Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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10話:幕間――憑りつかれた者たち

※ ※ ※

 

 

 

 夕暮れの光に照らされる中、俺達は呆然として動けなくなっていた。

 

「ほっほっほ、驚かせてしまったかの」

 

 目の前にいるのは、黄土色のスーツを着た小柄な老人。

 その正体は、俺達の学び舎である桜龍高校の校長先生その人。

 そして、会長たち生徒会にドラゴンの力を与えた張本人──いや、本当の姿がドラゴンなら張本龍って言うべきか。

 小さすぎる特徴的な身体は、見間違えるはずがない。

 

「すいません、ちょっとビックリしてしまって。それで校長先生、どうされたんですか?」

 

 先に正気を取り戻した翔子が言う。

 

「なに大したことではないぞ。ちょっとしたお礼を言いに来たんじゃよ」

「お礼?」

 

 そこで俺はようやく体の自由を取り戻した。

 お礼って何のことだ? 少なくとも校長先生相手に何かをした覚えはない。

 

「生徒会の仕事を手伝ってくれたそうじゃからの。そのお礼じゃよ」

「それって倉庫の物品整理のことですか?」

「あれは俺達も生徒会に用事があったんで、それのつい……」

「──それではない」

 

 思い当たったことを口にすると、校長はそれを遮った。

 

 

「クリーチャー退治についてじゃよ」

 

 

 その言葉と共に場の空気が一変した。

 校長先生は笑っているのに、その笑みに何かプレッシャーのようなものを感じる。

 背筋がぞくりと震えて、血の気が引いていく感覚が襲ってきた。

 隣を見れば翔子も顔を青くしていて、動揺を隠せていない。

 そんな俺達に、校長先生は好々爺然とした態度で言う。

 

「別に怖がる必要はないぞ。取って食おうというわけではないのだからな」

「なんで、あなたが……」

 

 そのことを知ってるのは生徒会だけだ。

 だが、その生徒会はクリーチャー絡みのことを校長先生に報告はしてないと言っていた。

 それは当然ながら、俺達の事も言ってないってことでもある。

 なら、どうして校長先生が俺達のことを知っているんだ。

 

「ほっほっほっほ、年寄りを舐めてはいかんぞ。隠し事というのは案外簡単にバレるものじゃ」

 

 まるでこっちの心の内を見透かすように校長先生は笑う。

 ただ笑っているだけのはずなのに、何故か胡散臭さも感じてきた。

 

「そこの隠れとるクリーチャー共よ、貴様らにも礼を言っておこう」

《何なんだ、この爺さん。只者じゃねぇぞ》

《だな。ただのジジィのはずなのによ、放ってる雰囲気がヤバいぞ……!》

 

 ジョニーとクロスファイアも警戒してるのが声から分かる。

 一体何なんだ、この人は。

 

「ちょっと待ってよ、ライト! 何してるの!?」

「えっ?」

 

 張り詰める緊迫感に気圧されていると、翔子が突然声を荒げた。

 その声に従って視線を下に向けると、俺の手は無意識にデッキケースに伸びていた。

 まさか、無意識に真のデュエルへ持ち込もうとしてたのか?

 

「ほほほ、少し驚かし過ぎたみたいじゃな。今日はここまでにしとくかのぉ」

 

 すると、校長先生は踵を返した。

 

「帰り道には気を付けるのじゃぞ」

 

 警戒する俺達を歯牙にもかけず、そう言って校長先生は校舎へと歩いていく。

 結局、俺達はその後ろ姿が見えなくなるまで動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、あやつに縁ある者ではないようじゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 校長先生が去っていった後、俺と翔子は予定通り〈トレカ・キャット〉へ向かう。

 だが、その道中はかなり暗いものになっていた。主に俺のせいでだ。校長先生の出していたプレッシャーに当てられたせいで、生徒会室を出て行った時にあった明るい雰囲気は完全に霧散していた。

 

「らっしゃっせー」

 

 店内に入ると、いつも通り気が抜けてる店員の声が聞こえてくる。

 ここ数日間が波乱の日々過ぎて、その声を聞くだけで懐かしさが込み上げてくる。

 そんな感覚が、校長のプレッシャーに気圧されていた心を解してくれているような気にさせてくれた。

 

「やっと調子が戻ったみたいだね」

「あ、ああ、そうみたいだな。なんかここに来たら落ち着いてきた」

 

 気づくと翔子に顔を覗きこまれていた。

 その表情は安堵に包まれていて、どうも余計な心配を彼女にさせてしまったらしい。

 

「ライトが本調子に戻ったし、さっさとデュエルスペースに行こ。二人も来てるだろうしね」

「そうだな。水上にまたフリーを吹っ掛けられそうだ」

「確かにリンなら言いそうだね」

 

 そうしてデュエルスペースへ行こうと、翔子が小走りで俺の前へ出た時だった。

 

「あぁったく、ちょいとカードを物色だな。弄れるところはやってみるしかねぇか」

 

 進行方向にあるカードのショーケース、その物陰からちょうど人が出てきた。

 急だったせいで俺も制止の声が出なかった。

 

「「あだっ!」」

 

 タイミング悪く二人は互いに相手に気づかず、見事に激突して尻もちをついた。

 

「大丈夫か、翔子」

「うん、大丈夫。ちょっと周りを見てなかったよ」

「ならよかった……あの、連れがすいまんせん。大丈夫ですか……って」

 

 翔子の腕を掴み引っ張り上げる。そしてぶつかった相手へ謝ろうとして、そこで俺は言葉が詰まった。

 床に尻もちをついていたもう一人は男だった。

 カードショップで見るのは珍しい甚平を着ていて、頭にバンダナを巻いている。よくテレビで陶芸家とかの芸術の職人がしているような恰好だ。

 

「っとと、ごめんなさい。だいじょう……ってえ!?」

 

 立ち上がった翔子も自分がぶつかった相手の姿を見て驚きが隠せなかった。

 

「「尾瀬先輩!?」」

 

 彼女がぶつかった相手は先日ステップルに憑りつかれていた美術部の三年生、尾瀬先輩だった。

 そうして俺達が驚いていると、物陰から更に男が出てきた。

 

「尾瀬先輩、大丈夫ですか?」

「はぁ!?」

「おっとぉ?」

 

 出てきたのは桜龍の制服を着た黒髪の男。

 ここ最近俺達の教室に出入りしている友人、御崎賢哉だった。

 

「おう、大したこたぁねぇよ」

「ならよかったです」

 

 話している二人は、まるで数年来の友達みたいな感じの空気を纏っていた。

 いや、なんで? この二人に接点は一欠けらもなかったはずだ。

 学年は二つも離れていて、部活だって運動系と文化系で正反対。それこそ共通点なんて、それぞれがクリーチャーに憑りつかれた被害者ぐらいしかない。

 しかも、それは当人たちが知りようのない事である以上、共通点は実質無いと言っていい。

 

「あれ? ライトじゃないか。それに神上さんも」

「お、おう……珍しいな、賢哉がカードショップに来るなんて」

「まぁね。ちょっとした息抜きだよ」

 

 俺達に気づいて、いつもと変わらない爽やかフェイスで応答する賢哉。

 その手にはデュエマのデッキケースを握っている。

 すると、翔子が突然顔を近づけて耳打ちをしてきた。

 

「ねぇ、賢哉君ってゴリゴリの武道少年って聞いてたんだけど。デュエマやるの?」

「一応やる。中学で会った時からカジュアルにやってたよ」

 

 翔子の疑問も分かる。

 確かに、今の賢哉は空手部男子期待の新星なんて言われるほどの芸達者だ。部活でもしてる空手の他にも剣道を修めた埒外高校生で腕っぷしは並大抵の巨漢なんて目じゃない。

 しかし、武道一本のストイック野郎というわけでもない。

 そこはちゃんと息抜きってものを知ってる。

 その息抜きに当たる物の一つがデュエマだ。

 

「賢哉君がいるのは分かったけど、尾瀬先輩は何で?」

「俺に聞くなよ、分かるけねぇだろ」

「なんだオメェら、人の事をコソコソと言いやがって」

 

 と、俺達がコソコソ話をしているのが気に障ったらしく、尾瀬先輩が凄みながら言う

 いや、すいません。でも俺達からすると先輩がここにいるのがそれぐらい予想外なんです。

 

「まあまあ、先輩も押さえてくださいよ。きっとライトたちも先輩がショップにいるのが意外だって思ったんですよ。先輩って芸術家って感じがありますから」

「けっ、どいつも人を絵描き狂い扱いしやがって。確かに俺は芸術を愛してるがな、それ一辺倒じゃねぇってんだよ。昨日ぶっ倒れちまったしな、息抜きでデュエマしに来たんだよ」

 

 凄んでくる先輩を賢哉が宥めると、先輩は吐き捨てるように言う。

 

「ほー、二人とも息抜きにね」

「先輩がここにいる理由も分かったが、なんで賢哉と一緒にいるんだ?」

 

 二人が〈トレカ・キャット〉にいる理由は分かった。

 ただそれはそれとして、この二人がこんな仲良くしてるのかは未だにさっぱりだ。

 

「別に特別なことはないよ? ただデュエルスペースでデッキを見てたら、先輩にフリー対戦を頼まれてさ。対戦中に色々話したんだよ」

「ちょうど暇そうにしてて、かつ同じ学校の制服着てる奴がいたからな。他の奴に声かけるより楽だったんだよ。そっから世間話しながら対戦してた」

 

 なるほど、世間話をしながらの対戦か。

 カードゲーマーあるあるだな。特に歳が近いとすぐ意気投合できるものだ。

 二人の経緯に納得していると、賢哉が「そうだ」と言って続けた。

 

「ねぇ、二人も対戦しようよ」

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 賢哉からの提案を受けて俺達は一緒にデュエルスペースに向かった。その道中に俺と翔子は先輩に自己紹介を済ませると、先輩から「ああ、倒れた俺を運んでくれた奴らってお前らか」という少し予想外な反応が返って来た。なんでも、目を覚ました後に保健室の先生から俺達の事を聞いたらしく、「助けてくれてありがとよ」とお礼も言ってくれた。

 

 そうして着いたデュエルスペースは、いつも通り色々な人が対戦や買ったカードを使ったデッキ調整をしていて騒がしかった。

 俺にとって普段と違う点があるとしたら、既に来ていると思っていた二人──リンとロムがまだ来ていなかったことぐらいだ。

 そうして俺と賢哉、翔子と尾瀬先輩で対戦することになったのだが──

 

S(シールド)・トリガー、王闘の大地。デッキをシャフル後、上から五枚を表向きにし、その名からドラゴンかNEOクリーチャーを一体出す。《オウ華武器(カブキ)・オウ禍武斗(カブト)》をNEO進化させてバトルゾーンへ」

「サムライからカブトぉ!?」

 

「《ハイパー・ザ・ジョニー》でシールドに攻撃。その瞬間《ナッシング・ゼロ》! 効果でデッキから上三枚を表向きに。三枚とも無色! よってブレイク数はプラス3! マスター・T(トリプル)・ブレイカーの効果で先輩のクリーチャーを破壊してからブレイク!」

「トリガーはねぇ……」

「相手の場とシールドが更地になったことで、EX(エクストラ)WIN達成!」

 

 俺は見事に負けました。翔子は綺麗にEXWINまで決めたのに。

 流石に《カブト》が出てきたら勝てねぇよ

 

「あの盤面は崩せねぇ」

「どうだい? 僕も中々にやるだろ?」

「やられたよ、まさかメクレイド積んでるサムライに《カブト》と《一音(ワンオン)》が入ってるなんて思わねぇよ」

 

 賢哉はしてやったりと言いたげに不敵に笑う。

 そんな姿に俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 いや、ゴリゴリの制圧ロック決められたら笑うしかないって。

 

「さあ、行くよ先輩! 《夢の弾丸》でシールドを全部ブレイク! 《ハイパー》でトドメだ!」

「《ジョニー》三枚揃い踏みとかありかよぉ!?」

 

 一方、翔子と先輩はもう一度対戦していて、彼女が三種類のジョニーを使って先輩をボコボコにしていた。

 

「凄い盤面だね」

「だな。呪文は文明一つしか止められないが、マナにあるカードから予測できれば一番キツいを止めれる。クリーチャーのトリガーは完全停止、詰めにブロックできないアタッカーが飛んでくる。見事な確殺ハッピーセットだな」

 

 やられた先輩は悔しさのあまりテーブルに伏せっちゃってるよ。

 そんなカオスな光景を見ていると、賢哉が言う。

 

「ねえ、ライト。この前は助けてくれてありがと」

「は?」

 

 言われたことに驚いて賢哉の方を見ると、そこにさっきまでしていた不敵な笑みは無かった。

 代わりにあったのは儚さを感じさせる微笑。優男なこいつがすると、妙な色気が出てるような気がする。少なくとも、男の俺相手にするような表情じゃない。

 

「急にどうした? それに礼は助けたあの日にしてただろ」

「いや、まぁ……そうなんだけどさ、さっきのデュエマが楽しくて。なんかまたお礼が言いたくなったんだ」

「お前マジでどうしたんだよ?」

 

 その答えに困惑するしかなかった。

 デュエマが楽しかったのは分かったが、それで俺に礼を言うのは変だろ。

 すると、賢哉は楽しそうに笑った。

 

「いやさ、現実だとライトとは久々にデュエマしたでしょ? それこそ半年ぶりだよ。楽しくて、悩んでた事がどうでもよくなったんだ」

「デュエマやっただけで大袈裟だっての。そもそもなんだよ、現実だと久々って。まるで夢じゃやってるみたいなこと言うじゃねぇか」

「やってたよ」

「はぁ?」

 

 賢哉の言ったことに思わず変な声が出た。

 その顔が余程変だったのか、賢哉は「ぶふっ」と吹き出して笑う。

 いや笑うなよ、いきなり夢の中でお前とデュエマしてたって言われたら困惑するだろ。

 それから笑いが収まると賢哉は話を続けた。

 

「ライトに助けてもらった後に見た夢だったんだ。夢の中の対戦だと、アニメみたいにクリーチャーが実体化してたよ」

「えっ……」

「夢の中の僕は強くなりたいって焦りに囚われていて、おかしくなってた。そんな僕をライトが止めようとして、デュエマで戦ったんだ」

「ちょっ、おい」

「僕がサムライデッキであと一歩まで追い詰めたんだけど、最後の最後でライトは使ってたマジックデッキで逆転して、僕の逆転負けだよ。変な夢だよね」

「なっ……」

 

 夢の内容に言葉が詰まった。

 それはコイツが《暴覇斬空(ボルバルザーク)》に憑りつかれていた時のデュエルだ。

 まさか朧気に記憶として残ってるのか? それが夢になってるのかよ!?

 

「……妙な夢見るな。夢って深層心理の表れっていうけどよ、どんな状態だっての」

「多分だけど、あの日は伍代さんに負けて自分の軸が揺らいでたんだ。同年代に負けたのは伍代さんが初めてだったからさ。勝つイメージも湧かなかった。だからより勝ちたいって思ったんだよ。一回負けただけなのに焦り過ぎだよね」

「お前……」

 

 呆れ顔で「あはは……」と苦笑する賢哉。

 その話を聞いていて、納得できた。

 クリーチャーに憑りつかれたあの日、賢哉はメンタルの根底から揺らいでいたんだ。同年代で負けなしという立場は、こいつにとってのアイデンティティになっていて、それは同年代で異性の伍代に負かされたことで揺らいだ。

 クリーチャーは人の心の闇に漬け込んで憑りついてくる。そしてその闇を増幅させる。

 賢哉は焦りを利用されたんだ。

 

「でも、その焦りは間違ってるってことも頭のどこかで分かってたんだ。夢の中のライトが叱ってくれたからさ」

「夢の中の俺はなんて言ったんだ」

「ボロボロになりながら『似合わねぇんだよ』って怒鳴ったよ。それのお陰か、夢から覚めた後は負けたことはそんなに気にならなくなってた。吹っ切れてたんだよ」

「……そうか」

 

 賢哉が明るく笑うと、俺もそれに引っ張られて笑った。

 

「だからかな、もう一度ちゃんとお礼を言いたかったんだ。夢のことで言われても困るかもしれないけどさ」

「そうだな……確かに変だ。でもありがたく受け取っとく」

 

 こいつにとっては夢だけど、俺にとっては現実にあったことだ。

 それで感謝されるなら嬉しいに決まってる。

 少し空気が湿っぽくなった気もするが、多分気のせいだ。

 

「よっしゃぁ!! やっと一勝取れたぜ!」

「「っ!?」」

 

 そんな時、デュエルスペースに歓喜の叫びが響いた。

 声の発生源はすぐ近くにいた尾瀬先輩だ。どうやら翔子と三戦目に突入して、勝利を掴んだみたいだ。喜びのあまり立ち上がってガッツポーズまでしてる。

 

「尾瀬先輩、声が大きすぎるよ……」

「おっと……わりぃ」

 

 翔子が声のデカさを指摘すると、照れくさそうに頭を掻く尾瀬先輩。

 場の空気はすっかり先輩の喜びに塗りつぶされていた。

 そこへ店員の気の抜けた声が響く。

 

 

「そろそろ店舗大会の受付、終了の時間になります~。まだの方はお急ぎくださぁい」

 

 

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