「お疲れ、あかりチャン」
その声に顔を上げると、すぐ横にあきらちゃんが立っていた。
ライブが無事終了して間もない控え室。私もあきらちゃんもまだステージ衣装のまま、部屋の中にはライブの余韻というか、充実感や達成感みたいな空気が残っていた。
「あっ、あきらちゃん。お疲れ様ぁ」
「うん。なんか、さっきからスマホ見ながらウンウン唸ってるけど、どうかした?」
「えっ、私、そんな感じだった?」
頷くあきらちゃん。
「もしかして今日のライブのこと? 何か悩んでるんだったら相談乗るよ」
「えーっと……そんなに深刻なわけじゃないんだけど。これ、どうしたら良いかなって、ちょっと分からなくて」
そう言って私は、スマホの画面を切り替えてあきらちゃんに見せた。
「ん……ああ、SNSのこと?」
私は頷く。
画面には、共演したアイドルによる今日のライブの感想などの投稿がたくさん映されている。
「今日のライブはSNSでの発信にも力を入れていくってプロデューサーさんも言ってたし、私も何か書きたいなって思ってるんだけど、普段こういうのってあまりやらないから、何書けば良いのか分からなくて……」
「なるほど……」
「あきらちゃんならどんな事書く?」
「自分なら、ね……確かにSNSはよく使うけど、ライブのことってなると、うーん……」
あきらちゃんが首を捻っている。いつもオシャレにネットを使いこなしているあきらちゃんでも苦手なこともあるんだなぁ、などと思いながら私はその姿を見ていたのだけど――
「そういう時は、アイドル同士の記念写真を載せると良いよ!」
突然、テンション高めの声が割り込んだ。
「……りあむサン、居たんデスか」
「ちょっとあきらちゃん塩すぎない!? ぼくら、さっきまで一緒にステージ立ってたじゃん?」
「ライブ終わってすぐにそれだけ声出せることに引いてるんデスよ」
「うわぁん! やむぅ!!」
「で、りあむさん、記念写真ってどういうことですか」
眉根を寄せるあきらちゃんと、大袈裟に落ち込むりあむさんのいつものやりとりを見ながら、私はその流れを無視してりあむさんに訊いた。
「あ、そうそう。ライブ終わった後はさ、共演したアイドルたちとの記念写真をよく載せるんだよ。ほら、皆いっぱい投稿してるじゃん?」
そう言われてタイムラインを遡ると、確かに他のアイドルたちも共演者たちと一緒に撮った記念写真を投稿してる。その中には私が映ってるものもある。リハーサルの合間や終演後に色々一緒に撮ったのはそういう意味があったんだ。
「ライブ終わった後に仲良く『お疲れさまでした~!』とか書いてアイドル同士で写真撮ってるのとか載せると、アイドル達の関係性を感じてオタクにとってはめっちゃ嬉しい! 需要、アリアリのアリだから!」
「まあ、珍しくりあむサンの言うことにも一理ありますね。どう? あかりチャン、そういう写真撮ってる?」
「えっと……何枚か撮ってるかな。でも、あまり気にして撮ってなかったからそんなに数が有るわけじゃないかも」
「じゃあ、今ある写真は全部投稿して、自分たちで新しいのも撮っておこうか」
「え、今から?」
「そう、今。ほら、せっかくだからりあむサンも入ってください」
「うぇっ!? ボクも入るの!? そんなそんなそんな『あきあかの間に挟まるピンク頭この野郎』とかってあかりんごが炎上しちゃうじゃん!」
「あかりチャンのアカウントは治安良いから大丈夫デスよ。りあむサンのアカウントの方は知りませんけど。じゃ、あかりチャン、カメラアプリ開いて」
「えっ、もしかして私が撮るの? こういうのはあきらちゃんの方が上手じゃ……」
「あかりチャンのアカウント用なんだから、あかりチャン主体で撮らないと意味ないでしょ。大丈夫、そんなに難しくないよ」
「そうかなぁ……うう、緊張するんごぉ」
そうして私は、あきらちゃんの指示を聞きながら自撮り機能を使って何枚か写真を撮った。三人で顔を寄せ合って撮った写真(りあむさんはちょっと引き攣った顔をしてたけど)は、私が今まで撮った写真の中でもなかなか良い出来には思えた。
「うん、良いね。これで『今日のライブ楽しかった』って入れて投稿すればバッチリだね。あと、撮りながら自分もちょっと思いついたんだけど、今日の衣装も撮ってみない?」
「衣装って、これ?」
聞き返しながら、私は着たままの衣装の裾をチョイっと引っ張った。
「そうそう。やっぱ今日限りの衣装シェアしないの勿体ないし、こういうので自分らしさ出してこそootdじゃない?」
「な、なるほどぉ……」
「じゃあじゃあっ! あかりちゃんならこれ写せばいいんじゃない?」
そう言ってりあむさんが指さしたのは衣装のスカートに付いてるりんごろうだった。確かにコレも今日の衣装に合わせて新しく美術スタッフさんに調整して貰ったやつだ。ちなみに私は既製品で良いと思っていたけど、せっかくなのでお言葉に甘えさせて貰った。
「良いデスね。あかりチャンらしさが出ると思う。ほらあかりチャン、りんごろうサン目立たせてポーズを」
「こ、こう?」
私はりんごろうを引っ張って見せる。それをあきらちゃんが寄って引いて2~3枚写真を撮った。
「流石に自分の衣装は自分で撮れないからね。ほら、どう? あかりちゃん」
「おお、スゴく綺麗に撮れてるんご!」
「伊達に自撮り慣れてないってかぁ? よっ、流石は時代のインフルエンサー!」
「……そういう煽り辞めてください。頭悪く聞こえますよ」
悪態はつきながらもちょっと目は逸らし気味なので、どうやらあきらちゃんも満更では無さそうで、私はクスッと笑ってしまった。
「えっと、じゃあこれも投稿してっと……『あかりんごの今日の一着withりんごろうさん』……こんな感じかな。それで、後は何かあるかなぁ……」
他に投稿できそうな写真が無いか探してみたけど、もう大体の写真は上げたような気はする。
「おっ? あかりちゃん、さっきの写真ちょっと見せて! あ、もうチョイ上上」
横からあきらちゃんと一緒に覗き込んでいたりあむさんに言われて、カメラロールを遡っていく。
「ストップストップ! コレコレ! この写真!」
「えっ、あー……この写真は」
「ん、これって……」
りあむさんが指さした写真。それはリハーサルの合間に撮った写真で、あきらちゃんとりあむさんの二人を私が撮ったものだけど……
「なんで後ろ姿……?」
「ね、気になるでしょ。まさかあかりちゃんに隠し撮り趣味があったとは」
「イヤイヤイヤ違うんご! これは別にそういう訳じゃなくて……」
そう、写真に写っているのはあきらちゃんとりあむさんの背中。しかも二人は気付いていないから、確かに隠し撮りと言えば隠し撮りかもしれない。実際、私にはこっそり撮ろうとかそういう意図があったわけじゃないけど、いざ二人に見られるとどうしても恥ずかしい。それでも見られてしまったのはしょうがないから、私は目を伏せながら説明する。
「……昨日のライブでも、私たちの曲が始まる時に二人が先にステージへ出てくれたじゃないですか。その時の背中を見てて、私とてもホッとしたっていうか、なんだか勇気を貰ったような気がして。で、その時の事を今日のリハーサルでも思い出して、二人の隣に立てて良かったなぁとか、そんなことを考えてたら自然と写真撮っちゃって……えっとぉ……」
恐る恐る二人の顔を見ると、あきらちゃんは目を逸らしながら顔を赤くしてるし、りあむさんは気持ち悪いくらい満面の笑みで私を見ていた。
「うおぉぉあかりんごー! 尊いっ! エモいっ! 可愛い生き物すぎるよう!!」
「あわわ……りあむさん離してくださいぃぃ。も~だから言いたくなかったのに~」
抱きついてくるりあむさんを剥がしながら、私は自分の言葉を激しく後悔していた。その光景を見ながら、あきらちゃんが苦笑いで口を開く。
「あー……うん、その、ありがとう。っていうかさ、そういうのも投稿してみたら良いんじゃない?」
「えー、これを?」
「もちろん無理にとは言わないよ。でも、そうやってあかりチャンが今回のライブで思ったり感じたりしたことって、それこそあかりチャンらしさだと思うからさ」
「私、らしさ……」
「確かに! そういうの共有してアピールするのもぼくらっぽいよね」
二人の言葉を聞きながら、私はもう一度自分が撮った写真を見返した。
私は本当に何気なく撮ったつもりだけど、確かにこれも私らしさで、私の思い出で、もしかしたら私たちの『楽しい』なのかな。
そんなことを考えて、自然と笑みが浮かぶのが分かった。
「よし! これも投稿する! で、でも、コメントを何て書くかはちょっと迷うかも……」
「うん、それで良いよ。SNSの言葉選びはじっくり考えれば良いと思うよ。あんまり考えないまま投稿するとりあむサンみたいになるし」
「おい! さりげなくぼくディスられてない!?」
「うん! 分かったんご!」
「あかりちゃんも納得しないで!?」
りあむさんのツッコミが勢いよく入ったところで、あきらちゃんのスマホから着信音が鳴った。
「あ、Pサンからだ」
「え、もしかしてもうすぐ集合!? ぼくらまだ着替え終わってないけど?」
「いや、まだ時間はあるみたいだけど、このあとライブ直後の取材があるっていう念押しの確認が来てますね。少し急いだ方が良いかも」
「……あれ、そんな予定あったっけ?」
「最初に言われてましたよ」
「じゃあ、早めに着替えちゃおうか。プロデューサーさんを待たせても悪いし」
そう言いながら、三人とも着替えや片付けに移っていく。
作業を進めながら、私はあの写真と一緒に書くコメントのことをずっと考えていた。
どうすれば私の気持ちを皆に伝えられるかなと、少しワクワクしながら。