Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘   作:新米ユーリ/神座/DMP

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6話:絵描きと桜――妖精と自由のガンマン

※ ※ ※

 

 

 

 ひたすらに階段を駆け上がっていく。全速力だったからか、屋上へと続く扉はすぐに現れた。

 扉に手をかけ、勢いよく開け放つ。

 

「こんな状況じゃなければ、一枚絵が描きたいよ」

 

 外に繋がるのと同時に風が吹き抜け、頬を撫でる。

 そしてボクの目線の先には、巨大なキャンバスを前にして筆を執った男子がいた。

 キャンバスには満開の桜が描かれている。そしてそれなりに風が吹いているというのに、現実の桜は花を散らさない。

 その光景は中々絵となるものだ。普段だったらすぐにスケッチブックを取り出してる。

 

「ったく、また邪魔が来たみたいだな」

 

 男子は鋭い眼光をボクへ向けた。

 学校の中だというのに甚平を着て、その上に絵画用エプロンをつけ、バンダナで髪をまとめてる。おそらく、あの人が尾瀬先輩だ。

 その鋭い目には光がなくて、明らかに正気じゃない。

 まるで何かに憑りつかれているのか、洗脳されて闇堕ちしてるみたいだ。

 

「あなたが──」

「まあいい。すぐに静かになる」

 

 ボクの言葉を遮って、尾瀬先輩が独り言ちる。

 

「は?」

 

 そこから起きた現象に、ボクの口から呆けた声が出た。

 尾瀬先輩の背後から突然おびただしい量のツルが伸び始める。

 ぞくり、と全身に悪寒が走る。ツルはまるで意志を持っているように蠢いていた。

 

「いけ」

「ッ!」

 

 尾瀬先輩の声と共にツルがボク目掛けて飛び出した。

 咄嗟に横へ飛び込んで回避できたけど、これはまぐれだ。

 

「何がどうなってるんだ……!」

「勘が良いな。ただの人間の癖に」

 

 尾瀬先輩が薄く笑う。ロクでなしの悪役がするような嘲笑だ。

 

(なんなんだ、これ。まるでアニメやコミックだよ)

 

 どういうことなのか訳が分からない。

 マロンの悩みを聞いた次の日には美術室で騒動。しかも関係者らしき先輩は超能力でボクを襲ってきた。完全に巻き込まれ主人公の文脈だよ。

 

「そら次だ」

 

 混乱してるボクへ大量のツルが迫る。これは避けられない。

 

「行けアラシ!」

《おうッ!》

 

 次の瞬間、影が現れるとボクへ伸びるツルは尽く両断されていた。

 その影の姿が露わになると、それは──デュエマのクリーチャーみたいだった。

 ずんぐりむっくりとした、まるでデフォルメされた怪獣ぬいぐるみのような姿の名前は確か《暴剣坊 アラシ》だったはずだ。如何せんそれなりに古いカードだから名前が朧気だ。

 

「大丈夫か、神上!?」

「ライト!?」

 

 ボクと尾瀬先輩の間に躍り出たのは──ライトだった。

 より訳が分からなくなってきたよ。尾瀬先輩の超能力に実体化してるクリーチャー。

 ライトも何で当然のようにクリーチャーを使役してるんだ。

 

「やっぱりクリーチャー絡みの事件だったみたいだな。出てこいよ、その先輩から離れろ!」

「一番面倒なのが出てきたな」

 

 現れたライトを尾瀬先輩が忌々し気に睨みつける。

 すると、何処からか”キャハハハ”と少し耳障りな笑い声が聞こえてきた。

 次の瞬間、小さな妖精が半透明の姿で尾瀬先輩の肩の上に現れた。

 

「あれって《桜風妖精 ステップル》……?」

「スノーフェアリーが絡んでるって思ってたが、桜にステップルなんて洒落てるな」

「いや待ってよ! あれって、デュエマのクリーチャー!?」

「おう、その通り」

 

 その通り、じゃないよ。そんな平然と答えないで、ライト。

 驚きの超展開すぎて頭痛くなってきた。

 

「まだ実体化できてないなら好都合。今度こそやるぞ、アラシ」

《おう、昨日のリベンジだ》

 

 ライトの側に居たアラシが姿をカードに変える。

 そのカードはライトの手に吸い込まれるように収まると、ライトはいつの間にか取り出していたデッキにそのカードを入れた。

 

「さあ、デュエルの──」

「やるわけないだろ」

 

 ライトがデッキを掲げて叫ぼうとした瞬間、ツルが再び伸びる。

 ボクの身体が反射的に身構えるが、そのせいでツルの目標がボクじゃないことに気づくのが遅れてしまった。

 

「えっ、ちょ──どわああああァァァァ!?」

「ライト!」

「もが、もがもが! (放せェェェェ)」

 

 ライトの身体が宙を舞う。ツルが足首に絡みつき、身体が宙ぶらりんにしてしまった。

 しかも口までツルで縛られてる。

 

「さて、次はお前だな」

「っ!」

 

 尾瀬先輩の鋭い眼光がボクに突き刺さる。

 身の毛がよだち、身体が竦む。怖い。なんでそんな鋭い目ができるんだ。

 

「行け」

「っ!」

 

 蠢くツルがボク目掛けて伸びてくる。思わず目をつぶり腕で顔を覆った。

 意味がないのは分かっているのに。

 

 

 

《ったく、何してんだ》

 

 

 

 でもいつまで経っても、ツルが体に巻き付く感覚は訪れなかった。

 

「……何、これ?」

 

 目を開くと、伸びてきたツルが空中で制止していた。

 いや違う。透明な壁のようなものに遮られて、それ以上先にいけないんだ。

 そして、そこにはもう一つ、ボクの目を引く物があった。

 

「カードが浮いてる?」

 

 ボクの目の前には、宙に浮かんでいる一枚のデュエマのカードがあった。

 

《何してんだよ、お前。せっかく気になってたこと教えてやったってのに》

「か、カードが喋った……!」

《ったく、こっちの姿になった方が手っ取り早いな》

 

 突然カードが眩い光を放つ。思わず腕で顔を覆うけど、そのカードからは不思議と目が離せなかった。

 

「えっ?」

 

 光が収まると、そこには人型の姿があった。

 現れたその姿にボクは、感嘆のあまり言葉を失ってしまった。

 機械の身体に、纏う赤を基調としたウェスタンの服装、頭にかぶるウェスタンハット。

 その正体をボクは知っている。

 

「《ジョリー・ザ・ジョニー》……?」

 

 彼こそはジョーカーズというクリーチャー群の頂に立つ”マスター”にして、無敵のガンマン。

 そしてどんなピンチすら切り抜ける最高のヒーロー。

 

「嘘でしょ、ジョニーが目の前にいる……」

《感嘆に浸ってるところ悪いが、今は自分が置かれてる状況を自覚しろ》

「はっ、そうだった。今色々とヤバいんだった」

 

 いやでも、目の前に好きなクリーチャーが現れるのはデュエマプレイヤーとしては感動にもっと浸かっていたい。

 と思ったけど、ジョニーの目線から真面目な空気を感じるから、ここは自制しよう。

 

「ふー、ふー」

 

 高ぶった心を落ち着けながら、ここまで起きたことを整理する。

 まず、目の前に起こってる超展開は現実だ。明晰夢だとかそういうのじゃない。

 次に美術部で起きている騒動には、あのステップルが関わってると見ていい。

 今の姿を見るに尾瀬先輩は正気じゃないし、不可解な美術室の有り様もさっきまで起きてた超常現象的にも、原因はステップルにあるはずだ。

 そして、今現れたカッコいいジョニー。彼も現実だ。それとおそらくは味方のはず。ボクを助けてくれたし。

 

《落ち着いたか》

「うん、一応自分がどういう状況なのかも分かったつもりだよ。だから教えて欲しいんだ、ジョニー。君はボクの味方かい?」

 

 まだ分からないことはある。なら明らかに知ってるだろう相手に聞けばいい。

 ちょうど目の前にいるんだから。

 

《敵じゃない。だが、お前と俺の目的が被らないなら味方でもない》

「分かった。じゃあ次だ。君は、いや君やあのステップルは一体何者なんだ?」

《俺達はクリーチャー、異世界から来た存在だ》

「異世界……」

 

 非常時だというのに、その言葉を聞いただけで胸が高鳴った。

 異世界、それはつまりクリーチャーが生きる世界が現実に存在するってことだ。

 

(いやいや、今はドキドキしてるじゃないな)

 

 クリエイターとしての心がうずうずして仕方ないけど、今は我慢だ。

 

「ジョニー、もう一つ教えて。あのステップルが先輩に何をしてるのか分かる?」

《あいつはあの人間に憑りついてるのさ。そのせいであの絵描きは正気を失ってる。どうもそれに加えて、桜の木にも何かしてるみたいだな》

 

 なるほど、散らない桜は与太話じゃなかったし、美術部での揉め事にも関係してたってことか。

 

「じゃあ、最後にもう一つ聞かせて」

《まだあるのか?》

「いくつもごめんね。でもこれで最後だと思うから」

 

 これを聞かないと、ボクは何をするべきなのかが分からないから。

 

「先輩を──あのステップルが憑りついてる人を止めたいんだ。何か方法はあるかい?」

《フッ……》

 

 ボクのその言葉を聞いて、ジョニーが笑ったようにな気がした。まるでその言葉を待ってた、というように。

 

《方法はある》

「なら……!」

《だが、そいつは簡単なやり方じゃない。痛みが伴うものだ》

 

 ジョニーがボクの眼前に指を突きつける。

 機械の身体である彼の表情は分からない。でも、肌を突き刺すような空気を感じる。

 

(ここが分水嶺、なんだね)

 

 背筋がぞわりと震えた。覚悟を問われているんだ。

 もしその方法を選んだら、もう戻れない。

 

(マロン……)

 

 脳裏に無茶苦茶になってしまった美術室と、涙を浮かべていた友達の姿が浮かぶ。

 部活が違うだとか、クラスが違うだとか、そういうのはどうでもいい。

 冷静になっていた心に、ぐつぐつと熱いものが込み上げてくるを感じる。

 気付けば、ボクは両手の拳を強く握りしめていた。

 

「教えてよ、その方法を」

 

 覚悟は決まった。この怒りに従おう。

 

《どうやら、ちゃんとした覚悟みたいだな》

「うん、ここで引き返したらボクは友達に胸を張って向き合えない気がするんだ」

 

 ジョニーの顔を真っ直ぐ見据える。ボクなりの覚悟の示し方だ。

 そうしてボクらの間に静寂が流れる。

 

《いい顔をしてる。合格だ》

 

 いくらかの沈黙の後、そう言ってジョニーは手を差し出した。

 

《俺と契約しろ。そうすれば、お前は戦う力を得る》

「それで大事な友達(マロン)を泣かせた妖精にお仕置きができるなら、やってやるさ」

 

 ボクはその手を迷いなく握った。それと同時にボクらを覆っていた壁が消えていく。

 蠢くツルが障害を失い、ボクたちへ襲い掛かる。

 だが──

 

《これで契約成立だ》

 

 放たれた弾丸がツルを蹴散らしていく。もうツルが届くことはない。

 何故なら、ここには最高のガンマンがいるのだから。

 

《やるぞ。人間》

 

 ジョニーがカードに姿を変え、ボクの手に収まった。

 そのカードをデッキに入れると、ボクはデッキを掲げる。

 

《さあ、真のデュエルの始まりだ!》

 

 ジョニーの叫びと共に、ボクの視界は光に飲み込まれた。

 

 

 

※ ※ ※ 

 

 

 

 光が晴れると、目の前にある空間は様変わりしていた。

 学校の屋上にいるのは変わらない。ツルに囚われているライトもそのままだ。

 だが、流れている空気は張り詰めていて明らかに別物になっている。

 

「なんだ、これ?」

 

 ボクの目の前には宙に浮かんでいるテーブルがあり、そこには既にデッキが置かれていて、五枚のシールドも置かれている。

 目線を上にあげると、半透明な長方形が五つも浮かんでいる。デュエマの原作漫画やアニメで見たような光景だ。

 

《ここは俺の力で生み出したデュエルエリアだ。ここでデュエマをして、相手を倒せ。そうすれば、憑りつかれた人間は正気に戻る》

 

 どこからかジョニーの声が聞こえてきた。辺りを見渡しても、ジョニーの姿はない。

 もしかしたらカードのまま、デッキから話しかけてくれてるのかな。

 

「なるほど、デュエマで倒せば解決するのか。分かりやすくていい」

 

 手札となる五枚のカードを引いて、対岸にいる対戦相手へ目を向ける。

 そこには尾瀬先輩が同じように手札を用意していた。互いに準備完了ってわけだ。

 

「さあ、始めようか。先輩」

「どいつもこいつも、俺の邪魔をしやがって」

 

 尾瀬先輩の光がない目がより鋭く、憎悪に染まっていく。

 デュエマをやる時にする顔じゃない。こんな所でも、今からやるものが普通とは違うってことを突き付けてくる。

 でも、こんな所で怖気づいてる場合じゃない。

 

 

 

「「デュエマ、スタート!」」

 

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