結局、昨日は件の2人目さんの都合が合わなかったらしく、顔合わせはまた後日、ということになった。といっても、明日は土曜日。休みに入るので、暇があるから顔合わせが可能、とのことらしい。つまり、今日一日やり過ごせば、白崎蕾が選んだ2人目の顔が拝めるというわけだ。
私も内心、楽しみにしているところはある。
アイドルにこそ興味はないが、これから一緒に活動するかもしれない人なのだ。それは気になるものだろう。
どんな人なんだろうか。きっと容姿も優れているんだろうな。そういう人を選ぶだろうし。
楽しみだなぁ……。
「おお、琴音さん、顔がニヤけているね。珍しい」
と、そんな風にまだ見ぬ2人目に妄想を膨らませていたら、同じクラスメイトの女子に話しかけられた。
急いで思考を現実へと戻す。危ない危ない。私はぶっちゃけて言うと陰の者側なので、時折思考が妄想の世界にトリップしてしまうことがある。
見てくれはいいのに、こういうところがあると知られれば、残念美人と称されるのだろうな。まあ、そう思ってくれてた方が、私としてはありがたいのだけれど。だって……。
「琴音さんって結構クール? というか、ストイック? というか、とにかくそんな印象だったから、そんな風に微笑んだりするんだなぁって」
「私をなんだと思ってるの…?」
そう、何故か私は学校ではクール系美人と化しているのである。意味が分からない。私はそんなにクールに振る舞っていただろうか? いや多分妄想の世界に行っていただけだろう。ただボーッとしていただけだ。そしたらいつの間にかクールキャラが定着していた。解せぬ。
しかもクラスメイトからはさん付けである。これはあんまり仲良くないからというのもあるのだろうが、単純に私は近寄りがたい美人さんだと思われているのだ。中身は伴っていないのに。
そう、これだから過度な期待は嫌なのだ。私の柄じゃないのに、勝手に周囲は要らぬ期待を私に寄せてくる。
私に対して偶像を重ねてくるのだ。
私にアイドルの才能がないのも、こういうところだろう。私は、私じゃない私を見られるのがあまり好きではない。
本当の私を見てほしいと思うし、過度な期待を私に向けないでほしいとも思う。
もっと普通に接していたいのだ。
華梨奈とかはその点私のことを理解してくれているので助かる。でもクラス違うの。悲しい。
まあ、でもある意味白崎蕾もその部類に入るのかもしれない。私の内面を読み取って………いや、やっぱないな。あの変態を私の理解者とするのは過度な期待を寄せられるよりも抵抗を感じてしまう。
「まあさ、ボクもアイドルを目指す身として思うんだけど、琴音さんって自分では気づいてないのかもしれないけど、凄いんだからね? 勉学とアイドル活動の両立なんて、普通できるもんじゃないよ」
「両立といっても、私はただの地下アイドルで、夢場美咲みたいに大活躍をしているわけじゃないし、当然その分勉学に力が入るというものでしょう」
「いや、そこで夢場美咲が出てくる時点で、って話だよ。普通の人は夢場美咲を本気で目標に掲げたりしないんだからね? それを目指そうって気概がある時点で、琴音さんって本当に凄いんだから」
別に私は高い目標を設定してそれに対してストイックにこなす、という人間ではないのだけれど、彼女には私はそういう人間として見えているらしい。
いや、夢場美咲を目標に掲げているのは、私が美咲の幼馴染で、彼女の隣にいたいと思うからであって、もし私が美咲の幼馴染でもなんでもなければ、こんな高い目標を掲げることはなかったはずなのだ。
だから、彼女は勘違いをしている。私は別に、そういう人間じゃない。たまたま夢場美咲というトップアイドルが幼馴染だったというだけの、平凡な女の子なのだから。
「でも、それで言うなら、私より凄い人だっているでしょ。例えば、いつも学年1位の……」
「あー………。そりゃあの人はちょっと次元が違うと言うか。だってあの人、今はまだ花開いてないけど、きっとアイドル業界で無視できない存在になるだろうなぁってくらいオーラがあるし、なんなら夢場美咲レベルも夢じゃないって気がするし……」
「それはない。夢場美咲の方が上だと思うわ」
「あ、そ、そう……」
し、しまった! つい食い気味に答えてしまった。
だって美咲ほど可愛くて活躍できるアイドルはいないんだもの。
いや、分かってる。私の身内贔屓も多少はあるのかもしれないとは思ってる。けど、少なくとも私は、誰かが美咲を超えるという構図が想像できないのだ。想像したくないともいう。
「ご、ごめんなさい。私、夢場美咲のファンだから、つい熱くなって」
とにかく、一般的に夢場美咲はトップアイドルではあるが、私ほど夢場美咲に絶対性を感じているものが大半を占めているわけではない。中には夢場美咲を超えるアイドルがいると考えている人もいるのだろう。だから私は彼女に謝って、冷静さを取り戻す。
「いやいや。琴音さんの人間らしい面? みたいなのが知れて良かったよ。にしても、夢場美咲のファンだったなんて。琴音さんが夢場美咲に詳しいの、てっきり夢場美咲はトップアイドルだから、自分がアイドルとして活動する上で参考にするために研究してるんだって、そう思ってたよ」
いや本当に私をなんだと思っているのだ君は。そりゃ私だってアイドルのリサーチくらいするが、それでも私には才能なんてないし、他のアイドルを見てもなんとなく歌が上手いとか下手とか、漠然とそう思うだけで、実際どうなのかなんて全く分からない。
私は白崎蕾のような観察眼は持ち合わせていないのだ。
「そういう貴方はどのアイドルが好きなの?」
「ボク? ボクは冷華様が好きだなー。あの冷えるような視線、たまらないね! すっごくゾクゾクするよ! 夢場美咲とのカプも最高! 明るい美咲ちゃんと、クールな冷華様の組み合わせは本当に相性抜群っていうか……琴音さん?」
冷華……ねえ………。
あの『みされい』の冷華か。
不服にも、美咲とツーショットを撮ったあの女か……。
しかもクール系……。私とキャラ被ってるし、いや、私は厳密にはクール系ではないんだけれど、なんか負けた気がする……。
美咲も美咲だ。なんであの女とツーショットを撮るんだ! 私という幼馴染がいるのに! 私ともツーショットを撮れ! いや、今連絡取ってないから無理なんだけど。
はあ。最近学校周辺をうろちょろしてるらしい不審者が、美咲だったりしたら、すぐに会いに行けるのになぁ。まあ、その不審者さんは男性らしいから、美咲ではないだろうけど。
冷華、冷華か。
覚えておこう。『みされい』の恨みは重いぞ。
「琴音さん、急にどうしたの…? って、そっか、琴音さんは“みされい”派じゃないのか。そうだよね、人によって解釈って異なるし」
そうだよボクっ娘さん。私は“みさこと”派だからね。“みされい”も“みさはな”も認めてやるものか。私はいつかあの青いハッシュタグを全て“みさこと”で染めてやりたいと思って活動しているんだから。
「まあ、ね。私は5人グループで1人が余ってしまうようなカップリングは好きじゃないから」
「あーそういうこと。琴音さんは箱推しなんだね。なるほどなぁー。特定の誰かだけを取り上げるのは、あんまり好きじゃない感じか」
「そ、そうね、そんな感じ」
美咲以外のメンバーには微塵も興味はないが、そんなこと言ったら冷華好きの彼女に失礼だろうし、ここは箱推しということにしておこう。私自身断じて箱推ししているわけではないのだが、仕方なし。
交友とはこういうものだ。時には本音を隠すことも必要になってくるのである。
「まあ、皆魅力的だもんねー。ボクは冷華様が1番だけど、つい他の子に浮気しそうになっちゃう時あるもん。いや、1番はもちろん冷華様なんだけどね? ………さて、と、そろそろ授業が始まりそうかな。琴音さんありがとう! 楽しかったよ」
「こちらこそ、好きなアイドルの話ができて、嬉しかったわ」
彼女に手を振り、私は次の授業の準備をして、大人しく自身の机で待つ。それにしても、“みされい”か。
美咲は、色々な人とカップリングされているんだな。
少し、寂しい。私もそこに入れたら、なんて、美咲を拒絶した私が言うのは、間違っているのかも知れないけど。
はあ。
まだまだ私が美咲に並び立つのは、難しそうだ。
さて、そんなこんなで翌日。
顔合わせの時がやってきた。
昨日ボクっ娘と会話して思ったことだが、一刻も早く“みされい”の時代を終わらせる必要があると感じた。
そのために、私と共にトップアイドルの座に導いてくれる、優秀な仲間が欲しい。
もし白崎蕾が用意した2人目の才能が素晴らしいのであれば、妹君には悪いがそちらを採用させてもらおう。
私だって本気なのだ。本気で美咲の隣に並び立ちたいのだ。
そう思い、私は事務所の中に入っていく。
既に件の2人目も白崎蕾も事務所内にいるらしいので、私で最後だ。
ちなみに妹君は用事で不在らしい。
「こんにちは」
挨拶を交わしながら、2人目の方へ顔を向ける。
……ふむ。容姿はかなり整っている。どちらかというと美人系、だろうか。少しお上品? な感じだな。品格というか、なんかそういう類のものが滲み出ている気がする。お嬢様だったり?
髪色はプラチナブロンド。外国人さんかなと思うほどに目鼻立ちは整っているし、なるほど容姿だけ見てもこりゃ逸材と言わざるを得ない。よく見つけてきたなこんな娘。
でも、なんでだろう。どこかで見たような気がする。
「やあ! 紹介するよ、琴音、彼女は……」
「嘘………」
彼女の声から、一言、思わずと言った様子で漏れた一言。
私の顔を見て、怯えたように呟いた一言。
彼女は確実に、私の顔に何か思うところがあったのだろう。
私も、彼女の顔に見覚えがある。
そして、知り合いだとすれば、こんな特徴的な人間、忘れるはずもない。
ああ、そうだ。
見れば見るほど、面影がある。
知っている。私は彼女を知っている。
私の知り合いで、プラチナブロンドの髪を持った容姿の整った女といえば、それはもう1人しかいない。
金持ちで、当時誰よりも目を引いていて。それでいて、アイドルに憧れていた、可愛らしい一面も持ち合わせている少女だった。
「どうかな? 刺さってくれていると思うんだ。君に!」
変態が嬉々として、両手を広げながら興奮したように言う。
こいつ、絶対知っていて彼女に声をかけたな。夢場美咲の幼馴染たる私を探し出して、住所まで割り出したこいつのことだ。彼女のことを調べるのもなんてことなかったというわけか。
………一体どこまで知っているんだか。変態露出狂ストーカーの名は伊達じゃないって感じか。こいつだけは敵に回しちゃいけないな。肝に銘じておこう。
そう。彼女は私の知り合い。元同級生だ。
しばらく会っていなかったけど、美咲とも面識がある。
つまり、昔の知り合い。
美咲同様、今は連絡をとっていなかった存在だ。
そして、忘れるはずもない。今まで思い至らなかったのがおかしいくらいだ。
だって彼女は。
「久しぶり。相変わらず美人ね。海外の御令嬢かと思ったわ」
昔、私のことをいじめていた人なんだから。
タグ見て。百合。そういうこと。