Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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ブルースドライバー、いいですね。これから書きたい展開へのモチベになりますよ。



16話:夢と旋律――悪夢と願いと諦めへの誘い

 ──黒々とした曇天から雨が降りしきる。

 視界に映るのは厚い雲に覆われた雨空だけだった。

 

「──くん!」

 

 土砂降りの雨はあらゆる音をかき消していく。

 雨音以外の全てはまるで水の中にいるように、くぐもった音で聞こえてきた。

 

「ら……くん」

 

 黒い空と雨だけだった世界に新たな色が加わる。

 それを認識して、俺は自分が仰向けに倒れていることをようやく自覚した。

 

「ライト君!」

 

 視界に飛び込んできたのは悲しみに暮れている幼馴染の姿だった。

 大雨に降られているのに傘を差してないせいで、髪も中学の制服もずぶ濡れだ。

 

「ぐすんっ。ひぐっ」

 

 そして──泣いていた。ずぶ濡れになっても分かるほどに。

 

「──ぁ」

 

 腕が、身体が動かない。声も出ない。

 泣いていて欲しくないのに、何もしてやれない。

 情けなくて自分の事が嫌になる。

 

 ──ああ、なに泣かせてるんだ。大切な人なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あがっ!? あああっ……いってぇ、おおっ……」

 

 まず感じたのは痛みだった。

 開かれた視界に映ったのは、天地が逆さまになった自分の部屋。

 本棚を埋め尽くす大量のラノベや漫画、ギタリストや女マジシャンのポスターが貼ってある、ごくごく普通な部屋だ。

 

《大丈夫っすか? マスター》

「アラシ……」

 

 ぶつけた頭を抑える俺をアラシはプカプカと浮きながら、漫画雑誌を片手に眺めていた。

 こいつ、呑気にジャ〇プ読んでやがる。

 

「大丈夫じゃねぇよ、結構いてぇ」

《まあ、思いっきり頭から落っこちたっすからね》

 

 起き上がって周りを見ると、ベットの隣に置いてる背の低いテーブルには作りかけのデッキが放置されていた。カードを突っ込んだストレージボックスも床に置きっぱなしだ。

 

(そうだった。帰ってきてからデッキ組んでたな。それでいまいち纏まらなくて、横になって……)

 

 ボンヤリと思い出してきた。確か天音先輩からもらったカードにデッキ制作欲を刺激されて、色んなカードを引っ張り出してたんだ。そこから考えが煮詰まって休んでたら寝落ちてたのか。

 

《それにしてもいつもに増して寝相が悪かったっすね。夢見でも悪かったんすか?》

「まあ、そんな所だ」

 

 見た夢の内容はハッキリと覚えてる。そのせいで気分は最悪だ。

 

「はぁ……」

 

 ベットに座ると、重い溜息が出てきた。悪夢のせいで休む前より疲れてる気がする。休むはずが逆に疲れるとか酷いにもほどがあるだろ。

 

「なんで今になって……」

 

 なんて独りごちるが、何となく原因というか切っ掛けみたいなものに心当たりがあった。

 

(天音先輩のこと、意識しすぎじゃねぇの? 俺)

 

 これをやりたい、という確固とした夢を持ってる天音先輩。だからこそ悩んでいるし、苦しんでいるのだろう。そんな姿がたまらなく羨ましいと思ってしまった。

 俺にはそういうものがないから。もう挑む資格すらなくなってしまったから。

 

「夢、か……」

 

 その響きが妙に心をかき乱す。まるで俺の中を何もない虚無にしていくような感覚すらある。

 まだ高校生活も始まったばかりだというのに、おかしな無力感に蝕まれている。

 

《なあ、マスター。ちょっといいっすか》

 

 そんな俺の調子など知らんと言いたげに、アラシは声をかけてきた。ちょっとは契約相手のことを気にしてもいいんじゃねぇのか。

 

「なんだよ」

《夢って聞いて思い出したんっすけど、そろそろ願いを教えてくれねぇっすか?》

「あ? 願い?」

 

 思わずポカンとしてしまった。願いって何のことだ? 

 訳が分からず呆けてる俺に、アラシは口をあんぐりとさせた。

 

《いやいや、忘れるか普通!? 契約した時に言っただろ、戦う代わりに願いを叶えるってよ!》

「ああ、そういえば……」

 

 確かに言っていたような気がする。

 契約してからずっとクリーチャー退治続きだったからか、完全に忘れてたな。

 

「つってもなぁ、願い……願いかぁ」

 

 困ったことに、いざ聞かれても何も思いつかない。

 

「ダメだ、全然出てこねぇ」

《欲望を持ってねぇの?》

「なんでも願いが叶うって言われても、ピンとくるものがねぇんだよ」

 

 熱量を持って叶えたいと言えるものがなかった。強いて言えばパック購入用に金が欲しいって辺りだろうか。とはいえ、そんなことに使うのは何か違う気がする。

 

「というか、その願いを叶えるってどうやってするんだよ」

 

 色々と考えてみると、願いをどうするかよりもそこが気になってきた。

 願いを叶えるって触れ込みだが、その理屈はどうなっているんだ? 

 

《そこ、気になるのか?》

「まあ気になるだろ。美味しい話には裏があるってのがお約束だしな」

《そういうのは世界が違っても共通か》

 

 すると、アラシは懐をまさぐって何かを取り出す。

 それは野球ボールぐらいの大きさをした宝石のようなものだった。

 

「なんだよ、それ」

《こいつはマナクリスタル。名前の通り、マナを集める宝石っす。こいつにマナを貯めていって、その力を使って願いを叶えるんっすよ》

「はぁ……なんか悪さするクリーチャーに似てたやり方だな」

 

 一番に出てきた感想がそれだった。

 俺達が対峙してるクリーチャー、その中でも幽霊みたいな半透明の姿で人間に憑りつく奴は憑りついた相手から生命力をマナとして吸い上げて悪さをする。

 アラシの言う願いの叶え方はそれに似てるような気がした。

 

《失礼なこと言うんじゃねぇっすよ。こいつはあくまで倒したクリーチャーのマナや大気中のマナを集めるんっすよ。人間に悪影響はこれっぽっちもねぇっすよ》

「はえー」

 

 倒した敵を糧にする。なんとも効率的な方法だ。

 確かにこれなら、契約者に戦ってもらえる。危ない戦いに身を投じる理由足りえるだろう。

 だが、それだと叶える願いに制限とかはないのだろうか。今の話だと、クリーチャーを倒していくと何度でも願いを叶えられる風に聞こえるぞ。

 

「どんな願いでも叶うのか?」

《うぬぬ……どんな願いでもは無理っすね。世界征服とかは絶対無理。大金が欲しいとかならいけるっすけど》

「スゲェな、クリーチャーを倒し続けたら色々とやり放題ってことか」

《ま、どれだけマナを溜めても一回使ったら終わりっすけど》

「一回きりなのか」

《願いを叶えると粉微塵になるんっすよ。再使用はできねぇっす》

「なるほど」

 

 どうやら美味しい話はなかったらしい。

 色々と聞いて納得もできた。別に願いのために戦ってきたわけじゃないが、今の俺にはとんでもないチャンスが手元にあるみたいだ。

 

(願いが思いつかないと宝の持ち腐れになっちまうけど)

 

 願いだなんて、何かあるだろうか。

 我ながら自慢じゃないが、恵まれた生活をしてる自覚はある。

 そんな俺に叶えたいものなんて──

 

 

 

(──いや、あるか。奇跡にすがりたいものが、一個だけ)

 

 

 

 それを口にしようとした時、デカい腹鳴りが響いた。音源は俺の腹だ。

 

《でっかい腹の音っすね。ぷっ》

「……もう七時か。晩飯にするか」

《今日は何にするんだ?》

「たしか冷凍のパスタがあったし、それにする」

《なぁ、ちょっと分けてくれよ》

「お前なぁ……」

《先に行って準備しとくっすよ》

 

 アラシが楽しそうに鼻歌交じりで部屋から出て行った。あいつ、俺からマナを少しずつ徴収してるってのに、何でそんな食い物に興味津々なんだ。

 

「……叶えたい願い、か」

 

 一人になった部屋の中で小さく呟く。

 そしてクローゼットへ近づき、引戸を開けた。

 

「天音先輩に当てられたのかね」

 

 クローゼットの中にはギターケースが鎮座していた。

 それを見て、俺の胸には愛しさと懐かしさと苦しさがグチャグチャに渦巻いていた。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「そこ、また速くなってたわよ」

 

 帰ってきても、ヴァイオリンを弾く。毎日欠かすことはない。

 でも、最近になって弓を持つ手が震えることがある。音がぶれる。

 

「奏人! 集中できないなら、今日はもうやめなさい」

「……ごめん、母さん。ちょっと部屋で休むよ」

「大丈夫? 最近ずっとこんな感じよ。不安なの? 留学は貴方の事、しっかりと考えなさい」

 

 部屋を出ようとした時、不安げな面持ちで母さんが言う。

 分かってる。しっかりと考えてはいるんだ。いつまでもこんな調子じゃダメだってことも分かってる。

 

「……くっそぉ!」

 

 練習部屋にいる母さんに聞こえないぐらい離れたところで、踏ん張りが効かなくなった。

 自身の有様に嫌気が差して、力の限りに壁を殴りつける。

 

『結果っていうのは積み重ねてきたから出てくるんですよ。先輩が残してきた結果はその証明です、だから卑下なんてやめてください』

 

 暖かい言葉を貰った。

 

『努力の天才っていうのは先輩みたいな人を言うんだって思います!』

 

 真っ直ぐな言葉を貰った。

 

『しっかり結果出してる人が自虐するのはなんか違う気がします』

 

 何の含みもない言葉を貰った。

 面識なんかない後輩たちからもらった言葉が、とても心地よかったんだ。

 なのに、それへ応えようとした結果は酷いもので終わった。

 

「…………っ」

 

 自室に戻ると、ヴァイオリンを手に取った。

 弓が震える。手が汗ばむ。奏でた音が狂う。

 

「ああああああ!! 駄目だ!」

 

 思わず膝から崩れ落ちた。

 酷い音だ。こんなものじゃ世界になんて届かない。

 留学しても意味なんてないじゃないか。

 

「……ぐっ」

 

 いつからだろう。

 僕の中でヴァイオリンに苦しさが混じるようになったのは。

 特別な切っ掛けがあったわけじゃない。ただ、ヴァイオリンは物心つく頃から身近にあった。

 でも僕は特別なんかじゃなかった。周りに追い付くのに必死で、抜きん出た後も練習を欠かせなかった。ヴァイオリンと生きる事を決めたんだ。

 なのに、この様だ。

 

「ああ……」

 

 僕にとって、ヴァイオリンってなんだ? 

 

 

 

 

 

 

『イイ音ダネ』

 

 甘い声が聞こえた。

 

『心地イイ、聞カセテヨ』

 

 心が溶けるような声が聞こえる。

 その源は机の上にあった。

 

「僕の音を……認めてくれるのかい?」

 

 

 

 

『イイ音色ダ』

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「ぐえー」

 

 天音先輩との遭遇から二日後。

 終礼の終わりを告げるチャイムが鳴り響く中、俺は自分の机で伸びていた。

 

「今日もお疲れみたいだね、ライト」

 

 そんな俺の様子を翔子は笑顔で見下ろしてる。肩にバックをかけて、帰る気満々だな。

 

「お前は相変わらず元気なのが羨ましいよ」

「ふっふっふ、元気の秘訣は出会うこと全部を楽しむことさ」

「へいへい、俺は心配性のビビりですよーだ。この創作狂いめ」

 

 顔だけを上げて、得意げに笑う翔子へ思わず毒づく。実際、翔子のスタンスは目を見張るものではあるが、それは彼女にしかできないことだ。そんなことをやってみろとは、無茶を言うな。

 

「あははは……ライト君、今日も先生に捕まったりしてたもんね」

 

 そんな俺達のやり取りに水晶が苦笑を浮かべた。

 

「登校したら書類運んでる先生に捕まるわ、昼放課に備品運ぶの頼まれるわ。なんで俺なんだよ」

「ことごとく貧乏くじを引き当てるよね」

「ライト君、なんだかんだ頼まれたことにNoって言えないもんね」

「いや……なんか断ったら後が面倒そうじゃんかよ」

 

 我ながら間が悪いと思う。ただでさえクリーチャー退治が頻発してるってのに、なんで先生方からの頼まれごとに毎度捕まるんだか。

 そうして溜息を吐いてると、教室後方の出入り口から声が聞こえてきた。

 

「おっいたいた。ライト、水晶ちゃん、神上さん」

 

 声の方を向くと、賢哉のやつが教室を覗いていた。こっちも肩にバックをかけて、帰る準備は万端みたいだ。

 

「賢哉か、どうした?」

「遊びのお誘いだよ。今日は部活がOFFでさ、皆で遊びに行きたいって思ってね」

「珍しいな。お前から誘ってくるなんて」

「息抜きの一環だよ」

「なるほど」

 

 教室に入って来た賢哉が爽やかに笑う。それにつられて俺も思わず笑ってしまった。

 

「いいね、どこにいくんだい?」

「ゲームセンターで遊んでからファミレスに行くって感じなんだけど。お気に召したかな?」

「おっ、王道ながらいいね」

 

 賢哉の提案に翔子も乗り気らしく、ワクワクを隠さない。

 

「水晶はどうだ? 行くか?」

「うん、私も行くよ。ちょっと楽しみ」

「ならよかった」

 

 幸い同行メンバーが顔見知りのお陰で、水晶も乗り気なのはよかった。

 デッキ制作とクリーチャー退治で疲れてたところの良い気分転換になりそうだ。

 

「よかった、いたわね。水晶、ライト」

 

 そんな時、聞きなれた声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきたのは賢哉の後ろ、教室後方の出入り口からだ。

 そこを見ると、綺麗な長い金髪にト音記号を模した髪飾りを付けたお姉さんがいた。

 

「お姉ちゃん?」

「しゅうら姉?」

 

 庵野しゅうら。水晶の一歳上の姉ちゃんで、俺にとっても姉貴分といえる人。

 思わぬ人の登場に、俺は驚いて席から飛び上がった。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「俺達の教室に来るとか、珍しいな」

「ごめんね、二人とも。ちょっと聞きたいことがあって来たの」

 

 水晶と一緒にしゅうら姉へ駆け寄ると、しゅうら姉は苦笑いを浮かべた。

 

「ねえ、二人とも。一昨日なんだけど、天音君と何かあった?」

「「え?」」

 

 予想外な名前を聞いて、俺と水晶は一瞬言葉を失った。

 俺達が天音先輩と会った事を水晶がしゅうら姉に話してるのは知ってる。天音先輩がしゅうら姉のクラスメイトだってことも知ってる。でも、なんでこんなことを聞いてくるんだ?

 

「しゅうら姉。天音先輩、なんかあったのか?」

 

 俺が問いかけると、しゅうら姉が心配そうに表情を暗くさせた。

 その表情を見て、何故か二日前に見た天音先輩の顔が過ぎった。嫌な予感がしてきたぞ。

 

「天音君の様子が昨日から変なの」

「様子が変?」

「普段の彼、結構人と話す方なの。なのに昨日から人が変わったみたいに、誰とも話さなくなって」

「でもお姉ちゃん、それは単純にそういう時だっただけじゃ」

「それだけじゃないの。なんだか体調も悪そうで、今日の昼放課も凄くふらついてたわ。彼が倒そうになって助けたら、急に怒り始めて。一昨日の終礼までは普通だったの」

「そうなんだ……」

 

 しゅうら姉の話を聞いて、水晶が悲しそうな顔をした。二日前も先輩の心配をしていて、その心配が的中してしまったようなものだ。そうなるのも分かる。

 一方で俺の中じゃ嫌な予感が強まってきた。

 天音先輩のことは全然知らない。二日前に会って話しただけだ。でも助けてもらった相手に逆上するような人じゃないってことは知ってる。確実に何かがあっただろ。

 

「怪しいね。クリーチャー絡みかも」

「ッ!? いきなり耳元で囁くなよ」

 

 翔子が突然耳元で小さく呟く。ビビって声が出そうになったが、踏ん張って声を飲み込む。

 目線を翔子の方へ向けると、彼女は真面目な顔をしていた。

 

「可能性はある。でも普通のスランプで気が立ってる可能性だってあるぞ」

「だったら尚更調べないと。クリーチャーに憑りつかれてたら危険だよ」

「なら、まずは学校にまだいるかどうかだな」

 

 視線をしゅうら姉の方へ戻すと、水晶が一昨日の経緯をしゅうら姉に話しているところだった。

 

「それで天音先輩、凄くショックを受けてたみたいで」

「なるほどね。もしかして、ここ最近スランプだって話、本当だったのかしら」

「スランプ?」

 

 思いもよらぬ言葉に思わず聞き返した。

 

「しゅうら姉、天音先輩ってスランプだったのか?」

 

 そう聞くと、しゅうら姉は困り顔を浮かべた。

 

「あくまでそういう話よ。本人に聞いたわけじゃないわ。上の空な時が度々あったから、そういう噂が立ったの」

「そう、なのか」

 

 嫌な予感が高まってきた。スランプに陥ってる人間なんて、クリーチャーの恰好の得物だ。

 最悪なケースを引き当てたかもしれねぇ。

 

「なあ、天音先輩ってもう帰っちまったのかな」

 

 聞いてみたのは、クラスメイトであるしゅうら姉なら帰ってしまったかどうか、ヒントにはなると思ったからだ。ダメ元だった。でも、返ってきた答えは想像していたものよりも遥かに良いものだった。

 

「まだ帰ってはないと思うわ。私が教室を出る時、ヴァイオリンのケースだけを持ってどこかに行こうとしてたから」

「……マジ?」

 

 その言葉を聞いて、俺は勢いよく翔子の方へ振り向いた。目が合い、頷き合う。

 やらなきゃならないことが決まり、俺と翔子は教室を飛び出した。

 

「ライト!? 神上さん!?」

「ライト君!? 翔子ちゃん!?」

 

 俺達の突然な行動に賢哉と水晶が目を白黒させていた。

 

「賢哉! わりぃけど、今日の誘いはパスさせてくれ!」

 

 申し訳ないとは思う。でも今は非常事態だ。

 

「会長たちに連絡」

「もう掛けてるよ」

 

 全速力で廊下を走る最中、翔子がスマホの画面を見せてきた。

 そこには『流星アーシュ』の名前が映し出され、呼び出しの途中であることを示していた。

 

「会長、俺だ。二年の先輩がクリーチャーに憑りつかれてるかもしれねぇ!」

 

 スマホが通話状態へ切り替わると、俺は前置きもなしに叫んだ。




天才奏者を襲う焦燥、来人の中には蠢く羨望。
夢にまつわる暗雲が立ち込め始める。
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