「お帰りなさい二人とも。早速だけど貴方に任せたい仕事があるのだけど」
携帯を買い終えてヒナとアコとモモトークを交換してからしばらくして、ヒナにそう言われる。
「分かった。何をすればいい?」
「温泉開発部というテロリストがいるのだけど、性懲りもなくまたゲヘナ地区で温泉開発をしようと集まっているみたいでね。貴方には先んじて彼女達の鎮圧をお願いしたいの」
――なんて?
このキヴォトスでは温泉を掘る事はテロ行為に分類されるのか?かのノースティリスでもそんな無法は存在しないぞ。
「温泉開発なんて謳っているけど、やってる事はただの破壊活動なの。街中だろうと容赦なく爆破しまくるから迷惑極まりない」
なるほど、温泉開発を名目にパルミアでメガフラムをぶっぱなすような物か。それなら確かに迷惑行為に分類される。しかし、キヴォトスも思ったより自由な世界なのだな。これなら私もここまでお行儀よく過ごす必要はない気がしてきたな……?
「何か変な事考えてそうだから一応言っておくけど、ここまでの問題児は多分キヴォトスでもゲヘナにしか居ないと思うから、あまり派手な事をしようとは思わないでね?」
ロイテルもだが私が考え事をしていると何故か見透かされることが多くて困る。そんなに分かりやすいのだろうか私は。
「無論、今の私は風紀委員に属する者だ。カルマを下げる様な事はしない」
本当かな……とヒナが不安そうに独り言ちるが少なくとも今はするつもりは本当にない。安心してほしい。
「自由と混沌を校風に掲げているとはいえ、自由すぎるんですよこの学校の者達は」
とアコが疲れたように言っている。えっ、ゲヘナ学園ってそういう方向性の学校なのか。なら風紀委員会という存在はこの学園にとって逆に邪道なのでは……?いや、これ以上考えるのはやめておこう。碌な事にならない気がする。雇われた以上頼まれた依頼を粛々と済ませるとしよう。
「それで?その温泉開発部とやらは今どこにいる?」
「アコをサポートに付けるわ。彼女の案内に従ってくれればすぐに着くから、お願いね」
「しょうがなく、本っ当にしょうがなく!今回は一緒に仕事をしてあげます。感謝してください」
「あ、あぁ……感謝する、アコ」
道中で誤解を解いた方がいいなこれ。テロリストの鎮圧よりアコとの友好を深める方が難易度高かったりしないだろうか。
『この道を真っ直ぐ進んでください。この先二百メートルに温泉開発部がいるはずです』
「了解」
通信機越しからのアコの指示に従いながら現場へ向かっている最中なのだが、やはりアコの声は冷たい。ここいらで誤解を解いておくとしよう。
「あー、その、アコ。君と初めて会った時の話なんだが――」
『ギリィッ!――はい、なんですか?』
「……えっとだな。あの時ヒナに弁明させた私に非があるのだが、アコの思っているような事は無かったんだ。ただ私のせいで彼女は私と戦うように誘導されていてな。そういう意味で使われたという話だったんだ。すまなかった」
『……なるほど。本当にそれ以上の事はなく、ヒナ委員長に対して邪な感情もないんですね?』
「あ、あぁ。そういった感情は特に――『は?委員長には魅力がないと言いたいんですか?』……すまない、言葉選びを間違えたかもしれないな」
年頃の少女と話すのはこれが初めてではないしクルイツゥア*1とも会話をする事もあるが彼女以上に難易度が高い気がする。
「彼女は小柄ではあるがきちんと女性としての魅力も――『やっぱり邪な目で見てるってことですか!?』」
誰かアコとのコミュニケーションの取り方を教えてもらえないだろうか。単純な交渉術の高さだけではやっていける気がしない。
『まぁひとまず納得しておきます。これからよろしくお願いしますね』
「あぁ、ありがとう。よろしく頼む、アコ」
この無茶苦茶な感じ、彼女もまたゲヘナ生である。という事だろうか。
などと考えていると喧騒が聞こえてきた。どうやら目的地に近づいているようだ。
『そろそろ到着しそうですね。委員長から実力の程は少しだけ聞いていますが油断はなさらないでください。彼女達は厄介ですから』
「分かった、せっかくの初依頼だ。成功させてみせるよ」
そうして聞こえてくる喧騒へ近づいていくと一際大きな声が聞こえてきた。
「ハーハッハッハッハ!良い温泉ポイントを見つけたな!ここならさぞ良い温泉が吹き出す事だろう!」
ふむ、あの豪胆な笑い方をしている小柄な子が温泉開発部の部長だったか。一応声を掛けてから鎮圧するとしようか。
「もし。一応忠告しておこう。ここでの温泉開発はやめてもらおうか。これは風紀委員会としての言葉だ。従ってくれると助かるんだが」
「うん?……キミは?大人の人か?という事は話に聞いていたシャーレの先生かな?」
やはりそう思われるか。とはいえ訂正する意味も薄いか。
「どうだろうな。君は温泉開発部の部長だね?先ほどの忠告に対する返事は?」
「ふむ、シャーレの先生であればここは真っ直ぐ肯定するだろうと思ったんだが、アテが外れたか。という事は――「あぁ、これは確かに厄介だ。終わらせよう」――へっ?――ぶべらっ!?」
彼女と長い事話しても情報を取られるだけだと判断して鎮圧に移る。温泉開発部部長に対して接近し木刀で脳天を撃てば、なんとも間抜けな叫び声を上げながら気絶した。
「「「「ぶ、部長ーーーーーっ!!??」」」」
一瞬で無力化された彼女に対して部員たちは断末魔の叫びが如く悲鳴をあげるが、そんな事をしてる暇があれば抵抗すればいいものを。こちらとしては楽で助かるからいいか。
「だ、だれか部長を抱えて逃げ――」
「させんよ。全員気絶してもらう」
最初にトップを叩いた事もあり残党の制圧も流れ作業で行う事が出来た。全員縄で縛り上げはしたがこの子らの連行はどうするのだろうか。
『お疲れ様です。しかし凄いですね……。あの鬼怒川カスミがいとも簡単に……』
「この手際の良さは今回だけだろうな。彼女と話したのは少しだけだが、彼女は恐らく口が回るタイプだろう?しかも頭も良い。次があるとすればこう上手くいかないだろう。私が動いたと情報が入れば即座に逃げの一手を打つはずだ。そうなれば私も苦戦する」
『なるほど……って、なんでちょっと嬉しそうなんです?』
あの子がペットになってくれたら良い戦力になりそうだなぁ。そう考えていると走る足音が複数こちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
「風紀委員銀鏡イオリ。ヒナ委員長の要請を受け応援に――あれ、終わってる?ってか誰?この大人の人」
褐色肌の銀髪の子とおそらく彼女が率いていたであろう風紀委員の部隊の子が応援に来てくれたようだ。連行は彼女達に任せるのがいいか。しかしイオリという子だけでなく他の風紀委員の子達にも注目されている。まぁ大人の男性が腕章を付けて活動しているのだから嫌でも気になるか。ヒナが私の情報を共有していないという事は、私から事情を説明しろという事なのだろう。であれば――
「初めまして。今日から風紀委員会で世話になっている外部の協力者だ。これからも時折肩を並べて依頼をこなす事があると思う。これからよろしく頼む」
「え、あぁ…よろしく。これはあんた一人で片付けたのか?」
「その通りだ。逆に一人だったおかげで油断を誘えたよ。向こうからしたら私を見るのは初めてだったしな」
「なるほどね……じゃあこいつらの扱いは私たちに任せてヒナ委員長に報告しに戻っていいぞ」
「分かった。それでは後始末は頼んだ」
簡単に自己紹介と引継ぎも出来たのでヒナの元へ戻るとしよう。
**********
「お疲れ様、よくやってくれたわ。貴方に任せたのは正解だったわね」
「ありがとう。ヒナもこの結果が分かっていたから私一人に行かせたのだろう?」
そう言うとヒナの隣に控えていたアコが目を輝かせて「さすがヒナ委員長……!」と感激している。ヒナ本人は顔を少し赤らめつつも首肯する。
「えぇ、なんとなくね。次はこう上手くいかないことも。でも早めに片付いたのは幸運だった。おかげで今日は少しだけ楽が出来そう」
いくら捕まえてもあの子らはあの手この手で脱獄を繰り返しているらしく大人しくさせるのは無理らしい。なんとも元気のある事だ。しかし気がかりなのはヒナだ。今まで気づかなかったが隈が少しできている。優秀過ぎるが故に仕事を多く抱え込んでしまっているのかもしれない。この辺りの環境は要改善だな。組織が一人に依存して回る環境は非常によろしくない。今のキヴォトスが連邦生徒会長が居なくなっただけで犯罪率が急上昇したのが良い例だ。この辺りの話も交えて話せばヒナも理解を示してくれるだろう。とはいえ今日は楽が出来ると喜んでいるところに水を差すのも悪いからこれは後日にしよう。
「今日はこれで依頼は終了かな?」
「えぇ、今日はもう自由にしてくれていいわ。仕事があればモモトークで連絡するから、またよろしく」
「了解した。それでは失礼させてもらう。ではヒナ、アコ、お先に」
「お疲れさまでした」
「っと、そうだ。二人にこれを渡しておこう」
そういって私は懐からラムネを取り出し二人に渡す。活力を回復させる飲み物だ。ある程度の疲れを回復してくれるだろう。
「これを飲めば疲労を回復してくれる。よければ飲んでくれ」
「ありがたくいただくわ」
「ありがとうございます」
二人に別れの挨拶をしてゲヘナ学園を離れる。
時刻は夕方といったところか。ヒナから依頼料を受け取った事だしどこかで適当にご飯を食べるのも悪くないか。キヴォトスでの食事はどんなものか気になる。これだけ技術力のある世界ならばご飯も期待出来るだろう。となれば早速――
「クックック……そこの方、良ければ私とお話いたしませんか?」
突然後ろから声をかけられ振り向く。そこに居たのは、どこか既視感のある黒ずくめの男だった。
連れられたのはいたって普通の喫茶店だった。
「こちらへお掛けください。注文もお好きな物をどうそ。誘ったのは私ですから、お金はこちらが持ちますよ」
「そうか、では遠慮なくごちそうになろう。それと私に対して敬語は特にいらないぞ」
そう答えつつコーヒーと軽食を店員へ頼む。
「いえいえお気になさらず。元よりこういう話し方なだけですから」
「そうか」
チナツやアコのような感じか。あまりこの辺を気にしても仕方ないのかもしれないな。今度からは気にせずいこう。
「まずは自己紹介を。私は黒服。とある人物にそう呼ばれたのがきっかけですが、存外気に入りましてね。そのまま名乗っています」
「そのまんまだな。だが私も悪くないと思う」
「ありがとうございます。私達はあなたと同じくキヴォトスの外部の者です。しかしあなたとも、先生とも違う領域の存在ですが。適切な名前がありましたのでそれを拝借して、ゲマトリアと名乗っています」
達?このような存在が少なくとも複数存在するのか。しかしそう聞くとキヴォトスは意外と闇鍋状態なのだな。私、先生、黒服、キヴォトスと最低四つの世界が入り混じっているのか。
「先生の事も知っているんだな。知り合いか?」
「いえ、少なくとも今はまだ。いずれ会う事になると思うので焦って会う必要はないと思っています」
「私たちは観察者であり、探究者であり、研究者です。貴方と同じく不可解な存在と思っていただいて問題ございません」
失敬な。私はいたって普通の風紀委員会所属だぞ。
「ククッ、そういえばそうでしたね」
「それで?先生には会いに行っていないのに私にはわざわざ会いにきたんだ。何か用があるのだろう?」
「はい。でもあり、いいえとも言えます。こうして会いに来ること自体が目的でしたので」
私の人となりを見たかったという事だろうか。確かにお互い不可解な存在である以上把握しておきたい気持ちは分かる。私も最初に先生に会っていなければ先生という存在は気にかかっていたかもしれない。しかし……
「いかがされましたか?何か気になる事でも?」
この見た目といい、狂言回しといい……
「デミタス*2が二人に増えたかぁ……」
敵か味方か判別が付きにくく、それでいて情報はたくさん握ってそうな感じがとても、それはそれはもうよく似ている。こういった存在は世界に一人存在しなければならない決まりでもあるのだろうか?
「デミタス……ですか?貴方のご友人でしょうか?」
「そんなところだ。まぁ悪い意味ではないから安心してくれ」
良くもないが。
「なるほど。話を戻しましょう。会う事が目的とは言いましたが、欲を言えば、私は貴方と敵対したくありません」
「全て見通せているわけではありませんが、貴方の在り方は、ルールや契約、テクストを無視して行動出来る。つまり貴方は私たちにとって語弊を恐れずに言うと、天敵なのです」
「盤上にいながらその気になれば盤台をひっくり返せる存在。それが私たちにとっての貴方です」
――ずいぶんと明け透けに言われている気がする。余程私と敵対したくないという事の証左と受け取るべきか。
「話は分かった。が、私はそこまで大層な存在でもないと思うがね」
本当にそうだろうか、と自問する。封印されていたとはいえ本物の神格を倒した事もあるし、力に関していえば確かに私に比肩する者はそう多くないのかもしれない。だがそれだけで世界をどうこう出来るとはやはり思えない。いや、それはイルヴァには偉大な神々がいるからこそ言える事なのかもしれないが。それに今なんて風紀委員会という組織に属するただの外部協力者だ。どう考えても黒服の考えすぎだろうな。
「まぁ、少なくとも今は敵対することはないさ。君がもし先生と敵対して、彼が私に助力を求めてきた場合は、その限りではないだろうがね」
「その言葉を聞いて安心しました。先生とも敵対するつもりはありませんでしたから。むしろゲマトリアに勧誘したいとすら考えていました」
まじ?見るからに地獄属性って感じの黒服だが、先生はどう考えても神聖属性だ。反りが合うとはとても思えないが……。
「そ、そうか。上手くいくことを願っている」
「ククッ、ありがとうございます。きっと先生もゲマトリアの意義に賛同してくださることでしょう」
そうかなぁ?
イルヴァ豆知識
・デミタス
魔法使いには必須の魔法書を複製してくれる超有能NPC
ストーリーにおいては黒服と同じく年頃の女の子(クルイツゥア)をいじめて楽しんでいる。
やっぱおめー黒服だろ。
ハーメルンの仕様を完全に把握しきれているわけではありませんが、評価の部分に色が付き始めました。恐らくめでたい事だと思うので、ここでお礼申し上げます。
まだまだ始まったばかりではありますが
これからも評価・感想・拙作をよろしくお願いします。