「貴女……『BLOSSOM』所属のアイドル……
彼女のその一声に、場が凍る。
確かに、よくよく見れば奇抜の容姿は、美咲と同じ『BLOSSOM』所属のアイドル、
「あははー。よく言われるんだよね〜、そっくりさんって。でも違うよ〜」
「話し方、仕草、何よりアイドルバトルの際の歌声。その全てが、想田蜜葉ちゃんのものにそっくりでした。何より貴女は、自分の魅せ方を理解していた」
そういえば、白崎蕾も……。
『……あの子、自分の魅せ方を分かってるね。小柄な体型で、どちらかというと可愛い系の部類の容姿をしている。そこをしっかりと理解してるのだろう。元々『蜂蜜みつみつ⭐︎すうぇーでん』が可愛いをウリにしたアイドルの曲というのもあるが、彼女はしっかりと、自分の“カワイイ”を主張できるような、そんな歌い方をしている!』
同じようなことを言っていたな。私は素人なので、詳しくわかるわけではないが、言われてみれば、才女は歌声が完璧であったが、自分を“魅せる”、というよりかは、自分を“押し付ける”ような感じだった覚えがある。
それが良いか悪いかは分からないが、少なくとも、その自分を“魅せる”スタイルは、想田蜜葉の特徴なのだろう。
「じゃあ、それって……」
「………バレちゃ仕方ないかー」
奇抜は……いや、想田蜜葉は呟く。
「正解正解だいせいかーい! 私の名前は想田蜜葉! 5人組のアイドルユニット『BLOSSOM』所属の人気アイドルで、可愛い担当やってます!」
まるできらりん⭐︎と、効果音が付きそうなほどにキャピキャピとした自己紹介をしながら、蜜葉は片手でチョキの形を作り、私達に向かって片目でウインクをする。
人気アイドルという肩書きに負けず、彼女のそれは様になっていて、美咲一筋の私でも可愛いと感じさせられる魅力が、彼女にはあった。
「通りで、私では敵わなかったわけだ。まさか、日本のトップアイドルを相手にしていたとはね」
「ふふん♪ そうでしょ? 私ってば最高に可愛いからね! で、これで私がパパラッチなんかじゃないってわかってくれたかな?」
「非礼を詫びよう。君のような愛らしいアイドルに、あらぬ疑いをかけてしまったことを」
「いいのいいの! 私も変に突っかかっちゃったところあるし。それに、貴女の歌声も安定していて素敵だったよ! 私がデビューする前だったら、一緒に歌手でもやろうって誘ってたくらいにはね!」
突然来訪して場を乱しに来た奇抜と才女。気持ちよく歌うだけ歌って和解するという、関係のないこちらからすれば傍迷惑な展開を持ち込んでくれたわけだが……。
「まあ、丸く収まったし結果オーライ、なのかしらね…」
2人の変人を相手取ることによって、多少なりとも私と3人目の彼女に(変人達に巻き込まれる被害者という意味での)仲間意識が生まれた気もするし、ある意味彼女達には感謝するべきなのかもしれない。
いや、この理屈は少々無理矢理だろうか? まあ、でも実際、私は少し3人目の彼女に仲間意識を持ちつつあるし、相手がどう思っているか次第だが、あながち間違いでもないのかなとも思っている。
「なるほど! 確かに言われて見れば、彼女は想田蜜葉だね。しかし………やっぱりテレビで見ている彼女とは少し様相が違うように感じるね!」
「それは、カメラ映りとかで変わりますからね。といっても、今の彼女の場合、化粧の仕方を普段と少し変えているから、というのもあるんだと思います。もちろん、可愛さは健在ですが」
「およ? よく見抜いたね〜。そうだよ。そりゃ、私だって有名人だし? 街中で歩く時、声かけられる可能性がないわけじゃあないからね!」
想田蜜葉。
美咲とのカップリングが全然されていなかったので、あまり記憶には残っていなかったが、それでも美咲と同じグループなのだ。調べたことくらいはある。
調べた当初の印象だと、彼女は5人の中でも妹系と言われる部類の可愛い属性で、マスコット的な可愛さを備えていたメンバーだったはずだ。だから、その時は、あまり彼女に対して、アイドルの先輩、というイメージを抱くことはなかった。
が……。
目の前の彼女には、オーラがある。化粧の仕方を変えるなどの工夫をするなど、有名人としての自覚があることも見せつけられた。
やっぱり彼女も、一流のアイドルなんだと、そう感じさせてくれる。
だからこそ、思うのだ。なぜ、彼女が……。
「どうして、この白崎プロダクションに? 貴女ほどのアイドルが、わざわざ赴くような場所ではないと思うのだけれど」
「おい! 琴音! それは失礼じゃないかな!? 私にだけでなく、私の父にも!」
「安心したまえ白崎女史。私はこの白崎プロダクションは良い事務所だと思っているし、だからこそこの事務所でアイドルをさせてもらいたいと思ったのだからな」
「まあ、でも実際、彼女ほどのアイドルがわざわざここに来る理由は分かりませんしね。バラエティ番組の企画、というわけでもなさそうですし」
そう、それなのだ。
彼女がこの白崎プロダクションにやってきた理由が分からない。人気トップのアイドルで、暇というわけではないだろうに。それでもわざわざ、プライベートな時間を使ってまでここに来ている。その理由が。
「あちゃー。やっぱそれ、聞かれちゃうよね〜。どうしよっかなー」
蜜葉は困ったなーと言いながら頭をポリポリとかく仕草をしている。
何故か私の方をチラチラと見やりながら、言うべきか、言わないべきか、どうしようかーとウンウンと唸っている。
……もしかして、私に関連していることなのだろうか?
さっきから、私とばかり視線が合う。
そして、私と蜜葉の共通点といえば…。
「……もしかして、美咲が関係しているの?」
「ほひょ!?」
おおう。なんとも素っ頓狂な声を出すものだ。
まあ、この反応は図星、という風に捉えて良いだろう。
つまり、想田蜜葉は、美咲と関係のある私に、何かしらの用事があってきた、ということだ。
「なるほど、目的は琴音か。言っておくが、引き抜きならお断りだ! 琴音には私が最初に目を付けた。それに、言っちゃなんだが彼女にはアイドルの才能はないからね」
「白崎女史、失礼だが、本人がいる目の前でそのような発言は…」
「いいのよ別に。事実だから。それよりも、今は想田さんに話を聞きたいから」
蜜葉は観念したのか、“はぁーまあ仕方ないか”、なんてため息を吐きながらも、どうしてこの事務所にやって来たのか、その目的を話し出す。
「別になんてことはないんだよ。ただね、美咲がどーしても、どーしても! 幼馴染の様子が気になるって言ってね。かといって、美咲自身は幼馴染と顔を合わせる勇気はないんだって言うのさ。なんでも、拒絶されたからだ、とか」
「うっ………」
先に美咲を拒絶したのは、私だ。だから、美咲の方も私に接触しづらいのだろうとは思っていた。が、私は浅はかな人間だ。拒絶したくせに、心のどこかで私は、美咲なら私とまた何事もなかったかのように仲良く接してくれるのだろうと思っていた。
……ちゃんと美咲も傷付いていたみたいだ。今すぐに謝りに行きたい。けどそれはそれとして拒絶しておいた手前、会いに行くのは気まずい。
昔の私を打ちに行きたい気分だ。本当に、何をしているんだ私は。
「ちょ、ちょっと待ってください。幼馴染って、まさか……」
「ああ、君には言ってなかったっけ? そう、琴音は今人気のトップアイドル、夢場美咲の幼馴染なんだ! 番組でよく夢場美咲が口にしている幼馴染も、琴音のことを指しているよ」
「驚いた。前々から、美人で、それなりに頭も良くて、魅力的な子だとは思っていたが、夢場美咲の幼馴染とは……だが、同時に納得でもあるな」
「……そんな風に思ってたの? 貴女」
「ああ。勉学において、私が優れているのは事実であり、揺るぎようのない決定事項だが、それはそれとして、他の子達が努力していることも理解しているからね。成績が良くて美人な琴音嬢のことは、前々から興味があった。白崎プロダクションに連絡を入れたのも、琴音嬢がここでアイドル活動を行おうとしているとの話を華梨奈から聞いたことがきっかけだからね」
そういや華梨奈って陽キャだった。才女とも仲良さげに話してたし、本当にネットワーク広いんだよね、華梨奈って。ちょっと妬けちゃうな。
「そう? 私って外見で感じる印象に、中身が伴っていないから、きっとがっかりさせると思うけど」
「中身が伴っていないなら、きっと私は君に興味を示さなかっただろうさ。琴音嬢は自覚していないだろうけど、君はとても魅力的なんだよ」
「なるほどね。落ちる子がいるわけだわ」
顔がいい才女の口説き文句は、聞く人が聞けば一瞬でメロメロになってしまうだろう。それくらいには破壊力があった。まあ、美咲と出会った私にとっては、美咲ほど魅力的な子はいないと思っているから、間違っても魅了されなんてしないけど。
私はそんなにちょろい女ではないのだ。
……でも私、才歌や華梨奈のことも大好きなんだよね。華梨奈はまだしも、才歌に関してはいじめて来てた相手だし、再会してまだそんなに言葉も交わしていないのに、何故か私の中で好感度が高い。
やっぱり私はちょろい女なのかもしれない。
「なるほどね〜。琴音ちゃんのキャラが掴めて来たよ〜。ま、さっき話した通り、本当に私は大層な理由でここに来たわけじゃなくて、ただ美咲が幼馴染の様子が気になるから見て来て〜って頼んできたってだけだから、そこまで気にしなくてもいいよ」
本当にそれだけ?
そんな理由だけで、トップアイドルの想田蜜葉がわざわざ白崎プロダクションにやってくるのだろうか。
……まあ、いいか。
そこまで深く考えなくても、彼女がこちらに対して、何か良からぬことを企んでいるということはないだろうし。
“みされい”の件で私がカップリングに猛烈に嫌悪感を示しているのを見ると、私が美咲以外のメンバーを嫌っているような印象を受ける人もいるかもしれないが、私は別に『BLOSSOM』のメンバーが嫌いなわけではないのだ。
だって、美咲と一緒に活動している子達なのだから、悪い子達なわけがないだろう。
そこは理解している。ただ、カップリングされていると嫉妬してしまうというだけであって。
だからまあ、多少不可解な点があっても、飲み込むことにした。
少なくとも、彼女が私や美咲に対して、害のあるような行動をしてくることはないだろうから。
「まあ、なんとなく様子は見れたし、今日のところは帰らせていただこうかなって思ってる」
「その前に、ちょっといいかしら?」
「ん? どったの?」
「サインだけ、もらいたいのだけど……」
今更思い出したのだが、才歌はアイドル好きで、色々なアイドルをリサーチしている。それは『BLOSSOM』も例外じゃなく、才歌は美咲以外の『BLOSSOM』のメンバーは箱推ししているのだ。
何故美咲を推していないのかは、詳しくは知らないが、まあ、越えるべき壁だと思っているとか、そんなところだろう。
とにかく、アイドル好きな才歌のために、彼女からサインをもらい、それを才歌に渡せば、私と才歌はより仲良くなれるかもしれない。
先程も述べた通り、私は既に才歌のことが大好きなのだ。できるだけ仲良くなりたいし、名前で呼び合う関係になりたいと思っている。
なので、これはチャンスだ。
「ふーん? もしかして琴音ちゃんって、私のファン?」
ファン、ファンかー。
別にそういうわけではないと思うが、そうだな。
実際、『BLOSSOM』のメンバーの中で考えれば、美咲とカップリングされていないから、変に嫉妬してしまうこともないし。
カップリングさえなければ、私は『BLOSSOM』のメンバーを好きだと言えるだろうしね。だって、美咲と一緒にアイドル活動をしている子達なんだから。悪い子なはずないし。
その中でとりわけ想田蜜葉のことを考えてみると、まあ、『BLOSSOM』のメンバーの中では、比較的好きな部類かもしれない。
「そうですね、美咲が1番なのは揺るぎませんが、『BLOSSOM』のメンバーでは、美咲を除けば、貴女が1番好きかもしれません」
「おおおお!! ありがとう琴音ちゃん! 私は私のことが好きな子が大好きだ! いくらでもファンサしちゃうよ! 一枚と言わず! 二枚でも三枚でも、いくらでもサインしてあげるからねー!」
凄く勢いが……押しが強いが。
まあ、貰えるのなら貰っておいて損はないだろう。
それに、こんなに友好的に、明るく接してくれると、まあ、その、悪い気はしないし。
蜜葉は5枚ほどのサイン色紙にサインをし、身支度をして、今度こそ帰る素振りを見せる。
彼女が帰れば、本題の3人目の彼女がこの事務所でアイドル活動を行うのかどうか、決めることになるだろう。
「あとね」
蜜葉はそう言って、3人目の彼女の方に近づき、何かボソボソと話をする。
何を言っているのかは聞こえない。だが、何か励ますような、そういった類の言葉であることは、なんとなくだけど、分かった。
「そんじゃ、今度こそ、さよーならーめん!」
最後まで明るく快活にしながら、想田蜜葉は白崎プロダクションから去っていった。
「……完敗だ。私もまだまだ、ということだな。白崎女史アイドルの件だが」
「言っておくが! 勝手にこの事務所のアイドルを名乗るのはやめてくれよ! 私は君を認めるつもりは!」
「いや、分かっている。私はしばらく自分を磨く。だから、私がこの事務所に連絡した件は、一旦忘れてくれ。まだ、私には足りないと、そう感じたからな。では、今後ともよろしく頼むよ」
才女は才女で、一方的に白崎蕾に告げて帰っていく。
最後まで彼女は自由人だったな。
それに、いつの間にかアイドルバトルも有耶無耶にして。
まあ、あのノリをずっと続けられても困るから良かったのだが。
っと、それと、最後に…。
「さて、それじゃあ、話をしましょうか。今後の、アイドル活動について」
ようやく、本題に入れる。
3人目の子に焦点が当たらない……才女と蜜葉が全部持っていっちゃう…。