かつての学園都市はもはや見る影もなく、もはやこの街には静かな終わりだけが残されていた。
しかし、そんな地獄の中でも、懸命に生きる者たちがいる
これは、そんな彼女たちの生存記録である。
「やっほー☆私の名前は聖園ミカ!今日は135日目の生存記録を撮っていくよー!」
「ヴォアァァ……」
「……やだなー、もう!先生ったら登場が早いよー!今日はサプライズゲストなんだから、ちゃんと私が呼んでから来てって言ったじゃん☆」
「ヴェアァァ……」
「ほら、座って座って!───さて、今日はご覧の通り、シャーレの先生をゲストに連れてきたよ!今日の朝、たまたま近くで歩いてるところを見つけたんだ☆これが運命ってやつかな?ねぇ、セイアちゃんはどう思う?」
「…………」
「もう、セイアちゃんったら!先生はそんなことしないよー!あはは☆」
「ヴァアァ……」
「……うん、もういいや。それじゃあ、今日の生存記録は終わり!また次の記録で会おうね!ばいばーい!」
────ミカの元気な別れの挨拶と共に、ビデオカメラの電源が落とされる。
それと同時、ミカは先程までの笑顔を捨て、悲壮に歪んだ顔を見せた。
「……先生」
「ヴィアァ……」
「───ッッッ!!!」
変わり果てた先生の呻き声に、ミカは耐えきれず地面を割る。右脚を中心として放射状に伸びるひび割れが、彼女の心に宿る激情を表していた。
「なんで……どうしてこんなことに……やだ、やだよ……先生……ッ!」
キヴォトスが未曾有のパンデミックに襲われてから、今日で135日目。全てを失ったミカに唯一残されていた希望が今日、ついに消え失せてしまった。
すでに、この学園には数える程しか生徒は残っていない。外部との連絡手段は残されておらず、他の学園に助けを求めて旅立った生徒たちは、一人も帰ってこなかった。
もはや、あとは死を待つのみ。
「あはは……もう、いいや。ごめんね、セイアちゃん。私、つかれちゃった」
「…………」
セイアは答えられない。かつて彼女が座っていたお茶会用の椅子に、小さな骨壷が置かれているのみである。
両手に布を固く縛り付けられ、鎖を繋がれた先生が、ミカに向けて腕を伸ばす。彼ら屍は、生者を求めるのだ。
───ナギサが持っていかれた時も、屍たちは同じように手を伸ばしていた。
『ミカッ!トリニティを……!みんなを……守ってください……!』
全身を裂かれ、血を吐きながらも懸命に叫ぶナギサの姿が脳裏を過ぎる。
本当なら、あそこで連れていかれるのは自分だった。
調子に乗った自分を庇ったせいで、ナギサは死んだのだ。
───だが、誰も自分を責めなかった。
それどころか、セイアはミカを次のティーパーティーのトップとして推薦したし、かつて自分を嫌っていたはずの生徒たちも、次々と彼女を『ティーパーティーの聖園ミカ』として仰ぐようになった。
理由は単純。ただ強かったから。
セイアは、いち早くミカを旗頭に立てる必要があると察していた。
だから、感情を押し殺し、かつての自分に戻ったようなフリをして、ミカに非情な仕打ちをしたのだ。
実際、あそこでミカをトップに立てなければ、今頃誰も生きてはいなかっただろう。
しかし、それでもセイアやナギサは死んだし、ほとんどの生徒は屍と化している。
「結局、がんばった意味なんて無かったなぁ……」
ミカはふらつきながらも、その場を後にした。
「……先生がダメになっちゃったこと……みんなに、つたえないと」