わたしがマスターになれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)   作:くそじらいせいせいき

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第2話

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「ところでマスターって何? お店とかじゃないよね? わたし未成年だし、そもそもムリだよそんなの絶対無理無理!」

「あーうん。ごめん。説明不足だったね。さて、何から話したら良いものか……」

 

 実はボクって普通の人間じゃなかったりするんだよね――

 と。とうとう隠し事を話してしまったと兄は照れたようにアハハと笑った。え? どういうこと!? わたしのお兄ちゃん本当に天使か神だった!? それともおかしくなっちゃった!?

 確かに、思い返してみれば子どものころから妙に目端が利いて大人顔負けの語彙力を巧みに操ったり、運動神経が良いだけでは済まされないほどすごい動きができたり可愛さが上限突破してたりと上げ始めればキリがないくらいには人間辞めてたけど!

 

「信じられないと思うけど、ボクにはいわゆる前世の記憶がほんの少しばかりあってね? その記憶によるとボクの身体は昔のすっごい英霊とがっちゃんこして混ざっちゃったデミ・サーヴァントに近い存在らしいんだよね。元となった英霊の名前はシャルルマーニュ伝説。十二勇士の一人、アストルフォと言うんだって」

「前世……? アストルフォ……だからあす()なの? お父さんお母さんはそのことを知ってて――」

「んにゃ? 多分偶然だと思うよ。以前ボクの名前の由来を聞いたら『停滞(いま)をヨシとせず、明日(みらい)に立ち向かって行ける人になるように』って願って名付けたらしいし」

「えぇ……。そんな嘘みたいなホントの話ってあるんだ」

「みたいだね。それで、アストルフォにはとある厄介な呪いのようなものがあってね……理性蒸発って言うんだけど。多分これによるのか、そもそも英霊との合体の負荷に耐えられなかったかした元のボクはほぼ全てのエピソード記憶を喪失し、消滅したんだ。つまりボクはその残りかすみたいな存在だね」

 

 いやー困っちゃうよねホント。だなんておどけて笑う姿はどこか悲しげで。普段の快活さは鳴りを潜め、次瞬きした時には消えてしまいそうなほど儚げだった。

 初めて見た。お兄ちゃんでもそんな顔するんだ……。いつもの兄は自信満々で元気いっぱい天真爛漫を絵にかいたような人だ。見ていたらこっちまで笑顔になっちゃうようなそんな人。それなのに。今の姿はどうだろう。

 ――まるで、迷子みたいだ。

 

「まぁ言っても何のことやらわからないだろうからちょっと見てて──」

 

 そう言って彼の身体は光に包まれた。もしかして、変身できるのお兄ちゃん!? 魔法少女あすと始まっちゃう?

 一瞬後、その様相は様変わりしていた。まず目を引くのは胸元に獅子のエンブレムが刻まれた軽鎧。ファーのついた白いマント。腰元には剣が一本。そしてちらりと見える太ももをより強調するかのように存在感を放つガーターベルトに続いた白のブーツ。

 どう見ても騎士です。本当にありがとうございました。え? そこは魔法少女じゃないの? あとなんでガーターベルトなんてしてるのお兄ちゃん。なんかめちゃくちゃえっちなんだけど! ごちそうさまです!

 

「じゃん! どうかな? 似合ってるよね? かっこいいでしょ」

「似合ってるってレベルじゃないよお兄ちゃん。あとかっこいいって言うよりかわいいしえっちだよ」

「え``」

「だってこことか……」

 

 つんつん。とむき出しになっている太ももに触れてみればとても男のそれとは思えない艶やかな美白の肌がそこにはあった。くすぐったそうに笑う兄はやっぱり生まれる性別を間違えてると思う。しばらく兄の変わりようをじっくり味わったあと。「満足した?」と聞かれて名残惜しいけど話の続きに戻ろうと意識を切り替えた。

 

「それでね? 実はれな子にお願いがあるんだ」

「お願い? って言われてもわたしには別に前世の記憶もないし、特別な力だって持ってないよ?」

「アハハ、そう思ってるのも無理はないよ。だって、使い方を知らないんだから」

「使い方……? あっ! もしかしてわたしって実はすごかったり!? そりゃお兄ちゃんの妹なんだし当然と言えば当然かぁ!」

「あーえっと、期待させちゃってごめんね。れな子に備わってる魔術回路は一般の出からしたら多いほうだろうけど、そんなにかなぁ」

 

 わたしの時代来た!? と思ったら即終了した件について。なんだよもー! ちょっとくらい夢見たって良いじゃん! あれ、でも全く無いって言ってなくない? むしろ多いほうって今言わなかった?

 

「おおおお兄ちゃん! 今、なんて言った!? わたしに魔力があるってホント!? 空飛んだりビーム撃ったりできちゃうの!? 魔法少女れな子爆誕しちゃう!?」

「お、落ち着いてれな子。確かに契約はするけどちょっと考えてるのとはだいぶ違うと思うよ?」

「これが落ち着いていられるかぁーーッ!! どう考えてもわたしの人生の転換期だよ!? 落ち着けるわけないじゃん!」

「うーん。れな子の夢を壊すようで悪いんだけど。そんな良いものじゃないよ? 魔術って」

「まじゅつ!」

 

 なんて心躍る(中二病)ワードなんだ。きっとすんごい何描いてあるのかわかんない魔法陣とかが光ったり災害級の自然現象を操ったりするんだろうなぁ! インディグネイション! みたいなやつとか良いよね。かっこいいし! 

 

「ハリーハリーハリーお兄ちゃん! どうしたら使えるようになるの!?」

「ええと…………ごめん。ボク魔術師じゃないから詳しくまではわかんない。それに適当なこと言ってれな子を危険な目に合わせたくないし、出来れば魔術師になるのは諦めてほしい」

「そっ、かぁ……でも、そうだよね。わたしみたいなんかが力を手にしたらいつか悪いことに使っちゃいそうだし、あるって知れただけ儲けものだよね!」

 

 なんだ。やっぱり、わたしはモブでコミュ障の陰キャなんじゃん。特別な存在になれると希望を持ったらこれだ。現実は非常だ。ホント嫌になる。魔術師かぁ……どんなことができたんだろう。もし、なれたら、お兄ちゃんの隣に立てたのかなぁ。

 

「――――れな子? 聞いてる?」

「は、はいっ!」

 

 しまった。ショックでまるで聞いていなかった。申し訳なさそうにこちらを見てくる兄の姿に胸がキュッとなって痛くなる。ごめんなさい。出来の悪い妹で。あなたを悲しませて。悩ませてしまって。大切な時間を浪費させてしまって。

 

「もう一度言うよ。魔術師になるのは諦めてとは言ったけど。簡単なものであれば可能性は――」

「ホント!? わたし、魔法を使えるようになるの?」

「魔術ね。うん、一工程(シングルアクション)のガンドとかのルーン魔術辺りなら頑張り次第では使えるようになるんじゃないかな。もちろん必要ならボクも協力するよ」

 

 やった。やった! やったぁ! こんな何でもないわたしでも努力次第で特別になれるんだ。顔がにやける。きっとだらしない顔を見せているだろう。でも、嬉しさがとめどなくあふれてくる。何もできない無力な自分とはおさらばするんだ。

 

「喜んでいるところ悪いんだけど。そろそろ契約の話に移ろうか」

「あっ、ごめんなさい。わたし、うれしくてつい」

「いや、良いんだ。ボクの方こそごめん。でもこれから先、必要なことだから……まずはひとつ、キミに謝っておかなくちゃいけないことがある。ごめんね嫌なら拒んでくれて良いから。でもこれはボクのエゴであり、誓いでもあることだけはわかってほしい」

 

 そう言ってお兄ちゃんはわたしの唇に優しくキスをした。

 え!? 何なのこれってやっぱり夢!? 実は都合よく夢を見てるだけで本当はまだベッドの中でまどろんでいるのだろうか。夢なら夢でも良い。いや、やっぱりヤダ! 現実が良いよ! なんでキスされたのか分かんないけど。わたしたち兄妹だけど愛さえあればそれで良いよね!?

 

「混乱してるね。こんな状況で、ずるいとはわかってる。けど、甘織れな子さん」

「はっ、はい!」

「ボクは。あなたのことを愛しています。もちろん、家族である双子の妹としてではなく。一人の女性として」

「えええええええええええええええええええええっ!?」

 

 その日。わたしの世界は文字通りひっくり返ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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