TACLDETACH3.3――海上保安庁第三管区第三執行班   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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野分実装で勢い余って書いた。
反省はしている。後悔はしてない。
あと舞風は俺の妹。舞風かわいいよ舞風。


はい、新規連載始めます。
作品タイトルはタクルデタッチ・スリー・ポイント・スリーとでも読んでください。

初回なので注意事項です。

・艦これのキャラクターが出てくる何かです。ゲームシステムとか何それ美味しいの状態。
・PSYCHO-PASSタグ付けている通りサイコパスのキャラクター含めて登場します。艦これメインですがご留意ください。
・ほとんど陽炎型しか出てこないと思われます。たぶん
・こちらはサブ更新なので月1回くらい更新があればいいなってテンポになるかと思います。亀更新。たぶん



そんな作品ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。



それでは、状況開始。


PREFLOP
#001 HOLY NIGHT


 

 

 

Say not the struggle naught availeth,

 The labour and the wounds are vain,

The enemy faints not, nor faileth

 And as things have been, things remain.

 

If hopes were dupes, fears may be liars;

 It may be, in yon smoke concealed

Your comrades chase e'en now the fliers,

 And, but for you, posses the field.

 

For while the tired waves, vainly breaking

 Seem here no painful inch to gain

Far back through the creeks and inlets making

 Came, silent, flooding in, the main,

 

And not by eastern windows only

 When daylight comes, comes in the light

In front the sun climbs slow, how slowly,

 But westward, look, the land is bright.

 

 

――――――'Say Not the Struggle Naught Availeth', A.H.Clough

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖夜だってのに忙しいな、状況は?」

「52分前に大島沖北西10キロを北北西に航行中やったばら積み貨物船【あとらす号】が乗っ取られたわ。現在12ノットで航行中。あと12分で浦賀水道に差し掛かるところやで」

 

 黒いコートを脱ぎながら男は報告を耳にする。その横を背の低い少女が速足で追いかける。

 

「積み荷は?」

「鉄鉱石。乗員は22名、うち船員22名」

「犯行声明は?」

「24分前、深海旅団を名乗る集団からテキストメッセージ。読み上げます?」

「どうせ戦争に負けてないから云々だろ?」

「ご名答や」

「EEEI」

「収集中。初めて聞く集団やから情報が少ないんよ」

「報道管制」

「パターン16Bをうちで実行中や」

「上空進入許可」

「取得済みや。最優先で飛べるで」

 

 その答えを聞いてから、男は軽く笑った。

 

「部隊の配置は?」

「第三執行班だけに出動命令が出とる。ビーグルチームとサルーキチームは“うみわし1号”に複合型ゴムボート(RHIB)積んで前進待機済み。バセットのみんなも暖気済みの“しらさぎ2号”で待機済みや。班長はんが乗ったらすぐ飛べるように用意できとる」

「それは僥倖」

 

 プロテクターなどが詰まったダッフルバックを担ぐ。そのまま外へと向かう。

 

「それにしても災難だったな。みんなでクリスマスパーティの最中だったんだろ?」

「班長はんも来ればよかったのになー。付き合い悪いで。かわいこちゃんが13人も揃っててなんで帰るかな」

 

 武装管理区画で右手をかざす。男の生体反応を読み取って、彼の武器収められたアタッシュケースが飛び出してくる。それを受けとりながら彼は笑った。

 

「敬虔なキリスト教徒だから家で静かに家族と過ごすのさ」

「独り身なんに?」

「やかましい」

 

 ドアを開けると航空基地のエプロンに出る。冬の快晴の夜は一気に冷え込む。息が白く曇り、ランプを照らすオレンジの明かりに溶けていく。

 

「それじゃ、行ってくる。サポート頼むよ黒潮特務執行官。九々龍(くぐりゅう)監察官にもよろしく」

「ほな、頑張ってな。神薙和寿(かんなぎかずひさ)監察官。終わったらデブリーフィングの後でパーティやで?」

 

 黒潮と呼ばれた少女が笑って敬礼を送ってくる。男はラフに敬礼を返すとローターが回っているヘリコプターに駆け込んだ。

 

「すまない、遅くなった。第三管区第三執行班(TACLDETACH3.3)、出動するぞ」

 

 ヘリのサイドドアを思いっきり閉めるとメインローターの回転数が上がる。ふわりと浮きあがったヘリは黒く沈む東京湾を眼下に夜闇に溶けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひぃぃ」

「ホラ、サッサト歩ケ」

 

 どこか合成音声のような声を発する船長に一等航海士は顔を青くした。海から上がってきた“それ”のせいで、皮膚は青白く、所々硬質な黒に変色していた。

 

「せ、船長、な、なんで、どうして……!」

「モウコノ船長ハ我々ノ船長ダ。ナンナラ貴様モ我々ノ同志二ナレバイイ。歓迎スルワヨ」

「ば、化け物……!」

「アラヒドイ。私達ト貴様達ハホトンド変ワラナイトイウノニ」

 

 一等航海士は後ろに下がろうとするが艦の舵輪にぶち当たって動けなくなる。

 

「サア、私達ノ仲間ニナリナサイ……」

「嫌だ、いやだぁあああああああっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとらす号はパナマックス型ばら積み貨物船だ。全長294メーター、総トン数6万5,700トン、積み荷は鉄鉱石で東京港に今晩入港予定だった。船長は京塚幸一52歳、船員は日本人とタイ人が代替半分ずつだ」

 

 送られてきた船員データと船の様子を確認しつつ神薙和寿はプロテクターを装着していく。濃紺の作業着はそのまま突入用の室内迷彩となる。その上に黒のプロテクターを身に着けていく。

 

「犯行グループは“深海の旅団”を名乗っている。あとらす号からのSOSも出ないままいきなり犯行声明となると、かなり高度に訓練された犯人が複数乗り込まれたと見て間違いないだろう」

 

 神薙の言葉を部下の4人の少女は静かに聞いていた。

 

「今回の任務はあとらす号乗員の安全確保及び犯行グループの無力化だ。ビーグルとサルーキは海上から突入、俺たちバセットは事前警告の後ファストロープ降下で直接甲板に乗り込む。質問は?」

 

 スポーツグラスのような透明なアイウエアを付けながら神薙が顔を上げると正面に座る少女が手を上げる。ピンク色にも淡い紫にも見える髪を後ろでポニーテールにまとめた彼女は無表情とも見える目を神薙に向けた。

 

「班長、船員の情報はわかりますか?」

「最高齢が55歳、最年少が21で心臓病などの疾患持ち無し。音響手榴弾も閃光弾も大いに使っていいだろう。脅威指数が上昇している場合の対処もいつも通りだ。TACLESの指示通りに対処しろ」

 

 神薙はそういうとわずかに笑う。そのどことなく皮肉な笑みを照らすように月明かりが機内に差し込んだ。ヘリが旋回して進路を変えたのだ。

 

「バセットの副リーダーはいつも通り陽炎、行けるか?」

「もっちろん! あたしの出番ってわけね。不知火のフォローも任せて」

「どちらかというと不知火は陽炎のフォローをしていることの方が多いと思うのですが」

 

 赤毛の髪をツインテールにまとめた少女が笑えば、先ほどのピンク色の髪の少女は無表情ながら不満そうだ。不知火と呼ばれた少女は隣の陽炎にわずかにそんな視線を送ると視線を神薙に戻した。

 

「それにしても、クリスマスだというのに相手も忙しいですね」

「だな。せっかくみんなでクリスマスだってのに」

「そういう班長は来なかったじゃないですか」

「そんな目で俺を見るなよ野分。俺は敬虔なキリスト教徒で、クリスマスは家族と過ごすことにしてるんだ」

 

 そうおどけて見せると陽炎がうわーと言いたそうな顔をした。

 

「ほんとのキリスト教徒に殺されますよ。無神論者がそんなこと言うと」

「こんなでかい口叩いて未だに生きてるってことが神のいない証拠なんじゃない? 神は人を救わない。いつの時代だって、ときとひとが人を救い、癒してきたんだ」

「本当に懲りませんね、神薙班長」

「よく言われるよ」

 

 銀の髪を揺らす野分にそう言われ、神薙はどこか困ったように笑った。ヘリは再度転進、月の光入り方が変わる。ゆっくりとヘリのキャビンを撫ぜるように光が移ろっていく。

 

「……」

 

 月の光がどこか俯いたまま、黙りこくっている少女を照らして止まる。一番ドアに近い位置で座って俯いている彼女は月の光に照らされたことにも気がついていないのだろう。ピクリとも動かなかった。金色のポニーテールが銀の光に照らされる。

 

 神薙は軽く笑って席を立つ。そのまま彼女の前にくると無理矢理横に割り込むようにして座った。

 

「まーいかぜ?」

「ちょ、神薙班長狭いです!」

 

 舞風と呼ばれた少女が驚きで肩を跳ねあげた。横に座っていた野分の声は黙殺した。

 

「……な、なんでしょう? 神薙班長」

「いや、元気ないなぁと思ってさ。怖い?」

 

 プリーツスカートに白いシャツに黒のベスト、神薙は舞風と呼んだ少女の方を見てそう笑った。彼女は答えない。

 

「……そりゃ怖いよな。なにせ、初めての実戦なんだから」

「……はぃ」

 

 消え入りそうな声をきいて神薙は噴き出すように笑った。

 

「よかったよかった。これで怖くないですとか言われたらどうしようかと思ったよ」

「神薙班長、いくらなんでも失礼じゃないですか?」

「悪い悪い。仲間がいてよかったと思ってね」

「なかま?」

 

 舞風がそういうと神薙は笑った。

 

「そう。仲間。―――――俺今すごいビビってる。めちゃくちゃ怖い」

「……まったくそんな風に見えないところが班長らしいわね」

「いうなよ陽炎。気にしてんだから」

 

 どうだか、と陽炎は笑う。それに苦笑いで答えて航暉は舞風の前に回り込んだ。膝をつくようにして彼女と視線を合わせる。

 

「怖いってことはちゃんと状況がわかってるってことだ。状況がわかってるってことはちゃんと次にすることが考えられるってことだ。次にすることが考えられるってことは成功するための条件が揃ってるってことだ。だから怖いってことは間違いじゃないぜ? 舞風」

 

 神薙はそう言って彼女の手を取った。

 

「ずっと訓練してきたし仲間がサポートに回る。後方支援の黒潮たちを含めればたくさんの仲間が参加する。だからミスしても大丈夫だ」

 

 月明かりの中で舞風の瞳がピントを合わせるように神薙の目を捉えた。

 

「でも、怖いもんは怖いから。基本のおさらいだけしておこうか」

 

 舞風にそう言って神薙は僅かに横にずれた。

 

「TACLESを起動してみよう。艤装は格納状態で」

 

 舞風は頷いて右手を前に出した。左手首に巻かれた端末がほの青く光り、右手にメカニカルな銃を模したユニット――――――TACLESが現れた。

 

乙種戦術法執行システム(TACLES-β)、正常に起動しました。ユーザー認証、生体反応照合、舞風特務執行官、正規登録ユーザーです。執行モード、ノンリーサル、パラライザー〉

 

 舞風は音にならない声を聴く。網膜には電探による周囲の情報、手に持ったTACLESの照準に連動したダットなどが表示された。

 

「TACLESは相手の脅威指数を計測する特殊な兵装だ。相手の脅威指数を自動的に読み取り、それが高い場合にのみセーフティが解除される」

 

 神薙の右手にも同じ形の銃が納まっている。クリアーのサングラスの奥の眼が明るい青に光る。

 

「脅威指数は相手が犯罪行為に手を染めている、もしくはこれから染めようとしている時に高く表示される。だからTACLESがロックを解除し、その引き金を舞風が引いたとしても舞風が罪に問われることはない。万が一間違ったとしてもその責任は担当監察官である俺が負う」

 

 だから安心しろというのは論理が破綻していることを神薙は知っていた。舞風にとってそれが慰めにならないことも。

 

「大丈夫だ舞風、舞風が間違いそうになったら、周りが止めてくれる。勿論俺も全力で止める。間違ってもそれは俺のせいだ」

 

 神薙はTACLESを腰のホルスターに戻すと舞風のそばに改めて寄った。

 

「俺たちは誰かを守るために、法の傘を着て誰かの自由を奪う。そういう組織だ。攻撃的で危険な組織だ。怖くて当然。だから無理に怖くなくなろうなんてするなよ」

 

 神薙はそう言って舞風の左手に触れた。舞風のブレスレットが青く光る。

 

〈監察官権限により執行モードを解除します〉

 

 舞風の右手からTACLESが消える――――――正確には収納されたのだが、消えたようにしか見えなかった。

 

「怖くなくなった時、法執行を楽しんで行うようになってしまった時はお前の脅威指数が跳ね上がるだろう。そうしたらお前を撃たなきゃいけなくなるだろう、だから無理して怖くなくなろうなんてするなよ」

 

 そう言って神薙は舞風の頭をくしゃくしゃと撫でた。こそばゆそうな表情を浮かべる舞風を見て神薙が笑う。

 

「さて、そろそろ本番かな? 気を引き締めていこうか」

 

 その言葉に皆の空気が鋭くなる。それに気圧されたのか、舞風がビクッと震えた。

 

「陽炎、野分、臨時で悪いがバディを組んでくれ。不知火はヘリからサポート。長距離ユニットの使用を許可する」

「了解」

 

 その答えを聞いて舞風は不安げに神薙を見上げた。

 

「舞風は俺と来い。大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらは海上保安庁です。あとらす号は速やかに停船して下さい》

 

 通信が入る。それを聞いて船長は笑みを深めた。

 

「軍スラ動カナイカ、舐メラレタモノダナ……」

「ドウシマス?」

「コノママ突ッ込メ。我等ガ部隊ノ洗礼ヲ見ルガイイサ」

 

 艦橋でそういうと部下から通信が入った。

 暗くて見えないがどうやらヘリが出てきたらしい。どうするかと聞かれたので姿を見せたら撃ち落として良しと伝える。

 

「サテ、話ヲ聞イテクレルカシラネ……」

 

 “彼女”は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「警告意味なし、当然っちゃ当然か」

 

 暗い部屋で煙草をくゆらせると、横に座った小柄な少女が笑った。

 

「ほな、そろそろ本番かいな」

「黒潮、バセットのサポート任せていいかしら」

「ってことは九々龍(くぐりゅう)はんがビーグルとサルーキを担当ってことやね」

「そ。航空ホロとか頼んだよ」

 

 九々龍と呼ばれた女性は真っ赤なルージュを煙草に刻みながら笑った。灰皿に煙草を押し当てるとすぐに別の煙草に火をつけた。

 

「カンちゃん、みんな、聞こえてる?」

《九々龍か、用意はできたか?》

 

「あとらす号の航行コンピュータにアクセスできたわ。結構ザルね。スーパーリンカーを使うまでもなかった」

 

 赤いシャツに白衣という海上保安官らしからぬ服装をした彼女、九々龍佳織(くぐりゅうかおり)はキーボードを叩きデータを参加者全員に送る。

 

「航行システムはオート、最終地点は最終目的地の東京港第7埠頭、航行システム自体には干渉されてないようね」

《船内の監視カメラは?》

「積み荷監視用は生きてるけど他は物理的に潰されてるわね。わかるのは最低でも5体の深海棲艦が乗り込んでるってことと、船長はもう第三段階まで浸食されてるってことぐらいかしら」

《第三段階まで、か》

 

 通信の奥の声は憂いのような色が見える。

 

《やることは変わらない。強行臨検を開始する》

「りょーかい。黒潮」

「ヘリにホロかけるで! 音までは消せんから気を付けてな!」

《わかってる。助かるよ》

 

 正面のスクリーンにいくつもの情報が表示される。あとらす号に向かってヘリが接近していく。海上には複合型ゴムボート(RHIB)のマーカーとその周囲に散開する特務執行官のマーカーが二組。上空には神薙たちが乗り込むしらさぎ2号のマーカーがある。それが一気にあとらす号に向けて急速に距離を詰めていく。

 

「状況開始、ね」

 

 九々龍が静かにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞風、いけるかい?」

 

 神薙にそう言われて舞風はゆっくりと立ち上がった。すでにサイドドアは開かれ、ホログラムフィルム越しに空と海が見えていた。爆音と飛び込む冷気の中で神薙は笑う。すでに装備を身に着け後は降下するだけになっていた。左手で天井近くの安全バーを掴んでキャビンぎりぎりに立つ。

 

「ホワイトクリスマスとはいかなかったが、こんな夜もいいだろう」

 

 神薙はそういうと舞風を手で招きよせた。

 

「今日はスーパームーンだそうだ。月がいつもよりも大きく見える」

 

 落ちるなよ、と舞風を支えながら神薙は月を振り返る。肩越しにはぽっかりと満月が浮かび、柔らかな銀光を下ろしている。それを見て舞風は息をのんだ。

 

「なにも月を見るのが初めてでもないだろうに」

 

 神薙は笑うが舞風は月を食い入るように眺めた。ほのかな黄色に光る月は影もくっきりと写す。それほどに強い光が空を照らしていた。ホログラム越しにわずかに世界が揺れている。

 

「昔から月には魔力があるって言われてる。アムリタっていう薬は聖別された月の光に当てることで不老不死になれる効力を発揮するし、オオカミ男は月夜に現れる」

 

 そういうと神薙は笑った。それを聞いているのか聞いていないのか舞風は空を眺めていた。

 

「それに今夜はクリスマス、聖なる夜だ。なんだか特別な気分だな」

 

 ヘリが高度を落とす。目標のあとらす号が見えてきた。

 

「さて、舞風」

「は、はいっ!」

 

 慌てた様子の舞風に軽く笑う。キャビンの反対側では同じように待機している陽炎も野分も笑っていた。

 

「踊るのは好きかい?」

「へ? えっと……」

「あ、すまん。“舞”風ってことで洒落たつもりなんだ。真面目に答えなくても大丈夫だよ。こんなにきれいな月夜の晩だ。アルテミスにソーマにツクヨミに……後何がいたっけ? まあいいや。ともかく月を司る神々に感謝して、舞を奉納仕るとしよう。それではお嬢さん、お手をどうぞ」

 

 そういうと舞風の方に右手を差し出した。ちょうど真下にあとらす号が見えてくる。

 舞風がぼうっと神薙を見たまま手を取った。直後に神薙は舞風を強引に引き寄せる。

 

「きゃっ!」

「――――Let’s dance」

 

 わざと崩したバランスのまま神薙は空中に身を躍らせた。右手で舞風を抱きかかえ、ホログラムを突き破る。驚いて見開いた視線の先で舞風は本当の月の色を知る。想像以上に冷たい色だった。その色が神薙の笑みを染める。落下のもたらす無重力の中で彼はどこか笑っていた。

 

 無重力のような感覚は一瞬で収まる。神薙の左手にはロープが握られ、制動がかかったのだ。すぐに冷たい鉄の甲板にたどり着きロープから離れるように舷側へと走る。直後にハイテンポな破裂音が響き、足元を追うように火花が散った。

 

「やっぱり持ってたね。対人兵器。ブリッジ左ウィングからか、30口径か?黒潮」

 

 巨大な積み下ろし用ハッチの影に隠れて神薙はそういった。右手にはTACLESが握られている。左手で舞風の頭を押し込んだ。姿勢が高いと注意する。

 

《解析終了や。IMIガリルのカスタムみたいやな。ウィングに二人。ガリルを持ってるんは船員や。無理矢理持たされた感じやなぁ》

「不知火」

《了解》

 

 銃撃から逃げるように飛び退いていたヘリコプターから青白い放電が飛んだ。そこにヘリがあるとわかったのは放電が過った瞬間にホログラムが乱れたからだ。そうでもしなきゃわからないほど巧妙に姿を消していた。

不知火が握る長距離執行用ユニットから放たれた放電は過たず射手に吸い込まれると、その射手は白目をむいて膝をつく。

 

 射撃が止んだタイミングを計って神薙がTACLESを艦橋に向ける。

 

〈脅威指数176、執行モード、ノンリーサル・パラライザー〉

 

 基準値を超えたため、トリガーロック解除。わずかなショックと共に撃ちだされた電撃は青白く尾を曳いて左ウィングに立っていたもうひとりに吸い込まれる。パラライザーなら極度に心臓が悪いとかではない限り死ぬことはない。数時間動けず、数日動きづらい程度の電撃弾だ。

 

《ヒット。お見事です、班長》

「不知火もな」

 

 神薙は振り返り反対側の舷側で同じように隠れていた陽炎に合図を出す。このまま突入。

 海から飛び上るように何かが飛び出してくる。空中で弾けると周囲は白い煙に包まれていく。

 

「サルーキとビーグル、タイミングばっちり」

 

 別働隊が打ち上げたスモーク弾だ。それをみて神薙は僅かに笑った。

 

「舞風、走るぞ」

「はいっ」

 

 白い煙が充満する中をかけだしていく。

 

《艦橋の入り口まであと35歩や。そのまま直進。バセットチームはそのまま艦橋に突入してもサルーキとビーグルが退路確保できるで》

「わかった」

 

 舞風は必死に前の男の後を追った。白い霧の中ではシルエットのように映る背中は速く、急がないと置いていかれてしまう。その背中が急に止まる。舞風も急減速。前につんのめりそうになりながらも激突するのは回避できた。

 

 神薙がドアを示した、人差し指と中指をそろえた指鉄砲だ。舞風にも意味がわかる。ドアブリーチ、ドアを破って突入するつもりだ。

 

 舞風はTACLESを握った右手を前に。左手首のブレスレットが反応する。

 

〈艤装を展開します。執行モード・デストロイ、ディスポーザー〉

 

 背中に背負う形で武装ユニットが現れる。差し出した右手に持ったTACLESが展張され砲と呼んで差支えない凶暴なシルエットになった。

 

〈ディスポーザーを使用します。慎重に狙いを定め対象を排除してください〉

 

 TACLESの合成音声がそう告げて主砲弾を吐きだした。ドアを吹き飛ばすと同時に神薙が中に突入。その後について舞風が走る。

 

「黒潮!」

《内部センサーは掌握済み。そのまま12歩、左手にラッタル。トラップかもしれんけどルートはそこしか使えなさそうや》

「信じるぞそれ!」

《まかしとき!》

 

 黒潮の答えを聞きながら神薙は駆けていく。ラッタルの足元まで来ると一度立ち止まった。舞風が艤装を背負ったまま追いついていく。

 

「4フロア上がるぞ、遅れるな」

 

 神薙が先頭でラッタルを上がる。顔だけ上のフロアに出して状況を確認すると一気に駆け上がる。敵はブリッジに集中しているのか妨害は無い。不気味なほどに静かだ。あっという間にブリッジまでたどり着く。ヘリから降りて147秒。

 

 反対側から上がってきた陽炎たちとかち合った。ハンドサインでタイミングを合わせ船橋両脇にある扉から同時に突入する。

 

「動くな!」

 

 TACLESを構えながらブリッジになだれ込む。船長席に影を認める。

 

「アラ、手厚イ歓迎」

 

 船長席からそんな声が聞こえる。影の形は男だがだが聞こえるのは不自然な発音のアルト。

 

〈対象の脅威判定が更新されました。脅威指数256、第三種深海棲艦反応検知、執行モード・イレイズ、パニッシャー。対象を完全排除します〉

 

 神薙のTACLESがカラクリのように動き、対深海棲艦モードへと移行する。神薙の斜め後ろから船長席の影に砲を向けた舞風のTACLESも対深海棲艦モードに移行する。

 

「スグ撃タナイノネ」

「お祈りの時間ぐらいは待つさ。それに理由ぐらい聞いておくのが筋ってもんだろう?」

「優シイノネ。私ハメッセンジャーダカラ助カルケド」

 

 船長の影は神薙の方を見て笑った。少なくとも笑ったように見えた。

 

「メッセンジャー?」

「ソウ、私ハ伝書鳩ヨ」

 

 船長はそういうと立ちあがる。野分が警告するように一歩踏み込んだ。

 

「私達ヲ問答無用デ殺シタ国ノ軍隊ト同ジジャナイミタイ」

「俺たちは軍隊じゃなくて海上保安庁だからな。問答無用で殺せないのさ」

 

 軽口を叩く神薙のインカムに通信が入る。

 

《ビーグルチームが機関室で制圧。乗員19名を保護、サルーキチームが船首側を制圧完了! あとはブリッジだけや! そいつを仕留めれば終了やで!》

 

 その通信には一度空電を送り了解を伝える。

 

「で? 深海旅団なんぞ立ち上げて何をしたいわけで?」

「ワカリキッテイルデショウ?」

 

 船長の影はゆっくりと振り向き、舞風を“見た”。

 

「深海棲艦ドウシデ殺シ合イヲサセテ、漁夫ノ利ヲ得タ人間共ニ鉄槌ヲ。私達深海旅団ハアノ条約ヲ認メ無イ」

「認めようと認めまいと停戦条約は10年も前に発効した。互いのトップがサインをした。どんなに下が喚こうとその効力が発揮されている以上、あんたがやってるのは戦争行為とは認められない。ただの薄汚れた犯罪行為だ」

「ナラ、同族殺シヲサセル貴方達モ犯罪者ネ」

「よく言う。誰のせいでこうなったと思ってる」

「少ナクトモ私ノセイジャナサソウネ。ソウデモシナイト勝テナイ人間ノセイ」

「人間なしでは生きられないのにでかい口を叩くか」

 

 そんな会話を聞きつつ舞風は自分の中で何かが跳ねるのを感じた

 

「同族……殺し……?」

 

 それがまずい状況だとどこか理解しているのに跳ねるのが止まらない。

 

「ソウ。貴女モ、ソウデショ?」

〈警告 対象の脅威指数上昇中、脅威指数310.速やかに執行し、対象を完全排除してください〉

 

 舞風のTACLESが警告を発した。舞風の手が震える。

 

「違う。私は……」

「貴女モ私達ト一緒ヨ。殺シ合ウ必要モ無イノ。敵ヲ憐レム裏切リ者デモ、私達ハ歓迎スルワ」

「私は……っ!」

 

 直後、舞風の網膜に警告文が投影された。

 

 

〈警告 警告 舞風特務執行官の脅威指数が注意域に到達しました。オーバー180。TACLESリンク率異常上昇中〉

 

 

「わたし……は……っ!」

「深海棲艦ヨ、貴方ハ。ダカr――――――」

 

 直後船長の影の姿が掻き消えた。一瞬それは膨張したように見え、次の瞬間には水風船を割るように液体だけが残った。赤と透明のマーブル模様が残る。

 

「――――鎮圧終了」

〈対象の脅威判定が更新されました。執行対象ではありません。トリガーをロックします。警告 TACLESリンク率異常上昇中〉

 

 深海棲艦が消えたことでトリガーがロックされた。それでも舞風は前にTACLESを向け続けている。

 

「……舞風、よく耐えた」

〈監察官権限により執行モード解除します〉

 

 舞風のTACLESを解除すると、彼女は呆然と立ち尽くした。神薙は彼女を支えるように立ち、目の前の水溜りを眺める。

 

「私……は……」

「お前は舞風だ。俺の部下だ」

 

 そう言って肩を叩くとTACLESを振った。

 

「脅威指数の上昇があったみたいだから、測るぞ」

 

 そういうと舞風は力なく頷く。神薙は彼女の足にTACLESを向ける。

 

〈脅威指数、138。舞風特務執行官、任意執行対象です。第一種―――――〉

「大丈夫だ。この様子なら明日には十分下がる」

 

 神薙はそう言って笑って見せた。

 

「バセットリーダーより全チーム。状況報告」

《サルーキ、甲板及び船倉制圧完了。4体執行、事故員なし》

《ビーグル、艦橋下層部制圧完了、2体執行、船員19名保護、事故員なし》

「バセット、艦橋上層部制圧完了。船員2名をパラライザーで鎮圧、保護。浸食第三段階まで進んでいた京塚幸一船長を執行。事故員なし――――――状況終了。後続の特警隊に引き継ぎの後、撤収する」

 

 

 

 

 

 舞風の肩をもう一度労うように叩いて神薙は窓の外に目を向けた。

 

 月はぎりぎり視えなかった。





艦これで特殊部隊ものやりたい! ついでに自分で書いてる小説で憂き目を見ている陽炎型を活躍させたい!
……そんなこと思って勢いに任せたらこの惨事だよ!

脳内鎮守府の設定を丸写しして時間を戦後にしたらこうなりました。
提督も艦娘と一緒に活躍させたいと思ったらこうなるよね。……なるよね?

冒頭の引用は1800年代の英国詩人、アーサー・ヒュー・クラフの「Say Not the Struggle Naught Availeth(苦闘を無駄と呼んではならぬ)」です。チャーチルが第二次世界大戦中にこれを引用してイギリス国民を激励したので知っている方もいらっしゃると思います。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は近いうちに公開できればいいなと思います(めど立ってない)。

状況終了。それでは#002でお会いしましょう。

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