Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
※ ※ ※
始まった俺と賢哉のデュエマは、序盤の二ターン目から動き始めていた。
「僕のターン。二マナで《ROYAL-減亜5》 を召喚」
そういって賢哉がカードをバトルゾーンに出すと、自然文明のマークが現れ、それと共に甲冑を着た可愛いクマが薙刀を持って現れた。
実際に現れたクリーチャーの姿に、思わず目を見張ってしまう。
クリーチャーが、空想の産物でしかなかった存在が、目の前で実体を持って現れたのだ。
例えどんな状況にあろうと、この光景に感動しないデュエマプレイヤーはいないだろ。
「その効果で手札の《我流TENSAY》をマナへ。そしてNEOクリーチャーをマナへ置いたことで、1ドロー。ターンエンド」
ターンの終わりを告げた賢哉の声は、あまりにも冷淡だ。
そして俺のターンがやって来る。
「俺のターン、ドロー。《Napo獅子-Vi無粋》をチャージ。そして2マナ、《アシスター・Mogi林檎》を召喚」
俺も賢哉と同じようにクリーチャーをバトルゾーンへ出すと、今度は水文明のマークと共にチケットを捌く人魚が現れた。
「これでターンエンドだ」
これで次のターンから、俺がマジックへ使うコストが永続的に一つ少なくなる。
手札とマナを伸ばしている向こうと比べると、少し不安ではあるが、自分のデッキを信じるしか道はない。
「僕のターン、ドロー。《ROYAL-減亜5》 をチャージ。3マナで《無頼BEN-K1000》を召喚」
そして回って来た賢哉のターン。
火、光、自然のマークと共に、錫杖を構えて編み笠を被った、でっぷりとした鳥のようなクリーチャーが現れる。
「BEN-Kの登場時効果、発動。自分の山札の上から3枚を確認し、そのうちの1枚をシールドに、残りを1枚ずつマナゾーンとこのクリーチャーの下に置く」
賢哉の手へカードが三枚、ひとりでに宙を舞った。
「シールドを一枚追加し、《リュウジン・ドスファング》をマナへ、 《PURE1-不行地》をBEN-Kの下へ」
賢哉を守るシールドが一つ増え、《BEN-K》の身体へカードが一枚入り込む。
すると、BEN-Kの背後に甲冑を纏った四足獣が半透明の姿で現れた。
おそらく、《PURE1-不行地》が持つ超魂Xの表しているのだろう。
「《BEN-K》でシールドをブレイク」
「初っ端から来るか!」
賢哉の指示に応じ、《BEN-K》が俺のシールド目掛けて突撃してきた。
《無頼BEN-K1000》はスピードアタッカーを持たないから、本来なら召喚酔いで出てきたターンは攻撃できない。
だが、あれはNEOクリーチャー。自分の下にカードがあれば、召喚酔いを持たない進化クリーチャーとなり、即座の攻撃が可能になる。
《とりゃー!》
《BEN-K》の錫杖が、俺のシールドに叩き付けられる。
シールドはガラスのように割れ、砕け散った。
そして──
「ッ……いってぇ」
砕け散ったシールドの破片が、
「まさかとは思ったが、ここでのデュエルは──」
《お前の予想通りだ。この空間で行うクリーチャーに憑りつかれた人間とのデュエルは、現実の痛みを伴う。シールドが破壊された時もな。そして──》
「ダイレクトアタックを喰らったら、より大きな怪我をする。もしくは命の危機ってか?」
《その通りだ。だが、なぜ恐怖しない? 自分の命がかかってるんだぞ》
「正直絶望してるよ。そう見えねぇなら、まだテンションがバグってるんだ」
クロスファイアは腕を組みながら、不思議そうに俺を覗き込む。
どうも傍から見ると、俺の顔には恐怖の色が浮かんでいないらしい。
だが生憎と、それは間違いだ。デュエルの危険っぷりに今すぐにでも叫びたい。
それでも平気に見えているなら、きっとアドレナリンが出まくっていて、表に出てきてないだけだろう。
「シールドチェック」
吹き飛ばされたカードは俺の手へ吸い込まれ、そのカードを確認する。
だが、そこに反撃の手段はなかった。
「ノートリガーだ」
「これでターンエンド」
賢哉のターンが終わり、また俺のターンが回って来る。
「俺のターン、ドロー。《落ちるかな》をチャージ。《Mogi林檎》の軽減効果で、《調律師ピーカプ》を3マナで召喚。そっから《BEN-K》へアタックだ」
火文明のマークと共に現れたのは、多腕に様々な工具を持った小人のクリーチャー。
スピードアタッカーを持つそいつは、現れたのと同時に《BEN-K》目掛けて走り出す。
「そして、種族にマジックを持つクリーチャーがアタックした。よって、革命チェンジ発動だ!」
俺の宣言と共に、突っ走っていた《ピーカプ》は姿を消し、そのカードが俺の手札へ帰還する。
そして、
「来い、《芸魔隠狐 カラクリバーシ》!」
バトルゾーンに黄金の四足獣が入れ替わりで姿を現わした。
革命チェンジ。それは特定の条件を満たしたクリーチャーの攻撃時、そのクリーチャーと入れ替わることで、手札から現れる能力だ。
そして、現れた《カラクリバーシ》を強みはそれだけじゃない。
「その登場時効果で一枚ドローし、手札からコスト3以下の呪文を使用する。使用するのは《氷柱と炎弧の決断》 だ!」
まずは手札が一枚増える。そして、その後に呪文をノーコストで使うことができる。
「《氷柱と炎弧の決断》 の選択効果は2回ともドロー効果だ」
俺は手札を一枚墓地へ落とし、カードを二枚ドローする。そして、再び一枚を墓地へ落とし、カードを二枚ドローした。
「さあ、バトル処理だ」
「ッ……!」
「これでターンエンドだ」
呪文の処理が終わると、《カラクリバーシ》が《BEN-K》を踏み潰す。
これで、超魂Xを持っているやつを処理することができた。
俺の場にタップしているクリーチャーが発生したが、仕方ない。
あの手の効果を持っているやつを野放しにするのは、危険だ。
「僕のターン……ふっ」
賢哉がカードを引く。すると、突如あいつの口角が上がった。
それを見た途端、俺の身体に悪寒が駆け巡った。
何か来る。
「《場和了GO-YAMA-58》をチャージ。そして──《竜牙 リュウジン・ドスファング》を5マナでバトルゾーンへ!」
五枚となった賢哉のマナがタップされ、それは現れた。
その甲冑は誰にも纏われていないというのに、バトルゾーンの地面を踏みしめていた。
《竜牙 リュウジン・ドスファング》、それはサムライという種族が持つ最強の展開エンジンだ。
「《ドスファング》の登場時能力、発動。サムライ・メクレイド5を行う」
賢哉のデッキから上三枚が宙を舞う。
メクレイド。それはデッキの上から三枚を確認し、その中から指定された条件を満たしたカードを一枚、ノーコストで使うことができる能力。
しかも、その効果でメクレイドを持つカードが出てくると、能力は連鎖する。
簡単に軍団を作り上げることができる恐ろしい代物だ。
「そして、二枚目の《ドスファング》をバトルゾーンへ!」
「マジかよ……!」
バトルゾーンへもう一つの甲冑が現れる。
そして、《ドスファング》が現れたということは、メクレイドが更に発動するということだ。
「サムライ・メクレイド5発動! そして現れろ!」
賢哉の叫びと共に、バトルゾーンに炎が上がる。
そして、そびえ立った炎の柱の中で一つの影が蠢いた。
「《ヴァルキリアス・武者・ムサシ「弐天」》!」
影が炎を払い飛ばし、その正体を現す。
そいつは黒と金に彩られた甲冑に身を包み、身体から独立して動く大袖型のユニットに四本、己の手に一本の刀を持って、戦場へ出陣してきたのだ。
「《「弐天」》の登場時能力、発動。僕の場に存在する火のエレメントの数以下のコストを持つ相手エレメントを1つ破壊し、その後、僕の場に存在する光のエレメント1つにつき、カードを一枚ドローする」
「火と光、エレメントはそれぞれ三つか」
「その通り。《Mogi林檎》を破壊、そして三枚ドローだ」
《「弐天」》の刀が炎を纏い、その斬撃で《Mogi林檎》を切り裂いた。
そして三枚のカードが賢哉の手札に加わる。
「更に、《ドスファング》の効果発動。ノーコストで《「弐天」》にをクロスさせる」
「やっぱりそう来るよな……!」
賢哉の宣言に呼応して、二つある甲冑の一つが人型を崩した。
バラバラとなった装甲は一体の龍へと集約され、その装いを変える。
「これでターンエンド」
だが、幸いなことに《ヴァルキリアス》がスピードアタッカーを持っていないお陰で、賢哉は攻撃をせずにターンを終えた。
しかし、安堵できる状態でもない。
攻めてこなかったのは、万全を期して俺を攻め落とすためだからだ。
「俺のターン、ドロー。《クロスファイア》をチャージ」
このマナチャージで、俺の使えるマナが4になる。
そして、そのマナ全てをタップさせた。
「《ピーカプ》を召喚」
調律師の小人が再び現れる。
もう、今の俺には攻めに転じるしか道はない。
「そして《カラクリバーシ》でシールドにアタック。そして、革命チェンジ発動!」
敵へと駆ける《カラクリバーシ》がカードへ戻り、入れ替わりで新たなクリーチャーがバトルゾーンへ現れる。
「さあ、出てきやがれ! 《芸魔王将 カクメイジン》!」
赤と青の双頭を持ち、城塞を纏う龍。
奇怪な姿を持つ芸魔の王が、賢哉のシールドを砕くために咢を開く。
「《カクメイジン》の効果発動。コイツが各シールドを砕く時、俺のマナゾーンの数以下のコストを持つ呪文を1枚、手札か墓地よりノーコストで使うことができる」
カクメイジンはダブルブレイカーで、俺のマナゾーンの数は4枚。
よってコスト4以下の呪文を、二枚まで使うことができる。
「俺は墓地にある呪文、《♪ 音速で 本番中に チューニング》と《氷柱と炎弧の決断》を使用する。《チューニング》の対象は《カクメイジン》、《氷柱と炎弧の決断》はドロー効果を二回選択だ!」
カードを二枚墓地へ落としながら、手札を四枚増やし、《カクメイジン》が二枚のシールドを砕く。
「シールドチェック……トリガーなし」
「攻撃終了後、《チューニング》の効果で《カクメイジン》はアンタップする。次だ、《ピーカプ》でシールドにアタック。するときに、革命チェンジ発動。来い、《カラクリバーシ》」
そして俺の攻撃は終わらない。
《ピーカプ》が《カラクリバーシ》へ再び姿を変えて、フィールドへ現れる。
「《カラクリバーシ》の登場時能力、発動。一枚ドローし、手札から二枚目の《チューニング》を使用する。対象は《カラクリバーシ》。そしてシールドをブレイクだ」
《カラクリバーシ》が三枚目のシールドを砕く。シールドトリガーは、無い。
残りのシールドは3枚。
「攻撃終了後、《カラクリバーシ》はアンタップする。再攻撃だ、《カクメイジン》で残りのシールドをブレイク」
《カクメイジン》による二度目の攻撃がシールドを砕く。
生憎と使える呪文が手札にも墓地にもない。
だが、せめてシールドは全て砕く!
「《カラクリバーシ》で最後のシールドを──」
「
「な、にぃ……!」
だが、その一撃が賢哉に届くことはなかった。
G・ストライク、それはデュエマにおける逆転要素の一つ。割られたシールドの中にこれを持つカードがあれば、相手クリーチャー1体を行動不能できる代物だ。
『ゴー―ヤ――!』
突如現れたゴーヤのサムライが、《カラクリバーシ》の動きを縫い付ける。
攻撃の手段はもうない。
「ッ……ターン、エンドだ」
討ち損ねた。手が足りない。
いや、もしかしたら俺がこのまま討ち取られるかもしれない。
そんな嫌な予感がある。
「僕のターン、《ROYAL-減亜5》をチャージ。《場和了GO-YAMA-58》を召喚、そして《GO-YAMA》を進化元に《BEN-K》をNEO進化。《BEN-K》の効果でデッキトップ三枚を確認する。一枚をシールドに、《ROYAL-減亜5》をマナへ、二体目の《GO-YAMA》を《BEN-K》の下へ」
そして現れたのは俺の勝利を阻んだゴーヤと、それを取り込んだ赤い鳥だった。それどころか、更にゴーヤを取り込み、ムキムキになり始めた。
しかも、向こうにはまだマナが残っている。
「ふふふっ、ふははははははは……ははははははっ!」
すると突如、まるで狂気に憑りつかれたような、歓喜に打ち震えているような、恐ろしい笑い声を賢哉が上げる。
「《BEN-K》を進化元に、残る3マナで召喚!」
恐ろしい笑い声に応えるように、デュエルエリアに暗雲が立ち込め始めた。
それどころか、その雲は稲光と共に激しい雷鳴をまき散らし始める。
「紅き残光、青き一閃! 極彩の剣に敵は無し! いざ蹂躙せよ──《暴覇斬空SHIDEN-410》!」
青と黄の刀を握り、極彩色の甲冑に身を包む龍の侍。
それは落雷の轟音と共に現れた。
「来やがった……!」
その恐ろしい風格に、俺の額を嫌な汗が流れていく。
そして──恐れていたことが眼前に迫ってきていた。
「さあ、ここからだ。《ドスファング》の効果によって、自身をサムライクリーチャーへノーコストでクロスさせる。一つは《暴覇斬空》へ、《「弐天」》とクロスしていたのは《ROYAL-減亜5》へ移動させる」
サムライたちが装いを変えていく。
ゴツかったものはよりゴツく、可愛かったものもゴツい装いへ変わる。
これによって、サムライは最高効率の展開エンジンを手に入れてしまったのだ。
「《ヴァルキリアス》でシールドを攻撃。その瞬間、《ヴァルキリアス》の攻撃時効果と、アーマードが攻撃したことによる革命チェンジを発動!」
迫る《ヴァルキリアス》が光に包まれ、その姿を変える。
そして黄金の鎧を纏った存在が現れた。
「現れろ《鎧機天 シロフェシー》! 効果発動。このクリーチャーが革命チェンジで出た時、次の僕のターン開始まで、相手のコスト5以下の呪文を封じる! そして《ヴァルキリアス》の効果で手札からその枚数以下のコストである非進化のサムライかアーマードを踏み倒す! 《我流TENSAY》をバトルゾーンへ! 超魂レイドで《純粋ZARU-36》を下に敷き、NEO進化!」
攻撃と並行して最初の増援が現れ、《シロフェシー》が俺のシールドを砕く。
シールドトリガーは、ない。
「《暴覇斬空》で残りのシールドを攻撃! その瞬間、《ドスファング》のメクレイド発動! 二体目の《暴覇斬空》を《我流TENSAY》の上に重ねて進化!」
最後のシールドが破壊された。
シールドの破片が俺の身体に襲い掛かる。
気づけば、俺の頬から血が流れていた。
(ああ、クッソ……もうダメなのか?)
シールドの破片が過ぎ去ると、俺の身体から力が抜け落ちた。
まるで最後のシールドが立つための楔であったように。
(
喪失感が心を埋め尽くす。アドレナリンが切れたのか、身体にも痛みが回り始めている。
心身が共に限界を迎えようとしていた。
しかし、
「ふふふふふ、ふははははは! あぁ、もう誰にも負けないさ!」
あまりにも痛ましい姿が目に映った。
傍から見れば、極上の歓喜に震えているように見えるかもしれない。
だが、俺にはそれが我慢ならない程の悍ましいものに見えた。
「ふざ、けんな……!」
それが崩れかけていた俺の心をギリギリで踏み止まらせた。
肉体的にも、精神的にも、ダメージは大きい。
だが。
「似合わねぇんだよ、クソが!」
宙を舞うシールドを掴み、それをバトルゾーンへ叩き付ける。
諦めれるわけがない。こんな所で終われるわけがない。
ここでアイツを助けることができるのは──俺しかいねぇんだ。
「シールドトリガー・プラス! 《終止の時計 ザ・ミュート》!」
デュエルエリアに厳かな鐘の音が響く。
シールドトリガー。それはデュエマにあるもう一つの逆転要素だ。割られたシールドの中にこれを持つカードがあれば、その場で使用できる。
巨大な時計を背負って現れたクリーチャーが、全てのサムライの動きを制止させた。
もう、これで賢哉はこのターン、俺を攻撃することはできない。
「ッ……ターンエンドだ」
「俺の、ターン」
どうにかターンが返って来た。
だが、シールドの数は俺がゼロ対して賢哉には二枚。このターンで勝たなければ、俺の負けだ。
ふらつきながらも、なんとかカードを引く。
「ああ、ちゃんと来たな」
それを見た時──勝利を確信した。
「《AQvibrato》 をチャージして、《Mogi林檎》を召喚」
再び場へチケットを捌く人魚が現れる。
これで、俺の場には四体のクリーチャーが出そろった。
賢哉の場にいる四体を含めて、場には合計八体のクリーチャーがいる。
これで条件はクリアされた。
「そして──今、フィールドには八体のクリーチャーがいる。よって、自身の軽減効果マックスでコイツを1マナをで召喚する!」
マナがタップされるのと同時に、俺はカードを突き上げた。
「クライマックスだ! その旋律を掻き鳴らせ! 現れろ、《飛翔龍 5000VT》!」
暗雲に包まれていたデュエルエリアを、ライブステージが塗り替えていく。
漂い始めたスモークが、ギラギラと輝くステージライトの光を取り込んで、乱反射を繰り返す。
その逆光と共に、勝利を示す紋章──
『グオオオォォォォォ!!』
スモークの中から現れたのは、魂の旋律を掻き鳴らす最凶の無法龍。
生半可な軍団ならば、現れただけでそれを瓦解させる最強の無法者だ。
その効果は、バトルゾーンに出た時に相手のパワーが5000以下のクリーチャー全てを手札に戻すバウンス効果。
もっとも、賢哉の場で対象になるのは《ROYAL-減亜5》しかいない。
だが、まだ俺の召喚は終わらない。
「テメェも出番だ! 俺の場にクリーチャーが四体以上いることでG・ゼロ発動! 《弾丸超邪 クロスファイア》をノーコストで召喚!」
《やっと出番か、待ちかねたぜ》
ステージに炎が上がり、その中から赤き無法龍が現れる。
赤と青、無法者たる龍が並び立った姿は圧巻で、あまりにも頼もしい。
《やるぞ、人間!》
「おう!! 《クロスファイア》でシールドを攻撃! その瞬間、《クロスファイア》の効果発動! こいつが攻撃する時、俺のマナゾーンに火のカードがあるなら、他のクリーチャー1体にスピードアタッカーを付与する。対象は《5000VT》だ!」
《クロスファイア》が残る二枚のシールドを砕く。
そして、その後ろに控えていた《5000VT》が赤い光を纏う。これで、本来なら動けない無法龍が動き出す。
「シールドチェック……トリガーはない」
これで、全てが終わる。
なぜならば、《5000VT》はジャスト・ダイバーを持つ故に、次の俺のターンが来るまで相手から選ばれないからだ。
「行け、《5000VT》! これでトドメだ!」
※ ※ ※
戦いが終わると、俺達は施設内のスタジオに戻されていた。
辺りを見渡しても、そこにクリーチャーの姿はなく、全てが無事に終わってくれたらしい。
「賢哉!」
倒れている賢哉を慌てて抱き抱える。
耳を顔へ近づけると、はっきりと呼吸の音が聞こえてきた。
どうやら、気絶しているだけのようだ。
《心配しすぎっすよ。あのデュエルなら、憑りつかれてる奴に被害はいかないっす》
「うっせえバカ! 友達なんだよ! 大事な!」
現れたアラシの言葉に腹が立ち、声を荒げる。
冗談じゃない。友達が倒れて心配のしすぎがあってたまるか。
《とにかく安心するっす。そんじゃ、オレはひとまず休ませてもらうっすね》
「なっ、おい待て!?」
そんな俺の心情など知らんというように、アラシは俺のデッキの中へ戻っていった。
色々と聞きたいことはあるが、後に回すしかなさそうだ。
「……んうっ?」
そう思っていると、呻き声が聞こえてきた。
見ると、賢哉が欠伸をしながら体を伸ばしていた。
「……? あれ、なんで僕寝てたんだ?」
「……はぁー、ったくよ……」
きょとんとした顔で不思議そうにしている賢哉に、思わず大きなため息が出る。
賢哉は起き上がると、きょろきょろと辺りを見回した。
「え? え? というか、なんで僕ダンス用のスタジオにいるんだ? それになんでライトがここに?」
「落ち着け、この武道バカ。練習の根を詰めすぎだ。無理して倒れてたんだよ」
「えっ!? いや、確かに今日は普段よりも色々してたけど……」
「部活で空手、その後に剣道なんてするからだ。アホ」
「うーん? でもそれなら、なんで武道場じゃなくてダンススタジオに?」
「知るか。俺が見つけた時にはここで倒れてた。大方、無理がたたって朦朧とした意識でふらついてたんじゃねぇの?」
俺の言葉に賢哉は首を傾げながら、頭を悩ませている。
どうやら、クリーチャーに憑りつかれていた時のことは覚えていないようだ。
「そういうのは後でいいだろ。それより、おまえの荷物はどこだ? さっさと回収して、お前の親御さんにも連絡して迎え呼ばねぇと」
「えっ? いや、そこまでしなくても……」
「倒れてた馬鹿は一体どこの誰だったかな?」
「うっ……僕です」
「倒れてた奴が自分の足で帰ろうとすんじゃねぇ」
俺の言い分に賢哉は気まずそうな表情で言葉を詰まらせた。
「ったく、そら行くぞ」
「あ、ああ」
俺は賢哉の後ろに回ると、軽めに背中を叩いて行動を促した。
そこから俺達は賢哉の荷物を回収して、そこでようやく守衛の人に出会うことができたが、そこで少し注意をくらう羽目になった。
どうも、俺達は大分遅い時間までいたらしく、そう言われて時計を見た時には既に夜の8時を過ぎていた。
それから賢哉の親へ迎えの連絡をし、迎えの到着を待つことになった。
※ ※ ※
「ライト君、うちの賢哉をありがとね。でも、本当に送っていかなくていいの?」
「大丈夫ですよ、まだバスは動いてるところがありますし。倒れた奴の体調を優先してください」
「そう? ならそっちも気を付けてね! ここ最近、変な噂も多いから」
「そうなんですね、分かりました。ご心配ありがとうございます」
「じゃあね。ほら、賢哉も」
「母さん、そういうのいいよ…………ライト、また明日」
「おう、もう倒れるなよ」
「分かってる。ちゃんと気を付けるよ」
そう言って賢哉が窓を閉めると、車は走り去っていった。
その姿が見えなくなると、俺もバス停へ向かう。
「おい、アラシ──いや、クロスファイア。答えろ」
《何だ?》
その道すがら、クロスファイアに問いかける。
こういう時、周りに人がいなくて助かった。傍から見れば、ただの怪しい奴でしかない。
賢哉の母さんからの申し出を断ったのも、このためだ。
「お前らは一体何なんだ? なんでクリーチャーが現実にいるんだ?」
《オレ達はクリーチャー。お前らで言う異世界から来た存在だ》
「異世界……」
クロスファイアの答えに、俺は言葉を失った。
それはつまり、俺達がデュエマとして知っている世界が実際に存在してるってことだ。
言葉を失わないわけがない。
《戦う前に言っただろ、俺達クリーチャーは色々な方法で人間の世界に来る。そしてお前たちの世界にはそれなりにクリーチャーが潜んでる。色々な目的でな》
「なんだよ、目的って」
《そいつはクリーチャーによる。ともかく色々だ》
適当過ぎる答えだ。巻き込まれた身からすると、怖すぎる。
《その中で、人間に憑りついて無茶苦茶をやる奴もいる》
「さっき戦った奴みたいにか?」
《そうだ。と言っても、今回のはレアケースだけどな》
「レアケース?」
超常現象にレアケースなんてあるのかよ。
《大抵の奴は実体を持ってやって来る。俺にも当てはまることだがな、どういうわけか一部のクリーチャーは人間の世界に来るときに身体が保てなくなるんだよ》
「身体がない……あっ、確かにあの《暴覇斬空》も身体が半透明だったな。でもお前にも当てはまるって言ったよな? お前はアラシの姿になったじゃねぇか」
カードに描かれてた姿とは違うが、クロスファイアは確かに実体を持っていた。
《オレは戦うための力に制限がかかったパターンだ。カードから中途半端に実体化できる。どっちみち元の身体になれないって意味で同じだ。で、そうなると身を守れねぇから波長が合った奴に契約を求めた》
「それで、俺みたいに契約を結ぶと戦えるようになると」
《そうだ。契約者がいないと戦うことができねぇ。だからその代償として、願いを叶える》
「なるほど。つまり、あの時にお前が言った代償ってのは、クリーチャーと戦うことだったのか」
その話を聞いて納得がいった。確かにあんな戦いをすることは代償になるだろう。
《それでどうだった、人間。初めてクリーチャーと戦った感想は? 怖くても戦えねぇっていうなら、今だけ特別に契約を解除してもいいぞ?》
俺が話の内容を咀嚼していると、クロスファイアは小馬鹿にするように言った。
恐らく揶揄っているんだろう。確かに怖くはある。
だが、
「舐めるんじゃねぇ。やってやるよ。友達に手を出されるのはごめんだからな」
こっちにはもう戦う理由ができている。
賢哉のこともそうだが、翔子やロム、水晶──周りの奴らがあんなことに巻き込まれるのはまっぴらだ。
《ぷははははは、肝っ玉なのか。それともヤケクソなのか。だが、気に入ったぞ》
そんな俺の答えが気に入ったのか、クロスファイアが愉快そうに笑う。
《これからはこう呼ぼう。契約者、マスターってな》
そう言ってクロスファイアの声が消える。
そこから俺達の間に会話はなく、俺は一人夜道を進んでいく。
ふと空を見上げれば、夜空には美しい満月が独り浮かんでいた。
──そうして、俺の普通じゃないデュエマが始まった。