さて、2人目のメンバーも揃え、いよいよアイドル活動か、と、意気込んで事務所にやってきた私こと真村琴音だったが。
「やあ琴音! どうしたんだい?」
あれ? 誰も居ない?
妹君も居ないし、前勧誘したはずの才歌もいない。
いるのは変態露出狂ストーカーと、後1人、見知らぬ女性が……。ってあれ? 活動開始しないの?
「えっと、アイドルとしての活動は、何もしなくてもいいの?」
「あー。まずはメンバー集めから、だろう? まあ、並行するのも悪くないが、私としては、5人全員揃ってデビューの方が良いと思うんだ。才歌だけでは、琴音の才能なしをカバーしきれるという保証もないしね」
? ちょっと待って、5人全員?
私のグループって、5人でやる予定だったの?
「何不思議そうな顔をしているんだい? そりゃ、夢場美咲は5人グループで活動しているんだから、こちらも対抗して5人グループで活動するのが自然の流れってものじゃないかい?」
ああ、そういうこと。だから5人グループだったのか。
地下アイドル時代は華梨奈と2人でやってたから、2人でも十分かなって思ってたくらいだけど。
才歌と妹君とでメンバー決めを行った時だって、仮に2人とも入れるとしても3人グループかな、くらいにしか考えてなかったし、まさか5人きちんと揃えて美咲のグループに対抗しに行こうとするとは思わなかった。
「その辺の方針は、私にも伝えて置いて欲しかったわ。仮にも1番最初に勧誘されたわけだし」
「あーそれはすまない! 今後は情報共有することにしよう」
「ところで、そちらの女性は?」
さっきから事務所内にいる謎の女性について、変態にたずねてみる。
「あー、彼女はね、3人目候補の子だよ。いやまさか今日君が来るとは思わなかったからね! すまないね、自己紹介をよろしく」
女性は、丁寧に自己紹介をしてくれる。
名前は3文字で、普通の名前としても見かけるけど、何だかアイドル映えする名前だな、と感じた。
「真村琴音です。白崎プロダクションでアイドルをする予定、です。よろしくお願いします」
「よ、よろしくね。あはは………。でも私、まだここでアイドルするって決まったわけじゃ………」
「何を言う! 君の才能は素晴らしいものじゃないか! 是非、私の事務所でアイドルとして活動して欲しいんだ。君の才能はきっと、琴音達の役にたつ! だから是非!!」
相変わらず押しの強いやつだ。女性も萎縮してしまっている。
よかった。今日事務所に立ち入って。このままではこの変態によって1人のか弱い女性にトラウマが植え付けられてしまうところだった。
「蕾、しつこいわ。いい加減にやめときなさい。私の指は今、110の順でスマホをタップする準備をしているの」
「自分の事務所のプロデューサーを通報する奴がいるかぁ!?」
「プロデューサー云々関係なく、変態には通報するのが世間の常識よ」
私と最初に出会った時に裸になっていたあの時点で通報されていたっておかしくなかった女なのだ。この感じだと、どうせ才歌の時にも酷い押しかけ方をしていたに違いない。
まったく。私だから良かったものの、いつ通報されたっておかしくない行動をしているという自覚を持って欲しいものだ。
白崎蕾が逮捕されたら、困るのは私達なんだから。
「ったく、酷いじゃないか! 君のためにこんなにも私は働いているというのに! とにかく、今私達に足りないものはなんだ! 琴音、言ってみなさい」
今私達に足りないもの?
んー。私の才能じゃないかな?
「私の才能なしをカバーしてくれる人?」
「あーいや、それはそれだ。ともかく、今私達に足りないのは、リーダーだよ! リーダー!」
「りーだー?」
「そうだ。はっきり言って、琴音や才歌にはリーダーシップがない!」
「私はともかく、才歌にはリーダーシップがありそうだと思うのだけど」
才歌は、私をいじめていた時だって取り巻きみたいなの付けてたし、人心掌握術的なのに長けてそうだなって思うんだけど。
「いや、ないよ。才歌にはリーダー足り得るだけのものがない。彼女は、致命的にリーダーをやれない理由が存在するからね」
リーダーをやれない理由?
そんなのあるのだろうか? トラウマ、とか? それでリーダーシップを発揮できない、的な?
………いや、そうか。
「私のせい、ということね。ということね。ことね。……琴音だけに」
「君、そんなつまらないギャグを披露するようなキャラだったんだね。流石はクール系(笑)」
く、クール系にだってお茶目な一面はあるんだぞ!
こ、これは普段クールなあの子が時折みせる茶目っけっていう、そういうファンサ的な奴で………。
………言い訳はよそう。言い訳すればするほど、惨めな気分になってきた。
「ま、ともかく、琴音のせいというのはあながち間違いではないね。才歌は、琴音に対して負い目を感じている。だから、彼女にはリーダーとして琴音を引っ張っていく勇気がないんだ」
「気にしなくてもいいのに……」
言葉では言うが、実際それが難しいのは分かっている。いじめておいて、それを気にせずにリーダー面。うん、私ならできないね。才歌の気持ちもよくわかる。
「あの、でも私もリーダーシップなんて持ち合わせていませんけど……」
「何を言う!? リーダーとして君ほど最適な人はいないじゃないか! それとも何か? この私の観察眼が信用できないとでも?」
「ち、違います。ただ、私は………きっとここにいても、迷惑をかけるから」
思えば女性は終始申し訳なさそうな顔をしながらこの事務所内にいた。
自己肯定感が低いのか、それとも他に何か理由でもあるのか。
「迷惑をかける、とは…?」
「ああ、君は知らないのか。彼女はアイドルをやるのが難しい事情があってね。迷惑とはそのことだよ」
「そう、です。私は、アイドルには相応しくないんです。私なんかがリーダーになってしまえば、きっと、貴方達のグループを潰すことになってしまうから」
まずその事情を知らないことには、動こうにも動けないのだが。
しかし、無理に聞き出すのもよろしくない。白崎蕾は事情を知っているようだが、まあ、私が夢場美咲の幼馴染であるということを探り当て、才歌の存在にまでたどり着いた奴だ。目の前の女性の事情を知っていたって、何らおかしくはないだろう。
「貴方のことをよく知らないから、私には何とも言えないのだけど……」
「大丈夫さ。彼女は良い子だ。私が保証しよう」
「良い子って……。私20歳ですよ。貴方の方が年齢が下だと思うんですけど……」
「何を言うか! 私はこれでも22歳だ! れっきとした大人だよ」
……え? 白崎蕾って20超えてたの?
どうみても少女の見た目だったから、勝手に10代だと思い込んでいたんだけど。
「……妹君の年齢は?」
「14だよ。結構歳は離れてるんだ私達は」
……8歳も年下の子にあんな態度を取っていたと?
露出もするし、やっぱり白崎蕾ってろくでもない女なのでは…?
というか、8歳も下の子に一緒にアイドルになろうって誘ってたんだ。どういう心境だったんだろう。
「その見た目で22なら、ある程度歳とっても若く見られるってことですよね。いいなぁ……」
「よしてくれ。私はこの少女みたいなちんまい体があまり好きではないんだ。もっと大人で、理知的な女性を目指しているからね!」
「理知的な女性は人前で肌を露出しだしたりしないと思うけど」
白崎蕾は変人で変態だという言葉で表現するのが1番適切だろう。観察力は一丁前にあるが、彼女を理知的な女性だと評価してしまうと世に存在するすべての理知的な女性へのネガティブキャンペーンになりかねない。
「ま、ともかくだ。私は彼女がリーダーに相応しいと思っているし、きっと琴音や才歌に良い影響を与えてくれるだろうと信じている! どうかな?」
「………私をメンバーにすると、厄ネタがついてまわりますよ」
「承知の上だとも」
厄ネタ……ねぇ……。
何も知らない私からすれば、何のことやらって感じなんだけど。
聞いても良いのだろうか? あまり踏み込むのも失礼な気がしたが、同じグループメンバーになるのだとすれば他人事だとはいえないはずだ。
なら、事情を知っておいてもいいのでは?
「失礼じゃなければ、事情をお聞きしてもよろしいですか?」
「…うん。話すよ。きっと、話さなくてもすぐにバレちゃうしね」
「まあ、才歌なら彼女の事情も知っているだろうからね! 放っておいても知ることになるだろうさ」
才歌が彼女の事情を知っていると?
白崎蕾が教えたのだろうか? それとも私より前に彼女と交流を?
そんな時間はなかったと思うんだけれど。
……そういえば、才歌はアイドルが好きなんだっけ。色々なアイドルを追っていて、結構アイドルの情報は収集していると聞いた。だとすれば、彼女は。
「私は、昔アイドルをやっていたんだけど………。その…………。たまたま昔の知り合い……男の同級生と会っているところを取られて……それで引退まで追い込まれてしまったアイドルなんです。だから……」
なるほど。
スキャンダルで引退した元アイドル、ということか。
それじゃ確かに、再びアイドルを目指すのは難しいのかもしれない。
けれど。
「事情は、理解しました。それはそれです。貴方はどうしたいのですか? もう一度アイドルとして活動したいのか、それともこのまま、アイドルの夢を追いかけず、普通に生きていきたいのか」
私は、彼女の意思を尊重したい。
もし、彼女がまだアイドルの夢を追いかけ続けたいというのならば。
私はきっと、彼女と活動することを拒否するということはないだろう。
だから、彼女の本心を聞きたい。
「私は……駄目ですよ。私がいれば、きっと迷惑がかかる。まだ、追われてるんですよ。まだ記事が書けそうだからって、嗅ぎ回られてますし」
「そんなことはどうでもいいのよ。ただ、貴方がどうしたいのか。今聞いているのは、それだけ。私は、貴方の意思が知りたいの」
「遠慮することはない! 琴音は少しバグっていてね。なんせ、自分のことをこっぴどくいじめていた相手とアイドル活動がしたいと言い出すような子なんだ。迷惑が何だとか考えずに、自分の本心をぶちまけるといい!」
「いじめって……」
「ちょっと、才歌のことを話すのは……」
「同じグループで活動するならいずれ知らなければならない話だろう? それに、才歌だって隠し続けるのは辛いはずさ。ま、そういうことだから、遠慮せずに、さあさあ!」
まあ、仕方ないか。
あとで才歌はそんなに悪い子じゃないということを伝えておこう。実際、私は才歌にされたいじめを一切気にしていないし、当時の才歌は子供も子供だ。そんな小さい頃の過ちくらい、許してやってもいいんじゃないかと、少なくとも私はそう思うから。
「アイドルを続けられるのなら………続けたいとは思ってます。けど……」
なるほど。それが彼女の本心というわけか。
なら話ははやい。簡単なことだ。
「分かりました。なら、一緒にアイドルとして活動しましょう」
白崎蕾は事情を知った上で彼女を選んだ。なら、少なくとも彼女にアイドルの才能があるのは確実だろう。
それに、彼女の、夢を追いたいという気持ちは、尊重してやりたい。
私だって、夢場美咲の隣に立ちたいだなんて、叶うはずのない夢を追いかけているのだから。
「でも……私を嗅ぎ回っている人達が、まだ……」
なら、必要なのは嗅ぎ回っている連中を探し出して、2度と彼女に手を出せないようにする、とかだろうか?
いざ、パパラッチ撃退作戦。なんつって。
ま、アイドル活動を行う上で、避けては通れない存在なのだ。遅かれ早かれ、パパラッチに向き合わなければならない時は来ていたのかもしれないし、丁度いいのかもしれない。
「失礼する。意図していたわけではないが、話は聞かせてもらった。その件についてだが、私も話に混ぜてもらえないだろうか?」
突如として、事務所に凛とした女性の声が響き渡る。
ハキハキとした喋りで、溢れんばかりの自尊心を感じさせるような、力強い声だった。
どこかで聞いたような声な気がするが、別段知り合いというわけでもない気もする。
「誰だい突然。私の事務所に急に押しかけてくるなんて、失礼な奴だな!」
「申し訳ない。連絡を入れたはずなのだが、返答がなかったもので。それで、私も是非この事務所でアイドルとして活動させてもらいたいと思っているんだ。そして、これはその手土産だ」
突如やってきた彼女は、手土産と言いながら後ろに隠れていた女性を、まるで引っ張り出すかのように私達の目の前に差し出す。
「ぷぎゅ〜」
「事務所の周囲を嗅ぎ回っていたのでな。謎のカメラを持ち歩いていることから、先程の話に出ていた、君のことを嗅ぎ回っているパパラッチといったところなのではないかと思って連れてきたんだが」
差し出された女性は、星型のサングラスに髪は金髪。手にはカメラを持っていて、両手にはミサンガと、パパラッチにしては目立ちすぎる容姿をしている人だった。
「あのね〜。失礼だけど私はそういうんじゃないの! 失礼じゃない? 間違ってもパパラッチとか、ああいういけすかない連中と同じにされるのはごめんなんですよー」
「なら素性を明かしたらどうだ? 言えないのだろう? 何か後ろめたい事情があるからではないのか?」
「くそー! 何も知らないくせにー。私にだって言えないことの一つや二つ、あるもんねー。とにかく、私は、そういうんじゃないから! 第一、私が見にきたのは彼女じゃなくて……」
目の前で言い争い出す女2人。どちらもどこかで見たような容姿な気がする、というか、1人に関してはもう思い出したというか、知っている顔ではあった。
自分に自信があって仕方がない、とばかりの尊大な態度を取っている女性は、私の高校で学年1位を常にキープしている、才女だ。運動もできる文武両道で、まあ、一度見れば忘れないくらいのインパクトのある人物ではある。胸もでかいし、スタイルも抜群。その体型どうやって維持しているんだと言いたいぐらいである。
しかし、そんな彼女がなぜ白崎プロダクションにわざわざ尋ねてきたのか。
別に白崎プロダクションでなくとも、彼女ならどこでもアイドルをやっていけそうな気はするのだけれど。
「あーもう頭に来るー! なら、なら勝負だ! 私とお前でアイドル勝負! どちらが真のアイドルに相応しいか、決着を付けよう! ま、万が一にも私が負けることはないと思うけどねー」
「いいだろう。言っておくが、私は手を抜かない人間だ。やると決めたからには全力でやる。何事も、私は敗北を味わうつもりはない」
ところで、何か話が妙なところに発展していってないですかね…?
最初は元アイドルの彼女を3人目として迎え入れて、パパラッチを撃退して、一緒にアイドル活動しようって感じだったのに。状況がややこしくなってきているような。
「んで、真のパパラッチを見つけて、彼女に献上する。そしたら、私の疑いも晴れるでしょ?」
「なるほどな。しかし、何も彼女のことを嗅ぎ回っているパパラッチは君1人とは限らない。私も同様に、パパラッチを見つけて彼女に献上するとしよう。なに、パパラッチ発見においても、私は君に負けるつもりは毛頭ない」
「へー? でかい口叩いちゃってさ。いいよ、アイドル勝負でもパパラッチサーチャーでも、どっちでも勝利して、あんたのそのでかい鼻叩き折ってやる! 覚悟しろ!!」
いつの間にか、話がどんどん変な方向に……。どうやって収拾つかせればいいんだこれ…。
「……あのー、やっぱり私のせいで、こうなってしまうんじゃ……」
「あれは流石にあの2人のせいだと思うけれど……」
「同意だよ。私も他人から見たら変人だと言われることが多いけどね、あれは私よりも変人だよ!」
いや、お前も大概だよ。というか変人の自覚あったのか。
ともかく。
突然の乱入者2人の影響で、話はどんどんややこしくなってきていて。
3人目も中々、一筋縄では行かなさそうだった。