「はぁ、結局見つからずじまいだったわね。契約書……」
道中、セリカが疲弊した様子でトボトボと歩きながら呟く。
あれからアビドスの学校をひっくり返すような勢いで血眼になって探していたのだが、残念ながら見つかる事無く日が暮れてしまった。見つからないものはしょうがないので今日のところは諦め、解散しようと提案したのだが時間が夕飯時で丁度良いからと、以前話に聞いたアビドスが普段贔屓にしているラーメン屋へ行こうという話になり、今はそこへ向かっている最中だ。
「はぅ、ごめんねみんな……」
「原本はネフティスが所有しているでしょうし、契約金を払う時に再発行してもらいましょう」
それが一番丸そうだ。これ以上契約書の話を続けるとユメが罪悪感でまたもや泣いてしまいそうなので適当に話題を逸らす事にしよう。
「今向かっている柴関ラーメン、とは確かアル……正確にはハルカが綺麗に爆破した店だったか?」
「そうだよ~。今は店じゃなくて屋台だけどねぇ」
「セリカちゃんのアルバイト先でもありますね☆」
なるほど、そりゃ一度は便利屋と敵対するわけだ。アルバイト先を爆破されるなどセリカからしたら堪ったものではなかっただろう。
「あの時は確かにムカついたけど、あれから改めて大将にお詫びしに来てたし、たまに客として来るようになったから今は気にしてないわ」
「この前アビドスに遊びに来ましたよね」
「ん、ユメ先輩を蘇生したのが本当かどうか確かめに来てた」
うん?……あぁ、そういえばヒナと一緒に魔法を教えた時にユメの事をヒナが何となく教えていたっけか。じゃあユメも便利屋とは既に面識はあるのか。
「あるよ!アルちゃん達凄く良い子だったなぁ」
「まぁ、それは確かに認めるが本人には言わないようにな」
そんな事を言ったらアウトローを目指しているアルは落ち込んでしまいかねん。
「着いたよ~。ここが柴関ラーメン……なんだけど、先客がいるね?」
そうだな。しかも中々にタイムリーというか何というか。噂をすれば、というやつだ。屋台の席には見覚えのある四人組が席に着いている。
「あれ、お兄さん?それにアビドスの皆も、奇遇だね」
「カヨコ?――あら、顧問じゃない。貴方もここのラーメンを食べにきたの?」
「およ?アビドスのみんなおっひさー!それにおにーさんも!」
「こ、こんばんは……」
便利屋がこちらに気付いて声を掛けてきた。私は便利屋にはちょくちょくご飯をご馳走しているので久しぶりという感覚はあまり無いが、彼女達がこうして外食しているという事は今日はお金に余裕があるのだろうか。
「こんばんは。まさかここで会うとは思わなかったな。君達は依頼でアビドスへ来てたのか?」
「えぇ、そうよ!今日もきっちり依頼をこなしてきたわ」
「へぇ、てっきりまたラーメン一杯を四人で分けるのかと思ったけど、今日は大丈夫そうね」
「ちょ、ちょっとセリカ!顧問の前でそれは――!」
いや、前にもカップ麺を分け合ったり野草探しをしていたなんて話を聞かされているから特段驚きは無いが……。余程私には知られたくなかったのか、アルが凄い顔をしながらあたふたしてしまっている。どうにか上手く励まそうと言葉を考えていると、屋台の奥から声を掛けられた。
「お、セリカちゃん達も来たのかい?いらっしゃい!」
声を掛けてきたのは柴犬が服を着て二足歩行している人物だった。アビドスの生徒達が気さくに挨拶を返している様子を見るに、恐らく彼がこの屋台の店主なのだろう。柴犬はノースティリスにも存在しているが、私の知る柴犬は四足歩行だ。柴犬って二足歩行出来たんだな……忠誠心フィートは持っているのだろうか?
「そっちの人は初めましてかな?もしかして彼が――」
「ん、ユメ先輩を生き返らせた訳わかんない人だよ。すごい強い」
「大将気を付けてね。この人シロコ先輩以上に倫理観無いから」
どういう紹介の仕方してくれてんの?
「……初めまして。普段はゲヘナの風紀委員会で活動している者だ。故あってアビドスともこうして時折交流を深めている。便利屋ともそうだな」
「話には聞いてるよ。先生だけじゃなく他にも頼れる大人が増えたなら俺としても安心だ」
キヴォトスにはどうやら先生の様な信用に足る大人は少ないらしいのだが、柴大将はその中でも数少ない善良な大人のようでアビドスの子達も信頼している。確かにこうして話しているだけでもその善性が伝わってくるくらいには雰囲気の良い人だ。
「そういえば、貴方って風紀委員会なのに便利屋と仲良くして大丈夫なの?」
ホシノが純粋な疑問をぶつけてきた。当然ながら良くは無い。ヒナには戦闘顧問である事はバレているが、これがもしアコにまで知られてしまったら大変面倒な事になる。何故かあの子は便利屋、というよりカヨコに対して強い敵意というか、対抗心に似たものを抱いているからな。そのせいでたまに便利屋への捕縛要請を私に送ってきたりする事もある。仕方が無いのでその時は大人しく便利屋を捕まえに行く事もあった。
「くふふ、でも捕まった時は必ず差し入れを持ってきてくれるよね~」
「脱獄も見逃してくれるしね。ある意味じゃ前より風紀委員会を相手するのが楽になったよ」
「……いいの?それ」
バレなきゃ問題ない。
「へぇ……ネフティスとの契約ね」
注文した柴関ラーメンを待ちながら雑談がてら便利屋と今日の出来事を話したりしていた。
「はいはーい!ムツキちゃん質問がありまーす!」
「うむ、なんだねムツキ君」
「くふふっ♪話を聞いた感じ、その契約をしたとしてもアビドスには一銭の得にならなくなーい?アビドスの子達だって大変なのに見返りの無い契約にお金出しても大丈夫?」
確かに現状ではあの契約で砂漠横断鉄道の施設使用権を手に入れたところで何の意味も無い。それでもアビドスが買い戻そうという気持ちになったのは、ユメの遺志――もとい意思を尊重してのものだ。ムツキもそれは理解しているのだろうが、それでも多額の借金がある中でそちらへお金を回す事を心配しているのだろう。
「ムツキの疑問も最もだ。だが、投資という意味では悪くない選択だと思う」
「そうなんですか?」
アヤネが私の言葉に反応するが、他のアビドスの子達も言葉の意味を図りかねているのかこちらに注目している。
砂漠横断鉄道……というより営利目的の組織には大前提として、利益を生み出せるかどうかで事業の可否を決める。私も利益を生み出せると踏んでいるからこそ、ブラックマーケットや他の店に投資を続けているし、ノースティリスで多額の金を支払って土地を買い、そこで農業をしたり観光業や宿泊業を営んだりしている。
……ノースティリスでの観光業に関しては想像以上に儲けが少なくてがっくりきたが。
だからこそアビドスで行う観光業は私にとってのリベンジでもあるのだ。いっそビナーだけでなく、ノースティリスのモンスター系のペットを呼び込み、動物園のようなものを作っても良いかもしれない。ヨウィンには暴力的な可愛さを持つ動物である猫と触れ合える場所があり、およそ田舎とは思えないほどに盛況している。そういった触れ合いの場をキヴォトスに設けるのはアリだと思うんだよな。ビナーが受け入れられつつあるなら猫もドラゴンもいけるだろ。
話を戻して、現状ではネフティスとしては以前にも失敗した経験があるので、アビドスに鉄道を敷く理由は無い。既に砂漠化によって過疎化が進んでしまっており、鉄道を敷いたところでそれに乗る人が居ない。つまり利益が生み出せない。しかし、アビドスが今後人を呼び込む事さえ出来れば、それに気付いたネフティスはアビドスに金を投じる意義を見出す可能性がある。
アビドスを上手く観光地化出来れば観光客で人が増える。観光客が増えればそれを目当てにした商人が店を始める。商人が増えればそれを目当てに更に客や他の商人も寄ってくる。そうなればアビドスで居を構える事を考え、定住する人も増える。そうして人が増えていけば必然、鉄道という移動手段が欲しくなる。ネフティスがその商機を見逃す事はないだろう。
そうなった時初めて今回結ぶ契約に意味が出てくる。契約にある関連施設というのがどこまでを指し示すのかは現状では不明瞭だが、観光業に併せてそれを用いれば、少なくともこちらが出した百万以上の利益を生み出せるはずだ。
「今話したのはあくまで理想ではあるが、いずれはこの契約の華咲く日が来るかもしれないという事だけ今は覚えておけば問題ない」
結局は金の回るところに人は集まる。砂漠化が進んでいる関係上、食品関連の生産業を行うのは難しいかもしれないが、キヴォトスであれば戦争が起きるとも考えにくい。食べ物は外部から仕入れれば問題ないだろうし、集まった商人が勝手に仕入れてくれるだろう。
「ちょっとした疑問だったのに思ったより具体策が出てきてムツキちゃんびっくり」
「さ、流石は私達の顧問ね!ち、ちょっと本気でびっくりしたわ……」
私が語ったのはどこまでいっても理想でしか無いので実際にやろうとすると上手くいかない部分も出てくるだろう。しかし、夢を語るだけならばどれだけ大きく掲げようと自由だ。でなければ面白くない。
「そうね!夢は大きければ大きい程良いんだから!アビドスの皆、頑張ってね!」
「はい☆任せてください!」
「いつか本当にアビドス砂祭りも出来るようになるといいね!ホシノちゃん!」
「――そうですね。うへ、ほんと、頭上がんないなぁ」
「アビドスの復興か……本当にそうなると良いな。さて、ラーメンお待ちどうさん!」
今後の展望を軽く語ったところで丁度ラーメンが出来上がったようだ。キヴォトスのラーメンを食べるのは今回が初めてだ。ノースティリスとの違いは如何ほどか、確かめてみるとしよう。
**********
ラーメンが届いてからは真面目な話は止め、雑談を挟みながら楽しく食事をした。そして肝心の柴関ラーメンの味に関しては――
「……美味かったな」
「ん、大将のラーメンはキヴォトス一」
「嬉しい事言ってくれるねシロコちゃん。ありがとよ」
全員がラーメンを食べ終え、食後の小休止を挟みながら感想をぽつりと零す。私は他のラーメンを食べた事が無いので残念ながら比べようがないが、アビドスの子達が太鼓判を押すだけあって本当に美味しかった。これがラーメン一本に絞った職人の出せる味というものか。私は勿論、私の知る中で最も料理スキルの高いフウカでもこれと同じ、あるいはそれ以上の物を作り出すのは難しいのではないだろうか。やはり特化型は強いな。
「これだけの物を食べられるなら定期的に通う者がいるのも納得だ。ごちそうさま、大将」
「あいよ!」
追加で便利屋とアビドスの分も併せてデザートを注文した。そうして皆でデザートを楽しんでいたところ、ふとカヨコが気になる事を呟いた。
「さっきの復興の話だけど、ひとつ障害がありそうじゃない?」
ひとつどころかそれなりに段階を踏んでいく必要があるのは確かだが、ここでカヨコがわざわざ指摘してくるという事はそれなりに大きな障害なのだろう。私には特に思いつかないが、カヨコは何を思い付いたんだ?
「ほら、土地の問題。今は殆どがカイザーが所有してるでしょ?ネフティスだけならまだしも、鉄道を敷くとなったらカイザーの所有している土地にも敷く事になるから――」
カイザーがアビドスの復興の邪魔をしてくるのではないか、と。そしてアビドスの子達はカイザーの存在を思い出した途端、うんざりしたような顔を浮かべ始める。
確かにその問題があったな。カイザーは砂漠での宝探しの為にわざわざ広大なアビドスの土地を所有し、聞いた限りでは柴関の大将の店にも退去勧告を出して人を遠ざけようとしていた。カイザーのやりたい事と、アビドスのやりたい事は正反対だ。せっかく人を遠ざけたのにそれを呼び込むような事を許すとは到底思えない。少なくとも砂漠横断鉄道の妨害はしてくるだろうな。……面倒というより、ここまで来たら邪魔でしかないな。
「やはりカイザーには消えてもらう必要があるか」
『――えっ?』
あ、口に出すつもりはなかったのだが、私の活動の障害になりうると考えたら腹が立ってつい口に出てしまっていたようだ。どうしよっかな。
「……お茶目な冗談だ。気にしなくていいぞ」
「冗談って顔じゃなかったわよね!?どう見ても本気だったわよ!」
いやいや、カイザーはそれなりの大組織だ。いきなり全ての施設を破壊したり皆殺しにしてしまえば、キヴォトスに少なくない影響を与えかねない。なので消すという部分は本当に冗談半分だったりする。
「そ、そう。そうよね、流石にカイザー全体を敵に回すような事はあんたでも――」
「精々がトップの首を物理的に飛ばすくらいだな」
トップとそれに近い者だけを殺し、放置する。こうすればカイザーに大きな混乱を与えられるだろう。キヴォトスにも影響はあるかもしれないが、鏖殺するよりは影響は少ないだろうし許容出来る範囲じゃないか?
「アウトに決まってるでしょ!?本当に何考えてるのよ!?」
「ん、でもカイザーが居なくなれば借金も無くなるかも」
「……確かにそうだな。シロコ、君は天才だ」
シロコも良い事を言う。借金など返済相手がいなくなれば返す必要が無くなるじゃないか。
「カイザーがいなくなったとしても借金が債権に変わってそれを買った人に返す必要がありますから無意味ですよ!」
なんじゃそりゃ!?なんで無関係の人間に金を返さねばならんのだ。相変わらずキヴォトスは訳分からんな。債権を買った者を殺してもイタチごっこになりそうだし、殺して借金を帳消しとはいかなさそうだな。
「残念……」
全くだ。キヴォトスは今すぐ訳の分からん法を改正しろ。
しかしどうしたものか。出来れば砂漠横断鉄道においてカイザーの介入を許したくはない。となれば土地を買収するしかないが、正攻法ではカイザーが素直に売り渡すとも思えない。相手はキヴォトスの法を知り尽くしている可能性も高いので猶更だ。となればある程度の実力行使は必要だろう。
やはりカイザーから事を起こしてもらってこちらが大義名分を得るのが理想か。アビドスでも一度派手に動いた例があったのだし、奴らは準備が整えば勝手に動き出すだろう。それまでは様子を見ておくか……?ビナーにカイザーを荒らさせようかと思ったが保留だな。妨害しすぎてカイザーの動きを鈍くしすぎない方が良いかもしれん。カイザーが何を探しているのかを調べる程度に留めて、向こうが動いてくれるのを待つとしよう。
それでも動きそうになかったり上手くいかなかったら普通に暗殺しよっと。
「はぁ、やっぱり食後のアイスは美味しいわね!」
アイスに夢中で全く話を聞いていなかったであろうアルの感想が辺りに響いた。そうだな。
デザートを食べ終えて、アビドスの子達とは柴関ラーメンで別れた。便利屋も帰ろうとしていたので呼び止め、こちらの用件を伝える。
「あら、依頼?」
「あぁ、実は私も便利屋の様な組織を立ち上げようと思ってな」
前に考案していた何でも屋ロイテルマート・ゲヘナ支店に関する話だ。調印式が終わって一段落ついてからと思っていたが、こうして便利屋と顔を合わせたので今の内に依頼として便利屋に相談をしようと思った次第だ。
「なんというか、こう言ってはなんだけどお兄さんには似合わないネーミングしてるね」
「ロイテルマートの事か?これは私の友人が拠点で開いている店の名前をそのまま勝手に使っているからだな」
『勝手に』
きっとロイテルも自分の店が異世界にまで展開して喜んでいることだろう。知る由も無い事だが。
「でもそれってつまり、これからは競合相手って事になっちゃうのかしら……!?」
「くふふ、おにーさんがライバルだとこれから大変そうだね?アルちゃん♪」
「わ、私がその分たくさんアルバイトをして稼いできますから安心してくださいアル様……!」
白目を向きそうになりながらアルが動揺している。心配せずともアルの仕事を奪うような真似をするつもりは無い。
「それも面白そうだが、折角なら業務提携を結びたいと思っている」
何でも屋を立ち上げたとして、私が他の用件で依頼を受けられなくなる事も考えられる。そうなった場合には便利屋へ依頼を委託し、代わりに依頼を遂行してもらったり、人数が欲しい時にはこちらから便利屋を助っ人として呼んだりしたい。
「逆も然りで、君達が大掛かりな依頼を受けた場合に頭数が必要になった時にはこちらへ要請してくれれば私、あるいは私のペットが救援へ向かう。そういった提携だが、どうだろうか」
「良いわね!シャーレとも提携を結んだし、そして顧問とも……ふふっ、これで便利屋68は更に有名になってしまうわね」
「流石です、アル様!」
思ったよりアルは業務提携に意欲的だった。まさかシャーレとも結んでいたとは。そんなご満悦なアルに対してムツキが何やら楽しそうな笑顔を浮かべている。
「最近は依頼も少なくなってきてたし、これからは依頼が増えるかもね。良かったねアルちゃん♪」
「ム、ムツキ!?それは――」
うん、まぁ……喜んでもらえているなら何よりだ。とりあえず何でも屋を開いたら優先的に便利屋へ依頼を委託するようにしよう。そうすれば金欠に悩まされる回数は減るかもしれん。
「話を戻すが、業務委託が依頼の内容ではなくてな」
ノースティリスでは町にある掲示板から依頼を受けたり、あるいは直接人から頼まれたりする事でクエストが始まる。しかし後者はともかくとして、キヴォトスでそんな掲示板を見た事は無い。便利屋は普段キヴォトスでどうやって依頼を受けているのか、組織を立ち上げるのに必要な物やそこにかかる経費を教えて欲しいというのが依頼内容だ。
「なるほど、私達便利屋から学びたいという事ね」
「端的に言えばそうなる。頼めるか?」
「任せなさい!私達が顧問を立派なアウトローにしてみせるわ!」
「……お兄さんは既に大分アウトローだと思うよ?」
なんてこった、全く持って否定出来ない。
んあー!スライムでElin始めてるけど農業調教料理錬金裁縫とかの下積みがだるすぎます!
下落転生してBP振り分けてぇ~!!!