「あら、ラキアン。よく来てくれましたね」
「ヒマリ、今度は何の依頼だ?」
ラキアはいつものように呼び出されていた。彼女に呼ばれる時は、必ず依頼を出される。もう、彼女の依頼を受けるのは何度目か分からない。
「実は、生徒達の間で謎の薬物が流通しているんです。依存性は高く、すでに救急搬送された生徒がいるほど……」
「だる。俺にそんな依頼を出すとは、趣味が悪いな」
「あなただからこそです。こういった手合いは、ラキアンの得意とするところではありませんか?」
「それはそうだが……」
ラキアは以前、闇菓子という薬物のような存在を撒き散らすストマック社と戦っていた。そこのアルバイト達は基本的に闇菓子に依存しており、ラキアの弟もそうだった。
故にラキアは闇菓子を憎んでおり、人を堕落させる薬物の話をヒマリから聞いて、他人事ではないと感じていた。
「そして、ここからが本題ですが、その薬物は飴のような姿で流通しているそうです。そして、生徒の行方不明事案が急増しています」
「さらにだるくなってきたな」
お菓子のような薬物の流通と行方不明事案。まるでストマック社のアルバイトの暗躍のようであり、ラキアにとっては地雷である。
「薬物を蔓延させる黒幕を潰し、それに誘拐されたと思われる生徒を救出すること。それが今回の依頼です」
「だる。そいつらの目星はついているのか?」
「随分とやる気ですね。調査したところ、ブラックマーケットの中でもミレニアム寄りの地域に潜んでいるようです」
「分かった。それだけ分かればいい」
ブラックマーケット。それは、キヴォトスを統治する連邦生徒会の力の及ばぬ、治外法権がまかり通る地域である。独自の治安部隊や金融機関が存在し、完全に独立していた。
その規模は学園自治区数個分であり、そこでは違法な物品の取引といった違法行為が常に行われている。学園を追われた不良生徒も数多くおり、それを食い物にするビジネスもあった。
現在、ラキアは薬物について探るためにブラックマーケットに来ていた。流石にその図体で潜入調査は不可能なので、彼は小さな仲間達を解き放つ。
「よし、お前ら。行って来い」
ラキアの懐から飛び出し、散り散りになっていったのは数十匹のゴチゾウだ。全て白っぽく、中身は半透明である。
これはプレーンゴチゾウというものだ。ウタハ達がゴチゾウを再現した成果であり、ガワだけでなく中身までも完成しているのだが、個性を付けることまではできなかった。
彼らをヴラスタムギアにセットしたところで、変身することも特殊な効果を発生させることもない。そのため、基本的には捜索や偵察の要員として頑張ってもらう形だ。
「とりあえず、何か食うか……」
彼らが戻ってくるまでの間、ラキアは近辺を散策して飲食店を探すことにしたのだが、事件は起こった。
「……だっる」
現在、ラキアの目の前には三人のスケバンがいた。複数の銃口を向けられており、金目のものを奪おうという算段だ。
キヴォトス人の防御力の源であるヘイローが存在せず、目立つ上に丸腰に見えたことから標的にされてしまったのだ。
「なあ、こいつヘイローがないぜ?」
「マジじゃん」
「兄ちゃん、死にたくなかったら両手を挙げやがれ。金目のもので勘弁してやるからさ」
ラキア=ヴラムなのは秘密なので、ヴラムブレイカーを使うわけにもいかない。銃すらも持っておらず万事休すかと思われたが、彼は人外であった。
彼はゆっくりと両手を上げていくのだが、指先がスケバンの方を向いた瞬間、そこから無数の光の糸が射出され、スケバン達に突き刺さった。
直後、スケバン達は気絶してバタバタと倒れていく。その表情は幸せそうであり、まるで攻撃を受けた後のようには思えない。
これは、ラキアがグラニュートとして固有で持っている能力によるものだ。彼は体内で多幸感を齎す神経毒を精製し、触手を通して打ち込むことができるのだ。
また、その触手の威力は相当なもので、自動車やコンクリートすら貫くものだ。銃弾や爆発に耐性があるキヴォトス人でも完全に防ぎ切ることは不可能である。
「たい焼きでも食うか……」
ラキアはブラックマーケットで見つけたたい焼き屋を訪れ、闇市なので法外な値段だったが収入はあるので購入すると、粒あんのたい焼きを頬張った。
「なに?怪しい場所を見つけただと?」
たい焼きを食べ終えた後、一匹のゴチゾウが戻ってきた。ラキアは赤いスマホのようなデバイスであるガヴフォンを取り出すと、その上部にゴチゾウをセットした。
ガヴフォンから虚空に投映されたのは、小さな映像だ。それはゴチゾウが見てきた光景であり、映っていたのは何の変哲もない倉庫だ。内部に進入すると怪しげな製造設備が設置され、更に奥には……
「これは、拐われた生徒達か……」
最後に映し出されたのは、倉庫の奥で横たわっている何人もの生徒達だ。ゲヘナにトリニティ、ミレニアムといった制服が見受けられ、主要な学園が揃っている。人身売買や人体実験の被害に遭う可能性もあるだろう。その中には事前に聞いていた行方不明者の姿もあった。
「ヒマリ、今から送る座標の倉庫について調べてくれ」
『この天才美少女ハッカーにお任せください』
数秒後、ヒマリの回答が返ってきた。
「確認しました。どうやら、表向きには単なる倉庫ということになっています。管理者は保安部も目を付けていた企業で、マフィアの作ったペーパーカンパニーのようですね」
「………ヒマリ、これから突入する」
「ラキアン、気をつけてくださいね。そのマフィアは最近、かなり武装を強化しているようですので」
「だるいな」
ラキアは立ち上がり、戦いへと赴く。相手が重武装のマフィアだろうが、彼には関係ない。罪なき生徒達を助けるため、仮面ライダーは戦うのだ。
「な、何だてめえは!?ぐあっ!?」
倉庫の入り口が吹き飛び、チェーンソーで斬りつけられた警備のオートマタが転がって動かなくなる。直後に押し入って来たのは、ヴラムに変身したラキアだった。
「おい、死にたくなければ逃げろ」
設備を破壊する前、ラキアは工場内の作業員に警告する。彼らは特に武器など持っておらず、ただの雇われなのか恐れをなして逃げ出していった。
「このようなものは……」
『セット』
『ヴラムシューティング』
ヴラムブレイカーを最大まで引き絞り、手を離すと複数のエネルギーアローが撒き散らされる。爆発と閃光が空間を支配し、工場内の設備を全て木っ端微塵にした。
「見つけたぞ!黄色の死神!」
やがて、ワラワラと武装したオートマタ達が駆けつけてくる。その中には三メートルはあるような大型の個体もおり、シールドを装備していた。
「囲んで押し潰せ!!」
すぐさまヴラムは包囲される。大型のオートマタが数体、シールドを構えて彼を押し潰そうと四方から迫ってきた。
「だる」
『セット』
ヴラムブレイカーにゴチゾウをセットし、素早くレバーを3度引くと、持ち手と一体化したトリガーを引く。チェーンソーのような音が鳴り響き、回転する刃に光が纏わりついた。
『ヴラムスラッシュ』
直後、ヴラムは1回転しながら斬撃を放つ。光の刃が周囲を薙ぎ払い、迫って来た大型のオートマタをシールドごと真っ二つにしてしまった。
「な、何だと!?」
「遺言はそれだけか?」
連中をエネルギーアローの高速連射で片付けながら、ヴラムはリーダー格のオートマタへと接近していく。
「ええい、こうなったら……ゴリアテを持ってこい!」
直後にリーダー格のオートマタはヴラムブレイカーの斬撃の餌食となるが、壁を突き破って姿を現した存在があった。
「こいつは……」
『ラキアン、あれはカイザーPMCの新兵器ゴリアテです!まさか、こんなものまで用意しているなんて……気をつけてください』
「ゴリアテか……名前は聞いたことがあるな」
ズシン…ズシン…とゴリアテは地面を踏みしめて接近してくる。両腕のガトリング砲が火を吹き、主砲がこちらに向けられた。
「人質なんて関係あるかよ!死ね、黄色の死神が!」
「くっ!」
ガトリング砲の弾幕を回避し、斬撃で叩き落としていると、ゴリアテの主砲にエネルギーがチャージされ、強力なビームが発射された。倉庫の一面が完全に吹き飛び、土煙でヴラムの姿が見えなくなる。
「ふはは!どうだ、やったぞ!!」
ゴリアテのパイロットは勝利を確信する。多くのマフィアや犯罪組織を潰してきたヴラムの排除は、裏社会の悲願だった。
「それはどうかな?」
『ゼリー・オーバー』
「なっ!?」
しかし、当のヴラムはゴリアテの頭上に現れる。黄色からピンク色に変化しており、ゼリーカスタムによる透明化で奇襲を仕掛けたのだ。
チェーンソーの音が鳴り響き、ゴリアテの主砲が半ばから両断されてゴトリと落下する。飛び降りながら武器を連続で振るい、ガトリング砲も破壊してしまった。
『プディング』
『ヴラムシステム』
飛び退きながらプリンカスタムに戻ると、ヴラスタムギアのレバーを操作する。次の瞬間、武器を失ったゴリアテは巨大なプリンのエフェクトによって拘束された。
「う、機体が動かない!?ま、まて……こっちに来るな!!何でもする……何でもしますから!」
「お前に選択肢はない。散れ」
ヴラムは一歩ずつゴリアテに接近する。その拳にはエネルギーが纏われており、それで殴りつけるつもりなのだ。
『プディングクラッシュ!』
「はぁ!」
ヴラムはプリンに拘束されて動けないゴリアテにライダーパンチを放つ。その一撃でゴリアテはパイロット諸共破壊され、木っ端微塵となった。
「おい、大丈夫か!?」
ゴリアテを撃破した後、ラキアは生徒達の横たわる区画に入った。敵を素早く片付けたので彼女らに戦闘の被害は出ていない様子だ。しかし……
「う、うぅ……苦…しいよ……」
「助けて……助け……」
横たわる生徒達は皆、うめき声を上げていた。おそらく例の薬物が原因と思われ、とても苦しそうだ。ラキアの目には闇菓子の中毒者のように映った。
「こいつはだるいな……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女らは、まるで譫言のように言葉を漏らし続けている。このまま放置すれば、廃人真っしぐらだろう。
「本当はこんな手は使いたくなかったが……」
ラキアは無数の触手を放ち、生徒達に自らの神経毒を薄めたものを打ち込む。それによって齎される多幸感が苦しみを和らげ、完全に眠らせた。
「ヒマリ、回収を頼む」
『そちらに保安部の輸送車が急行しています。話は通してありますので、到着まで待機をお願いします』
「分かった」
その後、ミレニアム保安部の輸送車と部員が到着する。ブラックマーケットの治安組織が駆けつける前に、ラキアはバイクで先導して離脱した。
余談ではあるが、拐われた生徒達は中毒から回復しつつあり、最終的にはそれぞれの学園生活に戻ることができたという。