君は最高のライバル   作:ネーモネモネモ!

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あと少しでポケモン新作発売なので初投稿です。


目と目があったら……

 

 

 

 

 

 

 

 とある所に、天才と呼ばれた少女がいた。

 幼い頃は体が弱く、初めてポケモンを手に入れたのは11歳の時。

 親のポケモンを借りて捕まえたパモが最初の相棒。

 初めてのポケモン、初めてのポケモン勝負。

 勝っても負けても少女にとっては楽しくて楽しくて楽しくて仕方がなかった。

 

 それから2年後、全く飽きることなくポケモン勝負に精を出し続けていた少女は、名門オレンジアカデミーに入学する。

 同じパルデア地方から、異なる地方から来た老若男女様々なトレーナーを相手に変わらず勝負を挑んでは、勝ったり負けたりを繰り返す毎日。

 程なく始まった課外授業である宝探しでは当然のようにポケモンリーグを目指してジムに挑戦して…………気が付いた頃には、少女はチャンピオンランクの認定試験に合格していた。

 アカデミーに戻れば校長を筆頭に教師達、友人からもチャンピオンランクになったことを祝福された。

 

 けれど、その時には既に少女の周囲は変化していた。

 少女が常のように、チャンピオンランクになっても変わらず勝負を挑んでも、誰も受けてくれなくなった。

 

 チャンピオンに勝てるわけない。

 負けたくないから嫌だ。

 天才には勝てない。

 

 それらが勝負の誘いを断る常套句になっていた。

 少女の世界から、急速に色が失われていった。

 

 少女は知らなかった。

 勝っても負けても楽しかった少女には、負けるから勝負したくないという気持ちが理解出来なかった。

 それこそが天才と言われる所以であるとしても、自覚することは極めて難しい。

 それでも分からないなりに考えて、ポケモン勝負は楽しいものだから自分も相手も楽しくないと意味がないと思った少女は、いつも通りの笑顔の下に言葉に出来ない想いを抱えながら、相手の力量に合わせたポケモン勝負をするようになった。

 半年後、少女に匹敵する才能の持ち主が現れる、その時まで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレンジアカデミーに入学して、明日で1週間が経つ。

 入学のために態々引っ越してきたのが今からちょうど1ヶ月前のこと。

 毎日外を走り回っては、初めて見たポケモンを捕まえまくっていたからか、時が経つのは一瞬のように感じた。

 入学後にジニア先生からパルデア地方のポケモン図鑑をスマホロトムに登録してもらった際には100種類以上が埋まっていたのだから、節操なしに捕まえすぎたと今更ながら思う。

 だが、後悔も反省もしていない。

 

 

「……まあ、ちゃんと育てますから。誰にも文句なんて言わせません」

 

 

 ついそんな独り言を呟きながら、バトル学の授業が行われるグラウンドに向かう。

 バトル学の担当教師であるキハダ先生は、どういうわけか実技がなくてもグラウンドで授業を行いたがる。

 夏場は女生徒を中心に苦情が出そうな気がするけど、どうなんだろうか。

 

 グラウンドに着くと、パッと見て分かるほどに生徒の数がめちゃくちゃ少なかった。

 普段なら最低でも10人前後は居るのにおかしいなと疑問に思っていると、数少ない生徒の中から1人が近寄ってきて教えてくれた。

 

 

「あっ、君同じクラスだよね!人が少なくてびっくりしちゃった?私もさっき知ったんだけど、明日から課外授業があるからその準備で忙しいんだって。事前に準備しておけば良いのにね?」

 

 

 そう言って不思議そうに首を傾げた彼女には、確かに見覚えがあった。

 前髪に一房だけ緑のメッシュが入ったポニーテール、日に焼けた小麦色の肌、見るからに高性能なグローブを右手に着けている少女。

 同じクラスであることや美少女であることを差し引いても、入学からまだ1週間なのに有名人となった彼女のことは当然知っていた。

 

 曰く、無類のバトルマニア。

 噂では、入学後1週間で100人以上の学生とポケモン勝負をしているとのこと。

 見境なく捕獲しまくっている誰かさんとして密かに知られているらしい自分的には、方向性は違えど同じ穴の狢という感じで少し親近感が湧く。

 直接話したことはないけど、名前は確か……そうだ。

 

 

「えっと、教えてくれてありがとう、ネモさん」

「あはは!話したことない相手だと名前覚えるの大変だよねー。クラスも同じだし、ネモでいいよ!私もサトルって呼んでいい?」

「いいですよ。よろしくお願いします、ネモ」

 

 

 そう、ネモだ。

 良いとこのお嬢様らしいが、それはどうでもいい。

 活発な雰囲気はあるけど、話してる感じは普通に同世代の少女という印象を受ける。

 積極的にポケモン勝負をしてコミュニケーションも取っているみたいだし、人当たりも良くて人気者なんだろうな。

 そうしてネモと会話しながら待っていると、時間ちょうどにキハダ先生がやってきた。

 

 

「押忍!みんな集まってるな!……と言いたいところだが、今日は露骨に人が少ないな!明日が課外授業とはいえこれは……いや、ここは準備が良い生徒たちを褒めてあげるべきか?」

 

 

 うんうん、と思わずこちらも頷いてしまう。

 何と言えばいいのか分からない気持ち、よく理解出来ますとも。

 とはいえ、そこはキハダ先生。

 ここで悩んでも仕方ないと素早く切り替えて、本日の講義が始まった。

 

 

「今日も前回に引き続きタイプ相性について教えていくつもりだったんだが、受講者が少なすぎるので急遽変更する!バトル学特別編、実際に戦いながら学んでいこう!勿論アドバイスはするし、質問も受け付けるぞ!……このくらいの人数なら全員見切れるからな」

「えっ!?本当ですかっ、やったー!!」

「今日は座学なし?ラッキー!」

「腕が鳴るぜ!俺のブイゼルでみんな蹴散らしてやる!」

 

 

 キハダ先生の言葉に場が湧く。

 ところで、小声でなにか言いませんでしたか?

 

 さておき、前回は座学で時間を取りすぎて実技を行う時間がなくなってしまったので、次の授業をみんな楽しみにしていたのだ。

 新しく得た知識を早く実践したいとワクワクしている姿が微笑ましくて、自分にもそんな時期があったなぁとつい見守ってしまう。

 所謂、腕組み後方保護者面である。

 

 そんな俺の奇行にも怯まず声を掛けてきた猛者がいた。

 なんとなく流れで隣にいたままだったネモだ。

 

 

「サトルっ!私と()ろうっっ!!!!」

 

 

 ネモはこちらの返事も聞かず手を掴むと、有無を言わさずバトルコートに連れて行かれる。

 一瞬驚いたけど、俺にとっても悪くない話だ。

 又聞きばかりで信憑性は不明だが、ネモは結構強いらしいからな。

 うっかり圧勝してしまうこともないだろうと思う。……多分大丈夫でしょう。

 

 バトルコートの中心に着いたところで、ようやくネモは手を掴んでいたことに気付いたようだった。

 分かりやすく、あっと表情を変えて誤魔化し笑いをする。

 うむ、可愛いので許そう。

 

 

「えへへ、強引に誘ってごめんなさい。同じクラスで戦ってないのサトルだけだったから、最初に顔見た時から今日は絶対サトルと戦りたいなって思ってて……」

「いいですよ、気にしないでください。実を言いますと、俺も同じ気持ちでしたから」

「本当っ!?嬉しいっ!!じゃあ、早く戦ろう!もう待ちきれないよ!!」

 

 

 言うが早いか、背を向けてバトルコートの端に移動する。

 これまで何度かポケモン勝負を重ねて()()()()()が通用することは分かっている。

 教師達からも才能があると期待されているネモにどこまでこちらの戦術が有効なのか、実際に戦って確かめさせてもらうとしよう。

 

 ルールは2対2のシングルバトル形式。道具の使用は禁止。

 1対1ではない理由は、明日から始まる課外授業でジムテストに挑戦する生徒がいることを見越してのことらしい。

 確かに早めに経験しておくに越したことはないな。

 

 それは置いておいて。

 互いにコートの端に陣取って、片手にモンスターボールを構える。

 戦意は充分。コンディションも上々。

 相手が誰であろうと、負けるつもりは毛頭ない。

 

 

「サトル!実りある勝負にしようね!」

「負けても泣かないでくださいよ、ネモ!」

 

 

 好戦的な笑みを交わし、同時に腕を振りかぶった。

 

 

「行くよ、ムクバード!」

「ムックー!」

 

「一仕事よろしく、クレッフィ!」

「……」

 

 

 ネモが繰り出したムクバードが威勢よく鳴いて、クレッフィを威嚇してくる。

 クレッフィの様子を見る限り、恐らくネモのムクバードの特性は言わずと知れた威嚇だろう。

 極めて有用な特性だが、物理技は使わないので関係ない。

 更に言えば、ムクバードからクレッフィへの有効打となる技は極めて少ない。

 

 クレッフィは無言のままジャラリと鍵束を揺らしながら浮いている。

 俺のクレッフィは無口なのか、主人である俺でさえあまり声を聞いた覚えがない。

 少し分かりづらいところはあるが真面目で良いやつなので、俺も信頼して自宅や寮の鍵を預かってもらっている。

 さて、自分にとって有利な対面だが、ネモはどう動くのか。

 

 

「フェアリー・鋼タイプ!弱点は炎と地面だね!覚えさせておいて良かった!ムクバード、熱風っ!」

「ムクッ、ムゥー!!」

 

「熱風ですか。判断も早く正確です。……が、クレッフィ!いつも通り慌てず焦らず、勝ち筋を整えましょう。光の壁、神秘の守り!」

「……!」

 

 

 その時、不思議なことが起こった。

 ネモの指示によってムクバードが灼熱の風を巻き起こした時には、既にクレッフィは行動を終えていた。

 展開された半透明の壁は熱風の威力を半減させて、1割の確率で火傷になるという追加効果もクレッフィを守る不思議な力が無効化する。

 元々ムクバードの特攻種族値が高くないこともあり、弱点でありながらもクレッフィが受けたダメージは少なかった。

 

 

「嘘っ、何でそんなに早く!?ムクバード、追い風に乗って高速移動!影分身で翻弄して!」

「悪くありませんが、甘いですよ!自己暗示、瞑想、鉄壁。続けてロックオンからの電磁波で麻痺らせてしまいなさい!」

 

 

 ムクバードが追い風と高速移動によって実質約4倍の速度で動けるようになったにも関わらず、再びクレッフィは凌駕する。

 更には自己暗示によって能力変化をコピーした上で、瞑想によって特攻と特防を1段階、鉄壁で防御を2段階上げる。

 影分身で回避率を上げようとお構いなしに捕捉して、高速で空を飛び回るムクバードに電磁波が浴びせられる。

 

 

「あっ、ムクバード!?」

「瞑想、続けてロックオン。今こそ力を解放する時ですっ、アシストパワー!」

「だめっ、避けられない!堪えるっ!!」

 

 

 体の痺れにより自由を奪われてしまい、先ほどに比べて精彩を欠いた動きをするムクバードに対し、クレッフィを中心として太い光の柱が立ち上る。

 防御2段階、特攻2段階、特防2段階、素早2段階、回避率1段階の上昇。最初に威嚇で攻撃を1段階下げられているため、この瞬間に発揮出来るアシストパワーの威力は180だ。

 しかも、特攻が2段階上昇しているということは特殊技の威力が実質2倍になるということで、最終的には威力360の攻撃になる。

 

 最後にネモが何かを叫んだ気もするけど、鈍った動きで回避が間に合うはずもなく、ムクバードはあっという間に光に柱に呑まれていく。

 流石にこれは確定1発で倒し切れただろう。

 それこそ2回目の瞑想は要らなかった気もするけど、ここは現実なのでゲームと同じにはいかないかもしれないと考えて念を入れたのだ。

 

 光の柱が空の彼方に消えていくのを見送り、その中からムクバードがふらりと体を傾けて落ちていくのが見えた。

 あと1匹いるけどまずは1匹、とほんの少し気を抜いたのが間違いだった。

 

 

「まだだよ、まだ終わってない!そうだよねっ、ムクバード!我武者羅っ!!」

「ムッ……ムックゥーっっ!!!!」

 

 

 その一瞬の油断を突いて、力なく地面に落ちていたはずのムクバードが麻痺など感じさせない動きでクレッフィに突撃してくる。

 誰がどう見ても満身創痍のはずなのに、戦闘不能になっていない方がおかしいダメージを受けていながらも、凄まじい気迫で襲い掛かってくるムクバードに気圧されて指示が遅れた。

 

 そして、気圧されたのはクレッフィも同じだった。

 まともに反応も出来ないままムクバードによる文字通り我武者羅な突撃を受けて吹き飛んでいく。

 今の一撃は考えるまでもなく致命傷だ。

 実際に地面に叩きつけられて派手に転がった後、ふらふらと浮き上がる姿は瀕死手前であると一目で分かった。

 

 

「ク、クレッフィ!?」

「ムクバード、電光石火!あともう少し踏ん張って!」

「やばっ、守る!」

 

 

 ネモはこちらの動揺を見逃さず電光石火を指示してきたが、明らかに指示が遅れていたはずのクレッフィが先に技を繰り出す。

 既に限界を超えていたムクバードは、不可視のバリアに弾かれたことで緊張の糸が切れてしまったのか。

 そのまま気絶して目を回して地面に転がっていた。

 

 

「ありがとうね、ムクバード。お疲れ様!」

 

 

 ネモがムクバードをモンスターボールに戻すまで再び立ち上がってくるのではないかと警戒が解けなかったが、なんとか勝てたことにほっと胸を撫で下ろす。

 クレッフィも限界なのでボールに戻して、これで1対1の振り出しだ。

 同時に次のモンスターボールを取り出して振りかぶる。

 

 

「お次はこの子!頼れる相棒、パーモット!」

「パーモっ!」

 

 

 元気よくコートに出てきたのはパモやパモットの最終進化であるパーモットだ。

 最終進化だけあって能力は高い上に、ネモのパーモットは佇まいを見る限り個体としてかなり優れた能力を持っていそうだった。

 それでも油断さえしなければ勝てない相手ではない。

 

 

「俺たちの全力を魅せてあげましょう。パーティーの時間だよ、ライチュウ!」

「チューっ!」

 

 

 こちらのモンスターボールから出てきたライチュウは、やる気満々という様子で可愛らしい円らな瞳を吊り上げてパーモットを睨んだ。

 しかし、その姿にネモが首を傾げた。

 

 

「あれ?サトルのライチュウ、もしかして色違い!?いやでも、私の知ってる色違いと違う……?」

 

 

 ネモが目を輝かせながら俺とライチュウの間で何度も視線を彷徨わせる。

 じっくり見たいけど話も聞きたい、そんな様子だ。

 所謂原種と言われる方のライチュウを知っているのなら、そう言う反応になるのも当然だな。

 どちらも仲間にしてる俺としても気持ちは良く分かる。

 

 今すぐ色々話したい気持ちはある。

 このライチュウの正体であるとか、普段の可愛い姿や格好良い姿、好きなものや嫌いなものとか、全部話して知って欲しい。

 ネモのお手本のような反応にポケモン愛が溢れそうになったが、ギリギリで堪えた。

 

 

「教えてあげたいのは山々……山々……いえ、本当に残念ですが、それは勝負のあとに好きなだけやりましょう」

「……そうだね!今は、この勝負を思う存分楽しもう!」

 

 

 心底から楽しいと言わんばかりの笑みを見せるネモに、俺も同じように笑っているのだろうと鏡を見なくても分かった。

 だって、ネモも自分も、本気でポケモン勝負を楽しんでいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 このあと、勝負を終えて。

 どちらが勝って、どちらが負けたのか。

 この二人にとってはそんなことは些事でしかない。

 

 今の勝負の感想を伝え合って、互いのポケモンを自慢し合って、喜んで悔しがって、また勝負しようと握手する。

 勝っても負けてもお祭り騒ぎは続き、今度は負けないとその場で2度目の勝負が始まった。

 授業の時間いっぱいに使って何度も勝負を繰り返して、授業が終わる頃には無二の親友とでも言うほどに仲を深めた。

 

 本来はあり得ざる存在との邂逅。

 それが最強の孤独を抱えるはずだった少女に何を齎すのか。

 物語の行く末は、神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 





ネモちゃん可愛いっ!!
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