絆創戦隊キズナファイブ THE MOVIE 電脳ワールド大決戦!! 作:大荒鷲
R.B.Y.G.P.
秘密結社ゼツエンダ―の本拠地、宇宙要塞《シュレッドスカル》。
地上の騒ぎの様子はすでにこちらにも届いていた。
しかしながら作戦が始まったと意気揚々とする者は誰もいない。その場にいる者全員不機嫌そうにモニターを睨んでいた。
「アルヴァストーム……まさか生きていたとはな…」
忌々し気に幹部の一人、ゼッコウハがその名を吐き捨てる。
「……確か最古参の幹部…だったかい?」
それに反応したのは同じく幹部の一人である女海賊ハーキョックだった。ゼッコウハが渋々と頷く。
「
ハーキョックや他の幹部が加入するよりもだいぶ前の話だ。最も自分もおぼろげな記憶しかないが……。
「ストームは破滅型の快楽主義者でな。絆エネルギーにはなんの興味もなかった……ただその星の生命体同士を争わせるようゲームを仕掛け、最後には星ごと全て滅ぼしてしまう……そんなヤツだった…」
その言葉にハーキョックが苦々しい感情でも喚起されたように顔を背けた。
奴はあくまでその星の知的生命体同士が憎み合って、殺し合う様を眺めることだけを求めた。絆エネルギーの収奪などそのついで。ゼツエンダーの中にあってさえ異常だった。
「……だが最期奴は自分で滅ぼした星の崩壊に巻き込まれ、姿を消したハズだ…。それが今になってなんだって現れた?」
わざわざ地球にまでやってきてゲームを乗っ取ってデスゲームをおぜん立てする……。いつものこととは言え、手間をかけ過ぎだ。何がしたいのやら。
いや……もしかしたら。我が好敵手の大いなるビッグ絆ソウルにアイツも惹きつけられた…のだとしたら――。
「ウギィィィィィィィィィ!!」
だがゼッコウハの思索を突然奇声がさえぎった。見てみると幹部の一人、プロフェッサー・ウラギリスが手近な機器に八つ当たりしながら喚いていた。
「あんのどこの馬の骨とも知らんヤツがあぁぁぁぁ!よぉくもわしの絶縁帯の技術を盗みおったなぁぁぁぁぁ!!」
無駄にプライドの高いプロフェッサーらしくどうやらストームが絶縁帯のようなものを使ったことが酷く気に入らないようだ。確かに前にウラギリスがアレとよく似た形状のアイテムを使ったことがあったが……どうやらそのノウハウをストームが応用したようだ。
因みに最後の幹部であるリサンは相変わらず訳の分からない言語で唸ってるだけだ。元より何を考えてるか分からないやつなので放っておこう……と思い、ゼッコウハは改めてモニターの方に向き直った。
ゲームを乗っ取ったストームは配信と称してその状況を各種メディアに流したようで、今こうしてその状況をこちらでも見ることが出来る。
戦局はキズナファイブに圧倒的に不利だ。大胆なようで意外と狡猾、慎重主義なストームらこちらの敗ける確率を徹底的に潰している。
プレイヤーの大半は子ども、戦力にもならない足手まといの上に死ぬかも知れない恐怖でろくに統率も取れていない。彼らを守りながらの撤退戦はキズナファイブでも荷が重いだろうし…なによりあの木馬のような姿の絶縁魔。恐らくゲームのシステムに干渉する能力を持っている。無数にエンガチョンを生み出すことが出来る上に、そのレベルを無理矢理上げられるらしい。
キズナファイブも本調子ではないようだ。……自分達の計画をことごとく邪魔してくるアイツらを始末する絶好の機会だろうに……なぜか面白くない。
「親父、静観してて良いのかよ?」
ゼッコウハは要塞の中心部に座るゼツエンダーの支配者――絶縁王に声を掛けた。
王はその名を体現するかのようにいささかも動じない。ただ口元の端をかすかに笑みの形に歪めた。
「良い。せっかくのゲーム……あ奴の好きにさせておけ……」
流石はキズナファイブという突然の邪魔者の出現にも一切動じなかった男というべきか。古参の幹部が突然勝手を始めようともそれに巻き込まれて右往左往する人間どものことも至極どうでも良いと言わんばかり。
その底知れなさにかすかに戦慄しつつゼッコウハは舌打ちした。
気に入らない。いきなり現れたクセにクソつまらないゲームなんぞけしかけた、あのアルヴァストームとかいう奴も……そんなモンにまんまとノせられて追い詰められているキズナファイブもなにもかも……。
画面の向こうでストームが奮闘虚しく変身を解除されられたレッドをあざ笑う。
『バカめ……つまらんモノにこだわって足手まといを背負いこむからだ。賢くそんな奴ら見捨てて自分だけ助かる選択をしたらどうだ?』
そう言い捨てて高笑いを上げるストーム。レッド――浅垣灯悟が顔を上げた。
『……ふざけんな…。そんなチョイスは俺にはねぇんだぜっ……!』
変身も解除され、傷を負っているにも関わらず…それでも彼は立ち上がる。
『俺は誰も見捨てねぇ……!んで、お前をぶっ飛ばして…みんなで一緒にここを出るんだぜ……それが俺の――俺たちのクエストだ!!』
何もかもが絶望的な状況。だがその瞳にはいささかも迷いがない。
やはり気に入らない。あのキラキラした目を見てると無性にイライラする。だが……アイツのそういう所は案外キライじゃあない。ゼッコウハは小さく息を吐いた。
アイツはこれまでもそうだった。ウラギリスの策略によって親友が敵に堕ちても、どんなに勝ち筋の見えない戦いであっても……その目が決して下を向くことはなかった。アイツ自身のガッツと仲間たちの“絆”が……いかなる不利も覆してみせた。
だからよ――。誰にも聞こえない声量でゼッコウハは呟いた。
「こんなつまらねえ戦いでくたばるんじゃあねぇぞ……」
ゼツエンダーの幹部にはあるまじきことと分かるのだが……ゼッコウハは心からそう願うのだった。
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一方NNOのフィールド内。先ほどまで大勢いたはずの子どもたちとキズナファイブの面々の姿は見えない。
「……逃げたか…」
周囲を見渡しても気配はない。ストームはそう判断した。
あの赤いヤツ……無謀なだけの突進バカかと思いきや…。まさか敢えて自分を囮にして仲間が集団転移のアイテムを使用できるだけの時間を用意していたとは……。なかなかにしぶといヤツらのようだ。
「ウキャキャキャおバカなヤツら♡アンタらの位置なんてウチのアクセス権限でバレバレなんだっちゅーの♡」
ハンギャールが嬉々とした表情で管理用ウインドウを操作する。それによればこの先にある古城跡に逃げ込んだようだ。
現在このゲームの全てはストーム――というよりノットロイが掌握している。故に町などの本来なら戦闘が行えないエリアも現在はその制限が解除され、安全な場所など存在しないのだが……何事も抜けはある。
そのうちのひとつがフィールド各地にあるダンジョンや砦だ。ここは元々戦闘可能エリアに設定されているが、門番と呼ばれるモンスターを倒したりなどの条件を達成すれば、「飛び地」として領有権を主張することが出来る。そこでは基本的に特定の種族やギルドに所属しない限りは侵入が不可能となる。なるほどなかなか良い所に目を付ける……。
だがこういった所は基本的にこちらからコンクエストを挑み、勝利すれば逆にこちらの領土とすることも出来る。逃げ込んだとしてもそれはあくまでも一時しのぎに過ぎない。
「どうします~~♡このままサクッと攻め落としちゃいますか~~?」
ストームは首を振った。
「……いや。まずは周辺の砦やダンジョンを全て抑えろ。徹底的に逃げ場を潰せ……その後総力を上げて奴らを狩るぞ……!」
こちらの勝ちは揺るがない。ノットロイがいる限り運営が何を働きかけようとも手出しは出来ないし、何より少しでも怪しい動きをすれば人質を殺すと伝えてある。こちらは有限のアイテムや経験値を独占し、更にチートによるバフを掛けることで更に強くなれるのに対して、向こうはゲーム馴れしてないガキ共が20人と普段の力が使えないキズナファイブが5人だけ。
いずれヤツら――特にあのクソ生意気な赤毛の小僧も悟るだろう。自分たちには万に一つも勝ち目はないと……。
追い詰められたネズミがどんな行動に出るのか……ストームには手に取るように分かる。
知的生命体なんてのはどいつもこいつも同じようなモノばかりだ。普段は群れを維持するため、理性の皮を被っているが一度恐怖や疑心を煽ってやれば、いとも簡単にそれを自分で壊してしまう。弱く、脆く……下らない生き物だ。
そんなヤツら、ただ殺したってつまらない。恐怖を与えるだけ与えて最後には互いに憎み合い、殺し合うように仕向けて、全てを奪う。それこそが至上のゲームだ。
特にあのガキみたいにやたらキレイゴトを並べ立てる……ああいうヤツこそ最終的には奥に隠した、みにくい本性を見せてくれるものだ。壊しがいがある。
「せいぜいあがけ……俺様を楽しませるためにな……」
狩人とは常に冷静であるべし。ストームは敢えて絶好の機会を待つことにした。
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一方その頃、こちらは現実世界。万丈寺グループに秘密裏に設置されたキズナファイブ専用のラボラトリー。絆創戦隊キズナファイブの生みの親ペタゴラス博士、及びサポートメカのカサブーはハッキリ言えば悪戦苦闘していた。
「んだあぁぁぁぁぁ!!さすがの私でもゲームの中とあってはどうにも出来――ん!!!」
「落ち着くブレラ!!」
頭を抱えて絶叫する博士に向かって怒鳴るカサブー。こんな時この蚊取り線香入れみたいな体が恨めしい、ロクにツッコミも出来やしない。
灯悟たちと星元小学校の子どもたちがゼツエンダーの策略により、NNOの中に閉じ込められてしまったことは既にこちらにも連絡が行っていた。
その様子は敵が行っている配信で見ることが出来たが案の定こちらが圧倒的に不利だった。
無理もない。今の彼らはキズナファイブであってキズナファイブではないのだ。いつものコンディションで戦うことは出来ない。
キズナファイブのスーツは当然ただのスーツではない。パワーアシスト・防御力向上・ありとあらゆる環境への耐性などさまざまな機能を持つ万能スーツなのだ。だがしかし現在ゲームの中にいる彼らが着ているのは、キズナブレスも含めてあくまで外見だけコピーしてゲーム内アバターの衣装として用意されたもの……いわば「スキン」に過ぎない。
当然、各種機能どころか各々が得意とする武器すら使えない。いつもより明らかにパワーアップしているゼツエンダーと戦うには圧倒的に不利だ。
そうなるとこちらの方でなんとかして、敵に乗っ取られてしまったゲームを奪還するしかないと…アレコレ試行錯誤している訳だが全然上手くいかない。プレイヤーが人質にされている以上、下手に動けないし、そもそも博士が恐ろしいまでのゲーム音痴なので有効な対策が思いつかないようだ。
あーでもないこーでもないと騒ぎまくる一人と一匹(?)だったが、突如通信が入ったのが聞こえて、会話を止めた。
なんじゃろう?ここのホットラインを知っている者はそうそうおらんハズ……。訝しみつつ博士は電話を取った。
『やあ、こちらは絆創戦隊キズナファイブのラボだね。……あ、何故この番号が分かったとか訊くのはなしだよ、時間が勿体ない』
どこか軽やかで涼し気な若い女性の声だった。おまけに言おうとしたことを先回りで言われて、博士は面食らう。
「一体君は――」
『“誰じゃ?”も訊きっこなし。どうせすぐに分かる』
「さっきからなんの話しとるんじゃいっ!!」
人を食ってるとしか思えない言いようについ語気が荒くなって叫ぶ。でも年寄りの身で無理するもんじゃない、派手にむせて咳き込む羽目になった。
『あ~ゴメンゴメン。でも時間がないんだ、単刀直入に言わせてくれ。貴方が開発中の例のモノ……僕に預けてくれないか?』
「……なんじゃと…?」
博士は息を呑む。“例のモノ”という匂わせるような言い方だが……今の時点で心当たりがあるものは一つしかなかった。
「何故……それのことを……?」
少なくともそれについてはまだリーダーである流にも話していない。関係者であっても知らない事を何故彼女は……?
『それは会ってから話すとするよ……。じゃあ10分後に』
「……まっ…?!待たんか!!」
言うだけ言って一方的に通信は切られてしまった。カサブーと博士は互いに相手を見ながら首を傾げた。
「なんなんだブレラ?今のは…」
「分からん……だが…」
いたずら電話……とも思えない。あの女性はどこか確信がありげだった。その上で“例のモノ”を求めてきたこと……も。まるでこうなることも、その上ですべきことも全て知っているかのように。
「カサブー。6番ロッカーを開けるんじゃ。あと緊急ダイブを運営に申請してくれ」
「えぇっ!?本気かブレラ?」
気にするのも無理はない。本来ならこんな不確実なことしようとは思わないだろう。
もしかしたらこれも何かの“縁”かも知れない。ならばそれに賭けてみたって良いだろう。
それもまた絆だ。