部屋の中で、女が目を覚ました。
「うう~ん……うぁ? どこ、ここ……」
何処に居ても目立つショッキングピンクの頭をゆるゆると振って、彼女は辺りを見渡す。床に散らばっているのは浮き輪や椰子の木のバルーン、パラソルなどビーチグッズばかりだが、どう見てもこの場所はビーチでもプールでもない。
周りを囲む太い鉄格子、その周囲を更に囲むように配置されたテレビカメラ。リゾートとは違った意味で非日常的な光景だった。
「あれ、確かぼく、プールでバカンスのお仕事って言われて、あかりちゃんとあきらちゃんと一緒に水着買いに行って、そんでホテルで買った水着着てそのまま爆睡したとこまで覚えてるんだけど……」
ここまでの自分の行動を振り返りながら、下からペタペタと自分の服装を確認していくピンク髪の女。完全に遊ぶ目的用の水着と浮き輪を装着しているのを確認して、上半身まで上がっていった手が――ようやく首の違和感に触れた。
「え、何コレ? なんか首についてるが……!?」
それはかなり頑丈に作られた首輪だった。金属を用いて作られているので自力では到底外せないだろうその首輪には、女の目線からは見えないが爆弾のマークも印字されていた。
首輪の存在を確認した女は、ハッとして再び周囲を見渡す。取り囲む鉄格子、自分を映し続ける大量のカメラ、そして後ろを振り向くと――
『目が覚めたようだなぁ、夢見りあむ。さあ、ゲームを始めよう』
大きなモニターに映った白仮面の人物が、明らかにボイスチェンジャーを使った怪しい声色で高らかに宣言していた。
それらを見た女――夢見りあむは、機械仕掛けのようにぎこちない動きで正面に視線を戻すと、呆然と呟いた。
「これ、アレやん。完全にアレやん……デスなゲームですやん……」
◆ ◆ ◆
『完全にアレやん……デスなゲームですやん……』
「ブッ――」
あまりにも迫真の顔で呟くりあむを見て、砂塚あきらは堪えきれず吹き出した。
横を見ると辻野あかりも必死に笑いをこらえてプルプル震えているし、撮影スタッフの面々はもはや遠慮することもなく、スタジオ内は笑いに包まれていた。
「やっぱ、りあむちゃん天才だなー」
「あの完璧なリアクション、芸人でもなかなか出来ないんじゃね」
#ホントそれ
漏れ聞こえてくるスタッフの声に、あきらは内心で大きく頷く。
一方で、監察モニターに映し出された監禁部屋では、りあむの反応も意に介さず(という体で)白仮面が話し続ける。
『どうやらお前はタダでリゾートに行けるなどと浮かれていたようだが、残念だがそれはお前をこのゲームに参加させるための嘘なのだぁ』
白仮面の台詞と共にサイドのモニターに映像が流れ始め、そこには数時間前のリゾートへ行く気満々なりあむのウキウキな笑顔が映し出されており、
『なんじゃこの映像はー! 誰だよコレ撮ってたの!? ご丁寧に「何も知らない夢見りあむ(19)」とか煽り全開のテロップ付けてるし……ていうかまたこの手のドッキリ企画か! 流石のぼくもワンパターン過ぎると思うぞ!!』
『くっくっくっ……どれだけ喚こうと状況は変わらない。お前ももうゲームに参加するより他ないのだぁ』
『うるせーソコの仮面野郎! お前その大袈裟な喋り方、お笑い芸人の○○だろ!? ぼくにあんま偉そうな事言うなら、こないだ地下アイドルの現場ではっちゃけてたの暴露して炎上させてやるからな!』
『もう言ってるじゃねーか! というかりあむちゃんもその場に居たから同じでしょ、って……ゴホン』
傍若無人なりあむのトークに、白仮面(某お笑い芸人)が台本忘れて言い返してしまうプチ放送事故に、スタジオ内にまた笑いが起きる。今度は少々苦笑い交じりだったが。
その間にも白仮面による企画趣旨の説明が続く。
りあむの予想通り、今回の企画はデスゲーム風の脱出ゲームバラエティ特番である。現在の部屋を含めたいくつかのミッションにチャレンジし、出題されるクイズやパズルを解いて制限時間以内に脱出を目指す定番の企画だ。無事に脱出できれば、本来りあむが参加するはずだった豪華リゾートでのバカンスのご褒美が与えられる。
『ちょっと待って、もしぼくがクリアできなかったらどうなんのさ? まさか罰ゲームとか、無いよね……?』
『制限時間以内に脱出できなかった場合は、お前の首に付けた首輪が爆発するのだぁ』
『えっ……』
『というのは冗談だ。脱出失敗した時は強制送還してもらうだけだ』
『げぇぇ! ここまでされて帰されるの地味に嫌すぎる!』
『しかしながらお前一人で挑むのは荷が重いだろう。そのためにお前に助言を与える者たちを呼んでいる』
『へ? 助言?』
ようやく自分たちの出番が来たようなので、あきらとあかりは手にグラスを掲げて、正面で自分たちを捉えるカメラの方を向いた。りあむ側の部屋のモニターに2人の姿が映される。
「りあむさーん。見えてますかー?」
「どうもデス」
『あーっ! あかりちゃんとあきらちゃんじゃん! やっぱ2人もグルだったのかよう……ていうか、ナニその美味しそうなジュース!?』
「これデスか? このリゾートの方が用意してくれた特製ドリンクだそうデスよ」
「私たちのために作ってくれた山形リンゴ100%のノンアルコールカクテルなんですよー。んーっおいしー!」
ドリンクを一口飲んだあかりが満面の笑顔で美味しさを表現する。
『うわーん! 2人が先にバカンス満喫してんじゃん! なんだよこの生殺し!?』
駄々をこねるように地団駄を踏むりあむ。その様子を見て、あきらはまあまあと手で制する。
「自分たちもりあむサンと一緒にさっき現場入りしたばかりなんで、バカンスだとかしてる時間は無いんデスよ。りあむサンがクリアするか時間切れになるかしないと自分たちも遊べないんで、早くクリアしてください」
「私たちもここから色々アドバイスできるみたいなので、頑張って一緒に遊びましょー」
『おお! オッケー分かった! 3人でバカンス出来るようにぼく頑張るよ! ……って、アレ?』
訝しげにりあむは首を傾げた。
『今、ぼくが時間切れになるかしないと遊べないって言ったよね。それってつまり、ぼくがクリア失敗して強制送還されても2人は遊び倒せる……ってことぉ!?』
「なかなか勘が鋭いじゃないデスか」
『うわーん! やむぅ!! くそぅ、こうなったら絶対クリアして2人をギャフンと言わせてやるからなぁ!』
再び地団駄を踏みながらあかりとあきらを指さすりあむに構わず、モニターは無情にも消えた。
「あきらちゃん」
一旦の出番を終えて一息ついたあきらに、あかりが小声で話しかけた。
「ん、ナニ?」
「もしもりあむさんが失敗したら、本当に2人だけで遊んで帰るんです?」
その問いかけに、あきらは不意を突かれたように目を丸くする。そしてすぐにコホンと小さく咳払いをして答えた。
「まあ、Pサンに頼めば少しくらいは3人で遊ぶ時間も作れるんじゃない? それでダメそうだったら別に無理して遊ぶ必要もないでしょ」
「フフッ……そう言うと思ってました」
「……フン」
2人がそんな話をしている間に、りあむの部屋の方ではいよいよ最初のゲームが始まろうとしていた。
『協力者たちはお前が呼べば答えてくれるだろう。さあ、まずはこの檻の謎を解いて脱出してみせよ。ゲームの始まりだぁ!』
白仮面の宣言と共にサイレンの音が鳴り響き、モニターには制限時間のカウントダウンとゲームのヒントとなる文章が表示された。
『んー……なんだ? 《波間に埋もれた禁断の果実を捧げよ》? …………あっ!』
文章を読んで少しの間考え込んだりあむだが、突然ポンと手を叩くと辺りに転がるビーチグッズの中を漁り始め、やがて隙間に転がっていた物を拾い上げた。
『おっ、やっぱそうだ! なんだ簡単じゃーん』
「あっ、アレってリンゴ型のボールですよね。あれが正解って事なんですかね?」
「ま、そういうことだろうね。禁断の果実っていうのは神話で描かれたリンゴのことだし、波間っていうのは床に転がってるビーチグッズのことでしょ」
「なるほど~。グッズの間に埋もれてるリンゴを集めろってことなんですね。流石あきらちゃん、頭良いンゴ!」
「いや、これくらい簡単な問題だし……」
その後に続く「りあむサンも解けたんだし」という言葉をあきらは飲み込んだ。
『ていうかコレ、やけにリアルだな? 本物のリンゴの写真貼り付けて作ってるのか。で、これを何処に置けば良いんだろ……あっもしかしてアレか?』
リンゴボールを持ったりあむの視線の先、モニター近くの壁にこれ見よがしに丸い窪みが空いている。りあむが早速窪みにリンゴボールを入れると、その窪みの下がパカッと開いた。りあむがそこを覗き込むとそこにはタブレットが入っていて、画面にはまた問題が表示されていた。
『えーなになに……《捧げたリンゴの品種を答えよ》? …………はぁーーー???』
うわ、鬼畜問題だ。
なぞなぞ染みた先程の問題から専門知識バリバリの問題への落差に若干引きながら、あきらはチラッと横のあかりを見た。
「あかりチャンはこの問題、答え解るの?」
「もちろん! あれは秋陽って言って、山形のオリジナル品種なんですよ。うちの農場でも扱ってるんで、もう見飽きるくらい見たな~」
流石はリンゴ農家の娘だと嘆息するあきら。そうなるとこの問題はあかりにヘルプを頼むのが自然な問題で、それによって番組的にも盛り上がる場面だろうと予想するのだが、
『フッフッフッ……みんなぼくが分かんないと思ってるだろ~。甘いね! ぼくは今までたくさんのリンゴをあかりちゃんから食べさせて貰ってきたんだ! これくらいよゆーよゆー』
りあむの自信たっぷりな宣言に撮影スタッフの間から小さく歓声が上がる。それに対してあきらはどうしようもなく不安を感じていた。
そして、りあむは勢いよくタブレットに――
『こ・れ・だぁぁぁ!!!』
《フジ》と書き込んだ。
ブッブーと不正解音を鳴る。
『うえぇぇ!? なんでー!』
やっぱりやらかしたか……と、呆れながらあきらは再び横を見る。
「フジは山形で一番栽培されている主力品種なんですけど、それだけ有名だからこそ他の品種とは見分けられると思うんですよね~。リンゴ農家なら一発で分かりますよ」
「……あかりチャン、もしかして怒ってる?」
「え? いやいや全然そんなことないよ~。ただ、私に振ってくれたら品種の解説もできるし、山形リンゴの宣伝も出来るのになーって思っただけで」
頼って貰えなくてやはり少し怒ってるっぽいあかりを見て、あきらは小さくため息をついてモニターに目を戻した。どうせしばらくしたら頼ってくるだろうと思いながら。
りあむはその後もリンゴの品種をひたすら書き込んだが全て不正解。かなり制限時間を消費してしまったことに気付いた後、あきらの予想通りにあかりを頼り、放置されてプンプン怒っているあかりと一悶着あった末に、ようやく正解を教えられて最初の部屋を脱出した。
◆ ◆ ◆
その後もりあむは、時間内にパズルを解かないと動く壁に潰される通路や、調度品の中から写真と違う部分を当てる部屋など、いくつかの部屋でパズルやクイズに挑戦し、その度に苦戦したもののなんとかどれもクリアして、遂に最後の扉の前までたどり着いた。
『うへー……めっちゃ扉豪華なんだけど。今まで通ってきた所もだけど、どこにこんなセット組んでるの?』
実際、巨大リゾート施設の豪華ホテルを借りて作っているので、かなりお金はかかっているらしいが、そんなことをりあむは知る由も無い。
「遂に最終問題かぁ。もう結構時間が無いけど、りあむさん大丈夫でしょうか」
「まあ良いんじゃないの、どうなっても」
「あきらちゃん、さっきの問題で頼って貰えなかったの、まだ怒ってる?」
「……別に、そんなことないし」
この直前にFPSに関するマニアック知識問題が出題されたが、あきらを頼ればすぐに正解できた所をまたしてもりあむは自信満々に自力で答えようとして、結局また時間を消費してしまっていた。
『よくぞここまでたどり着いた、夢見りあむよ』
扉の横に設置されたモニターから白仮面の声が響く。
『フッフーン。これぐらいぼくにとっては楽勝も楽勝! 次はもっと歯応えのあるミッション持って来いっての』
どの口が言うのか、とあかり・あきらを含む全ての関係者が思ったが、その空気がりあむに伝わることはもちろん無く、彼女自身はドヤ顔でモニターをズイッと指さしていた。
『大した自信だが、この扉の試練はこれまでで最大の試練だぁ。これまでの問題とはレベルが違うぞ?』
『そんなこと言ったって、ぼくには頼れる2人の仲間がいるんだから! 何にも怖くないね!』
『クックックッ……そう言うだろうと思い、仲間との通信は切らせてもらった。この試練はお前1人で挑むのだぁ』
『えぇぇ!? そ、そんなぁ……あかりちゃん!? あきらちゃん!? おーーーい!!』
りあむは必死に呼びかけるが、あかりとあきらからの返答は無い。既に2人の前からマイクは撤去されていた。
『だが安心しろ。せめてもの情けで今回の問題はお前の得意分野にしてやった。感謝するがよい』
『うう……全然信用できない……』
『では、問題はこれだぁ!』
白仮面の宣言と共に、突然モニターに謎のリストが表示された。
『これはある日に行われた346プロアイドルによるライブで披露された楽曲のリストだ。これを正しく並び替えて当日のセットリストを完成させよ』
「「えっ――」」
見守っていた2人が思わず息を呑む。確かにアイドルオタクであるりあむの得意分野ではあるが、日付も会場などの情報は記載されておらず、どのライブすら分からないのだ。
「えぇ……こんなの全然分からないんご……」
「……でもヒントはあるはず。ほら、リストの中に自分たちの曲がある」
よく見ると、リストの中程に彼女たち3人の歌唱楽曲であるUNIQU3 VOICES!!!の文字があった。
「あっ本当だ。ということは、これは私たちが出たライブってこと?」
「うん。他の曲を見るに、多分あの曲を初披露したライブじゃないかと思う」
「なるほどぉ……でも、あのライブのセットリスト全部の順番って分かる?」
「…………」
正直言って、あきらにもそこまでの自信は無い。りあむならあるいは、と思わなくもないが、果たして残り少ない制限時間以内に完成させられるのかと言われれば……。
そんな心配を余所に、りあむはモニターに表示された楽曲リストをじっと眺めていた。そして、しばらくの後に解答用タブレットに手を伸ばすと、
『――――』
迷い無い手つきで次々と楽曲を並び替え、数秒後にはセットリストが完成していた。
ピンポーン。機械的な正解音が鳴る。
「えっ」「ウソ……」
圧倒的なハイスピードでの正解。あかりとあきらだけでなくスタジオ中が唖然とする中、りあむは緊張の糸が解けたようにヘナヘナと床に座り込んだ。
『はぁぁ……良かったぁぁぁ』
『一体どうやって……』
白仮面の困惑しきった声に、りあむは座り込んだまま顔を上げて答える。
『へっ? そりゃあ、ぼく、このライブの円盤は死ぬほど見てるもん。セットリストなんて暗記してるって』
でも流石にめちゃくちゃ緊張した~、と大きく息を吐きながらりあむは言う。
『だってあかりちゃんとあきらちゃんにあれだけ大口叩いて怒られて、それでずっと見返してるぼくらのメモリアルなライブのことで間違えたらさ、ぼく、あの2人に合わせる顔が無いよぉ。あぁもぉぉホッッッント良かったぁぁぁ……』
また心の底から安心しきった声を出すりあむを見て、あかりとあきらは2人で顔を見合わせ、
「フフッ」「ヘヘッ」
思わず笑った。
「辻野さん、砂塚さん、そろそろ移動しますんで準備お願いしまーす」
「「はーい」」
スタッフに呼ばれ、テキパキと2人は席を立つ。去り際のモニターにはようやくヨロヨロと立ち上がるりあむの姿が映っていた。
◆ ◆ ◆
『見事だぁ、夢見りあむよ。さあ、その扉を開いて進むがよい』
白仮面の言葉と共に、カチッと扉の鍵が開く音がした。
「えっ、マジ? これでゲームクリア? うおおやったーーーー!!!!」
りあむは即座に扉まで飛んでいき、その勢いのまま一気に開け放した。
「うっひょーーー! バカンスだあああああ…………アレ?」
扉を開けた先は、ネオンの煌びやかな光に照らされる巨大プールリゾート。ではあったのだが、どうにも様子がおかしい。カメラマンやその他スタッフたちが大勢待機していて、その傍には何人かの[[rb:同業者 > アイドル]]の姿もあり、どう見てもご褒美ムードでは無さそうだ。しかもアイドルたちの中には明らかにりあむが知っている顔も居た。
「あっ! りあむちゃん来たー☆」
「りあむちゃんおっつー♪」
「お疲れ。結構時間かかってたみたいだけど大丈夫だった?」
親しげにりあむの方へ近づいてきたのは、大槻唯・藤本里奈・城ヶ崎美嘉の3人だった。3人ともプールリゾートらしく水着姿だったが、何故かその手には大きな水鉄砲が握られていた。
「うおっいきなり眩しいギャルの光がっ! デジャブ!? えっなんでここにセクシーギャルズが居るの? ていうか何その派手派手水鉄砲??」
「あー……マジで何も知らされてないんだね」
困惑しきったりあむの様子に、美嘉が苦笑しながら答える。
「アタシたちにも出演オファーがあってさ、この水着アイドル大集合デスゲームサバイバルに」
「水着アイドル大集合デスゲームサバイバルぅ!?」
「そうそう。さっきまでりあむがやってたのが第1部の脱出ゲーム。で、それを突破したチームでこれから第2部をやる所ってわけ」
「え、じゃあ美嘉ちゃんたちもさっきの脱出のヤツやったの?」
「うん、アタシらの脱出役は里奈だったからケッコー大変だったけど」
そう言われてりあむが里奈の方を見ると、里奈の首にもりあむが付けている物と同じだろう爆弾首輪が付けられていた。
「いやーマジで危なかったよねー☆ アタシ頭使うの全然ダメだから、ホント2人のおかげでなんとかなったって感じ?」
「頑張ってたのは殆ど美嘉ちゃんだったけど。ユイも全然分かんないから、ずっと横で応援してただけだし♪」
「……いやホント、クリア出来て良かったよ」
楽しそうにはしゃぐ里奈と唯、疲れながらも笑う美嘉を見て、りあむは陽キャアイドルのオーラにたじろぎつつもホッと息をついた。
「ということは、あの理不尽なドッキリを受けたのはぼくだけじゃないってことかぁ。ちょっと安心」
「いや、あのドッキリはりあむだけみたいだよ?」
「……へ?」
「アタシたち、撮影始まる前にちゃんと段取り説明あったし?」
「それにそれにぃ、りあむちゃんや他のアイドルがクリアするまでの間、ゆいたちめっちゃ美味しいドリンクとかスイーツとか食べて待ってたし☆」
「え、ぼくにおもてなしの時間は? 無いの?」
「……りあむが最後のクリア者で、これからすぐに第2部が始まるみたいだから、無いかも?」
「うわーん! やっぱぼくだけ扱いひどいじゃん! やむぅぅぅ」
「ああっでも第2部のゲームをクリアすればりあむも――」
説明しようとした美嘉を遮るように、突如プールのネオンライトが消え、煽るような重低音のBGMが鳴り始める。
「うぇっ、何!?」
プール傍に設置された巨大モニターが点くと、そこに映し出された最早お馴染みの白仮面だった。
『ようやく全ての資格者が揃ったようだなぁ。これより、ここに残った者たちで最後のゲームを行う! 今からお前たちはこの水上戦場で、生き残りをかけて戦うのだぁ』
再びプールが照明に照らされる。するとそこには、いつの間にか幾つもの浮き島風の足場が浮かんでいた。
『戦うフィールドはこの浮かぶ足場のみ、水に落ちたらもちろん失格だぁ。そして、お前たちは互い同士で戦うだけではない。出でよ、我が僕よ!』
白仮面が叫ぶと、プール中央の建物(よく見れば白仮面のモチーフである)から白煙が吹き出し、扉が開いて爆弾頭の人形マスコット集団がのそりと現れた。
「うわ……なんかキモくない?」
「えー? ゆい、結構カワイイと思うけど」
「マジか……」
ギャルの美的センスに若干引いているりあむを余所に、白仮面の説明は続く。
『こいつらはボムボム兵士団だぁ』
「いや名前もダサいしギリギリじゃん」
『こいつらは爆弾に惹かれる習性がある。そして、こいつらは触れただけで全ての爆弾を爆破させることが出来るのだぁ』
その言葉に、りあむや里奈、他の首輪を付けたアイドルたちが、思わず自分の首元に触れた。
『フッフッフッ……もう分かっただろう。こいつらが首輪に触れたら、その時点で即脱落。もちろん1人だけでなく仲間もろともだぁ』
「……なるほど、あいつらから首輪持ちを守らなきゃいけないって訳ね」
りあむの横で美嘉が説明を反芻する。
『ボムボム兵士団は爆弾だから水に弱い。水鉄砲を当て続けるか水に落とせば動けなくなるだろう。上手く立ち回り最後に残った者たちだけが脱出と栄誉を手にする! さあ、ゲーム開始だぁ!』
白仮面の宣言と共に、スタッフがアイドルたちを開始地点へ誘導していき、美嘉たちも手を振りながら水上足場に向かっていった。残されたりあむは、スタッフから拳銃型の水鉄砲を2丁渡されたものの、どうしていいか分からずその場でオロオロとしていた。
「うぅ……美嘉ちゃんたちも行っちゃったし、ぼく1人でどうしろっていうんだよう……」
「1人ではないんじゃないデスか?」
突然後ろからかけられた声にりあむが振り向くと、そこには見慣れた顔が2人揃って立っていた。
「うわーん! あきらちゃん! あかりちゃん!」
「もー、ちょっとりあむさん、そんな泣きそうな顔しないでくださいよ」
「いやあかりチャン、これもう完全にボロ泣きだって。ほらりあむサン、シャンとしてください」
水鉄砲を携えたあきらとあかりが、抱きついてくるりあむをなんとか立ち上がらせる。
「ううっ……ふ、2人とも一緒に戦ってくれるの?」
「もちろんですよ!」
「元々3人チームで参加する企画デスから、最初からそういう予定デスよ」
「おお、そっか、そうだよね。ていうか! ぼくのドッキリ、2人も関わってただろ! Pサマだけじゃ絶対無理だもん!」
「……まあ、流石にバレるか」
「いやいや、あれは何しても起きないりあむさんが悪いとこもありますよ。あっ、後でベッドごと拉致した時の動画も見ます? あれが本当にスゴくて……」
「は? ベッドごとってなに? ちょちょちょ、あかりちゃんもっと詳しく!」
「はいはい、そこら辺も全部終わった後に説明しますから、ほら、あかりチャンもりあむサンも準備地点に行きましょう」
「はーい。あ、そうだ。りあむさん、この最後のゲームを勝った賞品って、このリゾートの貸し切り利用券2泊3日分だそうですよ」
「えっマジで!?」
「無事勝ち残れば、ちゃんとPサンの約束通りリゾートでバカンスってことデスよ」
「私もあきらちゃんも、りあむさんとリゾートで遊びたいんですから、一緒に頑張りましょう!」
あかりとあきらの言葉に、ドッキリとデスゲームでゴチャゴチャになっていたりあむの不安は消え去っていた。友達でユニットメンバーの2人が居て、自分自身もここまでの試練をクリアした実績がある。
なんとかなる。
いや、もうどうとでもなる。
完全にテンションはヤケクソ方面に振り切っていた。
「よっしゃ! もうこうなったら自棄じゃー! こうなったら取れ高なんか気にせず、意地でも生き残ってバカンスしてやるからな! 見てろおおおおおおおお」
雄叫びを上げながら、2人と一緒にりあむは最後の戦場へと向かっていった。
◆ ◆ ◆
(CM入り前のナレーション)
最後に遅れてやって来たチャレンジャー、夢見りあむが引き起こすのは波乱か奇跡か?
最後の瞬間には、番組に関わる誰もが予想できなかった自体が待ち受けていた!?
激戦を極める水着アイドル大集合デスゲームサバイバルはいよいよ終盤戦へ!
果たして生き残るのは誰か!
超白熱の戦いは番組後半へ続く!!!