エデン条約は無事に締結された。巡航ミサイルが飛んでくる事も、ユスティナ聖徒会の複製が現れる気配も当然ながら無い。これでようやく一段落ついたと言えるだろう。とはいえ生徒達はこれからETOの発足により生まれる義務や両校の擦り合わせなど、やる事は目白押しだ。だがこれらは私が直接出張る必要のない案件だ。そっちで勝手に頑張って欲しい。
「――トリニティは各部活から代表として、シスターフッドの皆様。ティーパーティーからは桐藤ナギサ様、百合園セイア様、聖園ミカ様の三名。正義実現委員会からは剣先ツルギ委員長、羽川ハスミ副委員長、仲正イチカさんの三名。救護騎士団からは蒼森ミネ団長、鷲見セリナさん、朝顔ハナエさんの三名が有事の際にはETOとして活動を行います」
気付けばETOの選出メンバーが発表されていた。これまた結構な人数が発表されたものだ。シスターフッドを除いてトリニティにおいて主要な部活から三人を選出している感じか、なるほどな。
いやちょっと待て。ミカまでETOに加わるの?え、大丈夫?
ゲヘナ嫌い克服したの?あの子。というかハスミも居ないか?あれ、ちょっと不安になってきたぞ。ETOをゲヘナアレルギー克服委員会か何かと勘違いしてないか?
しかし、トリニティがこれだけのメンバーを選出したならばこちらも相応のメンバーを出す必要がある。しかし風紀委員会はETOについて何も話を聞いていない。
「これゲヘナはどうするつもりなんだ?トリニティの気合いの入り方凄いぞ」
「そうね……けど、私もETOについては何も聞かされていないのよね」
「万魔殿の嫌がらせでは?あのクソゴミ狸なら私達に何も知らせず事を進めても何もおかしくはないと言いますか、やって当然までありますよ」
うわぁ、ありそう。
やはりいつかの時に懸念した通り、ヒナは風紀委員会とETOの二足の草鞋を履く事になりそうか。最低でもヒナを出さないと相手の面子と釣り合いが取れないしな。まぁETOはトリニティとゲヘナ同士の諍いにしか動かないし、それほど稼働する事はないだろうから多忙になる心配はないだろうが……。それを見越しているからこそ、向こうもあの面子を選出しているだろうしな。
「ゲヘナからは、風紀委員会から空崎ヒナ委員長、天雨アコ行政官。そして――」
――臨時顧問の三名が有事の際にはETOとして活動を行います。
……はにゃ?
臨時顧問とは風紀委員会における私の仮の役職だ。適当でも肩書きがあった方がゲヘナで活動しやすいだろうという事で、お飾りではあるがその地位にいるのだが、それはともかくとして何で私まで選ばれてるの。
「尚、ETOの責任者として、連邦捜査部シャーレの先生が就任されます」
んな事どうでもいい。予想通りすぎて何の感情も浮かばん。
「私は予想通りだけど、まさか貴方まで選ばれるとは思わなかった。マコトも命知らずね」
「あんのクソ狸!万魔殿からは一切の選出無しですか!本ッ当に良い度胸してますね!?」
全く持って良い度胸してるなマコトォ!ヒナだけならばまだしも私にすら仕事を押し付けようとするとはな。マコトとは少し、お話しする必要がありそうだ。
**********
調印式が終了してから私はすぐさまマコトの居る場所へと向かった。マコトが貴賓席に居る事は分かっているので特に迷うこともなく辿り着いた。私が突然現れた事で貴賓席に居た子達から視線が集まるが、今は気にしない。マコトは……そこか。
「――うわでたっ」
「あら、わざわざ会いに来て下さ……あれ?」
「こっちには見向きもしなかったね。目的はどうやら万魔殿の議長のようだが」
貴賓席という事で、ティーパーティーの子達も近くの席に居たが、悪いが後回しにさせてもらう。今はとにかくマコトに聞かねばならない事がある。後ミカ。うわでたとか言うのはやめようね。聞こえてるぞ。
「――キキッ!我がゲヘナの最高戦力のお出ましだ。このマコト様へ挨拶へ来たのか?実にご苦労!お前もこのマコトの様の偉大さをようやく理解いだだだだだ!な、なんだ突然頭が割れるように痛み出したぞ!イ、イロハァ!何がどうなっている!?あ゛あ゛あ゛本当にいだい!!!」
「頭を鷲掴みにされたうえで持ち上げられてますね」
「な゛に゛ぃ!?何故だ!?いだだだ!な、何故私がこんな目に遭わなければならないんだ!あ゛ー!!!」
「むしろこの人にこんな事させるって、一体何やらかしたんですか?正直に吐いた方が身の為ですよ。マコト先輩の頭からすごい音が聞こえてきてるので」
ベアトリーチェで耐久テストを行っているおかげである程度の力加減は分かっているので死なせる事はない。それにキヴォトスの生徒なら頭蓋骨がちょっと割れた程度ではどうせ死なないだろ。へーきへーき。
「な゛に゛も゛し゛て゛な゛い゛!!!!」
「ほう?ならば何故私がETOに入れられている?いやはや驚いたぞ。まさか事前の通告も無しにヒナだけでなく、私の事まで利用しようとするとはな。生前整理は済ませたか?」
「マコト先輩……それは流石に命知らず過ぎますよ。彼はゲヘナの校風が服を着て歩いているような人なんですから、何も言わずに縛り付けようとしたらこうなるのは当然ですよ」
「ち、ちちちちがちがちが違う!これは決して私の発案ではない!!!」
へぇ、では一体他に誰がこんな愚かな事を仕出かすのか是非とも聞かせてもらいたいものだ。マコトの証言が本当なら砕く頭蓋骨の数を増やす必要がある。
「あ、あれ、おかしいな……言ってなかったっけ……?」
ふと声がした方向へ顔を向けると、そこには先生が居た。……なるほど?
――どうやら私をETOに入れようと画策したのは先生らしく、先生は私にモモトークでETOについて既に話をしたものだと勘違いしてしまっていたらしい。つまり、マコトは先生の連絡不備のせいでこのような目に遭ったという事になる。なんてかわいそうに。
「すまないマコト、どうやら手違いがあったようだ。伏して謝罪する。今度イブキの分のプリンを多めに持っていく事を約束しよう」
謝罪しながらマコトの頭から手を離して席に丁重に席に座らせる。
「キキッ、それでこそだ……気に入らない事があれば例えこのマコト様であっても牙を向く……正に、お前こそゲヘナの鑑……だ」
そう言い残してマコトは意識を失った。
「マコト……お前の仇は必ず私がとってやる。先生の頭蓋骨は私が必ず砕いてみせよう」
「えっ」
先生が連絡を怠らなければ、マコトはこんな目に遭わずに済んだ。先生が連絡を怠らなければ、私がマコトに手を出す事は無かった。つまり全て先生が悪い。責任は取るといつも生徒に口癖の様に言っているのだし、今が正に有言実行の時だろう。マコトの代わりに頭蓋骨を砕かれろ。
「あの人言ってる事滅茶苦茶すぎない?」
「見事な責任転嫁だね。そして彼にはあの滅茶苦茶な理屈を押し通せるだけの力がある。私も見習わなければなるまいよ」
「セイアちゃん……なんでもかんでも全肯定するのは良くないよ?」
「ま、待って。連絡をし忘れたのは確かに私が悪いと思うけどETOに君を推薦したのにはきちんとした理由が頭が割れるように軋み出してい゛た゛た゛た゛た゛!!!」
理由など知った事では無い。私とてこれでも多忙な身なのだ。私に直接関係の無いETOに駆り出されるなど御免被る。
「でもゲヘナでトリニティとちゃんとした関わりがあるのは君くらいだし君が居た方がETOもきっと円滑に進められると思うんだ!それにいつも何かあると私に押し付けようとしてくるんだからたまには私が押し付けたって許されあ゛あ゛あ゛あ゛!」
私はな、自分が仕事を押し付けるのは好きだが押し付けられるのは嫌いなんだ。
拠点での仕事だって全て住民に押し付けてるくらいだぞ。
「わーお。ここまで身勝手な事を堂々と言う人初めて見たかも。っていうか先生の頭からすんごい音がしてるけど大丈夫なのあれ!?さすがに助けた方が良くない?」
「彼の邪魔をすれば君も頭を鷲掴みにされて同じ目に遭うのがオチだと思うが、それでも良ければ試してみるといい」
「……先生、頑張ってねっ」
「あの、少々よろしいでしょうか?」
「――うん?あぁ、ナギサか。こうして顔を合わせるのは久方ぶりだな。元気にしていたか?」
先生を締め上げているといつの間にかナギサがこちらへ近づいてきていた。
「はい、おかげさまで。貴方も、その……お元気が有り余っているようで何よりです」
遠回しに何してんのって言われているような気がしないでもないが、まぁいい。それより、わざわざこちらへ来たのだから恐らく何か用件があるのだろう。
「その……私としてもETOに貴方が居てくださるととても心強いです。そうすれば、こうしてお会い出来る機会も今より増えるかもしれませんし……」
「ナギサの言う通りだ。君がトリニティに訪問する機会は他の学校に比べて少ない。今日という日まで君は他の自治区には顔を出していたようだが、こちらにはあまり来てくれなかっただろう?」
ナギサに続いてセイアとミカもいつの間にかこちらへ来ていた。セイアはナギサの意見に同調し、ミカは何故かこちらをジト目で見ている。時折私に持ち上げられている先生の方へ視線が向いている事を見るに先生が心配なのかもしれない。まぁ離す気は毛頭ないが。
しかし二人の意見は尤もだ。トリニティは三大校だけあって情勢が安定しているのでアリウスの様に定期的に様子を見に行く必要も無いし、ミレニアムの様に何か特異な技術を扱っているわけでもない。となれば必然、私がトリニティへ来る機会は減ってしまう。ナギサの言う通り、会う機会を増やす為にETOに加わるのは悪くないんじゃなかろうか。私の仕事が少し増える程度ならばどうという事はないだろう。
「……そうだな。いや、むしろここは私が謝罪すべきか。あまり会いに行く事が出来なくてすまない。二人にももっと気を配るべきだった」
「い、いえ!こちらこそ我が儘を言ってしまい申し訳ありません」
「ナギサはもっと我が儘を言ってもいいくらいだぞ」
ヒナもそうだが、キヴォトスのトップに立つ者は大抵が過労気味だ。普段からティーパーティーのホストとして頑張っているのだから息抜きも兼ねて甘えて欲しいと思う。
「……はいっ、ありがとうございます」
「ナギちゃんにはゲロ甘なんだ……」
そりゃナギサは私のペットなのだから当然だ。
「という訳で先生、私もETOとやらに入るとしよう」
鷲掴みにしていた先生の頭を離し、了承の意を伝える。全く、これからはちゃんと連絡をして欲しいものだ。めんどくさければ普通に断るけど。
「う、うん、ありがとう……いや何だか釈然としないけど。……私もペットになったら優しくしてもらえるのかな?」
「そりゃ勿論するが、なりたいのか?」
私としては一向に構わんぞ。シッテムの箱とかいう珍しいアイテムも持っている事だしな。だが先生の有能具合を見るに、結局酷使する事は間違いないだろうな。
「やっぱり聞かなかった事にして」
なんやねん。
「……あの、貴方は百合園セイアさんだけでなく桐藤ナギサさんまで堕としてたんですか?マコト先輩が寝てて良かったですね。もしこの状況を見られてたらすごいめんどくさい反応してましたよ」
堕としたって言い方はやめてもらおうか。だがイロハの言う通り、図らずも意識を落としたのは正解だったな。まだナギサ達とは少し話したい事もあるしもうしばらく眠っていてもらうとしよう。
先生を解放した後、せっかくなのでナギサにトリニティ側のETOのメンバーの意図を聞いてみる事にした。
「最初はティーパーティーからはミカさんだけの予定だったんです」
どうやらアリウスの件に関する処分の一環として、ミカをETOに送る予定だったそうだ。しかしミカはお世辞にも外交が出来るとは言い難く、相手がゲヘナであれば猶更不安が残るという話が出てしまった。そこでセイアを補佐に付ける事で解決を図ったのだが、先生から私がETOに加わるという話を聞いた結果、ナギサまでもがETOに加わりたいとなり、セイアとナギサでどちらがETOに入るか揉めたそうだ。結局はミカの「じゃあもう二人共来ればいいじゃん」という一言によって解決し、こうなったと。
この子達が勢揃いなのは私のせいだったのか……。
「貴方がETOに参加するとなればこちらも相応の戦力を出す必要があると思い、各部活から人員を選んだ結果こうなりました」
あーそういう事か。トリニティからすれば私が居るからこそ戦力を少しでも多く出して釣り合いを取れるようにしていたと。とはいえ――
「こちらが三人しか選出されてないのは流石に外聞が悪いよな」
私の事を知る者からすればゲヘナがたった三人の選出でも納得するだろうが、私を知らない者にとってはゲヘナのETOの面子が少ない事を疑問に思い余計な邪推を生みかねない。
「……なぁイロハ」
「え、いやです」
まだ何も言ってないんだが?
「ETOに参加しろと言いたいのでしょう?仕事を増やしたくないので嫌です」
イロハ……!
「頼む。最悪名前を貸してくれるだけでも良いんだ」
実働に関してはサポートにアコ、前線に私とヒナが居れば大概の奴はぶっ飛ばせる。だからイロハに実際に動いてもらう事はほぼほぼ無いと思われる。だから頷いてくれんか……?
「はぁ、仕方ないですね。その代わり……今度そちらへ遊びに行った時は、たっぷりサービスしてくださいね?」
「「――はっ?」」
隣に座っていたイロハが突然私に距離を詰めるようにして耳元で囁いてきた。当然ながらそれを見たナギサとセイアの視線がイロハに向く。……急に何をしているの君は?
「ふふっ、してくれないんですか?」
お前わざとやってるだろ。イロハの言うサービスとは、拠点に遊びに来た時にお菓子をいつもより多めに用意しておけという意味だと思われるが、何故ナギサとセイアを挑発するような真似をしたのかがさっぱり分からん。え、イロハもトリニティ嫌いなの?そんなイメージ無かったんだけど。
「いえ、思った以上に気の多い人なんだなと思ったら何だかちょっと腹が立ってしまいまして」
「君の行動には少しばかり異議を申し立てたいが、そこについては同感だ。他にペットを増やしても気にするつもりはないが、それは私達を放置していい理由にはならないのだがね」
そこは本当に申し訳ない。
「イロハさんもペットにしていらっしゃるのですか……?」
してないぞ。
「さいてー」
シンプル罵倒。
「君は本当に何をしてるの?」
何もしてない。
……一瞬にして私が針の筵になったんだが。こんな理不尽な事が許されていいのか?
「……お菓子なら今度用意しておく。だからこれ以上は勘弁してもらえないだろうか」
「わさびポテトチップスはマストですよ」
ただETOの話をしただけなのに何故私は強請られているんだ……!イロハをETOに引き込めたのは良いが、それでもまだ四人。もう少し増やした方がいいだろう。
「……話の続きだが、イオリとチナツにも話を通してETOに参加してもらう事にする」
先生を出汁にすればあの二人は来てくれるだろう。これで六人になるがトリニティ側はシスターフッドを抜いたとしても後九人居る。こちらも後二、三人用意したい。
「だが他にETOに向いてそうな人材ってゲヘナにいただろうか……」
「ゲヘナですよ?居ると思いますか?」
思わないから困ってるんだよな。つくづくゲヘナは秩序側に立つのが向いてなさすぎる。人材があまりに少ない。
「いや、待てよ?もしかしたら用意出来るかもしれない」
携帯電話を取り出し候補に電話を掛けると、しばらくして目標の人物が出た。
『もしもし、助っ人さん?どうしました?あ、テレビで調印式見てましたよ。お疲れ様です』
「ありがとうフウカ。突然ですまないんだが少しばかり力を貸してほしくてな」
『助っ人さんにはいつも助けられてますから、私で良ければ力になりますよ!』
フウカにETOの概要を教え、給食部の二人の名義を借りたい旨を伝える。勿論フウカとジュリを前線に送り出す事はしないし、給食部としての活動時間が減る事も無い様に努める事もしっかり伝える。というか減らしたら大変な事になる。彼女達はゲヘナの食の生命線なのだ。
「情けない話だが、風紀委員会以外だとフウカしか頼れそうな人が居なくてな。頼めないだろうか?」
『わ、私だけ……分かりました。少しでも恩を返せるなら是非使ってください!』
「本当か?助かる。それじゃあまた何か困った事があったら言ってくれ。くれぐれも美食研究会には気を付けてな」
『あはは……はい、それではまた』
「あぁ、ではな。……よし、給食部から協力を得られたから八人まで増やせたぞ」
「「「「…………」」」」
んん……?フウカと交渉していただけなのに何故か周囲の子達からの視線が痛い。いや本当に何故?え、どこに地雷があったのかさっぱり分からないんだけど。
「やっぱりさいてー」
だから何でだ!これに関しては本当に分からん!
あれから新たに万魔殿からイロハの勧誘によりイブキも加わる事になり、合計九人用意する事が出来た。実際にETOが動く時には私達風紀委員会が主立って動く事にはなるだろうが、対外的にはこれで問題ないだろう。
だが近い内にトリニティへ赴き、ナギサとセイアのご機嫌を取りに行かねばならない。ただでさえベアトリーチェを始末してから今日に至るまで彼女達を放置してしまっていたというのに、今日だけでかなり不機嫌にさせてしまったのでどうにかしないと不味い。今日のところはナギサ達にトリニティにも拠点を作って気軽に会える環境を作ると約束した事で何とか難を逃れる事が出来た。
話は済んだし調印式も無事に終えたので、一度ゲヘナへ戻ろうとしたところ、眼鏡をかけたカメラを携える人物と、マイクを片手に持った褐色肌の生徒二人組に出くわしてしまった。
「おやおや!もしやそこに居るのは今をときめくゲヘナの臨時顧問さんではありませんか!?もしよろしければ少々インタビューをさせて頂いてもよろしいでしょうか!?」
うわでた。
こいつ覚えてるぞ。私のゴシップを流してくれた放送の人物だ。
「……あぁ、それほど時間は取れないが、それでも良ければ問題無い」
正直なところ断りたかったが先に見た放送を鑑みるに、カメラを向けられている今この瞬間も放送されている可能性がある。取材を断る姿を見せてしまうと風紀委員会にあらぬ悪印象を与えかねないのでここは無難に対応しておいた方が良いかもしれない。
「ありがとうございます!では早速なのですが、シャーレの先生との関係性から窺ってもよろしいですか?」
思ったより普通の質問が来たな。これくらいなら回答しても問題ない。
「関係性で言えばただの友人だ。先生と同じくキヴォトスの外から来た者同士仲良くさせてもらっている。だが私は先生とはまた違う異世界から来ている」
「ありがとうございます!異世界からいらっしゃった……という事実だけでも信じがたいですが、どうやら魔法が使えるとの噂もあります。これも事実なのでしょうか?」
「事実だ。このように炎の剣を生み出す事も出来るし、こんな感じで――ちょっとした機械を召喚出来たりもする」
機械召喚で呼ばれたのはA.I.Rだった。身の丈は二メートル程の翼の生えた人型の機械だ。稀に★ホーリーランスの偽物を落とす事がある。見せるだけなので早々にA.I.Rを追放しておく。
「おぉ!実際にこうして見せ付けられると中々迫力がありますね!キヴォトスへ来たきっかけなどはありますか?」
「こればっかりは偶然でな。私の世界にあるとあるアイテムを使ってみたら何故かキヴォトスへ漂流してしまったんだ。その時に初めて会ったのが先生だな」
「なるほど!先生とはそういう繋がりでしたか!では次に――」
それからもゲヘナに留まっている理由などの割かし無難な質問が続き、受け答えも可能な範囲での質問に留まっていた。しかしながらやはりというべきか、来るんだろうなぁと思っていた質問がついに来てしまった。
「それでは……臨時顧問さんは数多の生徒との関係性を疑われております!それらについて事実確認をさせてください!!!」
今日一楽しそうな笑顔で質問してきやがったな……!
しかし私は既にどのように回答するか決めてある。
「……君達が想像するような関係性ではない。とはいえ、決して少なくない生徒と信頼関係を築けているのも事実だ。これもひとえにキヴォトスの柔軟性のおかげと言えるだろう。そこについては感謝している」
「大変つまらない模範解答ありがとうございます!風紀委員会の方に首輪を着けさせているという噂もありますが、そのような事実は無いということですね!」
全然事実だね。
「あぁ、そんな事実は無い。誰が流したのか分からないがそういった根拠の無い噂の流布は控えてもらえると助かる」
「――ちっ」
今舌打ちした?
「それでは最後に今この放送を見ている方々に何か一言お願いします!」
お、良いのか。ならせっかくなので宣伝をさせてもらうとしよう。
「実はこの度何でも屋ロイテルマート・ゲヘナ支店という店を構える事にした。何でも屋の名の通り、金さえ払って貰えれば大抵の事はこなせる自信はある。ちょっとした猫探しから護衛等の荒事まで何か困った事があれば私のところまで相談に来て欲しい。SNSには既にアカウントを作ってあるから本格的に開業した際には是非私の元へ依頼を頼む」
放送では言わないしキヴォトスで来るかどうかも分からないが、金さえ払って貰えれば先生と生徒を対象にしなければ暗殺依頼などの本当の荒事も請け負うつもりでいる。
「おぉ!魔法という摩訶不思議な技術を扱える人であれば、本当に何でも依頼をこなせそうですね!」
「何でも、というほど魔法は万能なものではないが、それでも既存のキヴォトスの技術とは違うものなので役に立てる事は多いと思う。最後に、ロイテルマートは便利屋68とも提携を結んでいる。受ける依頼の範囲は私と同じくらい広いので何かあればそちらにも依頼を送ってみるといいかもしれない」
「はい!今日は長々とありがとうございました!また何かあれば取材させてください!」
「こちらこそ、実りある時間だった」
ロイテルマートの宣伝が出来たのはとても大きい。これで開業したは良いが閑古鳥、という事は防げるかもしれない。せっかく新しい事を始めるので色々と楽しませてもらいたいものだ。ともあれ、無事に取材も終わったのでカメラに背を向けて立ち去ろうとしたのだが、背後から声が聞こえてきた。
「……あれ、確か便利屋68って風紀委員会と対立している企業だったような?臨時顧問ともあろう人がそんな企業と提携を……?」
あ、そういえばそうじゃん。便利屋にも少しでも依頼が来ると良いなと言う親切心で彼女達の名前を出したが、これミスったな。いずれアコやヒナの耳に入っても面倒な事になりそうだ。やっべー。
とりあえずこれ以上突っ込まれる前にテレポートの魔法でとんずらさせてもらうとしよう。ヒナ達に対する言い訳は後で考えておこう。きっと何とかなる!
「ちょ、ちょっと最後に便利屋68との関係性を――って、居ない!?こ、これも魔法によるものなのでしょうか!?」
**********
日中には色々と思わぬハプニングはあったが、現在陽はとっくに沈み日付も既に変わっている時刻。私はとある人物と待ち合わせをしていた。
「――お、来たか。アツコ」
「うん、こんばんは。待った?」
「いや、大して待っていないぞ。古聖堂の地下室は既に見つけてある。早速行こうか」
「……むぅ」
何やらアツコが不満そうに頬を膨らませている。い、一体どうした……?今日は何だか色んな子を不機嫌にさせる日だな……しかも原因が分からない事が多い。
「そこは「俺も今来たところ」って言う場面らしいよ?」
「そうなのか?……俺も今来たところだ」
「ん、じゃあ行こ?」
理由はさっぱりだがアツコは満足したらしい。今のは何の儀式だったんだろう。俺なんて一人称初めて使ったぞ。
「マエストロは現地集合?」
「恐らくな。古聖堂の近くまで行けば勝手に姿を現すと思う」
今日はマエストロと約束をしていた日だ。
どうやらアツコとマエストロは約束を交わしていたらしく、調印式の襲撃当日にマエストロを古聖堂の地下にあるという教義の元へ案内する代わりに、アツコはユスティナ聖徒会の複製を頼んでいたらしい。だがそれは私と先生によりご破算になってしまった。
結果としてマエストロの邪魔をしてしまった形になってしまったので、お詫びという意味も込めて私がマエストロを古聖堂の地下へ案内をする約束をしていた。教義の元へ案内するだけならばやろうと思えばいつでも出来たが、調印式前だと警備が厚い可能性があったので当日の夜に行く事にした。調印式という一大行事が無事に終わらせる事が出来た当日こそが一番警戒が緩む。なのでその隙を突かせてもらう。
「アリウスは最近どうだ?」
「前よりはずっと雰囲気が明るくなったよ。でも、最近はちょっと舌が肥えちゃったみたいで魚は飽きたって言う人が増えてきちゃった。特にばにちゃん辺りが騒いでる」
あんのバカども。贅沢を覚えたな……隔日ではあるが私が料理を作りに行ったりしているというのに。だがまぁ、あの子達が普通の生活を過ごし始めているという証左だと思えば悪い事では無いな。食糧事情に関しては改善の余地はあるか。釣りだけじゃなく農業もやらせてみるか。
「それと……ううん、今ここで話すのはやめとく。大事な話だから、また今度貴方がアリウスに来た時に話すね」
「分かった」
大事な話か。内容の予想はつかないが、アツコの表情を見るに悪い話では無さそうだ。とはいえ内容は気になるので早めに時間を作って会いに行くとしよう。
それから色々とアリウスの近況を聞いた。アツコに渡した花の種が順調に育っている事や、最近ヒヨリの肉付きが更に良くなってきた事など。いやこの報告いる?本人がバラされた事知ったら多分泣くぞ。
他には近頃は先生がアリウスで授業を行っているらしく、授業を受けた事の無かったアリウスは順応する為に苦労しているそうだ。更にはスクワッド達がクジラを釣り上げてしまい、ものの見事にクジラの重さに潰されアリウス総勢で救助作業に入ったりもしたらしい。なんというか、想像以上に退屈さとはかけ離れた生活を送れているようで何よりだ。
そんな近況を聞きながら歩いているとあっという間に古聖堂の近くに辿り着いた。やはり警備はかなり薄く、見える範囲に人は居ない。古聖堂の中に入るのは簡単そうだ。それからしばらく待機していると、ようやく最後の待ち人がやってきた。
「久しいな。待たせてしまったか」
「いや、俺も今来たところだ」
「……?ならば良いが、しばらく見ぬ間に随分と一人称が粗雑になってしまったな」
これ私が悪いのか?今の様なシチュエーションではあの台詞を言うべきだと言われたから実践しただけなのだが……。
「ふふっ、まさかマエストロにもやるなんて思わなかった。ごめんね?」
どうやら先の台詞はデートの待ち合わせの常套句のようなものだったらしい。それと一人称を無理に変える必要も無いらしい。――分かるか!そんなキヴォトスの常識が!
「貴下も大変そうだな」
同情されるのが一番辛いからやめてほしい。
そろそろ百鬼夜行へ行こうかなと思って百花繚乱編を読み直してたんですよ。
そしたら重大な事実が判明してしまいまして…。
アヤメが居なくなったのって百花繚乱編の10か月前なん!?!?!?!?!!???
エデン条約終わった頃にはもうとっくにおらんやろこれ!アヤメをペットにしたいから早めに百鬼夜行に行きたかったの!どうしてくれんのこれ。
アヤメをペットにするついでにティリス民が何故かクズノハと邂逅したりする予定だったのに!全部こわれた!もうやだぁ!ママー!
失踪します。