透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

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ミカァ!やっぱお前おかしいよ!

あれからナギサ達が戻ってくるまで軽く二人で雑談をしていた。ナギサとミカは幼馴染だけあって前にナギサから色々聞かせて貰った時とは違う昔話なんかも聞かせてもらったりと中々に興味深かった。ナギサも昔はミカに負けず劣らずのおてんばだったのは少し意外だったな。……いや、ロールケーキを口にぶち込んだりは今でもしているみたいだし片鱗は見え隠れしてるか。セイアに関しては本人への愚痴が全体の七割くらいを占めていたが、それでも話している時のミカの表情はどこか楽し気だったのでこれが彼女達のコミュニケーションの取り方なのかもしれない。

 

「それでセイアちゃんってば――」

 

「お二人共、お待たせしました。セイアさんをお連れしましたよ」

 

「あ、ナギちゃんおかえり!セイアちゃんもやっほー☆」

 

「おはようミカ。彼とは上手く会話は出来たかい?彼なら君が癇癪を起こしたとしても問題なく対処出来るとは思うが」

 

「セイアちゃんの中での私って一体……」

 

出会って早々じゃれ合う二人を横目に持参していた雪プチケーキを切り分けて皆の分を用意する。この雪プチの砂糖菓子はどうやって分ければいいんだろう。適当に四等分にしてケーキの上に乗せておけばいいか。それから切り分けたケーキを三人に配ったのだが、何故か皆一様に微妙な表情を浮かべている。何かおかしな事でもしただろうか。

 

「その、何と言いますか……」

 

「まさか砂糖菓子すらも律義に四等分するとは予想だにしなかった」

 

「あ、あんなに可愛かった子が……こんな無残な姿に……酷いよ……」

 

あ、雪プチの砂糖菓子を切り分けた事を気にしていたのか。ミカにいたっては雪プチの残骸を見て若干涙目になってしまっている。そんなに気に入ってたのか……。

 

「す、すまないミカ。砂糖菓子はどう処理すれば良いのか分からなくてな」

 

「こういったキャラクターを象った砂糖菓子は基本的に観賞用でして、食べる事はあまりありませんね」

 

「食すにしても砂糖の塊を口に入れるようなものだ。とてもではないが進んで口に入れたいとは思えないね」

 

「そうだったのか……」

 

確かにこの砂糖菓子は美味しくはない。私は鑑賞するという発想が無かったので作る度に律義に食べてしまっていた。しかし鑑賞するのは良いとしてその後どうするんだ?やはり捨ててしまうのだろうか。

 

「そういう時は紅茶とかココアに入れて飲むんだよ。そしたら良い感じに有効活用できるでしょ?」

 

「なるほどな、試してみるか」

 

丁度ナギサが淹れてくれた紅茶があるので試してみようと、ケーキの上に乗せていた雪プチの残骸を手に取り紅茶に入れようとしたその時――

 

「い、いけませんっ!!!」

 

「――!?ど、どうした、ナギサ?」

 

突如ナギサが声を荒げて私の行動を止めてきた。その鬼気迫る声色に思わず手に持っていた砂糖を紅茶にではなくテーブルに落としてしまった。

 

「あっ……その、今日の紅茶は良い茶葉を使っていますので、その砂糖菓子を入れてしまうと茶葉の香りがぼやけてしまいます。砂糖菓子には生クリームも付着してますから、猶更です。ですので今日のところは砂糖を入れずに楽しんで頂ければと。それに砂糖を入れてしまうとケーキの甘さを紅茶でスッキリさせる事も出来なくなりケーキの味までぼやけてしまいますから」

 

お、おう。

とりあえずナギサの紅茶に対する熱量が凄いのは分かった。

 

「トリニティは紅茶にこだわりがある者が多い。ナギサもその内の一人だから大人しく言う事を聞いておいた方が身の為だ」

 

「別に好きなように飲めばいいのにね。好みなんて人それぞれじゃん?」

 

「わ、私だって普段は個人の嗜好を尊重します」

 

私はあまり紅茶を飲んだ事が無いうえに、今回用意した茶葉は山海経という自治区から取り寄せた高級な茶葉だったらしい。なので折角なら私に美味しく飲んで欲しくてつい口に出てしまったようだ。確かにケーキの飲み合わせとして砂糖の淹れた紅茶を飲んでいたら口の中が甘ったるくなってしまいそうだ。止めてくれたナギサには感謝すべきだな。

 

「ありがとうナギサ。良ければこれからも紅茶の飲み方を教えてくれると助かるよ」

 

「ふふっ、お任せください」

 

「むっ、ナギちゃんの事そうやって甘やかすんだ……。ま、私は砂糖入れちゃうけどね☆」

 

そう言ってミカは私が四等分にした雪プチを紅茶に容赦なく入れた。それを見たナギサはどこか堪えるような表情を見せている。紅茶好きとしてはこの行為にはやはり思うところはあるらしい。

 

「話は変わるが、セイアはこれから予定は空いてるか?」

 

「君からの誘いとあらば受けない訳にはいかないね。デートのお誘いだろうか」

 

「それはまた今度な。拠点を建てた後に以前約束していた魔法を教えようかと思ってな」

 

セイアは私の様に強くなりたいとご所望だ。それならばまずは魔法を覚えさせる必要がある。ついでに予知夢の副作用である主能力低下を踏み倒す為の魔法も覚えさせられるし一石二鳥だ。主能力に関しては食育でどうにかなるとして、近接スキルや防御系スキルをどう上げるかなのだが、木人を叩くのではすぐに頭打ちになってしまうが入門としては悪くないかな。防御系スキルについては……絞首台に吊って私とペット達でボコボコに殴り倒すのが最も手っ取り早いのだが……流石に生徒である内にあれを経験させるのもなぁ。

 

「ねね、私も魔法使ってみたい!」

 

「ミカも?」

 

まぁ断る理由は特に無いし良いか。となればナギサも誘ってみるか。

 

「お誘いは嬉しいのですが、今日はまだ片付けなければならない仕事がありまして……またの機会にお願いします」

 

「分かった。ではミカとセイアは借りていくな」

 

「はい。――ミカさん、この方にご迷惑をおかけしないように気を付けてくださいね」

 

「な、なんで私だけ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがナギサが用意してくれた土地か」

 

「っぽいね。――ただ、なんていうか」

 

トリニティ総合学園からめっちゃ近い。なんならここからトリニティを目視出来る程に近い。この辺りは通った事があったような気もするのだが、こんな所に空き地なんてあったか?

 

「恐らくはナギサが用意する際にあらかじめ更地にしておいてくれたのだろうね」

 

「ナギちゃん……貢ぎ方がガチすぎるよ……これ、いくらお金掛けたの……?」

 

私としては便利なので非常に助かる。これならセイア含めトリニティのペットもテレポーターを介して私の拠点へ来やすい。十ロイテルを優に超えた土地の権利書を読み上げ、ここを私の拠点とする。――良し、盟約の石も問題無く現れた。

 

「まずは建物を建てるとするか」

 

「え、貴方が建てるの?誰かに依頼するとかじゃなくて?」

 

建築を誰かに頼むという発想をした事が無かったからな。なんだったら命の恩人に拾われた時に教わった技術の内の一つがこの建築技術だ。拠点を手に入れたなら自分で建物を建ててみると良いと、言われるがままに建築していた。とはいえそのおかげで拠点を彩る楽しさにも気付けた。本気で拠点の構築をしようとすれば年単位で時間が溶けてしまうのが非常に恐ろしい。

 

「実は本業が建築家だったり?」

 

ただの冒険者だ。

 

「もしかしてノースティリスには貴方みたいな人で溢れ返ってたりする?ちょっと怖くなってきちゃった」

 

「……いや、冒険者で私みたいに色々と手を出してる者はそうは居ない……と思う」

 

私の知る他の冒険者達が拠点を持ってるという話は聞いたことが無い。大体が流浪の民だったはず。……いや、改めて考えたら、なんで私はこんな建築やらクラフトやら色々とやってるんだ?そもそもエイシュランドもおかしい。私が目覚めてからいの一番に渡してきたアイテムが土地の権利書というのも中々に訳が分からない。フィアマはペットとして最初に少女を渡してくるし、彼等は彼等で頭がどうかしている。私が多方面から頭がおかしいとか言われるのは彼等の影響を多分に受けたせいなのだろう。くそ、恩人と言えど許せん……。

 

「なにやらおかしな事を考えていそうだが、そろそろ建築を始めてはどうだろうか」

 

「……そうするか」

 

私の倫理観が誰に育てられたものなのか理解してしまったが、改めて建築を始めるとする。今日使う建材は大理石で作ったルミエストの壁で、白い壁を木材で縁取った落ち着きのある建材だ。これならばあまり厳かになりすぎず、さりとて格式高い建築物の並ぶトリニティから浮く事も無い丁度良い塩梅の建物が建てられるだろう。間取りはどうするか。ミレニアムで建てた建物と同じ感じで、リビングと客室を何室か。そして私の部屋とテレポーターを設置する部屋を設けるとしよう。

 

 

「セイアちゃん、あの人何してるの?」

「見たところ壁を立てているようだね」

「私の知ってる建築と全然違うんだけど……?」

「奇遇だねミカ。私の知る建築とも全く様相が異なる。……待て、屋根はどこから現れた?」

 

 

ふむ、こんな感じか。

後はホームプレートとネームプレートを各部屋に貼ってそこから屋根の形を整えて……。

 

 

「私は夢でも見ているのだろうか。屋根が百面相の如く形が変わっていくのだが。具体的には丸屋根になったり三角屋根になったり、色や模様すらも変わっているように見える」

「夢じゃないよセイアちゃん。……って、なんか壁も伸び縮みしてない!?どういう原理なのこれ!?」

「彼の不条理さはとうに受け入れたつもりだったが……甘かった。やはり彼は滅茶苦茶だ。世の建築家は泣いていい」

 

 

大体形は定まったな。後は窓を設置して日通りを良くすれば外観はひとまず完成で良いだろう。これだけではのっぺりしているので細かい装飾もしたいが、今は待ち人もいるのでそれは今度一人の時にゆっくりやるとしよう。

 

窓の設置も終えたので床を張って家具も一式設置しておく。

しかし考えてみると、アリウスは拠点に生徒がいるから清掃を任せられるが、トリニティの拠点は基本的には無人だ。ミレニアムの方はトキが管理してくれている……というか、あの子はいつの間にか拠点に住み込んでいたのでそのまま任せっきりにしているが、ここの拠点はノースティリスから清掃要員を呼んで駐在させた方が良いかな。家は人が住まなければすぐに劣化するし、ゴミも何故か勝手に溜まっていくからな。

 

「待たせたな二人共。建築も終わったしそろそろ――って、どうしたんだ?」

 

建築を終えたので待たせてしまっていたミカとセイアに魔法を教えるべく声を掛けたのだが、どうにも反応が無い。建物をじっと見ているが何かおかしな部分でもあったか?

 

「おかしな部分っていうか、おかしな事しかなかったていうか……」

 

「ただ建物を建てただけで大げさな――と思ったが、君達はお嬢様なのだし建築の様子をあまり見た事がないのか?」

 

だとすればこの反応も納得出来る。見慣れない風景を見た時は得も言われぬ感覚に襲われる事がある。私もかたつむりが拷問されている場面を初めて見た時は小一時間固まった。

 

「……うん、まぁそれでいいや」

 

「世界が変われば常識も変わるという事だね。さぁ、私達の事も君の常識で染め上げてくれまいか?魔法を識る事で、君という存在を深く理解したいんだ」

 

「わーお、セイアちゃん情熱的だねぇ。わ、私は別にそこまでは思ってないけど。ただの興味心だし……」

 

「興味があるだけで私は十分に嬉しいぞ」

 

今日という日をきっかけに魔法を存分に知って欲しい。魔法はノースティリスの中でもトップレベルに楽しいものだからな。あくまで私にとってはだが。

 

「そっか、嬉しいんだ。……えへへ、そっかぁ」

 

「はぁ、だから君まで堕ちても知らないと言ったんだ」

 

「うぇ!?いやいやセイアちゃんやナギちゃんじゃないんだからそんなちょろくないからね!?そ、そもそも卵産ませてくるような人だし……」

 

なんで魔法の話から私がどうこうみたいな話になってるんだ?それはともかくとして――

 

「ミカの卵は今もしっかり保管してあるから安心してくれ」

 

「なんにも安心出来ないってば!ばか!へんたい!」

 

変態呼ばわりは心外だ。そもそもミカに産ませたのはセイアであって私ではないと言うのに。全く持って失礼な小娘だ。

 

「そんな事より魔法を教えるぞ。まず手始めにこれらの魔法書を全て読んでもらう」

 

「そんな事って……いや本の数多くない!?何冊あるのこれ……」

 

おおきなワゴン二つ分の量なので二百冊の本を用意してある。本来はこの量をセイア一人に読ませるつもりだったが、ミカも混ざったので一人当たり百冊読む事になるだろう。とはいえ二百種類の魔法を覚えるというわけではなく、十種類の魔法をニ十冊ずつ用意したので覚える魔法の数は控えめだ。

 

軽傷治癒、氷の矢、聖なる盾、雷の光線、清浄なる光、肉体復活、精神復活、氷の渦、加速、最後に帰還の魔法。これら十種類の魔法を今日は覚えてもらう。軽傷治癒から順番に詠唱の難易度が高くなっていくので、とりあえず帰還の魔法を安定して唱えられる様になる事が当面の目標だな。

 

まぁキヴォトスの生徒は読書スキルが高い傾向にあるので、詠唱するならまだしも読破するだけならば簡単にこなせるだろう。実際ミカとセイアは既に本を手に取って読書を始めているが失敗する様子は見られない。詠唱スキルに関しても銃魔法とかいうインチキフィートを持っているので攻撃魔法を唱えていれば簡単に詠唱スキルも上がっていくはずだ。今日はたったこれだけの数の魔法書しか持ってきていないが、これから更に覚えさせる魔法の種類を増やしたり、読む本の数も増やす予定だ。エリスの癒し等の難度の高い魔法は今はまだ唱える事は出来ずとも、読むことさえ出来れば今の内にストックを増やしておきたい。

 

そんな考えごとをしていたらセイア達の読書が大分進んできている。私もここへ来る前にデミタスから買った本を読みながら待つとしよう。

 

 

 

 

「うえ~、やっと読み終わったぁ……」

 

「ミカの事だからてっきり途中で投げ出すかと思っていたのだが……いつから読書に目覚めたんだい?良ければ今度お薦めの本を紹介しようか」

 

「もうしばらく本は読みたくないよぉ……」

 

どうやら二人の読書が終わったらしい。こちらは後少し本が残っているが、学習用グリモアにでも突っ込んでおこう。……あ、セイアの分のグリモアを用意しておけば良かったな。今度渡しておこう。

 

「二人共お疲れ様。少し小休止を挟んでから実践へ移ろうか」

 

「はーい……って、貴方も本読んでたんだ。それも魔法の本?」

 

「そうだ。今読んでいたのは地震とメテオ、それとオディナの癒しという魔法だ」

 

「メテオ……隕石を落とせるってほんとだったんだ。……私もそれ読めるかな?」

 

読書で疲労困憊だった割には興味はあるのか。良い事だ。しかし先程渡した魔法書より難易度は間違いなく高いから失敗するリスクも上がってしまうが……失敗したとしても即死するわけでもなし、どうせセイアにはいずれ読ませる予定ではあったのでミカを含め今ここで読ませてみてもいいか。

 

「では読んでみると良い。セイアには地震とオディナの癒しの魔法書を渡す」

 

二人に魔法書を渡して暫し様子を見守る。だが私の懸念とは裏腹に二人共失敗する事無く読破して見せた。読書スキルに関してはヒナと遜色ないと見て良さそうだ。

 

「これらの魔法書も読めるとは、やはり優秀なのだな君達は」

 

「えへへ、でしょでしょ!」

 

「これでもティーパーティーだからね。とはいえ、ミカも失敗する事無く読破してみせたのは驚きだが」

 

「私もティーパーティーなんだけど……?」

 

「腐っても、というやつだね」

 

「じゃあ次はセイアちゃんを的にして魔法を撃てばいいのかな☆」

 

仲良いな君達……。

 

「的はこちらで用意してるからそっちに頼むぞ」

 

以前にも使った絶対に壊れない謎の的――木人を設置し、二人に魔法を撃たせる。まずは初めにセイアが魔法を試射したが、私が何を言わずとも当たり前の様に銃から魔法を放っていた。やはりキヴォトスの生徒が魔法を撃つときは銃からというのが共通認識らしい。意味が分からん。

 

というかセイア凄いな。制服の袖口を大きく余らせた服装だというのに、袖から手を出す事無く器用に制服の袖ごと拳銃を握っている。これで問題無く照準を合わせられているのは驚きだ。剣を装備させたとしても袖ごと剣を握るのだろうか。……握りそうだな。ケーキを食べる時のフォークですら素手で握る事はないからな。

 

「これが魔法を撃つ感覚……なんとも言えぬ快感があるものだね。今私はキヴォトスの生徒という枠組みを超え、新たな領域に足を踏み入れた。そんな感覚を覚えてしまうが、これは錯覚なのだろうか」

 

……ふむ、あながち錯覚でもないかもしれん。

ソリン曰く、魔法とはイルヴァに存在する神秘だ。キヴォトスに存在するらしい神秘は私には感じ取れないが、彼女達は魔法を覚えた事によりイルヴァの神秘とキヴォトスの神秘、両方を獲得した事と同義と言える。であるならば、私にも分からない何かしらの変化が彼女達に訪れていてもおかしくはないかもしれない。崇高……とはまた違うよな。あれは神秘と恐怖が必要という話だし、今回は神秘を二つ保有している。

 

この辺りは一度調べてみたいが……こういった事に詳しそうなのってゲマトリアしか居ないんだよな。黒服に相談……はちょっと嫌だな。対価に何を求められるか分からんし、そも私のペットを実験に使っていいのは私だけだ。他にも魔法を覚えた生徒はセイア以外にも存在しているが、今まで黒服達がそれらに言及した事はない。という事は黒服達ですらセイアの言う変化に気付いていない可能性がある。気付いていたら上機嫌で拠点に遊びに来るだろうし。

 

セイアも確信を持っている訳ではなさそうだし、今は様子見という事にしよう。ペットが強くなるというならこの変化が何か分からずとも、受け入れないという選択肢は私には無い。そもそも原理の分からないものなど、ノースティリスには腐る程ある。卵の鞭を筆頭にエーテル病もなんなのかよく分からんがとりあえず有用だから利用している。そんな訳分からん現象が今更一つ増えたところでなんだと言うのだ。とはいえ。

 

「もし体や精神に明らかな変化があれば教えてくれ。悪影響があっては困るからな」

 

エーテル病もデメリットでしかない症状は多数ある。しかも病に罹ってすぐには気付きにくい変化を齎すものもある。全ての生物と敵対するようになったり、雨雲を引き寄せたり、魔法杖を手に取っただけで魔法のストックに変換してしまうようなものは症状を確認するのに時間が掛かる事がある。

 

「承知した。何かあればすぐに君に伝えよう」

 

「良し、では次はミカだ。好きに魔法を唱えてみるといい」

 

「おっけー!じゃあ試しにメテオを撃ってみようかな☆」

 

「うーん、流石にそれは無理だと思うが……」

 

メテオや地震等の特殊な攻撃魔法は銃からは撃てないというのは既に検証済みだからな。ミカが楽しそうにしているところに水を差すのは申し訳ないが、出来ないと既に分かっているものをやらせても仕方あるまい。

 

「えーそうかな?なんだか撃てそうな気がするんだけど……えいっ」

 

そう言うや否や、ミカは銃を構えてメテオを撃とうと試みた。

しかし銃からメテオが放たれる事は無く、ただ銃弾が飛び出すだけに終わった……かと思えば、銃弾が木人に当たった後、そこに追従するかのように上空から小規模の隕石が降り注ぎ木人へと命中した。

 

「――は?」

 

「ほら!なんにも問題無かったでしょ?」

 

「…………は?」

 

なぁにこれぇ。

 

「ミカ。君のせいで彼の思考が止まってしまったぞ」

 

「え?私、何かおかしな事しちゃったかな?」

 

メテオは確かに発動した。しかし、私の知るメテオとは様相が異なる。第一に範囲が狭い。本来メテオは超広範囲に隕石を落とす魔法だが、ミカの放った魔法は木人の周辺にのみ被害を齎したが、私が建てた建物には何の被害も与えていない。そして、恐るべきはメテオを撃ったにも拘わらず、周囲が炎上していない。

 

そもそも銃魔法というのは矢、球、光線を銃から放つものだ。そして球に関しては、座標指定が可能になるものの、魔法そのものは決して変異しない。

 

座標指定が可能な範囲攻撃魔法は、ノースティリスにも存在する。フレアという魔法なのだが、これは比較的最近生まれた新しい魔法であり、便利屋に魔法を教えた当初は存在していない魔法だった。残念ながらフレアの魔法書は存在しない為、私自身覚えるのは現状不可能であり、覚えられるのは遺伝子合成機を使えるペットのみだ。

 

そしてそのフレアという魔法は座標指定が可能な代わりに、自身を中心に発動する球よりも攻撃範囲が狭い。しかし銃魔法で放たれた球系の魔法はフレアに置き換わるわけではなく、あくまでも球を放つので範囲が狭くなることは無い。

 

銃魔法による球系の魔法はフレアに変異しない。これこそが銃魔法のインチキフィート足る所以だったのだが、ミカはメテオのフレア化とも言うべき現象を引き起こしてみせた。しかも炎上もしていない。範囲が狭くなった代わりに非常に使い勝手の良い魔法へと昇華させたのだ。

 

やっぱキヴォトスって訳分かんねぇ~。神秘か?神秘のせいなのか?

 

「……ミカ」

 

「な、何かな?そんなに真剣な表情で見つめられると、ちょっと恥ずかしい……」

 

これから真面目な話をするので許して欲しい。ミカは恥ずかしそうに身じろぎしながらもこちらと視線を合わせている。

 

「私のペットにならないか?君が欲しい」

 

「うぇ!?わ、私を……?」

 

「ほう?ミカが君にとって想定外の事を引き起こしたであろう事は想像に難くなかったが、そこまでだったのかい?流石に少し、妬けてしまうね」

 

いやこれを見せられて欲しくならない訳が無くない?メテオのフレア化だぞ?

 

「セイア、確かにミカは埒外の現象を引き起こしてくれたが、それでも君が私にとって大切なペットなのは変わらない。君にも予知夢という特別な物があるだろう?」

 

「それはそうだが、乙女心というものはそう簡単に納得してくれないのだよ。それに、その言い方だと予知夢の無い私には価値が無いと解釈出来てしまうじゃないか」

 

まずい、セイアが拗ねている。

思わず自分の感情が昂ぶってしまった事と、セイア自身ペットを増やす事に寛容だと思っていたからこの場でミカを勧誘してしまったが、確かにセイアの言う通りこれでは何のフォローにもなっていないな。

 

「……すまない、言い方が悪かった。予知夢があろうと無かろうと、セイアは私にとって大切な子だ。君が無価値なんて事は有り得ないし、手放すつもりも無い」

 

「ならば、それを証明してもらおうか。後日二人っきりで……じっくりとね」

 

「無論だ。セイアが納得するまで付き合うと約束しよう」

 

何をさせられるんだろうか。少し怖いが、私の落ち度なので受け入れる他ない。

 

「……ふふっ、たまには感情的になってみるものだね。こうして約束を取り付けられたのだから。だが私からも謝罪をさせて欲しい。感情で人をコントロールしようとするのは本来肯定されるべきではない」

 

「それこそ気にするな。ナギサにも言ったが、我が儘なくらいが私には丁度良い」

 

あの時はナギサに向けて言った言葉だが、あれはペットである子達であれば皆対象だ。ペットを増やすなという我が儘だけは聞いてあげる事は出来ないが、他の事であれば大抵の事は出来る自信がある。

 

「ところでミカは……」

 

「うぇへへ、あんなに求められるなんて初めて……そ、そんなに私の事が欲しいんだ……。まぁ、確かにあの人も良いとこあるよね。優しいし、ダメなとこは指摘してくれたけど、それでも私の事を認めてくれて……裏では私の為に色々動いてくれて……いやいや、何考えてるの私!ちょっと……いやかなり常識がズレてる人だし、女の子に見境ないし、ナギちゃんにセイアちゃんだってあの人の事……あれ、これじゃ私だけ仲間外れみたいじゃんね。どうせ他にも女の子がいるなら私が混ざるくらい……許される、かな。卵産まされた責任を取ってもらわなくっちゃダメだよね。でもでも他の女の子がいるのはやっぱり気になる……!」

 

元気そうだ。

私とセイアが話している間もこうして一人でぶつぶつと独り言を喋っていたのだろう。そろそろ現実に引き戻して答えを聞かなければならない。

 

「あー、ミカ?そろそろ戻っておいで」

 

「わひゃぁ!?き、聞いてた……!?」

 

余裕で聞こえていた。

 

「いや、内容までははっきりとは。そろそろ答えは決まったか?」

 

「う、うん。えっと……その……考えておいて、あげる……」

 

おっと、感触は悪くなさそうだな。さっき二人で話をした事が効いていたか。ペットを増やし過ぎた事が原因で渋られてそうな感じはあるが、こればっかりはどうしようもないしな。

 

「ふっ、これは時間の問題かな。ナギサもそうだったが、君達は本当にちょろいな」

 

「セイアちゃんをその辺に捨ててくれるなら今すぐおっけー!」

 

「流石にそれは無理だな。まぁゆっくり考えておいてくれ。こちらも焦っているわけではないし、今後の君の人生にも関わるからな」

 

ペットになれば今後ミカの命は私が握る事になる。卒業した後はノースティリスに移住するか、キヴォトスの拠点に駐在してこちらで生活をするかは今後のミカ次第だが、どちらにしてもミカにとって大きな節目となるだろうからな。

 

「うん。えっと、じゃあ……不束者ですが、よろしく、お願いします……」

 

その台詞はペットになるって言ってるようなものでは?

まぁ前向きに考えてくれていると解釈しておくとしよう。

 

 

ミカにはメテオの魔法書を多めに用意しておかなければ。




投稿遅れて申し訳ないです。新章に向けてプロットを組んで……とかは全く無く、ワイルズやってました。久しぶりにインストールしたらかなり最適化されててクソ面白くなってた。アプデ要素ほとんどやってなかったから厳選が地獄だぜぇ!皆もガンランス握ろう!


そして新章と言いながら前回の続きから始まるやつ。
ミカにメテオ覚えさせてたら何故かティリス民がミカを口説き始めました!なんで?
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