Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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リアルが忙し過ぎるせいで更新が全然できなくて申し訳ない。
まさか二週間以上できないとは思わなんだ……。
デュエキングで来るカードのお陰でインスピレーションは湧いてきたぞ。
それはそれとして、やっと書きたい話にたどり着いたぜ

『夢と旋律』編、始まります!


12話:夢と旋律――庵野水晶は少し不安げ

 愛着を極めたものは己という存在を定義する確固たる核となる。

 勉学や運動、音楽や手品といった道楽。

 その原点が如何なるものであっても、己が内にある情熱を持てる力の限りに打ち込み形作ったそれは誇りとなり、嵐に負けぬ大樹の如く堅牢な自身の在り方と化すのだ。

 

 だが、しかし。

 もしも己の誇りを失った時、人はどうなるのだろうか。

 渾身の熱を込め、己という存在にとって核となったそれを失ったものはどうなってしまうのか。

 それも、己の意志が介在せず、全てを奪った時にはどうなってしまうのか。

 

 

 その答えは酷く明快。脆く崩れ落ちていくのだ。

 

 

 いうならば、建つ家が大黒柱どころか基礎から崩れ落ちていくようなもの。

 今まで定まっていた形が消え去り、残るのは残骸たる己のみ。

 それは完成したパズルをゼロからやり直させられ、挙句ピースの色すら変えられるという恐ろしいニューゲーム。

 

 そこからの再起はあまりにも困難だ。

 新たな核となるものを定めるだけでも、その道行は茨の道。

 

 そして、何よりも厄介なのは自身が見通す景色の変貌だ。

 己がただ燻ることしかできないとき、一つの道を貫く他者の姿は酷く輝いて見える。

 それは、まるで暗黒の夜空に唯一浮かぶ標の星や、夜明けを終わらす太陽のように。

 一切の異論を許さない程、どうしようもなくに美しいのだ。

 

 なのに、それはどうしようもないほど恐ろしい。

 

 それは自らの惨めさを突き付け、そうあれなかったことへの嫌悪を無際限に吐き出し続けさせ、貫く姿に憎悪の炎が燃え盛るのだ。

 

 そして、美しいものにそれを見出す悍ましい己の在り方に自己嫌悪は加速していく。

 美しいものを想う愛は、悲しみと憎しみの始まりになり得てしまう。

 狂いきれなければ、待っているのは正気と狂気の板挟み。

 己の力だけでは、その地獄から逃れることはできない。

 

 

 

※ ※ ※ 

 

 

 

 昼休み。それは仕事や勉学に励む者に与えられる一時のオアシス。

 普段から賑やかである桜龍高校は昼休みとなると、その賑やかさはより一層増していく。

 購買部では壮絶な総菜パンの争奪戦が繰り広げられ、食堂では互いの拘りを譲らぬ信奉者によるきのこたけのこ戦争もとい麺類戦争が激しさを増していた。もはや平和なのは弁当を持ってきた者達だけである。

 

「はぁ……」

 

 そんな中の喧騒から離れた中庭のベンチに、一人の少女がいた。

 ボブカットの茶髪に少し弱気な雰囲気を纏って、庇護欲を駆り立てる美少女だ。

 庵野水晶(あきら)。ピカピカな高校一年生である。

 

 膝上には自身の弁当が置かれており、今から昼食を取ろうとするところであった。

 弁当箱の中には、野菜や唐揚げをはじめとした小物の数々が収まり、しっかりと手間暇をかけて作られていることが伺える。他の女子から見られれば羨ましがる出来であった。

 しかし、今の彼女はかなりの落ち込みオーラを放ち、中庭に流れる楽しげな空気と半端ないミスマッチを引き起こしていた。心なしか彼女の付近にだけ色彩が暗くなっているようだ。

 

「あーきら! 何してるの?」

「きゃっ!?」

 

 そんな水晶に背後から抱き着いてくる一つの影があった。

 勢いよく抱き着かれたことで水晶の身体が揺れる。

 水晶は驚きながらも後ろを振り返り、抱き着いてきた犯人の正体を瞳に収めた。

 

「お、お姉ちゃん」

 

 そこにいたのはロングの金髪をなびかせ、お淑やかな雰囲気を纏う少女であった。

 庵野しゅうら。高校二年の水晶の姉である。

 

「お昼一緒に食べましょ」

「う、うん……いいよ」

 

 突然現れた姉の姿に驚きながら、水晶は提案を受け入れた。

 しゅうらは水晶の横へ座ると、持っていた包みを膝上で広げる。

 現れたのはしゅうらの弁当であった。姉妹ということもあり、弁当箱は同じデザインの色違いだ。当然ながら、弁当の中身も同じである。

 

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

 

 食事の挨拶を済ませると、二人は弁当に箸をつける。

 

「うん、今日もお母さんのお弁当は美味しいわね」

「そうだね」

 

 母親お手製の品々に舌鼓を打ちながら、しゅうらは頬を綻ばせる。

 水晶もおかずを頬張り、その味に笑みを浮かべていた。

 しかし、その笑みには小さなぎこちなさがあった。昼食を楽しんでいるが、別の事が頭から離れずに楽しみきることができていないといった感じである。

 

「……ねぇ、水晶。何かあった?」

「えっ」

 

 そんな妹の違和感を姉は見落とさなかった。

 しゅうらが首を傾げながら問うと、水晶は言葉を詰まらせる。

 水晶はしばしの逡巡ののち、観念したように話し始めた。

 

「……うん、ちょっとね」

「なら当ててあげる。ライトの事でしょ?」

「えっ!?」

 

 突然上がってきた名前に水晶は顔を赤くさせた。

 そんな妹の表情にしゅうらは愛おしそうに笑う。

 

「そ、そんなに分かりやすい……?」

「ええ、すっごく分かりやすいわ。それもすっごく心配してるって感じよ」

「……そんなに出てるんだね」

 

 しゅうらは得意げに言うと、水晶は表情を暗くさせた。図星である。

 

「うん。ちょっとライト君のことでちょっとね」

「あの子ったら、何かあったの?」

「いや、変なことがあったんじゃないんだよ? ただ、ちょっと心配で」

「心配かぁ……なるほどね、何となく分かってきたわよ」

 

 しゅうらは納得を示すように頷いた。

 どうやら愛しい妹は人の心配をして気を重くしているようだ。それも、しゅうらにとっても他人事ではない相手が原因らしい。

 

「ライトったら、また色々とやってるみたいね」

 

 脳裏に浮かぶ相手の姿にしゅうらは苦笑いを浮かべた。

 翔野来人。庵野姉妹にとって幼馴染である少年だ。水晶にとってはクラスメイトでもあるため、その行動は嫌でも目に入る。ならばそこで何かあったのだろう。

 

「それで? ライトは一体何をしちゃったの?」

「お、お姉ちゃん? ライト君は変なことはしてないよ?」

「そうなの? でも水晶の反応的に悪戯とか何か困ったことをしてるような気がしたんだけど」

「違うよ!? ライト君は普通にしてるよ。ただ、その……」

「その?」

「色々と頼まれ事をされるんだけど、その頻度が凄く多いの。それにライト君もそれを全然断らないから、そのうち無理をしそうで……」

「なら何があったか教えて? 自分の中に溜めてたら水晶がダメになっちゃうわ」

「うん……」

 

 暗く沈んでいく水晶へ、しゅうらは優しく寄り添う。

 まさに姉の本領発揮といった具合である。

 そんなしゅうらが放つ暖かな雰囲気に当てられてか、水晶はぽつぽつと話し始めた。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 事の始まりは、入学から一週間が経って高校生活へ徐々に馴染み始めた頃のことだった。

 

『おーい翔野と神上、この備品だが倉庫へ持っていってくれ』

『えっ……あー、はい』

『ったく、りょーかいっす』

 

 終礼が終わった後、担任の教師が二人の生徒を指名した。

 指名されたショートの金髪に碧眼の少女と、ハネ毛の黒髪に茶色の瞳をした少年は気怠げに目を細めてしぶしぶと仕事に取り掛かる。

 神上翔子と翔野来人。水晶のクラスメイトだ。

 二人は面倒くさいという空気を隠さなかったが、仕事の手つきは素早くテキパキと任された荷物を運んでいく。

 

 これを契機にして、水晶の目に映る幼馴染の行動は変わっていった。

 

『ライト、一緒に来て! 取材に付き合ってよ!』

『ふざけんな! 一人で行け!』

『そんなこと言わないでよ、ちょっと色々とありそうだからさ?』

『ちょっ、おい! 引っ張るな!? ってかなんだよお前のその恰好!』

密着取材(尾行)にピッタリだろ?』

『どこのミルキーなホームズだテメェ!?』

 

 ある時は、鹿撃ち帽(ディアストーカーハット)とインバネスコートを纏った翔子に突如として連行されていき、

 

『失礼します! 翔野さんはいますか?』

『あれって流星会長じゃない?』

『なんでウチのクラスに?』

『会長、どうしたんだ?』

『翔野さん、手伝ってください!』

『……そういうことか、了解。すぐ行く』

『ありがとうございます!』

 

 またある時は、やって来た生徒会長に連れられてどこかへ行く。

 そこへ教師から指名された仕事が加わり、舞い込む仕事のサイクルが形成されていった。

 そうして水晶の目に入る連日の幼馴染の動きは慌ただしいものになり、い放課後になると必ず何かの仕事を手伝っているという状況が出来上がっていた。

 そんなライトを心配して水晶が気にかけても、当の本人からは「気にしなくていい」と言われてしまい、水晶には打つ手が何もなくなってしまったのだ。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「…………って感じなの」

「なるほどねぇ」

 

 水晶が不安そうな面持ちで言うと、話を聞いていたしゅうらは、なんとも言いがたい表情を作りながら腕組みした。

 

「なんというか、放課後になると必ず何か手伝ってるし、帰って来る時間も遅くなってるから……」

 

 水晶は大きなため息をつくと、すがるように顔を上げる。

 

「水晶、まずは落ち着いて」

 

 すると、しゅうらは諭すように優しい笑顔を浮かべた。

 

「あなたがライトを心配する気持ちも分かるわ。でも、あの子は少し口が悪いだけで優しいから、そういう人の手伝いをほっとけないのよ。それに危ない事にならないように加減ができる子だから、大丈夫よ」

「お姉ちゃん……」

 

 そんな姉の言葉に水晶は不安げな眼差しを向ける。

 

「それでも不安だったら、今度お昼か夜に集まってご飯にしましょ。その時に水晶の思ってることをライトにぶつけて、ライトの方からも事情を聴けばいいわ」

 

 水晶の頭を撫でながら、しゅうらは優しい口調で言う。

 そんな慈愛に満ちた行動と言葉が、憂いていた水晶の顔から陰りを消していく。

 

「どう? 落ち着いた?」

「うん、ありがとう。お姉ちゃん」

「ならよかったわ」

 

 そうして落ち着きを取り戻した水晶はしゅうらと共に昼食を再開した。




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