ねぇ、デュエルしなよ   作:ぁさ

2 / 4
中編

 

 

 

ユーキ LP:4000

馬喰 LP:4000

 

 

 

「こっちの先行。モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンド」

「大口叩いた割には大人しい立ち上がりだねェ。手札事故かい?」

「さっさとターンを進めたら?」

「はいはい。俺のターン、ドロー!」

 

 

 早々にターンを終えたユーキに対しジャブとばかりに挑発を試みるも、その反応は芳しく無い。そのつまらなさに鼻を鳴らしつつ、馬喰はドローカードを手札の1枚と入れ替え、モンスターゾーンに押し付けた。

 

 

「まずは小手調べと行こうか。≪リバース・バスター≫を召喚!」

 

 

 

≪リバース・バスター≫ ☆4 ATK:1500

 

 

 

「……≪リバース・バスター≫……」

「勤勉な学生さんは効果もご存じかねェ?バトル!≪リバース・バスター≫でセットモンスターに攻撃!この時テメェはダメージステップ終了まで魔法・罠カードを発動できない!加えてダメージステップ時に裏守備モンスターを破壊するぜェ!」

「……≪メカウサー≫は破壊され、墓地に送られる」

「あー!?私のあげたカードがーっ!」

 

 

 一瞬表になりかけたカードは、しかし≪リバース・バスター≫が手に持つ獲物に叩きつけられてそのまま砕け散る。わずかに白い耳のような破片が飛び散ったが、それも瞬く間に消えていった。

 

 

「……≪メカウサー≫だぁ?」

「リバースした時にダメージを与える効果と、戦闘破壊時にデッキから同名カードを裏側で召喚する効果を持つ」

「あー説明は良い良い。知ってるよ、よく見るコモンカードだ」

「よく見るコモンカードで悪かったわね!あの子は……」

「知らねぇ知らねぇ、興味無ぇ。とにかく裏側のまま効果破壊されちゃあ、リバース効果もリクルート効果も発動しないねェ。俺はカードを2枚伏・せ・て!ターンエンドだ!」

「む……ムカつく……!」

「こっちのターン。ドロー」

 

 

 煽る馬喰に憤るキット、それを意に介さずカードを引くユーキ。外野のヒートアップをよそに淡々とプレイを続ける様はキットにとっては頼もしくもあり、微妙に寂しくもあった。

 

 

「メインフェイズ1。永続魔法≪マシン・デベロッパー≫を発動。続いて≪古代の機械騎士(アンティーク・ギアナイト)≫を召喚。≪マシン・デベロッパー≫の効果で攻撃力が200ポイントアップ」

 

 

 

≪古代の機械騎士≫ ☆4 ATK/1800 → 2000

 

 

 

「へぇ、アンティークシリーズとは。しっかりレアカードも持ってんじゃねぇか」

「バトルフェイズ。≪古代の機械騎士≫で≪リバース・バスター≫を攻撃」

「ふむ……」

 

 

 古びた歴戦の機械騎士が、仲間を屠った悪魔に肉薄する。それを見た馬喰はわずかな思考の後、デュエルディスクへと指を伸ばした。

 

 

「……ちょい勿体無いが、まぁいいか。罠発動!≪ヘイト・バスター≫!自分フィールドの悪魔族モンスターが攻撃対象となった時、攻撃してきたモンスター諸共破壊する!」

「げっ……≪リバース・バスター≫は悪魔族……!」

「さらに!攻撃モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!せっかく勝てると思ったのにご愁傷様。コレでガラ空きだねェ!?」

「ちょっ、これヤバ……!」

 

 

 これが通れば≪古代の機械騎士≫は破壊され、かつライフが2200まで激減する。そのうえ相手の展開によっては返しのターンで一気にゲームエンドに持っていかれる可能性すらある。

 流れを一気に固めかねない一手に、しかしユーキはやはり動じず、リバースカードを発動した。

 

 

「カウンター罠≪デストラクション・ジャマー≫を発動。フィールドのモンスターを破壊するモンスター効果・魔法・罠が発動した時、手札を1枚捨ててその効果を無効にし、破壊する」

「む……防御札を伏せてたか」

「何かある?」

「……ないねェ」

「ならば攻撃を続行。≪リバース・バスター≫、撃破」

「チィ……」

 

 

 

馬喰 LP:4000 → 3500

 

 

 

 破壊の奔流を防いだバリアが消えると同時に≪古代の機械騎士≫が再び飛び出し、慌てて盾にした武器ごと≪リバース・バスター≫をその槍で貫いた。その獲物を掲げて残心をとる姿は、どこか誇らしげだ。

 そして互いの伏せカードを使った応酬の結果は、ライフの差以上の効果をもたらす。序盤の流れの様子も、互いの評価の変動も。言葉にせず、両者は静かに状況の変化に思考を巡らせていた。

 

 

「バトルフェイズ終了。メインフェイズ2は何もせずターンエンド」

「俺のターン!ドローっ、と……チッ。モンスターをセット。ターンエンドだ」

「良いわ、俄然こっちの流れよ!」

「……ドロー……メインフェイズ1、≪古代の機械騎士≫を再度召喚」

「再度召喚?」

「≪古代の機械騎士≫はデュアルモンスター。召喚権を使ってもう一度召喚することで効果を得る。≪古代の機械騎士≫がバトルする場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない」

 

 

 ガチリ、ガチリと≪古代の機械騎士≫の身体を構成するギアが組み代わる。大して見た目は変わっていないが、騎士は生まれ変わった自分を誇るように決めポーズを取った。

 

 

「……わざわざ召喚権使ってまで得る効果かねェ。さっきの≪メカウサー≫のクズよりは多少マシだがよ」

「…………」

「く、クズぅ!?」

「あん?ステータスは貧弱。戦闘破壊されなきゃ効果が使えない。同名カード以外はリクルート出来ない。リバース効果もタネが割れてりゃ大したことない。時間稼ぎしかできない、充分なクズだと思うがねェ」

「さ、さっきから黙ってれば、言いたい放題……!」

「黙ってねぇだろ、お前はよ」

「…………」

 

 

 冷めた目をした馬喰から放たれた暴言に、もう何度目か分からない激昂をキットが見せる。≪古代の機械騎士≫も心なし意気消沈したように決めポーズを解いている。

 そしてユーキは変わらずの沈黙……だが、纏う空気に何か違うものが混ざったことに、馬喰はにたりとほくそ笑んだ。

 

 

「おや、怒ったかい?はは、ゴメンゴメン。さ、デュエルを続けようじゃないか、ねェ?」

「……お喋りが過ぎると思っただけ。バトルフェイズ。≪古代の機械騎士≫でセットモンスターに攻撃」

 

 

 結局ユーキはそのまま攻撃を選択。気を取り直したように腰だめに槍を構え、古代騎士は再び戦果を上げんと突撃した。

 

 

「ふん、リバースカードを警戒したんだろうが……ご愁傷様ァ!セットモンスターは≪魔神・アークマキナ≫だ!」

「げっ!守備力2100!?」

「…………」

 

 

 

≪魔神・アークマキナ≫ ☆4 DEF/2100

 

ユーキ LP:4000 → 3900

 

 

 

「それだけじゃないねェ!このカードが戦闘ダメージを与えた時、手札・墓地から通常モンスター1体を特殊召喚する!来やがれ、≪デーモン・ソルジャー≫!」

 

 

 

≪デーモン・ソルジャー≫ ☆4 ATK/1900

 

 

 

「……メインフェイズ2。カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 

 ここまでの馬喰のプレイから、ユーキはリバースカードが破壊効果を持つものと予想していた。再度召喚した≪古代の機械騎士≫はその対策でもあったのだが、結果として裏目になったようだ。

 しかし、切り替えの早さはユーキの持ち味。自身のモンスターが維持されただけ良かったと結果を受け止め、ターンを渡した。

 

 

「オレのターン、ドロー!……まさか≪古代の機械騎士≫を超える攻撃力持ちが居ないからって安心してねェよなぁ?≪魔神・アークマキナ≫をリリースして、≪邪王トラカレル≫をアドバンス召喚!」

「む……」

 

 

 

≪邪王トラカレル≫ ☆5 ATK/2400

 

 

 

「召喚時にリリースしたモンスターの攻撃力以下の相手モンスターを破壊するコイツのイケてる効果を使えないのは残念だが……アタッカーとしても充分だ。バトル!≪古代の機械騎士≫に≪邪王トラカレル≫で攻撃!」

「……っ≪マシン・デベロッパー≫の効果。フィールドの機械族モンスターが破壊されるたびに、ジャンクカウンターを2つ置く」

「だからどうした!≪デーモン・ソルジャー≫でダイレクトアタックだァ!」

「…………っ!」

「ユーキ!」

「平気。問題ない」

 

 

 

ユーキ LP:3900 → 3500 → 1600

 

 

 

 怪しげな黒い光を放つ杖が叩きつけられ、その場を守り続けた機械騎士が遂に爆散する。続く傭兵の一撃に思わず顔を歪めるユーキに、しかし対戦相手の馬喰は嗤うでもなく、むしろ眉を顰めた。

 

 

「……2枚も伏せてんのに使わねぇとは……ブラフか?温存か?まぁいい、これで流れもオレのもんだろ。ターンエンドだ」

「ストップ」

「あん?」

「そのエンドフェイズに、伏せていた罠カード≪機械王―B.C.3000≫を発動。このカードはレベル4モンスターとしてモンスターゾーンに特殊召喚される」

 

 

 

≪機械王―B.C.3000≫ ☆4 DEF/1000

 

 

 

「罠モンスター……?何考えてやがる、壁にする気も無かったなら別に次のテメェのターンで発動すりゃ良かったじゃねぇか」

「≪機械王≫を発動したターン、自分は召喚・特殊召喚を封じられる。自分のターンに発動するには制約が辛い」

「は?」

「一応、場の機械族をリリースして攻撃力を上昇させる効果もあるけど……まぁデメリットが大きすぎよね……」

 

 

 そのあまりの扱い辛さにキットは苦笑し、馬喰は呆れた。フィールドに佇む当の本人(本機)は、我関せずと背筋を伸ばして玉座に座していたが。それでこそ王である。

 

 

「……まぁテメェがどんなカード使おうと構いやしねぇわ。負けたときの言い訳のためならお粗末だがよ」

「そんな事はしない。勝敗の責任はいつだってデュエリストにある」

「……ふん。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー……」

 

 

 馬喰のフィールドには攻撃力2400と1900のモンスター。ユーキのフィールドには守備力1000のモンスター。次のターンにどちらかのダイレクトアタックを貰えばお終いの状況に、ユーキは一瞬手を止め……しかし長考することなく、次の一手を繰り出した。

 

 

「≪カラクリ樽 真九六(シンクロー)≫を通常召喚」

 

 

 

≪カラクリ樽 真九六≫ ☆2 ATK/0 → 200

 

 

 

「更に伏せていた魔法カード≪アイアンドロー≫を発動。自分フィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみの場合、2枚ドロー。ただしこのターン、自分はあと1度しか特殊召喚できない」

「そいつはブラフだったか……罠モンスターは効果モンスターなのか?」

「テキストに従う。≪機械王≫は効果モンスターとして特殊召喚される。説明を省いてゴメン」

「……あーハイハイ。律儀にありがとよ。さっさと進めろ」

「じゃあカードを2枚セット。ターンエンド」

「っておいおい、シンクロしないのかよ。あと1回は特殊召喚できるんだろ?」

「これでいい。あなたのターン」

 

 

 チューナーと非チューナーが揃っているにも関わらず、シンクロしない。レベルが合うモンスターを持っていないのか、それとも別の理由か。

 消極的とも言えるプレイに喜ぶでもなく、むしろ感じた不気味さを振り払うように、馬喰は一層の気合を入れて山札を捲った。

 

 

「オレのターン、ドロー!……無能な王様はともかく、その樽。攻撃力200程度で棒立ちとは怪しすぎんなァ」

「≪カラクリ樽 真九六≫には攻撃対象になった時に守備表示になる効果、および1ターンに1度まで戦闘破壊されない効果がある」

「……さっきからテメェら、ヤケに馬鹿正直に効果を教えてくるな……」

「?」

「知らないカードの効果知りたがられたら、教えるくらい普通でしょ。リバースカードや手札の中身を教えるわけじゃなし」

「……そうかい」

 

 

 そう言って顔を伏せた馬喰を2人は訝しむ。しかし、上げた顔に浮かべた嗜虐的な笑みを見て、否が応でも気を引き締め直した。

 

 

「戦闘破壊耐性があるとはめんどくせぇ、めんどくせぇからご退場いただくか!リバースカードオープン、魔法カード≪死者への供物≫発動!次のドローフェイズをスキップする代償に、相手フィールドのカード1枚を破壊!去ねやガラクタ!」

「あっ……これが通ったら……!」

 

 

 ここで馬喰は牽制も兼ねて伏せていた虎の子のリバースカードを起動する。

 ドローの権利を捧げてまで相手の勝利を奪わんと迸る、破滅的な光。しかしそれを待っていたかのようにユーキの目が開かれ、指が滑らかに閃いた。

 

 

「罠カード≪シンクロ・トランスミッション≫を発動。相手メインフェイズ中に、フィールドのモンスターでシンクロ召喚を行う」

「……っ!このタイミングで、罠カードを使ってまでシンクロぉ!?」

「対象を失った≪死者への供物≫は不発!そして……!」

「レベル4・≪機械王―B.C.3000≫に、レベル2・≪カラクリ樽 真九六≫をチューニング」

 

 

 紀元前を統べた機械の王が、紀元後の叡智から生まれた2つのリングを潜り抜ける。消えゆく破戒の光が収まったその後に、新たな守護兵器が創造されていた。

 

 

「シンクロ召喚。現れよ……レベル6・≪甲化鎧骨格(インゼクトロン・パワード)≫。守備表示」

 

 

 

≪甲化鎧骨格≫ ☆6 DEF/1600

 

 

 

「このモンスターはシンクロ召喚したターン、戦闘・効果では破壊されない」

「チッ!なるほど、さっきのプレイングは確実にこのターンを凌ぐためか……ならバトルは意味ねぇな」

「それだけじゃないわ!≪甲化鎧骨格≫の攻撃力は2500!次のユーキのターンで攻撃にも転じられるわよ!」

「……ふん」

 

 

 頼もしき黒鎧に喜び勇むキット。その様子に馬喰は一つ鼻を鳴らし、己の手札に視線を落として……そして、ゆっくりとそのうちの1枚を引き抜いた。

 

 

「やれるもんならやってみろ。≪デーモン・ソルジャー≫と≪邪王トラカレル≫をリリースし ―― 」

「最上級モンスター!?いったい何を……」

 

「 ―― ≪合成魔獣 ガーゼット≫を、アドバンス召喚っ!!」

 

「はぁっ!?≪ガーゼット≫ぉ!?」

 

 

 叩きつけるようにデュエルディスクにカードが置かれると同時に、馬喰の背後に出現した闇から伸びてきた腕が傭兵と邪王を掴み上げ、そして引きずり込んだ。

 ゴシャリ、メシャリ、という生理的嫌悪感を抱く音が響いた後に現れたのは、ちぐはぐな姿をしたおぞましき魔獣。

 口からナニかの液体を滴らせながら首を鳴らすその仕草に、キットは思わず身震いした。

 

 

「コイツが俺の隠し球よ!≪ガーゼット≫の攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする!1900+2400!4300だ!」

「くっ……こんなレアカードまで……!」

 

 

 

≪合成魔獣 ガーゼット≫ ATK/0 → 4300

 

 

 

 守備表示で構える黒鎧をこのターンで処理することは出来ない。しかし今フィールドにいるモンスターでは次のターンに破壊される。次のターンにドロー出来ない自分にそれは致命的と判断した馬喰は、これまで何人ものアカデミア生を屠ってきた自身のエースに勝敗を託した。

 

 

「……しかしまぁ……ここまで耐えられるとは思ってなかったぜ。褒めてやるよ」

「……デュエルアンカーなんか使って揺さぶらないとデュエル出来ないような卑怯者が偉そうに……!」

「……ピーチクパーチクといつまでも腰抜けの外野が五月蝿ぇなぁ。そうでもしないとデュエルを受けてくれないからねェ、プライドの高いデュエルアカデミア生様は。一般人とは気位の高さが違ってまったく嫌になる」

「はぁ?」

 

 

 空いた右手で自分の顔を掴んだ馬喰は、その指の隙間から射竦めるような視線をキットに向ける。これまでの嘲りとは違う、明確な怒りが、その眼差しには宿っていた。

 

 

「イラつくんだよねェ。学園に入っただけで勝ち組、みたいなツラして他人を見下したり、テメェみたいに遊び呆けてる奴を見ると。力が伴ってんならまだしも、そうじゃない奴なんか特にねェ。だからそういう奴には教えてやんのさ!たまたま上手くいっただけのラッキーマンにも、堕落していくクズ野郎にも、テメェの弱さを!現実を!デッキを失う後悔を味わえば心も引き締まるってもんだよねェ!」

「み……身勝手な……!アンタが私達の、何を知って……!」

 

 

 事情は分からない。分からないが、確かにこの男は単なる害意以上の悪意を自分に向けている。気丈に睨み返しつつも、その圧に脚を下がらせかけていたキットの前にユーキが位置取った。自身の繰る黒鎧のように、理不尽な威圧からキットを守らんとして。

 

 

「……あなたにはあなたなりの理由がある。それはなんとなく理解した。けれど下した相手をクズと罵り、過剰なアンティルールでカードを巻き上げる。その振る舞いはあなた自身の価値を、あなたが嫌う相手以下に貶めている。その事に気づいてる?」

「はっ!御高説けっこう!クズで結構!境遇に胡座かいてありがたみもせず、ただ浪費する!夜中まで遊び歩いてるテメェらもそのクチだろうが!競争のレールにも立てねぇオレ程度に負けるくらいなら、道連れにクズになりやがれ!!」

 

 

 横暴極まりない憤りを露わに、超えられるものならやってみろと言わんばかりに、血に飢えた白髪の魔獣が主人と共に相手を睨みつける。

 逃げることなく、その視線を真正面から受け止めたユーキは。

 

 

「クズだクズだと、他の言葉を知らないの?……でも、分かった」

「あぁ!?」

「あなたに、勝つ」

 

 

 言葉を紡ぎながら、ゆっくりと顎に回ったバンドに手を伸ばし、パチン、と音を立ててロックを外す。

 

 

「あなたに勝って、キットへの認識を改めさせる。アカデミア生がただ遊んでいるわけじゃないと、証明する。あなたに恥じないように生きていると、示してあげる」

「……ユーキ……」

 

 

 そして、前がよく見えるように。

 目の前の相手ともっとハッキリと目が合うように。

 ガバリとヘルメットを剥ぎ取ってキットに投げ渡しつつ。

 

 

 

 

「―― 覚悟しろ」

 

 

 

 

 勢いよく飛び跳ねる赤髪をそのままに、宣言した。

 

 

「……っせぇよナヨナヨ野郎!んなデカい口はオレの≪ガーゼット≫を超えてから言いやがれぇ!カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

「野郎じゃない。()のターン。ドロー」

「……ん?」

 

 

 音を立てて引き抜いたカードを目にしたユーキの口元が、一瞬吊り上がる。勝利への回路を埋めるピースが、ただ一枚、その手に収まっていた。

 

 

「メインフェイズ1!チューナーモンスター≪チェンジ・シンクロン≫を通常召喚!そして≪マシン・デベロッパー≫の効果発動!ジャンクカウンターが2つ乗ったこのカードを墓地へ送り、そのカウンターの数以下のレベルのモンスターを墓地から特殊召喚する!選ぶのは ―― ≪ニードル・ガンナー≫!」

「≪ニードル・ガンナー≫?んなカード、いつ墓地に……≪デストラクション・ジャマー≫か!」

「正解」

 

 

 

≪チェンジ・シンクロン≫ ☆1 ATK/400

≪ニードル・ガンナー≫ ☆1 DEF/100

 

 

 

 ユーキの言葉に違和感を覚えていた馬喰は、しかしそれまでとは打って変わった気迫をぶつけてくる相手に呑まれまいと気を引き締める。

 翼を持つ小型のチューナーと、両手が鋭い槍となった人型機械。それらが黒鎧と並んだ事により起こる結果は、想像するに容易かったからだ。

 

 

「……ちっ!だが狙いは見え見えだ!レベル8シンクロはさせねぇよ、罠発動!≪妖怪のいたずら≫!コイツの効果でフィールドの全てのモンスターのレベルはターン終了時まで2つ下がる!」

「なっ、相手モンスターのレベル変動トラップ!?なんでそんなピンポイントなカードを!?」

「最近のアカデミア生様はこれ見よがしにシンクロしてくるからねェ。吠え面が見たくて入れてみたのさ。まぁオレの趣味には合わないが……んあ?」

 

 

 それまで使っていたような破壊系ではないトリッキーな罠に慌てるキット。それに得意気に返した馬喰。だったが、その結果に思わず疑念の声を上げた。

 

 

 

≪甲化鎧骨格≫ ☆6 → ☆4

≪チェンジ・シンクロン≫ ☆1

≪ニードル・ガンナー≫ ☆1

 

 

 

「……レベル1のヤツらはレベル0にはならないのか」

「レベルを下げる効果の適用下限はレベル1まで。レベル0にはならない。そういうことも、デュエルアカデミアでは教えてる。お勉強になったね」

「はん、ありがとよ。だがレベル8シンクロ出来なくなったことには変わりはねぇ!レベル5か6で満足しなぁ!」

「それは断る。あなたがクズと呼んだカードが、私を助けてくれるから」

「あぁん!?」

「罠カード≪エンジェル・リフト≫を発動!墓地のレベル2以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚する!来て ―― ≪メカウサー≫っ!」

 

 

 

≪メカウサー≫ ☆2 ATK/800

 

 

 

 使い慣れぬ罠だったため少々想定外はあったが、目論見は達した。これでユーキの反撃の芽は摘んだ。

 そうほくそ笑んでいた馬喰は、墓地から現れタシタシと脚を踏み鳴らし威嚇する機械ウサギを目にして頬を引き攣らせる。

 

 

「なっ……ソイツは……レベル2!?ってことは……!」

「これでレベル合計はもっかい8!ユーキ、やっちゃえーっ!」

「レベル4・≪甲化鎧骨格≫、レベル1・≪ニードル・ガンナー≫、レベル2・≪メカウサー≫に、レベル1・≪チェンジ・シンクロン≫をチューニングっ!」

 

 

 キットの声援に合わせ、ユーキが高らかにシンクロ召喚を宣言する。1つの光輪を、黒鎧が、針人形が、白ウサギが、次々と潜り抜けていく。馬喰にそれを止める術はなく、歯軋りをしてそれを眺めているしか無かった。

 

 

集いし願いが、新たな命と未来を築く!夢よ花開け!シンクロ召喚!

 

 

 一体何がお出ましになるのかと身構えていた馬喰は、光の束から姿を見せ始めたそれの姿に目を丸くする。

 今でも人々の記憶から色褪せない伝説の竜≪スターダスト・ドラゴン≫。直接拝んだことはなくとも、映像で幾度も目にしたそれが現れたのかと戦慄したからだ。

 

 しかし、違う。シルエットは似ている、ただそれだけで、それ以外の何もかもが違う。

 

 神々しい蒼白ではなく、くすんだ鈍色の体色。

 生命(いのち)の躍動を感じない、冷たく固い鉄の身体。

 そしてそれを形作るのは、不均等なパーツの数々。

 異なる機械を無理矢理に接続した、剥き出しの配線が其処彼処に飛び出ている、不恰好な姿。

 

 それは、かつて世界を救った英雄の象徴的存在を模した、ジャンクの集合体だった。

 

 

 

 

「目覚めよ ―― ≪ダストスター・ドラゴン≫!!」

 

 

 

≪ダストスター・ドラゴン≫ ☆8 ATK/2500

 

 

 

 打ち捨てられた孤独な機械達が、今一度立ち上がらんと足掻き生まれた、紛い物だった。

 

 

 

 

 

「は……ははっ!なんだよ!あんな仰々しい口上を唱えておいて、出てくるのがクズ鉄の塊か!しかもあの不動遊星のエースのパチモンとは!なんとも不細工で涙が出るねェ!」

「そう、この子は無数の鉄の塊。クズと罵られようと、不要と蔑まれようと、打ち捨てられようと、それでも生きたいと懸命に願う小さな命が集まって生まれた不屈の竜。やり方を間違え歪んだあなたに、この子が新たな道を指し示す!」

「やれるものならやってみやがれ!クズがどれだけ集まろうがハナから次元の違うヤツにゃ敵わねぇんだよ!」

「お望み通り!」

 

 

 馬喰の咆哮に、ユーキは覇を持って返す。英雄の偽物が、それに応えるように声を出せない喉を震わせ、吠えた。

 

 

「≪ダストスター・ドラゴン≫の効果発動!このカードのシンクロ召喚に成功した時、墓地のレベル2以下の機械族モンスターを3体まで装備カードとする!≪ニードル・ガンナー≫、≪メカウサー≫、≪カラクリ樽 真九六≫を装備!」

「モンスターを墓地から装備カードに!?一体何を……」

「更にシンクロ素材となった≪チェンジ・シンクロン≫の効果発動!シンクロ素材となった時、相手フィールドのモンスター1体の表示形式を変更する!≪合成魔獣 ガーゼット≫を守備表示に変更!」

「なっ……≪ガーゼット≫の守備力は……!」

 

 

 

≪合成魔獣 ガーゼット≫ ATK/4300 → DEF/0

 

 

 

「ナイス!これなら攻撃力がいくら高くても関係無いわ!」

「そして≪ニードル・ガンナー≫の効果!このカードをシンクロ素材としたモンスターが相手の守備表示モンスターを攻撃した時、守備力を超えた分だけ戦闘ダメージを与える!」

「加えて貫通効果……だとぉ!?……だが、だがまだだ!攻撃力2500なら俺のライフはまだ残る!」

 

 

 装備カードとなったモンスターのパーツが追加され更にゴテゴテした様相になった≪ダストスター≫と、次々と畳み掛けてくるユーキの宣言を前に、しかし馬喰も負けじと気勢を張る。確かに≪ガーゼット≫攻略の手立てを有していたのは認める。けれど言葉の通り、まだライフは残るのだ。

 とはいえ、"まだ"はユーキの側も同じこと。まだ屑星竜は、その重厚な廃殻の奥に秘めた真価を晒していない。

 

 

「≪ダストスター≫の更なる効果発動!装備したモンスターを任意の枚数墓地へ送り、その攻撃力分、自身の攻撃力をこのターン中アップする!≪メカウサー≫と≪カラクリ樽 真九六≫を墓地へ!」

「なっ!?装備カードにしたのはこのため……!」

「つまり≪ダストスター≫の2500に800+400が加算!合計は……」

「3700……オレのライフを上回ったぁ!?」

"盟友の死力(パワー・オブ・バディーズ)"!!」

 

 

 

≪ダストスター・ドラゴン≫ ATK/2500 → 3700

 

 

 

 外接された2つのパーツが光を放ち、≪ダストスター≫の全身にエネルギーを満ち渡らせる。小さき命を燃えたぎらせるその様は、儚くも強く、眩しいものだった。

 

 

「―― バトル!守備表示の≪合成魔獣 ガーゼット≫を≪ダストスター・ドラゴン≫で攻撃!」

「よし!この貫通攻撃が通ればユーキの……!」

「……ははっ!はははははっ!」

「っ!?」

 

 

 絶体絶命。

 そのはずの相手のにぃ、と裂けた口元に、キットが身をこわばらせる。悪魔は追い詰めたと思った時が、一番怖い。伏せられた最後の牙が、解き放たれた。

 

 

「念には念を入れるもんだ!罠発動!≪炸裂装甲(リアクティブアーマー)≫っ!攻撃宣言したモンスターを破壊するぅっ!」

「なっ、最後の最後までそんな……!」

「ははははははははっ!砕け散りなぁっ!」

 

 

 どこまでも相手を殲滅せんとする執念が爆炎となり、迫る。直撃すれば屑星竜は跡形もなく粉々になるだろう。その様を幻視して呵呵大笑する悪意の使徒に、ユーキはそれでも揺らがす、動じず。自分の見出した勝利への道へ、屑星竜を導いた。

 

 

「―― お望み通り砕けてあげる。≪ダストスター≫の効果。カードが破壊される時、代わりに自身に装備されたカードを1枚墓地に送ることが出来る」

「……は?」

「最後の装備モンスター、≪ニードル・ガンナー≫を墓地へ!"朋友の献身(ヴィクティム・コンヴィクション)"!」

 

 

 瞬間、屑星竜と一体化していた針人形が勢いよく飛び出し、爆炎の前へと躍り出た。そのまま大の字に体を広げ、回転する。

 それはまさしく、盾。己の意思を受け継いだ仲間の元へはそよ風たりとも届かせまいとする、決死の犠牲。そんな、ただ一体の孤独な奮闘は……武骨で不器用な竜を、確かに未来へと届けきった。

 

 

「なっ……なぁあっ!?」

「これがあなたがクズと呼んだ者達の足掻き!折れても欠けても壊れても!それでも前を向き続ける意志の光をその身に受けろ!」

「くっ……くぅぅ……!?」

 

 

 全身のマシン各々が発したエネルギーが、喉元へと収束する。

 漏れ出る光は力の凝縮に合わせ、赤から青へと変じていく。

 ついに白へと至った時 ―― 屑星竜は待ち侘びたように口蓋を開き、その奥の不恰好な砲門を、立ち塞がる悪魔へと向けた。

 

 そして。

 

 

 

 

 

「吼えろ!"シューティング・レイ"っ!!」

 

「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 集いし絆の輝きが、青年の暗い世界を包み込んだ。

 

 

 

 

 

馬喰 LP:3500 → 0

 

 

 

 

 

 

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