「おかえりケトル。……後はロイテルが来れば全員集まりそうだな」
ケトルの住居へ赴くと既にケトル、ファリス、コルゴンが待機していた。ロイテルが来るまで彼らにヒナの紹介を済ませておくか。
「ただいま。――おや、もしかして君の隣にいるのは」
「私がキヴォトスでペットにした子だ。丁度この子を連れてノースティリスを歩いていたところだったから紹介がてら連れてきた」
「ムーンゲート……アレに異世界へ繋がる程の力があったなんてね。本来は……」
「ん?どうかしたか?」
「いや、なんでもないよ。初めまして、私はケトル。しがないただの錬金術師で、今は彼等と共に生活を送っている。よろしく頼むよ」
本来はなんだ?めちゃくちゃ気になるんだが!しかし私の興味心を無視したケトルはヒナへと目を向けて自己紹介を始めてしまった。
「空崎ヒナよ。貴方の事は聞いてるわ。複製技術にいつも世話になっていると」
「それは嬉しいね。彼等には私もお世話になっているから、役に立てているなら光栄だ」
友人を褒めていた事を他人からバラされるとなんか気恥ずかしくなるな。まぁケトルも悪い気はしていないのか優しく微笑んできているし良しとするか。
「私はファリスと申します。冒険者様にネフィアで助けられた事をきっかけに一緒に行動を共にしています。ちなみに――私の事は何か言ってましたか?」
気になるとこそこなの?
「えっと……貴女とロイテルさんのおかげで拠点の雰囲気が明るいと言っていたわ」
「――!えぇ、そうでしょう。そうでしょうとも!やはり唄い手たるもの、唄で皆様を楽しませなければなりませんからね。本懐を果たせているようでなによりです」
いや唄は全く関係ないかな。人柄の話だよ。
「そうだね。確かに彼女の明るさには助けられる事が多い」
ケトルはファリスの本質を理解しているので唄の部分はスルーして人柄をちゃんと褒めている。しかしファリスは特に気にしていないようでケトルへ嬉しそうに礼を述べていた。
「ありがとうございますケトルさん。――よろしければヒナさん、今度私達の活動を元にした唄を聴いていかれませんか?」
「えぇ、機会があれば是非お願い」
「もきゅっ」
ファリスとケトルとの会話が一段落ついた頃合いで、コルゴンがヒナに興味を持ったのかゆっくりと近付いてきた。
「あら、確かこの子は……コルゴン、と言ったかしら」
「もきゅ!」
「――撫でさせてくれるの?よしよし」
「もきゅっ!」
「ふふっ、かわいい……」
流石はこの拠点のマスコットの一匹だけあり、コルゴンはすぐにヒナと仲良くなれたようだ。紹介を一通り済ませたところでロイテルとクルイツゥアもこちらへやってきた。
「すまない。遅れたようだ」
「気にする事はないよ。クルイツゥアも呼んできてくれてありがとう」
「うん」
「では、どこから話そうか――」
そこからケトルがイスシズルの元で得た情報を共有してもらった。どうやらこのノースティリスは神々が地上から姿を消してから魔法が世界から失われようとしているらしい。それがいつなのかは具体的な時期は不明瞭ではあるものの、イスシズル――いや、ケトルのかつての弟子であったソリンはその現象を世界の退化と呼称し、魔法が失われる事を阻止しようとしているらしい。そして神々を再び地上へ呼び戻す為に魔石を追い求め、三つの魔石の内の一つを持っているコルゴンを狙っていたと。
しかしケトルの交渉により、コルゴンの魔石を諦める対価として、死者の洞窟に存在する淀みへと赴き、ソリンから手渡された液体を一滴垂らしてきて欲しいと言われたそうだ。
――話が一気に壮大になったな?
軽い気持ちでヒナを連れてきたが、ヒナにとってはいきなり連れてこられて訳の分からない話を聞かされて大変だろうな。
しかし神々を地上へ呼び戻すとは、随分と大胆な事を考えるものだ。しかもこのイルヴァから魔法が失われようとしているとは……。魔術師の端くれである私からしても今回の件は軽視出来る問題ではない。
ぶっちゃけ個人的な感情だけで語るならば、ソリンの行いを全面的に協力したいくらいだ。魔法が失われるなど世界の損失だ。そして神々と相まみえる機会を作れるというのならば、この話に乗らない手は無いのではなかろうか?
しかし気にかかるのはケトルとソリンだ。ソリンはあれだけ大掛かりな事を考えておいて、ケトルという師匠と話しただけで魔石を簡単に諦められるものだろうか。対価を求めてきているとはいえ、ケトルもこちらに全てを話しているようにも見えない。彼等の中で何か密約のようなものを交わしたか……?
「コルゴンの安全の引き換えに淀みへこれを垂らしてきて欲しい……か。洞窟の探索にはこいつの助けが必要だろうが、何か危険があるわけでもないようだし、悪くない取引ではないだろうか?」
ロイテルも私と同じ意見で行く事自体には賛成しているようだ。しかしそこに待ったをかける者がいた。ファリスだ。出たわね。
「ダメです。絶対にいけません!」
「ファリスさん、しかし……」
ロイテルがファリスさんを説得しようと試みるが、ファリスが言うには死者の洞窟には言い伝えが残されているらしく、遥か昔に死者の洞窟にて儀式を繰り返していた不浄なる者が住んでおり、地上だけでなく天界をも脅かしたそいつは神々により滅ぼされ、その不浄なる者から溶け落ちた血肉こそが、黒い淀みそのものである、と。
また話のスケールが大きくなった。もう神話じゃん。いや神々を地上へ戻そうとしているのだから神話の領域の策謀を張り巡らせて当然ではあるのだろうが。
「なるほど、恐ろしい話だ……いやそうか、読めてきたぞ。淀みに垂らすこの瓶の一滴は、数百年後に芽吹く邪悪なのだ。神々も看過できない程の邪悪……神々を再び地上に呼び戻す為の囮餌……そんなところだろう」
イスシズルの頼みを聞けば後の世にとんでもない呪物を残す事になるな、と締めくくり、ロイテルまで死者の洞窟に赴く事に及び腰になってしまった。やだよー行こうよー。
「だがケトルの話ではイスシズルは強大な魔術師だ。この取引を断った時……奴から竜のおチビちゃんを守れるだろうか」
いやぁ、自分じゃちょっとイスシズルには手も足も出なさそうなんで、言う事聞いといた方がいいと思うなー!
「いえ、取引を拒む必要はありません」
意外な事にファリスがイスシズルの言う事を聞く事に賛成した。
ファリスが……かぁ。なんか急に不安になってきたぞ。
「私に良いアイデアがあるのです。この瓶を代わりに持っていきましょう」
そうしてファリスが懐から瓶を取り出してロイテルへと渡す。こうして見るとイスシズルに渡された瓶と似ている気がしなくもないが……。
「む……とても清らかな香りがするぞ。これは……聖水の一種か?」
瓶の蓋を開けて匂いを確かめるロイテルだが、聖水とまで言われるそれはこちらにまで漂ってくる程に強い香りを発している。――なんかどっかで嗅いだ事のある匂いをしている気がするんだが気のせいかな。
「……」
「とても心地の良い匂いだ。とても清々しくて、爽やかで。まるで……そう、まるで洗いたての……」
シャツの香りだな。……ただの洗剤じゃねぇかこれ!
「……」
「……」
「い、いや、中身を聞くなんて野暮だな。妙案だと思うよ、ファリスさん」
ただの洗剤だよそれ。言うに事欠いて死者の洞窟に赴いて不浄なる者の血肉である淀みに洗剤ぶちまけようとしてるんだぞ。頭ファリスすぎるだろ。
「少なくとも、この瓶の一滴が邪心をこの世に呼び戻す事はないでしょう」
寧ろ寝ている所に洗剤ぶちまけられてぶちギレて目覚める可能性の方が高そうだけどな。
「そ、そうだな」
「洗剤……いいのかしら、そんな事して」
良くはないんじゃないかな……。
**********
「ヒナ、悪いがキヴォトスへは先に一人で戻っていてくれ。私は死者の洞窟での用事を済ませたら戻る」
ヒナを誘う事も考えたが、折角の旅行の締めが冒険というのも味気ないし、ここで帰しておいた方が良いような気がする。そもそもヒナはまだキヴォトスの生徒なのだからこれ以上こちらの問題に巻き込むのも気が引けるしな。
「貴方さえ良ければ、私も同行したい。今日は最後まで一緒に居たいから」
ふむ、本人が望むのであれば拒否する理由は無いか。やる事はただのネフィア探索だし、言い伝えがあるとはいえ瓶の中身を淀みへ垂らすだけだから滅多な事も起こらないだろう。多分。
「分かった。それじゃあ準備するからついてきてくれ。念の為イモーロナクともう一人ペットを呼びに行く」
「えぇ」
そうしてヒナを連れてロイテル達と一時的に別れた。
「ひそひそ……ロイテル様、やはり冒険者様は……」
「ひそひそ……あぁ、言いたい事は伝わっている、ファリスさん」
「「少女趣味……」」
「私もこれからはお兄様と呼んだ方が喜ばれるでしょうか?」
「どうだろうな……いや、年上の妹とかいう謎生物もいることだしな……案外いけるかもしれんぞ」
「では私もこれからそう呼んでみる事にします……」
「……ところでファリスさんとあいつはどっちが年上なんだ?」
「女性に年齢を聞くのは野暮ですよ、ロイテル様」
……後ろから聞こえてくるクソ失礼な内緒話に聞こえない振りをしながら。
「お兄ちゃーん!会いたかったにゃー!」
目当てのペットの元へ足を運ぶと、私の気配にいち早く気付いたその子が一目散にこちらへ駆けてきた。
「久しぶりだな妹猫。元気にしていたか?」
「もちろん!イモちゃんからお兄ちゃんの近況は聞いてたにゃ!私もキヴォトスっていう所に連れてって欲しいにゃ!」
「あぁ、今度時間が空いたら案内しよう」
「にゃりーん!」
妹猫は今日も元気そうでなによりだ。
「この子も妹、なの?」
「あぁ、そうだ。この子は妹の中で少し特別で、猫耳が生えていて、何より髪色が他の妹とは違うがな」
普通の妹やイモーロナクは緑色の髪なのだが、妹猫だけは水色の髪をしている。ペットとしての性能も高く、速度が非常に高い。その代わりに生命力が低く、打たれ弱いのでイモーロナクで生命力の低さを補ったり、元からある回避能力の高さを利用して、合成機で手を生やしてアル・ウードを持たせて物理回避を極限にまで高めたりする事が出来る。私は妹猫を異形にしたくないので手を生やす事はしていない。それに私自身の信仰も変える必要が出てくるので猶更出来ない。それでも私のペットとして第一線を張ってくれている頼もしい子だ。
「今日は久しぶりにネフィアへ行くぞ。それとイモーロナクも後で呼んできてくれるか?私は装備を変えに部屋へ戻るから」
「分かったにゃ!久しぶりのお兄ちゃんとのお出かけだにゃー!ヒナお義姉ちゃん後でいっぱいお話しようにゃー!」
「えぇ、わかっ……もう行っちゃった。本当に速いわねあの子」
落ち着きのないところもまた可愛い。しれっとヒナをお姉ちゃんと呼んでいたが、まさか私以外にもそのような呼び方をするとは思わなかった。きっとヒナが認められた証なのだろうな。問題なく仲良くなれそうで一安心だ。
というわけでキヴォトスで暮らしている時のままの装備だったので部屋へ戻って普段ノースティリスで活動する時の装備へ着替える。耐性はそのまま免疫だが、そこに魔法関連の強化エンチャントを全身に乗せた戦闘用の装備だ。このフル装備ならば万が一に強敵が現れてもどうにかなるだろう。
「如何にも魔法使いって感じの衣装ね、これはこれで……」
キヴォトスに居る時は周りに溶け込めるように見た目だけは私服っぽく見えるものをチョイスしていたからな。魔法強化を乗せすぎると、如何なエウダーナである私でも威力が高くなりすぎて時折魔力制御を失敗して若干の巻き込みを発生させてしまう事がある。キヴォトスでそんな事になれば魔法の耐性の無い生徒達は余波だけでも怪我をしてしまう可能性があるので外していた。実際この判断は正解だった。カイザーもベアトリーチェも敵対した奴らはどいつもこいつも魔法強化が無くても相手にならなかったからな。
「よし、準備は出来たし死者の洞窟へと向かおうか」
「死者の洞窟か……ファリスさんの言っていた言い伝えを信じていなかったわけではないが、このおどろおどろしい雰囲気を感じ取ってしまうと本当の事なのだろうな」
死者の洞窟に踏み入れてしばらくしてからロイテルがそのような事を口に出す。確かに雰囲気はかなり暗く、湿度も高くてジメジメしている。最悪なのはこの階層に来てからやたらと増えた繭から大量の蜘蛛が湧いてくることだ。しかもここの蜘蛛の個体は特殊なのか、酸の手を使ってくるようで、耐酸性の装備でなければこちらの装備がボロボロにされてしまう。
「ですがここへ来てから雰囲気ががらりと変わりました。きっとこの階層に淀みがあるに違いありません」
「同感だ。さっきから湧いてくる蜘蛛も気持ち悪いしさっさと終わらせてしまおう」
「そうね。流石に私も身の丈程もある蜘蛛はちょっと怖いわ」
ヒナはそう言うがそれでも蜘蛛程度の相手であれば大して苦労する事もなく倒せている。
「ヒナお義姉ちゃん思った以上に強いね?」
「私もそう思うにゃ。本当に今まで独学で戦ってたのにゃ?」
「えぇ、彼に出会うまでは誰かに教わるという事は無かったわ」
「はぇ~、これが才能ってやつなのかにゃ~」
確かにキヴォトスも戦いの尽きない世界ではあるが、私から見るとどうしても喧嘩の延長線上にしか見えない。そんな環境下でこれだけの腕を磨いているヒナの腕は見事なものだ。トキなんかも戦闘の技術が高かったが、どうやってキヴォトスであれだけ鍛える事が出来るのだろう。
「お兄様、もしやあれが淀みでは?」
「……そう、だな。もう少し近付いてみるか」
「ふむ、あまり効果が無いような……?やはり見た目は重要なのでしょうか」
あほな事を考えているファリスを無視して淀みの元へ向かう。見た目は黒い沼そのものだ。しかし時折気泡が出てきており、それが破裂する時にやたらと生々しい音を響かせるのが不気味で、ただの沼では無い事を直感させる。腐肉を鍋一杯に入れ火をかけてドロドロになるまで煮込めばこの音を再現出来そうだ。
「これが淀みか。覗いているだけで呑み込まれそうだ」
「気味の悪い場所です。用事を済ませて早々に立ち去りましょう」
「賛成だにゃ」
「――では、どちらの瓶を使う?イスシズルに渡されたこの得体の知れない瓶か、ファリスさん特製の洗ざ……聖水か」
ロイテルはあくまで私に選択を委ねるようだ。ファリスさんが付いてきたのは誤算だが、それでもバレないように上手くやってくれるらしい。
さて、どちらを選ぶか。イスシズルの目的を助力するつもりで瓶を入れるか。ファリスに同調して洗剤をぶちまけるか。個人的な感情で言えばやはりイスシズルに協力したい、が。
「ファリスの瓶を頼む」
「間違いないか?――良い匂いだ。この一滴が何を齎すか、見当もつかないよ」
そらそうよ。私も何が起こるか分からないからこっちを選んだ。
イスシズルに協力したいという気持ちは本物だが、ファリスの案を選んだ方が面白くなりそうなので仕方がない。
「よし、では私がこの洗剤――じゃなくて聖水を垂らしてくる」
遂に言っちゃった。洗剤って言いきっちゃったよ。
「もう……貴方絶対面白そうだからって理由で選んだでしょ」
なにやら少し呆れたようにヒナに咎められた。
「私の事をよく分かっているな。嬉しいぞヒナ」
「この選択がノースティリスの今後を左右するかもしれないって状況でその余裕を保てるのは、やっぱり頼りになる証拠かしら」
「うーん、ヒナお義姉ちゃんも大概手遅れだね」
「普通の人なら呆れる場面にゃ。でも私達も似たようなものだから仕方ないにゃ」
これは褒められてると解釈していいのか……?
「おっと、床が……妙にヌメヌメしているな…………あ゛っ゛!」
『あっ』
ロイテルが瓶の中身を垂らすところを皆で見守っていたらまさかのロイテルが足を滑らせて淀みの中へ落ちていった。あれ大丈夫なのか?次這い上がってきた時にはアンデッドに成り果てていてもおかしくないと思うんだが。そう思っていたらロイテルが普通に淀みの中から顔を出してきた。
「私なら大丈夫だ!――ふぅ、全身びしょ濡れ……いやべちょ濡れだな。多少気持ち悪いが、そんなに深くなくて助かった」
這い上がって来たロイテルに怪我や異変も特に無さそうで一安心ではあるが、先ほどまでロイテルが持っていた瓶が見当たらない。しかもイスシズルの物とファリスの物二つとも。
「ハッ!瓶……!瓶はどこに行った……?」
こっちが聞きたいんだけど。
「まさかとは思うけど、二つとも沼の中に――って!?ロイテルさん!」
「ロイテル様――!」
「ファリスさん、ヒナ。私は無事だ。落ち着いて――」
「後ろ、後ろです!」
ヒナとファリスが焦りを見せながらロイテルへ後ろを確かめるように促す。それも仕方ない事だ。何故なら淀みの中から理解の出来ない言語を発しながらこちらへ強い敵意を向ける存在が唐突に現れたのだから。
これって結局どっちの瓶が影響して出てきたのだろうか?洗剤に怒ったのか、イスシズルの瓶が作用して目覚めたのか。
「な、何を言っているか全く分からないが、相当怒っているようだ」
「呑気な事を言っていないでさっさと下がれロイテル」
「おお……不浄なる者アズラシズル……かつて地上を恐怖に陥れ、神々に封印されし邪神です……!」
ふむ、ではあれも一応神という事か?また封印された神格というのが納得いかないが、地上から神が居なくなっている以上仕方ない事ではあるか。はぁ……どこかに本物の神格が転がっていたりしないだろうか。
「これが淀みの正体……いずれ芽吹く災いの種か。ちょうどいい、そんなものは今ここで刈り取ってやる。流石の邪神もそのフレッシュな香りでは思う存分に力を発揮出来まい。――さぁ、我らが冒険者、後は頼んだぞ!」
刈り取るなどと大仰な事を言いながら私の後ろへ隠れ始めるロイテルとファリス。なんなの君達。前線へマステレポートしてやろうか。
「……まぁいい。三人共、構えろ。二度目の神殺しの時間だ」
「りょーかい!」
「にゃりーん!」
「私は初めてだけど、やるだけやってみるわ」
私達が戦闘体勢に入った事を確認したのかアズラシズルは更に理解の出来ない言語を発した。すると周囲の全ての繭が蠢きだし、次第に蜘蛛が這い出て私達を包囲した。
「うげぇ!?この数はめんどくさいって!?」
「三人はアズラシズルに集中しろ。周りの雑魚は私が掃討する。ヒナは衝撃の唄を唱えてとにかく撃て。だがイモーロナクの守備範囲からは出ない様に気を付けてな」
「了解」
「妹猫はいつも通り相手の懐へ斬り込んでくれ。イモーロナクは二人の守護」
「はーい!」
「切り刻んでやるにゃー!」
大まかな指示を出してからアズラシズルの鈍足をかけ行動に枷をかける。それから周囲に目を向けると既に蜘蛛は動き出してまとめてこちらへ近づいてきていた。
「まとまって動いてくれて助かるよ。殺しやすくてかなわん」
地面を強く踏みしめ、地震を発動させる。私を中心に地面が隆起するほどに激しく揺れ、次第に地割れすら引き起こす。地震に巻き込まれた蜘蛛は隆起した大地に激突し絶命するか、あるいは地割れの中へ落ちていき、間もなく周囲に湧いた蜘蛛は全滅した。
「んぎゃああああ!いたいっ!――お兄ちゃん!魔法強化してる時の地震はだめって言ったでしょ!衝撃耐性は積めないんだよお兄ちゃん!」
「すまない、すっかり忘れていた。全力で魔法を使うのなんて久しぶりでな」
どうやら味方を巻き込んだ地震が制御し切れずイモーロナクへ幾らかダメージが入ってしまったらしい。とはいえイモーロナクの耐久ならこの程度耐えるし大丈夫だろう。一応詫びの意味を込めてオディナの癒しをかけて回復はしておく。
「前に見た時の地震はこんなに地形がめちゃくちゃにならなかったのに……魔法強化ってすごいのね」
ヒナが感心したように言うが、むしろこれがなければ魔法使いは始まらない。とはいえ近接よりは装備を用意するハードルは低いので楽な部類ではある。その代わり装備を集めきる事が出来れば物理の方が火力が出る。魔法使いの私にとっては言ってて悲しくなるが。
これが世界から魔法が失われている影響だというのか……!!!
「――――!」
アズラシズルが理解不能な言葉を紡ぎ出しながら私に対し魔法を唱えてきた。だが使ってきた魔法は神経の矢。イモーロナクは耐性を揃えているのでダメージは――
「いたっ。お兄ちゃん、こいつ古代種だよ!」
腐っても神か。少しイモーロナクの耐久に目を配っておいた方がいいな。不慮の事故でイモーロナクが死んでしまったらその隙にヒナが狙われてしまったら殺されてしまう。
「――!!」
通常の魔法で効果が薄いと判断したのか次は災いを放ってくる。この魔法は対象の運を下げつつ、命中率も下げてくる地味にめんどくさいデバフを持っている。しかし全浄化を使えばすぐに治せるので問題はない。
「……は?」
災いが命中した途端、デバフをかけられた感覚以外にも何かが抜け落ちる感覚が体中を駆け巡る。この感覚は……。
「面倒な……こいつ異端審問のフィートも持っているのか」
異端審問のフィートは災いの魔法を放った時に、対象の信仰している神の加護を一時的に打ち消す効果を持っている。つまり、今の私はエヘカトル様の加護を受けられない。
「良い度胸だ。殺してやる……殺してやるぞ、アズラシズル……!」
私からエヘカトル様を寝取った罪は重いぞ……!
「既に死んでいるのならばこれはよく効くだろう。神聖属性を嫌と言うほど浴びせてやる」
神聖属性を持つ光の光線を魔力の続く限り撃ち続ける。これはかなり効いているようで傍目に見ても悶えているのが手に取るように分かる。
「一度は神々に殺された分際が……図に乗るなよ……!」
「お兄ちゃんめっちゃキレてる……」
「エヘカトル様の加護取られちゃったからにゃー。信者の鑑だにゃ」
「でも浮気はするのよね……」
「あれはノーカンにゃ」
「信仰リレー?は冒険者のたしなみらしいよ?よく分からないけど」
「そ、そうなのね……。一応私達も引き続き加勢しましょうか」
「だにゃー。早めに殺してあげるのが多分アズラシズルに対する慈悲ってやつにゃ」
あれからアズラシズルもそれなりに抵抗を見せてきたが、結局イモーロナクの耐久力を突破する程の火力を見せる事は無かった。既に死に体の状態であり、後何発か攻撃を入れれば死ぬだろう。
「――よし、全員一旦攻撃を止めてくれ」
「ありゃ?もしかして回復させる気?」
いやそんな事は流石にしないが。とはいえ初見の敵なのでやっておかねばならない事がある。
「媚薬を投げて乳と卵を回収しておく。こいつとは再戦出来るのか不透明だしな」
「あ、なるほどにゃー」
「えっこれを媚薬漬けにするの……?」
乳と卵目的なのでペットにするつもりはない。というか多分出来ないだろう。こういった強敵がペットに出来た試しがない。ヒナはキヴォトスでの媚薬の使い方しか知らないからびっくりしているのだと思うが、向こうでの媚薬の使い方がちょっとばかし特殊なだけなので忘れて欲しい。
「――よし、これくらい投げれば十分か。ヒナ、トドメを刺せ」
「分かったわ」
ヒナが銃を構え、一際大きな銃声を鳴らしながら銃を乱射する。まるでビームでも撃っているのかと錯覚するほどに分厚い弾幕だ。こんな撃ち方まで出来るのか、ますます素晴らしいな……。
「――――――」
瀕死だったアズラシズルはヒナの射撃に耐え切れずそのまま息絶え、ゆっくりと淀みの中へと再び沈んで行った。
「おめでとーヒナお義姉ちゃん!これでお義姉ちゃんも神殺しだね!」
「めでたいにゃー!帰ったらお祝いのパーティーだにゃ!」
「ありがとう。みんなのお膳立てのおかげよ」
ヒナ達が仲良く話している間にアズラシズルの落とした卵と乳を回収しようとしたのだが、悪臭が凄い。どこから漂っているのだろうと視線を彷徨わせたが、どうやら卵から発せられている。こ、こんなにくさい食材は初めてだ……!これどう調理すればいいんだ?
匂いが強烈すぎるのでさっさと鞄へ閉じ込めて匂いを封じる。鞄に悪臭がこびりついて離れなくなりそうだが文句は言えない。鑑定してみたところ臭いのせいで感覚がだいぶ下がるが、魔力の伸びは非常に良い。どうにか上手く調理出来れば魔力飯の更新が出来るかもしれない。食材の組み合わせは今度ゆっくり考えるとしよう。
「三人共お疲れ様。特にヒナは初めての神との対峙だったのに本当によくやった」
「イモーロナクが身体を張って守ってくれたおかげ。私一人だと勝てなかったわ」
それは仕方ない。私なら一人でも勝てた可能性はあるかもしれないが、私のペット達は基本的に何かに特化しているので回復役のペット以外は回復手段を持っていない。なので妹猫であってもアズラシズルには一人で勝てたかは分からない。
「もっと自信を持て。ヒナはヒナの役割をきちんと果たせたのだからな。私達はパーティーなんだから、一人であれこれしようとする必要は無い」
「そう……だったわね。ありがとう」
そういえばヒナは長い事ワンマンで風紀委員会をまとめ上げてきたんだったな。それなら根本の考え方として一人で全てこなそうとしてしまうのも当然か。この辺りは少しずつ修正していけばいい。あるいは本当に一人で何でもできるペットに仕上げるか。その方針の教育も面白そうだな。やってみる価値はあるかもしれない。
「おお、倒したんだな?やったな!」
「お見事です、お兄様」
遠目からこちらを観戦していたロイテルとファリスが戦闘の終わりを察してこちらへ近づいてきた。
「あの化け物が出てきた時はもうダメかと思ったが、終わってみればなんとかなるものだ」
なんとかしたのは私達だけどな。
「イスシズルもとんでもない奴だ。遠い未来とはいえ自らの野望の為にこんなものを世に解き放とうとしていたとは……しかし、これでは奴との約束果たせないな……」
そこは少し懸念していた部分ではある。結局アズラシズルがどちらの瓶の影響によって目覚めたか分からないので、洗剤にぶちギレて目覚めていた場合、こちらにとっては非常に都合が悪い。
「私達は何も見なかったし、ここでは何も起きなかった。――いいですね、ロイテル様」
「そう、だな。奴が簡単に信じるとは思い難いが、そう話すしかない。よし、一先ずは拠点に帰ってイスシズルを待つとしよう」
それから拠点へと戻り、イスシズルが拠点へ訪ねてくるのを待った。しばらくするとイスシズル改め、ソリンがやってきたのでロイテルが事の顛末を適当に誤魔化しつつ話したのだが、思いの外ソリンはそれをすんなりと信用した。どうやらソリン側からも淀みに反応があったのには気付いていたらしく、淀みの中に眠るかの者の力が増す事は好都合、らしい。
……ちなみに淀みの中に眠ってたのってアズラシズルの事じゃないよな?私達が殺してしまった事には気付いて無さそうだけど、間違ってもアズラシズルの事ではないよな?
そして報告に満足したソリンが古城へ向かうそうなので見送りだけでもと思ったのだが、そこでケトルが恐ろしい事を口にしてしまった。
「良かったら君の魔力が戻るまでここで暮らしてみないか、ソリン?」
「「……スーッ」」
私しーらねっ。キヴォトスへ帰るぞー。
えー、自分は普段安定版で遊んでいるのでまだ体験はしていないのですが……。
この度、nightly版にて結婚が実装されました!!!
エウダーナは重婚フィートが追加されたりしているようです。そしてこの小説のティリス民はエウダーナです。我ながら先見の明がありすぎるな?
スライムという種族が追加されたりもしているようで、安定版が来たらスライムで遊んでみようかと思っています。どこまで調整されるかは分かりませんが、PCにも合成でしか付けられないフィートを得られるようになるみたいで、スライムが最強種族であるカオシェを超えられるのか期待ですね。とはいえいずれ他種族でもフィートを得られる調整をするみたいではありますが。神。
まーた名声上げやらすくつやらやり直すのめんどくせぇ~!
次の安定版が楽しみです。
文字数の問題で最後の方は若干巻きましたが、次回から本編へ戻ります。