現実だけ見ていたい   作:布団から出られない

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2人目

「久しぶり。相変わらず美人ね。海外の御令嬢かと思ったわ」

 

私をいじめていた彼女。

白崎蕾が見つけた2人目は、そんな人だった。

仮に私と彼女の過去の関係性を知っているのならば、彼女をスカウトするのはあり得ないだろう。

 

けど、あの白崎蕾のことだ。

 

私が別段彼女のことを()()()()()()()()()()()ということも、お見通しなのかもしれない。

 

何ならむしろ私は彼女に感謝こそしているのかもしれない。

だって彼女が私のことをいじめていてくれたおかげで、美咲は私のそばに居てくれたのだから。

 

どうしよう、もう一度いじめてもらおうかな? そしたら美咲はもう一度、私の元に駆けつけてくれるのかもしれない。

なーんて、冗談はさておき。

 

どうやら彼女はアイドルの才能があるらしい。白崎蕾がスカウトしたのだ。つまりそういうことだろう。

 

「……どういうつもり?」

 

「? どうかしたのかい? 君達は元同級生だろう? しばらく会っていなかったとはいえ、お互い知らない仲じゃない。グループでやっていくには、チームワークは必要となってくる。そんな時、元同級生ならば、連携もうまく取りやすいと、そう思って私は君を勧誘したんだ!」

 

まあ、彼女が私のことを好いているかどうかで言えば、答えは明白だろう。

嫌いだ。そう、はっきりと、完膚なきまでに、彼女は私のことを心底嫌っていた。

 

今がどうかは知らないが、昔いじめていた相手が目の前に現れて、良い気分なわけがないだろう。

 

「冗談じゃない……。よりにもよって…………」

 

さて、具体的ないじめの内容についてだが。

まあ、よくある様式のものが多かったかな。

 

例えば、筆箱を隠されたり、掃除の時間にわざと箒をぶつけられたり、給食をわざわざ私の目の前にまできて溢してきたり、とか。

何が酷かったかというと、彼女のクラスカーストが高かったことだろう。

クラス内で女王様みたいな扱いされてたから、誰も私を助けられなかったし、何ならいじめに加担するような奴もいた。まあ酷かった。

 

けど、美咲だけは違った。クラスが違っても、いつも私のところまでやってきてくれて、守ってくれてた。

いつだって美咲は、私のことを気にかけてくれていた。

 

勿論、昔から幼馴染ではあったのだ。美咲とはそれなりに交流があったし、仲良くもしていた。

 

でも、本格的に私が夢場美咲という女に執着するようになったのは、この頃からだった。

 

とまあ、こんな感じだ。

とどのつまり、彼女は私と美咲の友情のキューピッドといったところか。キューピッドといえば恋だろうって? 私は美咲に恋はしていない。執着はしているが。

 

だから、感謝こそすれ彼女のことを恨むなんてことはない。私が夢場美咲に夢中になったのは、ある意味彼女のおかげとも言えるだろう。いやまあ、別にそれ以前も結構美咲のことは好きだったけども。それはそれだ。

 

それに、いじめなんてもう何年も前のことだ。今更気にすることではない。ああまあ、普通はいじめを受けた子は一生のトラウマを抱えたり、2度と社会復帰できなくなったり、ってそういう子もたくさんいるから、許すという選択に憤りを感じる人も中に入るんだろうけど。

 

少なくとも、私は気にしてない。まあ、“昔の私”はそういう人間だったから。

今いじめられたら泣くかも。多分普通に恨む。“今の私”はそういう人間なのだ。

 

つまり、彼女のことは恨んでいない。”昔の私“の時の話だからね。

できれば仲良くしたいなぁとも思っている。だって彼女は、私と美咲の馴れ初めの象徴とも言える存在なのだから。

 

まあ、それだけじゃなくて、何だか彼女のことを不思議と嫌いになれない自分がいるっていうのもあるんだけどね。

 

「どうして、私なの……?」

 

彼女は弱々しい口調でそう問いかけてくる。それでいて、どこか期待しているような目でもある気がした。気がしただけだけれど。

 

でも、どうして、と言われても、彼女を勧誘したのは私ではない。白崎蕾が彼女の中にあるアイドルとしての才能に期待して勧誘したに過ぎないのだから。

 

「申し訳ないけど、私が貴方を選んだわけじゃないから、私にはなんとも」

 

「………そう。そりゃそうよね……。いじめてたやつのことなんか、顔も見たくもないはずだから」

 

「私、別にあなたの事恨んでないわ。むしろ好ましく思ってる。だから、できれば仲良くできたらなと思ってるんだけど」

 

本心である。けど、実際いじめてた相手にこんな言葉を投げかけたら、相手にどんな反応をされるだろうか。

多分気持ち悪いんじゃないだろうか。私だったら不気味に感じると思う。なんだこいつってなると思う。それくらいはわかる。けど、仲良くしたいのだ。本当に。

 

「……どういうこと? それは……………あ…………そういうこと……」

 

「???」

 

何1人で納得していらっしゃる?

私も自分で言ってていじめられてたやつのセリフじゃないよなとか思ってたのに、なんか彼女の中では私の行動にしっくりくる出来事でもあったのだろうか。

 

「……でも、私がしてきたことは、許されることじゃない……。その、結構ひどいいじめもしてたし………」

 

彼女から物凄く、なんというのだろうか、私に対する罪悪感のようなものが滲み出ているような気がする。

……多分本当に、いじめていた時のこと、後悔しているんだろうな。

標的が私じゃなかったら、きっと彼女は許されてなかっただろう。私に対して彼女が行ってきたいじめは、誰が見てもほぼ全ての人がいじめだろうと捉える行為ではあったから。

 

「まあ、何だろう、いじめのことは気にしていないというか……」

 

「………ごめん………」

 

「へ?」

 

「………ごめん………なさい。あんたのことをいじめて………私は……本当にどうかしてた。言い訳にもならない。あんなにも追い詰めて……それで………」

 

ショックだ。仲良くしたかったのに、やっぱり私は彼女に嫌われている。

謝る必要なんてないのに。私はむしろ、あなたに感謝しているくらいなのに。

 

「! ちょっと待て! 話はまだ!」

 

彼女は駆け出していく。まるで逃げるように。

 

………彼女を2人目にするのは、難しそうだ。けど、それは私が彼女を放置する理由になるのだろうか。

 

どうして彼女が私をいじめたのか。何故彼女はこんなにも後悔をしているのか。

 

知りたい。

知ってちゃんと、話がしたい。

 

いじめられたことを気にしていないとは言った。けど、それはそれだ。

 

こんな機会、今失ったら今後いつ訪れるかわからないのだから。

 

「追ってくるわ」

 

「よし! そうしてくれ! 何としてでも彼女を2人目にするんだ!」

 

それはちょっと約束できないけどね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………。ここ、は……」

 

公園、だ。

見覚えのある公園。

どうしてだろう、思い出せない。こんな場所、私は来たことがあっただろうか。

 

けど、直感が、私の何かが、ここに彼女がいると告げている。

 

どうしてかはわからない。けど、私は何故か、ここにやってきたのだ。

 

「ねえ、いるの? いるなら、返事をして。お願い。怖がらせたのなら、ごめんなさい。でも、話がしたい。貴方と」

 

私はできるだけ、感情を込めて訴えかける。クール系キャラの仮面のせいで、感情が上手く声に乗らない。これも全部クール系キャラの冷華のせいだ。冷華は関係ないって? うるさい。私が関係あると言ったらあるのだ。クール系による弊害は全て冷華が悪い。

 

彼女を、逃したくはない。

何故かはわからない。でも、このまま終わりにしたくはないのだ。彼女とは。

 

「お願い。まだ何も、話し合ってない。いじめのことなら、いいから、だから………」

 

「………どうして、ここにいるって思ったのよ」

 

私の必死の訴えが届いたのか、案外あっさりと、彼女は姿を見せてくれた。

少し頭を冷やしたのか、さっきよりかは落ち着いて話をしてくれそうだった。

 

「………何でだろう。何か、思い出せないんだけど……でも、不思議と、ここにいる気がしたから」

 

「ばか……みたい。本当に、それだけ? ………そう、そうなんだ。やっぱり、そっか。あーほんと、ばかみたい。私は、何やってるんだろう」

 

「………」

 

「ねえ、歌、聴いてくれない?」

 

「へ?」

 

「あはは………だよね。分かってるんだ。そんなこと、けど…………」

 

何故かはわからない。けど、聞いてみたい気がした。

そうすれば彼女のこと、少し分かりそうな気がしたから。

 

「じゃあ、歌うよ」

 

そう言って、彼女は歌い始める。

 

「〜♪」

 

優しい音色。暖かくて、包み込むようで、まるで、何かを守るような。

聞いていると、何だか太陽の日の光に当てられているような、そんな錯覚を覚えるような歌声だった。

 

 

けど、ただ一つ、欠点があった。

 

 

どこか、悲しいのだ。

彼女の歌声は、太陽のように明るくて、暗闇を照らすようでいて、心地よいもののはずなのに。

そこにどこか、寂しさをはらんでいる。

 

なんだか、私まで切ない気持ちになってきてしまう。

そんな歌声でもあった。

 

「……どう、だった……?」

 

「そう、ね。寂しくて、暗くて………どうしても切ない気持ちになるような歌声、だった」

 

「……………あは………そっか。駄目か。私はもう、とっくに……」

 

「けど、同時に暖かくて、太陽みたいで、……暗闇の底から、日の光で照らしてくれるような、そんな歌声でもあった………ような気がする」

 

「………太陽………か……。そっか、私、まだ、歌えたんだ」

 

分からない、けど。

何かがあって、彼女に歌う自信を失わせていた?

 

分からない。本当に、何も分からないけど。

 

「切ない歌声も、悪くないけど、私はその、太陽みたいに暖かい貴方の声の方が、好きかな。もう少し、自分に自信を持ってみてもいいと思うわ。なんだか、そうじゃないともったいない気がするから」

 

あの変態が言った通り、彼女にはアイドルの才能がある。

美咲のように、誰かを笑顔にするだけのポテンシャルを持っている。

 

素人目ではあるが、少なくとも私はそう感じた。

だから、2人目にならないのだとしても、その才能を腐らせて欲しくないなんて、他人でしかないくせに、おせっかいにもそう思ってしまったのだ。

 

「………………変わってないんだ、昔から」

 

「? 変わってない?」

 

何が? 歌声が?

 

「ううん。なんでもない。昔のことは………ごめんなさい。許されるとは思ってない。けど、ずっと心残りだったから。私の立場で言うことじゃないかもだけど………元気そうでよかった」

 

「気にしてない。むしろ感謝してるくらいだから」

 

「か、感謝……? それは、よくわかんないけど」

 

彼女の顔には、もう先程の弱々しさは感じられない。歌ってスッキリしたのかな?

 

「それで、勧誘の件なんだけれど……」

 

「……あー。それは、パスで」

 

………まあ、ですよねー………。いじめてた相手と一緒にアイドルやろうって、普通の神経してたら無理に決まってますよね。

私は被害者だからともかくとして、彼女は加害者、罪悪感とか、その他諸々で感情ぐちゃぐちゃになりながら一緒に活動は、流石にしんどすぎるだろう。

 

これは、妹君の方を選択することになりそうだな。

 

「でも、私もアイドルは目指すつもりなんだ。いつか、夢場美咲を越えるくらいの、トップアイドルに」

 

………そうか。勧誘されて事務所に来ていた時点で、彼女もアイドルになる夢を持っているというのは当然だ。つまり。

 

「あんたもアイドル続けるんでしょ? だったら、その舞台で会うことにしましょ。私は……絶対、今よりも太陽みたいに明るくて、闇夜を照らし出す、そんなアイドルになるんだから」

 

闇夜を照らすとは、ちょっとポエミー?

まあ、少し酔っているくらいの方が良いのかもしれない。

 

「それじゃあ、ライバルということで」

 

「ライバル………か。ライバル……うん。それじゃあ、それで」

 

彼女は、無言で拳を差し出してくる。

 

「私、夢場美咲に負けないから。だから、見ててよ」

 

ライバルの私は……?

これ、私如きライバルにもならんと言外に語っているのでは?

し、失礼な! ちゃんと私だって夢場美咲の隣に立つようなアイドルになる予定なんですからね! 主に妹君とか妹君とか妹君とか、才能のある子の力を借りてちゃんとアイドルの階段登ってやろうと思ってますからね!

 

まあ、いいか。

とりあえず元気になってくれたっぽいし、仲良くはできそう、かな?

 

私は、彼女の突き出した拳に、自身の拳を合わせるように差し出す。

 

「私だって、美咲に置いて行かれたままでいるつもりはないから」

 

彼女と特段仲良くしていた、というわけではなかった。けど。

 

なんだかこのやりとりは、青春みたいで悪くないのかな、なんて、なんとなくそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私の……勧誘は…?」

 

「パスと。まあ、いじめていた子と一緒に活動は気まずいでしょうから」

 

「私がせっかく! 見つけてきたというのに!! それを!!!!! ふ、ふざけるんじゃない! これじゃ私のワクワク! 夢場美咲蹴落とし大作戦⭐︎が!!!」

 

なんじゃその作戦。

 

「とにかく、断られてしまったものは仕方ないのでは? 妹君が一緒に活動したいと言っているのだし、2人目は彼女でも良いと思うけれど」

 

「あの子は駄目なんだ。いや、あの子をメンバーにするなら、私の計画が根本から狂うんだ!!」

 

慌てふためく白崎蕾の様子を見ていると、ちょっと面白いというか、自慢の観察眼で人のことを知ったような気でいる奴が、動揺して狼狽えている姿を見るのは気分が良かった。

別に彼女のことは嫌いではないが、それはそれとしていけすかない部分もあるのだ。これを機に他人を知ったような口で語るのは控えてもらおうか。

 

「くそう………。わかったよ。けど、私はまだ諦めていないからね!! もし君が彼女とアイドル活動がしたいといえば、私が全力で説得するからね! なーに。期限は設けてある。彼女にも、その期限までに2人目を決めると伝えてあるからね」

 

確か、3日後までに、だっけ。

長いようで短い期間だけど、アイドル活動を行う上で時間は貴重だ。3日でも十分といえるかもしれない。

 

まあ、彼女自身が私とは別で活動したがっているのだから、流れ的には妹君が2人目になるのだろうけど。

 

………私自身はどうだろうか。

 

「まあ、もう少し妹君のことを知ってからでも遅くはないか」

 

明日以降、妹君と関わってみよう。そしたら何か、見えてくるものがあるのかもしれない。

 

「本当に……せっかく私が勧誘したのにぃ………」

 

それはそれとして。

白崎蕾のこんな姿が見れて、今日の私は大満足だった。

 

 

 

 

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