現実だけ見ていたい   作:布団から出られない

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意図してないけど、妹君の名前も元いじめっ子ちゃんの名前も『さ〇〇』で、どっちも母音が“い”の文字あるしか行の文字も入ってる。


2人目

 

さて、約束の日がやってきた。今日、私は私と共にアイドル活動をしてくれる人を決めることになる。

まあ、二択ではあるんだけど。

 

流れ的には、私のことをいじめていた彼女は私とは別の事務所で頑張っていくつもりみたいだし、妹君は私と一緒に活動したい意思があるみたいだったから、妹君を2人目のメンバーとして迎え入れるのが自然の流れなんだろうな。

 

私は白崎プロダクションの事務所に入る。

2人には申し訳ないが、この日のために予定を空けてもらっている。私が事前に決めて連絡しておく、という手段を取っても良かったのだが、白崎蕾がどうしてもと言って譲らなかったので、仕方なく2人に来てもらって、今日、事務所内でどちらを選ぶかを決めることになったのだ。

 

……にしても、あの変態も趣味の悪いことをする。

今この場で選んでしまっては、選ばれなかった方に失礼じゃないだろうか。私はただ選んだだけなのに、まるで選ばなかった私が悪者みたいな気分になってしまう構図じゃないか。解せない。

 

「やっほー琴音。暇だから来たよ」

 

「華梨奈。今日は予定ないの?」

 

「うん。言ったでしょ、暇だから来たって。今日あたしフリーなんで」

 

何故か華梨奈もいた。前やってた地下アイドルをやめるって話をした後、華梨奈とは話していなかったからちょっと久しぶりだったりする。

 

「アイドル活動はまだ続けているの?」

 

「そりゃね。活動してたら学校休みやすいじゃん? あと、琴音が抜けた後、新しい子が一緒にやってくれるって言ってきてくれたからね。ま、ほどほどにやってるよ」

 

一応、華梨奈と私は同じ学校に通っている。だから、アイドルの支援制度を受けることができるし、それを受けると、欠席日数がちょっと人より多くても許されたりするのだ。

 

まあ、同じ学校ではあるものの、華梨奈とは違うクラスだし、華梨奈は見た目通り陽キャなので、あんまり校内で絡む機会は少ないんだけども。

 

でも、こうして私の様子を見にきてくれたりする時点でめちゃくちゃ良い子だ。他にも友達沢山いるだろうに。華梨奈大好き。

 

「お姉様、それで、私とあちらの方、どちらを2人目にするんですか? 勿論、私ですよね!」

 

「前も言ったけど、私に遠慮はしなくて良いから。私は、他の事務所であんたのライバルとして………やっていくつもりだから」

 

2人はもう既にこの場に揃っていたらしい。

まあ、ほぼ妹君を選ぶ流れは出来上がっているみたいだし、私が片方だけ選んだからもう片方が〜みたいな展開にはならなそうではあった。

 

「引かなくて良いんだ!! 遠慮しないでくれ!! 君も本当は琴音とアイドル活動したいんだろう!? ほら、活動したいと言え!!」

 

「うわぁ……あの子前うち来て露出してた子だよね。必死じゃん」

 

「……自分の妹と私を組ませたくないみたい」

 

「なんで? 琴音に才能がないから?」

 

「友達でも言っていいことと悪いことがあると思わない? まあ、自覚しているし許すけれど」

 

そんなに私に才能がないことって分かりやすいことなんだろうか。皆に言われてるし。

 

まあ、どうでもいいか。どちらにせよ、才能のない私をカバーするために、彼女らみたいな才能のある存在を勧誘してもらったのだから。

 

「琴音! 君も遠慮するな! 我が妹よりも、勝手知ったる昔からの知り合いの方が何かとやりやすいだろう? 遠慮しなくていい! 彼女は恥ずかしがり屋なだけなんだ! 本当は琴音と一緒に活動したいんだ! ほら、君は私の観察眼を信じているんだろう? なら分かるはずだ!!」

 

「昔からの知り合いなんだ? 同級生?」

 

「まあ、そうね」

 

流石にいじめられてました、とは言えない。まあ、私は別にそのこと気にしてないんだけど、本人からしたら言いふらされるの嫌だろうし。

 

というか、彼女が恥ずかしがり屋だとか言っているが、本当だろうか?

確かに私は白崎蕾の観察眼を信用している。が、別に白崎蕾そのものを信用しているわけじゃない。

白崎蕾が嘘をつく可能性だって考慮している。

 

「ねえ、それ、妹君を私と組ませたくないから言っているだけじゃないの?」

 

「そんなわけないだろう! 私は嘘はつかないぞ! ………いや、つくかもしれないが!」

 

「はたから見てるだけだけどさ、あたしの中で変態ちゃんの評価がどんどん下がってきてる気がするんだよね」

 

いや、そこは嘘はつかんと言い切ってくれ。全然信用できないじゃないか。

なるほど、白崎蕾は嘘をつかないという嘘はつけない、と。

 

で、結局本当なんだろうか。そうだ、妹君に聞けば、白崎蕾が嘘をついているかどうかも分かるんじゃないだろうか。

 

「こいつ、嘘ついてると思う?」

 

「まあ、姉者は嘘つく時はつくから、私にも分かんないです!」

 

分かんないかぁ……。

まあ、そうだよね。いくら家族だからと言って、その人のこと全部分かるわけじゃないもんね。

 

私だって、ずっと隣にいてくれたはずの美咲の全てを理解できていたわけじゃなかったから。

 

「琴音、君は本当にそれでいいのか? 君は本当に、彼女とアイドルにならなくていいのか?」

 

「姉者、往生際が悪いよ。あの人も別の事務所で頑張るって言ってるんだし、私はお姉様と一緒に活動してみたいって思ってるんだし、もうよくない?」

 

そうだ。妹君の言う通り、これで丸く収まっているじゃないか。

白崎蕾は何が不満なのだろうか。

妹君がそんなに気に食わないのだろうか。

 

妹君の話だと、白崎蕾は妹君に対して複雑な感情を持っていそうではあったが……。

 

「往生際が悪い。その通りだ。けど、私は……このままでは良くないと思うんだ。君は本当に、それでいいと思っているのか? 彼女との関係を、ライバルとして終わらせて、それでいいのか? いいわけがない。君は、彼女のことを理解できていないのだから」

 

「何の話?」

 

これでいいはずだ。何が不満なのだ。

丸く収まっている。納得していないのは、白崎蕾だけじゃないのか。

 

私は……。

 

「君の意思は、どうなっている? 君は、どっちがいいんだ。私は、君の意思を聞いているんだ」

 

「私の、意思…?」

 

「丸く収まっている。だからこれでいい。そんな風に考えてはいないかい? それでいいのか。君は、彼女に対して、まだやり残したことがあるんじゃないのか?」

 

彼女に対して、やり残したこと……?

 

………何か、あったっけ……。

 

彼女と再会したときのことを思い出す。

そのとき私は、何を考えていたんだっけ。

 

 

 

……そうだ。私は、知りたかったんだ。

 

彼女がどうして私のことをいじめていたのか。

何故彼女が私をいじめていたことを後悔していたのか。

 

それに、どうしても私は、彼女のことが嫌いになりきれなかった。

なんでか、彼女のことが気になってしまった。

 

どうしてなのか、知りたい。

 

けど、それは私のエゴだ。

私がアイドルを目指す上で、必要かと問われれば、必要のないことだ。

 

ただの、人間関係の問題でしかないのだから。

 

「やり残したことなんて、ないわ」

 

「本当に?」

 

いいんだ。きっと。

 

妹君は、私と活動することを望んでいる。だから……。

 

「君も君だ。何一歩引いたところで見ているんだ? 本当は君だって、琴音と肩を並べてアイドル活動がしたいんじゃないのか?」

 

「違っ……」

 

「私には分かる。何たって君の……」

 

「いい! それ以上は、いいから……」

 

どういうことだ? 何の話が進んでいる?

 

彼女は、私と一緒にアイドル活動がしたい、とでもいうのか?

 

……何故、そう思ったんだろう。

どうして、私をいじめていたのに………。

 

知りたい……。

 

駄目だ。思わなくて良い。

私が我慢すれば………私が……。

 

 

『琴音ちゃん………ううん。琴音が我慢する必要なんてないんだよ。辛い時は辛いって言って。私にも、辛さを分けて? だから……』

 

ああ、そっか。

 

約束、したんだった。

 

もう、2度と。

“昔の私”には戻らないって。

 

大事な約束なのに、私はその約束を、破ろうとしてしまった。

周りに気を遣って、それで……。

 

そうだ。美咲は言ってくれた。我慢しなくて良いって。

 

だから……。

 

「………少し、話させて欲しい」

 

私はもう、我慢はしないことにする。

 

「お姉様?」

 

「ごめんなさい。でも、自分の気持ちに、嘘はつきたくないから」

 

「こと…………。私は、あんたと活動するつもりなんて、ないから。だから……」

 

「それは、本心? 教えて欲しい。知りたいの。貴方が何を考えているのか。昔私に対してやっていたこと、どうしてあれをやっていたのか、どうしてそれを後悔しているのか」

 

「私は……教えたくない。教えるつもりもない。あのときの私は、どうかしてた。おかしかったし、悪かったと思ってる。だから、だから後悔してる。それだけだから。私には……」

 

私は、どうしても彼女が気になるのだ。

どうしてかはわからない。でも、それが気になる。完全に私情だ。

エゴで、醜い、ただの強欲だ。

 

でも、それで良い。美咲は、それで良いって言ってくれたんだから。

 

それに、もし一緒にアイドル活動をするなら、きっと彼女が良い。

 

私は、彼女が良いと思った。

 

「……私の、本心を告げる。私は、貴方と一緒にアイドル活動がしたい。貴方と一緒に歌って、踊って、美咲と並び立つアイドルになりたいと思っている」

 

「お、お姉様が寝取られた!」

 

「あたしよくわかんないけど、それ寝てから言えってやつじゃないっけ?」

 

「………そんなの、この子はどうなるの? 私は、別で頑張ろうって言ってる。でも、その子は、こと………あんたと一緒に活動したいって、そう言ってる。それに、私は………多分、あんたの隣は合わない。今の私には……」

 

「会わないなんてことはないわ。私は、貴方が良いと思ったんだから」

 

私は、思ったんだ。私は、美咲の隣に立ちたい。

夢場美咲に向かって、努力していきたい。

 

けど、周りは皆、夢場美咲を見ていない。私は、アイドルになんか興味はない。ただ、美咲に興味があるだけなのに。

 

「貴方は、夢場美咲に負けないって、そう言った」

 

妹君は、姉のためにトップアイドルを目指しているだけだった。

それは、尊いことなのかもしれない。けど、私が見ているのは、夢場美咲だ。

 

その点で彼女は、私と同じように、夢場美咲を見据えていた。

 

“トップアイドルの夢場美咲”ではなく、“夢場美咲”そのものを目標にしていた。

 

きっとそれは、トップアイドルに至る前に夢場美咲のことを知っていたからなのか。

トップアイドルとは別の理由で夢場美咲に対抗意識を燃やしているのかもしれない。

 

どちらにせよ、私はその部分において、彼女に惹かれてしまったのだ。

 

「私は、美咲の隣に並び立ちたい。そこに至るまで、一緒に活動するのは、貴方が良い。同じ夢場美咲を見据えるものとして」

 

「……………同じ………だよ……」

 

彼女は、すごく居心地の悪そうな表情をしている。けど、私の言葉を聞いて、時折嬉しそうな表情を見せる時があった。

 

なら、白崎蕾が言った通り、本当に私と……。

 

「貴方に、2人目のメンバーになって欲しい」

 

「………そ、れは、私には………」

 

「……はぁ……。仕方ないです。お姉様が決めたことなら、私は潔く身を引きます。私の胸……お姉様が取られるのは残念ですが、私はどこでも輝くくらいの溢れんばかりの才能がありますからね! 後から後悔して勧誘したって遅いってんですよ!」

 

今私の胸って言わなかった? 

この子、女の子の胸に興味がある子なのだろうか。やっぱ変態なんだなぁ。私って別段巨乳ってわけでもないのに。

 

「よし! ということは合意だ! 2人目として、我が妹は適切ではなかった! ということで! 私は是非、君に2人目になって欲しいと思っている! どうだろうか!」

 

「…………弱いな、私って」

 

「?」

 

「迫られたら、断れない。断りたくなくなっちゃう。本当……私は……」

 

「それじゃあ、私と一緒に…?」

 

「………そう。あんたと一緒にテッペン、目指してみても、良いかなって」

 

やった!

勧誘に成功した!

妹君には悪かったかもしれないけど、でも、美咲が我慢するなって言ったから仕方ないよね。責めるなら美咲を責めてくれ。私は何も悪くないもんねー。

 

「これから、よろしく」

 

「………うん……。よろしく」

 

こうして私は、かつて私をいじめていたはずの彼女を、2人目のメンバーとして迎え入れることになった。

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