ヒナ達がアビドスへ向かっている間にも事態は刻々と進んでいた。まずアコの当初の目的通り便利屋68を捕捉したのは良かったのだが、イオリの猪突猛進な性格が災いして警告無しにゲヘナ外の自治区であるにも拘わらず先制攻撃をしてしまったのだ。状況を更に悪くしてしまう一因にそこにはアビドスの生徒とアコの本命たるシャーレの先生がいたこと。先制攻撃をしていなければ対話でまだ何とかなったかもしれないが、既に攻撃してしまっている以上アビドスとシャーレからの覚えは良くないだろう。アコも保険を用意しているとはいえシャーレの先生を確保した際の状況の報告をヒナとあの人にした時の事を考えると叱責は免れないだろう。アコは内心溜め息をついた。
『便利屋の処遇は、私たちが決めます!』
やはりこうなるか。アコは便利屋の身柄の要求をアビドスに求めるが向こうからの印象が悪いせいでこちらの言葉は聞き入れてもらえそうにない。であるならばと先生に同じ質問をしてみるが――。
「便利屋はちょっと困った子達だけど、悪い子じゃないから」
などと言っている。いや悪い子かどうかはともかく悪い事はしている。風紀委員会がこちらに来る直前にアビドスの生徒達が足繫く通うラーメン屋を爆破しているのだ。逆に便利屋がそこまでの所業を行ってしまっているのにアビドスに便利屋よりも風紀委員会が敵視されているのは、先の先制攻撃が相当に尾を引いている事は間違いない。
『そうですか。――仕方ありませんね。本当は穏便に済ませたかったのですが』
アコは出来れば使いたくは無かった保険を使おうとした瞬間、イオリの背後から銃声が鳴る。その音に咄嗟に振り向いたイオリだったが既に便利屋所属の伊草ハルカがイオリの目の前でショットガンを構えていた。先ほどの先制攻撃を受けて自身が敬愛する便利屋68の社長である陸八魔アルを傷つけられ怒り心頭のハルカは「許せない!」と連呼しながらイオリのお腹にショットガンを連射する。
「うっ……ぐっ!――こんッの!!」
ハルカの猛攻に耐えきったイオリは弾切れを起こした瞬間に彼女の横腹に蹴りを入れて距離を取る。が、流石にダメージが大きかったのかすぐに膝を突いてしまった。
「イオリ!大丈夫ですか!?」
「な、なんとか……。こんな所であの人との特訓の成果を感じる事になるなんて…ちょっと複雑……」
チナツがイオリに声を掛けるが返事をする余裕はあるらしい。イオリの方は数日前から彼から特訓という名のリンチに遭っており、その経験が無ければ今ので倒れていたかもしれない。ぼこぼこにされた事に対して思うところがないではないが、今は感謝した。
「茶番はそこまでにしたら?アコ」
便利屋所属の鬼方カヨコがそう声を掛ける。アコはカヨコの姿を確認した瞬間ハッとした表情をするがすぐに引き戻す。
『――どういう意味でしょうか、カヨコさん』
「最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか理解できなかった。しかもこんなに部隊を引き連れた状態で、狙いは私達?」
「私たちを相手にするには戦力が過剰すぎる。こんな非効率的な事、あの風紀委員長が許すとは思えない。この編成はあんたの独断のはず」
「けど、もし私たち以外の集団とも戦闘を想定していたのなら話は別。けどアビドスも生徒数は私たち便利屋とそう変わらない。だとすれば――」
あんたは最初からシャーレの先生を狙ってここに来た。違う?
カヨコは確信を持ってアコに告げる。その言葉を聞いて先生は自分が狙われていたことに驚き、アコはバツの悪い顔をする。その表情を見てカヨコの推測は間違っていないのだろうと判断する。
「え?私?」
「「「!?」」」
アビドスの砂狼シロコをはじめ他のアビドス生もアコの目的を聞いて驚きの表情を露わにする。先生はアビドスの八方塞がりな問題に今も一緒に立ち向かおうとしてくれている優しい大人の人だ。そんな人が狙われる理由が分からない。
『便利屋にはカヨコさんがいることをすっかり失念していました。えぇ、確かに私は先生をお迎えするために参りました』
「お迎え……?」
『はい。こちらも最初からシャーレと衝突する事を前提でこちらに来たわけではありませんでしたから。――といっても信じていただけるかは分かりませんが』
その言葉を聞いて先生以外はやはり疑いの目を向けている。逆に先生は疑う様子もなくこちらの話に耳を傾けようとしているようだ。アコは少し意外に思いつつ話を続ける。
『私は最初からシャーレという存在を警戒していました。連邦生徒会長の失踪と入れ替わりに発足された超法規的な部活。それでいてシャーレが持つ権力はあまりに強すぎます。しかもそこを牽引するのは大人の男性だというではありませんか』
『どう考えても怪しい匂いがするでしょう?』
先生は言われて内心で確かに怪しいなぁと感じてしまう。キヴォトスに赴任した当日にシャーレの部室で出会った自分と同じ大人にシャーレの概要を話しただけであらぬ疑いをかけられたことを不意に思い出してしまった。
『ゲヘナは今トリニティとの重要な案件を抱えています。かの条約のためにも不確定要素は減らしておきたかったのです。――もののついでに、こちらの問題児も片付けられますしね?』
アコが自分の目的を見抜かれた腹いせか、カヨコの方を見やりながら挑発的な言葉をぶつける。カヨコも険しい顔のまま言葉を返さず睨みつけている。
「ん、状況が分かりやすくなった」
「そうね。それに、私達が「はいそうですか」って先生を大人しく引き渡すと思う?」
シロコは己の敵を見定め、同じくアビドスの生徒である黒見セリカも先生を引き渡す様子はない。十六夜ノノミも言葉を発する事はしないが表情と銃を強く握る姿から気持ちは同じようだ。アコはその反応を見ても今までの会話の応酬からそうなるだろうと分かっているので余裕の表情を崩す事は無い。
『で、あれば仕方ありませんね。私も独断で動いていますしあまり時間も残されていませんから――』
そういってアコは後方に待機させていた部隊を動かしアビドスと便利屋を包囲するような形で動員する。その大部隊を見たアビドスと便利屋は驚きのあまり固まってしまう。
「包囲は抜けたと思ってたけど、二重だったなんて――。ごめん社長、考えが甘かったみたい。アビドスがやる気の今、逃げるなら今の内だよ」
カヨコは自分の見通しの甘さに歯噛みし、アルに撤退を促す。しかし――。
「……ふふっ、ふふふふっ」
「ねえカヨコ。私の性格なんて、もうとっくに知っているでしょう?」
カヨコは悟る。アルの表情を見ずとも何をしようとしているのかは明らかだ。
「こんな状況で、ここまでコケにされて、そのうえで逃げるですって?」
「そんな三流の悪党みたいな事、便利屋がするわけないじゃない!あの生意気な風紀委員会に一発――いや三発は食らわせないと気が済まないわ!」
「……あはー」
「アル様っ……!」
(ま、いつもの事か)
便利屋の浅黄ムツキは好戦的な顔に変わり、ハルカは啖呵を切るアルに感激し、カヨコはアルのいつものやつだと受け入れる。
「でも、アビドスが協力してくれるかは「ん、肉壁よろしく」……」
便利屋はシロコにあんまりな役目を押し付けられるが事故とはいえ柴関ラーメンを爆破した負い目から嫌ですとは言えない。他のアビドス生も協力する事に前向きなようでカヨコはアビドスの切り替えの早さに驚いてしまう。
「信頼には信頼で報いるわ!それが便利屋68のモットーだもの!」
『まぁ、無くはないと想定してこの部隊を動かしてはいましたが、ここまで意気投合が早いとは思いませんでしたね……まぁいいです。――総員、攻撃準備。先生はヘイローを持っていませんが、あの人とは違って頑丈ではありません。くれぐれもケガをさせないようにしてください。私があの人に怒られてしまいますので』
その言葉を皮切りに風紀委員会の部隊が便利屋とアビドスに銃を向ける。その様子を見たアルがこの危機的状況にアウトローの精神が揺さぶられ最後に発破をかける。
「さあみんな!あんなやつらけちょんけちょんに――「ずいぶんと楽しそうね」――へっ?」
決して声量は大きくないがよく通る声が周囲に響き渡る。たった一言発しただけで風紀委員会もアビドスも便利屋も冷や水をかけられたかのように静まり返る。
アコはその聞き慣れた声に身を竦ませ、アルもまた聞き慣れたくなかった声に身を竦ませ、アビドスは二者の様子に違和感を持ち動きを止める。
「何か申し開きはあるのなら、一応聞いてあげるわよ。――アコ?」
そこに居たのはキヴォトスでも知らぬ者はほとんど居ない言わぬとしれた強者の一人。風紀委員長空崎ヒナがそこに居た。
――大人の男性にお姫様抱っこをされた状態で。
**********
何とか間に合った、と言えるだろうか。状況を見るに一触即発というか戦闘の直前だったことが窺える。もう少し遅れていたら無為に被害を出していただろうと思うと背筋が冷える。
こちらの包囲の中心を見やると先生を中心に生徒達が数人いるのが見える。あれが恐らく便利屋とアビドスの子達なのだろう。しかし先生はこの囲まれた状況でも平常心を保っているようだ。――まさかこの人数を相手にしても勝てる算段が彼にはあったのか?だとすれば優秀なんてレベルではない気がする。不謹慎だがもう少し遅れて来るべきだったと思ってしまう。そうすれば先生の実力を直に確かめられただろう。惜しい事をしてしまった……。
「どうしたのアコ?そんなに驚いたような顔をして」
『ヒ、ヒナ委員長……。出張だったはずでは……』
「それはもう終わった。アコに連絡を取ろうと思ったら繋がらないから私達心配したのよ?それで調べてみたら他の自治区に大部隊を連れて遊びに行ってるんだもの。大急ぎで来てあげたわ」
『え、えっと……これはっ……』
ヒナが怒ってる。少なくともこんなに怒ってる姿を見るのは私は初めてだ。アコもまるで私に睨まれたガードの如く竦みあがっている。私からも軽く説教をと思っていたが、この姿を見ると私から何かを言う気はなくしてしまった。後で反省会くらいはするが説教は勘弁しよう。
しかし便利屋とアビドスの子達のこちらを見る目が何か変だ。白目を向いて固まっている子だったり好奇心たっぷりでこちらを見やる子達。両手で目を塞ぎながら指の隙間からこちらを見る子など反応が様々だ。
「ん、大胆」
「お姫様だっこってやつですよねあれ……」
「アルちゃーん。逃げなくていいのー?風紀委員長が来ちゃったよー?」
「――――――」
そういえばヒナを抱きかかえたままだったな……。ヒナもこちらを見てくる目がおかしい事に気づいたのか自分の状態を確かめる。すると自分が横抱きにされたままだった事に気が付き顔がみるみる赤くなっていく。
「――そ、その、降ろして…もらえるかしら……」
「あぁ、すまない。すっかり忘れていた」
とんでもない恥をかかせてしまった。しかしアコがヒナが横抱きにされている姿を見ても何の反応も示さないくらいに焦ってるという事は自分の起こした行動が良くないという自覚はあったのだろう。そこはまぁ良い点ではあるか。実行してしまったのは良くないが。ヒナは下ろされた後しばらく顔を赤くして黙っていたが、咳ばらいを一つして続ける。
「――察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的活動の一環ってところね」
「「「「あ、続けるんだ……」」」」
アビドスと便利屋に総突っ込みを受けヒナは体を一瞬固まらせやっぱり顔を赤くするが、めげずになおも言葉を続ける。本当にすまない……。
「そういうのは万魔殿のタヌキ達に任せておけばいい。私たちの仕事はあくまで治安維持よ。それを忘れないで」
「詳しい話は帰ってからまたしましょう。通信を切って謹慎してなさい」
『うっ……あっ…』
アコが二の句を告げず涙目になっている。そして何故かこちらに視線を向けてくる。いやどうしろと?
「――詳しい反省会は後でするとして、相談はするべきだったな。私とチナツが先生と関わりがあったのは知っていただろう?ならばこんな強引な手を使わずとも私たちを通して先生にアポを取る事も出来た。そうだろう?悪いようにはしないから今はヒナの言う事に従っておけ」
『はい……失礼します……』
そういってアコは通信を切る。少しは慰めになったか?いや微妙か。
「……甘やかさないで」
「すまない。さすがにあそこまで落ち込んでるのを見るとどうにもな……」
まさか私も風紀委員の子にここまで甘くなるとは思っていなかった。普段の頑張りを知っているからこの程度の過ちは許せてしまうのかもしれない。風紀委員会側の対処を終えたからかヒナは便利屋とアビドスの子達の方へ眼を向ける。未だに白目を向き続けてる子がいるがあれは大丈夫なのだろうか?ちょっと面白いな。
「ん、それじゃあ続きをやろうか」
アビドス、思いの外戦闘狂らしい。
ネフやミフの民と同じく頭から獣の耳を生やしている銀髪の少女がシュッシュッと言いながら拳を素振りしている。元気だ。
『待ってください!ゲヘナの風紀委員長と言えばキヴォトスでも有数の強者です!ここは一旦交渉をするべきです!どうしてそんなに戦うのが好きなんですか!』
映像通信に映る眼鏡をかけた生徒が元気な子に待ったをかける。アビドス全員がああいう感じではないようで少し安心した。
『初めまして風紀委員長さん。私はアビドス対策委員会の奥空アヤネといいます。今のこの状況についてご理解はされていますよね?』
「えぇ、おおよそは。けれどそちらが風紀委員会の公務を妨害したというのもまた事実。違う?」
――ふむ。思ったより強気な態度だ。まぁキヴォトスの中でも有数の学校の一つであるゲヘナがそう簡単に立場を譲るわけにはいかないという矜持故か。その考え自体は理解できるが、今の状況だとあまり事を大きくしたくないのも事実。どうしたものかと思って先生の方を見やると視線が合うが、先生は事の成り行きを見守るつもりのようだ。ならばそれに倣うとしよう。
「ん、関係ない」
「それがどうしたっていうの?」
「私たちの意見は変わりませんよ?」
あれ、やっぱりアビドスって戦闘狂しかおらんか?映像通信の子はやる気満々のアビドス生を見て頭を抱えている。この子が普段彼女達のリードを引っ張っているのだろうか。今は引きちぎって絶賛爆走中だが。
『どうしてこんなに好戦的なんですかみなさんは……!便利屋の方は何故か固まったまま動きませんしどうしたら…。どうしてホシノ先輩はここにいないんですか!もう!』
「ホシノ……?ホシノって、あの小鳥遊ホシノ?」
ん?ヒナがホシノという名前に反応を示すが、ヒナの知るアビドス生といえば既にいなくなったと聞いていたが……。まさかヒナから聞いた状況の中一人でアビドスに残っていたとでもいうのだろうか。
「うへ~、こいつはまた何があったんだか。凄い事になってるじゃ~ん」
声のした方向へ眼を向けるとピンク色の髪の子がこちらへ悠々と歩いてきていた。やけに間延びした声から察するにのんびりした性格と想像出来るが、この状況でもそれを貫けるとは肝が据わっているな。――などと考えていたらこちらと目が合った。その一瞬こちらに対して睨むように視線を強め雰囲気も少し変わったように思う。だがそれも少しの間だけですぐ元に戻る。この変化に気づけたのは恐らく直接それを受けた私だけだろう。私の何に警戒したのだろうか。彼女とは初対面のはずだ。脅威度としては私よりも遥かに有名なヒナに対して警戒を向けるのが普通だと思うが……。
「ごめんね~。お昼寝してたら寝過ごしちゃったよ~」
その発言を聞いてアビドスの生徒は驚く事なく寝過ごした事に対して怒っていた。対照的にヒナはホシノの言動を聞いてかなり驚いているようだ。端的に言うと「誰だこいつ」という反応だ。
「一年の時とはずいぶんと変わった。人違いかと思うくらいに」
「……私の事知ってるの?」
「情報部にいたころ、各自治区の要注意人物はある程度把握していたから。――あの事件の後アビドスを去ったと思っていた」
「……」
ホシノの雰囲気がまたも鋭くなる。どうやら彼女にとって未だに例の生徒の死は気軽に触れていい話題ではないのだろう。ヒナもそれを感じ取ったのか、体の力を抜きイオリとチナツ達に撤退の指示を促す。そしてヒナはアビドスの方へ向き直り、頭を下げた。ホシノ含めアビドス生はみなその行動に呆気に取られる。――風紀委員会のトップたるヒナが頭を下げたのに私がそのままというわけにはいかない。こちらも続けて頭を下げる。私達の行動に驚くチナツとイオリだが、チナツは私に続いて慌てるように頭を下げ、イオリも状況が理解しきれていないながらも合わせて頭を下げた。
「事前通達無しでの無断兵力運用。並びに他校の自治区で騒ぎを起こした事。一連の件において私、空崎ヒナはゲヘナの風紀委員長としてアビドス対策委員会に対して公式に謝罪する」
「「「「!!!」」」」
「今後無断で風紀委員会がここに侵入することはないと約束する。どうか許してほしい」
一連の謝罪を終え頭を上げるヒナ。私たちもそれに倣い頭を上げる。上手い事まとめてくれて助かった。
「あ、あの、委員長…。そこで白目向いてる便利屋は……。」
「今日は放っておきなさい。これ以上ここでの戦闘は許可しない」
まだ白目向いてたのか……。
**********
ヒナが先生に何やら耳打ちした後、私も先生に用があるからと先に帰ってもらった。先生もどうやら私と話したいと思ってくれていたようで笑顔で出迎えてくれた。
「久しいな先生。元気にしていただろうか」
「久しぶり。もちろんだよ。君はゲヘナにいたんだね?」
「あぁ、あのゲートの性質が実に厄介でな。私はてっきりシャーレの部室に通じるかと思っていたんだが、どうやらどこに出るかはランダムのようでな。あれから潜った先が風紀委員会の執務室に通じていた」
そうして色々あった結果今は風紀委員会の方で世話になっていると話す。
「先生、この大人の人と知り合いだったの?」
やたら好戦的だった銀髪の獣の耳を生やした生徒が先生にそう聞く。
「うん、私がキヴォトスに来た日にね。キヴォトスを観光するって言ってたからゲヘナに留まったのはちょっと意外だったけど」
「いや……実に恥ずかしい話なんだが、私の世界とこちらの世界は使う通貨が違っていてな。それに気付いてヒナからの勧誘もあって雇われているんだ」
「あ、なるほどね。確かに言われてみれば通貨が違うって当たり前だったね」
「あぁ。――先生とアビドスの者達には迷惑をかけたな。大人である私がいながらアコの真意に気づけなかったのは私の不徳だ。改めて私からも謝罪する。すまなかった」
ヒナからの謝罪もあったが今一度私からも直接謝罪する。今回の事は私がアコに言葉を尽くしていれば未然に防げたかもしれない事件だ。であるなら今回の責任は私にも一端があると言っていいだろう。
「ん、次から気を付けて」
「シロコ先輩は謝られたからって調子に乗らないの!そっちの人も頭を上げて!もう既に謝罪は受け取ってるからもういいよ!」
「ですね~。シロコちゃんじゃありませんが、次から気を付けて頂ければ言う事はありません」
「みんながそう言うなら、おじさんからも言う事は無いかな~」
「感謝する。っとそうだ先生。渡しておきたい物があったんだ。」
「ん?何かな?」
私はノースティリスから持ってきた先生に渡すアイテムを取り出す。あの時はこの世界に命は一つしかないとは思わなかったからそこまで強いアイテムは持ってきていないのだが、無いよりは遥かにマシなはずだ。
「これだ」
そういって先生には似合わないであろう★リボンと杖を二本渡す。★リボンはあらゆる状態異常を防いでくれる便利な装備だ。これがあれば少なくとも毒殺や睡眠薬などの奇襲を防ぐことが出来るだろう。水中呼吸も可能になるから水責めにも耐えられる。杖の方は聖なる盾の杖とエリスの癒しの杖だ。聖なる盾はPVを上げてくれる魔法が込められており、エリスの癒しの杖は体力を回復させる魔法が込められている。
「リボンは身に着けておけば効果を発揮する。杖の方に関しては使用回数に限りがあるから気を付けてくれ。どちらも八回だ。他人にも自分にも使えるが、使いどころは選ぶようにな」
「な、なるほど……。でも毒殺の心配って必要かな……?」
気持ちは分かるが警戒するに越したことはないだろう。現に今回は命を狙っていたわけでは無かったが、ゲヘナの風紀委員会がわざわざ先生に会うためだけにここまで来たのだ。これから他の勢力も何かしら先生に対してアクションを起こす事は十分考えられる。実際あの黒服とかいう男も先生に興味を示していた。
「……確かにそうだね。ありがとう」
「あぁ、何も君の事を気にかけているのは生徒だけじゃない。大人もまた君を見ている」
「というと?」
「黒服と名乗る男が私に接触してきてな。少し話したんだが君を勧誘したがっていた。確かゲマトリア…とか言っていたかな」
「――――!!!」
「ゲマトリア?カイザーとかじゃなくて?」
「カイザーというのは聞いたことがないな。それもどこかの組織か?」
「いや、知らないなら良いよ」
キヴォトスにはゲマトリアだけじゃなく他にも大人の組織が暗躍しているみたいだな。まぁ不思議な事でもないので大して驚きは無いが。それより気にかかるのはホシノだ。私が黒服の名前を出した瞬間体が強張った。恐らく黒服の事を知っているとみて間違いない。だがここで私が聞いても答える事はないだろう。今のホシノからすれば私はあの怪しさの塊である黒服と接点を持つ大人という評価に変わったのだから。それとなく先生とモモトークを交換してそこで情報を共有するのが今の私に出来る事か。
「そんなところだ。もし他に困った事があれば連絡してくれ。モモトークはやってるか?」
「うん。交換しようか」
よし、これでいいな。なるべくこの情報共有は早い方がいいだろうと、交換してすぐに打ち込んで先生に情報を送った。すると先生もメッセージに気づいたようで目配せで了承の意を示してくれた。これでこちらに出来る事はやれたかな。
「私の用件は以上だ。私もヒナからアビドスの現状は幾らか聞き及んでいる。健闘を祈る」
「ありがとう。それじゃあまたね」
そういってアビドスの生徒達を連れて先生は離れていった。私もゲヘナに――
「アルちゃーん?いつまで固まってるのー?もう風紀委員長どころか先生も帰っちゃったよー?」
「――ハッ!あのヒナが大人の男性にお姫様抱っこされて現れる夢を見てしまってたわ……」
――――スーッ。
アビドスの子達が先生に渡すアイテムについて反応をするとことか書きたかったけどそんなん書いてたら1万字超えそうだからやーめた!最近話数を重ねる毎に文字数増えてきて困る!
原作軸の絡ませ方どうしようかなぁ。ちょっと原作に寄らせすぎ感もあるけど離れさせるのもどうなんだ?となりつつ、でもノースティリスの民なんだし好き勝手させてもいいかなぁともなりつつ…。ちょっとこの辺試行錯誤するかもしれません。