「それで?次は何をしようというんですかユメ先輩」
「とりあえず私から説明する……」
ホシノにユメを蘇生した後にビナーという存在にアビドス砂漠に遭遇したこと。そして卵を産ませてそいつを孵化させた後アビドスにてそれの管理をユメに任せたい事を話した。
「うへ~、相変わらず訳の分からない事をしでかしてるね。でもビナーか……」
「ホシノはビナーって存在知ってた?」
「んや、知らないねぇ。見たことも聞いたこともないよ。もし前から存在してたならアビドスの生徒会室とかになら資料が残ってるかも?戻ったら調べてみるね」
「うん、お願いね」
「ゲヘナでも調べてみた方がいいかもしれない。私達でもあの存在は認知していなかったから」
「きっとビナーはアビドスの良い名物になると思うの!これできっと人を呼び込めるよ!」
「いや……聞いた話が本当なら確かに目立つでしょうし話題にはなるでしょうけど……。流石に私一人じゃ決められないかなぁ」
それもそうだな。アビドスはホシノだけでなく他にも生徒は存在する。彼女達にも話を通すのが筋だな。
「ところで気になったんだが、キヴォトスでは死人が生き返るとどうなるんだ?」
「どう、っていうのは?」
「ほら、ユメが持っていた携帯だとか家だとかの話だ。二年も支払いが滞っていたのなら流石に使えなくなっていたりしないか?」
あっ。とユメとホシノと先生の声が被る。そりゃ死人が生き返るパターンなんて想定してないし今ここでいきなりその考えが浮かぶはずがない。
「あ、あれっ。じゃあ私って今……ホームレス?学校もどうなっちゃうの?」
「既に死亡届けは出てるだろうからその際に退学って扱いになってるだろうね……」
気付かなくて良かった事に気付いてしまったみたいだ。ユメ、かわいそうに。
「先生のシャーレの権限でどうにか出来ないか?権力強いんだし使い時だろう」
「えぇ……?最近知り合ったヴェリタスの子達にお願いすれば、いけるかなぁ?でも他校となると難しいかも……?ちょっと相談してみるね」
流石は先生。何やら手段があるかもしれないような口ぶりだ。死んで退学になっているであろう生徒を元に戻す手段ってなんだよ。意味わからんぞキヴォトス。
「後は携帯は再購入すれば良いとして、家だな。寝泊りは……ホシノと一緒に住めば問題はなさそうか?」
「うーん、おじさんはそれでも良いんだけど、数日泊まるとかならともかく、ずっとってなるとちょっと厳しいかもねぇ」
「ど、どうしてホシノちゃん!?私を見捨てないでぇ!」
ユメがホシノにしがみついて懇願している。復活した初日から野宿が決定したかもしれないのだからこの必死さも頷ける。
「落ち着いてください……。私は一人暮らしだから二人で住むような部屋じゃないんです。だから不便ですよ」
「貴方の拠点にしばらく置くのは?土地も余ってるってさっき話してたよね?」
ヒナがそう聞いてくるが、私の拠点はゲヘナだ。アビドスとはそれほど距離は離れていないがそれでもホシノの家より不便が勝るだろう。――うーん、拠点か。
「拠点、という意味でならアリかもしれないな。私の今のゲヘナの拠点ではなく、アビドスにもう一つ拠点を作ってそこにユメを住まわせるか?」
そうすればビナーの管理も楽かもしれん。我ながら名案だ。
「アビドスに拠点を?そういえばパルミアに行ったときについでに権利書を買いに行ってたわね」
それをホシノが許してくれるならだが、どうだろうか。
「アビドスは土地だけならいっぱい余ってるしねぇ。カイザーにほとんど取られちゃってはいるけど拠点を建てるくらいの広さは残ってると思うよ」
思ったより肯定的だ。ユメを生き返らせた恩は本人にとってそれ程大きかったか、先生の知り合いという補正故か。両方かな。何にしても円滑に話が進むなら越したことはない。
「とはいえ拠点を手に入れても今日中に家を建てるのは恐らく無理だから今日明日辺りはホシノの家にユメを預けて構わないか?」
「もちろーん。むしろ三日四日あれば家を建てられる物言いにびっくりだけど」
「やったねホシノちゃん!今日はホシノちゃんのお家でいっぱいお話ししようね!」
これで一応の問題はなさそうか。後は先生が上手くユメの処遇を決めてくれる事を祈ろう。
「では早速アビドスの他の生徒達に事情を説明しに行こうか。ホシノとユメは先にアビドスへ戻っててもらえるか?私は話が上手く進んだ時の為の準備をしてからそちらへ向かう」
「分かったよ!先に行って待ってるね。ホシノちゃんの後輩に会うのも楽しみだな~」
「私はユメの事があるしこれからミレニアムに予定があってそっちに向かうつもりだからついでにお願いをしてくるね。そっちは任せたよ」
ミレニアムとは確かゲヘナトリニティに並ぶ勢力の学校の事だな。先ほど出ていたヴェリタスというのもそこに居るのだろう。
「了解した。ではまたな」
そして私とヒナはシャーレを離れ一度ゲヘナへ戻る。ヒナは風紀委員会の仕事があるからと今日は別れ、私は新しい拠点に持っていくためのアイテムと孵卵器を手にアビドスに再度向かう。
まさかアビドスに二つ目の拠点を建てる事になるとは思わなかった。だが次の権利書はかなり高くなってしまう。元々貯まったお金の殆どは投資に回すのである程度の金額しか貯蓄していない。今はそれを切り崩して生きている状態なので残金的には恐らくキヴォトスですぐに建てられる拠点は後一か所が限界だろう。四つ目以降はノースティリスで金策をしてからになりそうだ。残り一か所を建てる時は良く考えてから使う事としよう。
**********
「失礼する」
アビドス高校に到着し対策委員会の部屋へと入る。中には全員揃っており、ユメを中心に楽しそうに話している。どうやらユメは既に上手く溶け込んでいるようだ。アビドスの子達の順応が早いのかユメの底抜けの明るさがそうさせているのかは分からないが仲良く出来ているようで少し安心する。
「あ、頭のおかしな人が来たわね」
「ん、私にも魔法を教えるべき」
「いらっしゃいませー!ホシノ先輩がお世話になったようで、ありがとうございます☆」
「カイザーの基地以来ですね。お久しぶりです」
今日もアビドスは元気だ。セリカ、頭がおかしいは余計だ。だがこの感じを見るにユメに関する説明は必要なさそうだな。
「ユメの事は聞いているみたいだな。――ホシノ、ユメ。話したのはそこまでか?」
「んや、全部話してるから大丈夫だよ」
「そうか。ではこちらの本題に入るが、私の拠点兼ユメのペットになるであろうビナーを住まわせる為の土地を借りたい」
アビドスに土地を借りたいってよくよく考えたら命知らずな提案な気がしてきたぞ。ホシノは気にしてなさそうだが他はどうだろうな。
「それは良いけどビナーなんて飼ってどうするの?ユメ先輩は「名物に!」なんて言ってたけどどう考えても聞いてた通りの大きさなら怖がられて終わりそうなんだけど」
「そう?私は楽しそうだなって思う」
「シロコ先輩はそうかもしれませんが一般の方はどう感じるかは分かりませんね」
「んーと、えーっと……芸をさせるとか!」
それからやんややんやと議論を重ねる対策委員会。土地の事は全く気にしていないようだ。助かるけどそれはそれでもうちょっと警戒したらどうだと思わなくもない。それにしても皆楽しそうだ。アビドスの利子が下がった影響で余裕が出来たからだろうか。まだまだ完済には遠くこの子達の世代で返し切れるものではないだろうが、借金を背負う者同士として彼女達の幸運をエヘカトル様に願う。
いや借金背負ってるの私じゃない。ナチュラルに今あの借金を自分の物かのように思ってしまっていた。早く完済しろロイテル。
「うへ~、とりあえず皆一度ビナーを直接見てみない?じゃないと詳しい話も出来ないと思うなぁ」
ホシノが一旦議論を止めてこちらに主導権を戻すように誘導してくれる。
「そうだな。とりあえず拠点を作ってしまおうか。どこか良い空き地へ案内してもらえるか?」
そうして連れられたのは学校と住宅街の中間辺りの場所だった。ここならユメも学校に通いやすくていいだろう。ビナーもいざとなれば学校が襲撃に遭った時にも時間をかけず駆け付けられそうだ。地面の被害はえぐい事になりそうだが。早速土地の権利書を読み、盟約の石の出現を確認したところで孵卵器を取り出す。
「よし、皆少し下がっていてくれ。本当にでかいから巻き込んだらただでは済まないかもしれないぞ」
「いや、え?どう見ても手に持ってるその卵って手のひらサイズだよね?」
「セリカちゃん。たぶん細かい事考えたらだめだよ。あの人は機械から卵を産ませてたんだから」
「うへ、ユメ先輩の言う通りだよ。あの大人の人のやる事に一々突っ込んでたら多分こっちの身がもたないよ~?先輩が今ここにいるのもおかしな状況なんだから」
「ん、それはそう」
ユメやホシノにすら酷い言われ様だった。しかし挫けず私は孵卵器に卵を置く。するとその瞬間には卵が孵化しビナーが産まれていた。
「「「「「「……は?」」」」」」
よし、無事に産まれたな。ビナーもこちらを認識しており前のように敵対もしていない。ちゃんと私のペットとなっているようだ。
「ばぶ(クリムエールをふらふらになるまで飲みたいでおじゃる)」
「無事に産まれたようで何よりだ。お前の持つ知識はどんなものだ?」
「ばぶばぶ(キヴォトスとノースティリスの知識は主と同程度持っているでおじゃるよ)」
ふむ、ノースティリスで生まれたペットとそんな大差ないか?産まれていきなり世界の情勢を気にしたりエレアを下に見たりするのもいるが今回はそうではなかったな。キヴォトスの知識もあるのは意外だったがこれはキヴォトス産だからか?
「お前にはこれからこの拠点を中心に生活してもらう予定だ。後ろにいる少女達が見えるな?君の世話役は私だけでなく彼女達、特に浅葱色の髪の子が中心となって行う。しっかりと言う事を聞け」
「ばぶ、ばぶ(主の命令という事であれば従うでおじゃる。麻呂に飲ませてくれる乳はどんなのでおじゃるか?)」
「シンプルに筋力と耐久を上げる。ガグ乳だな。格闘も上がるからその巨体で敵をどつき回せ」
とりあえず私以外の命令も聞く気があるようで安心した。
「頭おかしくなりそう……!何なのあの圧縮言語…!何で語尾おじゃるなの……!!何で一人称麻呂なのよ……!!!」
「うへ~、やっぱりとんでもないねぇ」
「ん、これは確かに名物になりそう」
「シロコちゃん肝据わってますね~。流石に私も驚いちゃいますよこれ」
「あの時出会ったビナーは話せなかったのにこの子は話せるんだ!すごいね!」
「すごいとかの問題でしょうか……」
シロコとユメには好評だが他はあまり反応が芳しくない。特にセリカは頭を抱えて蹲っている。そんな反応を横目に見ながら調教補正装備に切り替えてガグの乳を与える。食育すらしていないがこれを与えておけばキヴォトスで力を振るうには十分すぎる能力を得るだろう。
「やっぱり乳育は最高でおじゃるな」
「何で乳をあげたら流暢に喋りだすの……!」
そういうものだからに決まっている。とりあえずビナーのお披露目は済んだし私の用事はとりあえず終わった。
「さて、私の方の用件は終わったからこのままこっちの拠点を整備を進めるが、君たちはどうする?」
「どうしよっか?とりあえずビナーと交流深めとく?」
「いいですね☆」
「私はビナーに乗りたい」
どうやらビナーと話すことを選んだようだ。私はあの子達の会話をBGMにでもしながら作業しよう。とはいえ案内してくれた場所がほぼ空き地だったおかげでゲヘナの時と違って廃墟の解体はほぼ必要なさそうだ。これなら今日中に家の建築は終わりそうだな。
「魔法使いさん。改めてありがとうございます」
ユメが一人でこちらにやってきて突然そんな事を言う。
「ユメか。気にする必要はないぞ。こちらにもメリットのある話だった」
「そうかもしれないけどまたこうやってアビドスに戻ってこれたし、ホシノちゃんにも会えて、いつの間にかホシノちゃん以外の後輩も出来てて、それがなんだかすっごく嬉しくて」
「そうか、なら礼を受け取っておく。もう遭難などしないようにな。まぁ砂漠に行くとなれば心配してホシノが付いて回りそうだが」
「気を付けます……」
「そうだ。ついでだし間取りにリクエストはあるか?部屋の数とか希望があれば聞くぞ?」
「えっ本当?じゃあ――」
そうしてユメのリクエストに応えながら建築を終えた。シロコがビナーの背を爆走してるのが時々横目に見えていたのが妙に記憶に残る。
「――よし、後は内装と床貼りだな」
「ほへ~、壁を建てたらそのままなぜか屋根が勝手に付いちゃった」
「うへ~、もうつっこむのやめよって思ってたのにつっこみたいこと増えちゃった」
いつの間にか隣にいたホシノとユメが何か言ってるがこういうものだから私も説明出来ない。逆にキヴォトスではどうやって建築してるんだ?
「こんな簡単に出来るなんてすごいねホシノちゃん」
「まぁ不思議ではありますね……」
「ん、私の家も欲しい。家賃いらず」
シロコは欲しがりだなぁ……!いつ来てたんだ?しかも理由が生々しい。まぁ返済で家賃が浮けばだいぶ楽にはなるか……。
「本気で欲しいというなら構わんぞ。家賃が浮けば借金の返済も幾分か楽になるだろう」
「いいの?」
「私の友人も君達ほど法外な額ではないが中々かわいそうな理由で借金を抱えていてな。私もその返済に関わっているから君たちの気持ちは少しばかり共感出来る」
「え、魔法使いさんも借金あるんだね」
言い方。決して私ではないからそこだけは勘違いしないでほしい。本来なら借金満額手渡せるくらいには稼いでいる。なのにロイテルが心の準備が出来ていないからと返済を渋っているだけだ。
「うへ~そっちも大変なんだねぇ。じゃあおじさんも家建ててもらっちゃおうかな」
「――もう建てたい奴は全員建てろ」
結局この話を聞いた全員がここに家を建てる事にした。アビドス強かすぎるだろ。今度メイドを呼んで土地を広げておくか。
「もう全員好きにしてくれ。建材は多めに持ってきているからいっそ自分たちで壁を建ててみるといい」
「「「「「はーい!」」」」」
「自由に家を造れるってなると迷っちゃいますね。どんな感じにしましょうか」
「おっきい家にしてみんなで一緒に暮らしちゃいましょう☆」
「え、恥ずかしいからいや!」
「えー、いいじゃないですかセリカちゃん!」
楽しそうに建築の相談しているのを見ながらユメの家の床貼りをする。――そういえばここで暮らすとなった場合、住民としてカウントされてしまうのだろうか?持ってきていた住民帳簿を確認してみると、アビドス生がここの拠点に登録されていた。
え、どうするこれ。実質ペット扱いになるんだけど良いのかな。そんなつもりは一切無かったんだが。
まぁいいか。ノースティリスにさえ連れて行かなきゃ実害はないだろう。きっと。
こうしてユメと彼女達の家の分も建て終わる頃には日が暮れてしまっていたので彼女達と別れを告げて帰路につく。今日は実りのある一日だった。復活の魔法の実験も出来てキヴォトス産のペットも手に入れた。次はどんな楽しい事が出来るだろうか。
そんな事を考えながら私は帰還の魔法を唱えた。
イルヴァ豆知識
・乳育
乳は孵化させたばかりの赤ちゃんに三回与える事が出来る。乳の強化値によって強化出来るステータス量が上昇する。かなり無法な強化が可能でペットにする子はこれやっとけば大体問題ない。
・拠点の住民
ゲーム内では仕事や趣味を設定でき、鞭でひっぱたく事によって仕事と趣味を変えたりもできる。このゲーム鞭好きすぎだろ。
おかしい。ここまでアビドスと関わる予定はなかったはず…。拠点を建てるつもりなんて無かったし住民になる予定も……なぜか書いてたらこんな事に…。