絆創戦隊キズナファイブ THE MOVIE 電脳ワールド大決戦!!   作:大荒鷲

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QUEST7~8『焦燥』『反抗開始』

R.B.Y.G.P.

 

「コレで20人っと……。なんとかみんな無事みたいです」

「そうか……ひとまず安心か…」

 

 ゲームフィールド北部にある古城。ストームに追い詰められた灯悟たちはそこにいた。

 

 あの時ピンクとブルーが咄嗟に機転を利かせて、集団ファストトラベルと使用したのだ。ダンジョンなんかで追い詰められた時に咄嗟に離脱する時とかに使用するものだが、思わぬところで役に立ってくれた。

 この古城も午前中にピンクが獲得した領地らしい。やり込んでるだけあって、流石用意が良い。

 

「……とはいえ…あまり良い状況とは言えないでありますな…」

 周りに配慮してか、グリーン――今はスーツを解除しているのでほとんど修二そのものなアバター――が小声で言った。流は苦々しくうなずいた。

 

 ここに立てこもっていても事態は好転しないだろう。敵がコンクエストを発動させればこっちは否が応でも戦わなければならないのだ、そうなれば数でも武力でも劣るこちらに勝ち目はない。ベルが敵の手に堕ちてしまっている以上、こちらの位置もとっくに捕捉されていると思った方が良い。転移用アイテムもこれ以上はない。

 

「――ヤな感じ……」

 今は少なくとも敵は攻撃を仕掛けては来ないようだが……ツカサは空を見上げた。依然午前中までの抜けるような青空はなく、依然として重々しい暗雲と赤黒いオーロラが漂っているが、それ以外は不気味なほどの静寂だ。相手の動きが分からないから余計に……。

 

「お姉ちゃん…」

 不意に掛かった声。振り向くと3年生くらいの女の子が不安そうな目でこちらを見ていた。今朝まで一緒にダンジョンの攻略をやった子だ、確かチヒロと呼ばれていた……。

 

「なに?どうかしたの?」

「ん。これあげるから元気出して…?」

 少女はそう言っておずおずと小ビン状のアイテムを取り出した。HPを回復させるポーションだ。そこでそう言えばさっきの戦いでかなりHPを消耗していたことを思い出す。

 

 しかし……。

「ありがとう……でも大丈夫だから。それはチヒロちゃんが自分や友達を助けたい時に使って…?」

 それを自分が使うわけにはいかない。今のNNOでは回復アイテムは有限だし、HPがゼロになるということは本当の死を意味するのだ。この子たちを無事に家に届けるためにも……。

 

「でも……」

 しかしチヒロちゃんはかなり不安げだった。恐らく自分もこんな風に沈んだ気持ちになって、それが態度に現れていたのだろう。だとしたら少し不甲斐ない。

 

 ツカサは微笑んで少女の小さい肩をそっと叩いた。

 

「大丈夫、ウチはこう見えても強いんだよ?次はあんな奴らケチョンケチョンにして、絶対勝ってやるんだから」

 

 それは紛れもない本心だ。どんなに絶望的な状況だろうとツカサは自分の夢も仲間の命もキズナファイブとしての使命も諦めるつもりなどない。

 

 流は今、その明晰な頭脳をフル回転させて作戦を立てているハズ。見ればエミリや修二は子どもたちを励まそうとあちこちを駆け回っている。例え得意分野は違っても、一人一人は最強ではなくても……自分たちは5人でいる限り負けない。ツカサは確信している。

 

 しかしそう言った直後。

 

「ムダだよどうせ……」

 

 ゾッとする程冷えた声が城内にひびいた。子どもたちが一斉に顔を青くする。

 

 上級生くらいの男の子だった。灯悟たちと目があったことに気付いた彼は一瞬バツが悪そうに顔を背けた。

 

「ちょっと……!なんてこと言うのよアンタ……」

 同級生と思しき少女が彼を諫めたが、それがこの場合火に油を注ぐことになってしまったらしい。少年は開き直ったように立ち上がった。

 

「勝てないって言ってんだ!」

 少年が怒鳴った。その一言に周囲の空気が凍り付く。

 

「ここはゲームの中なの知ってんだろ!ゲームってのはレベルや持ってるアイテムがすべてなんだ……こんなシロートばっかりの、低レベル集団ばっかりで何が出来るんだよ……!」

 多少なりともゲームに詳しい子たちにとっては実感できる話らしい、数人の子らが顔を俯けた。一方ゲームに詳しくない子にとっては納得し難いらしく、なんとか言い返そうとする。

 

「そんな言い方ないでしょっ!みんなで協力して――」

「その“みんな”が使えねぇって言ってんだよ、いい加減分かれよ!!」

 

 売り言葉に買い言葉で少年の方はますますヒートアップする。だが当然蚊帳の外にいる他の子たちにとってはただでさえ絶望的な今の状況に拍車をかけるだけにしかならない。年少組の子たちの中からすすり泣く声が聞こえだした……と思ったのも刹那の間だけ。瞬く間にウイルスのように一斉に感染した恐怖と不安に押しつぶされた子たちの泣き声が城内に響いた。

 

 ヤバい……。ツカサは歯噛みする。子どもたちの精神ももう限界に近い。

 

 少年が不貞腐れたように目を逸らした。そんな彼を少女が睨みつける。

「アンタいい加減に――」

 

「――大体なあ!こんなことになったのはお前のせいだぞハジメ!!」

 

 少女が何か言い返そうとした時、別の少年の声が遮った。全員の視線がある一点に向かった。

 

 突如矛先を向けられたのは4年生くらいの、朱色の髪のアバターの少年だった。軽装だがしっかりした拵えのアーマーとかは初期レベルの装備しかされていない周りの子どもらより数段レベルが高そうだった。知ってる顔だ、と流は思った。

 

 いい加減に良くないと思った修二がハジメと呼ばれた少年を庇うように立ち上がる。

 

「やめてください、なんでそんなことを言うのですか!?」

 

 口調こそ穏やかだが、大柄かつガタイの良い修二だ。普通ならひるんでそれ以上は何も言えなくなってしまうことが多いが、常ならぬ興奮状態な上に数人の同調を得た少年は負けじと叫んだ。

 

「だって……!そいつがこのイベントに呼ばれたから俺たちまでマキゾエ食ったんだぞ…!!」

「そ…そうだぞ!マトモに戦えるのお前だけなんだ…お前がなんとかしろっ!!」

「オマエ強いんだろ…チャンピオンなんだろ…!だったらアイツらやっつけてみろよ!!」

 

 流は改めてハジメという少年の方を見る。少年は幾人かの非難にも動じた様子もなく、無表情を決め込んでいた。

 

 そこで思い出した。あの少年……ハジメ。NNOのトップランカー、すなわちゲーム内のエース級とたたえられるトップクラスのプレイヤーだ。若干小学4年生ながら大人も混じった大規模コンクエストや頂上決戦においても幾度も勝利を収めてきたんだとか。

 ゲーム内外における知名度も高いようで企業の広告に呼ばれることもあったハズで……そこまで考えて流は得心した。少年らの言い分の意味が分かったのだ。

 

 今回新バージョンの先行プレイ大会にあたって星元小学校の児童たちが選ばれたのはトッププレイヤーであるハジメが通う学校がそこであるから、ということなのだろう。

 

 なるほど、それなら確かに大半の子どもたちにとっては今回の件は完全なとばっちりだろう。精神も極限まで追い詰められた状態において何かに当たりたくなる心理も理解できるが……。子どもに道理を説いても時に無意味なことくらい流もよく分かっている。

 

「………」

 不意にハジメが立ち上がった。ストレージに格納していた二振りの剣が実体化して背中に装備される。呆気に取られる一同に何も言わずに彼は無言で歩き出した。

 

「ちょ……!ちょっとどこに行くのよ!?」

 エミリが慌てて駆け寄ったが、ハジメは顔も向けずに素っ気なく言い放った。

 

「出てく。こんなとこにいたって意味ないし」

「そうじゃなくて……!待ちなさいって!!」

 

 正面に回り込んで少年の肩を掴んで制止するエミリ。だがハジメも「うるさいよ!」と怒鳴ってその手を振り払った。

 

「こんな奴ら一緒にいたって足手まといなだけ。一人の方がよっぽど生き残れる可能性があるんだ。弱い奴らはここで縮こまってろよ……!」

 自分に野次を飛ばしていた上級生たちを一人ずつ指差しながらハジメは叫ぶ。言われた方も当然顔を真っ赤にして立ち上がった。

 

「なんだとコラ!」

「オマエ一人で逃げる気なのかよ!?」

「チョーシ乗んなよこのネクラヤロウ!!」

 

 さっきまで自分たちが言っていたことなどすっかり忘れて少年たちがハジメに飛び掛かろうとした。それをツカサや修二がなんとか止めに入ったのだが、その隙をついてハジメはサッと広間を飛び出して行ってしまった。

 

 当然流とエミリがすぐさまその後を追おうとしたが、不意に後ろから肩を掴まれた。

 

 灯悟だ。何か思う所があるのかその瞳はいつになく真剣な色を帯びている。

 

「灯悟……」

「ワリ、ブルー……。ちょっとだけ任せてくれないか…あの子のこと」

「……なんか感じたの?」

 

 エミリがそう尋ねると灯悟は確信があるようにハッキリと頷いた。普段の熱血バカっぷりに隠れがちだがこういう時の灯悟の人間観察力、それにもとづく理解力には目を瞠るものがある。流は小さく息を吐いた。

 

「わかったよ。こっちは私たちが見ててやるから……お前はあの子のこと頼むぞ?」

「ああ!任されたぜ!!」

 サムズアップを決めてから灯悟は走り出していく。先ほどまで敗北の痛手か、はたまた奥底にある深い傷を抉られたのか…どことなく消沈しているように見えたのだが、その背中にはもう迷いはない。今何をすべきか…それを見定めている者の姿だ。

 

 流はほうっと息を吐く。こっちもこっちで大変だ。まずこの場の混乱を収めて、敵の襲来に備えて、それからみんなで生き残る道を探し出す……全くやることが多い、到底達成出来るとは思えない――少なくとも自分ひとりだったら。

 

 灯悟がいる。エミリも修二もツカサも……外ではペタゴラス博士やカサブーがなんとかしようとしてくれているはずだ。それだけは間違いなく信頼できる。

 

 

 それさえあれば……なんだって出来る。流はそう信じている。

 

 

R.B.Y.G.P.

 

 

「おい、ちょっと待てって!」

 灯悟は早足で進む少年を追いかける。こちらを振り返った少年は分かりやすく顔をしかめる。

 

「ついてくんな!」

 ハジメはそれだけ言うと再びズンズン歩き出すが、如何せんゲーム世界でも子どもと高校生の歩幅の差ですぐに灯悟が追い付き、横に並んだ。今度ははっきり分かるくらい舌打ちされた。

 

「ついてくんなって言ってんだろっ!!」

「ついてきてねえよ。俺も行く方向が一緒なだけだぜ」

「ヘリクツだ!」

「なんとでも」

 ハジメは口を尖らせて灯悟から視線を外した。ふてくされているようでもその目は少しも揺るがない……これは硬い意志を宿した者の目だ。城の中でそれに気が付いたから、こうして追ってきた。

 

「止めたってムダだからな!」

「止めねえよ。俺はむしろお前に協力したくて来たんだぜ?」

「……は…?」

 

 ハジメが呆けたように目を丸くした。ナニ言ってんだコイツ?とハッキリ戸惑っている。まあそれはそうだろう、こういう時大人は大抵子どもの安全を最優先しようとするものだ。普段なら灯悟だって間違いなくそうする。

 

 でも……この少年にはそんな正論は意味がない。自分の意思で戦うと決めた者には。

 

「お前は逃げ出したんじゃない。絶対しなきゃいけないことがあるからここまで来た…違うか?……そしてそのためにはアイツら(ゼツエンダー)と戦わなきゃいけない、ってことも……」

「……」

 

 少年はなにも言わずに灯悟を睨みつける。それが肯定のサインだと理解した灯悟は手を差し出した。

 

「でも一人で戦うのは難しい……。それは分かるだろ?だから俺にも手伝わせて欲しいんだぜ!!」

 ハジメは無言だった。というかどこか呆れたような視線をこちらに向ける。

 

「お兄さんに何が出来るのさ?さっきだってアイツらにロクに戦えなかったじゃん」

「でもさ、お前はNNOでも五指に入るプレイヤーなんだろ?この世界での戦い方は俺よりよく知ってるはずだ。で……アイツらとの戦いは俺の方が慣れてる。互いに助け合えばなんとかできるぜ!」

 ハジメがため息をついて……それから小さく口元を緩めた。

 

「お兄さん、よくバカって言われない…?」

「おう!熱血バカとか絆バカとかただのバカとかいろんな意味でよく言われるぜ!!」

 ニカっと笑って手を差し出す灯悟。ハジメは今度こそうすく微笑みながらその手を取った。

 

「だったらとことん付き合ってもらうから。逃げたりやられたりしたらダメだからね!」

「ああ!望むところだぜ!!」

 握り合った手を拳の形に変えて打ち付け合い、ふたりは不敵に笑った。

 

 

R.B.Y.G.P.

 

 

「ボクは……ベルを助ける。いや、助けたいんだ。あんなことベルにさせるアイツが許せない」

 

 ハジメはそう言った。その言葉には何よりも強い意志がみなぎっている。

 

少年の両親は仕事の都合で海外に行かなければならないことが多く、普段はおばあちゃんの家で暮らしているのだそうだ。もともと体を動かしたりするのが苦手だけどゲームは得意な子どものために両親が誕生日にダイブオンを買ってくれたことがこの世界(NNO)に入り込むきっかけだった。

 

「ゲームの世界ならいつでも会えるし…一緒に遊ぶことも出来るからって。初めてパパとママと…心から繋がれた気がして……嬉しかったんだ…」

 少しだけ恥ずかしそうに彼は呟いた。

 

 最初は初めてのVRゲームに戸惑うことばかりだったけど、両親の他にもう一人。この世界に入った時からずっと支えてくれたのがベルだった。まだ右も左も分からなかった時。ダンジョンで道に迷って怯えてしまった時。初めてのチーム戦で不安になっていた時。どんな時でも。

 

 嬉しいことがあれば一緒に喜んでくれて、哀しいことがあれば励ましたり、笑わせたりしてくれる。ハジメにとってベルはもうかけがえのない親友であり、相棒だった。

 

 言い切ってから少年はキッとこちらをにらんだ…。

 

「たかがAIだって笑うなよ…!ボクは本気なんだぞ!!」

「笑わねえよ。そういうことならむしろ喜んで協力するぜ!!」

「……やっぱお兄さんって変な人なんだね…」

「なんでだよ?!」

 

 笑うなよ、と言われたから笑わないと宣言したのになぜか半笑いされた。理不尽だと思いつつも灯悟の方も釣られて笑う。しばし小さな笑い声が一帯に広がる。

 

 ハジメが不意にウインドウを開いた。

 

「一緒に戦うならフレンド登録した方が良いね。互いのアイテムも共有できるし、いろいろ有利だから」

「おお!つまり絆を結ぶってことだなっ!!!」

「……そういう暑苦しいのいらない」

 灯悟としては嬉しい限りだが、ハジメはどこまでも素っ気ない。令和の小学生ってドライだなぁ……と呆れつつも、ひとまず登録を済ませる。すぐに灯悟のストレージにアイテムがひとつ転送されてきた。炎のような赤い刀身の剣だった。

 

「お兄さんのレベルで使えて、かつ一番強い武器がそれだから。拾い物や素手よりはよっぽど戦えるよ。――あとは……」

「経験と戦い方次第……だろ?」

 両者は顔を見合わせて頷き合った。

 

 それからしばらく経って。はるか地平の向こうから迫って来る敵の影が見えた。見なくても声で分かる。エンガチョンの群れだ。

 

 そしてその中心にいる三体の影……ストーム、ノットロイ、そしてハンギャール――ベルだ。二人は行く手を塞ぐように正面を向いて立ち止まる。

 

「フフフ……死ぬのが待ちきれなくて出てきたか……」

「NON, NON, NO~~~~N!!それともしかして~~ぼくちゃんたちボクらと戦いにきたの~~~??」

「バ~~~ッカみたい……。また泣かせてあげる!キャキャキャキャ♡♡」

 

 ハンギャールが挑発するように甲高い笑い声を上げた。二人は敢えて聞き流して、それぞれの武器を抜いた。

 

「ベル……今助ける…」

 ハジメが小さく呟いた。灯悟もそれに応えるように小さくうなずく。

 

「フン…つまらんな。――殺れ…!」

 ストームは吐き捨てると周りのエンガチョンたちに命じた。奇声を発しながら戦闘員共が武器を掲げた。

 

「行くよ、ボクのあとについてきて!」

「おうよ!!」

 ハジメが脇目も振らず走り出した。灯悟もそれに続く。システムウインドウを操作して、キズナレッドのコスチュームを再度召喚する。ただのスキン、されどスキンだ。この方がファイトが湧く。

 

 先陣はハジメが切った。このゲームは圧倒的に彼の方が慣れているし、レベルも高い。ハジメはストライクアーツ――すなわちNNOにおける必殺技を発動させると瞬く間に先頭を行く5体のエンガチョンを斬り裂いた。うち三体が一瞬でHPを削られ、消滅する。

 

「うえええええ~~~~い???なんでナンデ???」

 

 ノットロイが驚いて変な悲鳴を上げた。このエンガチョンはチートによってかなりレベルを上げており、その差は歴然のハズ。なのに1プレイヤーの攻撃でほぼ即死、なんてあり得ないのに!!

 

「分かってないなあ。レベルばっかりがNNOじゃあないんだよ。もちろんそれも大事だけど……結局は戦い方しだい!!」

 

 ハジメは強者らしく不敵に笑うと突然敵の群れに小さな小瓶のような物体を投げた。それは落ちたとたんに破裂し、周囲を覆っていく。ちなみにノットロイもそれに巻き込まれた。

 

「あれれれれれれぇぇぇぇ?体が動きゃな~~い!?」

 ハジメが投げたのはデバフ、要するにキャラクターに能力パラメータを低下させるなどの弱体化効果を与えるアイテムだ。この煙には触れた相手の行動を一定時間マヒさせる働きがあり、それはいくらレベル差があろうと決して逃れられない。

 

「レッドさん!!」

「任せろ!」

 

 ノットロイがスタンにより動けなくなったのをレッドたちは見逃さなかった。すかさず煙幕をかいくぐって突如ノットロイの目に前にキズナレッドが出現する。対応しようにも間に合わず、そもそも出来ない絶縁魔にレッドが剣技を放った。炎をまとった連撃がノットロイに確実にダメージを与える。

 

「「スイッチ!!」」

 

 レッドとハジメが同時に叫んでノットロイにコンビネーション技を仕掛ける。ふたつの剣が四方八方から次々と襲い掛かり、最後に止めとばかりに飛び上がった二人がその木馬のような頭に落下の勢いを加えた一撃を叩き込んだ。

 

「Q&Q~~~~~~~~~」

 

 ノットロイが妙な声を上げながら地面に倒れ込んだ。ノックアウトだ。HPが削れてないから死んではいないがこうなるとしばらく動けない。

 

 真っ先にノットロイをつぶしたのには灯悟の作戦だ。思った通り、エンガチョンたちの動きが明らかににぶくなった。何度も絶縁魔とは戦ってきたから分かる、アイツらは基本的に一芸特化のトリッキーな能力を持っており、戦う上で大事なのはその特性を見抜くことだ。

 これでハッキリしたがノットロイの能力はチーティング、つまりゲームのシステムに干渉してレベルを操作したり、変な能力を付与することだ。だがそれはあくまでもNNOのルールを完全に支配し、ねじ曲げたりはできないということでもある。

 

 つまり完全には倒せなくてもノットロイを一時的にぶっ飛ばしてしまえばこの大軍を統率する術は向こうにもないということ。レッドたちが突いたのはそこだ。

 

「なるほどな……小賢しい奴らめ…」

 だがストームはさほど動じた様子もない。それどころか戦う二人の動きを冷静に観察していた。

 

 なるほど。確かに侮れない相手だ、というのは分かる。ハジメはNNOのトップランカーなだけあって動きが違う。鈍くなったエンガチョンに攻撃を加えては離れる、というヒットアンドアウェイを繰り返している。数の不利を理解しているからこそ、常に動き回ることで囲まれないようにしている。その上どうやら使用するストライクアーツに一定確率での即死効果があるようだ。

 

 一方キズナレッドの方は完全に素人だと見ていた。実際先ほどの戦いでもほとんどエンガチョンにすら太刀打ち出来ず、それどころか現実とゲーム空間の勝手の違いさえ分かっていなかったのだから。

 

 だがこの短時間でその動きは見違えた。今ではハジメの動きに食らいつき、多くの手下を倒すだけでなく、見事なコンビネーションでノットロイをKOさせてしまった。

 

 ハジメという少年が指示を飛ばして、レッドはそれに応える。言葉にすると簡単だが即席にしてはなかなかのチームだ。どうやらこれは評価を改めなければならないようだ。

 

 ストームは背負った大剣を引き抜いた。鎖状に連結された数多の刃が赤熱し、うなりを上げる。

 

「アイツが来る!ハジメ、ベルを頼んだぜ!!」

 こちらに気が付いたキズナレッドは迷うことなく、向かってくる。あくまでハジメの方はベルに専念させて、単騎でストームを抑えるつもりだ。

 

「フン…群れなきゃ戦えん小僧が……俺様に勝てるのか…?」

 バカにしたように吐き捨てるストームにレッドが剣を振り下ろした。すかさずストームも大剣で防御する。ぶつかり合った刃から激しい火花が飛び散る。

 

「必ず勝つぜ……!」

 しぼるように、だが力強くレッドは宣言した。

 

「ベルも…NNO(この世界)の絆も……俺が、俺たちが取り戻す!!」

「……ほざけ…!」

 

 ストームが舌打ちして左手に持った盾を振るった。レッドはとっさに右脚を蹴りあげてそれをはじくと、その反動を利用して一瞬で相手の左手側に回りこんだ。そのままガラ空きになった相手の胴めがけて剣を振るった。

 

 だが……先ほどはじいたハズの盾がまるで意志を持つかのように空中で軌道を変えて、レッドの一撃を防いだ。今度は逆に盾にはじかれたレッドの方が体勢が崩れる。

 

「しまった……」

「甘いんだよ……」

 

 ストームがあざ笑う。同時に浮遊する盾の中央にある目が強烈な光を放ち、レッドを呑み込んだ。

 

 

 

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