Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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18話:夢と旋律――望みと呪い

 ──俺は恵まれているのだと思う。少なくとも、暮らしに不自由を感じることはなかったから。

 何より、両親のお陰で多くの事を知ることができたから。

 

『さあ! 紳士淑女の皆様方、今宵の奇跡をどうかお楽しみください!』

 

 母さんは舞台役者であり、マジシャンだった。

 演技にダンス、歌もお手の物。舞台に立つ姿は凛々しく煌びやかで、家にいる時の姿も綺麗とかカッコイイって感じだった。

 トランプやコイン、バラを使った手品も教えてくれて、俺が教わった手品を成功させた時なんかは優しい笑顔を見せてくれた。

 

『母さんが魅せる一時の奇跡。それをより良いものにするのが父さんの仕事なんだよ』

 

 そんな母さんを支えているのが父さんだった。

 カッコよさを感じる母さんに対して、父さんは雰囲気がフワフワしてる。

 父さんの仕事はマネージャーで、そんな二人は公私ともに一緒にいた。

 息子である俺が見ても、ラブラブって言葉が似合うぐらいに。

 

『それじゃあ、パパさん。いつものを頼むよ?』

『はいはい。愛しい君と愛息子が楽しみにしてたら是非もない』

 

 父さんはよくギターを弾いてくれた。

 なんでも、昔は路上ライブとかをしてたギタリスト志望だったらしい。だが、その結果は夢半ばで終わってしまった。それでも芸能方面に関わっていたくて、事務職へ進んだそうだ。

 

『それじゃあ、いくよ?』

 

 でも、父さんのギターが俺は好きだった。

 クラシックギターが奏でる穏やかな音色やアコースティックギターのキラキラした明るい響き。その二つとも違うエレキギターの痺れる音色。そのどれもが幼心に突き刺さった。

 そこからギターを弾きたいと思ったのは当然の流れだと思う。

 

『父さん、俺にギターを教えてよ』

『おお? ライトもこういうのが気になるようになったか』

 

 そんな俺のお願いを父さんは優しく笑いながら了承してくれた。

 始まったレッスンは楽しくて、飲み込みは早かったんじゃないかと思う。

 中学に上がる頃にはそれなりの演奏ができるようになっていて、漠然とギタリストを目指してみたいという夢にもなっていた。

 

『酷いお父さんだ。可愛い我が子を独り占めだなんて』

『人聞きが悪いなぁ……そんなことないよな、ライト?』

『大丈夫だよ、母さん。俺、手品も好きだし』

『それはよかった! それじゃあ、お母さんも頑張って色々と教えちゃおっかな♪』

 

 一方で、母さんから教わる手品もグレードが上がっていった。

 マントや帽子を使うもの、箱を使うもの。パーティーマジックといえるものは人前で見せれるぐらいの腕前にはなった。

 そんな二人から教わったことが俺の誇りだった。

 ──だから、それを失ってしまった時、俺の心は壊れかけた。

 

『ライト君! ライト君!』

 

 原因は大雨の日に起きた事故だった。

 中学三年の秋。俺は交通事故に巻き込まれた。水晶と一緒に帰る途中、暴走車が俺達へ突っ込んできたんだ。でも、幸運なことに被害は俺だけで済んだ。

 咄嗟の事だった。全力で隣にいる水晶を突き飛ばして、俺だけが車に吹っ飛ばされた。

 意識を失う間際、駆け寄って来た水晶が見せた顔を俺は忘れないだろう。

 

『もう、ギターはできないと考えてください』

 

 そして病院で目を覚ました後、俺は医者の先生から絶望を告げられた。

 左腕の損傷が酷かった。指先の細かい動きが維持できなくなってしまったのだ。

 泣き出したかった。怒りと恨みを吐き出したかった。でも、できなかった。

 ──あまりにも酷い泣き顔の水晶がいたから。

 

『ぐすっ。ひぐっ……ライト、くん』

『大丈夫だって、水晶。ちゃんと俺はここにいるよ』

 

 まるで自分の事のように泣く水晶の前で、みっともない真似なんかできなかった。

 できる限りの強がりで心を補強した。大粒の涙を流している女の子に、罪悪感を残させたくなかったから。

 

 ──その日、俺は誇りを失った。

 誇りを胸に夢へ挑むことも、自分の意志で諦めることもできなくなってしまった。

 だから、もしも奇跡があるのなら俺は誇りを取り戻したい。

 それが今の俺にある唯一の願いだ。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「来るよ!」

 

 気を失ったライトに近づこうとするクリーチャー達の前へ立ちはだかり、ボク──神上翔子はすかさずデッキを手にした。アラシとジョニーはそれぞれの武器を構え、アーシュちゃんがドラゴンの力を解放する。

 それと同時にクリーチャーの軍勢が押し寄せてきた。

 

「やああああ!」

《オラオラ!》

《ったく、数が多い奴らだ》

 

 アーシュちゃんの爪とアラシの剣が近づくクリーチャーを次々と倒していき、距離を取ってる奴をジョニーが次々と打ち抜いていく。

 

(さてと、どうにか近づかないといけないんだけどな。どうしたものかな)

 

 目の前で起きてるのはクリーチャーの軍勢とそれを蹴散らしている味方よるリアルファイト。

 この状況だと、ただの人間でしかないボクはお荷物だ。どうにか先輩に近づかなきゃならない。

 

《翔子! 突っ走れ!》

「ああ!」

 

 早撃ちの轟音が響き、クリーチャーの壁に道が開く。

 ジョニーが開いてくれた道へ飛び込み、ボクは天音先輩への距離を詰めていく。

 

「天音先輩、覚悟!」

 

 天音先輩の姿を正面に捉えて走りながら、デッキを構える。

 

『カランゴロ!』

 

 瞬間、眼前に紐の両端に玉が括りつけられた形のクリーチャーが現れた。

《音奏 アサラト》。民族楽器を模したそれは、紐状の体をスイングさせようとしていた。

 

(マズい!)

《あぶねぇ!》

 

 思った時には攻撃が寸前に迫っていた。

 ボクと攻撃の間にアラシが割り込むが、攻撃の勢いは止まらず、ボクらを吹っ飛ばした。

 

「ぐあっ……うっ」

 

 床を勢いよく転がり、壁に激突して体が止まる。

 そんなボクへクリーチャー達が標準を向けてきた。

 

「翔子ちゃん!」

《チィッ! 邪魔だお前ら! クソッ、翔子!!》

 

 アーシュちゃんやジョニーも自身を囲んでくるクリーチャーで手一杯になってる。助けに回るのは無理だ。

 

(流石に万事休すかな)

 

 迫りくるクリーチャーの姿を見て、何故か笑いが込み上げてくる。

 次に攻撃を受けたら痛いじゃ済まないだろうな。そんな呑気な事を頭をよぎった。

 

 

「おい、流石にそれは無しだろ」

 

 

 眼前に一条の光が奔る。次の瞬間、目の前に迫っていたクリーチャー達が霧散した。

 そして私の前に一人と一体の影が立った。

 

「わりぃ、翔子。足引っ張っちまったな」

 

 現れた彼──ライトは気まずそうな顔で私を見る。

 彼の横には巨体のクリーチャーが並び立っていた。

 それは金色の鬣を持ち、赤い鱗の体に袖が破れた黒のジャケットを着たドラゴン。

 その名前はすぐに分かった。

 

「──クロスファイア」

 

 クリーチャーの名は《無限超邪(インフィニティ) クロスファイア》。アウトレイジの種族を持つドラゴンだ。

 その正体にも心当たりがあった。

 

「アラシなのかい?」

 

 ボクの声が聞こえたからか、クロスファイアもボクの方を向く。

 

《正解。俺だぜ》

「やっぱりか。でも、なんでその姿に? それにライトも」

 

 アラシはクロスファイアが力を失ってしまった姿だ。今の姿はおそらく力が戻ったのだろう。

 その姿もクロスファイアというクリーチャーが持つ姿の一つだから疑問はない。ジョニーもデュエル中に別の姿になっていたし。

 でも、なんで今のタイミングで姿が変わったんだ? ライトも復帰も流石に早すぎる気がする。

 

《吹っ飛ばれた俺が気絶してたマスターに突っ込んでな》

「それで叩き起こされた後、賭けに出てみたんだよ。こいつに俺のマナを思いっきり吸わせた」

「……起きて早々に無茶するなぁ」

 

 ボクのパートナーであるジョニーもだけど、契約を結んだクリーチャーは契約相手から少しずつマナを徴収する。クリーチャーが万全の状態じゃないからだ。

 マナとは生命力。それを一気に失うとボクら人間の方も危なくなる。

 それなのに状況を打開するためとはいえ、マナを一気に吸わせたなんて、よくやるよ。

 顔をよく見てみると、ちょっと気分が悪そうだ。呆れてすぎて少し笑えてくる。

 

「選手交代だ。天音先輩は俺が止める」

「分かった。それじゃあ頼むよ?」

「おう、任せろ」

 

 ライトが小さく笑う。

 不思議とその姿は頼もしく見えて、彼に任せれば大丈夫だという気持ちにしてくれた。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「先輩。今のアンタがどんな面か、分かるか? スゲェ酷い面してるぜ」

 

 俺──翔野来人は天音先輩を睨みつけながら、歩を進める。

 

「君もしつこいな」

 

 そう言って天音先輩は持っていたヴァイオリンを机に置く。

 忌々しげに吐き捨てる先輩の顔は気絶前と変わらず、酷いものだ。

 クリーチャーにマナを吸われてるせいで、頬が痩せこけて、目にはハイライトがない。

 

「クリーチャーから離れてくれ。あんたの身が危ねえんだ。自分の夢がどうなってもいいのかよ」

「ッ――黙れ!」

 

 先輩が怒鳴り声をあげる。憎しみと苦しみが込められた声だ。

 その圧に足を止めてしまった。

 

「彼らは僕の演奏を認めてくれたんだ! 世界に届かなくてもいい! 僕の演奏で喜んでくれる人を満足させられればいいんだよ! それが例えクリーチャーだろうと関係ない! 命だってどうでもいい!」

 

 先輩の表情が歪む。狂気と怒りに塗れた顔はまさに悪鬼の相貌だ。

 見てるだけで悲しい気持ちになってくる。

 

「知らないなら教えてあげるよ」

 

 先輩が目を伏せると、声音に絶望の色が混ざり始めた。

 

「夢って言うのはね、呪いと同じなんだよ――!」

 

 声に恐怖の色が混じり出す。なんて酷い叫びだ。

 

「呪いを解くには、夢を叶えなきゃいけない。……でも、途中で挫折した人間はずっと呪われたままだ。もううんざりなんだよ! 不安に押しつぶされるのも、苦しくなる演奏をするのも!」

 

 この叫びは天音先輩の悲鳴だ。何も知らない俺でも、ここまで叫びを聞けば分かってしまう。

 天音先輩は自分の夢に窒息されかかっているんだ。

 迫る留学に不安で心が揺れて、そのせいでスランプに陥った。その心の隙を付け込まれたんだ。

 

(ああ、ふざけんなよ……!)

 

 そんな先輩の有様に怒りが溢れ出してきた。胸糞が悪いにもほどがある。

 憑りついたクリーチャーのやり方も、それで自分が積み重ねてきたこと全てを否定しようとする先輩の態度も許せるもんじゃない。

 俺はデッキを突き付けて叫ぶ。

 

「やるぞ! クロスファイア! あの大馬鹿の目を覚まさせる!」

《応! やってやろうぜ!》

 

 戦場へ誘う光が俺の視界を覆っていく。

 待ってろよ、先輩。例えあんた自身だとしても、あんたの夢は否定させねぇぞ!

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