ジリオンのムックで、スタッフに「こんなシーンがやりたかった」というのを聞く企画がありまして、今回は演出・五月女有作さんのネタで書いてみました。
「ーーだいたいよー、なんでオレらまで駆り出されてんの? ノンキにこーんな式典やってる場合じゃないっての」
スーツで決めたJJが、窮屈そうにネクタイを緩めながらいった。
「JJ、いつまでもダダこねないの。ノーザが動き出したら私たちもすぐ出動よ。ここには、ノンキな気分で参加してる人なんていないはず」
こちらも白いスーツをまとったアップルが噛んで含めるように答える。
「ま、とはいえ」
細身のスーツを着こなしたチャンプが優雅に脚を組み、ソファに身を沈めた。
「俺たちはゲストだ。銃の携行を許可されない代わりに、この開拓記念式典の警備の任に就く必要もない」
「ってことは?」
「ここんとこスクランブルが続いてたんだ。羽を伸ばさせてもらってもバチは当たらん、ってことさ」
「なるほど、そういうことなら仕方ねぇな!」
JJは嬉々としてソファにどっかと座りこんだ。
「もう……」
アップルはクスリと笑って、腕の端末に目をやった。
「オープニングセレモニーが終わるまで、あと20分くらいありそうね」
「そんじゃあ、ひと寝入りといたしますか!」
「ちょ、ちょっと待ってJJ、ひと寝入りして、寝ぐせに寝ぼけマナコで式典に出るつもりなの!?」
「だったら、眠れる王子様にキスしてやればいい。慣れたもんだろ、な、アップル?」
チャンプの意味ありげなウインクに、作戦中の「あのこと」を思い出したアップルが絶句した。
「やーだよー、オレの唇はセシルちゃんの――」
突然、重い衝撃が控え室を襲った。JJとチャンプは瞬時にソファを離れ、体勢を低くする。
「……ノーザか!」
「Mr.ゴード、こちらアップル! ……ダメだわ、無線が妨害されてるみたい」
「あーヤダヤダ、式典とか祝日とか関係ねぇ奴らは勤勉ですことォ」
JJが口を尖らせた。
「JJ、お待ちかねの敵襲だ。責任取って一つ、チャチャッとあしらっちゃってくれ」
「ちぇっ、ノンキな話だぜ」
JJは通路を素早く確認すると、通路に設置された緊急用の斧を取り出した。
「いいぜ、こっちだ!」
チャンプとアップルも通路に出た。
「チャンプ!」
JJが斧を放り、チャンプが受け取る。
「ほいっと!」
その間にJJは次の斧を取り出し、通路の先をうかがう。
アップルは通路の端末を操作した。有線の回線は生きているようだ。
いくつかの回線が混線したようなノイズの後、突然耳慣れた声がスピーカーから流れ出した。
『……の方は応答されたし! こちらホワイトナッツのデイブ! JJ、チャンプ、アップル、応答を請う!』
「デイブ! こちらアップル、現在地点は地下二階Bブロック。JJとチャンプも一緒よ!」
『……アップル! ありがたい、こちらは隣のAブロック、ジリオンはすぐ上の部屋だが出られない』
会話を聞きつけたJJとチャンプが斧を手に戻ってきた。
「了解、デイブ。待ってろ、いまそっちの扉をぶち破ってやる」
『すまない。いまは敵の攻撃も落ち着いたようだ。この隙に僕も上のフロアへ!』
デイブがそう言うと同時に隔壁の向こうでくぐもった爆発音が響き、スピーカーは断続的なノイズを吐き出した。
「やめろ! 無理するなデイブ、俺たちが行くのを待て!」
「……ダメだわチャンプ、通信が切れたみたい」
斧を背にしたJJは隔壁の前に立った。
「じゃあ、さっさとデイブの援護に行こうぜ。チャンプ、そっちを頼む!」
「……やるか!」
「いくぜ! せーのぉっ!」
JJとチャンプが揃って隔壁のバーに斧を振り下ろした。異常を判定した隔壁が開き、爆発の煙がフロアに流れ出した。
「……デイブ!!」
煙が薄まり、フロアに倒れていたシルエットにJJが駆け寄った。
「JJ……大丈夫だ、ちょっと爆風に飛ばされただけだ」
ススだらけのデイブがいった。
カチャカチャと特徴的な足音が響き、ノーザ兵の砲撃が連続してJJたちを襲う。
「JJ! デイブ! 待ってろ、いまそっちに行く!」
Aブロックの武器を手に入れたチャンプとアップルがノーザに応戦したが、やはり通常兵器では持ちこたえるのが精一杯だ。
「JJ、こちらも足止めされて動けないわ! デイブは無事? ジリオンはそこにあるの?」
アップルの声に火線上のデイブは身を低くして怒鳴った。
「アップル、すまない! 僕は大丈夫だが、ジリオンはまだ上のフロアの保管庫だ!」
「ちくしょう、ジリオンさえありゃあ……!」
こちらにジリオンがないことを確認したのか、ノーザ兵は銃撃をやめ、横一列に並んでこちらに歩み出した。
「くっ、足元みやがって……!」
JJはヤケクソのように拾ったハンドガンを乱射した。よろけたノーザはいともあっさりと立ち直り、JJは歯噛みした。
「こんな豆鉄砲じゃどだい無理か……くそっ」
ノーザの銃口が怪しく光を帯びる。
「JJッ! デイブ!」
バシュウッ!
先頭のノーザが蒸発した。反撃しようと振り返った3体のノーザが立て続けにそのあとを追う。
「……ジリオン!? いったい誰が?」
通路に仁王立ちする大柄な体躯が、両手でしっかりとホールドしたジリオンを下ろした。
撃ったのは……Mr.ゴード!
「遅れてすまない、JJ」
Mr.ゴードは肩に背負った荷を下ろした。
「チャンプ、アップルはノーザの排除に当たってくれ。JJ、デイブを医務室へ。地上は散発的な戦闘が続いている。エネルギー残量に気をつけてくれたまえ。わたしは、エイミと共に本部に戻る」
そう言うとジリオンをJJに渡し、荷から二丁のジリオンを取り出すと、アタッチメントを手早く装着してチャンプとアップルに手渡した。
「ら、ラジャー……」
*
「――はくちゅっ!」
ドテラを着込んだエイミが可愛くクシャミをした。
「……エイミ、まだ寒い? 紅茶もう一杯淹れるわね」
「グズ……ありがと、アップル」
マリス開拓記念式典に侵入したノーザは速やかに排除された。しかし式典自体は中止となり、ホワイトナッツの面々も、全員の無事を確認したところで本部へと引き上げていた。
「でも、どうしてエイミは冷凍庫なんかに居たんだい? 食料を取りに行ったわけじゃないんだろ?」
気抜けした顔のデイブが尋ねた。
「うぅ……だって、Mr.ゴードが分厚い扉の中に居なさいって……それで、冷凍庫のこと思い出したの」
「……エイミ、すまないことをした。ジリオンに一番近いわたしがまず動かなければならなかったとはいえ」
「そういやエイミ、いつだか、北極行ってペンギンに会うっていってたよな?」
「……そうだけど?」
「冷凍庫で見つけたぜ。ペンギン印のアイスバー」
そういってJJは床から大きな箱を持ち上げた。霜のついた箱には、たしかにペンギンのイラストが描かれている。
デイブが驚きの声を上げた。
「JJ、持って来ちゃっていいのかい!? …あぁ、でも式典が中止だから配るアテがないのか」
「そーそ、そういうこと」
「そういう話じゃなーい! もう、JJのいやしんぼ!」
突然大きな声を出したエイミに、紅茶を持って来たアップルがよろけた。
チャンプは微笑し、黙々とコーヒーを飲むMr.ゴードに目を向けた。
体術こそアタックチームに劣るものの、状況判断力、射撃の精度、そして何よりも、大胆な行動を可能とするその胆力……今回ばかりは、長官に頭が上がらないな。
「……チャンプ、わたしがどうかしたかね?」
<了>