Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
※ ※ ※
「だぁー……なんか疲れた」
デスマッチ・ビートル退治の翌日。俺は朝から教室の自分の机で伸びていた。
かなりの頻度で起きるクリーチャー関連の疲れは、何度休んでも簡単には取れてくれない。
家でもしっかり休んでるが、落ち着いてる時はすぐに休みたくなってくる。
会長たちは疲れないのだろうか。やっぱりドラゴン娘は体力面でもブーストが入るのか?
「ねぇ聞いた? 二年の天音先輩、昨日告白されたらしいよ」
「本当? 誰が告ったの? 結果ってどうなったの?」
「同じ二年の先輩、結果は相手側の完全玉砕。なんでも『今はヴァイオリンと向き合っていたいんだ』だって」
「うわー、その断り方ないわー……いくら真剣にやってるからって、それで断る?」
「でも凄いよねぇ。そんなになるまで頑張ってるんだからさ」
「確か留学の話も出てるんでしょ? 天才ってよく分からんわぁ」
そんな突っ伏していた俺の耳に、その話は飛び込んできた。
話の内容は二年の先輩のことだ。
天音奏人。なんでも一年生の頃からヴァイオリンのコンクールで何度も入賞してきた人で、学校内に名を轟かせる有名人らしい。ヴァイオリン奏者としての腕は凄いものらしく、今年に入って留学の話も出てきたらしい。しかもイケメンらしく、女子の食い付きっぷりは凄いことになってる。
天音先輩の話を聞くのはこれで何回目だろうか。少なくとも10回は超えてるはずだ。多すぎる。
(留学ね……スゲェこった)
ここしばらく何度も聞こえてきた話題なのもあって、少しうんざりしてきているが、内容については驚嘆に尽きる。
武術の掛け持ちしてる賢哉や、創作してる翔子、こっそりと歌ってる水晶もそうだが、やってることを貫いて結果をしっかり出してるんだから、凄いってもんじゃない。
部活もしてない俺からすると、眩しいってレベルじゃない。ちょっと自己嫌悪だ。
「ライト君、大丈夫?」
そんな俺を覗く姿があった。水晶だ。
「おう、大丈夫。ただダラーってしてるだけだ」
「そう? ならいいんだけど」
首を傾げながら俺を見る水晶。
その姿は今日も小動物的で可愛いもんだ。
(昨日も結局は何も要求してこないんだから、俺の幼馴染ってば優し過ぎる。やっぱり天使なんじゃないか?)
昨日やったこともお咎めなし。メッセージで『気にしなくていいよ』なんて言ってくれるし、一緒に登校してる時なんか「人を手伝いのはいいけど、無茶はしないでね』と言ってくれた。
水晶の優しさが胸に染みてくる。俺の幼馴染が本当に優し過ぎる。
「やっほー、二人とも!」
そんな俺達二人の間に溌剌とした声が割り込んできた。
顔を声の方へ向けて目に入って来たのは、ショートの金髪。翔子だ。
「おはよう翔子ちゃん」
「おはよ、水晶ちゃん」
「お前……朝から煩いぐらい元気だな」
それはそれは元気な挨拶をする翔子。こいつも連日クリーチャー退治に出てるのに、なんでそんなに元気なんだよ。
「今のボクはインスピレーションが湧きまくって、創作意欲が溢れてるからね。まさに頂点、いや超天フィーバーって感じなんだ」
そう言って自慢げに胸を張る翔子。その胸に主張する山は無く、まさに平野。
中性的な顔つきをしてる翔子が男装をすれば、普通に美少年で誤魔化せるぐらいに真っ平だ。
「ライト、変なこと考えなかったかい?」
「いや別に? それより何でそんなにやる気全開なんだよ、昨日はそんな感じじゃなかったろ」
翔子が鋭い目つきにで見てくるが、知らんぷりをかまして誤魔化す。
それはそれとして、翔子がそこまで元気になってる理由は気になった。
こいつがテンション上げるってことは創作のネタになる何かがあったか、デュエマ関連で何かあったかのどっちかだ。
「ふっふっふ、面白い話を聞けたんだ」
「面白い話?」
「なんでも学校に小人が出たんだって」
「小人ぉ?」
「部活が終わった夕方辺り、特別教室棟で出たって話さ」
「……特別教室棟、かぁ」
話を聞いてみると、ちょっと気分が重くなってきた。
どう考えてもクリーチャー案件でしかないだろ。今度は何が出てきたんだよ。
もうこの世で起きる不可解な出来事って全部クリーチャーのせいにできる気がしてきたぞ。
「小人さん……!」
一方で水晶は小人の話題に目を輝かせていた。
そうだった。水晶のやつ、魔法や妖精とかのファンタジーが大好きだったな。
(どうすっかなぁ……会長たちに言うべきか?)
正直に言うと、何かの見間違いであって欲しい話だ。
だが何もしないってのもマズい気がする。前のステップル事件みたいに騒動が起きるともっと面倒になってくる。
「もしかして、その反応的に水晶ちゃんは小人とかが好きなのかな?」
「えへへ、実を言うとそうなの。魔法使いって憧れるよね」
「なるほどなるほど。じゃあ、こんなタイプの絵は好きかな?」
俺が頭を悩ませている一方、女子組は楽しそうに話していた。
いやまあ、いいけどさ。
「はぁ……今日も放課後は調査だな…………」
こうして、俺の放課後の予定が決まったのだった。
※ ※ ※
「それじゃあ、小人探しを始めよう!」
「本当に元気だな、お前……」
放課後、俺は翔子と特別教室棟に繋がる外廊下を歩いていた。
翔子のやつは相変わらずご機嫌な足取りをしてる。本当に疲れ知らずだな、こいつ。
(頼むから見間違いとかであってくれよ、もしくは弱いクリーチャーであってくれ)
クリーチャーに出てきてほしくないが、弱いクリーチャーなら俺とアラシだけでも対応できる。生徒会の面々がいない今の状況だと、強い奴に対応できるのは翔子とジョニーだけだ。複数のクリーチャーに絡まれたらヤバすぎる。
『──というわけで、俺と翔子は特別教室棟を調べてくる』
『分かりました。私たちは別の仕事をしないといけないので、そっちに行けなくてすいません』
『大丈夫だって。もしかしたら、何かの見間違いかもしれないしな。それに弱い奴だったら俺達二人でどうにかできるから。仕事、頑張ってな』
『はい! ありがとうございます!』
こんなやり取りをSNSでアーシュ会長としたのが昼放課。
今頃アーシュ会長たちは普通の生徒会業務に励んでるはずだ。
面倒ではあるが、俺と翔子だけで事が片付くならその方が良いに決まってる。
「翔子、二手に分かれて探すか?」
「そうだなぁ……ライトが三階から、ボクが一階から探していこうか」
「了解、なら二階で一度合流だな」
「そっちは任せたよ」
「わーってる」
特別教室棟へ入ると、翔子はそのまま一階の教室へ向かっていく。
それを視界の端で確認して、俺は階段を上がる。
「アラシ、今回の話ってクリーチャー絡みだと思うか?」
《どうだろうな、いまいち話だけじゃ判断がつかねぇよ。近くに行けば気配は感じ取れるから、調べるしかねぇな》
「だよな……」
カードで制服の内ポケットに潜んでるアラシが本来の口調で言う。
分かってた答えではあるが、現実逃避もしたくなってくる。
なんせ最近は高頻度でクリーチャーと関わってるんだ。水晶たちに何か被害が出たら遅いから頑張ってるが、流石にそろそろ落ち着いて欲しい。
そうしているうちに、階段の終わりが見えてきた。
「どうだ、アラシ? 何か感じるか?」
《うーん? ……いや、今のところは何も感じねぇな。教室に近づいてみてくれ》
「りょーかい」
三階に到着しても、アラシからの返答は芳しくない。
アラシたちクリーチャーは同類のマナを感じ取ることができる。言わばクリーチャーセンサーだ。でも、それは距離があり過ぎると感知ができなくなる。
つまりは三階にはいない、もしくは詳しく調べないと分からないぐらい隠れてるってことだ。
そうして俺達は各教室の調査を始めた。
三階にあるのは美術室、工芸室、音楽室、そして各々の準備室。
当然ながら音楽室はオーケストラ部が、美術室と工芸室は美術部がそれぞれ部活で使ってる。
だから調査は準備室に潜んで、そこからはアラシの探知頼みだ。
美術部関係の教室は尾瀬先輩を頼るのも考えたが、部活動に励む先輩の邪魔をするのは流石に気が引けたからやめた。
「どうだ?」
《……いや、マナは感じねぇな。ここにはいねぇよ》
最初に調べたのは美術室。ステップル事件が記憶に新しいが、どうやら今回は外れみたいだ。
工芸室、音楽室の順番で調べてくが、何処にもそれらしい反応は出てこなかった。
※ ※ ※
「どうだった? って言っても、その感じだと何もなかったって感じだね」
二階へ降りると、俺が調査を終えるのを待っていたのか、翔子が階段に腰を下ろしてくつろいでいた。
「生憎と三階は外れだ。そっちも同じっぽいな」
「正解、一階も外れだったよ」
「となると二階のどっかにいるのかね」
「おそらくね。噂の正体がどんなものなのか、ちょっと楽しみになってきたな!」
「楽しんでるオメェが羨ましいよ……」
ワクワクしてる翔子の姿に思わず辟易してしまう。
商魂もといクリエイター魂逞しいな、本当に。
《ニャアァァァァ!》
《行け行け! GO! GO!》
いざ教室へ向かうとした時、何かが目の前を通り過ぎていく。
猫っぽい影とドングリっぽい小人の影だ。
「きゃああァァァァァァァ!!」
「おわああああぁぁぁぁぁ!?」
影が通り過ぎていくと、教室の一角から二つの悲鳴が聞こえてきた。
いたよ! やっぱりクリーチャーじゃねぇか!? しかも誰かに見つかっちまった!?
「翔子!?」
「流石に不味いかな!」
俺達は急いでクリーチャーの後を追う。
クリーチャーが入っていたのは二階にある空き教室だった。
「大丈夫か!?」
勢いよく引戸を開け放つと、そこには二人の生徒が腰を抜かして座り込んでいた。
「って……はああぁぁ!?」
座り込んでいた二人組、その片割れの正体に俺は思わず叫んだ。
「ら、ライト君?」
「あ、水晶!? お前、何で……」
そこにいたのが教室で別れた水晶だったからだ。
いや、マジで何でここにいるんだ?
「うん?」
俺が驚いている傍ら、翔子は首を傾げながら腰を抜かしているもう一人の方を見ていた。
つられてそっちを見ると、そこには片割れがバイオリンを片手に震えていた。
男子の制服を着てるから男子だと思うが、少し長くて色素の薄い髪と中性的な顔つきは男装の麗人と言われた方が納得できる風貌だ。
「だ、誰だ?」
「ヴァイオリン……麗人みたいな顔つき……もしかして、天音先輩ですか?」
「ま、マジかよ……」
翔子の言葉に驚きが隠せなかった。
留学を勧められている程の高校生ヴァイオリニスト。
帰宅部男子からすれば雲の上の存在と言える相手との遭遇に、俺は言葉を失うしかなかった。