現実だけ見ていたい   作:布団から出られない

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修正 真田→真村に


1人目 真村琴音

 

翌日。いつも通りに起床して、学校にでも行こうと玄関の扉を開けたところ。

 

「やあ!」

 

そいつはいた。

昨日の変態露出狂ストーカーだ。

やっぱり私の住所、知られてた。普通なら恐怖するところだろう。昨日は嫌悪感すら感じていた。だというのに。

 

私は何かを、彼女に期待してしまっているのだろうか。

まだ、美咲の隣に立ちたいという私の無謀な欲望を、叶えてくれるのかもしれないと、そんな希望を抱いてしまっているというのだというのか。

 

勝算はあると言っていた。確かに、彼女の提示した“昔の私”ならば、アイドルという偶像をやりこなすこともできたのかもしれない。“昔の私”は、そういう存在だったのだ。

 

でも、それは嫌なんだ。“昔の私”には戻りたくはない。せっかく美咲が、“今の私”に変えてくれたんだから。

“昔の私”として美咲の隣に並び立つのは、私と美咲の関係を否定してしまうような気がしてならない。

 

だから、聞かなくていいのだ。私が美咲に並び立つなんて、そんなことできるはずがない。仮にできるとしても、彼女の提示する方法じゃ本末転倒なのだ。私は、美咲との関係を取り戻したい。隣に立って、何も心配することなく、彼女の隣にいたいのだ。

 

……私から美咲を拒絶しておいて、よくもまあこんなことを考えられたものだ。とは、思わなくもないが。

 

「私、今から学校なので」

 

冷たくあしらう。彼女に構う必要はない。何なら今すぐ警察に突き出してやってもいいくらいなのだ。言葉を返してやっているのは、むしろ優しい対応なんじゃないだろうか。

 

「登校の邪魔をしてしまって申し訳ない。それで、いつなら空いてるかな?」

 

……?

まさか、私が受け入れるまで、彼女は何度も私の元を訪れようとでもいうのだろうか。これでは本当にストーカーではないか。私のプライベートな時間を返してくれ。

 

「えーと、110……と」

 

「待て待て待て! はやまるな! いいのか私をここで通報して! 君のアイドル人生の未来を閉ざすことになるぞ!! そもそも今日は露出してないじゃないか!! ほら! 脱いでないならOKじゃないのか!」

 

いや、別に脱がなかったらセーフなんて一言も言ってないんだけど。住所特定して突撃してきてる時点で十分やばいということにお気づきで?

それに。

 

「別に白崎プロダクションだかプロモーションだかに所属しようがしまいが、私のアイドル生命が絶たれることはない気がするんだけれど」

 

「いやいや。アイドルとして活動することはできても、夢場美咲に並び立てることは絶対にない。断言できる。だってそうだろう? 君には、アイドルとしての才能が致命的に足りてないんだから」

 

……痛いところをついてくる。確かに、私にはアイドルとしての才能はないんだろう。華梨奈にも言われたし、私自身もそれを実感している。加えて、私にはアイドルそのものに対する情熱というものがない。

アイドルを目指しておきながら、私はアイドルというものに微塵も興味がない。ある程度有名アイドルのリサーチこそしているものの、関心そのものはないのだ。

 

私の中にあるのは、美咲の隣に立ちたいという、ただそれだけの浅はかな考えなのだから。

 

そんな奴が人気アイドルになれるだろうか? なれるはずがない。私なんかがなれたとすれば、この世界のアイドルを目指す少女達が、アイドルを目指すことを馬鹿馬鹿しく感じてしまうだろう。

 

でも、それなら私がどの事務所に所属しようが同じことだ。なんせトップアイドルを目指せるだけの才能も、熱意も、何もかもが足りないのだから。

 

「私のことは私が1番理解している。貴方にどうこう言われる筋合いはない」

 

「アイドルの才能がないことは否定できない。そうだろう? それに、このまま現状維持に努めたところで、何も変わらないということは君も理解しているはずだ」

 

ああ、そんなことは理解している。

でも知っているんだ。貴方が求めているのは、“昔の私”だろう。

 

アイドルとして活動させても、無理なくこなすことができる、優秀な私を求めているんだろう。

でも、それだけは無理だ。私は、“昔の私”として夢場美咲の隣に立ちたいわけじゃないのだ。

 

たとえ、もう2度と美咲の隣に立つことができないのだとしても、“今の私”だけは、否定したくない。捨てたくはない。

 

「貴方の期待には応えられない。私は、過去の自分に戻るつもりはない。だから、トップアイドルをプロデュースしたいのなら、他を当たって。私は、今のアイドルの才能がない私を大切にしたいから」

 

私を利用しようと考えていたのだろう。それは大いに結構。私だってタダで利用されるつもりはないし。けれど、それが私と美咲の仲、あるいは私と美咲の絆の証を引き裂くともなれば話は別だ。

私にだって、譲れないものはある。

 

「そうか……。だけど言っただろう? 私には、勝算があると」

 

「……だから、“昔の私”に期待は……」

 

「分かってるよ。だから、“今の君”でも夢場美咲に並び立てる方法くらい、ちゃんと考えてあるさ」

 

………“昔の私”を利用する以外に、何か方法があると?

ありえない。私にはアイドルの才能がないのだ。努力しようとも、他のアイドルに対して純粋な熱意を向けて、日々努力しているような子達に敵うはずがない。

 

才能も、努力も、きっと何もかも足りないのだ。私には。

 

「本当は“昔の私”を利用したいだけなんじゃないの? “今の私”のどこに、価値なんて感じて」

 

「容姿と夢場美咲の幼馴染という点。才能なんて全くみてないさ。そもそも君を探し当てたのだって、夢場美咲の幼馴染が欲しかったからなんだから」

 

それのどこが勝算につながるというのか。

そもそも、そんな肩書きを持っていたところで、結局才能がなければ意味がないんじゃないのか。

 

私には、今のまま夢場美咲と並び立つ方法なんてきっとないんじゃないだろうか。

 

だって、もし夢場美咲と並び立てるのなら、こんな中途半端な人間にならずに済んだはずなのに。

 

「才能がない。それはその通り! 君はアイドルの才能なんて全く持ち合わせていない。だが、それがどうした? 君の容姿は整っている! アイドルとして見てくれは重要だ。アイドルとしての才能が足りないのならば、他のメンバーに任せればいい! 才能がない分野を、無理に自分が引き受ける必要なんてないのだ!」

 

それじゃあ尚更どうして私を勧誘しているのか。

容姿が整っているという子なんて探せばいくらでもいる。他のアイドルで代替可能ではないのか。

 

私に唯一あるものといえば、夢場美咲の幼馴染という肩書だけだ。

まさか、それを利用しようとでも言うのだろうか。

 

「悪いけど、夢場美咲の幼馴染という肩書きを使わせるつもりはないわ。美咲を利用してトップアイドルを目指そうなんて、そんな、美咲を踏み台にするような真似、できない」

 

「ああ、ならその意思を尊重しよう! 夢場美咲の幼馴染という肩書きを売り込んで、君をトップアイドルにすることはやめておく」

 

なら、尚更何故私を選ぶのかという疑問が湧いてくる。

夢場美咲の幼馴染という肩書きがなければ、私には何も残らないのに。

 

「何を企んでるの?」

 

「怪しむのも無理はない。けど、君に才能なんて求めない。世間への広告塔としての役割も求めていない。私は、君の中にある、夢場美咲への強い想いに注目しているんだ」

 

「美咲への……想い?」

 

「そうさ。夢場美咲の幼馴染であるという君は、他の誰よりも、トップアイドルの夢場美咲を知っている。そして、調べていて分かったんだ。君は、相当夢場美咲にご執心だということに。私が1番重視しているのは、想いだよ。トップアイドル夢場美咲を越えようと努力する子はいる。けど大抵は高い壁に途中で挫折して、2度と立ち直れない」

 

「私だって途中で挫折した。私には才能がないからって、それで私は美咲の隣に立つことを諦めている。アイドルを目指して挫折していた子と、何も違わないはずよ」

 

「そうか。なら、何故いまだに地下アイドルなんて続けているんだい?」

 

「それ……は……」

 

「諦めきれないからじゃないのか? 本当は、心のどこかで、夢場美咲に並び立ちたいと思っているからじゃないのか? 君はね、自分が思っているよりも、夢場美咲に夢中なんだ。君は夢場美咲の隣を諦められない。挫折しようとも、絶対に途中で投げ出すことはできない。そう、だから私は、君を勧誘しているんだ」

 

そうか。

夢場美咲の幼馴染、その肩書きそのものではなく。

夢場美咲の幼馴染という立場だからこそ生じる、私の想いに注目していたのか、彼女は。

 

“今の私”を捨てる事はない。まして、夢場美咲の幼馴染という肩書きを利用されることもない。

 

華梨奈と地下アイドルを一緒にやっていたって、きっと夢場美咲には届かない。

けど、彼女となら……?

 

狂人だと思っていたが、私へのプロファイリングは的確であると認めざるを得ない。

彼女の見立てならば、もしかしたら、私は…………。

 

 

………そうか。

 

「あなたの言う通りだわ。私はやっぱり、夢場美咲の隣に立つことを、諦めきれないみたい」

 

「そうか! それじゃやっぱり私の勧誘に乗ってくれるということで……」

 

「その前に、やる事があるわ」

 

私はスマホを取り出す。夢場美咲の隣に並び立つ。そのことを目標にするのなら、やはり行動ははやいほうが良いだろう。

 

「さて、110、と」

 

「この話の流れで!? 明らかに勧誘に乗る流れだったじゃないか! いい感じに説得できてたじゃないか! なんでここで110!? 私今日は脱いでないのに!!」

 

「いい? 夢場美咲は変質者がいたらちゃんと通報するの。間違っても、変質者と一緒にアイドル目指そうなんてそんな神経してないの」

 

「夢場美咲がやるから自分もそうすると!? いくらなんでも夢場美咲好きすぎじゃないか? 私はアイドルストーカーで変態とは呼ばれているが、君も大概じゃないか!?」

 

失礼な。そもそも、私がスマホを取り出したのは、彼女を警察に突き出すためではない。今のはほんの冗談なのだから。

……でも大丈夫かなこの人、私へのプロファイリング的確だと思ってたけど、私の冗談を見抜けていない。やっぱりたまたま私の心情を言い当てただけの狂人だったのでは?

ま、いいか。

このまま立ち止まっているよりかは、幾分かマシだろう。

 

「さて、警察に連絡……は冗談として、学校に欠席の連絡は入れ終わったわ」

 

「……へ?」

 

「夢場美咲を越えるんでしょ? だったら、時間は1分1秒でも欲しいじゃない?」

 

「ということはつまり?」

 

「これからよろしくね、変態露出ストーカーさん」

 

「白崎蕾と言ってくれぇ…………」

 

こうして、私のアイドル活動は音を立てて始まることになる。

私は夢場美咲に並び立つために。

彼女は、夢場美咲をトップアイドルから引き摺り下ろすために。

 

似ているようで、全く違う。

 

そんな目標を掲げている私達だったが。

 

不思議と、前ほど美咲の隣に立てないなんて予感は、あまりしなかった。

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