透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

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もしかして山海経ってめんどくさい?

「はふっはふっ、こ、これ、ひゅごくおいひいへふっ」

 

「うんうん、いい食べっぷりだね。まだまだあるから沢山食べてよ」

 

「ありがとごひゃまふ、料理人ひゃん……!」

 

あれから服屋での買い物を済ませ、ヒヨリのお腹から元気な音が鳴ったのを合図にご飯を食べにきていた。どこの何が有名なのかとかはさっぱり分からないので適当に目に付いたお店を選んだのだが、中々の当たりを引けたと思う。料理が美味しいのは勿論のこと、ノースティリスではあまり見た事の無い料理も散見される。……出来ればレシピを覚えるためにここの料理を一通り解体させてもらえたりしないだろうか。

 

「――ミサキ。これ食べるか?」

 

「ふふっ、それじゃあ、私の分もあげよっか?」

 

「なんなの二人して……いらないってば」

 

アツコ達と合流してからというもの、彼女達はミサキの包帯が取り払われている事にすぐに気が付いていた。しかしミサキの様子を見て察したのか、言葉を掛ける事はなく温かな視線でミサキを見るだけだった。そんな三人に視線を向けられればミサキもすぐに気が付くが、やはりミサキも何か言葉を掛ける事は無かった。

 

それでもミサキの状態が好転した事が目に見えて分かったのが嬉しいのだろう。その証拠に先程からサオリ達がミサキに対して世話を焼こうとしている。なんとも微笑ましい光景だ。

 

「あはは、お客様達仲が良いんだねぇ」

 

私と同じ感想を抱いたらしいこの店の大きな獣耳と長髪を携えた料理人が微笑ましそうに笑みを湛えながら声を掛けてきた。

 

「お客様、服装はこっちの物だけど余所の自治区から来た人だよね?」

 

「そうだ。よく分かったな」

 

「この辺りじゃ見かけない子達だしね。それに、貴方みたいなゲヘナの有名人の事ならすぐに分かるよ」

 

そうか、私の顔は既に他の自治区にも知れ渡っているのか。エデン条約や何でも屋の営業のおかげかな。

 

「料理人ひゃんはこの人のほほをひっへふんへふは?」

 

「これでも一応は商人だからね。外の事にも目を向けないとやっていけないよ」

 

他の山海経の子達はそうじゃないかもしれないけど、と付け足す料理人。

確か私達が注文した料理は彼女が作ったものだと記憶しているが、商いもしているのか。それにこの様子だと先に抱いた閉鎖的な場所という印象は間違っていなさそうだ。

 

「でもそんな有名人がわざわざ山海経に来るだなんて、ゲヘナと山海経で何かあったの?そんな話聞いた覚えはないけど」

 

「いや、今日はゲヘナの名代として来ている訳じゃない。私が経営している何でも屋として依頼を片付けに来ただけだ」

 

「もぐもぐ……んぐっ。そうなんです、実は玄龍門っていうところから依頼があったみたいでして……」

 

「え、玄龍門から?……それほんと?」

 

…………あちゃー。

 

「ヒヨリ」

 

「はい、なんでしょう……って、どうひへほっへはをひっはふんへふか!」

 

余計な事を喋ったヒヨリの頬を軽く摘んで伸ばす。見ず知らずの人間に依頼人の情報を喋るのはあまりよろしくない。これは依頼人のプライバシーを守る為でもあるし、私達が情報を簡単に喋る人物であると思われてしまうと、その事を知った他の者達から依頼が来なくなってしまう恐れがある。

 

「以上の事からこれからは気を付けるように。それにしてもヒヨリの頬は実に良く伸びるな」

 

「えへへ……そうでひゅか?」

 

とはいえ守秘義務に関してはまだきちんと話していなかったからこの件は私に落ち度があるのであまり強くは言えない。もう少しだけヒヨリのもちもちを堪能したら離すとしよう。

 

「そういう訳で君も今の話は聞かなかった事にしてくれると助かるよ」

 

実際に黙っていてくれるかは分からないが言うだけ言っておく。まぁもしこの料理人が玄龍門に隔意を抱いていた場合は言っても無駄だろうが。そういう意味でもやはり依頼人の情報は漏らさない方が良い。

 

「あー……うん、これは無遠慮に聞いちゃったあたしも悪いね。玄武商会の名に懸けて他言はしないと約束するよ。商人は信用が第一だからね」

 

彼女が自身の看板を背負って約束するというなら一先ずは信用しておこう。もしこれで情報が洩れて厄介事が起きたらその時はこの料理人をしばいてやろう。

 

「お客さんって山海経は初めてだったよね?お詫びといってはなんだけど、よかったら山海経の事を色々教えてあげよっか」

 

「いいのか?ではお言葉に甘えるとしよう」

 

それから料理人から山海経の観光施設や娯楽施設について色々と教えてもらった。依頼を終えた後にはなるがスクワッドを連れて色々と見て回るとしよう。しかし、色々と観光出来そうな場所があるのは分かったが、どうにも矛盾を感じてしまう。山海経に入った時にも疎まれる視線を感じた事もあれば、先程の料理人の口振りからしても山海経は余所者があまり歓迎されない雰囲気を所々に感じる。それなのに観光施設などはちゃっかり存在しているのは一体どういう事だ。

 

「それで今から話す事が一番重要っていうか、覚えておいて欲しい事なんだけど――」

 

料理人の話を聞きながら考え事に耽っていると、なんとも面倒そうな話が舞い込んでしまった。どうにも私達に依頼を送ってきた玄龍門という組織は山海経の伝統を重んじる者達で構成されており、その伝統とやらを重んじるあまり外部からの刺激を好まない傾向にあるらしい。そして、逆に外部と積極的に交流したり、取り入れようとしているのが料理人が所属している玄武商会とのこと。

 

……めんどくさ。絶対対立してるだろ君達。

 

「ふふ、ご明察だね。あたしとしても伝統を大切にって考えには賛成なんだけどね」

 

それでも料理人は何やら思うところが多いようだ。まぁその辺の身内争いは是非とも私が居ない時に好きなだけしていて欲しい。もし本当に問題が起きそうなら先生が出張るだろうし私には関係のない話だ――とか言ってると最近はいつの間にか巻き込まれてるか首を突っ込んでしまっている事が多いんだよな……。

 

「まぁそんな訳で、何の理由があって玄龍門が貴方を呼び出したのかは分からないけど、普段の玄龍門なら絶対に取らない手段だって事は覚えておいて」

 

「……思ったより厄介な事になりそうだ」

 

話を聞いていたサオリが呟くが、これには私も激しく同意だ。

これでもし「玄武商会を潰してきてほしい」なんて依頼を出されたらどうすればいいんだ。ついさっき知り合ったばかりだし若干気まずいぞ。潰してから一時間程度は引きずるかもしれん。

 

「なんて心配を煽るような事言っちゃったけど、今の門主なら多分滅多な事にはならないんじゃないかな」

 

ふむ、対立しているという話をしたばかりだと言うのに玄龍門の長には一定の信頼があるようだ。個人として繋がりがあるのか、あるいは対立相手であっても手腕を認めざるを得ない程の人物なのか。

 

「あなたは門主と知り合いなの?」

 

よく聞いてくれたアツコ。

 

「ちょっとした昔馴染みってやつかな。そういうわけで玄龍門からの依頼ならあの子が関わってないはずないだろうし、変な依頼は出さないと思うよ」

 

「そうか、色々と情報をありがとう」

 

料理人のおかげで何となく山海経がどういうところなのかのイメージは出来た。肝心の依頼内容に関しては未だに謎のままではあるが……ま、いつも通りどうとでもなるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ、何でも屋っていうのはあたしも依頼出来たりする?」

 

「勿論出来るが……何か依頼したい事でもあるのか?」

 

話もそこそこに食事を終え、そろそろ依頼を受けに行こうと思い立った頃料理人から何やら依頼の話が舞い込んできた。

 

「ほら、貴方ってキヴォトスの外から来たんでしょ?それなら貴方の世界にしかない珍しい食材とかあったりしない?」

 

なるほど、そういうことか。

実は魚や野菜、果物などもキヴォトスと似通った部分が多い。ホシノがクジラについて知っていたようにキヴォトスにもクジラは実在する。野菜に関してもキャベツやニンジンがあれば、名前は少し違うがイーモという名前のキヴォトスでいうじゃがいもなんかも実在する。

 

ではノースティリスにしか存在しない食材は無いのかと問われれば、それは否だ。

 

まずは肉。ドラゴンはこのキヴォトスには存在しない。なのでこれは確実にノースティリスにしか存在しない食材だ。恐らく万色フルーツもノースティリスにしか無いんじゃなかろうか。今のところそれに似た果物は見た事が無い。後は……アピの実だろうか?

 

「やっぱりあるんだ!良ければあたしのところに仕入れさせて欲しいな。もちろん、玄武商会としての正式な依頼としてね」

 

「その依頼受理しよう。玄龍門からの依頼を終えた後で食材を用意しなければならないから少々時間は掛かるが、構わないか?」

 

それと玄龍門に玄武商会を潰して欲しいと言われた場合も依頼の遂行は不可だ。

 

「お、即決とはやるねぇ。もちろんいくらでも待つよ。異世界の食材……ふふ、今から楽しみになってきたなぁ」

 

そういえば今までにノースティリスの料理を振舞う事はあれど、ノースティリスの食材を提供して他人に料理をさせた事は無かったな。リオやエンジニア部にノースティリスの銃や素材を渡した事もあるし、もしかしたら料理方面に関しても何か新しい発見が見られるかもしれない。今度フウカにも食材を届けて何か作ってみてもらうのもいいかもしれん。

 

そう考えると、やはり玄武商会を潰すという依頼は来ないで欲しいな。頼んだぞ玄龍門。

 

「っと、せっかく依頼を頼むのに自己紹介すらしてなかったね。あたしは朱城ルミ。この玄武商会の商会長を務めてるよ。これからよろしくね」

 

まさかの玄武商会の長だったのか。こうして気楽に依頼をしてきたくらいだからそれなりの立場だろうとは予想していたが、まさかトップとはな。

 

「よろしくルミ。良ければ連絡先を交換しておこう。今後依頼内容を詰めるためにもな」

 

そうしてルミとモモトークの交換をして、料理の代金の支払いを済ませて玄武商会を出た。

 

「さて、私はそろそろ玄龍門の元へ行く。アツコ達は私が戻るまで自由に過ごしてくれ」

 

「いざとなった時の為にどこかで潜伏しなくて大丈夫?」

 

「向こうの思惑は知らんが、別に私達は戦いに来たわけではないからな。大丈夫だ」

 

それに土地勘の無い場所で潜伏するのは中々難しく、今から潜伏場所を探すとなると時間も掛かる。万が一気取られて相手に警戒されても面倒だ。そもそもアツコ達は観光の為に連れてきたのだから依頼の事は忘れて楽しんで欲しい。

 

「そういう事なら、お言葉に甘えちゃうね」

「だが何かあったらすぐに連絡してくれ」

「すぐに駆け付けますので……こんな私で役に立てるかは分かりませんが……」

「どうせ何事も無く帰ってくるでしょ。……いってらっしゃい」

 

「あぁ、行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まれ!ここはお前のような余所者が来て良い場所ではない。さっさと来た道を戻れ!」

 

スクワッドと別れ玄龍門の拠点、六和閣まで来たところで入口を守っていたガードに声を掛けられた。玄龍門の者の装いはスーツの様なスタイルとなっており、服装からしてお堅そうな印象を受ける。掛けてきた言葉からもトゲを感じるし、今からここを通らねばならないと考えるだけでめんどくさくなってくる。

 

「玄龍門の門主から依頼を受けて参上した。ゲヘナの何でも屋ロイテル・マートだ」

 

言いながら玄龍門から届いた手紙の封筒を見せる。手紙の内容を見せずとも封筒には山海経の校章が付いているので少なくとも悪戯では無い事は伝わる筈だ。

 

「門主様から?……少し待て、確認を取ってくる」

 

門主という名前を出したからか、あるいは手紙を見せたからなのか、ガードは怪訝そうにしながらも確認の為に屋内へと入っていく。一先ずは門前払いを受けずに済んで良かった。暫し待っていると先程のガードが戻って来た。

 

「……確認が取れた。入って良いぞ。ただし、勝手な真似は決して行わないように」

 

「承知した」

 

ガードに通され六和閣の内部へ入る。ゲヘナともどことも違う雰囲気を纏う六和閣の内装を眺めながら門主を待つ。それにしても六和閣の壁は中々良い模様をしているな。今まで見てきた壁の中ではトリニティが一番好みだったのだが、山海経も中々どうして悪くない。採掘して持ち帰りたいな……。

 

「……あれが門主様が呼び出した余所者か?」

「らしいぞ。門主様の事だから何か意図があっての事だろうが……」

「一体なんだって余所者を玄龍門に招き入れたのか……」

 

……当たり前だが歓迎はされていないな。

いっその事この場で喧嘩でも売ってくれたら大義名分が出来て適当に暴れ散らかしながら六和閣の壁を掘り尽くしてやれるのだが、門主から命令が下っている様で遠目から見られはすれども短気を起こす者はいない。実に残念だ。

 

「門主様の、おなーりー!」

 

一人落胆していると奥から生徒が来て門主の到着の合図を出す。すると玄龍門の生徒は一斉に合図を出した生徒の方向へ顔を向け、小言を吐いていた生徒達も静まり返る。想像以上に門主とやらの権力は強いようだな。

 

そうして奥から二人の生徒が堂々と姿を現した。一人は玄龍門の生徒が着ているスーツと良く似た衣服を着た緑髪の子。そしてもう一人は非常に小柄な――私の目測が正しければ恐らくヒナと同程度の身長で、長い黒髪を二つのお団子に分けてツインテールにした髪の子。装いは山海経で良く見かけるドレス風の制服にスーツの上着を羽織っている。装いからして緑髪の子は恐らく付き人だろうか。

 

黒髪の彼女が姿を現した瞬間場の雰囲気が一瞬にして変わった事から、彼女こそが山海経の生徒会長であり、門主と呼ばれている子なのだろう。

 

だが、そんな事よりも気にかかる事がある。彼女は……

 

「遠路遥々よく来てくれたの、お客人」

 

「……こちらこそ、噂に聞く玄龍門の長たる門主に会えて光栄の至りだ。山海経に足を踏み入れてから貴女の話を聞かなかった事はない。非常に聡明で理知的な人物であると。そのような御仁から依頼をもらえるとは、自身の幸運を喜ばずにはいられない」

 

まぁよく知らんが。ルミが近い事を言ってた気がする。

 

「……ほう?余所者にしては分かっているじゃないか」

「己が立場もしっかり弁えているな」

「余所者にすら届く御威光……やはり門主様は偉大なお方……!」

 

よし、適当に立ち回ってみたが合ってたな。適当におべっか使えばなんとかならんかなぁと思ってやってみたが、これならば余計な警戒心を与えずに済みそうか。

 

「――ふむ。じゃが今日は玄龍門としてではなく、妾個人として呼び出させてもらったのじゃ。そこまで恐縮せずともよい」

 

「寛大な対応、痛み入る」

 

「それに、其方の武勇ならばこちらにも届いておるぞ。平時はゲヘナで風紀委員会の臨時顧問として動き、トリニティでも精力的に活動しておるそうじゃな?トリニティの分校たるアリウスの問題を解決へと導き、その後の復興にも尽力。エデン条約の締結には其方の存在が大きいとも聞いておる。更にはミレニアムでも絶大な信頼を得ておる其方に依頼を出すのじゃ。幸運なのはむしろこちらじゃろうて」

 

「三大校と繋がりが……?」

「一体何者なんだこの余所者は」

「流石は門主様……そのような人物すらいとも簡単に呼び出すとは……!」

 

……へぇ。

これは私を賛美しているというより、私の経歴を他の者に伝える為にわざと言っているな。この短期間にこちらの態度の意図に気付いたのか。組織同士が対立しているルミが信頼を示すのも分かるな。

 

「さて、依頼の話をする為にも場所を移すとしようかの。妾の私室へ案内するゆえ、付いてきてくりゃれ」

 

「なっ……!も、門主様!?」

「外部の人間を六和閣だけでなく、私室にまでお通しするおつもりですか!?」

「玄龍門の伝統をどうお考えで……!?」

 

うわでた伝統。本当にその台詞出てくるんだ。

とはいえ彼女の為にもここは早く場所を移した方がいいだろうが、余所者である私から何かを言う訳にもいかないな。むしろ逆効果だろう。

 

「其方らの言いたい事も分かる。じゃが今回は妾個人として客人を招いたにすぎん」

 

「で、ですが……!」

 

「それとも、其方らは妾が呼び出した客人をこのような場所で、それも立ちっぱなしで対応させるのかえ?三大校と密接に関わりのあるこの者にそのような粗雑な対応を取ったと知られればどうなるか分からぬほど愚鈍ではあるまい?」

 

「それは、そうかもしれませんが……」

 

そもそも客人一人招いただけで潰れる伝統ならそれはもう無いのと同義だろ。そんな張りぼての伝統ならさっさと潰れてしまえ。

 

――って言えたら楽なんだがなぁ。

 

「――申し訳ございません、門主様!」

 

「うむ、では行くとしようかの。お客人」

 

なんて益体もない事を考えている間に話を付けたらしく門主の案内を受ける事に。どうやら緑髪の付き人らしき生徒も下がらせた様で若干落ち込んでいる姿が見える。適当に申し訳なさそうな表情を作りながら玄龍門の生徒に一礼し、門主の後を付いていく。

 

「――其方も中々に演技派じゃな」

 

先頭を歩く門主からふとそんな事を言われる。やはり私のおべっかに気付いていたか。

 

「お互いにな。だが合わせてくれて助かったよ。おかげで面倒事を幾らか減らせた」

 

「……すまぬの」

 

ふむ、色々と意味が込められた謝罪だな。自分で呼び出しておいて私が気を配り手間をかけさせた事。今回の件から玄龍門の生徒から反感を持たれる可能性について等々。まぁ門主としては色々とあるのだろうが――

 

「気にする必要は無い。これも依頼の一環という事にしておこう」

 

ルミから事前に玄龍門の情報を聞けたおかげで上手く立ち回れたしな。前情報無しで玄龍門へ来ていたらもう少し面倒な事になっていたかもしれん。ルミには感謝だ。

 

「着いたぞ。入ってくりゃれ」

 

「失礼する」

 

門主に促され私室へと足へ踏み入れる。特段変わった物が置かれているようには見えないが、匂いはする。

 

「気付いたかえ?これは心身の疲れを癒す香薬じゃ。其方には馴染みが無いかの?」

 

「……そうだな。初めて嗅いだが、不思議と不快感は無い。むしろ良い匂いだ」

 

「ふふっ、そうかの。さて、今茶を淹れる故しばし待たれよ」

 

「いや、その必要は無い。……あまり動き回れる体ではないだろう?」

 

瞬間、門主の体が一瞬強張る。

 

「……気付いておったのか。他人に勘付かれた事はなかったんじゃがな」

 

「職業柄、他人の状態を()るのは得意でな。不快だったなら謝ろう」

 

すくつや強敵相手では相手の状態を見極めて行動する必要があるので自然と身に付いた技術だ。相手の残り体力はどの程度か、どんな状態異常に掛かっているか。これらの要素を一つでも見落とすと一瞬でこちらが狩られてしまう。

 

「よい。依頼を出す前に其方の能力を垣間見れたのじゃからな。どうやら其方を呼んだ妾の判断は間違っておらんかったようじゃ」

 

「そうか。茶は私が代わりに淹れよう。手順だけ教えてもらえるか?」

 

門主を椅子に座らせ、門主の指示通りに二人分のお茶を用意して対面へと座る。

 

「ふむ、美味いの。初めて淹れたとは思えぬ。器用なものじゃ」

 

「それは良かった。さて、早速だが依頼の話をしようか」

 

とはいえ内容の想像は容易い。大方、自身の状態についてだろう。

 

「話が早いの。そうじゃ、妾の身体を診て欲しい。それが今回の依頼じゃ」

 

 

やはりか。さて、どうしたものかね。

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