Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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マロンの泣き顔を本家で見てみたいな。


5話:絵描きと桜――汚された芸術

「ったく、なんで俺達がこんなことを……」

「仕方ないさ、先生に頼まれたらどうしようもないのはボクら学生の常だろ?」

 

 スノーフェアリー軍団に襲われて、生徒会に助けられた次の日。

 俺は翔子と一緒に先生から押し付けられた──もとい頼まれた雑務をこなしていた。

 

「だからって……なんで美術の授業から戻ってきたら、備品を倉庫へ突っ込んどけって言われるんだよ」

「間が悪かったとしか言えなくない?」

 

 押し付けられた雑務っていうのは、それなりにある備品を特別教室がある棟の倉庫へ入れてこいというものだ。なんでそれを6・7限の授業で美術をやって帰って来た生徒に頼むんだよ。

 そのせいで俺の両手は今、三つも積み重なった段ボールとその中から少し飛び出してる備品で埋まってる。しかも大きさがそれなりにあるせいで、前が全然見えねぇ。

 

 一方で隣を歩いてる翔子の荷物は少なめだ。段ボール一個とそれからはみ出してる備品が少々。男女で差があるのは仕方ないが、それにしても差があり過ぎるだろ。

 

「神上、周り見とけよ。俺は前が見えねぇからな」

「りょーかいりょーかい。ぶつかりそうだったらちゃんと止めるよ」

 

 そんなやり取りをしつつ、俺達は特別教室のある棟の階段を登っていく。

 

(それにしても、あの桜については生徒会も気づいてなかったんだな)

 

 階段を登っていく中、昨日あった生徒会メンバーとのやり取りを思い出す。

 まず、生徒会は桜とスノーフェアリーのことを知らなかった。正確には散らない桜の噂話は耳に入ってきていたらしいが、それにクリーチャーが関係しているとは思わなかったらしい。

 

(協力しようって言ったら驚かれるし……いや、それについては俺が突拍子もなかったからか)

 

 それから、生徒会に協力を申し出た時に何で全員が呆けた顔をしたかというと、協力しようと言われるのが予想外だったからだそうだ。昨日はどうしてだって思ったが、今思い返してみるとその日いきなり会った奴に協力しようなんて言われても困るよな。

 結局その後、桜の木のことを話して協力し合うことになった。

 その時に生徒会長と連絡先の交換もした。何故かその時の会長は動きが少し変だったけど。

 

「はいストップ。着いたよライト」

 

 色々と思い返していると、俺達は目的地である美術室近くにある倉庫へ辿り着いていた。

 荷物と一緒に押し付けられた鍵で扉を開けて、その中へ段ボールを突っ込んでいく。

 

「おい、神上。お前の持ってる荷物もくれ」

「…………」

「神上?」

 

 呼びかけても返事がなく、後ろを振り返ると翔子は廊下で呆然としていた。

 

「おい」

「おわっ、何するんだよライト」

 

 呆然としていた翔子の腕を掴み、倉庫の中へ引き込む。いきなり体を触られたことで、どこかに行っていた翔子の意識はすぐに戻ってきた。

 

「何じゃねぇよ、廊下でボーっとして」

「えっ……あ、ああ、ははっごめん」

 

 気まずそうに笑う翔子。明らかに何か悩んでる顔だ。

 普段の明るくて飄々(ひょうひょう)としている姿が陰ってる。

 

「お前、本当にどうしたんだよ」

「いや別に何でもないよ?」

「嘘つけ。明らかに何か悩んでるって顔、隠せてねぇぞ」

「……そんなにバレバレ?」

「ああ、誰が見ても一発で分かる位にな」

「そこまでかー」

 

 クラスやカドショで結構一緒にいるが、翔子が真面目に悩んでる姿を見るのは初めてだ。大抵は笑ってるか、つまらなくて欠伸をしてるかのどっちか。

 悩んでる時があっても、それはデッキを組んでる時に何を使うのか、絵を描いてる時に構図や色をどうするかってぐらい。思い悩むなんてことには無縁だと思ってた。

 

「──その、美術部のことでちょっとね」

「美術部? なんでお前から美術部の話が出てくるんだ?」

 

 出てきた名称に思わず首を傾げた。翔子の所属は漫研だ。部活間でいざこざなんて起きないだろうし、何で悩んでいるのか想像がつかない。

 

「ボクのことじゃないよ。美術部にいる友達のことさ」

「ほう、それでその友達に何があったんだよ」

「正確に言うと、友達自身に何かあったわけじゃない。ただ、部活内が修羅場になってるみたいなんだ」

「修羅場? 部活でか?」

 

 何で美術部で修羅場になるんだよ。より分からなくなってきたぞ。

 

「なんでも、先輩の一人がスランプになったみたいでね。その先輩が今、ある絵にのめり込んでるんだって。それも常軌を逸してるぐらいに」

「なんだよ、やけに物騒な言い方するな」

 

 何故か、ゾクリと悪寒がした。

 

「そうとしか言えないんだよ。狂ったように屋上で絵を描き続けて、顔色だって悪くなる一方。しかも目には隈も浮かんでて、止めようとするとヒステリックに”邪魔するな!”って怒鳴って追っ払うんだ」

「ヤバすぎるだろ……」

「それで止めようとした部長と口論になって、取っ組み合いにもなったみたいだし」

「マジかよ……」

 

 あまりの状況に俺は思わず声を失った。嫌な予感も高まる。

 一見するとスランプによる暴走って感じだが、もしかするともっとヤバい状況かもしれない。

 

「ギャアァァァァァァ!!?」

 

 外から絶叫が聞こえてきた。

 

「ライト、今のって」

「何かあったみたいだな」

 

 俺達は倉庫を飛び出すと、その声が聞こえた方向へ走り出した。

 

 

※ ※ ※

 

 

 悲鳴が聞こえてすぐ、ボク──神上翔子は倉庫を飛び出した。

 聞こえてきた悲鳴に聞き覚えがあったからだ。

 でも、辿り着いた声の出所はすぐ側にあった。

 

「なんだこりゃ? なんか人混みができてっけど……」

「中が見えない」

 

 声の出所は倉庫の近くにある美術室だった。どういうわけか教室の前には人混みができていて、ボクらが中を確認したくても、人混みのバリケードがそれを許さない。

 

「どうしようか……」

「……神上、ちょっと手借りるぞ」

「ライト? うわっ」

 

 どうにか教室の中を見ようと頭を悩ませていると、ライトが突然ボクの手を掴んだ。

 すると彼は他人のことなど知ったことかと言いたげに、人混みの間にあるわずかな隙間へ突っ込んでいく。

 

「なっ、なんだよこれ……」

「嘘、だろ……」

 

 人混みを抜けた先の光景に、ボクとライトは言葉を失った。

 目に入ったのは赤、青、緑──そしてピンク。様々な色の絵具が美術室を混沌に染めている。

 まるで子供が無邪気にバケツをひっくり返したみたいだ。

 

「おい、これどうするんだよ……」

「こっちもやられてる!?」

「コンペや展覧会に間に合わないだろ……」

 

 周りの美術部の先輩らしき人達も口々に悲鳴を上げている。美術室の惨状も合わさって、阿鼻叫喚の地獄絵図って言葉がピッタリだ。どうも放課後になって美術室に来た時には既にこの惨状だったらしい。

 そうして辺りを見渡していると、美術室の中に見知った後姿があった。

 

「マロン!」

 

 マロンは膝をついて床に座り込んでいた。

 急いで側に駆け寄ると、ボクは屈んで目線を合わせる。

 

「神上……」

 

 マロンの瞳には涙が浮かんでいた。

 

「マロン、何があったんだい?」

「神上……我が輩の、ゲージュツが……」

 

 マロンが震える手を伸ばして、前を指さした。

 そこにはイーゼルに立てかけられた一つのキャンバスがあった。

 おそらく、昨日マロンが言っていた作品だ。

 

(酷い……こんなのあんまりだ)

 

 ボクの中で怒りがぐつぐつと煮えたぎってくるのを感じる。

 何が描かれていたのかは分からない。ばら蒔かれた色がそれを塗りつぶしていた。

 

「Sorry! 通らせて!」

 

 そこへ話を聞きつけてか、ジュラ子が人混みを掻き分けてやってきた。

 

「マロン! 大丈夫!?」

「ジュラ子……」

 

 駆け寄って来たジュラ子は不安一色の顔で、マロンの手を取る。そうしてジュラ子が寄り添ってくれているお陰か、マロンの涙は少し収まった。

 

「Terrible! 誰がこんなことを……!」

 

 マロンを抱きしめながら、ジュラ子が憤ったような表情で言う。

 その通りだ。ボクの怒りも破裂寸前になってる。

 誰がこんなことをしたんだ。

 

「おい、まさか尾瀬の奴がやったんじゃ」

「馬鹿言うんじゃねぇ! いくらあいつがスランプだからって、人の作品を無茶苦茶にするはずねぇだろ!」

「そうよ! それに尾瀬の奴、今日も終礼まで教室にいたわよ」

 

 美術部の先輩たちも犯人に見当がつかないようで、徐々に苛立ちを強めていった。

 疑わしいのは尾瀬っていう先輩らしい。おそらく件の荒れている先輩のことだ。

 

「まさか、その尾瀬って先輩がマロンの作品を」

「待って、ジュラ子。どうもそう単純じゃなさそうだ」

「ショウコ……」

「怪しいのは分かるよ。でもその先輩には難しいと思う」

 

 確かに今の美術室に来ていない時点で、その尾瀬って先輩が疑われるのは仕方ない。

 でも、他の先輩が言っていたことやボクが知ってることを踏まえると、その疑いが成立しない。

 

「美術室はボクら一年一組が6・7限に美術の授業で使ってたんだ。それにさっき、別の先輩が言ってたろ? その尾瀬先輩は終礼まで教室にいたって。そうなると尾瀬先輩には犯行は無理だよ」

「そうなると、一体誰がこんなことをしたでし?」

「それが分かれば苦労しないんだけどな」

 

 思わずため息が出た。

 今のボクに分かるのはここまでだ。ここから先は何も分からない。

 美術室を無茶苦茶にした大量の絵具をどうやって持ってきたのか、授業が終わってから放課後までの短い時間でどうやってばら蒔いたのか見当もつかない。

 そもそも、誰が何の動機でやったのか──

 

 

 

《お前の探してる答えは上にある》

 

 

 

 声が聞こえた。耳からではなく、まるで心に直接語り掛けてくるような感覚だ。

 

「誰だ……」

「ショウコ?」

「どうしたでし?」

 

 近くを見ても、いるのはジュラ子とマロン。少し離れたところにライトがいる。

 声の主らしき姿はない。

 

 

《お前が自分で犯人に落とし前をつけさせたいなら、てっぺんに行け》

 

 

 また、声が聞こえてきた。

 上……美術室の上。

 この学校のてっぺんなんて──

 

「屋上か──」

「ん? って、おい神上どこ行くんだよ!?」

「ショウコ!? Wait!」

「どこいくでし!?」

 

 気づけば皆の制止なんて聞かずに、ボクは駆け出していた。

 駆け出した理由は分からない。

 ただ、胸の中には友達を傷つけられた怒りがあるのだけは確かだ。

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