リミッター不全説を知っているだろうか。
この仮説によれば、全ての人間の精神には本来「魔法演算領域*1」が備わっているが、普通の人間は無意識のうちにリミッターが働いて魔法を使えないようになっている。
具体的に言えば、非魔法師はリミッターが100%機能しているため魔法を発動できず、逆に超能力を基盤に遺伝子改良によって作られた魔法師は、初めからリミッターが少し解除されているので魔法を扱える。そして、魔法を適度に使い続けて負荷を与えることで少しずつリミッターの上限を上げていくことが可能になる。
しかし、魔法師はリミッターが外れているがゆえに、限界を超えた処理を行ってしまう場合がある。その際にリミッターが破損すれば魔法演算領域がオーバーヒートし、精神の損傷が肉体にフィードバックして最悪死亡することもあるという欠点もある。
同日 西暦2052年4月14日
つい先ほど、俺は留置所でアーサー王の威厳を示そうとしたのだが、魔力放出で威圧感を出したら通訳スタッフも看守もまとめて気絶してしまった。慌てて気絶した通訳スタッフを抱え、監視カメラのない路地まで跳躍して身を隠した。
一先ず考えねばならない。
王として即位し、ブリテンを再建するには闇雲に力を振るうだけでは不十分だ。
西暦2052年の現代っ子英国民にとって武力の威光はむしろ逆効果になるだろう。
必要なのは外枠から埋めること、つまり国民から仲間にする方法だ。
原作でのイギリスは、USNAと並ぶ魔法大国とはいえ、戦略級魔法師のなんとかマクロードさんの「オゾンサークル」程度しか目立った魔法は描かれず、舞台のアジア圏から遠いせいか名前だけ使われる国だった。あと、戦略級魔法が爆発系ではないのも致命的だ。
だからこそ、俺が王として輝ける余地がある。
単純だが、将来的には魔法師の数こそ国力。ならば今のうちに全英国民を魔法師にすればいい。
その理論的支えとなるのがリミッター不全説だ。すなわち、すべての人間が魔法演算領域を持つという前提に立ち、常人の100%掛かっているリミッターを少しでも解除できれば、魔法師へと変質できるのだ。多分ね。
「――というわけで、君には協力してもらう」
気絶から目を覚ました通訳スタッフにそう告げる。
『はっ、なんで貴方と一緒にいるんですか!?』
「もちろん、私を召喚したザ・ナイツと話すための通訳に決まっているだろう」
『や、やめてくれー』
「いくぞ!」
全英国民魔法師化計画の礎となる魔術秘密結社ザ・ナイツの本拠地を探さねばならない。
その手がかりとなるのは、俺と共に拘束されたはずの狂信者たちだ。通訳スタッフ君の助力を得て彼らを奪還し、現在地のグラストンベリーからロンドンにある本拠地を目指すことになった。
西暦2052年4月15日
ザ・ナイツの狂信者の案内でロンドン郊外の拠点に向かうと、いきなり銃火と魔法で攻撃を受けた。迎撃し、制圧した後に事情を聞けば、狂信派がエクスカリバーのレリックを王室から盗んだせいで都内拠点は強制捜査を受け、リーダーは逮捕され、組織は瓦解寸前だという。
可哀想だが、これは好機ということで全員を拳で従えてロンドン郊外拠点のリーダーになった。
もちろん、メンバーの大半は非魔法師なので彼らが臨床試験の協力に志願してくれた。
魔法師化の具体的な手法は、相手に少量の魔力を流し、アヴァロンを挿入。そこから過剰に魔力を流し込み、無意識下の魔法演算領域に強制的な負荷を与えてリミッターを破壊する。
同時にアヴァロンを起動させて回復させる。この工程を繰り返し、世界の修正力が働かない程度に、リミッターが解除されている状態が定着するまで繰り返す。
そして、直ぐに魔力かサイオンを操るまでは行けずとも、その存在を認識できれば魔法演算領域のリミッターを少しだが解除するに至ったと言えるだろう。ちなみに、サイオンと魔力の違いが分からないので名称は魔力のままだ。
「どうですか?何か壊れた感じはしますか?」
『あばばばば――』
「頑張れ!君なら出来る!」
――3分後
心身を押し潰す魔力の奔流に削られながらも、常識ではあり得ない回復を繰り返した結果、短時間ながら被検体の精神領域は確かに魔法師のものへと変容していた。
『あばば――うっ、やめてください』
「おお、喋った」
某お兄様のような特殊な目を持っているわけではないので、反応が変わった時点でアヴァロンを抜き、魔力の流入を止める。言葉を発したということは、何らかの精神耐性を得て魔法師化に至ったと考えていいだろう。
魔法師はサイオンを可視光や可聴音のように知覚できると言われているので、軽くテストを行う。
通訳スタッフ君によれば、俺の手に魔力が集まっているのが見えるらしい。これなら臨床試験は成功といえる。被検体くんも、自らが魔法師になれたことを喜んでいる様子だ。
こうして拠点の十数人を魔法師化した俺は、残りの拠点への侵攻を計画することになる。
西暦2052年4月16日
郊外拠点の大半は魔法師化したばかりで、CADも無いので戦力にはならない。もちろん、市内で銃器を使うわけにはいかない。そこで彼らには拠点侵攻には加わらせず、新たに魔法師化した者たちの保護と管理を任せることにした。
一方、俺と通訳スタッフ君の二人は警察の追跡をかわしつつ、凡そ六時間でロンドン市内の全拠点を制圧した。
やがて魔法師化した全員が郊外拠点に集結したところで、俺は組織の方針を示した。
まず、魔術秘密結社「ザ・ナイツ」を魔術結社「英国魔法騎士団」と改名する。目標は剣と魔法を扱える集団となり、着実に魔法師を増やしていくこと。そこから派生して、PMCの設立や魔法を活かした産業の育成によって、社会に存在感を示していくのだ。
「明日からも魔法師を増やしていくぞー!」
『『『Ooohhhーーー!』』』
――魔法師を増やし続けて7年後――
西暦2059年7月4日
「英国魔法騎士団に入れば魔法が使えるようになる!」
そんな雑な宣伝を打ち出し続けて7年間、口コミで「本当に魔法師になれた」「不治の病が治った」「アーサーさんCool!」と広がり、アホみたいな勢いで魔法師人口は増えていった。
広告塔兼“魔法師化”のために英国全土を回っていた俺は、気がつけば指名手配犯。さらに、いつの間にか出来ていた幹部連中は政権転覆を企んでいたらしい。
……うん、これはひどい。
まさか自分がテンプレ領主系主人公みたいな流れになるとは。正直、嫌すぎる。
だが、この展開はある意味で王道でもある。本来の目的である四葉真夜の救出が目前に控えているので、7年間で得た魔法師化した約500万人の支持者を背に、俺はついに無血革命を実施することにした。
まず幹部を招集し、作戦を伝える。
当日はバッキンガム宮殿を占拠し、全国中継で戴冠式を行う。君たちは先に国会議員と国王を攫ってきてくれ。私はドラゴンで行く。
「イングランド国民は誰一人殺してはいけない。OK?」
『『『――OK!』』』
西暦2059年7月7日
その日のロンドン市内は、平日とは思えぬほどの人で溢れていた。
老若男女に加え、報道ヘリまでもが飛び交い、街には異様な高揚感が満ちている。
英国情報局も魔法騎士団の動向を追ってはいたが、三日前からSNS上で「ロンドンで式典を行う」と大々的に宣伝されていたため、警告として陸軍魔法師部隊や武装警官を市内に展開していた。
だが、彼らはすぐに度肝を抜かれることになる。
『……こんなに人が集まって、一体何が始まるんですかね?』
『さあな。もしかしたら革命でも起きるかもな』
『え、軍人としての勘ってやつですか?』
『適当だ。警戒に集中しろ――』
『ちょ、先輩! あれ見てください! あれ!』
『……なんだ、あれは……』
兵士たちが目にしたのは、突如として姿を現した赤き竜。
それはテムズ川に沿って飛翔し、英国国会議事堂の上空を旋回してから通過していく。鱗は陽光を反射してルビーのように煌めき、翼が振るう風は群衆のざわめきを一瞬で掻き消した。
そして、竜が辿り着いたのはバッキンガム宮殿。
空中に静止するその幻想種の威容に、軍人も警官も、そして民衆も、ただ空を仰ぎ見て息を呑むか、震える手でカメラを構えるしかなかった。
『もしかして…ウェールズの赤い竜…?』
『いや、そんな馬鹿な。けど……』
動揺が広がる中、声が街中に響いた。スピーカーではない、魔力による拡声。
「聞け、イングランド、いやブリテンの民よ!」
ざわめく群衆。赤竜の背に乗っている金髪の凛々しい男性にテレビ中継のカメラもすでに向けられている。
「我が真名はアーサー・ペンドラゴン。
ブリテンの危機に、アヴァロンより舞い戻ってきたのだ!」
「今、世界は再び魔法で満ちようとしている。
だがブリテンはどうだ――未だ反魔法主義の枷に縛られている!
これは戦いではない。集え、ブリテンの全ての民よ!再びこの国に栄光をもたらすために!」
俺は聖剣を掲げ、天を指す。
「天を仰ぎ見よ! これが護国の聖剣の光だ!
《承認、ガウェイン。承認、トリスタン。承認、パーシヴァル――》
「
限定解除されたエクスカリバーの極光が天を裂き、ロンドン市内の雲を全て吹き飛ばした。
「この日より、このアーサー・ペンドラゴンがブリテンを導く王である!」
宮殿前に降り立ったとき、仕込んでいた警官たちがヘルメットを脱ぎ捨て、魔法騎士団員も膝を折った。
『――アーサー王万歳!』
それが号砲となり、群衆が一斉に叫ぶ。
『『『アーサー王万歳!!』』』
こうして、攫ってきた国会議員の面々と王室ファミリーと一緒にバッキンガム宮殿にて、異例の戴冠式が始まったのだった。
世界は本来一体の存在で、その情報は膨大すぎて人間の意識には収まりきらない。だから一にして連続不可分の世界の情報を、人間に認識できる大きさへと切り分ける加工を無意識で行っている、と言われている。
頭、中世だけどしょうがないよね。
お読みいただきありがとうございます。