「それじゃあこの書類をお願い。教えた通りに、ゆっくりで良いから焦らず書いてね」
「は、は、はいぃ!!!」
風紀委員会の改革案を出してから数日。今日から本格的に他の風紀委員の子に書類をお願いする事になった。まずは様子見という事で一年の子を三名配置し教育していく事にしたらしい。その一年の子達は仕方のない事だがガチガチに緊張してしまっている。ついこの間まで雲の上とも言える存在であった風紀委員長と同じ部屋で仕事をする事になったのだから当然の反応ではある。少しずつ慣れていってもらうほかない。ヒナはそんな反応を見て自己評価の低さから恐れられていると判断したようで少し眉尻が下がっているが、この辺りは後でフォローを入れるとしよう。
「そういえばヒナ、今日は出張との事だったが本当に私も付いていって大丈夫なのか?」
「構わないわ。直接会議に参加するわけじゃなくてあくまで道中の護衛という立場で来てもらうだけだから」
「そうか。それでどこへ行くんだ?生憎だが私はシャーレの部室とゲヘナしかロクに知らないぞ?」
「今日向かう先は――」
――トリニティよ。
「ほー、ここがトリニティか。新天地というのはやはり心が躍るな」
思わずヨウィン出身の子供が初めてパルミアへ赴いたかの様な反応*1をしてしまうがどうか許してほしい。周りを見渡すがゲヘナとは全く雰囲気が異なる。ノースティリスに無理やり例えるならゲヘナはダルフィに近い雰囲気で、トリニティはパルミアやミシリアと言ったところか。格式高い建物が所々に建っている。そして一番の大きな違いが――
「銃撃の音があまり聞こえてこないな……」
ゲヘナでは外を出歩いているだけで銃撃の音がそこかしこから聞こえてくるのは割と当たり前でありそれが普通と思って気にしていなかったが、どうやら当たり前の事というわけではなかったらしい。ゲヘナだけノースティリスの血を受け継いでないか?
「色々気になるところがあるのは分かるけど、あまり私から離れないでね」
そんなに落ち着きがないように見えてるのか。さすがに少し恥ずかしい。あまりきょろきょろしないように気を付けよう。
「ところでイオリの教育は順調?イオリからも報告は聞いてはいるけど、スパルタだって嘆いてたわよ?」
ヒナの後継はやはり今のところイオリが最有力候補のようで、せっかくだからと私が直接鍛えている。とは言っても私もほぼ我流なのでひたすらに一対一でぼこぼこにし続けている。最初の目標としては私の攻撃を問題なく躱せるようになるところだが彼女も大変筋が良く、躱すだけならそう時間はかからないだろう。
「そう。……少し羨ましいわ。私の方は怖がらせてしまっているみたいで…。きっと私が居ない今の方が仕事が捗っているんじゃないかしら」
「それは少し違うと思うぞヒナ。そもゲヘナ学園において治安を守ろうという気概を持つ者自体が少ない中で集まってくれた子達だ。その組織においてトップに立つ君を憧れはすれ怖がるという事はないだろう」
あれはただ緊張しているだけで君に隔意を抱いているわけではないから安心してほしいと付け加える。ヒナが暴君のような振る舞いをしていたならヒナの懸念も拭えなかっただろうが、彼女にそのような気質はない。ただ緊張で体が固まっている現状では、ヒナが居ない方が仕事が捗るという部分だけはフォロー出来ない。がんばえー。
「貴方が言うなら、きっとそうなのでしょうね。ありがとう」
「あぁ、どういたしまして」
あれからヒナとアコとは心の距離が少し近づいたように思う。特にヒナは元からではあるが、今はより素直にこちらの話を受けて入れてくれる。このまま親交を重ねて住民に誘うかペットに出来たら良いなと思っているのだが、彼女達に対してあまり打算的に動くのも気が引ける程度に私も愛着が湧いてきている。ゆっくりと長い目で見ていこう。
「イオリの教育は楽しいが、部隊単位での練度の向上となると私も流石に門外漢でな。先生が確か指揮官との事らしいし、いずれ彼に風紀委員の動きを見てもらいたいところだな」
「そうね。チナツの報告によるとかなり優秀みたい。彼の指揮下に入ると普段よりずっと力を発揮しやすかったって言ってたわ」
ほう?もしや彼には人を動かす際にバフを与えるようなフィート、あるいはアビリティを持っていたりするのだろうか。それとも単に指揮能力だけで生徒の能力を十全に発揮させられるのか。どちらにしても驚異的な能力だ。
「今はアビドスという自治区で動き回っているらしいわ。あそこは廃校寸前なんだけど、彼女も居ない中で今までよく持ちこたえているものだわ」
彼女?知り合いがアビドスとやらに居たのだろうか。彼女の言い方ではまるでもう居ないようだが、深く聞くのは野暮か。
「いえ、知り合いという訳ではないの。ただこちらが一方的に知ってるだけ」
ヒナは風紀委員会に入る前は情報部にいたらしく、その頃に各自治区の要注意人物を探っていたらしい。彼女とやらはその中の一人に数えられていたそうだ。当時アビドスは全校生徒が二桁程度しかおらず、途中から二名にまで減少。多額の借金を背負い、しかもその内の一名が事故で死亡したらしい。
――待ってくれ突っ込みどころが多すぎる。
私はゲヘナしか知らないから何とも言えないが生徒二名だけで学校と言えるのか?しかも借金だと?借金の総額は十億に近い額だろうとの事だった。ごめん意味が分からない。ロイテル何人分だ?そしてそれ以上に――。
「死亡したのか?――這い上がる事なく?」
「這い上がる?言葉の意味が分からないのだけど……」
「「――???」」
何か致命的なすれ違いを引き起こしている。そこで私はノースティリスではたとえ死んだとしても私であれば即座に這い上がり多少のデメリットはあれど死を無かった事に出来るし、町の住民であっても、癒し手の力があれば二日から三日程度で生き返る事を話した。それを聞いたヒナは今まで見たことがないくらい大きく目を見開いて驚いている。そしてヒナが言うにはキヴォトスにおいては命は一つ限りであり、ひとたび命を落としてしまえば永遠の死を与えられてしまうとの事だった。今度は私が大きく目を見開いて驚いた。
そうか、だからこのキヴォトスにおいて殺人は忌避されるものだったのか。先生の反応を見るに彼がキヴォトスに来る前の世界でも恐らく命は一つだったのだろう。逆にこちらの世界ではなぜ生を何度も謳歌する事を許されるのか気になるが、私には偉大なイルヴァの神々のおかげだろうという推論しか出せなかった。そうして考え事に耽ってしまっていると不意に袖口を掴まれた。見てみるとヒナが不安そうに瞳を揺らしていた。
「その……貴方も、死んだ事が、あるの……?」
そう聞かれてつい体が固まってしまう。ヒナの様子を見るに、あると答えてほしくないであろうことは窺える。だが察しの良いヒナが私の持つ答えが分からないはずはないだろう。それでも聞いてくるのは、それだけ私に心を許し、心を砕いてくれているという事なのだろう。ならば――。
「あぁ、勿論ある。決して少なくない数の死を、私は経験している」
変に隠す事はせず、こちらもヒナに対して心を開く事が、今の私に出来る事だ。
「そう……そうなのね」
「私は……貴方程に『死』に慣れていないから、こんな事を貴方に言うのもおかしいっていうのは分かってるけれど」
「――あまり、死なないでね。貴方の死ぬところは、見たくない」
「あぁ、約束しよう。――むしろ、キヴォトスに私を殺せる存在がいるなら逆に見てみたいくらいだ」
そんなのが居たらテンションあがっちまうよ。今は待機させているペットを総動員して全力で殺してやる。
とはいえきっとヒナ程の射撃スキルがあれば、私が無防備な状態で彼女の全弾をまともに受ければただでは済まないだろうな。無属性というのは厄介なのだ。
「もう……居なくていいよそんなの」
そう言ってヒナは少し笑う。湿っぽくなってしまったが雰囲気は少し戻せたか。しかし――。
ひたすらにハンマーでカジノコインを解体しまくって死にまくった事があるなどとは、流石に言えないなぁ。
**********
トリニティ総合学園に到着し、ヒナどころかアコと比べても一回り以上身長の高い生徒を中心に出迎えられる。確かこちらでの治安維持部隊である正義実現委員会という名前だったか。
「わざわざご足労頂きありがとうございます。風紀委員長空崎ヒナさん。――隣の男性の方は?」
「気にしないで、私もこの件に関しては重要視してるから。この人は私の護衛よ。会議には参加しないわ」
ヘイローを持たない私が護衛と言われて彼女達は一様に怪訝な顔をするが、この場で突っ込むような真似はせず頭に残る疑問を払拭し言葉を続ける。
「分かりました。それでは彼を応接室にご案内致します」
「お願い。――行ってくるわ。終わったらそちらへ行くから、少し待っていて」
「いってらっしゃい」
「それじゃあ案内するんでこちらへ付いてきてくださいっす」
糸目の彼女の案内に従い付いていく。正義実現委員会の者は黒髪の子が多い気がする。統一感を出すために染めているのだろうか。制服も黒一色なだけあって並んでいるところを見た時は中々に壮観だった。
「こちらっす。飲み物の用意をするんでちょっと待っててほしいっす」
「あぁ、わざわざすまない」
室内の雰囲気はかなりいい。パルミアにおられるジャビ王子のエーテル製ベッドを拝借する際にお邪魔する私室に似ているだろうか。軽く辺りを見渡していると程なくしてティーポットとお菓子を手に先ほどの彼女が戻ってきた。二人分あるように見受けられるが……。
「お待たせしたっすー。ただ待つだけじゃ暇だと思って話し相手として同室しようかと思ったんですけどいいっすかね?」
――ふむ。これだけ大きな学園であればシャーレの先生という大人の存在は知っているだろう。そんな中で恐らくは情報になかった全く知らない大人が現れたから少しでも情報を得たい、というのが真意だろうか。今ヒナが行っている会議の内容を考えるに、これを突っぱねるのは悪手だな。
「もちろん構わない。むしろ助かるよ、キヴォトスにはまだ慣れていなくて時間の上手い潰し方を見つけられていなかったんだ」
「へー。という事はキヴォトスの外から来た人って事っすか。先生と同じなんすね」
「あぁ、君も先生を知っているんだな。会った事が?」
「いや、私は会った事はないんすけど、さっきすごく身長の高い人がこっちに居たの覚えてます?あの方が先生と会った事があるんすよね」
「なるほど。私も直接会った事はないが同じ大人の男性として気になっててな。なんでも彼は指揮官で指揮下に入った生徒はかなり動きが良くなる、というのは聞いたことがある」
「そうっすね。ハスミ先輩も似たような事言ってましたね」
なるほど。こちらでも先生に対する評価は同じか。彼の能力に疑いようはないな。
私が先生と会った事は無いとしれっと嘘をついたが、これは同じ大人の男性という枠組みにある中で繋がりすらも残してしまうと、万が一私がトリニティで悪印象を残してしまった場合その悪印象を先生にも与えてしまう可能性を避けるためだ。ゲヘナとトリニティは犬猿の仲だと聞くし、私が何もしなくともゲヘナに居る大人というだけで良い印象だけを与え続けるというのは難しいだろう。
「あ、そういえば自己紹介をまだしてなかったっすね。私は正義実現委員会の仲正イチカっす。よろしくっす!」
「私はゲヘナの風紀委員会で外部の協力者として滞在している。よろしくイチカ」
「はい!ところで貴方は今回の会議について聞かされてたりするんすか?」
「あぁ、ある程度の概要はヒナから聞いて把握している」
エデン条約。
連邦生徒会長が失踪する以前にゲヘナの前生徒会長に対する奇策として打ち出されたものだったがゲヘナの生徒会長は失脚しその後卒業してキヴォトスを去り、連邦生徒会長は失踪。そのまま条約は流れるものかと思われていたが今のトリニティのトップであるティーパーティーの桐藤ナギサという人物がこれを拾い上げ、締結間近まで漕ぎつけている。特にナギサという子の手腕は素晴らしいの一言に尽きるだろう。空中分解寸前だったという事からまともな引継ぎもないであろう所からその欠片を拾い上げ形にしてみせたのだ。
「これは大人としての貴方に聞きたいんすけど……エデン条約、成功すると思いますか?」
ふむ。このレベルの話となると政治となんら変わらないように思う。そして私は政には詳しくない。正答を与えられるとは思えないが、大人でも四苦八苦する政治を年端もいかない少女たちが頑張って行っているのだ。どうにかして気付きの一つは与えてやりたい。
「まず前提として、私はトリニティの事情に詳しくないし、ゲヘナに関しても風紀委員会と他にはいくらかの子達としか関わりがないから、私の持つ情報は多くないという事は念頭に入れてほしい」
そう前置きした上で気になる事を羅列した。
エデン条約は両校から見ても最重要事項の一つと考えられるが、トリニティは今トップたるティーパーティーが主導で動いているがゲヘナはそうでない事。本来であればこちらもゲヘナの現トップであるらしい万魔殿という組織が動くべき事案のはずだ。しかし実情は今私達風紀委員会が来ている事から分かる通り、万魔殿の中ではこのエデン条約はそれほど重要視されていないのではないかという推論が出る。
「――ゲヘナはエデン条約を結ぶ気がないって事っすかね」
「いや、そうとも限らない。重要度が低い事と条約の締結の拒否はイコールにはならない」
ただお互いの熱量が違うというべきか。ティーパーティーにとっては是が非でも締結させたくとも万魔殿にとっては「条約?良いけど他人に任せらぁ」程度の認識である可能性が現状高い。まぁ万魔殿はヒナに対する嫌がらせに余念がないとの事なので、これもその押し付けの一環であることも考えられる。
「推測ばかりですまないな。ただ一つだけ確実に言える事はある。風紀委員会はエデン条約に対して意欲的だ」
少なくともヒナはそう思っているだろう。ヒナがそう思えばアコを始め他の者は心情はどうあれ後ろを付いていく。そもそもとしてゲヘナの問題児だけでも手一杯なのにトリニティにかまけている暇は今の風紀委員会には存在していない。それが条約一つで問題が解決出来る可能性があるなら是非もない。
「なるほどっすねー……。どこも一枚岩じゃないって事っすね」
「そうなるな。人が集まれば派閥が出来上がる以上こればっかりはどうしようもない」
彼女も少し心当たりがあるのか疲れた表情を見せつつ納得している。きっとティーパーティーか正義実現委員会にエデン条約反対派やゲヘナに対する嫌悪感を隠せない者がいるのだろう。
「イチカはゲヘナに対する嫌悪はそれほど強くないように見える。どうかそのままでこれからも風紀委員会とは仲良くしてやってほしい」
他は知らん。テロリストと呼ばれている温泉開発部や美食研究会と仲良くしてくれなどとは流石に言えない。
「もちろんっす!風紀委員長――ヒナさんは頼りがいがありそうですし、貴方もそこにいるなら上手くやっていけそうっす」
「ありがとう。具体的な解決策を提示できなくてすまないな」
「いえいえ!話せただけで少し楽になったっす!本当に!」
「なら良いんだが……。そうだ、モモトークを交換しないか?また何かあれば話くらいは聞かせてほしい」
「もちろん構わないっすよ!」
こうしてイチカとモモトークの交換を済ませた。エデン条約という真面目な話をし続けていたせいでお互いに飲み物とお菓子に手を付けていなかった。折角だし小休止を挟むとしよう。
「重い内容の話で疲れただろう。少しばかり小休止を挟もう」
「そうっすね。話したり考えたりしてたせいで喉も渇いたし糖分も欲しいっす」
そうして暫くお互い言葉を発する事無くしばしブレイクタイムを取る。そうしているとイチカが思い出したかのようにこちらに質問してきた。
「そういえば貴方ってヒナさんの護衛として来たって言ってたっすけど、先生と同じくヘイロー持ってないっすよね?大丈夫なんすか?」
「あぁ、私はそれなりに自衛の手段を持っている。心配してくれたのか?」
「ここまで話した仲じゃないっすか、心配くらいするっすよー。その大きな銃?みたいのが武器っすか?」
「そうだ。レールガンといってな。通常の銃器とは異なるが威力は折り紙付きだ。少し扱ってみるか?」
「いいんすか?それじゃお言葉に甘えて――いや、おっも!?え、これめちゃくちゃ重いっすよ!?」
あれ、キヴォトスの者ならこれくらい持てるかと思ったが、そうでもないらしい。ヘイローは耐久面に対する恩恵が大きくそれ以外は然程バフを与えないのか?オパートス様信仰の様なイメージだろうか。
「持てないのは少し意外だったな。私は問題なく持ち上げられるんだが――ほれ」
そういって軽く持ち上げて上下に振る。すると糸目だったイチカが目を開いて驚いていた。
「まじっすかー……。キヴォトスの外の大人って凄いっすねー。先生もこんな感じなんすかね」
すまない先生。トリニティの生徒にあらぬ誤解を与えてしまったかもしれない。しかも先生の事を知らない振りをしている手前、訂正も出来ない。
「――かもしれないな。ま、まぁそれでも銃弾一つで致命傷になる点は変わらないから、注意は必要だろうな」
それもそうっすねーとイチカが言う。わりぃ先生。あとは頼んだ!
ここに居ない先生に心の中で誠心誠意謝罪していた所でドアがノックされヒナが入って来た。どうやら会議が終わったようだ。
「失礼するわ。終わったからゲヘナへ戻りま――あら?貴方は正実の」
「あ、お疲れ様っすヒナさん。ただ待たせるのも悪いかと思って話相手になってもらってたっす」
「そういう事だ。おかげで退屈せずに済んだよ」
「そうなのね、ありがとう仲正イチカ。このまま出口まで案内をお願い出来るかしら」
「了解っす!」
こうして無事にトリニティでの出張は無事に終了しゲヘナへと戻ることになった。――のだが。
「アコと連絡が取れない?」
ゲヘナ地区へと入った辺りからヒナがアコに連絡を入れようとしていたのだが未だに通じないらしい。連絡が取れなくなるほど大きな仕事があるとは私もヒナも聞いていないし、何か非常事態が起こったとみるべきか。
「早めに学園へ戻るか。アコがこちらの連絡に出られない程の問題となると、私たちも早急に加勢した方がいい」
よりにもよって私たちが不在の時に事態が起こるとは随分とタイミングの良いことだ。いや、ここは私たちがいないことが筒抜けだったという前提で動いた方が良い。だとすれば情報戦においては相手の方が一枚上だ。今この状況も相手に知られていると見た方がいい。――場合によっては攻撃魔法の解禁も視野に入れておく。
「――待って」
先ほどから携帯を操作して状況を確認していたヒナだったが何かに気づいたようでこちらを呼び止める。
「何か分かったか?」
「えぇ、かなりの部隊の数が今アビドスの方角にいるわ。イオリとチナツは現場にいるみたい」
――アビドス?トリニティの道中の会話で聞いた自治区の名だ。随分とタイムリーだな。しかしなんだってそんな所に。
「それは分かったが一体なぜだ?私達はアビドスに用事はないだろう?あったとしてもその報告がヒナに来ていないのはおかしい」
となれば戦闘が発生してアビドスまで戦火が広がった?いや、そんな大規模戦闘なら私たちが出張中であろうと連絡がくるはずだ。
「すまない、私には察しがつかない。ヒナは何か分かるか?」
「――アコは連邦生徒会の元発足された超法規的組織であるシャーレを警戒していたわ。確かにあそこの持つ権限は大きすぎるから気持ちは分かるけど、私は貴方から先生の人となりを聞いていたから気にしてなかった」
「だがアコは不安が払拭出来なかったと。だからと言って他自治区にまで赴いて先生をどうこうしようと言うのは短絡的にすぎるな……」
普通に考えてその自治区とシャーレに対する宣戦布告だ。アビドスは今も生徒数は少ないから敵に回しても簡単に潰せるし風前の灯火である学校の事など周囲も気にしないという算段か?
「今アコが率いている部隊がいるところは厳密にはアビドス自治区ではないのだけど、心情的にアビドスはそう受け取るでしょうね。そして厄介なのが一応こちらも名目は用意出来てしまうところかしら」
便利屋68。
ゲヘナ出身の問題児達が今アビドスにいるとのこと。その子達の捕縛を名目にアビドスに向かい、あわよくば先生をどうにかしようとしているのだろうとヒナは推測した。
悪知恵働かせてるんじゃないよおばか!せっかく最近ヒナの負担を減らそうって話をしたのにたった今増えたぞ!何してんだ!
「はぁ……ともあれ急いだ方がいいな。全く、アコは後で説教だな」
「そうね。腱鞘炎になるまで反省文を書かせましょう」
気付いた時にはアビドスに居た以上、時間的余裕があるとも思えない。早急に向かうとしよう。
「それじゃ早速移動しま――ひゃっ」
ヒナを横抱きに抱え加速の魔法を唱える。私が全力で走る方が早く着くだろう。
「すまないヒナ。この方が早いと思ってな。道案内を頼む」
「え、えぇ……。でもびっくりするからせめて声はかけてちょうだい」
ヒナが顔を赤くしながら言うが、確かに年頃の女の子に声をかけずに抱えたのはよろしくなかったな。気を付けよう。
こうして私たちはアビドスに向かう事となった。
イルヴァ豆知識
・ロイテルの借金
ロイテルの抱える借金は2千万オレン。
2千万オレンを1ロイテルとカウントするロイテル算がノースティリスには存在している。
・イルヴァの死について
あくまでゲーム的な処理の問題でリスポーンが許されているだけであり
elonaのストーリーにおいては登場人物が暗殺される事件が発生していた。
あるいは強制的に永遠の死を与える手段がイルヴァには存在してる可能性もなくはない、かもしれない。
イチカ…そのままゲヘナの印象を変えないでね…余計な事はするなよカスミ
追記:書いてからうちにあるアダマンタイト製のレールガンを確認してみたらノースティリスのレールガンはキヴォトス人が持てない程重くない事が判明しました。アリスが悪いよアリスが。呪われ羽巻き物で重くしたって事でここはひとつ…。