透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

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アリウスでのあれこれ

「ば、ばにたしゅぅ……」

「あぁっばにちゃんが、ばにちゃんが……!」

「ゲヘナの人に高速でほっぺをむにむにされた事で頬が膨らんでる……!」

「これはこれでもちもちしててありじゃない?」

 

 

 

舐めた真似をしてきたばにたすっ子を軽く揉んでやり、アリウスの生徒達がご飯を食べ終わるのを待った。どうやらカレーは初めてのようで皆美味しそうに食べている。

 

「姫ちゃんこれひゅごくおいひぃでふねっ」

 

「そうだね。でもちゃんと呑み込んでから話してね」

 

ヒヨリも満足しているようで何よりだ。そうしてしばらくしてアリウスの生徒達が食べ終わり、小休止を挟んでいたところでこちらから皆に声を掛ける。

 

「さて、全員食べ終わったようだな。今日からいきなり環境が変わり出して戸惑いを覚えている者もいる事だろう。作業を始める前に質問を受け付ける時間を設けると言ったから、今の内に何か聞きたい事があれば答えよう。何でもいいぞ」

 

まぁばにたすっ子のように既に適応している者もいるが、あれは多分稀なタイプだろう、きっと。質問を促してからアリウスの生徒達の様子を伺うが、どうやら何を聞けばいいのか分からないようで戸惑っている。というより、聞きたい事が多すぎてどれから聞けばいいのか分からない、といった感じか。

 

「では、私から。アリウスはこれからどうなるのでしょうか」

 

何を聞くか悩むアリウスの生徒達を横目にスバルが先んじて質問を投げかけてくれた。こうして先陣を切るところが慕われる理由なのだろうなと思いながら質問の答えを考える。

 

「そうだな……まず、マダムの様な大人が学校を支配する事は無くなる」

 

今は私と先生が支援しているが、いずれはアリウスの生徒会を改めて発足し、他の学校と同じように自立して健全な学校生活を送れるようにするのが目標だ。その為の準備として、今日はアリウスの生徒達が最低限の生活を送れるように家を建て直した。いずれは学校、そして自治区も建て直すつもりでいる事を話す。

 

「私達だけで生活とか出来るの……?」

「なんと驚き、全然出来る気がしないよね」

「驚く要素どこにも無いけどね」

「ばにたすっ!」

 

「誇って言う事ではないぞそこのバカ共。だが、先刻食べたカレーの作り方を知りたくはないか?これらの料理を自分で作れるようになれば、どうなると思う?」

 

「バカって言われた……」

「どうなると思う?」

「分からんのか。私にも分からない」

「バカ共め。いつでもあのカレーを食べられるようになるのだ」

「て、天才か……!?」

「ば、ばにたすっ……!?」

 

そういう事だ。腹が空いている人間に魚だけを与えても意味は無い。釣りの仕方を教えて初めて自立を促せるようになる。私達がこれから行うのはそういう事だ。ベアトリーチェはアリウスの生徒を徹底的に管理する事で回していたので、今のこの子達にはそういった知識が足りない。

 

「とはいえ、だ」

 

今ここにいる生徒の中には、ベアトリーチェに支配されていた方が良かったと思う層も少なからずいるかもしれない。未だにトリニティやゲヘナに対する憎しみを燻ぶらせている者は特にそう感じるだろう。

 

「こちらからも聞こう。お前達、トリニティが憎いか?……ゲヘナが憎いか?」

 

現状では私個人に悪感情を向ける者は見当たらない。だがこれは私が今アリウスに対して支援をしているのと、ゲヘナの学生という訳ではないので憎悪の対象から外れているだけという可能性もある。実際質問を投げかけてみると、気まずそうに表情を歪める者をちらほら見かける。

 

無理もない事だ。せっかく復讐の機会が近付いてきていたというのに、よく分からない大人二人が介入してきたうえで怨敵であるトリニティとゲヘナに良い様にやられ、更にはトリニティに治療された上で報復すらもされる事はなかったのだから。これを屈辱と感じてしまうのは至って普通の感情だと私は思う。

 

「だから、お前達の抱く感情を否定するつもりは無い」

 

「――それは、私達が再びトリニティへ復讐へ走ったとしても許す、という意味ですか?」

 

話を聞いていたアリウスの生徒がこちらへ質問を投げかけてくる。様子から見てトリニティへの憎しみが捨てられない者の一人だろう。

 

「許す。それがお前達の判断であれば、私は尊重しよう」

 

本当にアリウスがそういった判断を下し、トリニティと敵対した場合はナギサとセイアから直接助力を求められない限りは静観する事にした。ゲヘナへ来たら容赦なくしばき倒すからこっちには来ないで欲しい。

 

「最終的な判断はお前達に委ねる。そして、私達がこうしてアリウスにあれこれと手を入れる事に不満のある者がいたならば、このアリウスから離れる事もまた許す」

 

私達の手を借りずとも自立出来ると豪語するのならば、それを止めるつもりはない。とはいえ、キヴォトスで学校の庇護から離れる事は死を意味する、とまでは流石にいかないが、学籍を持たない生徒――いわゆる不良達の扱いは良いものとはとても言えない。様々な知識が欠落しているアリウスの生徒が不良として生きていくのは殊更難しいだろう。受けられる仕事も限られるだろうし、下手すればベアトリーチェに支配されていた頃より酷い扱いを受ける可能性だって無くはない。

 

「そういった事もあるので今すぐ出ていくのはあまり推奨出来ないが、こちらとしては止めるつもりは無い事は明言しておく」

 

「そうだね。でも、出来れば学校を離れる事はして欲しくないのが本音かな。転校ならいつでも受け付けるから、もし他の学校が気になるって人がいたら教えてね」

 

転校か。確かにその手も有りだ。アリウスから転校した生徒と言えばアズサだが、あの子もアリウスでありながら今はトリニティで馴染んでいる。彼女の精神性はちと特異にすぎるので参考にはしにくいが、学籍を無くしてまで出ていくくらいなら転校して新しい環境でやっていく方が良いかもしれない。

 

「転校ってなに……?」

「アリウスから他の学校に移る事だよ」

「もし行くならどこに行きたい?」

「正直ゲヘナが気になってる。あの人がいればご飯食べ放題だよ」

「おぬし、天才か?」

「ばにたすっ?」

 

「……まぁ、考えておいてくれ。もしアリウスから去ろうとしている者がいた場合、出来れば他の者は邪険にせず快く送り出してやって欲しい。そして、もし新しい環境に馴染む事が出来ずその子がアリウスに戻ってきたら、その時はまた歓迎してやってくれ。排斥される苦しみに関しては、お前達がよく知っているだろう?」

 

トリニティから排斥されたアリウスが、今度は仲間内で排斥し合ったりしてしまっては笑い話にもならない。アリウスは長い間内戦が続いていたという話もあるし、そのようなくだらん事を繰り返されても困る。

 

『はいっ!』

 

「良い返事だね。皆それぞれトリニティとゲヘナに思うところはあるかもしれない。それでも、一度ここで手を止めて考えてみて欲しい。自分がこれからどう生きるのか、見つめ直す時間だと思って考えてみて。答えを出す為の手伝いは幾らでもするからね」

 

 

 

さて、こちらの言いたい事は一通り伝え終えたか。これでアリウスがどういう判断をするのかは分からない。明日には居なくなっているアリウスの生徒もいるかもしれないが、それは仕方のない事だと割り切るしかないだろう。

 

……まぁ、たった一日で家と寝床が用意され、この話をする直前に美味い飯を食った後でその判断を出来る者がどれだけいるのか見物ではあるが。今までのアリウスの環境からして、劇的に改善された今の環境は手放し難いものがあるはず。

 

だからこそこのタイミングで今の話をしたのだ。なるべく離反者を減らす為にな……!

クククッ、出て行けるものなら出ていくといい。私手製のカレーは食えなくなるがなぁ!

 

「どうしてあの人は良い話をした後にあんな悪い顔をしているんですか?」

 

「さぁ、どうせロクな事考えてないでしょ」

 

聞こえてるぞダウナー黒髪コンビ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお前達に釣りを教える。各自渡した釣り竿と釣り餌を使ってこの池で釣るんだ」

 

翌日、再びアリウスの元へ赴き今日は釣りを教える事にした。ちなみに先生はアリウスの件を連邦生徒会に話を通すとの事でD.U地区へ戻っているため不在だ。なのである程度羽目を外しても許される日だ。

 

「本当に釣りするんだ……」

「それよりあの人の後ろにある像はなんだろ?」

「すんごい金ぴか」

「乳でけぇなあの像。ヒヨリかよむかついてきた」

「ばにたす」

 

「この像は幸運の女神であるエヘカトル様を象った神像だ。今日お前達が釣った魚は全てエヘカトル様へと捧げられる。なお、坊主だった者は今日のご飯は抜きだ」

 

「横暴だー!」

「釣り初心者が簡単に釣れると思うなー!」

「そうだそうだー!」

「カレーを食べさせろー!」

「ばにたーす!」

 

やかましい奴らめ。一応今日釣りをするのにも意図があっての事だ。

そもそもアリウスがトリニティと決別に至った大元の原因は、第一回公会議によって併合を拒否した事から始まっている。そしてアリウスとトリニティでは、宗教の解釈の違いがあったらしい。

 

そう、宗教による解釈違いは大きな問題を孕む。私はエヘカトル様にはクミロミ様がお似合いだと思うのだが、もし別の信者がマニ様をエヘカトル様のお相手として推そうものなら、私は怒りのあまりそいつとそいつが暮らしている町を木っ端微塵に破壊してしまうだろう。

この様にアリウスがトリニティとの併合を拒否した理由には、恐らく宗教関係が根底にある。きっと、多分、恐らく。そういう事にした。そこで私は名案を思い付いてしまったのだ。

 

 

――アリウスをエヘカトル様の信者へと変えてしまえばいい、と。

 

 

エヘカトル様は信者が増えてにっこり。私もにっこり。アリウスの生徒も争いの大元が消え、更には食料の調達も出来るようになりにっこり。全員が笑顔になれる素晴らしい計画なのだ。

 

「皆落ち着け。文句を言いたくなるのは分かる。しかし!今エヘカトル様へ入信すれば……なんと!エヘカトル様のご加護を得る事が出来る!そしてその加護の中には……」

 

「な、中には……!?」

「ば、ばにたす……!?」

 

「釣りが上手になる加護がある!」

 

『おぉ……!』

 

ちなみにこれは本当だ。エヘカトル様は幸運の女神と呼ばれるだけあり、一番恩恵が高いのは運だが、釣りも上がる。恐らくエヘカトル様が魚を好まれるからだろう。

 

「どうだ?信仰したくなってきただろう?今すぐエヘカトル様の像の前にある祭壇で祈れ!さすればお前達に光が訪れん!」

 

『おぉー!』

 

この場にいる半数の生徒達が我先にと祭壇の元へ訪れる。一番最初に祈りを捧げた生徒は暫くしてからエヘカトル様へ祈りが届いたのか、体が淡く光り始めた。セイアがエヘカトル様の御声を頂戴していた事から予測していたが、やはりキヴォトスの生徒でも信仰は問題なく出来るようだ。

 

「ばにたぁぁぁっす!」

「ば、ばにちゃんが光った……!」

「ご加護って本当だったんだ……!」

「早く私も祈りたい……!」

 

よしよし、ばにたすっ子が光ったのを見て半信半疑だった者も信じ始めたのか更に人が集まり出してきた。そして、この短時間でアリウスの七割以上をエヘカトル様の信者へと変える事に成功した。素晴らしい!

 

――えらい!はまぐりあげる!

 

あ~エヘカトルしゃま~♡

 

 

 

ちなみにペットであるミサキ達は祈る事無く釣りを始めていた。何故……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

釣りを始めてしばらく経ち、既に全員が最低一匹以上の釣果を得ている。これで飯抜きになる可哀そうな子が出てくる事はなくなって一安心だ。改めて周囲の様子を伺ってみると、とある子が一人で静かに釣りをしていた。邪魔になるかとも思ったが、せっかくの機会なので声を掛けに行く事にした。

 

「隣良いか?ミサキ」

 

「……好きにすれば」

 

「では遠慮なく」

 

一言声を掛けて隣に腰掛ける。ミサキは変わらず竿を片手にぼーっと池を眺めている。

 

「これ、何が楽しいの?」

 

これとは抽象的だが、状況から見て釣りの事を言っているのだろう。

 

「釣りはミサキには肌が合わなかったか?」

 

「……別に。こうして一人で過ごせるのは悪くない」

 

なるほど。確かにミサキはどちらかといえば物静かなタイプだし一人で過ごすのが好きというのは納得だ。

 

「貴方は好きなの?釣り」

 

無論私は釣りは好きだ。釣った魚は食材として使えるし、エヘカトル様への貢ぎ物となるのでどれだけ釣れても困らない。もしも余る事があれば魚をかつおぶしにして醸造樽にぶち込んでおけばワインになる。それを売ればそれなりの金策にもなるのだから、嫌いになる要素がない。

 

「ま、そうだよね。人の事は釣っておいて今の今までロクに話しかけにこなかったけど」

 

「…………今餌をやりにきた、という事で勘弁してもらえないだろうか?」

 

「遅すぎ。……暫くしたらアリウスに来る機会も無くなるくせに」

 

「す、すまない」

 

確かに私がこうしてアリウスへ通うのは今だけだが、もう少し時が経てばテレポーターが使えるようになって私の拠点とここの拠点での行き来が一瞬で出来るようになる。そうなれば今よりも楽に会えるようになるだろう。

 

 

「なにそれ、意味分かんない。……はぁ、心配して損した」

 

もしや私がアリウスへ来なくなる事で会う機会が減る事を危惧していたのか?言動は素直じゃない部分も多いが、私と会えなくなる事を寂しく感じていてくれていたのかと思うと少し嬉しくなってしまった。少しでも安心させられるように頭を撫でながら言葉を続ける。

 

「テレポーターを使えるようになったらいつでも会いに来てくれ。無論、私からもミサキ達に会いに行く」

 

「……子ども扱いしないで」

 

そう言いながらも手を除けようとはしない辺り嫌がってはいないみたいだ。とはいえあまりやりすぎるとミサキも恥ずかしがるだろうからこの辺でやめておこう。

 

「それは悪かった――っと、ミサキ。ひいてるぞ」

 

「あ、ほんとだ――って、引き強い……!」

 

ミサキの竿がヒットしたはいいものの、中々の大物が餌に食いついたのか釣りあげるのに苦労している様子だ。堪らず中腰の姿勢となって竿を上げようとしているが若干獲物側が有利といった感じか。このままではミサキごと餌を持っていきそうだ。

 

「私も手伝おう。しっかり竿を握っていろ」

 

「お願い……!――って、どこ触ってるの!?」

 

ミサキが竿ごと持っていかれない様に後ろからミサキのお腹を片手で抱え、もう一つの片手を釣り竿を握るようにしていたのだが、この状況なので今は許して欲しい。

 

「今は我慢してくれ。ほら、引き上げるぞ。せーのっ」

 

「くっ――あ、釣れた」

 

おぉ、鮫が釣れたな。

 

「なんで池からこんな大きな魚が釣れるの?深さ的にありえなくない?どこから現れたのこの魚」

 

そういうものだしな。これより更に大きなクジラも釣れるからあまり細かい事を気にするものではないと思う。

 

「ほんと、意味分かんない。……ねぇ、いつまで私の事抱きしめてるつもり?」

 

「あぁ、すまない。今離れ「離せとは言ってない」……そ、そうだな、うん」

 

ミサキの扱いも難しいなぁ……。この素直じゃない感じ、なんだかアコを彷彿とさせる。

 

 

 

 

 

「じー……」

「スバルせんぱぁい!あの人ミサキ先輩といちゃついてますよぉ!」

「こんなん許しておけねぇよなぁ!?」

「泥棒猫がよぉ!」

「ばにたぁぁぁぁすっ!!!」

 

「えぇ、そうですね。よくありませんね。……本当に、よくありませんね」

 

 

 

 

 

「……いつか本当に後ろから刺されても知らないから」

 

急に何を言い出したかと思えば、なるほど。スバルが凄い目でこちらを見ていた。……なるほど。

 

どうすればここからスバルの機嫌を治せるか考えてみたが、ここからミサキの元から離れてスバルの所へ行けば多分ミサキが拗ねる。しかしこのまま状況を維持したままでいると次はスバルの機嫌が更に降下する。――さては詰みだな?

 

「自業自得でしょ。これに懲りたらこれ以上ペット増やさない方がいいよ」

 

 

それはちょっと難しいかな。

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