透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

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エデン条約編、完!

遂に、調印式の日が訪れた。

 

 

 

「いよいよですね。お二人共、準備はよろしいですか?」

 

「えぇ、準備は出来てる」

 

「私も問題ない」

 

風紀委員会は最後の準備を整え、トリニティへ出発しようとしていた――のだが、よく考えると襲撃の件は既に解決しているし調印式に私が行く必要はないのでは?一応、本当に一応私は部外者なんだし。とヒナ達に進言すると――

 

「トリニティで散々暴れてきたらしい貴方が今更それを言いますか?しかも私には全部事後報告でしたし!ヒナ委員長から聞いていますよ。向こうでもペットを増やしたそうですね?ヒナ委員長というものがありながら他の生徒に手を出すなんて最低です!私にも首輪を着けて縛り付けておいてアビドスやらミレニアムやらトリニティやら色んなところにまで手を伸ばして!肝心の私達は放置ですか!?大変良いご身分ですね!自分で蒔いた種なんですから大人しく付いてきてください!ついでにトリニティのペットはその辺の路地裏にでも捨てておいてくださいね」

 

……とまぁ、こんな感じでヒナから私の最近の動向を聞いたアコがぷんぷんなのである。

これから条約を結ぼうとしているトリニティ相手に捨ててこい発言も大分やばいし、首輪に関してはあれから何故かずっと着けたままで、外せばいいのでは?と至極真っ当な事を言ってみると「はぁ!?やれるだけやったら満足して後は捨てるおつもりですか!?」などと風評被害甚だしいご意見を頂いてしまう始末だ。私にはアコが分からないよ。

 

「アコ」

 

「委員長!まさかこんなクソボケ浮気男の肩を持つおつもりですか!?」

 

ペットを増やしただけでクソボケ浮気男は流石に言い過ぎでは……?

しかしぷんすこなアコの様子を見かねたヒナが止めに入ってくれた。やはりヒナは良い子だなぁ。

 

「もっと言ってあげて。このクソボケ浮気男には分からせる必要があるわ」

 

ヒナさん!?

 

「……委員長もアコちゃんも、こんな人のどこがいいの?」

 

一連の流れを呆れた顔を浮かべながら眺めていたイオリが疑問を呈してきた。イオリもそうだがどんどん皆私に遠慮が無くなってきてるな……。

 

「私は別に好きとかではありません!ただヒナ委員長をおざなりにしているのが許せないだけですから!」

 

「あーはいはい。何でもいいけど人は選んだ方が良いと思うよ」

 

「イオリも人の事が言えますか?足を舐められておいて先生に気があるじゃないですか。そっちの方がどうかしてますよ」

 

そうだそうだ。人に指摘出来る程イオリもまともではないだろう!

 

「んなっ!?べ、別に私は先生なんてどうでも――!ってかアコちゃんには言われたくない!」

 

それもそう。アコが人の事をとやかく言える立場ではない事だけは確かだ。

 

「もう……皆さん、これから重要な行事があるのですから、もう少し緊張感を持つべきではないでしょうか」

 

「いやはや、全くもってチナツの言う通りだ。さぁ、時間が迫っているのだしトリニティへ向かおうじゃないか」

 

チナツが良い感じにこちらを窘めてくれたのでそれに同調してこの会話を切り上げる。これ以上会話を続けても私の立場が悪くなるだけだ。……何故か全員から冷ややかな目線を向けられたが、私はこの程度で屈したりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

トリニティへの移動中、車に備え付けられているテレビを何の気なしに眺めていると、トリニティとゲヘナの紋章を背景に、どこかの学校の生徒と思しき人物が出てきた。どうやらこれから行われるエデン条約に関する話のようだ。

 

『クロノススクール報道部のアイドルレポーター、川流シノンです!本日はついに締結されるゲヘナ学園とトリニティ総合学園のエデン条約の調印式。その現場に来ております!』

 

「流石に三大校の一大行事ともなればこうして大々的に放送されるんだな」

 

「トリニティの方も凄い人だかりが出来ているみたい。一種のお祭り状態ね」

 

一般の生徒や住民にとっては本当にただのお祭りみたいな認識なのかもしれないな。盛り上がってるしとりあえず楽しんでおこうという精神なのだろう。

 

それから古聖堂の様子が映し出され、ゲヘナとトリニティの生徒が険悪な雰囲気を漂わせながらお互いを睨み合っている。とてもではないがこれから条約を結ぼうとしている者の姿勢ではない。これから宣戦布告をすると言われた方が納得出来るぞこれ。

 

『さぁそんな大事なタイミングで、我らが連邦生徒会は何をしているのでしょうか?』

 

ん?どうやらこの放送の取材陣は昨日の内に連邦生徒会に今回の調印式について色々聞いてきたようだ。これは少し興味があるな。

 

「どうせノータッチですよ。今の連邦生徒会にそんな余裕はないでしょうから。元より向こうの助けなど求めてもいませんが」

 

「そうね、連邦生徒会が調印式に参加するという情報は入ってないわ」

 

私としては調印式よりもアリウスの支援の方が気にかかる。先生から報告が来ていない事から連邦生徒会はまだ答えを出していないと思われるが、これだけの一大行事にすら顔も出さないとなれば望み薄かな。

 

そんな事を考えていると、リンちゃんを中心に連邦生徒会の面々が映し出される。なんというか、面子の半分以上が気怠そうな――言ってしまえばやる気の無い態度が見て取れる。連邦生徒会長が居なくなって犯罪率も上昇し、質疑応答でも現状の連邦生徒会の是非を問われている。だというのによくもまぁこんな気楽でいられるものだ。いずれ突き上げを食らうのは自分達だと理解していないのか?……していないのだろうな。

 

『トリニティとゲヘナのエデン条約につきましては、どのようにお考えですか?』

 

『各学園の自治区で起きた事件につきまして、基本的にはそれぞれの学園に対応を委ねています。連邦生徒会の無暗な介入はかえって無責任かと考えます』

 

「貴方の予想通りの回答ね」

 

「あぁ、残念だ」

 

いつしかトリニティで語った断られる口実をここで使われた。先の質問はゲヘナとトリニティの話だが、アリウスだけ特別というのは考えにくい。同じ口実で先生の要請も突っぱねるだろう。

 

『それは現在復興中であるアリウス分校に対しても同じと?』

 

お?取材陣がアリウスについて触れてくれた。名前も顔も映っていないが、良い奴だな。気に入ったぞ。

 

『そちらにつきましては現在協議を重ねている段階です』

 

『まぁ無理でしょ。人手もお金も足りないし』

 

「……意外ね。てっきりアリウスの支援も断ると思ったけど」

 

「シャーレ直々の要請というのが大きいのかもしれんな」

 

横から口を挟んだ小柄な桃髪の生徒が言っていた理由から反対する者と、リンちゃんを筆頭にしたシャーレからの要請を受けるべきと考える賛成派に分かれてしまっているのだろう。失踪した連邦生徒会長が健在だったならばもっと早く答えを出せていただろうに、リンちゃんも大変そうだな。

 

『はい!つまりはあんまり興味ないって事ですね!――はい?アリウスとは一体何かですか?ご説明いたしましょう!アリウスとはトリニティの分校にあたる学園の名前です。つい最近まではトリニティにすら忘れ去られて久しい学園でしたが、なんとアリウスは十年以上前から大人の存在によって支配されていたそうです』

 

『そしてその事に気付いたシャーレの先生とトリニティ――そして何と!ゲヘナも交えた共同作戦を行い、アリウスを支配していた大人から取り返す事に成功したそうです!そして現在はアリウスはシャーレ主導のもと復興作業の最中というわけですね!』

 

情報操作は上手くいっているようだ。アリウスが被害者側であるという刷り込みが出来ている。ナギサが私達の存在を公表したのは正解だったな。放送を利用する事で今回の条約が盤石である事をアピール出来ている。

 

『しかし一部の者からは疑念の声が湧いており、タイミングが良すぎるなど、ゲヘナとトリニティのマッチポンプなのではないかとの――』

 

……こいつちょくちょく陰謀論挟み込んでくるの何とかならんかな。放送側もこれ以上はまずいと思ったのか映像を切り替えて話を遮った。よくやってくれたぞ!

 

『――シャーレが引き連れた生徒の中にはミレニアムらしき生徒も居たとの情報があり、今回のエデン条約は三大校全てが認知し、推進しているとの見方も出来ますね!』

 

リオが今回のエデン条約にどんな考えを持っているかは知らないが、少なくとも反対はしていないだろう。むしろゲヘナとトリニティ間の争いが無くなればリオとしてはキヴォトスが平和になるので本望なのではないかな。

 

『共同作戦の折にはゲヘナからはあの風紀委員長と、今や有名な風紀委員会に在籍する大人の人が参加していたそうです!この二人は仲が良く、恋仲なのではないかとの噂も飛び交っており、事実確認が待たれます』

 

「……たまには良い事を言うわね、川流シノン。見直したわ」

 

『しかし他にも噂があり、同じ風紀委員会である行政官とも仲が良く、他にもトリニティのティーパーティー、シスターフッド、そしてアリウス……更にはミレニアムでも同様の噂が――』

 

「「――ちっ!」」

 

……こいつマジで余計な事しか言わんな。しかも何故か私の事はゴシップばっかりだし。他にもあるだろ先生と同じキヴォトスの外から来たとか魔法の存在とか。どうなってんだよキヴォトス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくして古聖堂に辿り着き、式が始まるまで適当に内部を見て回る事にした。内部には既に万魔殿や風紀委員会、そしてトリニティのシスターフッドやティーパーティー、正義実現委員会の部員が式に向けて忙しなく動いている。

 

「おや、もうこっちに到着してたんすね」

 

周辺を見渡していると後ろから声を掛けられたので振り向く。この話し方からして声を掛けてきたのは――

 

「あぁ、つい先程な。久しいなイチカ」

 

「お久しぶりっす!いやー、ここまで色々あったっすけど、どうにか無事に調印式を迎えられそうで何よりっすね」

 

「そうだな。特に大きな問題も――」

 

「ですから、その線を踏み越えないでくださいって何度も言いましたよね?」

「だからさ、その線を踏むなって言ってるんだよね。トリ頭には分かんないかな?」

「は?」

「あ?」

 

「……問題も無さそうだな」

 

「そ、そっすね……」

 

「「はぁ……」」

 

放送にもこんな感じの険悪な雰囲気が映っていたが、古聖堂内ですらちょくちょくこんな感じで口論を始めようとする者達がいる。エデン条約が双方にとって必要不可欠なものである事をこの場で証明してくれているので、ある意味悪い事では無いのかもしれない。

 

「それも何だか嫌な解釈の仕方っすね」

 

「遺伝子レベルで嫌い合ってる節があるからこればっかりはな……」

 

とりあえず口論をしている生徒は正義実現委員会と風紀委員会の子だったので、私達で仲裁に入った方が良さそうだ。

 

「はーい、そこまでっすよ」

 

「イ、イチカ先輩!すいません……」

 

「あ、臨時顧問!このトリ頭線を踏むなって言ってるのに全然言う事聞いてくれないんです!取り締まっちゃっていいで――いぃったぁ!?」

 

なんでうちの部員はこんな威勢が良くて元気なの。

とりあえずデコピンを打って黙らせておく。

 

「ど、どうちて……」

 

私からデコピンを貰うとは露とも思っていなかったようで愕然とした様子で問いかけてくる。むしろなんで怒られないと思ってるんだこの子。

 

「線を踏んだとか至極どうでもいい事で騒ぎ立てるんじゃない。仲良くしろとまでは言わないから問題を起こすな。ここで騒ぎを起こせばヒナの顔に泥を塗る事になるぞ」

 

「うっ、それは……すいませんでした……」

 

「よろしい。そこの正義実現委員会の子も、うちの者がすまなかったな」

 

「い、いえ、私にも落ち度がありましたので」

 

はいじゃあ解決って事でいいな。正義実現委員会の方もイチカが諫めた事で既に落ち着きを取り戻していたしこれでとりあえずは問題ないだろう。その場を離れて改めてイチカに話しかける。

 

「なぁイチカ。エデン条約が締結されてETOが発足されると、ゲヘナとトリニティで人員を出し合って、そのメンバーが二校の争いの仲介に入るようになるんだったよな?」

 

「そうっすね」

 

「もし、ETOのメンバー同士が争う事になったら誰が収拾つけるんだろうな」

 

「嫌な事言わないで欲しいっす。私もちょっと想像しちゃってましたけど」

 

だよなぁ。ま、私には関係ない事だしどうでもいいか!

 

「良くないっすよ!トリニティ側のメンバーには私も入ってるんすから!」

 

あ、そうなの?確かにゲヘナに対して中立的な立場を取れるイチカは最適と言って良い人選だ。下手すれば胃痛ポジになるかもしれないが、是非ともイチカには頑張って欲しい。

 

「ゲヘナの人選はまだ決まってないんすか?」

 

「さぁ、私はその辺の話を全く聞いていないから知らないんだ」

 

てっきりヒナが選出されるかと思ったが、ヒナからそう言った話も聞いていない。この辺りの人選を決めるのは恐らくマコト辺りだと思うのだが……そういえばアリウスの問題を片付けてから一度も万魔殿に行ってないな。報告すらしてなかった。

 

――まぁあの子なら独自の情報網で報告を聞いてるだろうし問題ないか。

 

「もう君もこっちに来てたんだね。それと、そっちの子は――」

 

そんな感じでイチカと雑談していると、後ろから馴染みのある声が聞こえてきた。振り返るとそこに居たのは予想通り先生だった。隣にはシスターフッドの生徒もいる。

 

「仲正イチカっす。一応アリウスの件で顔合わせしてたんすけど、覚えてるっすかね」

 

「うん、勿論。改めてよろしくね」

 

「先生も到着していたか。そっちのシスターフッドの子は確か……ヒナタ、と言ったか?」

 

「覚えていてくださったのですね。先日は私達シスターフッドがご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」

 

「既に解決した問題なのだから気にしなくて良い。今日の調印式にはサクラコも出席するのか?」

 

「勿論サクラコ様もご出席なされますよ。今回の調印式はシスターフッドも無関係ではありませんから。古聖堂は第一回公会議が行われた場所でもありますし」

 

ユスティナ聖徒会がシスターフッドの前身だからか。

今はマエストロもアツコも居ないので第一回公会議の焼き増しと言えるエデン条約を行ったとしても、ユスティナ聖徒会の複製が生まれるという事は無いだろう。私達の本命は地下にあると言われる教義の方だ。

 

「であれば、ETOにはシスターフッドからも選出されるのか?」

 

シスターフッドの存在意義からしてみても、ETOという中立的な立場を持てるのは願ったり叶ったりなのではないだろうか。イチカが選ばれたのも、ゲヘナに対して中立的な立場を取れるからだろうしな。

 

「はい、シスターフッドの場合は決まった人選があるわけではありませんが……」

 

シスターフッドの中から誰かがETOに選ばれるのではなく、シスターフッドそのものがETOとして活動出来る、というのが正しいらしい。それはそれでサクラコも大きな決断をしたものだ。しかしトリニティの政争から少しでも離れられるのならそれも悪くない選択か。

 

「っと、こうして話していたら時間が迫ってきたな。そろそろ会場へ行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒナとアコが待機している車へ戻り、しばらく待機していると、万魔殿のメンバーとマコトが姿を現した。アリウスから飛空艇が送られる話は残念ながらぽしゃってしまったので大人しく車で来たようだ。すまないマコト。飛空艇はアリウスに使い道があるかもしれんからそのままアリウスに置きっぱなしにしてある。こっちで有効活用するから安心してくれ。

 

マコト達が姿を現すのとほぼ同時にティーパーティーのナギサ、セイア、ミカの三人とサクラコも会場に姿を見せ、古聖堂に二校の首脳部が集まった事で周囲の緊張感がより一層高まり、厳戒態勢へと移行した。

 

そして、調印式が始まった。

マコトは普段通りの不敵な笑みを浮かべており、ナギサも余裕のある笑みを絶やさぬように心がけている。そして二校から選ばれた代表者が登壇し、宣誓を行った後、シャーレとして先生も登壇して式辞を述べる。

 

その後、代表者がエデン条約の締結同意のサインを施し、お互いに固い握手を結ぶ。

 

 

――ここに、エデン条約は締結された。

 

 

 

よし、分かっていた事だが何の問題も無かったな。

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