Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
筆者は付くと思ってます。
それはそれとして、読者の皆さんはヴァイオリンとの初遭遇はいつですか? 筆者は幼い頃に仮面ライダーキバに頭焼かれました。
※ ※ ※
「なるほど? つまりさっき僕たちが見たのは学校に侵入してきた猫で、君たちはその猫を捕まえようとしていたってことなんだね」
「その通りです、先輩」
思わぬ邂逅をした後、自己紹介を済ませた俺達は出くわした二人が怪我をしてないかを確認しながら、どうにかクリーチャーの事を誤魔化していた。
ひとまず、天音先輩と水晶が出くわした筈のクリーチャーは校内に侵入した猫ということにしておいた。俺達の前を通り過ぎる時に鳴き声を出してたし、誤魔化せるはずだ。
「確か先輩はヴァイオリンのソロ練をしてたんですよね」
「そうだね。気分転換も兼ねて少しね」
天音先輩の事情を聴いてみると、ここにいるのは気晴らしのためだそうだ。
この人は部活に所属せず、一人で習い事としてヴァイオリンをしてきたらしく、普段は家で練習しているらしい。
そうしてずっと同じ場所でやっているとマンネリとは無関係でいられず、気分転換のために外で練習をするそうだ。
「で、先輩のことは分かったんだが……」
「ボクとライトが凄く気になってるのは、水晶ちゃんが何でここにいるのか、だよね」
「ってなわけで、水晶説明してくれ」
顔を見合わせてた翔子が気まずそうな顔をする。俺の顔も多分こんな風になってる。
「えーっと、別に何かあったってわけじゃないよ?」
「いや、そうは言ってもよ……お前、天音先輩と接点ねぇだろ」
俺がそう言うと、水晶も困ったような表情をする。
「先輩とは昨日会ったの。そこから色々と話してたら、ヴァイオリンの演奏を聞かせてもらえるってことになっちゃって」
「ああ……そういうことか、何となく分かってきたぞ」
いまいち要領を得ない言い方を水晶がするが、お陰で先輩と何処で接点ができたかは分かった。
おそらく接点ができたのは昨日あった『Go-Spell』の収録だ。
収録に使ってる音楽スタジオである〈MUSICAL BOX〉は別に『Go-Spell』専用の場所じゃない。一般の人だって使う場所な以上、演奏者なら来てもおかしくない。
細かい所は分からないが、収録が終わった後に出会ったみたいだな。
「ライトは何でそれで分かるんだい?」
「幼馴染だからな。よくあるだろ? 長年連れ添った家族が『アレ取って』ってだけで分かり合ってるやつ。あれみたいなもんだ」
「そういうものかい?」
俺と水晶のやり取りに翔子は納得いかないらしい。
まあ『Go-Spell』のことがバレないように色々と省いてるから、知ってる俺じゃないと分からないようになってる以上は仕方ない。
「それにしても、まさか噂のヴァイオリニストに会えるとは」
「噂って、僕はそんな大層な人間じゃないよ」
「いやいや、何言ってるんですか。留学の話まで出てるし、俺達のクラスの女子なんて、ここ最近はずっと先輩の話で持ち切りですよ」
「そうなのかい? それは、少し恥ずかしいな」
天音先輩がそう言って照れくさそうに顔を赤くしてはにかんだ。
こんな機会は滅多にない。色々と聞いてみてもいいかもしれないな。
俺が質問を言おうとすると、一足早く翔子がそれを口にした。
「そんな留学とかで話題になってる天音先輩に質問です。先輩はいつからヴァイオリンを弾いてるんですか? コンクールでいくつも賞を取ってるっていうから、歴は長いって思うんですけど」
「小学生の頃からやってるよ。母さんから教わったんだ」
「ほうほう、お母さんから……ということはお母さんもヴァイオリン奏者だったんですね」
翔子は頷きながら、楽しそうにメモ帳にペンを走らせていた。
いつの間に取り出したんだ、こいつ。
「昔、ヴァイオリン教室の先生をしてたんだよ」
「なるほど」
「息子にドイツへの留学話が出てきたのは予想外だったみたいだけどね」
「やっぱり何度聞いても凄い話ですね、まさに天才って感じがします」
「別にすごくはないよ。天才でもない。僕はただの凡人だよ。ただ置いてかれたくなくて、我武者羅に努力をやってきただけさ」
天音先輩が自嘲的な笑いを浮かべる。ジョークの類じゃない本音からの自虐だ。
それは先輩の事を全然知らない俺が簡単に否定できるものじゃなかった。
「「それは違うと思います」」
俺が気圧されてる一方で、その言葉に異を唱えるやつがいた。水晶と翔子だ。
二人はそれぞれ真剣な眼差しで先輩を見ていた。
「先輩、ボクは音楽の事はからっきしです。でも、創作者として言えることがあります。結果っていうのは積み重ねてきたから出てくるんですよ。先輩が残してきた結果はその証明です、だから卑下なんてやめてください」
そう語る翔子の口調は真剣そのものだ。
普段見せている姿とも違うし、ステップルの時に見たものとも違う。静かであるが、確かな熱がある。あれは多分、あいつのクリエイターとしての言葉なんだ。
その言葉に水晶も続く。
「そ、そうですよ! 小学生の頃からやってたんですよね。なら、今まで続けてることがまず凄いです! きっと続けてく中でどんどん難しくなっていったと思います。そんなに頑張ってきたんですよ、努力の天才っていうのは先輩みたいな人を言うんだって思います!」
語る水晶の姿は少し意外なものだった。
緊張していて、自信がなさそうなのは変わらない。俺が知ってる姿だ。
でも、その中にちょっとした意地を感じる。これだけは譲れないという意志が垣間見えたような気がした。
「確かに二人の言う通りっすね。しっかり結果出してる人が自虐するのはなんか違う気がします」
先輩の感じることも分かる気がする。俺も生まれ持った才能っていうのはあると思う。
でも、それはほんの一握り以下しかいない。そういうものよりも称賛されるべきなのは努力の天才だと思う。
真っ直ぐに、ただひたすらに努力を続けれる人こそ、努力の天才と称えられるべきだ。
そういう人が語る夢程、輝いているものはないから。
「君たち……」
言われた内容に驚いているのか、暗い表情は霧散して先輩は呆然としていた。
そこに翔子が言葉を続ける。
「先輩は夢ってあるんですか?」
「夢、か……あるよ。楽団に入って大勢の前で演奏したいんだ。ドイツのオーケストラに入って、僕の音を世界へ届けたい。我ながら大それてる笑い話だよ」
天音先輩はそう言って、恥ずかしそうに苦笑する。
「全然大それてないっすよ。むしろらしいっつうか、ピッタリって気がします」
「わ、私もそう思います!」
「ボクも同意見♪」
「自信持ってください。その夢を笑う奴だっていませんよ。仮にいたら俺がぶん殴ります」
我ながらキザなことを言ってると思う。でも本心だ。
俺とは真逆で、凄く羨ましく思うからこそ。
夢を持って頑張ってる人が笑われたら、本気でブチギレる自信がある。
「むしろちょっと先輩が羨ましいですよ。そういう夢がある人って。俺はそういうのないんで」
だからか、気づけば俺の口からその言葉が漏れていた。
「あっ……すんません。急に変なこと言っちまって。忘れてください」
失言に気づいて血の気が引いた。
何してるんだ俺は。今この時に言うべきことじゃないに。
だが、先輩から返ってきたのは意外な答えだった。
「僕は……君が羨ましいよ」
「はい? 俺が、っすか?」
思わず聞き返すと天音先輩は儚げな笑顔を浮かべた。
「時折ね、君みたいに何も決まってない人が羨ましくなるんだ。僕には、ヴァイオリンしか取り柄がないからさ」
「先輩……」
正直に言うと、なんて贅沢な望みなんだって思わないことはない。
でもそれぐらい本気で悩んでるんだろう。それこそ俺には分からないぐらい。
ただ、羨ましがられる立場でもない気がする。
「そんな良いもんじゃないっすよ。俺の取り柄なんて趣味でやってるデュエマしかないですし。時折虚無ったりしますから」
「えっ、デュエマ?」
俺の言葉にまた予想外な反応が戻ってきた。
この人、デュエマに食い付いたぞ。まさかやってるのか?
「もしかして先輩、やってます? デュエマ」
「ああ……いや、昔はやってたけど、今はしてないよ。精々お守り代わりにカードを持ってるぐらいだ」
先輩はヴァイオリンをケースへ入れると、足元の鞄をガサゴソと漁る。
そうしてスリーブに入った一枚のカードを取り出すと、それを俺へ見せてきた。
「ちょ!? はっええ!?」
そのカードの正体に思わず声を荒げてしまった。
突然大声を上げるのは良くないが、これでも反応としては抑えた方だ。
驚きの衝撃で言うならひっくり返りそうになるレベルなんだから。
「どうしたんだいライト。そんな変な声──って、ええ!?」
慌てる俺に続いて翔子がカードを覗くと、顔が驚愕で固まった。
俺も翔子も人前で見せたら不味い顔になってる。
「二人とも、大丈夫かい?」
「翔子ちゃん? ライト君? そのカード、そんなに凄いものなの?」
そんな俺達に置いてきぼりされてる水晶と天音先輩が心配げな目線を向けてきた。
「ごめん。とんでもない希少品に会えたせいで変な声が出ちゃった」
「ああ、いや、すまん。先輩のカードにビビってつい」
向けられる視線で正気に戻って気まずさに視線を二人から逸らすと、翔子と視線が合った。
思わず二人で苦笑する。恥ずかしすぎる。人前でしていい反応じゃなかった。
「そんなにいい反応をしてくれるなら、翔野君にあげようか?」
「はい!? え、マジで言ってます!? それ、コレクションとして結構いい値段付くと思うんですけど」
「君、現役のプレイヤーなんだろ? なら君が持ってた方がいいよ。今の僕にはそんな熱量はないから。それにお守りにしてたからか、自分で売るのも抵抗があってさ。留学前に踏ん切りをつけておきたいんだ」
「先輩がそういうなら……」
そこまで言うなら仕方ないだろう。決心は硬いらしい。
俺はおっかなびっくりな手つきでカードを受け取る。
「いいなぁ……」
横から羨ましそうな翔子の声が聞こえてくるが、こっちはそれどころじゃない。
普段出くわすようなレアカードとは違う代物との出会いに立ち尽くしていたが──クスクスと笑う先輩の声が俺を正気に引き戻した。
「せっかくだ、皆で一曲聞いていってくれるかい? 庵野さんには聞かせるって約束だったのに、できてないし」
「でしたら是非! 噂の演奏、生で聞きたいです!」
「お、お願いします」
「翔野君はどうだい?」
「ああ……はい。お願いします」
「よし、なら特別公演を始めよう」
天音先輩が再びヴァイオリンを手に持つと、体勢を整える。
立ち姿は美しく様になっていて、纏う空気すらさっきとは別物に変化させていた。
そして室内へヴァイオリンの音色が響き始める。
「……っ!」
優雅さと鋭さを含んだ透明感のある音色が、胸に染み渡る。
これが年上とはいえ学生の奏でる音だというのが信じられない。
「「…………!」」
隣を見ると翔子と水晶も目を丸くして演奏に圧倒されてる。
俺達は完全に
先輩の演奏は続く。穏やかだった音色のテンポが速まり、聞いてるこっちも妙な焦燥感を駆り立ててくる。
ギリッ!
そんな世界を砕くノイズが聞こえた。
音色に浸っていた全員の視線が音源へ向く。
「ッ……なんで……」
ノイズの大元――天音先輩は苦悶の表情を浮かべていた。
※ ※ ※
日が傾き始めた頃、俺達は本校舎へ繋がる外廊下を歩いていた。
「色々と凄かったね」
「だな」
隣にいる翔子へ相槌を返すが、その先に言葉は無い。
俺達三人の間は静寂に支配されていた。
「天音先輩……大丈夫かな」
教室へ戻ってくると、水晶がボソっと不安げに呟く。
「どうだろうね。ボクらには大丈夫だと願うしかできないよ」
「そう、だよね」
翔子の返しはある種冷たいものだった。水晶が顔を暗くさせる。
だが、翔子の言う通りだ。
(外野の俺達じゃ、何もできないよな)
俺達三人を観客として始まった特別公演は予想外の幕引きを迎えた。
突如響いた異音――それは先輩の演奏ミスから生じたものだった。その時の先輩は顔が青ざめ、信じられないものを見るような目をしていた。
それから先輩は「不出来な音聞かせちゃったなぁ、ごめんね」と無理に笑いながら、そそくさと帰って行ってしまったのだ。
「一先ず帰ろうぜ。どうしようもないこと考えても仕方ねぇよ」
先輩のショックの受け様は確かに心配だ。
でも、それは先輩本人にしか解決できない事柄で、部外者の俺達にどうこうできる事じゃない。
(天才って立場も難しいもんだな)
下駄箱へ向かって廊下を歩く中、先輩の顔がよぎる。
うんざりしていて、苦しそうで、悲しそうな顔だった。
普通なら憐れむのだろう。
(……夢、か)
だが、そんな姿に俺の心の一部は羨ましさを感じていた。