうすればトリカスとヒナを一網打尽に出来る。そういう話が来ていた」

 

「はぁ……とても正気の沙汰とは思えませんが、それで?」

 

「やめだ」

 

「賢明ですね。もう戻っていいですか?」

 

「話の続きを促せ!終わらせようとするな!」

 

「えー、じゃあ調印式の日には彼を遠ざければいいんじゃないですか?」

 

イロハはめんどうになってきているようでさっさと戻ろうとしている。しかも聞かされた話がどう考えてもやばすぎる。これ以上関わりたくないと思うのも仕方ない。

 

「私もそう考えていた。奴は所詮部外者だ、口実はどうとでもなる。――こんな情報を手に入れなければな!」

 

そこから堰を切ったようにマコトは言葉を続ける。

 

「ヘイローも無いのに相手の攻撃を意に介さない?氷の魔法?カイザーの兵器を軽く両断出来る剣?しまいには空から隕石を大量に降らせるだと?ふざけているのか!世界観が違いすぎるだろう!」

 

文字通り世界が違う。彼がキヴォトスの外の出身であることは特段隠していないはずとイロハは思うが今のマコトはそんな事忘れていそうだ。

 

「証拠を残したつもりは無いが万が一襲撃に関与した事を嗅ぎつかれてみろ!確実に殺されるぞ!しかもご丁寧な事に奴は万魔殿がエデン条約に消極的な事をトリニティの奴に話したらしいしな!これで調印式で私が無傷で済んでみろ!疑われてやっぱり殺されるわ!」

 

「いや、シャーレの先生と交友関係があるなら生徒を殺すような真似はしないのでは?」

 

「襲撃を受けたのがイブキだったとしたらどうする?」

 

「殺しますね。――彼にとってのヒナさんがそうだと?」

 

「そこまでは分からん。だが確証もない事に命を賭けていられん。私は確実な勝利が欲しいのであってギャンブラーになった覚えはない」

 

マコトはそういうがイロハはその言葉に呆れを覚える。そもそもが負けているのに何を言っているのだろうか。

 

「アリウスといえばトリニティよりもゲヘナを憎んでいてもおかしくないのでは?そんな学校がまともにゲヘナと手を取り合うとは思えませんよ?」

 

「何?」

 

「私がアリウスの立場なら調印式の日に裏切りますね。ゲヘナもヒナさんが不在となれば絶好の機会でしょう」

 

「……それはつまり」

 

「マコト先輩はいつも通りですね。安心します」

 

きっと調印式の日には裏切られてイロハの溺愛する丹花イブキが巻き込まれていたかもしれない。それを考えるとマコトの計画を翻させた事をイロハは彼に感謝の念を送る。

 

「――キキキッ。やってくれたなアリウス!絶対に許さんぞ!」

 

現時点ではまだアリウスは何もしてないしやろうとしていたのはお互い様だ。

 

「――ところで、アリウスと協力するのをやめるのはいいですけど襲撃の計画はどの程度進んでいたんですか?」

 

「調印式の日にミサイルを撃ち込み両者を機能不全にしそこにアリウスを主体に襲撃を掛けそこに私達も襲撃に乗じトリニティを消す。場所の指定も済んだし後は式の日程の調整だろうな」

 

――――詰んでない?

どう見てもバリバリの首謀者だ。言い訳の余地もなくバレれば矯正局送りなのは間違いない。なぜそこまで計画を進めておいて今からやっぱやーめた!が通じると思っているのだろうかこの人。例え手を引いたとしてもアリウスが口止めにこちらの始末に来る可能性とか考えないのだろうか。

 

「あの、死にたくないので今得た情報持って全部彼に伝えに行きますね。死にたくないので」

 

今から聞いた事を全部タレコミに行けば何とか私とイブキは許されるかもしれない。そう考えてイロハはマコトを売る事に決めた。

 

「ま、まて!早まるなイロハ!私だって死にたくなあああああい!!!」

 

「でももう詰んでますよ。アリウスには目を付けられるでしょうしゲヘナには彼が居ますし」

 

「…………キキッ。キキキキ!良いことを考えたぞ!今の情報を私達万魔殿がアリウスに独自に潜入した末に入手した事にし私の功績に変えてしまえばいい!」

 

「相手がトリニティや生徒であればそれでなんとかなるかもしれませんが、彼は大人ですよ?付け焼刃の言い訳が通じるとは思えません。ただでさえ万魔殿のエデン条約の消極性を見抜かれてるんですから連想ゲームで関与を疑われそうです」

 

「…………キキ。どうしようイロハ」

 

折れちゃった。

さすがのイロハもかわいそうになってきたのかフォローを入れる事にした。

 

「はぁ……。めんどくさいですが私の方でなんとかしてみますよ。彼に上手い事掛け合ってみます」

 

「何!?キキキ!よし!ならばそのまま奴をこちらに引き入れろ!お前とヒナはどことなく似ているし篭絡も可能だろう!もののついでだ!もう一人の大人である先生も万魔殿に迎え入れろ!」

 

フォローすべきではなかったと秒でイロハは後悔した。なぜ今の一言でここまで一気に元気になれるのだろうか。

 

「私に二人の男性を篭絡しろと?どんな悪女に見られてるんですか」

 

「キキッ!これで万魔殿も安泰だ!キキキ……キハハハハハ!」

 

そもそも彼とも先生とも面識すらないというのに一体どうしろというのか。イロハはこれからの事を想像して溜め息を吐きつつ、どうにか彼に悪印象を与えないようにしつつこちらの事情を上手く伝えられるか考えていた。

 

 

 

**********

 

 

 

「という事がありまして……」

 

「…………」

 

なるほどな?

アビドスでの騒動を終え数日経ち、拠点内の廃墟の解体を終えてようやく自分の家を建築した頃、拠点に一人の客人が現れた。なんとヒナ達から度々話を聞いていた万魔殿の生徒で、名前を棗イロハ。ヒナへの嫌がらせを多く行っているという事で、一応仮想敵と想定していたのだが、ヒナを目の敵にしているのは万魔殿の議長である羽沼マコトという人物だけらしい。そういう訳で用件を聞いていたのだが、聞かされた話がこれまた厄介だった。

 

いやどうしろと?冷たい事を言うが個人的にはトリニティがどうなろうと万魔殿がどうなろうと知った事ではない。強いて言えば時折モモトークでやりとりをするイチカの安否が気になるくらいだ。しかしエデン条約はヒナが積極的に取り組んでいる事柄である以上完全に無視する事も出来ない。やはり厄介だ。

 

「まぁ、君の議長の危機管理能力は割と機能しているようで安心した」

 

「っ」

 

何も明かさぬまま計画を進めていたら彼女達の懸念通り殺していたであろう事を暗に伝える。大人げないとは思うがこのくらいの意趣返しは許してほしい。首謀者本人ではないようなのでこれだけで済ませるが、当の議長はどうしてくれようか。とりあえず絞首台を持ち出して一日くらいゲヘナ学園前に吊るし上げて放置するというのはどうだろうか?そんな事はどうでもいいので後回しにするとして、これはもう先生に託すべき事案では?私一人で抱えたくないぞこんな厄ネタ。

 

「はぁ……アリウスとやらが君たちの始末に回るかもしれないとの事だったな?ならばいっその事最後まで協力してしまえばいいんじゃないか?」

 

「え?正気ですか?」

 

「正気も正気だ。イロハの予想ではアリウスはこちらの事を裏切るのだろう?ならばこちらも当日に同じように裏切ればいい。その上で返り討ちにしてやろう」

 

嘘から出た真というわけではないが本当にマコトがスパイをしていたという形にするのがいいだろう。まことだけに。

 

「なんというか……大人ってずるいですね。そんな事を思いつくなんて」

 

ノースティリスの民だからな。これくらいの裏切りの応酬など朝飯前だ。

 

「先生であればもう少し優しい解決策を提示してくれるかもしれないが……。まぁそこは私に相談してしまったのが運の尽きだな。あくどい手段しか私には思いつかない」

 

「いえ、頼りになります。正直困り果ててましたから」

 

この子も大変なんだな。同じ組織だっただけで意趣返しをしたのはやりすぎたか。もう少しだけ優しくしてもいいかもしれない。

 

「これ以上の話をするならマコトと直接話をしたい。取り次いでもらえるか?」

 

「分かりました。では今から生徒会室まで行きましょうか。――はぁ、今日は忙しいですね……。めんどくさい」

 

「君も災難だな。まぁこれから先楽をする為に今しばらく踏ん張ろう」

 

「楽をするため……はい」

 

そして最も災難なのはヒナだ。エデン条約に積極的だったにも拘わらずそれが砂上の楼閣だったのだから。今回の事情を説明する時を考えると気が重い。

 

 

 

**********

 

 

 

「――?入れ」

 

万魔殿の部屋にノックをして入室する。すると不敵な笑みをした灰色の髪の子がいた。この子が羽沼マコトだろう。しかし私の顔を認識するなり不敵な笑みが固まり、しばしして私の顔をようやく認識したのか驚愕の顔に変わり座っていた椅子から勢いよく立ち上がる。

 

「なっ!?き、貴様は!?――イロハ!裏切ったな!?」

 

私の存在を知って計画を下げ尚且つ殺されると思っていた相手がいきなりやってきたのだからマコトの反応も理解できる。しかしそこまで恐れなくても未遂なのだから無体な事をする気は今は無い。絞首台による放置プレイはするが。

 

「まぁ私も死にたくはないですし、これが一番良いかなって」

 

殺されると思ってるであろうマコトに今そんな言い方をしないでほしい。マコトが更なる勘違いを起こして今にも命乞いをしそうなほど震えてしまっている。さてはこれが目的だな?イロハも計画を聞いていなかったらしいしその仕返しかもしれない。

 

「落ち着けマコト。仮にも議長でありゲヘナのトップだろう?そんな姿を他人に見せるな。エデン条約、いやアリウスに関して少し話したい事がある。無論君の処遇に関する話ではないから安心してくれ。――イロハもにやけてないでほどほどにしてやれ」

 

「しょうがないですね……」

 

「――キキ。話を聞かせてもらおう」

 

そうしてイロハと二人で話していたことをマコトに伝える。すると自分を騙そうとしていたアリウスに仕返しが出来ると踏んだのか徐々に顔に喜色を滲ませて上機嫌になる。

 

「キキキキ!素晴らしい!これで私はスパイとして活躍したこととなり今回のエデン条約の立役者となる!アリウスの鼻も明かすことが出来てエデン条約においても有利な条項を結べるだろう!」

 

「いや、結果としてスパイという形にはなるが功績としては残らんぞ?」

 

「――何?」

 

もしマコトがスパイと公表してしまったらそれこそマコトの所業をそのまま明かす事と同義だ。襲撃を未然に防ぐことが出来れば功績とする事も出来るが、恐らくだが現状襲撃自体を止める術はない。

 

「襲撃自体を防ぐという案もありましたか……。でもどうしてだめなんですか?」

 

「今回のエデン条約はトリニティとゲヘナ両方あっての事だ。私達はアリウスの計画を知っていても向こうはそれを知らない。では襲撃が起こる事を犬猿の仲であるゲヘナから伝えればどうなる?」

 

「――トリカス共は信じないだろうな。そもアリウスはトリニティの分校だ。しかも今のトリニティはアリウスの存在を認知しているかも怪しい」

 

言葉で言って信じてくれるのならエデン条約など最初から要らないのだ。となれば襲撃の早期決着が望ましいのだがこれも問題がある。襲撃に対抗するための戦力を用意したとして、調印式はトリニティで行われる中で、トリニティにとっては調印を結ぶだけであるにも拘わらずこちらが過剰な戦力を用意して式に望めば警戒されるし、襲撃が起こればアリウスを知らないトリニティはゲヘナの過剰な戦力を見て戦争を仕掛けに来たと勘違いして両者の争いが始まる可能性がある。

 

「めんどくさっ。めんどくさすぎますよ今の状況」

 

「全くだ。それと、アリウスがゲヘナにコンタクトを取っていたが、マコトにした提案と同じものをトリニティにしていない確証があるか?」

 

二つの勢力を潰そうとしているのならまずその両者を争わせて損耗させるのが一番効率の良いやり方だ。ミサイルはアリウスが撃ち込む以上、その攻撃を合図にアリウスから同じ提案を受けたトリニティとゲヘナの生徒がやり合うかもしれない。

 

「アリウスめ……このマコト様だけでなくトリニティにまで声を掛けるとは……」

 

「確証はない。が、キヴォトス三大校の内二校を同時に相手取ろうとしている以上勝算あっての襲撃だ。ほぼほぼ間違いないとみていいと思う」

 

「結局どう動くのが正解なんでしょうかこれ……」

 

「とりあえずマコトは引き続きアリウスとの接触を今まで通りに。そうすればしばらく狙われる事はない。何か追加情報があったら共有してくれ。――襲撃に関しては最悪私がいる。いざとなれば私がトリニティ諸共鎮圧してやるから安心していい」

 

「キキキ!出来ればそのままトリニティを地図から消してくれるとありがたいな!」

 

「はぁ……調子のいい……」

 

トリニティの方はどうしようか。知り合いがイチカしかいないのが悔やまれるな。先生に情報を共有してトリニティに接触してもらうか?ゲヘナと関わりの浅い彼なら私が行くより警戒はされにくいだろう。しかし……。

 

「なんか考えるのもめんどうになってきたな。アリウスに直接乗り込んで私が更地にするのはだめか?」

 

「いや、今までの話はなんだったんですか?」

 

「キキキキ!私としては是非ともそうしてもらいたいがそれは出来ん。というのもアリウス校の場所はこのマコト様の情報網を以てしても掴めていない。トリニティも存在を認知しているか分からん以上、直接乗り込むのは難しいだろうな」

 

「ゲヘナのトップが掴めていないならどうしようもないか……。それじゃあとりあえずトリニティの方は先生にいずれ情報を共有しておくからそっちに一任しよう。彼なら上手くやってくれるかもしれない」

 

「ふむ、同じ大人から見てもシャーレの先生は優秀か?」

 

「そうだな。少なくとも指揮能力と人を導く能力に関しては私も及ばないだろうな」

 

アビドスの方も無事解決とまではいかないだろうが、今まで利子の支払いだけで手一杯だった借金の利子が大きく下がり返済に余裕が出来たらしい。

 

「しかしいくらシャーレの先生と言えどトリニティに取り入るのは難しいかもしれんぞ」

 

「そうなのか?それはまたどうして」

 

「あそこはゲヘナと違ってかなり政治形態が異なっている。トップですら三つに分かれた三頭政治で他にもシスターフッドやら正義実現委員会やらと様々な派閥が存在して日々互いに牽制して睨み合っている。まさにトリカスらしい陰湿なやり方だな」

 

だからトリニティをまとめるのは実質不可能だと語るマコト。トリニティってそんなめんどくさい所だったのか……。特にトップが三人というのが理解できない。王が三人居ると考えるとどう考えても争いの火種にしかならないような気がする。エデン条約をまとめたナギサのワントップだと考えていたんだが、もしやナギサと同等の権力を持っているのが後二人いるのなら、その二人はエデン条約をどう感じているのだろうか。――考えるのやーめた!

 

「――想像しただけでめんどくさそうなのは理解できた。襲撃が来たらさっさと私達だけ退散してもいいかもしれないな。アリウスは元はトリニティなのだろう?ならばこの件に対処するべきはトリニティだ」

 

「キッ、キキキ!言われてみればその通りだ!我らが心を砕いてやる義理は無かったな!キキキキキッ!!」

 

これで、良し!

意外とマコトとは気が合う事が分かった。それはそれとして持ってきた絞首台を用意してマコトを括り付け、帰り際に校門前に放置してきた。未遂とはいえ罰は必要だ。

 

「ば、ばかな!悪かった!私が悪かったから降ろしてくれ!――帰ろうとしてないか!?待て!待ってくれ!おーーーーーーーーい!!!」

 

夕方辺りに回収してやるか。




突然総合評価が跳ね上がっていました。繰り返し厚くお礼申し上げます…!!!


マコトがこのまま計画を進めると確実にティリス民により報復を食らう事になるので断念してもらいました。

エデン条約どうすっかなー。始まる前に壊すか始まってから壊すか。
書き始めてからずっと悩んでまして。上手い事頑張ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。