わたしがマスターになれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 作:くそじらいせいせいき
◇
ついに言ってしまった。長年隠し続けていた。ボクの気持ち。
彼女のことを思うと胸が苦しくなる。家族でなければ、血が繋がっていなければよかったのにとさえ我が身を恨むこともあった。いや、繋がっていても良い。彼女のそばに合法的にいられるのだから。それで十分以上に恵まれているじゃないか。
「返事はいらない。でも、許されるのならボクがキミを愛していることだけは頭の片隅にでもしまっておいてほしい」
「あ、愛……」
「急にこんなこと言われて驚いたよね。ごめん。気持ち悪いよねこんなのが兄でさ」
「いやいやいや! 全然! ホント全然そんなこと思ってないからね!?」
ぶんぶんと音が聞こえそうなほど必死に首を横に振り否定するれな子。やっぱり優しい子だなぁ。
好きだ。結婚しよ。なんて邪念を叩き潰して己を戒める。やさしさに付けこむような真似なんてしたくない。彼女が幸せであるのならば別にボクがその隣にいなくたっても良い。……いつの日か、れな子が選んだ素敵な人と幸せな家庭を築き上げてくれればそれで良い。
「ずるいよ。お兄ちゃん。自分だけ言いたいこと言ってすっきりしちゃってさぁ……わたしの気持ちは聞かないだなんてホントずるい。卑怯だよ」
「ごめん……」
返す言葉もない。ボクは項垂れた。後悔ばかりが頭の中をぐるぐると巡る。どうしてこんなタイミングでカミングアウトしてしまったのかと。
というか、もうちょっと良い感じのロマンチックな場所で決めるべきだったのでは? 気持ちが昂っちゃったんだからしょーがないじゃん! そもそもボクに理性を求めるのが間違ってるよ! やりたいことやったもん勝ちだろ!? などと内なる己とあーだこーだ言い争っているとれな子がしびれを切らしたのか「それで」と口を開いた。
「ひ、ひとまずお兄ちゃんのこ、告白の返事についてはまだ、ちょっと時間をください……具体的には色々整理とか片付いてからってことで、その。お願いします……」
「あ、う、うん。わかった……ごめん。ホント余計なことまで抱え込ませて」
「あの! でも、その。うれしかったのはホントだから! それだけは嘘じゃないからね!」
「ありがとう、れな子。キミはやっぱり優しい子だね」
――やっぱり好きだなぁ。この気持ちは絶対に誰かの借り物なんかじゃない。きっかけは誰かのものだったかもしれないけれど。ボクは確かに彼女の優しさに救われたんだ。倒すべき敵も果たすべき役割もなにもかも存在しなかったこの世界で。
「あの、そんなに好きって言われてもその……」
「え、口に出てた? うわ、恥ずかしいな」
照れた顔がこれまたかわいい。顔を赤くして背けるれな子に頬がだらしなく下がっていくのを感じた。ダメだ。色ボケてるぞボク。しっかりしろ。契約がまだなんだぞ。
「ん。んん! えっと、それじゃあ話を戻してサーヴァントとの契約についてなんだけど……」
むりやり話を修正することにした。――そして、ボクは彼女のサーヴァントになった。
◇
「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
朗々と、口をついて出る言葉。繋いだ手の先にはおとぎ話の騎士の様に跪いてこちらを見上げる美少年がそこにいて。今、まさにファンタジーのそれを自身が行っているだなんて夢のようだ。なんてわたしはニヤけそうになりながらも噛まない様に必死に続きを音にした。
「――――この意、この理に従うならば応えよ。我に従い、我が言葉に応えよ。その命運、我に預けるか否か!」
「――その誓いを受けよう! 我が主は貴女であり、ボクは貴女のサーヴァントだ!」
握った手に閃光が駆け抜ける。と、同時まるで雷でも落ちてきたかのような衝撃が身体を走り、そして何かが繋がったかのような気がした。痛い。すっごく痛い。涙が出そうというか出た。こんなに痛いだなんて聞いてないよ! 恨みがまし気に彼を見る。
「いやぁ無事に契約できてよかった。これからもよろしくね、マスター」
そんな満面の笑顔で言われたら何も言えないじゃん。それに、マスターって呼び方ちょっと。いや、かなり良いかも。なんて思っちゃう自分がいた。あわよくば執事服とかあるいはメイド服なんか着てもらったり…………。
「マスター? 大丈夫?」
「うぇあっ!? だ、だだだ大丈夫! 全然! ホントなんでもないから!」
危ないところだった。もう少しで兄を相手にとんでもない妄想を――
「マスターが喜ぶなら着ても良いよ? どっちでも」
「! なんで、口に出してないはず……」
「割と『念話』で垂れ流しだったよ。マスター。あーんとか膝枕とか耳かきとか」
「わあああああああああああああああ!」
終わった。妄想とはいえ醜い欲望を抱いてしまったなんて流石のお兄ちゃんでもドン引きなのでは……。
四つん這いになった体勢で、判決を待つ。甘織れな子の運命や如何に。
「安心して、ボクもたまにれな子で妄想したりするし! お相子だね!」
「あっ、はい……」
せーふ。顔を上げればにこやかに笑みを見せるお兄ちゃんがいて、って! わたし、普段どんな目にあわされてるの!?
にんまりと意味深な笑みに変わったのを見てやっぱり良いですと強く念じた。お兄ちゃんは返答代わりに小さく微笑むと口を開いた。
「さて、本題に入ろっか。マスターはこれからどうしたい? 復讐? それとも――」
「うーん。ぶっちゃけるとね、どうでもよくなっちゃったかもしれない」
「それは、どうして?」
「なんて言ったら良いんだろ。確かに色々とムカついたし、この二年で学校も行きたくないなぁって思ったんだけど。そんなことより今はもっと知りたいことがあって、雑事になんて構ってる暇なんて無いなって」
「そっか」
そうなのです。魔術についてもっと知りたい。お兄ちゃんはこの世界に魔術師が存在しないと言っていたが、本当なのだろうか。
放課後、休日や長期休暇。それどころか夜に時折どこかへと行って朝ふらりと帰って来ることもあった。いままでは特に違和感を覚えなかったが、明らかに変だ。小中学生が深夜徘徊とか普通に警察に補導とかされるだろうし……いや、お兄ちゃんなら仲良くなって家まで送ってもらうくらいわけないだろうけど。そんなこと一度だってなかったはずだ。
多分これも魔術によるものなんだと思う。わかんないけど。認識阻害とかそういうやつ。すごく便利そう。
「だから、お兄ちゃん。魔術について教えて」
「しょうがないなぁ。決意も固い様だし……とはいえ現代で流石に最終学歴中卒はまずいと思うから高校にはちゃんと通おうね? マスターを養うのは金銭的にも精神的にも苦でもなんでもないけど遥奈や両親になんて言われるか」
うぐっ! 中卒ニートでヒモ。おまけに魔術なんてやばい代物に傾倒して実兄にマスターと呼ばせるわたし……誰がどう見ても頭がおかしくなったようにしか見えない。黄色い救急車待ったなしだよ! それに最近特に冷たくなってきた妹になんて言われるかわかったもんじゃない。……そんなゴミを見るような目でわたしを見ないで!
「はい……わかりました……頑張ります」
うん、よろしい。と言って笑うお兄ちゃんを尻目に勉強どうしよと年相応の悩みを抱えることになるのだった。