現実だけ見ていたい   作:布団から出られない

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2人目

私は学校にサボりの連絡を入れた後、白崎プロダクションの事務所にて、白崎蕾と向き合う形で、机を挟む形で椅子に腰掛けていた。

 

事務所の雰囲気は、特段おかしな点はない。ぱっと見は普通だ。豪奢でもなければ、極端に老朽化が進んでいるというわけでもない。

 

「本当に良かったのかい? 学校、サボっちゃうなんて」

 

私は変態露出狂改め白崎蕾と共に、美咲の隣を追いかけてみることにした。今までは地下アイドルとして、とりあえず夢場美咲の後を追っている体で頑張り続けている“フリ”をしているだけだったのだが、本気で美咲の隣を目指すのなら、中途半端な努力では難しいものがあるだろう。

 

だから私は、学校の時間も削ることにした。大丈夫だ。元々成績は優秀だったし、多少休んだところで卒業に支障はない。

 

それに、私の学校にはアイドルへの支援制度が設けられている。

地下アイドルとしてではあるが、私もその支援制度を受けているため、多少の欠席は問題にはならないのだ。

地下アイドル活動中、身体接触が制限されていたのも、学校公認のアイドル事務所に所属していたから、というのもある。

 

まあ、これからその事務所を抜け出すんだから、ちょっと先生とは話をしなきゃ行けないけれど。

 

華梨奈にも迷惑かけるなぁ。

まあ、華梨奈なら大丈夫だろう。私よりもメンタル強いし。

 

さて、それよりも……。

 

「学校は置いておくとして、これからの計画について、具体的に聞いていきたいと思って」

 

「君が良いならいいけど。そうだね! まずは! ズバリ! メンバー探しだ! はっきり言って、君にはアイドルの才能がない!!! 容姿がいいだけだ。そんな君の弱点をカバーしてくれる、そんなメンバーがいれば、打倒夢場美咲に近付くとは思わないか?」

 

「打倒じゃなくて、私は並びたいだけだけど」

 

それに、アイドルの才能がないなんてのは散々言われたんだ。そんな強調してくれるな。

 

「それで、私の弱点をカバーするってことは、アイドルの才能がある子をメンバーに加えたいってことでしょう? そんな子いるの?」

 

アイドルの才能がある子を探すなんて、そんなことできるのだろうか?

アイドルの才能がない、なら分かる。致命的にこいつは足りないな、とか、自分でもアイドルに向いていないな、とか、そう感じれる場面はあったりするから。

でも、アイドルの才能がある、なんて、そんなの見分けられるのだろうか。

 

単純に経験不足なだけだったり、業界を知らない、つまり知識がないゆえにアイドルとしての技量が劣ってしまったりするような子を、アイドルの才能がないと断じてしまわないか、なんて不安が頭によぎる。

 

「大丈夫だよ。当てはある」

 

………だが、彼女のその一言を聞いた瞬間。私の心中にあった不安は、一瞬で消し飛んだ。

考えてみればそうなのだ。私の美咲への想いを見抜いたのは誰だ?

私の“過去”まで探り当てたのは誰だ?

 

全部目の前の変態露出狂ストーカーである。

 

彼女のプロファイリング力には、目を見張るものがあるのだ。

私に才能がないことを見抜いたように、他者に才能があることを見抜くことをできたって、なんらおかしくはないのかもしれない。

 

「それで、その人物についてなんだけどね……」

 

「たのもー! 姉者はおるかぁ!! かわゆいかわゆい妹様が参上いたしたぞぉ!」

 

私達の会議に、突如としてやかましい声と共に1人の少女が入ってくる。

雪のように白い肌と髪は、どこか白崎蕾を彷彿とさせるような見た目をしている。

 

姉者、と言っていたし、白崎蕾の妹、なのだろうか?

 

もしかして、当てとは彼女のことだったり?

容姿は、儚くて美しさを感じさせるようなものだし、身長も低く、全体的にちんまい印象だが、妹系アイドルとしてなら十分輝く余地はある。

 

「今は姉じゃない。それに、今日は学校に行く日だろうに!」

 

「学校の1日や2日くらい、サボってもなんともないとも! なんたって私は世界のアイドル! 世界に愛されている私は、当然学校にも愛されているし! 将来の約束だってされている! つまり、私は私のいきたいように生きるんだ!」

 

ああ、なるほど。これは姉妹だな。姉同様にうるさくてやかましい。この子も露出したりするのだろうか。

 

やだなぁ……姉妹揃って露出狂とか。

 

ん? というか。

 

「今は姉じゃない?」

 

「ああ。両親が離婚してね。父が私を引き取って、母が妹を引き取ったんだ。だから今は名字も違うし、姉妹ではない」

 

ふーむ。それでも姉妹ではあるんじゃないだろうか。

わざわざ姉妹であることを否定する必要があるのだろうか。まあ、詳しい事情は知らないから、なんとも言えないけど。

 

「あれ? そこのお姉さんはどなた?」

 

「ああ。真村琴音です。そこのろしゅつきょ………貴方のお姉さんと一緒にトップアイドルを目指している、初心者アイドル、といったところ」

 

私如きがトップアイドルなどと、自分で言っていて笑ってしまいそうになる程無謀で現実が見えていない発言だが、他に自己紹介の仕方も思いつかないので特に訂正することなく終える。

 

「トップアイドル! いいね! 夢はでっかく! なんて。夢場美咲の胸もでっかく! とか言うしね! ん? ということは姉者!」

 

「何? 言っておくけど! 君と組ませる気はないからね! この子は私が見つけてきたんだ! 私には入念なプランがあるし、それを崩されるわけにはいかないんだ! そのために私はこの子に私の全てを曝け出したのだから!」

 

姉が公然わいせつで妹がセクハラか。

 

うん。やっぱり姉妹だこいつら。

 

「いいじゃんいいじゃん! 私と組ませてよー! ねーえー! 絶対映えるよ? 私琴音さんのことお姉様って呼びたい!」

 

お姉様とか柄じゃないんだが。むしろ中学校時代の私は美咲に守られている側だったぞ。私は美咲の幼馴染ヒロイン兼妹系ヒロインだったのだ。なーんて。

 

「駄目なもんは駄目だ! 私のプランでは2人目は決まってるんだ! 君の介入の余地はない!」

 

「なにおう! ずるいぞずるいぞ! 私にだってメンバーを選ぶ権利はあるもん!」

 

「あーもうわかった! 考えておく! けど一つだけ言わせてもらう! この子がダメって言ったらダメだから! 最終的な判断は、真村琴音に委ねるからね!」

 

「わかった! 姉者がそう言うなら。ねえお姉様、私を選んでくれるよね?」

 

私に決めろと?

無理難題を押し付けないでくれ。私はかぐや姫じゃないんだ。いや、かぐや姫は無理難題を押し付けた側だけれども。というかさらっとお姉様呼びしないで?

 

飽きるほど言っているが、私にはアイドルの才能がない。当然、そんな私に、アイドルの才能がある子をメンバーとして加える才はない。

 

だからこそ、自慢の観察眼を持っている白崎蕾にメンバー選びを行って欲しかったのだが。

 

「………ああ。そういうことか。安心するといい。我が妹は、才能ある側の人間だ。メンバーとして加えても、君の才能なしをカバーしてくれることは間違い無いだろう。まあ、私は不本意だが!」

 

「そうなんだとしても、貴方が言ってた“当て”とやらは、話の流れ的にこの子じゃないんじゃないの? そっちの子のことを知らない以上、決めようがないのだけど」

 

白崎蕾の反応的に、妹君は本来2人目のメンバーとして想定していなかったのだろう。

だとすれば、先程白崎蕾が言っていた“当て”は妹君とは別の人物を指すことになる。

 

そして、話の流れ的に、私はその“当て”の人物と妹君、どちらが2人目に相応しいか、決めなければならない、という事なのだろう。

 

「確かにそれもそうだ。よし! 今から会いに行こう!」

 

「いや、今から会いにって。今日は平日。学校に通っているんじゃないの?」

 

「はっ! そうだった…!」

 

「バカなの?」

 

「もう私でいいじゃん〜」

 

さて、困った。件の2人目様が拝めないのでは、妹君とどちらにするか決めかねる。

かといって、もたもたしていては時間はどんどん奪われていく。アイドルとして活躍できる時間は短い。アイドル活動を行うならはやいに越したことはないが、それが夢場美咲の隣に並び立つとなれば尚更のことである。

 

というかもはや妹君で良いのでは?

 

「おい! まさかもうこの子でいいんじゃないかなとか思ったんじゃないだろうな! ちゃんと! ちゃんと選んでもらうからね! これは大事なメンバー決めなんだ! 生半可な気持ちで決めちゃいけない。これから活動する仲間なんだからね!」

 

「私は大歓迎だよお姉様! 一緒に私とアイドルやろう! きっと楽しいよ!」

 

まあ、件の2人目様は変態ではあるがプロファイリングにおいてはピカイチの白崎蕾が決めた人物なのだ。

本来なら問答無用で2人目決定、と行きたいくらいではあるのだ。私は白崎蕾の観察眼だけは信用しているから。

 

「わかったわ。それじゃあ事前にアポを取って、今日行けそうか聞いてみるというのはどう? 無理そうなら明日以降で訪ねてもいい日を聞いて見ればいいし」

 

「おう! それがいい! そうして彼女を見て、気に入るといい! そしてぜひ、2人目には私が選んだ彼女を!!」

 

「えー! ダメだよー! 私が先にお姉様と会ったんだからね! これで私が負けたらWSSだよ! 私が先に好きだったのにーって」

 

なぜ既に私のことを好いているのか。

私は君と一言しか言葉を交わしていないぞ。

 

「………というか、2人ともメンバーに、というのは駄目なの? 美咲も5人グループだし、2人ともメンバーとして一緒に、というのも悪くないと思うけれど」

 

「駄目だよ! メンバーはもっと厳格に決めなくちゃ行けないんだ! 2人を比較して、君がこっちが良いと、そう思った方を選んでくれ! そして、間違ってもあまりモノは入れてくれるな。あいにく敗者の椅子は用意していないんでね!」

 

「姉者はケチだなぁ」

 

それ、妹と組ませたくないだけだったりしない?

まあ、いいか。仮にも私はこれからこの白崎プロダクションでやっていくのだ。彼女の言うことには素直に従っておくべきだろう。少なくとも、2人目の決定権は私にあるのだから。

 

というか。

 

「私を軸にメンバー決めをしているのね」

 

「そりゃね。私は君の想いに惹かれた、と言っただろう? リーダーは君にするつもりはないが、それでも君がチームの精神的支柱になってもらおうかなって、そう考えてはいるよ」

 

なるほど、私は夢場美咲を追い続ける。途中で折れたりはしない。だからこそ、他メンバーが折れようとも、変わらず美咲を追い続ける私がいることで、他メンバーが挫折した時の立ち直りを促進しよう、というわけだな。

 

そう考えると、むしろ私に才能がないことは僥倖だったのかもしれない。

才能がない奴が頑張ってるんだから自分も頑張ろうなんて、そういう風に考えることだってできるのだから。

 

「ま、ともかく、私と姉者が用意した2人目で、どちらがお姉様に相応しいか、勝負ということだね! 言っておくけど、負けるつもりはないから! お姉様、一緒にアイドルとして活動できる日、楽しみにしてますね! それじゃ」

 

そう言って、妹君は事務所から去っていく。結局何しに来たんだろうあの子。名前も聞きそびれちゃったし。

 

「まあ、間違っても私が選んだものが負けることはないだろうね。きっと君にも刺さるはずさ、彼女は」

 

そうなのか。

なら楽しみにしておこうかな。

 

その2人目とやらを。

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