渋谷凛は魔法使いの夢を見る   作:8000

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砂塚あきらは魔法使いに出会う

誰が言い始めたのかは知らないが、プロデューサーの間でよく使う言葉に「ピンときた」というものがある。

 アイドルの原石を発見したり、アイデアが降りてきた時に使う言葉らしい。元々は「ティンときた」だったという説もあるが、よく分からない。

 どれも先輩から聞いた噂話だ。

 

 だが、きっとこの言葉はこういう時に使うのだろう。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 とある番組のロケハンで地方を訪れた時の事だった。

 

 中心都市から離れた郊外。東京と違って、地方都市は繁華街から少し離れると建物や人通りも極端に少なくなる。もちろん東京のような過密都市と比べるのがおかしいのだが、この風景にも寂しい中にそこはかとなく情緒を感じる。

 この町で行う今回の企画は、大人アイドル達が新潟の地酒を求めてブラブラ歩くという定番の番組だ。私のする仕事は、アイドル達が歩くルートやお店を事前にチェックしてスタッフと事前に段取りを打ち合わせることだ。

 そうしてあらかたロケハンも終わった頃、私とスタッフの近くを一人の女の子が通りすがった。

 

 この業界で仕事していると自然とファッションの流行にも詳しくなっていく。

 だから私には、彼女のファッションが最近の10代に人気の最新ブランドによってコーディネートされているのだとすぐに分かった。しかも、彼女のコーディネートは派手すぎない絶妙なバランスで構成されていて、彼女自身のクールな雰囲気にもとても合っている。

 どこかでファッション誌のモデルをやっていると言われても不思議ではないくらいだが、その独特な雰囲気はこの地方都市の雰囲気には少々似つかわしくないように感じた。

 だが、それだけならまだ彼女をそのまま見送ったかもしれない。

 マスクで口元を隠しているせいか、少女の瞳がよりいっそう目についた。

 その瞳を見た瞬間、彼女をこのまま行かせてはいけないと、直感で思った。

 

「あの……!」

 

 そして、思わず声をかけていた。

 少女は怪訝そうな顔をこちらに向ける。

「もしかして自分に声かけてますか?」

「えっと……、うん、今少し良いかな?」

「……なにか用デスか」

「えっと……、良い服だね」

 全然気の利いた言葉が出てこなくて見たまんまの印象を口に出してしまった。案の定、少女はキョトンとした顔になって、しまったやってしまったかと思ったが、

「ああ、服アカ見た人かな。どうもありがとう、デス」

 どうやら彼女は好意的に受け取ってくれたらしい。

 『服アカ』というのが何を指すのかこの時はよく分かっていなかったが、やはりファッションについてこだわりを持っている子らしいという見立ては確かなだったようだ。

「そのジャケット、×××の新作でしょ?とても似合っているし、良いセンスしてると思うよ」

「……詳しいデスね。全然そういう風には見えないデスけど」

 少女は嬉しさ半分、不審感半分で言う。どうやら彼女は、初対面の人間に対しても結構ズバッと物を言うタイプらしい。

 まあ、スーツをビシッと着込んだ相手にいきなりファッションを褒められて、状況がよく分からなくても当然だろう。よく考えればまだこちらは名乗ってもいない。

「ああ、ごめん。私は別に怪しい者じゃなくて……」

 スーツのポケットからすぐに取り出せるようにしてある名刺を取り出すと、その一枚を少女に差し出しながら、精一杯の微笑みを作って、言う。

 

「私は、渋谷凛。東京の346プロダクションで、アイドルのプロデューサーをしている者です」

 

 為すがままに名刺を受け取った少女は、名刺に書かれた文面と私の顔を交互に見て訝しげに眉を寄せた。

「アイドルの、プロデューサー……?」

 私は頷く。そして少女から目を離さぬようにしながら、再び告げる。

「突然ですみません。アイドルに興味はありませんか?」

 少女は、私の顔と名刺をもう一度繰り返し目をやると、

 

「いえ、興味ないデス。じゃ、用があるんで」

 

 そう言って、スタスタと歩き去っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

 東京都内、某所。 

オフィスビルが立ち並ぶ街の一角に、お城のようなその社屋はある。

 芸能プロダクション、美城プロ。芸能界きっての老舗プロダクションであり、数多くの有名タレントを輩出している超大手企業。そんな大企業が群雄割拠のアイドル事業に手を出したのは、意外にも他のプロダクションよりも遅い時期。しかし、長年培ってきた人材と手腕によって有望なアイドル達を次々に花咲かせていき、アイドルの世界でも一気に業績を上げていった。

 私がアイドルとしてこのお城に招かれたのはその真っ只中。15歳の高校生だった頃のこと。

 自分に才能があったかどうかは今でもよく分かっていないが、有り難いことにアイドルの世界で成功することができ、キラキラした世界の中でいろんな事を経験した。

 嬉しいこと、楽しいこともあれば、悲しいこと、苦しいこともあった。

 それらも今では全て良い思い出になっている。

 

 それから7年経った今、私はもうアイドルじゃない。

 

 渋谷凛、22歳。

 職業、プロデューサー。

 かつての私のようなアイドル達を支え導くために、私は今ここに居る。かつて私を導いてくれたあの人のように。

 ……まあ、まだひよっこなんだけど。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 新潟県への出張から戻り、一日休みを置いてからの出社。

 かれこれ数日ぶりに事務所に顔を出すわけだが、その前に寄らなければならない場所があった。

 事前に事務所に連絡を入れた所、彼女は今日もトレーニングルームでレッスンをしているらしい。

 ルームのドアを開けると、ちょうどレッスンが一区切りついたらしい彼女がそこに居た。

 

「あ、プロデューサー!お疲れ様です!あ、お疲れ様ですんご!」

 

 元気よく駆け寄ってくる少女の名前は、辻野あかり。

 山形県出身の15歳。最近事務所に入ったばかりの、新人アイドルである

 といっても、彼女は未だデビューを果たしていないので、プロダクション所属アイドルと言ってもまだ研修生や候補生に近い状態だ。

 それでも、私にとって初めての、そして今の所唯一の担当アイドルだ。

「お疲れ、辻野さん。今日は自主レッスン?」

「はい!今日はトレーナーさんの予定が空いてなかったみたいなんですけど、少しでもアイドルらしく体を動かせるようになりたくて」

「ごめんね、ここに来てからレッスンばかりで」

「いえいえ、私はレッスンだけでも楽しいですし、事務所でいろんなアイドルさんたちに会えるのも楽しいです!あ、いや、楽しいんご!」

 最初の頃は自分がアイドルになるになるなんて思っていなかったと語った彼女も、今ではイキイキとレッスンに励んでいる。

 実家はリンゴ農家をやっているという彼女は、「リンゴアイドルのあかりんご」が自身のコンセプトらしく、語尾に付けている「んご」はリンゴアイドルとしてのアイデンティティとのことである。是非はどうあれ、こうして自らアイドルとしてのコンセプトを考えているのは、新人アイドルとして良い心がけだと思う。

 実際の所、農家の手伝いで養われた体力は大したもので、うちのトレーナーさんたちの割と無茶なオーダーにも答えられているから驚きだ。

 それに、彼女の純朴な笑顔は本当にリンゴのように愛らしく、それだけでも十分にアイドルとしての素質はあると私は思っている。

「うん、辻野さんが楽しいなら良かったよ」

「それに……」

「ん?」

「それに、あの渋谷凛ちゃんに、こうしてプロデュースしてもらってるだけで私は嬉しいし楽しいです!」

「……そっか。じゃあ、今後のレッスンの予定も立てたいし、一旦事務所に戻ろうか」

「はい!」

 

 彼女に、「私にプロデュースしてもらって嬉しい」と言われた時、私はどういう顔を浮かべるべきか一瞬分からなかった。いや、問題なのは「プロデュースしてもらって嬉しい」の所じゃなくて、「あの渋谷凛ちゃん」の部分だ。

 あの頃の事とはもう折り合いを付けたはずなのに、言われる度にどうしても意識してしまう自分が居て、そんな自分が嫌になる。

 でも、そんな私の感情なんて知らないだろう無邪気な好意に対して、少し嬉しさも感じてしまった結果、私は曖昧な笑顔しか浮かべられなかった。

 

 

「え!凛ちゃん、新潟でめっちゃ可愛い子見つけてきたの!?」

「はい」

「で、スカウト失敗したんだ?」

「……はい」

「そこはもちょっと粘んなきゃ~、プロデューサーはしつこさも大事なんだゾ☆」

「そんなことを言われても……」

 事務所に戻った途端、私は先輩プロデューサーからこんな感じで絡まれていた。

 彼女の名前は佐藤心。年齢は33歳。

 私と同じ、元アイドルという経歴を持つプロデューサーだ。

 アイドルの頃に一緒に仕事をした経験はそれほど多くないが、豪快でサバサバした性格はあの頃と変わっていない。

 こうやって同僚やアイドルにウザ絡みすることも多々あるが、妙に憎めない不思議な人だ。

 ちなみに、あかりを拾ってきて私に引き合わせたのもこの人だ。物産展でリンゴの着ぐるみを着てウロウロしているのを見てティンと来たとのことだが、何を言ってるのかよく分からなかった。

「うちの事務所は新人ちゃん大歓迎なんだからさぁ、もっと凛ちゃんもプロデューサーとしてどんどこスカウトしていこうぜ☆。あかりんも同期欲しいでしょ?」

「もちろんです!仲間が居ると心強いんご!」

「……所属アイドルを増やしていくことについては、もっと頑張っていきます」

 私が所属している事務所は、社内でも新しい部署だ。

 社内のプロデューサー達がアイドルをプロデュースするそれぞれの小さな部署。それは正式には『プロジェクト』と呼ばれ、プロデューサーやアイドル達は通称として『事務所』と呼んでいたりする。

 それぞれのプロジェクトは、文字通りプロダクション内で進行する企画であり事業そのものである。それ故に正式に事業として認められたプロジェクトに名前が付き、それがそのままアイドルユニットの名前になったりする。

 しかし、私たちのプロジェクトにはまだ名前が無い。

 理由はシンプル。所属アイドルが少なく、確かな実績を作れるという見込みがまだ無いからである。芸能界は厳しい業績社会で、現実は厳しい。

 なので今はプロデューサーとしての仕事も他事務所の仕事を手伝ったり、小さな仕事を回してもらったりしているばかりだ。

 だが、最近になって心さんがスカウトしてきた子たちが少しずつデビューし始めたりして、この事務所の独自の活動も見通しが立ちつつある。願わくば、もっと所属アイドルを増やしたい。

 だから、今はスカウトやオーディションを積極的に行っているのである。

 

「そうそう、その意気だぞ☆。ま、はあとも今度オーディションに顔出していくしな」

「凛さん凛さん!その子って、どんな感じだったんです?」

「どんな、って言うと難しいんだけど……。どこかで感じたことがあるというか、何処にでも居るようで何処にも居ないようなって感じが……」

「うーん……、よく分からないですね」

「そうだよね。私もよく分からないや」

「せめて凛ちゃんが、名前聞いたり写真撮ってきてくれてたら良かったのにな☆」

「いや、名前はともかく勝手に写真撮るのはまずいでしょ」

 それでは完全に不審者だ。

 まあ、あかりや心さんの言う通りではある。

 私自身もどうしてあの少女に惹かれているのか分からないが、あの子の姿が脳裏からなかなか離れてくれない。

 もっと引き留めるべきだったとは当然思うし、今から新潟へ再び乗り込みたいという衝動すらある。もちろん東京で仕事があるからそれができないのは百も承知。大きな魚を逃したという後悔だけが残っている。

 なんとかして私が新潟に再び出張する口実を作れないか。もしくは、偶然にあの子が東京まで来てくれないものか。そんな出来もしないことを考えながら、先輩のプロデューサーは皆こんなことを悩んでいたのかなどと思った。

 遠く離れた女の子と会いたくて、夜も眠れずに考え続けている。

 それは、まるで恋のようだ。

 いや、私は恋とかしたことないけど。アイドルは恋愛禁止だし。

 そんなことを考えていると、ノックと開閉音がして、私は意識を現実に引き戻した。

 

「こんちわ~。心、居る?」

「お、杏ちゃんじゃ~ん。どしたの?」

 

 双葉杏。

 このプロジェクトに所属している数少ないアイドルの一人。

 24歳になった今でも、妖精のようなビジュアルは健在だ。

 杏と私はデビュー時期としては一応同期にあたる。

 デビューしてから7年の間に同じ同期のアイドル達がどんどん他の大手プロジェクトへ行く中、この弱小事務所にわざわざ籍を置いている。外からはだいぶ変わり者だと思われているらしい。

 ちなみに本人の談は、「所属アイドルが少ない方が事務所でゴロゴロしやすいし、知り合いのプロデューサーの方が色々融通が利きそうだから」だそうだ。いかにも元祖グータラアイドルらしい言い分だ。

 今は主にネットの動画サイトを中心に活動しており、ゲームやサブカル系の路線で人気がある。また、見た目に寄らぬ幅広い知識を生かして地上波のクイズ番組に時々出演しているらしい。

「今度うちの番組でやる特集で取り上げるやつを選別したからさ、少し打ち合わせしようと思ってね」

「お、仕事が早いねぇ。流石☆」

「んご?なんの話です?」

「ん?ああ、今度番組でゲーム配信者の特集をするからさ。取り上げる配信者を私の方からも選んでほしいって言うから、面白そうなのを少し選んできたんだ」

「げーむ、はいしんしゃ?」

「動画サイトで、自分がゲームするのを生放送で配信する人達のことだよ、辻野さん。今、結構増えてるみたい」

「へー、そうなんですか!私、ネットとか全然詳しくなくて」

「おっけーおっけー☆じゃ、杏ちゃんのお勧めをちょっと見せてもらって良い?」

「ん」

 杏は、持ってきていたノートPCを立ち上げると、その中の動画ファイルを開いた。

 すると、ゲームのプレイ動画とそれに合わせて喋る声が流れ始める。

「とりあえず、一番有名な所は番組の方で選ぶだろうから、杏はそれ以外に伸び始めている辺りから選んでみたよ」

「将来有望株ってやつか。なるほど、いい路線じゃん☆」

 杏はどんどん動画を切り替えていく。

 仕事柄、ネットやゲームなどサブカル系の流行はある程度調べているが、昔からあまりネットも最低限以上を使うことは無かったし、ゲームはさらに触れたことは無いので、私自身はこの分野に詳しくない。

 なので、流れてくる動画を見ながら、ゲーム上手いなあとか、よくこれだけ喋りながらゲームできるなあとか考えていたのだが、

 

「ん?」

 ある動画に目が留まった。

 

「どうしたの、凛ちゃん?」

「いや、その動画って……」

 今流れているのは、限られたフィールドの中で武器を拾いながら最後の一人になるまで戦うという、最近流行のサバイバルシューティングゲームだ。

 画面の中、的確な動きでアイテムを収集しつつ、出会った敵をどんどん倒していく配信者の声は、そのプレイ内容とは裏腹にかわいらしい女の子の声だった。ボイスチャットで繋がっているらしいチームメイトと会話しつつ、視聴者のコメントも拾いながらトークと共にプレイを進めている。

「その動画は、今結構人気が上がっている『あきら』って子の配信だよ」

「あきら……」

「FPSがかなり上手いのと、脱力系の語り口が若い子達にウケててね。いつも一緒にプレイしている『兄ぃ』と合わせて人気だよ」

「なるほどなぁ。ていうか、はぁとはこういうゲームとか全然やんねえからよく分かんないけど。で、この子がどうかした?」

「なんか、この声をどこかで聞いたことがある気がするんだよね」

「え、凛さん、このあきらっていう子、知ってるんですか?」

「ネット巡回してて、偶然動画を見たとかじゃなくて?」

「いや、それは違うよ。そもそも私、ネット動画は仕事でもあまり見ないし。でも、聞いたのはつい最近のはず……、あ!」

 

 その時、つい数日前の記憶が蘇った。

 

「……そうだ。新潟だ」

「新潟?」

「この前の出張で会った子だよ」

「それってさっき話してた凛ちゃんがビビッときた子のこと?」

「そうだ、うん、間違いない。杏、この配信者のもっと詳しい情報って調べられない?」

「ええっとねぇ……。ああ、SNSもやってるね。日々の呟き用と、ファッション用の2種類があるみたい」

「ファッション用?」

「写真投稿SNSに、自分お気に入りコーデの自撮り写真を投稿してるんだよ。こんな感じだね」

 映し出されたアカウントには、最新コーデに身を包んだ少女の自撮り写真が投稿されていた。顔は見えないように調整してあるが、左右に垂らしたツインテールの黒髪と、顔隠しの一環で付けているであろう口元のマスクには覚えがあった。

 あの時言ってた『服アカ』というのはこれの事か。

「間違いない。この子だよ」

「ほほぉう。いやなかなかに可愛い感じの子じゃん?」

「この子が、凛さんが見つけた子…。個性が強そう……」

「ま、素質はそれなりにありそうかなぁ?」

 画面を指で指しながら心さんが言う。

「動画配信もSNSも、自分の見せ方ちゃんと分かっててそれなり工夫してないと伸びないからさ。アイドルに繋がる伸びしろとしては充分だな」

「で、この子をどうすんの?またスカウトしに行く?」

「そうだね……。できれば、なんとか番組で取材できればチャンスがありそうなんだけど」

「まあ、凛ちゃんの頼みなら杏も番組スタッフに働きかけてみるけどさあ。実際この子が了承するかどうかは分からないよ?」

「それはもちろんそうなんだけど……。それでももう一度彼女と話してみたいんだ」

「はあ、了解。スタッフさんに提案してみるよ。心もそれで良い?」

「ま、上手くいくかどうかは凛ちゃんの手腕にかかってるってね。ただ、普通に杏ちゃんに同行するだけじゃちょっと厳しいかなあ?」

「どういうこと?」

「杏ちゃんはこれぐらいの仕事なら一人でも出来るからさ、凛ちゃんが同行する理由があんま無いんだな☆ だから上司として一つ条件を付けたいんだよ、な?」

 そう言って横に目線をやる心さん。その先には……

「……へ?」

「……辻野さん?」

「というわけで、頑張れよ☆」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「辻野さん、そんなに肩に力を入れなくても良いよ?」

「は、はいっ!すみません!」

「まだ始まってもいないからねぇ。落ち着いて行こ?」

 

 あれから数日後。私とあかり、杏の3人は東京駅で人を待っていた。待っているのはもちろん、あのあきらという少女だ。

 心さんが私に出した条件は、あかりを杏の番組にゲストとして出演させることだった。これで私は担当アイドルの付き添いとして、正式に番組へ関われることになる。そのために番組スタッフに交渉し、なんとか希望を通したのだ。

 そして、番組を通じてオファーを出す過程で、あきらについての詳しい情報も知ることが出来た。

 彼女のフルネームは、砂塚あきら。年齢はあかりと同じ15歳。

 新潟では家族とともに暮らしており、配信にも登場する『兄ぃ』は実の兄だという。ちなみに、わざわざ上京してもらう都合もあったので、番組としても流石にある程度の交渉は覚悟していたのだが、あきらからの了承は意外とスムーズに帰ってきたそうで、もしかしたらあきらの家族は彼女の活動に理解がある人々なのかもしれない。

 なぜこの3人であきらを待っているのかというと、新潟から1人で上京してくるらしい彼女に対して、番組スタッフが迎えに行くよりも同姓の私が行った方が良いという話になったからである。

 そして、本来は私と杏の2人で行くはずだったのだが、あかりにどうしても一緒に行きたいと頼まれ、こうして3人で東京駅に居る。

 

「新潟から東京に一人で来るなんて凄いですねえ。私なんか最初に来た時はお母ちゃん達と一緒じゃないと何も出来なかったです……」

「確かにねぇ、地方から外に出る時ってみんな不安だよね」

「杏さんもそうだったですか?」

「杏は16の時に家飛び出して、一人で東京に越してきたんだよ。懐かしいなあ」

「ひぇぇ、凄いんご……」

 この手の話は地方出身者の多いうちの事務所では良く聞くが、昔から東京育ちの私にはあまり縁がない話だ。だけどよくよく思い出してみれば、ロケで地方や海外に行くのも最初の頃はよく両親に心配された。プロデューサーや他のアイドル達も一緒だから大丈夫だと、何度も両親を説得したのも今となっては懐かしい。

 そんなことを話しながら待っていると、改札周りに人が増え始めてきた。お目当ての新幹線が到着したらしい。改札から流れてくる人混みの中を注意深く見ていると……

 

(……居た!あの子だ)

 

 軽くウェーブがかった黒髪を二つに分けて垂らし、服装はカジュアルな流行ブランドの服でバランス良くまとめている。口には以前合った時と同じようにマスクを付けているが、少し鋭い印象を与える瞳と泣きぼくろがよく目立っていた。

 間違いなくあの日新潟で出会った少女だ。

「あの、砂塚あきらさん、だよね?」

 私は、辺りをキョロキョロ見渡しながら歩いていた少女――砂塚あきらに声をかけた。

「えっ、アハイ、そうデスけど。もしかしてあなたが346プロの?」

 あきらは流石に驚いたのか、少し戸惑った様子で答える。確か彼女には346プロの関係者が出迎えに行くとしか伝えていないはずなので、まあ戸惑いも当然だろう。

「私は346プロでアイドルのプロデューサーをしている渋谷凛です。こちらは今回の番組に一緒に出るアイドルの双葉杏と辻野あかり」

「どーも、よろしく」

「は、はじめまして!辻野あかりです!」

 私の名前自体は、以前新潟で名刺を渡していたと思うが、覚えられているかは分からないので改めて挨拶しておくことにした。

「……砂塚あきらデス。はじめまして」

「砂塚さん、長旅で疲れている所を申し訳ないんだけど、これからすぐにスタジオに行って打ち合わせとリハーサルをしたいんだ。大丈夫かな?」

「自分は構わないデス。事前のメールでもそう聞いていますから」

 あきらは全体的に口数少なく反応していて、その様子を見ると地方から東京に来たばかりで多少緊張しているようにも見える。その一方で、その少ない言葉の中で自分の意思はきっちり示している辺りは、初対面の時と同じく結構サバサバした印象を受けた。

「OK。じゃあ外に車を置いてるから一緒に向かおうか」

 

 

 車内では、あかりがあきらに積極的に話しかけていた。

「ねえねえ、砂塚さんって新潟から来たんだよね?」

「え?まあ、そうデスけど、なんで知ってるんデス?」

「プロデューサーさんに聞いたんご!私も地方から東京に来たんだ。山形県って知ってる?リンゴが有名なんだけど」

「へえ、そうなんデスね。リンゴが有名なのは初めて聞いたけど。っていうか、そのんごって何デス?」

「都会で流行ってる話し方だよ。こっちに出てくる前に勉強したんご!」

「……自分が知ってる限り、日本の何処でも流行ってないと思いますけど」

「それは砂塚さんがまだ東京に来たばかりだからだよ!」

「そうデスかね……」

 少々あかりが空回りしているように思えるが、ミラーでちらちら表情を伺う限りはあきらの緊張も少しはほぐれたように見える。杏もフォローの必要が無いと判断したのか目的地まで寝る体制に入っている。

 まあ、あかりが会話を続けてくれるならこちらは運転の方に集中できる。プロデューサーになるにあたって仕事に必要になるだろうと思って車の免許を取ったが、まだ取ってあまり時間が経っていないからまだ運転に自信が無い。幸い、目的地はそれほど遠くないので、安全に到着することが出来た。

 

 

「此処って……」

 目的地の前に立ったあきらが驚いた様子で呟いた。

「ようこそ我がプロダクションへ、ってとこかな?」

 遅れて車を降りた杏が言う。

 そう、何を隠そう、あきらを連れて到着したのは私たちが働いている346プロの社屋だ。

「テレビ局や制作会社のスタジオでやると思ってたんデスけど」

「うちの会社は社内にも小さなスタジオを持ってるんだよ。説明は移動しながらしよう」

 私は言いながら、あきらたちを社内スタジオに案内する。

 

 もとより超大手で大企業である我らが美城プロダクションは、私がアイドルとして入社した頃から専用のレッスン場や写真撮影用のスタジオを自前で持っていたし、果てにはエステサロンやお洒落なカフェまで社内にあった。それでも動画や番組用にスタジオを使うようになったのは最近のことだ。

 時代の流れが動画配信サイトでの動画投稿やリアルタイム配信に移り変わっていく中、一部のプロデューサーやアイドルからそれらのジャンルでの活動の希望はあったのだが、最初の頃は346のブランドイメージを重んじる上層部の反応は芳しくなかった。それでも今こういう活動が堂々とできるようになったのは、杏をはじめとしたサブカル系アイドルたちがしっかり結果を出してきたからに他ならない。

 そうして細々と始まったネットを通じてのアイドル活動は、当初はシンプルな内容の動画や配信ならただの会議室でも良いだろうということで346社内の会議室を使って製作していた。そのほとんどはアイドルと担当プロデューサーのハンドメイドだ。

 だが、徐々に動画が人気になってくると背景や配信環境を良くしたいという声が強くなっていき、なら会議室を飾ったり余所のスタジオを借りるよりも社内で専用のスタジオを作ってしまえ、という意見によってちょうど空いていた撮影スタジオを改装して動画撮影用のスタジオが出来たのである。

 ……この会社で活動してそこそこ長いが、こういうゴリ押しみたいな意見が結局通ってしまう辺り、うちのアイドル事業部はなかなかにおかしいと思う。

 

「……事情は分かりました。でも、こういう事はちゃんと言っておいてほしいデス」

「ごめん、確かに事前に伝えるべき事だった」

「まあ良いんじゃない?自慢じゃないけど、テレビ局のスタジオと遜色ないくらいの設備だし、いろいろ融通が利いて便利だよ。いろいろ移動しなくてすむのも杏にはちょうど良いしね」

 杏が良い感じにフォローを入れてくれるのがありがたい。一応下心がある以上、あきらにあまり悪い印象を与えたくない所だ。

 

 

 スタジオに入ると、すでに撮影スタッフが準備を進めていた。撮影スペースにはモニターとゲーム機、そして杏の番組でいつも使っている背景や小物が並んでいる。

「ここがスタジオ……!私初めて来ました!」

 あかりが物珍しげに広い天井を見上げたりキョロキョロと辺りを見回している。あきらも同じように珍しげにスタジオ内を観察しているが、彼女はどちらかというと大きなモニターや撮影機材に興味があるようだ。

「双葉さん、それとゲストの砂塚さんと辻野さん。番組の大まかな流れを説明しておきたいので、こちらによろしいですか」

 いつもこの番組を取り仕切ってくれているスタッフの呼びかけに、皆がひとまず集合して今回使うゲームや全体の進行を確認する。私もとりあえず同席したが、普段ゲームなどをしない私には話の詳しい事はよく分からなかった。あかりもどうやら同じ感じのようで、話は熱心に聞いているが所々ハテナマークが浮かんでいるのが表情から読み取れた。

「3人で一緒にやれるように協力性のあるゲームにしたから、あかりちゃんもプレイしてもらうから宜しくね?」

「わ、私も一緒にやって大丈夫ですか?」

 杏の確認に、あかりがおずおずと答える。それに対して杏はいつものように気の抜けた笑顔で、

「だいじょぶだいじょーぶ。そんなに難しいゲームじゃないし、ミスってもそれなりに美味しいから」

「な、なるほど……!」

「辻野さん、ゲームはどれくらいやるんデスか」

「えっと、そんなにやらないかな。あまりこういうのには詳しくなくて」

「ふぅん……、まあヤバい時はちゃんとフォローするんで」

「んごぉ……」

 

 大まかな流れを確認した後、リハーサルとして3人でゲームを実際にプレイすることになった。その様子をスタッフと一緒に傍目から見ていたのだが、素人目に見てもやはりあきらのプレイは上手い。的確に状況を把握しながらどんどん敵を倒していき、ダメージもほとんど食らっていない。しかもゲームが始まると良く喋る。これが彼女の本来の配信スタイルなのだろう。

「よし、こっちクリア!杏さん、そっちは?」

「こっちも大丈夫だね~。次進もっか」

 同じように番組主催の杏も上手い。杏がこの手のゲームをやっているのは見たことは無いのだが、まるで何年もプレイし続けていたかのようなプレイングを見せている。

「ああ~、待ってぇ2人ともぉ」

 その2人に比べれば劣るのは当然だが、あかりのプレイはやはり下手だ。派手な悲鳴を上げてダウンしては2人に助けられている。

「きゃあぁ!敵!敵来てます!うわあまた死んじゃったんごー!」

「はいはい、今復活させるんでおとなしくしてくださいね。杏さん、フォローお願いします」

「あいよぉ」

「うぅ……、ありがとう砂塚さん……」

「COOPなら当然のことなんで、ほら傍離れないでください」

 打ち合わせでの発言通り、あきらはしっかりあかりをフォローしてくれている。ドライな印象も受けたが、中身はちゃんと優しい子のようだ。

「どうですか、あの2人」

 見守っているスタッフに小声で尋ねてみる。

「いや良いですよ。あきらちゃんは素直にプレイングが上手いから映えますし、あかりちゃんもリアクションが派手で可愛らしいから充分目立ってますよ。杏ちゃんも良い感じでフォローしてくれてますしね」

 スタッフの反応も上々のようだ。あきらとあかりが共演することになったのは偶然ではあるのだが、意外にも良い組み合わせになったのだろうか。この様子なら明日の本番も大丈夫だろう。

 

「砂塚さん、明日の本番に備えてもう一つ見ておいてもらいたい所があるんだけど良いかな?」

 リハーサルが終わったタイミングで、私はあきらにそう声をかけた。

「はあ、なんでしょう」

「来てもらえばすぐに分かるよ。辻野さんも一緒に来てくれる?」

「え?わ、私もですか?」

「うん、近いうちに必ず必要になる所だからね」

 

 

 そう言って2人を案内したのは、スタジオのすぐ近くにある部屋だ。

「うおぉぉ……」

 部屋に入った途端、あきらは目を輝かせて感嘆の声を漏らした。

 訪れた部屋はいわゆる衣装部屋である。ここにはライブで使うステージ衣装から、写真撮影用の最新ブランドアイテムまで、346プロのアイドルが使うありとあらゆる服が納められている。

「撮影の時に自分の服を着て行っても良いけど、さらに少しでも着飾れればそれに越したことは無いからね。ステージ衣装とか以外はある程度好きに使って構わないよ」

「ほ、本当に良いの?」

「勿論。スタイリストさんも居るから、良い感じにコーディネートしてもらって」

「マジかぁ……、やっぱアイドルって凄いんだな……」

 普段の着こなしやSNSでの活動からしてからして、あきらはファッション関係が好きなんだろうと思っていたが、予想以上に良い反応だ。これならアイドルに良い印象を持ってもらえるだろう。

「プロデューサーさん、私もここの服着ても良いんですか?」

「うん、あかりも明日の撮影の時に使ってくれて良いし、今後活動が増えてくればもっと使うと思うから今のうちにいろいろ勉強しておくと良いよ」

「なるほどぉ、分かりました!」

 

「そうそう。なんなら、はぁとがみっちりしっかり教えてやるぞぉ」

 

 突然そんな声が掛けられたと思ったら、衣装の向こう側から見知った顔が現れた。

「心さん、何してるんですかこんな所で」

「おいおいあんまりにもあんまりな言い方じゃね?こっちも仕事で寄って、偶然かち合ったに決まってんだろ☆」

 素知らぬ顔で言っているが、どうせあきらを一目見てみようと無理矢理予定をねじ込んだのだろう。それで良いのかプロデューサー。

「あの、何デス?この人は」

「ああ、同じ事務所に所属しているプロデューサーだよ。一応私の先輩なんだ」

「君が有名ゲーム配信者のあきらちゃんだろ?あたしは凜ちゃんと同じくアイドルのプロデューサーやってる佐藤心だよ。昔、しゅがーはぁとってアイドルやってたんだけど聞いたこと無い?」

「すいません、アイドル全然詳しくないので」

「そっかぁ、ならしゃあないな。でも見た感じファッションとか好きだろ?スタイリスト兼任プロデューサーのはぁとが良い感じの服見繕ってやんよ☆」

 そう言いながら色々アイテムを持ってくる心さん。心さんは昔から衣装を自作したりして鋭いファッションセンスを持っていたので、そういう点では確かに信頼できる人だ。だが、別の仕事のついでで寄ったと言っていたのは大丈夫だろうか。

 

「おい、お前」

 

 私の懸念に答えるように、また衣装の向こう側から声がした。

「お嬢様の衣装合わせを放り出して何をしているんです」

 棘のある言い方とともに現れたのは、黒髪を短く切り揃えたセーラー服の少女だった。元より鋭い目つきをさらに鋭くさせて心さんを睨んでいる。

「おおっと、チヨちゃん怖い怖い☆ アイドルがそんな顔しちゃいけないゾ」

「黙れ。ちゃんと職務を果たせと言っているんですよ」

 

「もう千夜ちゃんたら、あんまり魔法使いさんをいじめないの」

 

 三度衣装の向こう側から現れたのは、金色の髪を靡かせた少女だった。着ているドレス風の衣装も相まって、気品あふれる雰囲気を醸し出している。

「しかしお嬢様……」

「いいからいいから。私の方はもう衣装の方もだいたい決まったしね」

「……お嬢様がそう言うのでしたら」

 まるで主人と従者のようなやりとりをする2人の少女だが、彼女たちもうちの事務所のアイドルである。

「うわあ♪ちとせさん、その衣装素敵ですね」

「ありがとうリンゴちゃん。今度PV撮影で使う衣装なんだって。それで、そちらはもしかして新しいアイドルの子?」

「いえ、自分は番組のゲストで来ただけデス」

「あら、そうなんだ。魔法使いさんがワクワクしてたからてっきりそんな感じだと思ったんだけど。ま、いっか、私は黒埼ちとせ。こっちの子は白雪千夜ちゃん。2人でアイドルやってるの」

「……白雪です」

 2人は心さんが担当しているアイドルで、すでにVelvetRoseというユニットを組んでデビューしている。

「何かあったら遠慮無く言ってね、ええと、あなたの名前は?」

「あきらです。砂塚あきら。と言っても、明日撮影終えたら帰るんですけど」

「あきらちゃんね。確かに短い間かもしれないけど、また会わないとも限らないわ。あと、このお城にいる間は魔法使いさんの魔法には気をつけた方が良いわよ」

「はあ……?」

 ちとせの煙に巻くような言い回しにあきらが首を傾げている。吸血鬼の末裔と自称するちとせは、時折こういうミステリアスな言い方を使うことがある。まあこういう話し方をするアイドルは何人か覚えがあるので私は慣れている。

 しかし今日はちょっと個人的に気になる台詞のような気もするが。

 

「へいへい、凜ちゃん凜ちゃん」

 心さんが手招きをして少し離れたところに呼び寄せる。

「初めて顔会わせたにしちゃあ良い感じっぽいじゃん?」

「どの口が言うんですか。会わせるためにわざわざねじ込んだんですよね?」

「まあまあそう言うなって。ついでに伝えたいこともあったからさ」

「何です?」

「オーディションの方、結果出たぜ☆ うちのプロジェクトになんとか1人ぶち込めた」

「っ!本当ですか」

「モチ。あたしは今の子達で手一杯だから凜ちゃんに任せようと思うけど、かなり癖が強そうな奴だから頑張れよ?後で資料はメールで送っとくわ」

「ありがとうございます、心さん」

「良いって事よ、同じ事務所の仲間だからな。これであの子を引き込めれば、いよいよ準備万端って感じか?」

「……そうですね、いよいよです」

 他のアイドル達と熱心に衣装選びをしているあきらを見ながら、私は感慨深く呟いた。

 

 

 その日の夜。

 あきらには今日は女子寮の空き部屋に泊まってもらうように伝えている。これも心さんの計らいだ。あかりも寮で暮らしているし、1人で上京してきた女の子をホテルに泊めるよりも良いだろう。

 私の方はというと、まだプロジェクトルームに残って書類仕事などを片付けていた。ブラックコーヒーを飲みつつ、心さんから送られてきたオーディション結果に目を通す。

「癖が強い、か。なるほどね」

 履歴書を見てまず目に入るショッキングピンクの髪。オーディションではだいぶ過激な発言をしたらしい。心さんからの追伸には「上の連中からは結構印象悪かったから危なかったぞ☆」とある。心さんみたいな奇特なプロデューサーたちが居なかったら確かに厳しかっただろう。

 プロデュースするのは難しいだろうが、こういう癖の強い子がアイドルとして輝くのも、今までの経験の中で多く目にしてきたのも事実だ。プロデューサーとしてはやり甲斐があるというべきだろう。

 

 そんなことを考えながら資料を読んでいると、デスクの上に置いていたスマホが鳴った。見てみると、7年来の友人からメッセージが届いていた。

【しぶり~ん乙♪まだ仕事してる?狙いの新人ちゃんはどう?】

 思わず顔が緩む。まったくどこから知ったのだろうか。

【まだ交渉中だよ】

 返事はすぐに返ってきた。

【そっかぁ。でもしぶりんなら出来るよ!今度時間が空いたら呑もうね!】

 メッセージに続いて「頑張れ!」と書かれたファンシーなスタンプが付いてくる。私は【ありがとう。楽しみにしてるよ】と返信する。

 彼女を含め、かつてユニットを組んでいた2人とは、ユニット解散から数年経った今でも交流が続いている。2人ともアイドルを続いているので多忙な日々だが、それでも休みが合えば呑みに行ったり遊びに行ったりしている。

 

 なんだか懐かしくなって、PCの横に飾ってある写真立てに目を向けた。

 それは7年前の、アイドルになったばかりの頃の写真だ。大きなライブの終わりに撮ったもので、ステージ衣装を着た私と仲間の皆、そしてプロデューサーが写っている。皆良い笑顔だ。

 あれから7年の時が過ぎた。

 一言では言い表せない。いや、一言では言い表したくない日々だった。

 こんなに長い時間をアイドルの世界で過ごすことになろうとは思わなかったけど、その世界で得たもののおかげで私は今ここに居る。

「とりあえず、まずは明日のことだなぁ……」

 一先ずは仕事を切り上げて帰ることにしよう。

 あきらやあかりの顔を思い浮かべながら。私はPCの電源を落とした。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 翌日、あきらやあかりと共にスタジオに集合し、本番の動画撮影が行われたのだが、

 

(あきら、もしかして調子悪いのかな……)

 

 リハーサルが完璧すぎたのもあるが、昨日よりもダメージを受けているように見える。トークも少々言葉数が少なくっている。元々のスキルが高いことと、杏のサポートもあってゲーム進行に今の所は特に問題が無いのが救いではある。

 だが……

「あっ」

「おっと、あきらちゃん大丈夫?」

 ミスショットによって敵を倒し損ねたあきらが、致命的ダメージを負ってダウンしてしまった。このままあきらのキャラが死んでしまったら番組進行的にもまずい。

「うにゃあああ!!」

 突然飛び込んできたあかりが一気に敵を倒し、あきらの周りに居た敵を一掃した。

「あ、あ!やった!無我夢中で撃ってただけなのに!やりましたよ!!」

「あー、あかりちゃん、喜ぶのも良いけどあきらちゃん復活させてあげて~」

「うわあ!そうでしたすみません!」

 あかりが近づいて、あきらのキャラを復活させる。

「……ありがと」

「いえいえ大丈夫だよ!」

 そのまま3人はなんとかステージをクリアした。

 

 

 あかりが活躍したシーンが見応えがあったためか、撮り直しも必要なく無事撮影は終了した。

 あかりたちアイドルを先に帰した後、私は一応監督役であるプロデューサーとしてスタッフと今日のVを確認してからスタジオを後にしたのだが、

(あれ……?)

 外の休憩スペースに行くと、意外な顔がそこに居た。

「砂塚さん?」

 声をかけると、砂塚あきらは小さく会釈した。

「まだ帰ってなかったの?」

「いえ、あの、ちょっと話したいことがあって……」

「話したいこと?私に?」

 再びあきらは小さく頷く。

「じゃあ、ちょっとそこに座って話そうか。何か飲み物要る?」

「いえ、自分は何でも良いんでお構いなく」

「分かった」

 私は傍にある自販機で2人分のお茶を買い、あきらが座っている横に腰を下ろした。

「どうぞ」

「ありがとうございます……」

 あきらはお茶の入った紙コップを受け取ったが、それを飲むことも無くジッと手の中のカップを見つめている。

「今日の撮影はどうだった?」

「……緊張はしました。普段リアルでいっぱいの人と配信撮ること無いんで」

 彼女の言葉を待つか悩んだが末にこちらから声をかけてみた所、意外にも彼女はちゃんと返事を返してくれた。

「少し調子が悪いように見えたのは、やっぱり緊張のせい?」

 そう私が訊くと、あきらは嫌な事を思い出したという風に、少し眉を寄せた。

「分かりますか」

「少しだけどね。私はゲームには詳しくないけど、昨日と比べてちょっと砂塚さんらしくないかなって思ったから」

「らしくない、デスか……」

「もし、何か問題があったら遠慮無く言って?力になってあげるから」

「昨日も言いましたけど、自分は此処のアイドルでもなんでもありません。それでも良いんですか」

 そこであきらは、私と目をまっすぐ合わせた。

 真剣な眼差しを向ける彼女に、私は精一杯の笑顔で答える。

「勿論。プロデューサーだとかアイドルなんて関係なく、隣の人が何か悩んでいたら手を差し伸べるべきだと、私は思うよ」

「……分かりました。なら、一つ訊きたいんですが……」

 あきらは一瞬目を逸らした後、覚悟を決めたように私の目を再び見て、そして言った。

 

「どうしてプロデューサーさんは、自分をアイドルにしたいんですか?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

《Side:AKIRA》

 

 昔から、アイドルというものに興味を持ったことは無かった。

 

 だから、バイト帰りに突然呼び止められて「アイドルに興味ありませんか」と言われても、全然ピンと来なかった。むしろ胡散臭いと思ってすぐに断ってしまった。

 実際、美人だけどちょっときつめな感じのスーツの女性に声を掛けられて、名刺渡されてアイドルにスカウトされて、怪しいと思わない方がおかしいだろう。あの選択で間違いなかったとは思うが、その後でしつこく追いかけてくることも無かったので、もしかしたらそんなに怪しい人でもなかったのかもしれない。

 

 それから数日後。今度はゲーム系のネット番組にゲスト出演しないかというオファーが届いた。

 番組のMCをしている双葉杏というアイドルには覚えがあった。自称ニートアイドルでゲームがめっちゃ上手くて、動画を投稿したり配信をしたりすると爆発的な数字を叩き出しているので、ネットで活動していると良くその名前を見かける。

 自分も普段からゲーム配信を主体に活動している身なので、番組に出演することに抵抗は無かった。むしろ出演すればもっとフォロワーも増えるだろうくらいに考えていた。

 番組に出るために上京することを家族と相談している時に気づいたが、双葉杏の所属事務所でありオファーを送ってきた差出人は、以前スカウトしてきた人の所属と同じだった。

 

「その声かけてきたプロデューサーって、もしかしてあの渋谷凛か?」

 スカウトされた時の話を聞いた兄ぃがそう訊いた。

 あの渋谷凛というのが何のことなのかは分からなかったが、兄ぃによると私が会ったあの女性は元アイドルで、しかもかなり有名な人だったらしい。

 兄ぃがアイドルに詳しかったなんて初めて知ったが、兄ぃにとって渋谷凛はいわゆる #世代直撃 というやつらしく、同世代で知らない人は居ないだろうということだった。

 自分の趣味に寛容な家族から上京の許可をもらったその日の夜に、渋谷凛というアイドルについて調べてみるとデビュー当初から引退時期まで多くの記事がヒットした。なるほど確かにトップアイドルだったらしい。

 ライブの動画やPVも動画サイトに上がっていたので見てみたら、自分も昔にこの人を見たことがあったのを思い出した。本当に小さい頃、まだネットよりもテレビの方を多く見てた頃のこと。年末の大型歌番組で見たことがある。

 名前の通り、凛として堂々と歌い踊っていた姿は、朧気ながらも記憶の隅に残っている。しかし、彼女と同じ事務所のアイドルがMCをする番組に出演すると言っても、346プロはかなりの大企業らしいからもう一度会うことは無いだろう。自分はそう思っていた。

 

 東京に着いてすぐ、その本人が迎えに来ているのを見るまでは。

 

「私は346プロでアイドルのプロデューサーをしている渋谷凛です。こちらは今回の番組に一緒に出るアイドルの双葉杏と辻野あかり」

「どーも、よろしく」

「は、はじめまして!辻野あかりです!」

「……砂塚あきらデス。はじめまして」

 驚きは悟られなかったと思う。普段からマスクを付けていて、これほど良かったと思えた日は無いだろう。

 346プロの関係者が迎えに来るとは聞いていたが、まさかこの人だとは思わなかった。もしかしすると双葉杏の担当プロデューサーなのだろうか。

 スタジオへ移動する車中では、一緒にゲストに出る辻野あかりという子がずっと話しかけてきた。新人アイドルが一緒に出演するとは事前に聞いていたので、どんな子なのか、邪魔にならなければ良いなと思っていたが、ゲームはやらなそうな雰囲気だがなかなかに人懐っこくて不快感は無い。自分と同じ15歳だそうで、こんな純朴そうな子もアイドルになりたがるのかと意外に思いつつ、こんな子の方がアイドルに向いているんだろうなとも思った。

 しかしながら、気になるのは渋谷凛の方だ。流石にここまで出来すぎていると偶然かどうか疑いたくなる。

 #仕込み? #またスカウト?

 その疑いは、346プロの本社に連れてこられたことでだいぶ濃厚になった。

 346プロのスタジオを使うことについてはそれらしい理由を言っていたけど、要は自分をアイドルにスカウトしたいだけじゃないのか。

 #ますます分からない

 自分に対してここまでする理由が。

 渋谷凛というプロデューサーのことが。

 

 

 とは言ったものの、動画撮るための設備は流石はプロという感じの高価な機材が揃っていて羨ましいし、なにより衣装部屋が凄かった。

 ステージ衣装もめっちゃセンス良かったし、最新ブランドのファッションをすぐに着られるのも凄い。これ着まくって #今日のあきらコーデ祭り を開催したい。

 ……なんだかんだで浮かれまくってしまった。掌の上で転がされている気がすごいしてるが、やっぱりアイドルって凄いんだなとも素直に思う。

 

「あたしは凜ちゃんと同じくアイドルのプロデューサーやってる佐藤心だよ。昔、しゅがーはぁとってアイドルやってたんだけど聞いたこと無い?」

 そこで会った佐藤というプロデューサー。この人も元アイドルらしいが、全くもって知らない。いかにも真面目で実直そうな渋谷凛に比べると、あまりにも騒がしくてひょうきんな感じで、同じプロデューサーだとはとても思えない。

 

「私は黒埼ちとせ。こっちの子は白雪千夜ちゃん。2人でアイドルやってるの」

「……白雪です」

 それに続いて現れたのは、また不思議な感じの2人だった。

 ちとせさんは一目で分かるとてつもない美人で、自分の人生でこういう本物のお嬢様っぽい人に会ったのは初めてだった。

 その横に付き従うように立つ千夜さんは、厳格さが服を着て歩いているかのような人で、まるで本物のメイドか執事のように思えた。

 その2人が並んで立っていると、まるで映画やゲームからキャラが飛び出してきたかのような妙な感覚に陥る。

「短い間かもしれないけど、また会わないとも限らないわ。あと、このお城にいる間は魔法使いさんの魔法には気をつけた方が良いわよ」

 ちとせさんにそんなことを言われた。煙に巻かれているような不思議な言い回しだったが、なんとなく言いたいことは分かる気がした。

 

 確かにこの場所は、いつも自分たちが過ごしている世界とは違う。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 リハーサルと衣装チェックが終わった後、その夜は346のアイドル女子寮に泊まることになった。

 事前の説明の時点で、泊まる場所についてはこちらで用意するので心配知らない、という風に聞いていたのでどういうことだろうとは思っていたのだが、まさか女子寮だとは思わなかった。

 一応自分は部外者なのに、現役アイドル達と同じ所に泊まらせるなんて大丈夫なんだろうか。こういう所からもますます自分を囲い込もうとしているようにしか見えない。

 まあ寮にはあかりも住んでいるらしいから、そういう面では少し安心だ。

 ちなみに、P2人にそこら辺の心配を伝えると、寮には『寮長』と『寮の主』が居るらしいからその人らを頼れば良いと言われた。どういうことだろう。

 

「あっ、おかえりなさい、あかりちゃん!」

 寮に入ると、エプロン姿の女性に笑顔で迎えられた。

「ただいまです響子さん!えっと、この子が今日泊まってもらう……」

「大丈夫、凛ちゃんから話は聞いています。あなたが砂塚あきらちゃんね、私は寮長代理の五十嵐響子です」

 そう言って五十嵐響子さんは恭しく一礼した。

「寮長代理、って?」

「ええと、私もこの寮に住んでるアイドルなんですけど、昔から寮長さんやスタッフのお手伝いをしていて。そしたらいつの間にか寮長代理って役職をもらっちゃったんです」

 響子さんは恥ずかしそうにはにかんだ。確かに優しそうな佇まいにエプロンがよく似合っていて、どう見ても雰囲気は寮長というよりお母さんという感じなのだが、この人もアイドルなのか。

「部屋は充分に空いてるからどこを使ってもらっても良いんだけど、せっかくだからあかりちゃんの隣の部屋にしましょうか」

「えっ」

「ああ、それで良いデスよ。知り合いが近くに居ると安心だし」

「ええっ!?」

「分かりました。じゃあ、あかりちゃん、あきらちゃんに分からないことがあったら教えてあげてね」

「はっ、はい!任せてください!なんでも聞いてね、あきらちゃん!」

 任せられたあかりはなんだか嬉しそうだ。ちとせさんにも同じようなことを言われた気がするが、お世話になるのは一泊だけだから頼ることはおそらく無いだろう。まあ、もしものことがあったら頼ることにしよう。

 

 とりあえず、響子さんに寮の設備を一通り案内してもらうことになった。玄関からすでに綺麗な内装だったが、廊下もロビーも、もちろん今日自分が泊まる部屋も高級ホテルかと見紛うほどの設備だ。ここにあかり達も含めたアイドル達が住んで毎日生活しているのだから、流石は超一流企業だと思わざるを得ない。

「こっちが食堂だから、夕食や朝食の時はここに来てね」

 そう言って響子さんが食堂のドアを開けると、

 

「にゃっはっはー!待っていたにゃ新人チャン!」

「ようこそ346女子寮へ!」

「みくにゃんに目を付けられてしまうとはなんと不幸な。いや、幸運か?」

 

 食堂の中央に、何故か猫耳を付けた女性が仁王立ちしており、その両端に顔立ちの似た銀髪の少女2人がこれまた奇妙なポーズを取っていた。

「凛ちゃんから話は聞いたにゃあ!新人アイドルとなれば、この前川みくがきっちりしっかり面倒見てやるのにゃ。覚悟しろぉ!」

「いや、自分はアイドルじゃないデス。ただの番組のゲストで来ただけで」

「にゃにぃ!?」

 前川みくと名乗った猫耳の女性は、オーバーリアクション気味に仰け反った。

「もう、みくちゃんったら!凛ちゃんはそんなこと言ってないですよ。ただお客様が泊まるから面倒見てくれって頼まれただけじゃないですか」

「ぐぬぬ、そんにゃぁ……!」

「ええっ!新人さんじゃないの!?」

 響子さんの訂正を受けて、悔しそうに崩れ落ちる猫耳の女性。片割れの少女のうち、元気そうな子もショックなリアクションをしている。その反対側でおとなしそうな方の子がやれやれという風に手を広げている。なんなんだ一体。

「あの、この人達は……?」

「ああ、紹介するね。この人は前川みくちゃん。寮に住んでいるアイドルの中でも長く住んでいて、いろいろと詳しいから何かあったら相談してね」

「こほん。改めて、みくの名前は前川みく!よろしくにゃ、あきらちゃん」

「はぁ、よろしくデス……」

 なるほど、ではこの人が『寮の主』というわけか。猫耳付けてオーバーリアクションしている様子は、アイドルというよりも芸人のように見えるが。

「で、こっちの2人は久川颯ちゃんと久川凪ちゃん。見ての通り双子さんで、最近寮に入ったばかりの新人アイドルだよ」

「はじめまして!妹の久川颯です!」

「どうも、久川姉妹のはーちゃんじゃない方で姉の方、久川凪です」

 なるほど、似てるとは思っていたがやはり双子なのか。それでも性格はさっぱり似てない辺りがちょっと面白い。というか凪ちゃんの方が姉なのか。

「あれ、寮住まいってことは、2人とも地方出身?」

「そうだよ~。はるばる徳島から東京に来てアイドルになったんだ。ねぇ、なー?」

「そうですね、ゆーこちゃんたちと暮らした故郷も、もう懐かしいものです」

 マジか。こんな自分よりも年下、ぱっと見中学生ぐらいだろう姉妹も、親元を遠く離れてアイドルになったのか。一体アイドルのどこにそこまでさせるものがあるのだろう。

 ……いや、この2人になら訊けるかもしれない。

「2人はどうしてアイドルになろうと思ったんデス?」

「え?どうしてって、そりゃあアイドルは女の子皆の憧れだもん」

 颯ちゃんはほぼ間髪入れずにそう答えた。

「ちっちゃい頃からTVで見たアイドルで見てたアイドルは皆キラキラしてて!はーもあんな風にキラキラしたいって思ったからオーディション受けたの!」

 嬉しそうに楽しそうにアイドルのことを話す颯ちゃん。言葉自体はとてもシンプルで抽象的で、アイドルをよく知らない自分にはそれほど共感は出来ていない。でも、その笑顔は、今日出会った誰よりも一番輝いて見えた。

 こういう笑顔を持っている子がアイドルになれるのか、それともアイドルというものがこの子を笑顔にしているのか。

「ちなみに、凪ははーちゃんが心配でついて行ったら、会社の廊下でスカウトされてしまいました。人によっては声かけ事案ですね」

 それはそれとして、ここのスカウト基準が節操ないのは確からしい。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 アイドル寮に一泊した翌日。

 予定通り本番の撮影を迎えたが、どうにも調子が悪かった。

 多くのスタッフと高い機材、そして本物のアイドルに囲まれての撮影に緊張したのか。それとも昨日出会ったアイドル達の言葉が、どうしても気になってしまうからなのか。

 理由は自分でもよく分からないが、特に難しくない場所で普段はしないミスを繰り返した。とは言ってもほとんどは小さなミスなので、自分自身でリカバリーできたり、杏さんが上手くサポートしてくれて大きな障害にはならなかった。

 だが、最後の最後、一番大事な山場でダウンを取られてしまった。ここまでノーミスでやってきたが、流石にこの状況ではゲームオーバーは免れないだろうと思っていたが、

「あ、あ!やった!無我夢中で撃ってただけなのに!やりましたよ!!」

 突然割り込んだあかりのキャラが敵を制圧し、そのおかげで自分も復活することが出来てステージをクリアすることが出来た。

 

「ふぅ……」

 撮影が終わって、借りていた衣装も返して、もう後は帰っても良いのだがなんとなくそうはせずスタジオ外の休憩スペースでボーッとしていた。

 スタッフの反応は上々。確かに実際の配信でもああいうミスが視聴者にウケることは多い。それは分かっているのだが、どうにも悔いが残る。

 #せっかくの大きな舞台 #もっと上手くやれた

 そんな気持ちがぐるぐる回る。

「砂塚さん」

「!」

 不意に名前を呼ばれて驚いて振り向くと、そこにはキョトンとした顔のあかりが居た。

「どうしたの?なんだか真剣な顔してたけど、なにかあった?」

「……別に。なんでもないデスよ」

「何か困ったことがあったら言ってね、力になってあげるから」

「ふふっ」

「うぇっ!?私、何かおかしなこと言った?」

 急に自分が笑い出したので、あかりは戸惑ってさらにオロオロし始める。

「いや、そうじゃないよ。ただ、東京に来てからその言葉めっちゃ言われるなって思って」

 ちとせさんにも言われたし、響子さんやみくさんにも言われた。何か困ったことがあったら遠慮無く頼ってくれ、と。

 東京の人はもっとドライなイメージがあったから、これっきりしか会わないような見ず知らずの人間にそんなことを言われるのは意外だった。しかも、きっと彼女たちは本気で自分の力になろうと声を掛けてくれているのだ。

 でも、よくよく考えてみたら響子さんやみくさんは寮住まいだから東京の人じゃないし、あかりも勿論彼女たちと同じだ。ということは、

「やっぱりアイドルってのは、いい人が多いのかな」

「……そうかも」

 自分につられてあかりも笑う。

 少し気持ちが落ち着いた。

「もし良かったら、名字じゃなくて名前で呼んでもらって良いよ。渋谷さんとかはともかく、同い年の子に堅苦しく呼ばれるのもアレなんで」

 そう言うと、あかりはパァッと顔を輝かせた。

「うん!じゃあ、あきらちゃんって呼んで良い?」

「うん、それで構わないよ」

「じゃあじゃあ!私のことはあかりんごって呼んで良いから!」

「い、いや、それは流石に恥ずかしいんで、あかりって呼び捨てにしても良い?」

「もちろん!呼び捨てでも全然大丈夫だよ、あきらちゃん!」

「ありがとう、あかり」

 今までもネットを通じていろんな人と交流してきたけど、まさか東京に来てから名前で呼び合うような友達が出来るとは思わなかった。

 でも、今ならば、今まで訊けなかったことも訊ける気がした。

「ねえ、あかりはどうしてアイドルになったの?」

「ええっとねえ……、親の手伝いで東京に来てたら、プロデューサーさんに声を掛けられてスカウトされたの」

「あかりもスカウトだったんだ」

「そうそう。うちの実家がリンゴ農家やっててね。で、物産展に出展するのに連れて行かれて、リンゴの着ぐるみを着せられたんだぁ」

「リンゴの着ぐるみ……?」

「そう!あれが暑いし動きにくいで散々だったんだけどね。来なきゃ良かったなって思ってたら心さんに会って、アイドルにならないかって言われたんだよ」

「なんだかよく分からない経緯だね」

 というか、あかりをスカウトしたのは佐藤Pの方だったのか。

「本当に私もよく分からないうちにアイドルになっちゃったんだけど、でも東京に来てから毎日楽しいしプロデューサーさんも他のアイドルの皆も良い人ばかりで、とても充実してると思うよ」

 あかりはそう話しながら楽しげに笑う。その表情は昨日見た颯ちゃんの笑顔と重なった。

「実は、自分もアイドルにスカウトされたことがあるんだ」

「へぇー、そうなんだぁ」

「しかもそのスカウトしてきたのが、あの渋谷凛さんでさ。その時は断っちゃったんだ。まさかこうしてもう一度会うなんて思ってなかったけど」

「へ、へぇー、そうなんだぁ……」

 やっぱりあかりも知ってたっぽいな。まあ、そこについてはもう良い。

「今でもよく分からないんデス。なんで自分が声をかけられたのか。自分はアイドルの事なんて全然分からないし、配信したりファンション好きだったりするけど、ステージに立って歌ったり踊ったり?とか出来るかどうかなんて分からないし」

 あかりは自分の言葉を静かに聞いてくれている。それが少し心地よかった。

「アイドルっていうものが嫌いなわけでも興味が無いわけでもないんデス。ただ、今まで一度も考えたこと無かったし、なりたいと思ったことも無いから、よく分かんないし自分がアイドルに向いているとも思えない。なのに、あの人はどうしても自分をアイドルにしたいみたいだから、なんで自分にそこまでするのかが分からないんデス」

 軽い気持ちでいけるような世界では無いと思うし、自分よりももっと向いている人はいっぱい居ると思うのだ。それこそ昨日出会った人たちのような。

「うぅ~ん……、でも私はあきらちゃんはアイドルに向いてると思うけどなぁ」

「そう、かな……?」

「うん!それに、あきらちゃんは凛さんに直接スカウトされたんでしょ?なら、きっと大丈夫だよ」

「そういうものなの?」

「そう、凛さんは信じたものに嘘を絶対につかない人だから」

 信じたものに絶対に嘘をつかない、か。それが本当かどうか分からないけど、あかりもきっとこういう時に嘘をつかないだろう。

 

なら、それに賭けてみても良いだろう。

 

「……よし。自分は少しここに残るから、あかりは先に戻ってて良いよ」

「ん?どうして?」

「少しプロデューサーと話したいことがあって。すぐに荷物まとめに寮に戻るから」

「……うん、分かった。じゃあ、また後でね、あきらちゃん!」

「うん、また後で」

 手を振りながら、あかりはパタパタと帰って行った。そして、休憩スペースには自分だけが残った。

 あの人に直接訊いてみよう。私を選んだ理由を。

 アイドルになるかどうかは分からないけど、せめて東京から帰る前に悔いだけは残さないように。

 

 しばらく待っていると、スタジオから渋谷凛が出てきた。

 相変わらず綺麗な人だと思う。スラリとしたスタイル、長く美しい黒髪、鋭く意志の強い瞳、そこにビジネススーツがピッチリはまっている。始めた会った時は少し性格キツそうな印象も受けたが、改めて見るとそこも含めていかにもクールなビジネスマンという雰囲気を漂わせている。

 自分から見れば綺麗な大人の女性だが、記憶の隅に残るアイドルの頃の姿ともまだあまり変わらない気もして、むしろなぜ今アイドルをしていないのかが不思議なくらいだ。

「砂塚さん?まだ帰ってなかったの?」

「いえ、あの、ちょっと話したいことがあって……」

「話したいこと?私に?」

 自分が小さく頷くと、渋谷さんは優しそうに微笑んだ。

「じゃあ、ちょっとそこに座って話そうか。何か飲み物要る?」

「いえ、自分は何でも良いんでお構いなく」

「分かった」

 自分がベンチに座ると、渋谷さんはすぐそばに自販機で飲み物を買って自分に手渡した。それを受け取ったものの、話しかける言葉がすぐには出てこなくて、ジッと手の中のカップを見つめていた。そうして黙っているうちに渋谷さんの方が先に口を開いた。

「今日の撮影はどうだった?」

「……緊張はしました。普段リアルでいっぱいの人と配信撮ること無いんで」

「少し調子が悪いように見えたのは、やっぱり緊張のせい?」

 やっぱりちゃんと気づいてたんだ。

「分かりますか」

「少しだけどね。私はゲームには詳しくないけど、昨日と比べてちょっと砂塚さんらしくないかなって思ったから」

「らしくない、デスか……」

「もし、何か問題があったら遠慮無く言って?力になってあげるから」

「昨日も言いましたけど、自分は此処のアイドルでもなんでもありません。それでも良いんですか」

 そこで自分は、渋谷さんと目をまっすぐ合わせた。

 すると、渋谷さんもまっすぐこちらと目を合わせて、笑顔を返してくれた。

「勿論。プロデューサーだとかアイドルなんて関係なく、隣の人が何か悩んでいたら手を差し伸べるべきだと、私は思うよ」

 嘘は無いと思った。あかりや昨日出会ったアイドルのみんなと同じだ。

 だから、信じようと思った。

「……分かりました。なら、一つ訊きたいんですが……」

 一瞬目を逸らした後、覚悟を決めて相手の目を再び見て、そして言った。

 

「どうしてプロデューサーさんは、自分をアイドルにしたいと思ったんですか?」

 

 その問いかけに、渋谷さんは真顔になって、少し考え込むように上を見上げ、再び自分と目を合わせた。

「一言で言うなら、……笑顔、かな」

 

「は?」

 思わずそんなリアクションが出てしまった。

 笑顔。確かに東京に来ていろんなアイドル達の笑顔を見てきたが、自分がそんな笑顔をした覚えは無いし、もちろん渋谷さんに見せた覚えも無い。何のことを言っているんだ。

 よほど当惑が顔に出ていたのか、渋谷さんも苦笑いになる。

「ごめんごめん、急にそんなこと言われても分からないよね。えっと、私はあなたがアイドルになって笑顔が見たいと思ったの。最初にあった時にね」

 最初にあった時と言えば新潟で会った時か。そんな時に自分の笑顔を見たいと思った?

「どういうことですか?」

「少し長くなるんだけどね」

 そう言って、渋谷さんは少し姿勢を整えて再び話し出す。

「昔、私が会ったアイドルの話なんだけど。その子はどこにでも居る普通の女の子で、ごくごく一般的な家庭で暮らして、みんなと同じように学校に通っていた。彼女はそれで十分に幸せだと思って日々を過ごしていた。そんな時に突然アイドルにスカウトされたの」

 渋谷さんが話す女の子を、自分はなんだか知っているような気がしたが、何も言わずに静かに彼女の話す言葉を聞いていた。

「彼女はアイドルなんてまるで知らなかったし、アイドルになる気もまるで無かった。それでも彼女をスカウトしたプロデューサーは諦めずに声をかけ続けた。その姿を見て女の子も、流石に少し話を聞いてみようと思った。それでも女の子にはアイドルになる意思なんて微塵も無かったけど、そんな彼女にプロデューサーは言ったの。

『貴方は、今楽しいですか』って」

「今、楽しいか……?」

「そう。可笑しいよね、アイドルにしようとしていきなりそんなこと言い出して、怪しい宗教の勧誘みたい。でも、女の子は今までそんな事を考えたこと無かった。そして気づいたの、自分の世界に何かが足りなかったことに。正体の分からない不足の存在を初めて意識した」

「…………」

「自分に足りない何かの正体を求めて、初めて見たアイドルという輝きに近づくために、自分に見えなかった道を示してくれた人を信じてみようと思って、その子はアイドルになることを決めたの」

「……それが自分にどう繋がるんデスか」

「初めて会った時、私は砂塚さんがその子に似てると思った」

「似てる?」

「今に満足していない。心の奥に何かが燻っている。でも、どこかで諦めてる」

 

満足していない。

 燻っている。

 諦めてる。

 実家の自分の部屋。ゲーム機とモニターとPC。窓から見えるいつも通りの見飽きた景色。それが、一瞬で脳裏を通り過ぎた。

 体が、小さく震えた。

 

「だから見せたいと思った。輝く景色を、見たことが無い光を。そして、見たいと思った。その光の中で貴方が輝く姿を、そこに至った時の笑顔を」

「それを、本当に見せてくれるんデスか」

「約束する。私は貴方にその景色まで連れて行く。そして、貴方はそこへ行けるアイドルになれる。私が保証する」

 何かを言おうとしたが、口からは何の言葉も出てこなかった。

 彼女の言葉が、こちらを真っ直ぐ見る瞳が、一切嘘をついていないと思えたから。

 そう、信じたいと思えたから。

 

「……そこに行きたいデス。貴方の言う輝く景色に」

   

 喉を振り絞って、ようやくその言葉を吐き出した。視線の向こうで、渋谷さんが目を見開いた。

「それって」

「アイドルになります。いつまで続くかは分からないけど、いいデスか?」

「……うん、それで全然構わないよ」

 優しそうに微笑む渋谷さん。それを見たら、自分もなんだか照れくさくなって笑みが零れてきた。

「あ、でも、一応家族に許可取ってからデスね。東京に住むことになりそうデスし」

「そうだね。その時は私も一緒に親御さんへ説明するよ」

 といっても、うちの親はそんなに反対しないだろう。いや、流石にいきなり娘が1人で

東京に出るのだから、流石に心配するかな。兄ぃにも報告しなきゃ。アイドルになりたいだなんて言ったら、一体どんな顔するだろうか。

 でもその前に、報告するのはきっと寮で待ってるあの子の方が先だろう。

「あの、最後にもう一つだけ良いデスか?」

「ん?なに?」

「話に出てきたアイドルの女の子は、今どうしてるんデスか?」

「……その子は、もうアイドルじゃないんだ」

 その時渋谷さんは、気恥ずかしそうな、寂しそうな、そんな表情で視線を逸らした。

「彼女は新しい夢を見つけたんだ。アイドルになったおかげで見つけた夢を追って、外へと飛び出していった。それからどうなったかは、私も分からない。でも」

 再びこちらと目を合わせた時、渋谷さんはすでにあの微笑みに戻っていた

「でも、あの子は後悔してないと思うよ。きっとね」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 砂塚あきらをゲストに迎えての番組収録から、また少し時間が経った。

 あの時話した通り、私はあきらと一緒に再び新潟へ赴き、あきらがアイドルになる意志を伝える場に同席した。あきらの両親と兄は、彼女が上京して一人暮らしすることには少し不安を感じていたが、それでもあきら自身が自分で決めた事ならば止めはしないを言ってくれた。

 これで無事にあきらがアイドルになることができたのである。

 そのあきらは、新潟の実家から東京のアイドル女子寮への引っ越しを数日前に済ませ、東京での生活に体を慣らしつつある。

 

「そういや、杏ちゃんはうちのプロジェクトから外れることになったってよ」

 心さんがコーヒー片手に私のデスクに近寄り声をかけてきた。

「え、そうなんですか?」

「そうそう。なんでも『もう充分に新人が集まったみたいだし、新しい子ばっかに囲まれて仕事するのヤだから杏はここら辺で外れるね~』って言って、自分で転属願いを出したらしいゾ」

「杏らしいと言えばらしいなぁ……」

「そうなの?」

「杏は昔からこんな感じですよ」

 いかにも適当な言い訳をしてるように見えるが、きっと彼女としてはこれまで弱小事務所の手助けを陰ながらしてくれていたのだろう。

「杏は今後どうするんです?」

「しばらくはプロデューサーも付けずにセルフプロデュースで活動するってよ。ただ、うちの部署周りの仕事に変わりは無いから、また会うこともあるだろなあ」

「そうですね。その時がまた楽しみです」

「だな☆ で、それが例の企画書っつーか申請書?」

 心さんが私のデスクの上に置かれた書類の束を見て言う。

「そうですね。ようやく充分な規模になってきましたから」

「前よりは全然少ないけどな。でも、まあ半人前プロデューサー2人にはちょうど良いだろ」

「心さんは充分に一人前だと思いますよ」

「う~ん、ありがと凛ちゃん☆ ま、はぁとも流石に気合い入れていかないとな。生半可な話じゃないからさ」

 そう言って紙コップのコーヒーを飲み干した心さんを見ながら、私は数日前のことを思い出していた。

 

 

 数日前、私はとある重役室に居た。

『これで新プロジェクトを発足しようと思うのですが、どうでしょうか?』

 私の持ち込んだ申請書を読み終わった相手が顔を上げる。

『人数こそ少ないですが、なかなか個性的なメンバーが揃っていると思います。プロデュースは大変でしょうが、佐藤さんとの共同プロデュースと言うことならばその問題も無いでしょう』

『……!それでは』

『ええ、プロジェクトの申請を認可しましょう』

 私は内心でガッツポーズを作った。

『ありがとうございます、部長』

『これは確か渋谷さんにとっては、初めて大きなプロデュースになるのでしたよね』

『はい』

 重役椅子に座った相手は、姿勢を正して真っ直ぐに私の目を見据えた。

『多人数のプロデュースを必要とするプロジェクトは、決して簡単な仕事ではありません』

『はい、分かっています』

『しかし、渋谷さんのこれまでの経験と手腕ならば、きっと彼女たちを輝かせる事が出来ると信じています』

『……はい!』

『私は同じプロデューサーとして、貴方たちを応援していますよ。頑張ってください』

 そう言って、アイドル事業部部長――私の元担当プロデューサーは、熊のように厳つい顔で柔らかく微笑んだ。

 

 

「お、そろそろ集まったか?」

 いつの間にやら部屋の外が騒がしくなってきていた。どうやら所属アイドル達が事務所に集まり始めたらしい。

 そう思った次の瞬間に、プロデューサー室のドアが開かれた。

 

「おはようございます、プロデューサーさん!全員集合しましたんご!」

 元気よく声を上げたリンゴのように純朴な少女は、辻野あかり。

 

「どうもデス。おはようございます」

 それに続けて入室した澄ました顔にマスクを付けた少女は、砂塚あきら。

 

「イエーイ!Pちゃん、おはよー!」

「おっと、はーちゃんのテンションが高い。これは凪もテンション上げざるを得ないな」

 続いて並んで入ってきた同じ顔だが対照的な2人の少女は、久川颯と久川凪。

 

「お嬢様、足下にお気を付けください」

「ありがと、千夜ちゃん」

 その後に優雅な足取りで入ってきた少女と、それに付き従うように後ろに寄り添って入室した少女は、黒崎ちとせと白雪千夜。

 

「うわホントに凛ちゃんとはぁとちゃん居るじゃん。他の皆も顔めっちゃ良いし、ぼくここに居るの場違いすぎない?吐きそ。やむ」

 そして、一番最後に何かをブツブツ呟きながらオロオロした様子で入ってきたピンク髪の女性が、夢見りあむ。

 

 これが、私たちの名も無きプロジェクトの、総勢7名のアイドル達だ。

 いや、正確には、もう名も無きプロジェクトではない。

「よし、全員揃ったな。じゃあ、今日から正式に新プロジェクト発足って事で、改めて挨拶すっか」

 集まったアイドル達を見渡して、心さんが声を上げる。

「あたしは佐藤心。今んとこ、久川姉妹のmiroirと、ちとちよのVelvetRoseを担当してるプロデューサーで、一応ここの統括責任者になるからよろしくな~。んじゃ、あと凛ちゃんが締めも頼むわ☆」

 挨拶だけして後丸投げかよ。まあ、良いけど……。

「渋谷凛です。一応、今はあかりとあきらとりあむの3人を担当しています。えっと……」

「無理して敬語しなくて良いゾ☆」

「自分もぶっちゃけ似合わないと思うので、どうぞ」

 心さんとあきらから同時にツッコミを入れられて、少し息を吐く。確かに肩に力が入りすぎていたかもしれない。

「まだプロデューサーに成り立てだから至らないところもあるかもしれないけど、それでも皆を導けるように頑張ろうと思う」

 そこでまた一息入れて、私を見つめるアイドル達に1人ずつ目をやる。

「個人的な話で申し訳ないけど、このプロジェクトの名前は私にとってとても特別な名前なんだ。もしかしたらここに居る皆の中にも知ってる人が居るかもしれない。それはとても重圧ではあるんだけど、それでもこの名前にふさわしい場所に必ず皆をつれていくと約束する。私も皆を信じるから、皆も私を信じてほしい」

 真っ直ぐ注がれる皆の視線。その嘘のない眼差しに答えようと、そう思った。

 少しアイドルの頃を思い出しながら、私は全力の笑顔で皆を見据え、そして言った。

 

 

「じゃあ改めて、ようこそ『新・シンデレラプロジェクト』へ」

 

 

 

 

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