Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
誤字脱字報告や感想、ありがとうございます。
ちょっと遅くなってしまいましたが、これより『アオハル』編、始まります
※一部描写のミスがあったので修正しました。
ロムが5組、リンが4組です。
21話:青春のひと時――デュエリストたちの日常
──夢を見る。
『ふふふっ、ふははははははは……ははははははっ!』
荒野に立ち、狂気に染まった己の姿を。
『あぁ、もう誰にも負けないさ!』
怪物を従えて、ただの強さを求めていく。
そんな道から外れていく己の姿を。
『ふざ、けんな……!』
そんな僕と対峙して、ボロボロになっていく友達の姿を。
『似合わねぇんだよ、クソが!』
傷だらけになっても、僕を止めようとする友達の姿を見ている。
それはあまりにも荒唐無稽なのに、現実感に満ちた夢だった。
(ライト……)
その光景に僕──御崎賢哉は今すぐ駆け出したかった。
ボロボロになっていく友達の下へ、今にも倒れそうになってる体を支えてあげたかった。
なのに、身体が動かない。
自覚している夢──明晰夢のはずなのに、いくら藻掻いても身体は一歩も動かない。
《──エ──ルカ》
藻掻く僕の耳を声が震わす。そして、眼前が炎に包まれた。
「なっ……!」
夢の全てが炎に包まれていく。
荒野の戦場も、狂気に飲まれた僕も、傷ついていくライトの姿も、全てが紙に描かれた絵のように燃えていき、風景が塗り替わっていく。
そうして現れたのは、炎に包まれた岩肌だった。
辺りを見渡せば、あるのは緑一つない岩肌の群れ。
まさに地獄の山と言える魔境だ。
《キ──エ──カ》
僕の体に影が差す。辺りを見ても、あるのは岩肌と炎だけだ。
つまり、影の源は──
「っ──!」
見上げた先で、僕は息を呑んだ。
そこには1体の龍が翼を広げて、空に佇んでいた。
「きみ、は──」
それは鎧と炎に身を包んだ赤き龍だった。
白き鎧と片手を覆う巨大な
そんな特徴を持ってる龍の名前を僕は知っている。
「ボルシャック・カイザー……?」
その名前を呟いた時、僕の身体を炎が包む。
そして、僕の視界は暗転した。
※ ※ ※
「っは──!」
夢から覚めると、僕の体は布団から跳ね上がった。
(いま、のは──)
心臓に手をやると、鼓動がドクドクと激しい音を上げている。胸が痛い。
「はあ……はあ」
呼吸を整えながら辺りを見渡す。
そこにあるのは、いつもと変わらない自室の光景だった。
普段から踏みしてる畳も、普段から使ってる文机やタンスも、縁側と室内を区切る襖にも変わりはない。
「あぁ、ったく……なんなんだ……」
頭を抑えて、溜息をつく。
時計を見れば、針が示しているのは朝の4時。普段してる朝の鍛錬よりも早い目覚めだ。
(
狂気に染まった僕と、それを止めるために戦うライトの夢。
それを塗り替えるように現れるドラゴンの夢。
二日前から寝てはこの夢ばかりを僕は見ていた。
(あれが、関わってるのか?)
その原因に心当たりはあった。
(デュエマのクリーチャーと、それと戦う人)
二日前の放課後、僕は──超常の戦いを目にした。
ゲームの中にしかいないはずの存在が現実にいて、それと戦う人がいることを知った。
驚いて混乱した中でも、目の前に現れたサイバーパンク風のジャケットを着た二人組の姿は、しっかりと焼き付いてる。
そうして戦いが終わった後、戦った二人は何も言わずに去っていった。
「まさか、あれが現実?」
その経験が、夢に妙な現実感を与えていた。
「……まずは、あの人に聞いてみるか」
確かめないといけない気がする。
きっと、あれはただの夢なんかじゃない。
あの人なら、少なくとも何かは知ってるはずだ。
※ ※ ※
それは天音先輩の騒動から二日経って、四月の下旬に差し掛かろうとしている日のこと。
昼放課の図書室。利用者がいなくてガラガラになってる部屋の片隅、置き畳のスペースで俺──翔野来人はデュエ友──翔子、リン、ロムの三人と集まっていた。
「そういえば、部活の予算案提出って今日の朝が期限だったよね」
翔子がそんなことを言ったのは、彼女とリンによる対戦の真っ只中だった。
「部活の予算案?」
急に出てきた話題に俺は首を傾げると、リンが頷く。
「だね、アタシの所も結構大変だったなぁ。出費が嵩むとかでさ」
「そういや、水上ってゲーム部だったか」
「おお、ライトってば覚えてくれてたんだ。忘れられてると思ってた」
「さらっと失礼なこと言うんじゃねぇよ、お前」
「まあまあ、ごめんって」
リンが愛嬌のある笑みを浮かべる。
可愛いが、さっきの言いようがムッとしたから軽く小突いてやりてぇ。
「やっぱり他の部活もきりきり舞いだよね。《ソーナンデス》で《デドダム》へ攻撃、する時に
「うっげ、もう出てきた……」
「《デドダム》撃破。これでターンエンド」
「盤面空っぽになっちゃったよ」
「割と早く出てきたな《ジョラゴン》。それで、予算案だっけか。何が大変なんだよ?」
いまいち分からなくて問いかけると、リンはカードを引きながら溜息を吐く。
「アタシたち1年が入学して、もう半月立つでしょ? 新メンバーも馴染んできてこれからやってこうってなるわけじゃん。うちのゲーム部とかだと道具、運動系……空手部とかは合宿費用込々で、結構な予算がいるわけ。その予算案を考えるのが大変で、どの部活も苦労してるっぽいね」
「だね。漫研もデジタル系の機材は金食い虫だって、部長がぼやいてたよ」
「はぁ、そういうもんなのか」
帰宅部兼クリーチャー退治に勤しむ俺にはよくわからん話だ。
すると、今度はロムが口を開いた
「生徒会も大変だろうな。予算も無際限ってわけじゃないから、申請してきた案からいくらか減らすことになる。そうなったら、口論も避けられないだろうし」
「ああ、なるほど。確かにそいつは面倒そうだな」
生徒会の仕事は色々とあるが、部活動とも関わるのか。言われてみると納得だ。
それはそれとして、ロムから生徒会のことが出るとはな。
「ちょいと意外だ」
「何が?」
「間桐が生徒会のことを知ってるのがだよ。そういうには全然興味なしって思ってたぞ」
「お前は俺を何だと思ってるんだよ」
ロムが呆れかえった視線を突き刺してくる。そんな目で見るなよ。
お前ってば周りのことに少し無頓着だったりするから、生徒会のことも何も知らないって思ってたんだよ。
「でも、確かに意外だ。生徒会ってまだ大きな活動はしてないから、他の生徒からすると知名度はないしね」
ロムの視線から逃げるように顔を背けると、その先で翔子が目を輝かせて笑っていた。
どうもロムの反応は翔子の好奇心を刺激したらしい。
「ねえ、ロム。もしかして生徒会入りを狙ってたりしてた?」
「ええ? ロムってば、そういうのに憧れとかあるタイプなんだ?」
「水上まで食い付くのかよ……」
「物好きめ」
女子二人がキラキラした目をロムへ向ける。
横目に見てみると、当のロムは面倒さそうに眉をひそめてるが、そいつは悪手だ。そんな態度をとっても女子二人は止まらない。
ロムもそれに気づいて観念したのか、大きな溜息を吐いた。
「別にそういうことじゃない。ただ、生徒会に1人、中学からの友達がいるだけだよ」
「ほほう、それはまた意外な話だね」
「へぇ、中学の友達と一緒なんだ。ちょっと羨ましいなー」
「マジかよ」
まさかのカミングアウトだ。
留学生のゼオスは別として、生徒会の4人のうち誰かが友達って予想がつかない。
全員ロムとキャラが合うのか?
「この話はもういいだろ。対戦に戻ってくれ」
うんざりだと言いたげにロムがそっぽを向く。
女子二人はそんな姿も見てて楽しいのか、笑顔を崩さない。
「はいはい、分かった分かった」
「恥ずかしがらなくてもいいのに」
「この愉快犯ども……」
呆れてため息が出るが、女子二人は意にも介さず手慣れたカードさばきでデュエルを再開した。
「《デドダム》と《アイオン・ユピテル》召喚。《デドダム》の効果で整えて、《ユピテル》で《ジョラゴン》へ攻撃。それで侵略発動。《デッドダムド》へ進化させて、効果で《ジョラゴン》を墓地へ」
「やっぱり来るよねぇ」
「これでターンエンド」
戦いはリンの有利に傾いてる。まあ、握ってるデッキ的には当然ではある。
リンが握ってるのは
対する翔子が握ってるのは火・自然が主のジョーカーズ。
マナの数は翔子がリードしてるが、デッキパワーの開きは歴然だ。
「マナチャージして、《バークアステカ
「あーやっぱり潰しに来るよねぇ。というか《アステカA》って、翔子ちゃんマイナーカード引っ張ってきたね」
「ここ最近はジョーカーズがマイブームでね、色々と使えないか試行錯誤してるんだよ」
「へぇー、そうなんだ」
「それじゃあ、《アステカA》でW・ブレイク」
リンは出てきたカードに驚きながらシールドを捲っていく。
が、内容を確認するや否やニヤリと笑った。
「S・トリガーゲット! 呪文《テック団の波壊GO!》。《アステカA》を破壊」
「……これで、ターンエンド」
「アタシのターン。マナチャージして、墓地のフシギバース発動! 《デッドダムド》をマナに送って、《大樹王 ギガンディダノス》を墓地から6マナで召喚。登場時効果で相手の手札を全てマナへ落とす」
場に現れたのは木々が生い茂る巨竜。
その能力は敵の全ハンデスと自身より弱いクリーチャーによるプレイヤー攻撃の封殺。
もう勝敗は決まったも同然だ。
「……投了しよう。流石にそれを出されたら勝てないよ」
翔子が両手を上げながら力なく笑う。
分かるぞ、翔子。《ディダノス》のロックは本当に決められると嫌になるよな。
「ふっふっふ、やっぱり【ダムド】で決める《ディダノス》は気持ちいね!」
一方でリンはふんすとドヤ顔になっていた。
”キーンコーンカーンコーン♪ キーンコーンカーンコーン♪”
そのタイミングで予鈴のチャイムが鳴り始める。
「ありゃ? もう時間?」
「みたいだね」
「そんじゃ急ぐか」
デッキを片付けると、急ぎ足で図書室を出る。
廊下に出た後、辺りを見渡して先生がいないことを確認すると、俺達は廊下を走り出した。
「誰にも見つかりませんように!」
「祈っても意味ねぇだろ……」
走りながら手を組むリンを半目で見ながら、俺達は一般教室棟に踏み入る。
「じゃあな」
「それじゃあ、アタシもこれで!」
5組の教室を通り過ぎるところでロムが抜け、4組の前ではリンが抜けていく。
そうするうちに、廊下の突き当りに位置する俺達の教室が見えてきた。
「よーし、到着」
「まぁ、ギリギリだけどな」
教室へ飛び込む。時計を見てみると、自分たちの教室に着いたのはチャイムが鳴る2分前。
自分のことながら、ギリギリだ。もう少し時間を見るようにしとかないといけないな。
「あ、そうだ」
そんな自省をしてると、翔子が何か思い出したに目を見開いた。
「ねえライト、放課後ちょっと手伝ってよ」
そういって彼女はニヤリと笑った。
※ ※ ※
『えっしゃおらー!』
『よーしよしよし、行け行け行け! 逃げ切れ!』
『捲れ! 捲れー!』
『差せ! 差せー!』
『俺の愛馬が!』
昼放課になると、3年のフロアである3階はかなり騒がしくなる。
後輩たち――1年や2年がどんな感じかはいまいち知らねぇが、少なくとも3年は少し落ち着けよと思うぐらいには愉快な有様だ。
「ったく、うっせーっての」
一般教室棟の屋上、その塔屋の上で俺――
「よーし、いい出来じゃねーの」
スケッチブックに描いてるのは屋上から見える町の眺め。
桜の絵もしっかりと完成させて、気分転換にやり始めたが、我ながら良い絵を描くもんだ。
ステップルの奴が抱えてた焦りとかも持ってったのか、今じゃ心穏やかに描ける。
気分よく鼻歌まで歌ってると、屋上の扉が開く音が聞こえてきた。
「尾瀬先輩、いますか?」
下から声が聞こえてくる。下のフロアからじゃない。俺が今いる塔屋の下からだ。
「誰だ――って、お前」
下を覗くと、そこには1人の男がいた。
短い黒髪に優男っぽい顔つき――1年の後輩、御崎賢哉。
御崎の奴は妙に真剣そうな眼つきで俺を見ていた。
「何の用だ?」
「ちょっとお話したいことがあって」
「そこに梯子があるだろ、上ってこい」
「あっはい」
顔を引っ込めると、御崎はすぐに梯子を上って来た。
やってきた御崎の顔は妙に硬い。しかも俺が座ってるってのに、ぼっ立ちだ。
「座れ」
「あっはい」
床を指さして座るのを促すと、御崎は慌てて胡坐を組んで座った。
「で、何の用だ?」
「先輩にお聞きしたいことがあるんです。一昨日の事で」
御崎は胡坐から正座へ体勢を整えると、真剣な眼差しを向けてきた。
どうも結構真面目な話らしい。
それにしても、一昨日か。こいつが聞きたいことって何かあったか。
「……ああ、そういうことか」
少し記憶を掘り返してみると、思い当たる物があった。
そういえば、コイツと一緒にクリーチャーの群れと出くわしてたな。
思い出してきたぞ。確か、どうにか切り抜けようとしてたら、妙な二人組が出てきて、そいつらがクリーチャーをぶっ倒してった後、俺も急ぎの予定があったから、呆然としてたこいつを放置して帰っちまったんだ。
「お前が聞きたいことって、クリーチャーのことか」
「っ……はいっ」
頷く御崎の目が少し見開いた。
どんな気持ちなのかはいまいち分からねぇが、お目当ての話を一発で引き当てたことに驚いたってところかね?
”キーンコーンカーンコーン♪ キーンコーンカーンコーン♪”
「ありゃ?」
いざ話そうとした時、予鈴のチャイムが鳴り始めた。
スマホを取り出して時計を見てみると、数字は昼放課終了まであと5分を指してる。
「やばっ……」
御崎の方を見てみると、同じようにスマホで時間を見ていた。
どうもタイムアップは想定してなかったのか、その顔は青ざめてる。
「すいません、先輩。失礼します」
「おい、御崎」
慌てて中へ戻ろうとする御崎を呼び止める。
梯子に足をかけていた野郎の顔は、妙に呆けてた。
「放課後、ここに来い。テメェが気になってること、俺が知ってる範疇なら教えてやるからよ」