現実だけ見ていたい   作:布団から出られない

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3人目

「というわけで、アイドルバトルといこう。審査員はそこの3人にやってもらう。審査されるのは、歌、踊り、それにパパラッチサーチャー、といったところだ。3本勝負で、より良かった方が白崎プロダクションのアイドルとなる。これで間違いはないか?」

 

パパラッチサーチャーって何するんだろう?

 

「ちょっと待てーい! 私は別に白崎プロダクションに所属したくて来たわけじゃないんだってば!」

 

「私としても不本意だ! 勝手にうちの事務所に所属しようとするのはやめてくれないかな!」

 

うちの学校の才女はぶっ飛んでいるなぁ……。

 

「なんか………。凄いですね……」

 

「私も彼女がああいう唯我独尊タイプだとは思ってなかったわ。もう少し思慮深い方だと」

 

それにしても、あの奇抜な見た目の少女は何をしにこの事務所にやって来ていたのだろうか。才女が言った通り、本当にパパラッチだったのか。にしては目立ちすぎだし、見た目的にまだ10代なわけだから、パパラッチをしているとは思えない。

 

まあ、それは後で奇抜に聞けば良い話だ。今の奇抜は才女とのアイドルバトルに目がいってしまっているようだし、アイドルバトルが終わった後かな。

 

「まったく、妙なことが始まってしまったみたいだ。うちの事務所には変人しか来ないようになっているのかね」

 

「1番の変人がそれを言うの?」

 

「君も大概だよ琴音」

 

私が変人はないだろうに。大変不名誉なことだ。白崎蕾から変人認定されるなど。

 

「なんだいその目は! 類は友を呼ぶという言葉があるだろう? 私が変人ならば、自然と私が勧誘した琴音も変人だというのは導き出せるさ!」

 

「え、その理屈だと私も変人ってことになりませんか……?」

 

「戯言よ。変人なのは白崎蕾だけ。勧誘された人は変人ではないわ。私も才歌も、貴女も」

 

才歌も、目の前の彼女も、流石に人前で露出するような癖は持ち合わせていないだろう。

だから白崎蕾は変人オンリーワンである。

 

「失礼。盛り上がっているところ申し訳ないが、早速私達のアイドルバトルの審査をやっていただけないだろうか?」

 

「言っとくけど、私は白崎プロダクションに所属しないからね! 勝っても」

 

「不本意だけど、彼女達我が強そうみたいだからね……。仕方ない。どちらもうちの事務所のアイドルにするつもりはないけど、審査くらいはしてやろうじゃないか」

 

私はアイドルの才能が一切ないらしいけど、果たして審査員なんてできるのだろうか?

まあ、素人目でも私なりに良いと思った方を評価してあげれば良いか。どうせ2人ともプロのアイドルってわけじゃないんだし、どちらを勝たせても問題はないはずだ。

 

「それじゃあまずは歌の審査から行ってもらおうか。歌う曲は………そうだな……『BLOSSOM』所属の蜜葉氏が歌う『蜂蜜みつみつ⭐︎すうぇーでん!!』にしようか」

 

『BLOSSOM』は、確か美咲が所属するアイドルグループの名前だったはずだ。

それで、蜜葉というのは確か………。

 

あんまり思い出せない。あれだ、美咲と全然カップリングされてないから、記憶に残らない、というか多分見たことないかもしれない。

有名アイドルグループなのに、美咲しか知らないのはいかがなものか。ん?冷華? シラナイナマエデスネ……。『みされい』とかキイタコトナイヨ。

 

まあ、仮にもアイドルをするのだから、メンバーは全て把握しておくべきだった。反省である。

 

「却下却下! 何でお前が勝手に決めてるのさ! それなら私にだって曲を選ぶ権利があるでしょ?」

 

奇抜は、おそらく才女に主導権を握られているのが気に食わなかったのだろう。必死に才女に食いつき、才女の選曲を批判している。

 

「何だ? 歌えないのか、『蜂蜜みつみつ⭐︎すうぇーでん!!』を」

 

「歌えるよ! 歌えるさ! 歌えるとも!」

 

「じゃあ構わないだろう?」

 

「そうだよ構わない! でも私が勝っても文句は言うなよ! ふん!」

 

が、才女の煽りに乗せられたのか、奇抜は『蜂蜜みつみつ⭐︎すうぇーでん!!』を歌えると豪語してしまった。これでは、選曲のやり直しはきかなさそうだ。

まあ、元より奇抜も才女が取り仕切っているのが気に食わなくて突っかかっていただけなのだろう。だから、選曲そのものに不満はないのかもしれない。

 

「それじゃ、2人とも歌う準備はできたかい? できたのなら今ここでジャンケンでもして、勝った方から歌ってくれ!」

 

「おや、失礼だが白崎女史、会場の方は用意してくれないのか?」

 

「何で私が会場を用意しなくちゃならない! 元々君達が勝手に始めたことなんだから、私が協力してやる義理はない!」

 

これに関しては白崎蕾が正論である。いくら変人奇人奇天烈珍妙ちんまい成人女性とはいえ、理不尽に振り回されるのは可哀想だと感じる。今回ばかりは、白崎蕾に同情してあげてもいいかもしれない。

 

「へー。会場がないと歌うこともできないんだ? 本物のアイドルを目指すなら、アカペラくらいできなきゃね〜」

 

「減らず口を。私は自分のために会場を用意させようとしたわけじゃない。対戦相手である君にとって、最高の場を提供してあげようと、そう考えて白崎女史に提案しただけだ。それとも、君は対戦相手のことを慮る気持ちすら持ち合わせていないのかな?」

 

それを言うなら白崎蕾のことを慮ってやってくれと思う。何なら私達も巻き込まれているので、そこのところの配慮も欲しかったなーと思わなくはないのだが、彼女に何を言っても無駄だろう。奇抜との口喧嘩を見る感じ、のらりくらりとうまいことかわして乗り切りそうな雰囲気がある。

 

「あーはいはい。口論がしたいなら勝手にどーぞ。私はちゃんとアイドルバトルで決着を付けるから。ほら、早速歌で勝負しようよ。歌ってあげるよ、『蜂蜜みつみつ⭐︎すうぇーでん!!』をさ」

 

 

 

 

 

「はーっちみっつ吸ったらー♪ おーなかーはマンゾクー♪」

 

というわけで、始まったアイドルバトル。

現在アカペラで奇抜が歌唱中。なのだが……。

 

正直、上手い。

素人目で見ても、彼女の歌唱力はそれなりにあるということがわかる。

 

ただ、一番はそこではない。

彼女の凄いところは……。

 

「……あの子、自分の魅せ方を分かってるね。小柄な体型で、どちらかというと可愛い系の部類の容姿をしている。そこをしっかりと理解してるのだろう。元々『蜂蜜みつみつ⭐︎すうぇーでん』が可愛いをウリにしたアイドルの曲というのもあるが、彼女はしっかりと、自分の“カワイイ”を主張できるような、そんな歌い方をしている!」

 

白崎蕾も絶賛している。最初は奇抜にそこまで期待していなかったが、彼女の実力は中々なものらしい。

 

「………」

 

元アイドルの彼女は、魅入るように奇抜を見つめている。

その顔は無表情で、何を考えているのか、全くうかがうことができない。

ただ、彼女が、本気で奇抜の歌をきいているということだけは、伝わってきた。

 

「はちみーつみーつみーつ、すうぇーでん!」

 

曲が終わり、奇抜がマイクを下ろす。

歌い終えた彼女は、どこかスッキリとしたような表情を見せており、清々しさを感じさせられる。心なしか、こちらの気分も爽やかなものになっていた気がした。

 

「それで、どうだった?」

 

「そう慌てるな。これはアイドル“バトル”だ。審査員の評価は、私と君の歌を比較して評価してもらうことになる。講評は私の歌を聞いてからしてもらうことにしよう」

 

言いながら、才女は奇抜からマイクを奪い取るようにして手に持つ。

 

「いつでもいいよ」

 

白崎蕾が才女に言う。才女は催促された通りに、マイクを口元に持っていき、歌詞をその口から零れ落ちさせるように歌う。

 

………綺麗な歌声だった。

それでいて、自信に満ち溢れた声で、私は素人だから何もわからない、が、少なくとも私には、完璧に歌いきっている。そんな印象を受ける歌い方だった。

 

「音程が完璧だ。全くズレていない。それに、抑揚もはっきりとつけている。……私の事務所に押しかけてきた時は何だこいつはと思ったが、中々の歌唱力を持っているみたいだね」

 

「歌は、上手いですね……」

 

白崎蕾も、3人目の彼女も、どちらも才女の歌声を褒めている。

なるほど、才能がない私の目だけではなく、才能のある、あるいは才能ある者を見抜く力を持っている彼女達が褒めちぎっているのだ。

 

やはり才女にはアイドルの才能があるのだろう。

私の学校でも常に学年1位をキープしているし、大抵のことはこなせる。完璧超人とは、彼女のことを言うのかもしれない。

 

「………ご清聴、ありがとうございました」

 

歌い終わり、感謝の一言を述べ、才女はやり遂げたとでも言いたげな、満面の笑みで曲の最後を締める。

 

額には汗が流れ、それだけ彼女が本気で歌声を披露したのだと感じさせられるのと同時に、その汗すらも彼女の美しさの一助となっているような錯覚を覚えるくらいに、才女の表情、仕草、立ち振る舞いその全てがキラキラと光り輝いていた。

 

まさにアイドル。偶像であるのにも関わらず、まるで本物かのように感じさせるファンタジー。

彼女のような存在が、汗すらも綺麗なものであるという嘘を、あたかも真実であるかのように感じさせることができるのだろう。

 

これが才能。

これが私にはないもの。

 

改めてひしひしと感じさせられる。

 

……やはり私には、アイドルの才能はない。

 

「それで、どうだったろうか、白崎女史。私の歌唱力は、貴女の眼鏡にかなうものだったかな?」

 

「そうだね。100点をあげたいところだ」

 

「完璧、でしたね」

 

2人とも高評価。まあ、納得だ。私も、才女の歌声は素晴らしかったと思う。

 

「さて、それじゃ、評価の方だが……」

 

私達の手には、それぞれ赤と青の札が用意されている。

赤が奇抜の、青が才女のもので、今回の歌バトルで良かったと思う方に投票する、という形になっている。

 

私は、右手にあった札を取る。

白崎蕾と3人目の彼女も、札を手に取り、掲げる準備は完了しているようだった。

 

「各自であげていこう。まずは琴音、君からだ」

 

私から、か。

まあ、私の評価は一般人のそれと何ら変わらない。

本当に、ただ1票貰えるという価値だけのものだ。だからこそ1番最初なのだろう。

別に特段不満はない。

 

「青で。音程が完璧に取れていたし、テンポも完璧。ミスがなく、聞き心地の良い声で、終始聴いていて不快に思わせることがなかった点が、優れていると感じたわ。だから、彼女に票を」

 

奇抜も悪くなかったと思う。が、私は才女の方が良かったと感じた。

歌の技術が、才女の方が優れていると感じたためだ。

 

「ふーんなるほどー? 君ってそういう人間なのかー。結構合理的な感じ?」

 

「負け惜しみかな? 彼女の人間性に関係なく、私の方が優れていた。ただそれだけの事実があるだけだよ」

 

奇抜は私の評価を、“そういう人間”だから、とし、それに対して才女は自信の実力によるものだと主張している。

 

……私の意見など所詮は素人のものなので、当てにはならないと思うのだが。

 

「それじゃ、次は私が話そうか!」

 

白崎蕾が、声を発する。

 

「私が手に取ったのは、赤札だ」

 

「……失礼だが白崎女史、私の歌声は100点なのではなかったのかな?」

 

「100点さ。けど……。まあいい! 私はこれ以上は語らない。講評は、彼女にしてもらうからね……」

 

言って、白崎蕾は、3人目の彼女の方へと視線を向ける。

それに呼応するように、彼女は自信の手に持っていた札をあげ……。

 

「私も、赤い札を手に取りました」

 

赤い札。つまりは奇抜の方を選んだようだ。

 

……つまり、青い札を選んだ私は少数派ということになる。

 

どういうことなんだろうか。白崎蕾も3人目の彼女も、間違いなく才女の歌声を誉めていたはずだ。にも関わらず、2人とも奇抜の方が優れているという評価を下した。

 

「……少し気になるんだけど、どういうところで2人の差がついたの? 蕾と貴女は、どういうところを評価したの?」

 

純粋に気になったので、直接尋ねてみることにした。

 

「さっきも言ったように、私は彼女に講評を委ねた。だから、評価理由も彼女に全部言ってもらおうと思うよ」

 

「もしかして適当に選んだの? あれだけ人の目を見る力があると主張しておいて、まさか大した理由はない、なんて事はないでしょうね?」

 

「琴音、私の見る目を疑っているのかな?」

 

まあ、それもそうか。白崎蕾の観察眼が優れている事は、もはや私の中では確定事項。今更詰めるような話でもないのだろう。

そんな白崎蕾が、わざわざ評価理由を3人目の彼女に委ねた理由。それは……。

 

彼女も白崎蕾と同じ理由で、青い札をあげたから、とか。

 

しかし、いくら観察眼に優れているとはいえ、そんなことがわかるのだろうか。

 

「ふむ。琴音、どうやら私の意図に気付いたみたいだね。もちろん、彼女と私の評価理由が完全一致するとは思っていないさ。けど、彼女は歌声を聴いている時に、ポツリとこぼしたんだ。“歌()上手いですね”と。彼女の言い方で、私は確信したよ。きっと彼女は、私と同じ評価を下すだろう、とね」

 

()

つまり、それ以外の何かが、彼女にとっては不満だった、ということだろうか。

 

白崎蕾も同様に、歌声に関しては不満を抱かなかったが、他の何かが駄目だったということなのだろうか。

 

「前置きはいい。私のどこが良くなかったのか、教えていただきたい。今後改善する上で参考にもしたいからね」

 

才女は面と向かって自信が劣っていると評価されても、余裕な態度を崩すことなく、冷静に言葉を発している。

やはり、才女は才女らしい振る舞いができる人間のようだ。

 

「……理由は勿論、色々あるんですが、その前に少し、確認させていただきたいことがあります」

 

3人目の彼女は、奇抜の方を見つめながら、告げる。

 

「ん? 私? いーよー、なんでも聞いてみんしゃい! 例えば、私の可愛さの秘⭐︎訣とかね!」

 

奇抜は相変わらずおちゃらけているが、3人目の彼女の視線は、至って真剣で。

 

「貴女……『BLOSSOM』所属のアイドル……想田(そうだ)蜜葉(みつは)さん、ですよね?」

 

「…………へ?」

 

衝撃の爆弾発言が、彼女の口から投下された。

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