Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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※申し訳ございません一部描写を修正しました。
ライト達と賢哉のクラスを変更しました。水晶のクラスが1組であることを見落としていました。
ストーリーには変更はございません。


3話:絵描きと桜――ストーカーと散らない桜

「おっ、今日は一段と月が映えるね」

 

 画材屋を出て空を見上げると、満月が夜空の舞台を独り占めしていた。

 雲一つない快晴の夜空には星の光は一つもなく、満月がその存在を大々的に主張している。

 その光景に、神上翔子の口角は無意識に上がった。

 

「うんうん、そうだな……高台に登って、月をメインに街の風景は少しぼかして描いてみるのが良いかもなぁ」

 

 閃いたインスピレーションを元に、己の脳内で大まかな構図を組み立てる。

 直感的に感じる美しさに、翔子のテンションが高まっていった。

 しかし。

 

「あーいや、ダメだ。これ以上の道草は不味い」

 

 テンションの高ぶりは、彼女自身が我に返ったことで急降下していった。

 

「カドショに画材屋まで寄ったし、これ以上遅くなり過ぎたら、流石にママたちに怒られるよね」

 

 スマホを取り出し時間を確認すると、液晶には『20:00』と高校生の括りでも遅い判定が下る時間を示していた。

 

『しょーこー……何してんのよアンタ!!」

「……よーし、さっさと帰ろう!」

 

 脳裏に激怒する母親の姿を幻視して、翔子の身体が震えあがる。

 スマホをバックへ突っ込むと、翔子は速足で帰路を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

《あいつがオレの波長に合う人間か。少し様子を見てみるか》

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「もしかしたらボク、ストーキングされてるかもしれない」

「は?」

「えっ?」

 

 賢哉に憑りついたクリーチャーとの戦いから二日後。

 突如投下された爆弾発言に、俺──翔野来人(ライト)と隣に座っていた水晶(あきら)の口から呆けた声が出た。

 昼放課の真っ只中、俺と水晶は翔子と三人で一緒に自分たちのクラスである1年1組の教室で昼飯を食っていた。

 集まって昼飯を食べながら駄弁るのが同じクラスである俺達の常だ。

 話す内容は特にこれといってない。やれ可愛いものを見つけたとか、美味しそうなキッチンカーを見つけたとか、そういう些細なことだ。

 そこから急にストーカーとかの話が出てきたらビビるしかない。

 

「お、おい水晶、しっかりしろ」

「えっ、ああ、うん」

 

 驚きのあまり固まっている水晶の身体を揺らすと、飛んでいた水晶の意識が返って来た。

 

「神上、お前急にどうした? それにストーキングって……」

「それがね、ちょっと前から誰かに見られてるみたいなんだよ」

「翔子ちゃん、それって凄く危ない状況なんじゃ……」

「マジだったら警察案件だぞ。親には話したのか」

 

 もしも勘違いじゃなく、本当に付けられてるなら大事だ。

 水晶は恐怖で顔が青ざめていた。背中をさすって落ち着かせながら、俺は真面目な声のトーンで翔子に問う。

 

「ママたちにはまだ言ってないよ」

「言えよ! 明らかにヤバそうじゃねぇか!?」

「ボクも最初はそう思ったんだけどね。それが、どうも普通のストーカーじゃなさそうなんだよ」

「ストーカーに普通もクソもねぇだろ……」

 

 不思議そうに頭を捻る翔子。その表情は明らかに現在進行形でストーカーの被害に遭っている奴がする表情じゃなかった。

 まるで解いた問題にケアレスミスがあるのを疑っているような、何か引っかかってるような感じで。

 

「どういうわけか、視線は感じるんだけど、時折ありえないタイミングでも感じるんだよ」

「ありえないタイミング?」

「そ、それってどういう時なの?」

「それがね──」

 

 それが気になった俺達は、周りに話が聞かれないように身体を机の上に乗り出し、恐る恐る翔子を話に耳を傾ける。

 

「一人でいるときは勿論感じるんだけど、人混みの中にいても感じるし」

「それは流石に勘違いな気がするが……」

「バスに乗ってても、外から見られてる感覚があるし」

「ん、ん?」

 

 外から? バスの車内からじゃなくて外?

 

「周りに隠れるような場所なんてないような場所でも感じるんだよね」

「マジかよ……」

「それって、まさか幽霊とかじゃ……」

「よーしよし、落ち着けって水晶。幽霊なんているはずねぇよ」

 

 また青ざめた水晶を椅子に座らせて、背中をさすりながら落ち着かせる。

 確かに今の話を聞いた限り、普通のストーカーが追っかけてきてる訳じゃなさそうだ。

 その話を聞いて俺の中に一つ心当たりがあった。

 

(不可解な視線……まさか、クリーチャー絡みか?)

 

 だが、そうなると翔子がまだ無事なのが分からない。

 クリーチャーが憑りつく前に様子見なんてするのか?

 

「む……んん?」

「何の話をしてるんだい?」

「どわっ!?」

 

 そんなことを考えて思考の海に沈んでいると、後ろから声をかけられた。

 驚くあまり椅子から転げ落ちる。幸いにも昼飯の弁当は机に置いてたお陰で被害は出なかった。

 ただ尻から思いっきり落ちたから、そこが痛い。

 

「いってぇ……」

「大丈夫かい? ライト」

 

 見上げるとそこには別クラス──1年4組である賢哉が、手を差し伸べていた。

 考えてる途中で急に話しかけてくるな、心臓に悪い。

 

「なんでいるんだよ、賢哉」

「友達に会いに来ちゃダメかい?」

「それなら背中突くなりしろ、存在アピールをしろ。俺がその手の事でビビりやすいのは知ってるだろ」

 

 差し伸べられた手を掴むと、賢哉が軽々と俺を引っ張り上げる。流石は武芸者、その筋力は天下一品だ。

 その顔に妖しさはない。クリーチャーに憑りつかれてた時の面影は影一つなく消えていた。

 

「それで、何の話をしてたの?」

「ああ、いや……別に大したことじゃ」

「ボクがストーキン──」

「あー! あー! 神上がネットから都市伝説とかの話とかしてたんだ! それで内容が思いのほか怖くてな! 水晶が怖がってたんだよ。なっ、水晶!」

 

 咄嗟に声を荒げて、なんとか翔子の声をかき消す。お前、何言おうとしてるんだよ。

 ビビって心臓の鼓動が激しくなるのを感じながら、俺は必死に目線だけで水晶に話を合わせてもらうように訴える。頼む、助けてくれ水晶。

 

「えっ!? あ、あーそ、そうなのー。翔子ちゃんが持ってきた話、凄く怖くて」

 

 そんな俺の訴えを感じ取ってくれたのか、水晶は少し慌てながらも話を合わせてくれた。

 ありがとう、水晶。

 

「へー、都市伝説かー」

「お、おう、そうなんだよ」

 

 誤魔化した話の内容に、賢哉は興味深そうに目を輝かせる。

 お前、そういう話好きだったか?

 

「だったら、僕からも一つ変わった話があるんだけど。聞くかい?」

「へー、どんな話なんだい? 少し気になってきたよ」

「えーっと、怖い話じゃないなら気になるかな」

「お前がその手の話を持ってくるなんて珍しいしな。言ってくれよ」

 

 俺以外の二人も賢哉の話に興味を示したらしく、ストーカー話であった恐怖の雰囲気はいつの間にか霧散していた。

 

 

 

 

 

「この学校の桜、4月になってから花を一枚も散らせてないみたいなんだ」

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「散らない桜か、与太話だとしてもネタとしてはいいね」

 

 放課後。部活動も終わった後、ボク──神上翔子は校門前で自分のスケッチブックにインスピレーションのまま筆を走らせていた。

 昼放課の時に賢哉君から聞いた話が、ボクの創作意欲のツボをいい感じに刺激してくれた。

 何でも賢哉君が空手部の先輩から聞いた話曰く、ボクらの学校である桜龍高校の桜は例年なら入学式から一週間ぐらい経った辺りで花がかなりの数散っているらしい。それで先輩方は去年、花びらの掃除に苦労したそうだ。

 でも、今年は花を散らせていない、らしい。

 

「そうだな、いっそ悲恋の話にしようかな。それとも時よ止まれ的な青春ロマンスでもいいかも」

 

 多分恐らく、きっと与太話だ。でもそれで構わない。

 その話を聞いて、散らない桜ってものを知って、ボクのインスピレーションが湧いてきたんだから、それでいい。

 そんなボクの耳に速足で近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「sorry! ショウコ、待たせちゃったかしら」

「本当に待ってたでし……」

「大丈夫。ボクもついさっき終わった所だよ、ジュラ子、マロン」

 

 スケッチブックを閉じて声の方を向くと、真紅の髪をポニーテールにした少女と灰色の髪をツーサイドアップにした少女がやって来た。

 真紅の髪の少女はジュラ子・リューバー。灰色の髪の少女は宿禰マロン。

 来人たちデュエマ仲間や水晶ちゃんみたいなクラスの友達とも違う。不思議な友達だ。

 なにせジュラ子はテニス部で、マロンは美術部。そしてボクは漫画研究部。共通点なんてマロンとボクで絵を描くことぐらい。でもイラストや絵画じゃ分類が違い過ぎて、ヤケクソみたいな共通点なんだけどね。

 

「よーし、それじゃあ出発!」

 

 二人と合流するとそのまま商店街へ繰り出す。部活に参加した日は二人と帰るのが日課だ。

 

「ねえ、二人は今日部活はどんな感じだった?」

「そうね。特に変なことはなかったわ。いつも通り練習ができてHappy! マロンはどう?」

「我が輩は今日も絶好調でし! 今作ってるゲージュツもすぐに完成するでし!」

 

 マロンが自信ありげに胸を張る。マロンの創作家としての腕は凄く良い。少しアート性が強いから周りが理解するのに時間が必要になるけど。でも、見る側としては色使いが楽しくて良い。

 

「へぇ、やるねぇマロン。でも、どれだけ作品が良くても発表の仕方は考えないと、生前のゴッホみたいになっちゃうよ?」

「ふん、好きに言ってるでし。そういうお前はどうなんでし」

「ボクかい? そうだな、先輩が描いてる作品のキャラデザ起こしを手伝ったな。それ以外だと他の子が書いてる小説に使う挿絵を書いたりして」

「お前の部活って漫研じゃないでし?」

「漫研だよ。ただ、そこに集まってるのがボク含めて情熱が抑えきれないオタクだから、漫画だけに留まらないんだよね」

 

 怪訝な顔をするマロンに、ボクは不敵に笑って見せる。

 マロンの指摘も間違いじゃない。ボクが所属してる漫研──漫画研究部は正確にいうと漫画研究部じゃない。

 その活動的に明確に表現するなら『サブカル研究部』って言う方が正しい。

 なんせ、やってる活動がオリジナルの漫画づくり以外にもラノベの執筆だったり、二次創作を書いたりしていて、その実態は部活動というよりも同人サークルって言った方が合ってる。

 

「今日も先輩たちは、話の展開があーでもないこーでもないって感じで言い争ってたよ」

「ショウコの部活はVersatilityな方が沢山いますのね。その話を聞いてるだけでも楽しいわ」

「多才ってよりは欲張りなんだよ。部員皆が好きでやりたいことへの欲望に正直だから、何でもやりだすんだ」

 

 ボク、神上翔子はアニメや漫画といったサブカルチャーが大好きだ。

 特撮もラノベも好きだし、余程の胸糞じゃなければどのジャンルでも楽しめる。

 ボクがデュエマを始めたのも、色々な作品を見る中で原作のデュエマを読んで、ドラゴンのカッコよさに痺れたからだ。

 

 そうした幼い頃からの好きが高じて、小学五年からイラストを描き始めた。

 そんなこともあって、ボクは漫画研究部に入部したんだ。

 

『お前ら、それぞれの進捗どうだ!』

『ラブコメ漫画班大丈夫です!』

『ギャグ漫画班大丈夫でーす』

『二次創作組、一部解釈違いに苦しんでます!』

『バトル漫画組、男女比について二人が揉めてまーす』

『わりぃ部長、バトルものラノベ詰まってる!』

『だあー! 取りあえず二次創作組は推しの名シーンでも見せながら休ませろ! バトル漫画は取山と芥だったな、話のプロット見せろ! テメェは何処で詰まってるんだよ!』

 

 ──まあ、入部した所が想像以上に熱量を持ってる人たちの集まりなのは驚いたけど。

 と、そんな感じでボクらは他愛のない話をしていた。話の割合としてはボクが二人よりもかなり喋ってたかもしれない。

 

「それで仲が良いからこその喧嘩だよ。どっちも折れる気がないから言葉を使って全力で殴り合う」

「Passionate! 認め合ってるからこその激しいDiscussionなのね」

「仲が良いからこそ、でしか……」

「マロン? どうしましたの?」

 

 そうしてバス停に着いた辺りで、マロンが柄にもなくため息をついた。

 

「神上の話を聞いて、少し面倒なことを思いだしたでし」

「Accident?」

「面倒事って、さっきは絶好調って言ってなかった?」

「我が輩は絶好調でし。面倒事は美術部の先輩のことでし」

「美術部の先輩?」

 

 なんだろう、いまいち想像がつかない。

 美術部で面倒事って何が起きるんだ?

 

 

「今、美術部が修羅場になってるでし。それが鬱陶しくてしょうがないでし」

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