Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
呪いは消え去り、残るのは――
※ ※ ※
ああ……そうだ。思い出した。
昔、家族で行ったドイツで見たオーケストラのコンサート……その演奏に釘付けにされたんだ。
子供心にヴァイオリンが格好いいって言い出して──そこからオーケストラで演奏する自分の姿を夢見てたんだ
なんで忘れてたんだろ。最初はただ、憧れてただけだったんだ。
なんてことない原点だけど、だからこそやってやりたいって思ったんだ。
※ ※ ※
「ぐっ……!」
辺りの景色が決闘の荒野から教室へ塗り替わる。
それを確認すると、俺は膝から崩れ落ちた。もう体がボロボロだ。
「ライト!」
「翔野さん!」
翔子とアーシュ会長の声が近づいてくるのが分かる。
でも、そっちを向く余裕は今の俺にはなかった。
「うっぐぁあ……!」
ボロボロの体に鞭を打って、どうにか立ち上がる。
目指すのは倒れてる天音先輩の下だ。
「ライト、無理しないでよ!」
「わりぃな、助かる」
そんな俺へ翔子が肩を貸してきた。
担がれながら俺達は先輩の下へ進んでいく。
倒れている先輩の下へ辿り着くと、俺は翔子から離れた。
「先輩、天音先輩!」
膝をついて先輩の体を抱き抱えると、先輩を起こす為に何度も体を揺らす。
「んっ……翔野君? 神上さん?」
そうして体を揺らしていくと、天音先輩が呻き声を上げながら目を覚ました。
ぼんやりしていた瞳は徐々に正気を取り戻すと、彼は不思議そうに辺りを見渡し始める。
「ここは、音楽室? なんで、こんな所に?」
「ああ、よかった」
先輩の顔から闇は消えていた。似合わない眉間の皺も悲愴な雰囲気も既にない。
もう危険はないのだろう。安心できたせいか目元が少し潤んだ。
「大丈夫っすか? この辺をぶらついてたら、倒れてた先輩を見つけたんっすよ」
「そうなの? あはは……助かったよ、ごめんね」
「練習でもしてたんですか? いくら留学が迫ってるからって、根詰めすぎっすよ」
「そうなのかな? 疲れてるんだけど、何をしてたのかはいまいち覚えてなんだよね」
なんとか天音先輩を起き上がらせると、彼は困り顔で首を傾げる。
よかった。クリーチャーに憑りつかれてた時の事は覚えてないみたいだな。
「でも、夢の内容は覚えてるんだ。すっごく変な夢だったよ」
「なんすかそれ。どんな夢だったんですか?」
天音先輩が愉快そうに笑う。
「君と、デュエマをしてたんだ。それで、大事なことを投げ出そうとしてた僕に、君が怒ってたんだ。変な夢だろ? 君とは、一昨日に会ったばかりなのにさ」
「確かに変な夢っすね。きっと無理をしたからっすよ。ぶっ倒れた体が出したSOSなんじゃないですかね」
「かもね。最近は焦ってることも多かったから。夢の中じゃ《ベートーベン》にも怒られたよ」
かっこつかないな、と先輩が照れくさそうに苦笑する。
その姿は同じ男の俺ですら、少しドキリとさせてくる。中性的な顔つきのせいなのか、笑顔の破壊力は結構凄まじいな。
「翔野君、本当にありがとう」
苦笑いをしていた先輩の表情が変わる。
それは優しい眼差しをして、落ち着いて柔らかな笑顔だ。
突然くらった感謝の言葉に、俺は何も言い出せなかった。
「……最近さ、大切なことを見失ってたんだ。自分に自信もなくなっちゃって、全部を投げ出したいって思ったんだ。でも、吹っ切れた気がする。夢の中で、君に色々な言葉を貰ったおかげだ」
「なんすかそれ。夢の中の俺、なんて言ってたんです?」
「色々と言ってくれたよ。”失敗してもいい、全力の失敗は新しい道に繋がる祝福だから”とか”アンタはまだ変われるんだ”とか」
「うわぁ。キザったらしいセリフっすね」
「だね。でもそれが僕は嬉しかったよ。苦しんでる僕に全力でぶつかってきてくれる人の言葉だったからさ」
「……そうだったんっすね」
駄目だ。先輩が話を聞いてると色んな意味で顔が熱くなってきた。
我ながら酷いセリフだ。こんなの今どき、ラブコメでも言わねぇよ。今更ながら恥ずかしくなってきた。
「でも──」
そんな俺の心情なんて知らない先輩は話を続ける。
「一番嬉しかったのは”自分の道は自分で決めろ”って言ってくれたことだったな」
「そいつ、本当に俺でしたか? 知り合ったばかりの先輩に、色々言う度胸なんてないっすよ」
「そうかな? 初めて会ったとき、僕の夢を笑う奴がいたら殴ってやるって言ってくれただろ。そんなこと言われたのは初めてだったんだ。だからじゃないかな。君はそういう言葉を言ってくれる人だって僕は思っちゃったんだよ」
「先輩……」
「そんな言葉のお陰だよ。僕の道は僕が決める。失敗してもいいから、全力でぶつかっていく。向こうでおもいっきり練習して足掻いてくるよ。憧れのオーケストラに入るために。それが僕の原点だからね」
「やれますよ、先輩なら」
もう心は揺らがないのだろう。先輩の真っ直ぐな眼差しが言外にそれを教えてくれる。
留学への決意は固く決まったみたいだ。
「それと先輩、一つ渡しておきたいものがあるんですよ」
俺はデッキから貰った《ベートーベン》のカードを取り出して、先輩の手にそれを握らせる。
その行動の意味が理解できないからか、先輩はポカンと呆気に取られていた。
「えっ、何で?」
「改めてお守りとして持っていてください」
このカードは元々先輩のものだ。そして迷いを吹っ切った先輩にこそ、相応しいと俺は思う。
まだ立ち止まってる俺が持ってるのも違うと思うしな。
「それにプラスして約束の証としても」
「約束?」
「留学から帰ってきたら、また一戦やりましょうよ。デュエマ」
すると、首を傾げて呆然としていた先輩が「ぷはははは!」と吹き出した。
「あはははっ! なるほど。今度は現実で、だね? いいよ、やろう。日本に帰ってきたら、またデュエマをしよう。約束だ」
「オッス、約束ですよ」
俺達は互いの手を取って、固く握り合う。そして笑い合う。
互いに言葉を交わした時間はあまりにも少ない。それどころか、天音先輩にとっては殆どの時間が夢の中の出来事だ。
それでも、天音先輩との出来事を俺は忘れることはないだろう。
だって、笑顔で未来の約束をしたんだ。忘れられるわけがない。
その後、天音先輩はアーシュ会長に連れられて音楽室を去っていった。
俺と翔子はというと、廊下で気を失ってる水晶を何とか運び出して、自分の教室に放置していた荷物を回収しに行った。
こうして、生徒会や俺達を巻き込んだ天才ヴァイオリニストを発端とした騒動は幕を下ろしたのだった。
※ ※ ※
「ねえ、ライト。やっぱりボクが変わった方がいいんじゃ」
「お前もいい加減しつこい。大丈夫だって言ってんだろ」
太陽が沈みつつある夕暮れ時、俺達は帰路を進んでいた。
その道中で三度目になる翔子からの提案を、俺は語気を少し荒げて取り下げる。
本当にしつこいぞ。そろそろ引いてくれよ。
「いや、だけどさ……君、ボロボロじゃないか」
「それでもお前に任せるよりマシだ」
だが、そんな俺の思いも虚しく翔子は抗議の姿勢を崩さない。
そんな彼女が猛抗議する原因は俺の背中にあった。
「君が水晶ちゃんを背負ってる方が危ないじゃないか!」
ことの発端は天音先輩の騒動を解決した後のことだ。
気を失っている水晶と共に教室に戻った俺達は荷物を回収して、帰ることにしたのだが、ここで一つ問題が発生した。
それは、気を失っている水晶をどうするかということ。
すっかり下校時間を過ぎまくってることもあって、保健室は使えない。
下手に誰かへ伝えると大騒ぎになって後が面倒なことになって来る。
一番いいのは自力で目を覚ますことだが、クロスファイアとジョニー曰く目を覚ますのにはもう少し時間がかかるらしい。
結局、俺達はそれぞれ水晶自身と荷物を運ぶことにして帰路に就いたわけだ。
(まあ、翔子が心配するのも分かるけどよ)
実際、翔子が懸念してることも分かる。
俺の体は天音先輩との戦いでボロボロだ。今でも体のあちこちが痛い。
だが、それで翔子に水晶を運ばせるのは、男として恰好がつかない。
古臭い考えではあるけど、気になるものは仕方ない。
一応、それ以外にも理由はある。
「お前はお前で貧弱だろうが!」
「うぐっ」
俺の反論に翔子は図星だからか、言葉を詰まらせた。
そんな彼女は自分の荷物以外に水晶の荷物と俺の荷物を運んでくれてる。
だが、その足取りは時折ふらついたりして、運んでもらってる身で言うのもあれだが、少し心もとない。こんなんじゃ水晶を任せられるかってんだよ。
まだ俺が運んだ方がマシだ。
「本当に無茶するよ。ボロボロのくせに」
「まあ、ボロボロつっても切り傷と疲れがあるだけだ。平気だ平気。今はこの通り歩けるしな」
「やせ我慢を平気とは言わない」
拗ねる翔子におどけてみせると、彼女は不機嫌な顔をぷいっと背けた。
答え方が気に食わなかったみたいだ。
「んぅぅぅぅぅ……」
そんなやり取りをしてると、背中から呻き声が聞こえてきた。
背中を覗こうとすると、水晶がもぞもぞと体を動かし始める。
「ふわぁー」
「おわっ、とっとっと!」
目を覚ました水晶が欠伸をしながら体を伸ばすと、体のバランスが崩れかけた。
どうにか堪えて立て直すと、俺はその場に立ち止まる。
「んー……あれ? 私、なんで寝てるの?」
「……はぁー……」
まだ眠たそうな水晶の姿に、デカい安堵のため息が出た。
よかった。後遺症的なものはないみたいだ。
水晶はもう一度欠伸をすると、ハッとして辺りをきょろきょろと見渡し始めた。
「え? えっ!? そ、外!? なんで!?」
「落ち着けって水晶」
「ライト君!? うそ、なんで私ライト君におんぶされてるの!?」
「ちょっ、落ち着けって!」
取り乱しまくる水晶へ声をかけるが、あわてんぼうの幼馴染は止まってくれない。
わたわたと彼女が動くので、俺は咄嗟にその場で屈みこんだ。
すると、隣でそれを見ていた翔子が水晶との距離を一気に詰める。
「ふぅー」
「ひゃうっ!」
翔子が水晶の耳へ息を吹き込み、可愛い悲鳴が水晶の口から飛び出した。
混乱してるところに別のショックを突っ込まれたからか、暴れていた水晶の体が止まる。
「おはよう♪ 可愛い眠り姫」
「なにするの!? 翔子ちゃん!」
翔子は蠱惑的な笑みを浮かべる。
そんなことをされたからか水晶は顔を真っ赤にしていた。
まあ、そうなるわな。あんなことされたら恥ずかしいわ。
「君が凄く慌ててるから、悪戯したくなっちゃったんだ♪」
「もう、翔子ちゃんったら」
愉快そうな笑みに笑う翔子に、水晶は拗ねるように顔をそむけた。
どうやら、本当に何の問題もないみたいだな。
「ちゃんと目が覚めたらなら、降りてくれるか?」
「えっ、ああ! ご、ごめん!」
正気を取り戻した水晶が慌てて背中から下りると、翔子が持っていた荷物を水晶へ渡した。
それを確認すると、俺も立ち上がって体を伸ばす。
「うぐぐっ」
ボロボロになってる体は、当たり前だが凄く不便だ。
まさか、ちょっと同じ体勢でいるだけカチコチになるとは思わなかった。
「それで……なんで私、ライト君におんぶされてたの? 学校の外にいるし」
水晶が不思議そうに首を傾げる。
そこへ翔子が口を開いた。
「寝てる水晶ちゃんを荷物共々ボクたちが運んだからだよ。教室に戻ってきたら、思いっきり寝てるんだもん。何度も揺すったり悪戯しても起きないし、時間も時間で、誰もいない教室に置いてくのも嫌だったからさ」
(……本当によくそんなこと言えるよな、こいつ)
やれやれという態度でカバーストーリーを堂々と語る翔子に、俺は内心舌を巻きながら呆れた。
なんて思い切ったホラ吹きだ。俺だったら言う時に少し躊躇って嘘だとバレる気がする。
「えっ!? そんなに寝てたの? 私」
堂々と言われたからか水晶もそれを驚きながら信じていた。
我が友達ながら本当に恐ろしい。何も知らない状況で翔子に嘘をつかれたら、ついつい信じてしまいそうだ。
「よし! 水晶ちゃんも起きたし、三人で寄り道してこう!」
驚愕してる俺をよそに、翔子はさっきまでの不機嫌さが嘘だったように笑う。
「もう帰るのが遅くなるのは確定してるんだから、思いっきり遊んで帰ろうよ♪」
「お前なぁ……」
思わず俺は翔子を睨みつけた。
なんて提案しやがるんだよ。こっちは油断すると今にも倒れそうだってのに。
だというのに、彼女は俺のことを歯牙にもかけない。
「水晶ちゃん、行こう!」
「えっ!? 翔子ちゃん!?」
「あっ、おい!」
翔子は水晶の手を握ると一気に走り出す。
一体どこにそんな元気があるのか、二人の姿がどんどんと小さくなっていく。
「ったくよ」
そんな姿が嬉しくて、安堵を覚えた。
疲れてるのに、自然と口角が上がっていく。
「なあ、クロスファイア」
《なんだ?》
遠ざかっていく二人の姿を見ながら、俺はクロスファイアに呼びかける。
返って来た声はなんだか疲れてるみたいだ。
「前に言ってた願い、決まったぜ」
《ほほう? ようやくか、教えてくれよ》
「俺はもう一度ギターを弾きたい」
《へぇ、ギターやってたのか。なんかあったのか?》
「事故に巻き込まれてな。左腕で細かい動きができなくなっちまって、今じゃ弾けない」
《お、おう……そうなのか》
心なしか、クロスファイアの声が暗くなった気がする。
戸惑って同情してるのだろう。いきなり事故にあった話をすれば面食らうのも無理はない。
でも、クロスファイアが悲しむ必要なんてないんだ。
「またギターが弾けるように、左腕を治したい。叶えられるだろ?」
悲しさなんて感じさせないように、俺はできる限りの笑みを浮かべて、問う。
意図を察してくれたのか、クロスファイアは声を明るくして問いかけに答えた。
《おう、やれるぜ。まあ、身体に干渉するから、結構マナを溜める必要はあるけどな》
「上等だ。戦って、戦って、クリスタルの中をパンパンにしてやるよ」
《おっと、大きく出たじゃねぇか。願いも決まって、モチベMAXってところか?》
「かもな」
少なくとも、戦う覚悟がより決まったとは思う。
ステップル事件の後に義憤──は少し気取りすぎかもしれないが、人の願いを利用しようとする輩が許せないと思って、それで大切な人が傷つくのが嫌で、戦う覚悟はできていた。
でも、今日のお陰でより決意できた。
誰かのためだけじゃない。自分のために戦う理由ができたから。
「ライトー! 早く来てよ!」
遠くから、翔子の声が聞こえてくる。
どうも結構待たせてるみたいだ。
「さっさと行かないと後が面倒そうだな」
待ちぼうけを食らわせてる女子二人の方へ歩を進める。
不思議と踏み出した一歩の足取りは軽かった。
《ボロボロのくせに、元気そうだな》
「目標ができたからな。夢に向かってくんだ。天音先輩みたいに、失敗だろうと成功だろうと、足掻いて向き合ってやる」
きっと、これからも怪我をするのだろう。
いつも一緒にいる幼馴染に言えない秘密も増えていくのだろう。
最近、忙しくなって家を空けるようになった両親にバレないようにするのも大変だろうな。
(それでも、戦おう)
誇れるものを頑張ってる奴を守りたいから。
俺自身の願いを叶えたいから。
そして、まだ始まったばかりの友達との楽しい
(もしかしたら、クリーチャー退治も青春の思い出になっちまうかもな)
そんなことを考えて、また笑う。
──俺の普通じゃないデュエマは、きっとここからが本番だ。
※ ※ ※
──暗闇の中、妖しい光が蠢いていた。
夥しい数の机や椅子が積み重なって放置されたその場所は、夜の帳と合わさって不穏な様相を醸し出している。
その場所に、炎の如く揺らめく『影』はいた。
《……集まりはまずまずといったところか》
自身の手の内に集まったものに、『影』は嘆息する。
それは妖しげな気を放つ3つの赤き宝石であった。
《……まあ、是非もない。配下でもないクリーチャー共から散り際に掠め取るにも限度があるか》
『影』は宝石を弄びながら、思案する。
己が目的を、より効率的に果たす為にはどうすればよいのか、と。
だが、すぐに
《思わぬ邪魔が二つも入ったが、まあいいだろう》
宝石を飲み込むと、『影』は不敵に笑う。
《利用できるものは全て用いるのみ。ドラゴン娘だろうと、なんだろうと関係ない。どんな力を持っていようと、たかだか人間。私が怖れることなどない》
『夢と旋律』編、これにて終演!
読者の皆様、まずはここまで読んでいただきありがとうございます!
これでドラゴン娘の時系列的には次から『生徒会結成編』の四話に突入していきます。
我ながら時間かけすぎたな?
きっと、読んでくださっている方には「あいつら何なの?」とか気になってることがあるでしょうが、それはこれからにしっかり出てきますので、お楽しみに!
どうかこれからも楽しんでいただけると幸いです。
感想などもお待ちしています!