わたしがマスターになれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 作:くそじらいせいせいき
◇
芦ケ谷高校に入学してはや一か月。ボクは何度目かの校舎裏に呼び出されていた。
朝。下駄箱で出待ちするかのように手渡されたかわいらしいデザインの手紙には放課後に会って話が出来ないかといった内容が書かれており、こうして指定された場所までやって来たのだ。
手紙の主は既に待っていて。覗き込むようにスマホを見て髪を整えたりそわそわと落ち着きが無い様子だった。近づいてくる足音に気が付いたのか顔を上げてはにかむように笑って「来てくれてありがとう」と告げた。
「手紙でも思いを綴ったが、
「ごめんなさい。好いてくれるのはとてもありがたいことだと思うけれどキミとは良き友人でお願いしたいかな……」
「な、なぜ……俺に悪いところがあるのならば改善する! 君の好みの人になれるよう精一杯努力するぞ!」
「うん。キミのそういうところは美点だと思うよ。容姿も整ってるし、人柄も良い。大抵の女性ならキミに告白されれば首を縦に振るだろう。でもごめん、ボクにはもう心に決めた
「そう、か……」
意気消沈した青年。そう。手紙の主は男だったのだ。これまでにも何度かこういったことはあった。早くは小学生の頃から、教師だったり性に目覚めた上級生だとか。ひょっとしたらボクじゃなければトラウマ抱えてかつてのれな子みたいに引きこもっていたんじゃなかろうか。
「その、心に決めた人というのは、『クインテット』のメンバーなのか?」
「……うん。そう、だね」
「そうか、ならば最初から勝ちの目は無かった、か。すまないな忙しいだろうに時間を取らせた。ありがとう」
「ううん。お付き合いはできないけど、キミの気持ちは確かに受け取ったから。こちらこそ好いてくれてありがとう。それじゃあまた」
「ああ。……さようなら」
別れの挨拶を済ませ踵を返して彼から遠ざかる。
しばらく歩いたところにふいに声がかかる。明るい女性の声だった。
「お疲れーあす人クン。今回で五人目だっけ? モテモテだねー」
「
「張り込みと
「捕まらない程度にしときなよホント」
「わかってるってー。オーナー様に迷惑はかけませんってー」
「もうずいぶん手を煩わされてるけどね……」
彼女の名は照沢燿子。借金苦で困っていた探偵の娘さんだ。今はボクの手足として活動している。といってもまだ学生なのでネット上の情報をまとめたりとか簡単な見習い程度の業務を担っているはずだが。
欲に目がくらんで飛び込んできたイベント会場の大トリでマジックショーをするハメになったのも大体この娘のせいだ。まぁ、
「それにしてもあの人が血迷っちゃう理由もわかるなー。こーんなかわいいのに男の子だなんて今でも信じられないよ」
「そういえばあの日は耀子ちゃんも勘違いしてたっけ」
「だって、恰好がもう女の子だったじゃん。スカートだし、へそ出してたしー」
「似合ってなかったかな?」
「う、めちゃくちゃ似合ってたけど。困惑したよ」
「アハハハハ。まぁ相手の油断を誘えるからね女装は」
彼女に初めて出会った時のことを思い返す。中学の頃だ。その日は厄日といって過言じゃなかった。
『幻術』の練度がどれほどのものか検証がてら自宅から数駅離れたところで実証実験を行おうとしていたのだが、その道中で痴漢を捕まえたり、ひったくり犯を追いかけてこれまた捕らえたり、変質者が現れて――といった具合に一体何件事件が起きるんだと内心辟易していたところに彼女と出会った。
「渡りに船って言うべきか、『幸運』の巡りあわせと言うべきか」
「なんの話?」
「えっと、キミと初めて会った時の話だよ。ちょうど良かったなって」
「ふーん。そっかー。都合の良い女だって思ってるんだねー」
「え、なんか怒ってる?」
「べつにー」
怒ってるじゃんか。よくわかんないけど、何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。と頭を捻るもわからないものはわからないので思考を放棄した。
「……まぁ借金を肩代わりしてくれたことには感謝してるよ。方法がとんでもだったけど」
「昔から『運』は良い方なんだ」
「運、ねぇ……」
納得いかなそうな表情を浮かべる耀子ちゃんに苦笑しつつ話を切り替えようとそれでと要件を聞く。今日はどんな無茶ぶりをしてくるのかとほんの少しばかりワクワクしながら。
◇
芦ケ谷高校に入学して二か月。わたしこと甘織れな子は今、窮地に立たされていた。
入学初日にお友達になれた王塚真唯さんを始めとしたトップカーストグループ。通称『クインテット』に無事所属できたわたしだったが、元陰キャのわたしごときでは場の空気を読んで相槌を打ったり当たり障りのない会話をするだけでMPを大量に消費してガス欠寸前の毎日を過ごしていた。
昼。いつものごとくみんなと席をくっつけて昼食を取ろうとしていたその時。――限界だった。
「あの! わたし、ちょっとその、用事があって。みんなは先に食べてて!」
そう言い残してわたしは教室から逃げるように飛び出した。目的地は、屋上だ。
ずんずんと廊下を速足で歩き、スカートを翻して階段を駆け上がる。そして、施錠された建付けの悪い扉の鍵を開け――自由を感じる。
眼前には青空が広がっていた。重たい鎖から解放されたかのようにわたしは大きく手を広げて深呼吸をした。そのまま低い手すりまで歩いて行き、ため息とともにもたれかかる。わたしだけの空間。自由って素晴らしい。なんて、思っていたら扉の開く音が聞こえて来た。
あれは、王塚真唯だ。どうしてこんな場所に――と考えたところで彼女はこちらに向かって走り出した。何故!?
「あ、やば!」
向かって来る彼女の鬼気迫った表情にビビッてしまったわたしは思わずのけぞり、そして――手すりからその先へと落下した。しかし、その最中冷静なわたしはすぐさま魔術の行使を考えた。『強化』は当然として、『風』か『水』で、――って! 王塚さん!?
「ッさせるものか!」
「ちょっ! なんで王塚さんまで飛び込んで!?」
「もう大丈夫だ! れな子! 私はとても運が良いんだ!」
いや、何も大丈夫じゃないでしょ!? どうしてアンタまで飛び出してきてわたしを抱きしめてるの!? あーもう! やるしかない! 気合い入れろ。甘織れな子! そう決意したところで。
「クエー」
と何か生き物の鳴き声が耳朶を打つ。続いて暴風が吹き荒れ思わず瞼を閉じる。わたしたちはその一瞬の間に何かふわふわとした毛並みのような感触を味わい、そして気が付けば大地に降り立っていた。まるで狐につままれたかのような不思議な出来事だった。
王塚さんはまるで信じられないものを見たかのように啞然とした表情で硬直しており、眼前で手を振ったり声をかけたりしてようやく我を取り戻したようだった。
「あれは一体……っと、れな子。無事か?」
「う、うん。大丈夫。ところで何が起きたんだろう。急にすごい風が来て目を開けてられなくなっちゃったんだよね」
「私にもわからない。が、『何か』が助けてくれたのだろう。生憎と僅かしか見ることができなかったが、翼の生えた馬のような……」
「翼の生えた馬みたいな、ってヒポグリフ……? ってことはお兄ちゃん……?」
「そうか! 確かに言われてみればヒッポグリフやグリフォンのそれに近いかもしれない。いや、待て。どうしてそこで彼に繋がる?」
ゲッ、声に出てた!? どうしよ。何か言い訳を――そ、そうだ!
「実は、お兄ちゃんにすっごい似てるキャラクターが登場する作品がありまして。その作中で出てくるんですよ! ヒポグリフに乗ったアストルフォって子が」
「ほぅ……すごい偶然があったものだな。まさか名前まで似ているとは。それで、どうして彼のことを連想したんだい?」
「い、いやぁなんででしょうね。なんとなく、そのですね」
なんかすっごい疑惑の目を向けられてるんですけど!? お兄ちゃん説明してよ!