Duel Masters デュエルと願いとドラゴン娘 作:新米ユーリ/神座/DMP
「おわァァァァ!? いってぇ!」
翔子のデュエルが終わると、俺の身体は屋上の床に叩きつけられた。
元凶だったステップルが倒されたことで、縛っていたツルは霧散していた。
「ぁぁあ、いてぇ。昨日も今日も良いとこ無しじゃねぇか」
《不覚だ。まさかツルの物量押しでくるとは》
腰をさすりながら隣を見ると、アラシがガックシと崩れ落ちていた。
いや、まあ気持ちは一緒だ。あんなカッコつけて出て行ったのに、古典的な方法で捕まったら恥ずかしすぎる。
「っああいてぇ……あのツル、強く締めすぎだろ」
全身のあちこちが痛いが、なんとか立ち上がれはした。
いや、そんなことより──。
「神上!」
翔子は完全に脱力して座り込み、床を見つめている。
心配になって駆け寄ると、彼女は俺の顔を見上げた。
「ライト、勝ったよ」
顔には疲労の色が見えていたが、にひひ、と無邪気な笑み彼女が浮かべる。
シールドによる怪我もあるが、興奮と達成感に満ちている。
「おま、お前なぁぁ!!」
安心のあまり腰が抜けた。しばらく立ち上がれそうにない。
でも、本当に無事でよかった。
「ああ、ったく。まさかお前が巻き込まれることになるとはなぁ」
「ライト。さっきのクリーチャーのこと、知ってるんだよね?」
「あ、まあな。知ってるよ」
「ライトが知ってること、教えて。色々とさ」
翔子が真剣な眼差しを向けてきて、言葉が詰まる。
そうだよな。アラシの姿も見られたし、クリーチャーとも契約して戦ったんだ。誤魔化し様がないし、流石に教えないとダメだよな。
「分かった。俺が知ってることは話す」
そこから俺は翔子に今までのことを話した。
アラシ──クロスファイアと出会った経緯や賢哉がクリーチャーに憑りつかれていたこと、昨日から桜の事を調査していたことやドラ娘生徒会のことも、全部だ。
「なるほどね。人間に憑りついたり悪さをするクリーチャーに、ドラ娘生徒会。どれも興味深い話だね。ちょっと創作意欲が刺激されるよ」
「この話でその反応できるお前がスゲェよ」
翔子は笑いながら興味深そうに頷き、話を聞いていた。
楽しそうだな、こいつ。割と価値観というか、常識が揺らぐレベルの話だと思うんだが。
「だってクリーチャーが現実にいるんだよ? デュエマをしてる身からすれば興奮するでしょ?」
「いやまあ、そうだけどよ。実際に戦っただろ? 怖くなかったのかよ」
デュエルエリアでの戦いは遊びじゃない。
シールドが砕ければ破片で傷を負う。ダイレクトアタックを受けた日には大怪我で済むかどうかも分からない。
なのに、どうしてそんな楽しそうなんだ。
「怖くはあったよ。さっきのデュエルで怖さは感じた。シールドの破片で血が出たしね」
「なら──」
「でも、空想が現実に現れて凄く感動したんだ。これってオタクなら皆が感じると思うんだよね。夢が現実になるのは、心が躍るよ」
「なっ……」
言い分に言葉が出てこなかった。
こいつ、ちょくちょく思ってたが創作に色々と繋げすぎだろ……!
「まあ、それだけじゃないけどね」
そうして驚いたのも束の間、また翔子の顔つきが真面目なものに変わった。
「これを知って、放置するって選択はボクにはできない」
「なんでか、聞いていいか」
顔は笑っているのに、纏っている空気には何か重さを感じる。
それに圧倒されて、俺は聞き返すしかできなかった。
「友達である君が戦ってるってのが一つ。もう一つはボクの大切な物を守りたいからさ。マロンやジュラ子、水晶ちゃん、部活やデュエマ仲間。そんな皆との日々が楽しい。だからそんな日常を壊されるのが嫌だからね」
「神上……」
俺は神上翔子という女子を誤解していたみたいだ。
こいつは確かにクリエイターだ。何でもかんでも創作のネタにしようとするし、勝手に絵を描いてからかってもくる。
でも、こいつは友達のためにここまで本気になれる奴だったんだ。
「お前、漫画の主人公みたいだな」
「これでもクリエイターだからね。そういう文言はいつも頭の中にあるよ」
茶化すように俺が苦笑すると、翔子は不敵そうに笑う。
そこからしばらく、俺達の間に沈黙が流れた。
やっと一息付けたから、さっきまであったことを改めて噛みしめていたんだ。
「神上」
「なに?」
「俺と一緒に戦ってくれ」
自分の中の整理が終わると俺は翔子を真っ直ぐに見た。
だって、こんなこと言うんだ。しっかりと誠意を見せないとダメだろ。もっとも、こんなやり方でしか示せないのが少し不甲斐無い気もするけどな。
「…………ぷっ」
少し呆けた後、吹き出した翔子。おい、なんだよその反応は。
「おい、そこ笑う所じゃねぇだろ」
「だって、今更過ぎること言うんだからさ。ちょっと笑っちゃったよ」
「いやだってよ、割とスゲェこと言ってるんだぞ?」
「もう戦う覚悟はできてるし、その理由はさっき言ったでしょ」
「ったく、これじゃあ俺がバカみたいじゃねぇか」
なんなんだよ、お前って奴は。俺が心配してるのがアホらしくなってきたぞ。
「じゃあ、これからもよろしく頼むぜ。”翔子”」
「ああ、こちらこそだよ。ライト」
※ ※ ※
その後、立ち上がれるようになった俺達は気を失っていた尾瀬先輩を保健室へ連れ込んだ。
先輩を担いできた俺の姿に保健室の先生がビビってたけど、一応は先輩が過労でぶっ倒れたってことにして誤魔化せたと思う。実際はクリーチャーに憑りつかれて、生命力──マナを吸われてたせいなわけで、言えるわけもないしな。
『警察にまで連絡が行って大変なことになったんですよ!?』
「分かった、分かったから落ち着けよ会長。ビビるのは分かるけどさ。でも、跡形もなく消えたんだろ? それなら後には何も起きねぇって」
電話越しにアーシュ会長を何とか宥めようと言葉を尽くすが、彼女の声は震えていて怯え続けていた。どうやら相当怖がってるみたいだな。
(まあ、怪奇現象みたいなもんに出くわしたら、怖いよな)
先輩を保健室に預けた後、交換した連絡先から会長が電話をかけてきた。
なんでも、美術室の惨状に生徒会や先生方も動いたそうだ。だが、美術室を無茶苦茶にしていた塗料が突如として消えたことによって、その場にいた全員が混乱状態に陥ったらしい。
多分だが、ステップルが倒されたからだろう。あのカードは破壊されると、自分のマナを一枚墓地に送る強制効果を持ってる。それが反映されて、あいつがやったことも自身の消滅と共に消えていたんだろうな。
ただ、それに驚いたあまり新手のいたずらとして警察にまで呼んで調べた。犯人はもういないわけだから、迷宮入りなのは確定だ。
「それじゃあ、ひとまず切るぞ」
『ああ待ってください! 翔野さん、今回はありがとうございました』
「戦ったのは俺じゃない。俺の友達だよ、礼ならそいつにしてくれ。今度生徒会室に連れてくよ」
『じゃあ、その人にはその時に直接言わせてもらいます』
「ああ、それじゃあな」
通話を終えてスマホをポケットに突っ込むと、俺は校舎の階段を上がっていく。
「おっ、来たね。連絡お疲れ様」
階段を上がって屋上へ出ると、真上から声が聞こえてきた。
顔を上に向けると、俺が出てきた塔屋──屋上への出入り口になる場所──の屋根に翔子が座っていた。いやお前、なんて場所にいるんだよ。
「別に大変なことでもなかった。ちょっと会長が騒動でビビってたけど、まあそんぐらいだ」
「噂の流星アーシュ会長かー、どんな子なの」
「それについては今度生徒会と会ってもらうから、そん時に自分で確認しろ」
「えー? 少しは教えてよ」
「お前が好きな取材の楽しみがなくなるだろ。我慢しとけ」
塔屋の壁にもたれ掛かると、ずりずりと体が落っこちて自然に座り込んだ。
外はそよ風が吹いていて心地いい。日差しも程よくていい気分にさせてくれる。
「ふー、今日もなんだかんだ疲れたな」
「そうだね。あの戦いはカロリーが高いよ」
「だろ? それでここしばらくはずっとクリーチャー絡みの事に動いてたから、もうクタクタだ」
そんなこと言い合いながら翔子の方を見ると、彼女と目があう。
「「……ぷっ」」
すると、思わず揃って吹き出した。何故か心も凄く穏やかな気がする。
いや、多分だが理由は分かってる。自分と全く同じ立場の仲間ができたから安心してるんだ。
《チクショー!》
「「ッ!?」」
安心に浸っていると、突然絶叫が聞こえてきた。
ビビったあまり座っていた身体が反射的に飛び上がる。
「な、なんだぁ!?」
その声は翔子がいる屋根から聞こえてきた。
塔屋の壁に備え付けられた梯子で上に登ると、
《なんでお前はちゃんと実体化できるんだよ!?》
《知るか。俺に突っかかるな》
《ふざけんなよ!? こっちは出力下がって大変な目に遭ってるってのによ!》
ちっさくなったガンマンにカードが文句を言っていた。
いやクロスファイア、SD化したジョニーにダル絡みかよ。
「何してんだよ、この似非ドラゴン」
《このスカシ野郎! ずりーぞ!》
俺の声なんて少しも聞かず、クロスファイアは激情を高めていく。
マジで聞く気ねぇな、こいつ。
「いい加減にしろ」
《アバァ! 何すんだよマスター!》
「うっせえ、バカ。ダル絡みすんな、それにデカい声出すんじゃねぇ。知らねえ奴にバレたらどうすんだよ」
浮いてたカードを叩き落とすと、クロスファイアが矛先を俺に変えてきた。
《だってよぉ、こっちは実体化するとアラシになっちまうじゃねぇか。それにこのガンマンはよぉ……》
ずいっと顔、もといカードを近づけてくるクロスファイア。心なしか声が涙ぐんでる気がする。
お前、実体化が上手くいかないの、そんなに気にしてたんだな。
「まあまあ、二人ともそこまでにしよ。クロスファイア、おいで」
そんな俺達の間に翔子が割り込むと、クロスファイアを手招いた。
クロスファイアが「おう」としょぼくれながら飛んでいくと、彼女の手にカードが収まる。
「じゃあ、アラシの姿になってくれるかい?」
《……? まあ別にいいけどよ》
言われるままにクロスファイアがアラシの姿で現れると、その体は翔子の膝の上に収まった。
すると彼女はアラシを抱きしめ、頭を撫で始めた。
「よしよし」
《え? いや、なにしてんっすか?》
「荒れてるクリーチャーに、助けてくれたことへのご褒美のプレゼントだよ。ありがとね、最初のツルから守ってくれて」
《い、いやー……大したことねぇっすよ。人を守るクリーチャーとして当然のことをしたまでっていうか……はは、あはははは!》
「お、お前、それでいいのかよ……」
頭を撫でられてデレデレになるアラシ。もう完全に骨抜きって感じだ。
それでいいのか、お前。アウトレイジのクリーチャーだろ、お前。
「はい、終わり。まだ欲しいかい?」
《にひひィ。オレ満足》
「ならよかった♪」
アラシの顔がこれでもかという程にふにゃふにゃになっている。
足取りもフラフラになっていて、すっころぶとそのままカードになって俺の手に戻って来た。
「お前、どういう腕してるんだよ……」
「別に特別なことはしてないよ。ライトも撫でて欲しい?」
「ふざけんな。ガキじゃねぇんだ、いらねぇよ」
「ま、そうだよね。ジョニーはいる?」
《俺もいらねぇよ》
小さくなったジョニーは翔子の傍らに来ると、伸びてきた手を払いのけた。
流石はガンマン。小さくなっても仕草にカッコよさがある。
《それにしても、初めての戦いでよくやったな。お前》
「わりとギリギリだったけどね。本当に薄氷の上の勝利って感じだったし」
《だが、勝ったのはお前だ。シールドの痛みがあっても耐え抜き、いきなり現れた俺と契約するって肝の座り方もいい》
「ふふん、褒めてもなにもでないよ?」
ジョニーの褒め言葉に翔子の口角がみるみるうちに吊り上がっていく。
こいつ、舞い上がってるな?
《しばらく物陰から観察してよかった。おかげで俺は良い契約者に会えた》
ほうほう、物陰から見ていたのか。
うん? ちょっと待て、物陰から見てた?
「……なあ、ジョニー。おまえのそれっていつからやってたんだ?」
聞いていて引っかかったことをジョニーに問う。
すると、ジョニーはなんてことないという感じで口を開いた。
《どうした急に? たしか、二日前の夜あたりだったはずだ。そこからしばらく、こいつを追いかけて様子を見てた》
「「えっ?」」
ジョニーの言ったことに俺も翔子も固まってしまった。
いやむしろ固まって当然だ。今の言葉的は、あることの答えを表していんだから。
「ま、まさか……翔子のスト──」
「へえ、そうだったのか」
「ッ!?」
俺がその言葉を言おうとした瞬間、翔子からとんでもない殺気が飛び出した。
まるで心臓を掴まれたような震えが身体に走る。
なんて怖さだ。《暴覇斬空SHIDEN-410》に襲われた時よりも怖いぞ!?
「そうか、そうだったんだね。ジョニー、君だったのか」
翔子がジョニーの身体を掴む。
俯いてるせいで表情が見えないが、放ってる圧が女子の出していいそれじゃない。
「このストーカーァァァァ!!」
《おォォォォォ!?》
叫びと共に、翔子の腕が振り抜かれる。
ジョニーの身体が猛スピードで投げ飛ばされて空を切り、屋上にある配管に激突した。
「君だったのか!? 信じられない!」
「ああ、ありゃ痛そうだ……」
ジョニーの身体が床へ落ちると、ピクリとも動かない。
どうやら完全に気絶してるみたいだな。
「ふんっ……」
翔子の顔を見ると、見事に拗ねてむくれていた。
大好きなガンマンが自分のストーカーだったのがショックだったみたいだ。
ぶっちゃけると大分可愛い顔だが、多分それを今言うと飛び火すると思うから胸の内にしまっておこう。
「はは、ここ数日間で色々変わり過ぎだろ……」
本当に数日間だけで色々と変わり過ぎだ。
ただの高校一年生のはずだったのに、現実に現れたクリーチャーと戦う羽目なって、そこから驚くようなことばかりだ。
痛みが現実になるデュエル――真のデュエルだって、まだ少しビビる。
でも、やれることを全力でやっていこう。
何の変哲もない平凡な日常を守るために。
(何とかなるか。いや、なんとかしていこう)
そんな時、屋上に一陣の風が吹いた。
多くの桃色が宙を舞う。散らなかった桜は、風に花びらを運ばせていた。
「おお、綺麗……」
拗ねていたはずの翔子が感嘆の声をあげた。
ああ、本当に綺麗だ。
「絶景かな、絶景かなってな」
屋上から見る桜吹雪は、多分今までの人生で一番綺麗だと思えた桜の景色だった。
絵描きと桜、これにて終了!
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