Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
※ ※ ※
「ライト、行こう」
「ちょっと待てよ、おい!」
終礼が終わると同時に、ライト君と翔子ちゃんが荷物を置いて教室を飛び出していった。
二人のそんな姿を見送りながら、私──庵野水晶は鞄へ荷物を片付けて教室を出る。
急ぎ足で校舎を出て最寄りのバス停に向かうと、ちょうど目的地行きのバスが到着していた。
バスに乗り込むと、意外にも中はすいていて、最後部の座席に座って少し待っていると、バスはすぐに出発した。
(今日もあんな感じなんだね……)
流れていく窓からの景色を見ていると、ふと教室で見た友達の後ろ姿がよぎる。
お姉ちゃんに話したお陰で心配はそこまで抱かなくなったけど、慌てて飛び出していった友達の姿に──特に幼馴染の姿に、ちょっと寂しさを感じた。
四月の半ばになって高校生活にも慣れ始めてきたけど、私とライト君との間にはちょっとした差みたいなものができていた。
それは友達のでき方。
私自身が引っ込み思案なせいで、積極的に人へ話していくのが苦手だから人の輪に上手くは入れない。でも、ライト君は入学式の次の日には同じクラスの翔子ちゃんどころか、他クラスの人と友達になってきた。
そこからライト君を経由して翔子ちゃんと仲良くなったけど、クラスの他の子とは少し上手くいかない。ボッチじゃないけど、いまいち友達ともいえない距離感なのがちょっともどかしい。
そんなことを考えていると、バスが目的地についたことを知らせるベルが鳴った。
「260円になります」
代金を払ってバスから降りると、バスはすぐに出発していった。
そこから少し歩くと、私の目的地が見えてきた。
見えてきた看板には〈MUSICAL BOX〉と大きく書かれた店名がその場所が何なのかを堂々と主張してる。
〈MUSICAL BOX〉。その場所の正体は音楽スタジオ。
バンドの練習やレコーディングをする、音楽に全力で打ち込む人がお世話になる所。
扉を開けて中に入ると、ロビーで受付役の人が会釈をしてくれた。私も会釈を返す。
そこから廊下を進んでいくつかの部屋を通り過ぎていくと、突き当りにある一室の扉を開ける。
「おっ、来たねぇ~アキちゃん!」
部屋に入ると、長い紫紺の髪をなびかせた女性が私を出迎えてくれた。
「美玖さん、お疲れ様です」
十六夜美玖さん。
私をここに呼んだ人で、一緒に”あること”をしてる仲間と言える人。
「アキちゃんも学校お疲れ様。準備できたら今日の『Go-Spell』スタートだよ!」
「はい!」
これからやること──それは歌うこと。
でも、ただ歌うわけじゃない。
レコーディングまでして動画にする。すなわち、歌唱動画。
私、庵野水晶は人知れずクリエイターズユニットのボーカルをしてる。
そのユニットの名前は『Go-Spell』。これが私が他の人に内緒でしていること。
知ってるのは身近な人だけ。それこそ家族や仲の良い幼馴染だけなの。
※ ※ ※
「いやあァァァァ!?」
「頑張れ会長! あれに追い付かれたらヤバいぞ!」
「そうは言ってもぉぉ!!」
放課後の校舎にアーシュ会長の叫びが響く。
ドラゴンの力を解放して走る会長に少し置いて気味になってるが、俺──翔野来人も全速力で廊下を駆け抜けていく。
そんな俺達の背後には、アホみたいにデカいクワガタが、その巨体に似合わない速さで廊下を這い迫ってきていた。
せめて羽で飛んで来いよ。
『キシャァァ!!」
デカいクワガタの姿をしたクリーチャー、《デスマッチ・ビートル》が声をあげる。
メタカードとして頼りにしてる一枚ではあるが、実際に見てみると少し気持ち悪さがある。
間近で見るのはちょっとキツい。
《あーくっそ、俺が元の姿になれるならぶっ倒せるのに!》
「タラレバ言ってもしょうがねぇだろ! 逃げ遅れるなよ、アラシ!》
俺達の置かれてる状況に、宙を浮きながら随伴するアラシがぼやく。
ぼやきたくなるのは分かる。今のアラシは徐々に力を取り戻してるが、まだ本来の姿であるクロスファイアの姿で実体化はできてない。
ステップル事件の時に出くわしたスノーフェアリーみたいな弱いクリーチャーなら倒せるようになったが、今みたいな状況だと宙に浮かんで逃げるのが精一杯だ。歯痒く感じるのは仕方ない。
「もう少しだ! 頑張ってくれ!」
「は、はい!」
校舎内を走り抜けて、体育館へ繋がる外廊下で出る。
そして外へ出たと同時に俺は叫んだ。
「任せたぞ! 翔子、ジョニー!」
飛び出した先で準備を終えていた仲間は、頼もしさを感じさせる笑みを浮かべていた。
「任された!」
《引き金は二度引かねぇ! 一発が全てだ!》
乾いた音と共に放たれた弾丸が、俺と会長を間を通り過ぎる。
振り返ると《デスマッチ・ビートル》の体は弾丸に貫かれ、光となって崩れ去っていた。
「だぁー、疲れたぁ……」
「大きな虫に追われるのはもう嫌です……」
敵が消えて大変だった鬼ごっこが終わったことに実感を感じて、思わず尻もちをついた。
会長の方を見ると、彼女もヘニャリと座り込んでる。
虫嫌いなら俺よりも色々と大変だったろうに。本当にすごい人だ。
「ボクたち上々! 上出来だね!」
《だな》
翔子はというと、ノリノリで喜んでジョニーとハイタッチを交わしてた。
一番おいしい所を持ってったもんな、そりゃ嬉しいか。
「おーい、かいちょー!」
「アーシュちゃん!」
そこへ声が聞こえてきた。
声の方を見ると、別の場所でクリーチャーに対処してた生徒会の面々が手を振りながらこっちへ向かってきていた。
(ひとまず、今日はこれで終わりだよな)
ポケットからスマホを取り出して、時間を確認する。
時刻は17時半。部活をしてない学生はとっくに学校を出てる時間だ。
(クリーチャーが出たから水晶に何も言わずに出てっちまったからなぁ、何か言っとけばよかった……)
もう水晶は学校を出て行ってるのだろう。
ここ最近はいつもこうだ。普段なら水晶と一緒に学校を出てくのに、最近はほったらかしにしちまってる。
特に今日は本当なら一緒にいないとダメだったのに。
「はぁ……どうすっかなぁ……」
謝るのは絶対として、詫びとして何をしてやれるだろうか。
考えても答えはすぐに出てこない。
(まずはメッセージだけでも送っとこう。明日の朝、登校する時に謝るしかねぇな)
ひとまずチャットアプリを立ち上げて、水晶宛てのメッセージを打ち込む。
『今日、一人で行かせちまってゴメン。明日、何か詫びさせてくれ』
メッセージを送信すると、スマホをポケットへ突っ込む。
多分だが、返答が返ってくるのはしばらく後だ。
「ライトー、そろそろ戻ろうよ」
「おう、すぐ行く」
※ ※ ※
「よーし、終わり~」
コントロール・ルームにいる美玖さんの声がマイク越しに
その声を聴いて私は着けていたヘッドホンを外した。
「アキちゃんお疲れ~」
「はい、お疲れ様です」
二つの部屋を隔てていた扉が開くと、美玖さんがにこやかな笑顔でこっちへやって来る。
すると、いきなり美玖さんは抱き着いてきた。
「ひゃっ」
「今日もバッチリだったよ! 流石は私たちの歌姫!」
「み、美玖さん……放してください」
「にひっ、仕方ないニャー」
私が少し抵抗すると、美玖さんはニヤリと笑いながら離れていく。
抱きしめられるのは嫌じゃないけど、いきなりされるとビックリするよ。
「これで歌唱本体はOKだね。イラストも出来上がってるから、あとはエフェクトとか動画班の仕事ぐらい……うん、いいね完璧。さすが私とアキちゃん♪」
「み、美玖さん……」
すると、上機嫌になってる美玖さんは両手で私の顔を挟んでムニムニと玩ぶ。
収録が終わって上機嫌になると美玖さんはいつもこんなことをするの。
私のほっぺって触り心地が良いのかな?
「それじゃあ、今日はこれにて終わり!」
しばらくムニムニされてると、美玖さんは私を解放してくれた。
自由になった私は演奏室の隅に置いていた荷物に手を伸ばす。
(今日歌えた曲もよかったなぁ)
私の中には思わず鼻歌をしてしまう程に、さっきまで歌っていた曲の余韻が残っていた。
「うん?」
スマホを確認しようとした時、ちょうどスマホが震えた。
ロックを開けて確認してみると、チャットアプリで誰かがメッセージを送って来たみたい。
『今日、一人で行かせちまってゴメン。明日、何か詫びさせてくれ』
アプリを起動させてメッセージを見てみると、送り主はライト君だった。
話の主語は書かれてないけど、何の事を言ってるのかは分かる。
私が『Go-Spell』としての収録に一人で来た事だ。
ライト君は私がボーカルをしてることを知ってるし、前まで収録に着いて来てくれていた。
彼が言うには、女の子を一人で行かせるのは不安だからって、ボディガード役として来てくれてたんだよね。
(忘れられてたわけじゃないんだね。それはそれとして、真面目だなぁ)
文面を見てるだけでも、これを打ってる時にライト君が気まずい顔をしてるのが想像できる。
そんな姿を思うとちょっと口角が上がっちゃうよ。そこまで気にしなくていいのに。
「なーに見てるの? アキちゃん」
「ひゃっう!?」
私がメッセージへ夢中になってると、美玖さんが急に背後から顔を出した。
驚いたせいでスマホが手からすっぽ抜ける。
「よっと」
美玖さんはそれを軽々とキャッチすると、スマホの画面をためらいなく覗く。
すると内容を読んだからか、美玖さんがチェシャ猫みたいな笑顔を浮かべた。
これは……マズいかも。
「へぇ……何やら固まってると思ったら、愛しのナイト君からのメッセージにニヤニヤしてたんだねぇ。へぇ~」
「愛しのって……ライト君とはそう関係じゃないですよ!」
「しょっちゅう収録へ一緒に来てるのに?」
「あれはボディガードです。ライト君が心配だって言うから……」
「にひひ、愛されてるねぇ」
「だ、だから違いますよ!」
どれだけ言っても美玖さんはニマニマした笑顔を崩さない。
もう、この人はいつも私を揶揄う。恥ずかしいからやめてよぉ。
※ ※ ※
「もう、美玖さんったら」
ロビーへ向かう中、さっきまでのことを思いだして溜息が出た。
あの後、私は美玖さんにしばらくいじられながら、また可愛がられていた。
なんというか、美玖さんの中だと私って犬や猫みたいな括りに入れられてるような気がするよ。
(ライト君からのメッセージ、なんて返そうかな?)
気分を切り替えて、スマホを取り出す。
ライト君は真剣な感じで送って来たけど、正直に言うと気にしすぎだと思う。
まるで子供扱いみたいで、少しもやっともするの。同じ年なのに。
「うーん……」
それはそれとして、メッセージにはなんて返せばいいのかな。
して欲しいお詫びなんてないし、思いつかない。
私の意識は完全にメッセージの返答に持ってかれていた。
「はぁー」
だから少し前にある部屋から人が出てくるのに気づけなかった。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
出てきた人と私がぶつかって、互いの体がよろめいた。
「す、すいません! 大丈夫ですか?」
「ああ、いや、大丈夫だよ。君の方こそ大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
慌てる私にぶつかった相手の人は落ち着いた感じで対応してくれた。
ぶつかった相手は同じ桜龍高校の生徒みたい。
どこか儚そうな雰囲気を持っていて、中性的な顔つきと少し長めの色素が薄い髪なせいで、男子の制服を着てないと女子と勘違いしちゃいそうだ。
「君、一年生?」
「は、はい! 一年の庵野水晶と言います!」
「庵野? ああ、なるほどね」
私の名前を聞いて、その人は少し不思議そうな顔をした。
それからすぐに何かに気づいたように顔を明るくさせる。
「僕は